沖縄県立教育センター 研修報告集録 第 28 集 67-72 2000 年9月 <国語> 自ら学ぶ意欲を育てる国語科学習指導の工夫 ――討論型学習の指導を通して―― 宜野湾市立普天間中学校教諭 寺 村 有美恵 いという意欲であると考える。桜井(1988)は,学ぶ意 Ⅰ テーマ設定の理由 欲は「受容感・有能感・自己決定感・自己実現のため 新学習指導要領の基本方針は,多くの知識を教え込 に学ぶ」という四つの要素に支えられていると述べて むことになりがちであった教育の基調を転換し, 「自 いる。 ら学び自ら考える力を育成すること」を重視している。 生徒がまわりの人に受け入れられているという「受 それに伴い,国語科では「言語の教育としての立場」 容感」を持つことは,学ぶ意欲を持続させる前提条件 から, 「互いの立場や考えを尊重して言葉で伝え合う である。また,自分はよくできる,自分にはこんなこ 能力」「自分の考えを持ち論理的に意見を述べる能 とができるという「有能感」が高まることにより,自 力」の育成を図るため, 「表現力」や「思考力」を高 己決定したいという欲求が生まれる。そして,自分で める授業づくりが求められている。 表現するという言語活動は能動的な活動であり,学 決めて学んでいるという「自己決定感」をもとに,よ り難しい問題に挑戦したいと思うようになる。その挑 習への意欲が前提条件である。生徒たちは,古文や詩 戦が成功すれば,学ぶ意欲はさらに高まっていく。お の暗誦,調べ学習等の授業では,主体的に生き生きと もしろいから学ぶという経験を通して,生徒は自分の 取り組み,学ぶ意欲に満ちていた。そのような「生徒 能力と自分の興味を自覚し,自分の生きがいを追究す が目を輝かせ,身を乗り出してくるような授業」 「生 る「自己実現のため」に自ら学ぶようになる。 徒主体の授業」へ転換する必要を強く感じている。 2 自ら学ぶ意欲を喚起する資質 討論型の学習では,根拠となる資料を読む,自分の 学習意欲を喚起する資質として,速水(1998)は, 「感 考えを書く,相 手の考えを聞く,自分の考えを話す等 情的要素」 「認知的要素」 「社会的要素」の三つをあげ 様々な言語活動が展開できる。そこで,討論するため ている。 に読む・書く・聞く・話す等の学習に必然性をもたせ <感情的要素> るとともに,作業的・体験的な活動を通して,学ぶこ 達成体験から生じる一定の自信,知的好奇心を喚起 との楽しさや成就感を味わわせることにより,自ら学 する学習内容による,学ぶことや考えることが楽し ぶ意欲へとつなげていきたい。また,討論型学習を通 い・おもしろいと感じる肯定的な感情である。 して相手の立場や考えを尊重し合う態度を大切にし <認知的要素> ていきたい。 国語の授業に討論型学習を取り入れることによっ 直接体験をさせたり,実験をさせたりといった生徒 が能動的に取り組む授業は,自分との関わりが強いの て,学ぶ意欲や喜びが得られるよう,以下の仮説を設 で,身につけた知識をさらに追究しようとする姿勢が 定した。 高まる。また,現実生活の問題と学校での学習内容が <研究仮説> 個人の中で密接に結びつき,身近な問題として,自ら 主体的な言語活動の場として,討論型学習を意図 学びたい・考えたいという気持ちを高める。日常的・ 的・計画的に設定することにより,学ぶ喜びや成就感 具体的経験からの認識である。 が生まれ,自ら学ぶ意欲が育つであろう。 <社会的要素> 様々な疑問を他者から受け,かつ自分で他者に質問 Ⅱ 研究内容 する経験(他者との豊かな相互作用)があると,自分 自身で考えるヒントやきっかけができ,友だちとの学 1 自ら学ぶ意欲を支える要素 びが楽しいものになる。 自ら学ぶ意欲とは,生徒を学習へと向かわせ,学習 以上のように,知的好奇心を喚起する学習内容や学 を持続させる内なるエネルギーであり,もっと学びた びたいという気持ちを高める能動的活動が,学ぶ意欲 - 67 - (2) 討論型学習の種類 を育てる。学ぶことが楽しくなる他者との学び合いの 場を,学習指導の中で取り入れ工夫することにより, 自ら学ぶ意欲が生まれ育つと考える。 国語科で取り入れられる討論型学習としては,次の 四つがあげられる。 さらに,学ぶ意欲が育ってくると,少し難しい課題 ① に取り組もうとするようになり,難しい課題が達成さ バズ学習 グループを編成して小人数で話し合い,それを れれば喜びは大きくなり, 「有能感」を高めることに ベースに全体で討論する方法。 なる。できるだけ自分一人の力で課題を達成しようと ② する意欲が生まれ,課題解決のために必要な情報を集 話し合い学習(自由討議) 学習者全員が自由に発言して意見を述べなが めたり,新たな課題を見つけたりする。こうして,学 ぶ意欲は新たな意欲を生むことになる。 ら問題解決を図る方法。 ③ ディベート学習 3 自ら学ぶ意欲を育てる学習指導 ある論点に対して,肯定・否定の立場からそれ 自ら学ぶ意欲を大切にして学習意欲を引き出す学 ぞれ自説を論証し,かつ,相手側の論証の問題点 習においては,生徒の内面性を重視した指導が必要で や矛盾点を指摘し合い,その討論の優劣を競い合 ある。