言説空間における日本の労働統合型社会的企業 藤井敦史(立教大学コミュニティ福祉学部) 原田晃樹(立教大学コミュニティ福祉学部) 熊倉ゆりえ(明治大学大学院商学研究科) 菰田レエ也(一橋大学大学院社会学研究科 日本学術振興会) 朴貞仁(立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科) 今井玲(立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科) 日本では、従来、法人格や認証制度の欠如ゆえ、社会的企業の実態を体系的に把握すること が困難な状況にあった。加えて、日本の社会的企業概念は、社会的連帯経済、コミュニティ・ ビジネス、ソーシャル・ビジネス等、異なる価値理念を前提とした複数の用語と共に発展して きているがゆえに、複雑で分裂的な状況となっている。こうした状況を鑑み、我々は、 「社会的 企業に関する文献研究会」を組織し、主に二つの作業を行った。①CiNii(国立情報学研究所運 営のデータベース)を中心に、 「社会的企業」、 「社会的経済」、 「連帯経済」、 「コミュニティ・ビ ジネス」、「ソーシャル・ビジネス」等の検索用語でヒットする論文を精査し、そこで扱われて いる事例・業種・コンセプトを整理した文献リストの構築。②社会的排除の解決や雇用創出の 担い手として期待される労働統合型社会的企業(以下、WISE と略)の分野に絞って、政府や 地方自治体における政策展開、並びに、関連する社会的企業の運動展開を網羅した年表の作成。 具体的には、①メンバー全員で日本の社会的企業に関する文献リストを構築し、②熊倉が協 同組合陣営における WISE(高齢者協同組合を含む)、菰田・藤井が貧困領域(ホームレス問題 を含む)における WISE、今井が若者領域における WISE、朴が障害者雇用領域における WISE、 原田が農村の中山間地における WISE に関する年表を作成し、藤井が全体の統括を行った。様々 な WISE についての文献・年表整理の作業は、日本の社会的企業セクターを考察する際の重要 な情報基盤となる。日本の社会的企業は、実際には、様々な社会問題を淵源にした社会運動の 展開が基礎として存在し、そこにそれぞれの問題に応じた公共政策が存在してきた。また、一 連の各分野の WISE は、(社会的企業の基盤となってきた)一連の社会運動と公共政策の対抗的 相補性によって特徴づけられている。 以上の WISE の文献・歴史の整理作業・分析によって、日本の WISE における複数の系譜の 存在を明らかにし、領域ごとの WISE の理念的差異や対立が総体として、どのような社会的企 業概念をめぐる布置関係を生み出しているのかを明らかにする。なお、報告では、各メンバー が領域ごとの WISE の歴史的展開について概要を説明し、藤井が全体としての結論を報告する 予定である。
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