学ぶ意欲を育てる学習指導の工夫として次の5 う討論の方法。 点を重視したい。 ① ② ③ ④ 異なる立場の代表数名が,各自の専門的知識や ために,調べ学習や直接体験等の能動的な学習活 情報,意見を述べ合い,聴衆も交えて討議する方 動を設定する。 法。 生徒の自発的学習を促し,主体的な学習活動を 以上の討論型学習の特徴が効果的に生かされるよ 展開するために,生徒中心の学習活動を創造し教 うに,学習活動の中に意図的・計画的に設定していく 師はその支援を行う。 ことが大切である。 (3) パネルディスカッション学習の指導 自己決定感を高めるために,生徒一人一人の自 由な考え方や発想を尊重し,積極的に自己表現さ パネルディスカッションは,少数意見も尊重し,多 せる話し合い活動を取り入れる。 ④ 生徒が相互に学習する場として,グループ学習 ⑤ パネルディスカッション学習 生徒に成就感を実感させ学ぶ意欲を喚起する 様な考え方を認め合い,自分の考えを深めることがで きる。パネルディスカッションは,文学的な文章を読 やディベート学習等の討論型学習を設定し,他の 書活動へ発展させる学習として有効であると考える。 人の考えを受け入れ,認めることができる受容感 生徒が文学的な文章を各自の視点にそって,読み深め に満ちた学習環境を作る。 たり,調べたり,発表したりする主体的・能動的な学 生徒に有能感や成就感を実感させるために,生 習活動を展開し,さらに多くの作品を読もうとする意 徒が学習したことを表現したり,学習の方法を自 欲や相互に意見を述べ合おうとする意欲を育てるこ ら実践したりできる場を多く設定する。 とができると考える。 以上のように,生徒の内面性を重視した指導は生徒 ① の主体的な学習を促し,有能感や受容感を味わわせ, パネルディスカッションの利点 <思考の幅を広げることができる> 学ぶ意欲を育てる学習として有効であると考える。 論点ごとにいくつかのグループを編成すること 4 自ら学ぶ意欲を育てる討論型学習 ができる。それは思考の幅を広げ,いろいろな視点 (1) 討論学習の意義 から解決策を探っていく思考を保障する。 国語科における表現学習は,自分の思いを語ること <主体的な活動が展開できる> であり,理解学習は,相手の意図を知ることである。 必然的にグループ活動を生みだすことができる。 高橋俊三(1998)は,討論型学習の意義を①各人の論理 的思考を高める②他者との人間関係を深める③問題 バズセッション(グループ・ディスカッション)が 生まれ,グループごとの自主的で主体的な活動が展 の全体構造を深化させる④言語的認識を自覚させる 開される。 等,4点をあげている。討論型学習は,相手の意図を <自己変容が可能である> 理解し,自 分の気持ちを語ったり,事実を再構成して 他者の意見を聞き,討議の途中でも意見を変える 説明したりする相互作用も期待できると考える。生徒 ことができ,自己変容が可能である。 が相互に学習する場としての討論型学習の意義がこ ② こにある。 パネルディスカッションの進め方 一般的な進め方には,次のようなものがある。 - 68 - 状況を確認し,学習に見通しをもって着実に目標 司会による論題の規定 ↓ パネリストによる第一回発言(立論) ↓ 司会による論点の整理 ↓ パネリストによる第二回発言(尋問と反駁) ↓ 司会による論点の整理 ↓ フロア-を含めての質疑応答,および討議 ↓ パネリストによる第三回発言(まとめ) ↓ 司会による整理・まとめ ③ に向かっていけるようにする。 ④ 生徒の側に立った評価を心がけ,一人一人の良さや 自ら学ぶ意欲を評価するためには,適切な指導・支援 を行い,学習の展開や方法等に反省を加え,自ら学ぶ 意欲(情意面)を重視した評価を行う必要がある。生 徒の学習意欲・主体的な活動に働きかける評価の方法 の工夫が重要である。 Ⅲ 指導の実際 1 単元名 読書 運営上の留意点 ア 常に一つの土台の上に,さらに高次のステップ をめざす考えに立つ。 2 教材名 『高瀬舟』 森 パネリストの発言を受けて,フロアーとの討 外 国語3(光村図書) 3 単元設定の理由 論が活発になるようにする。 (1) 生徒観 イ 司会は論点整理をしっかり行う。 ウ 事前の時間(準備)を十分にとり,全員がテ 国語の授業に対する意欲について,アンケートを実 ーマに対する考えを持って参加できるように 施した。授業で楽しいと感じるのは, 「調べ学習」 「話 する。 し合い活動」等をしたときと答えている。また,次も エ 発表・集計・質疑の時間を決めておく。 がんばろうという気持ちになるのは, 「テストを返し オ パネルのテーマは,立場がいくつかに分かれ てもらったとき」「できなかったことができたとき」 るもの,情報が収集しやすいもの等を工夫する。 「わからなかったことがわかったとき」等をあげてい 以上のようなパネルディスカッションの利点を生 る。生徒たちは,調べ学習や話し合い活動等の主体的 かし,進め方や留意点に考慮して,生徒の多様な見方 な活動やクラスの仲間との学び合いを求めており,受 容感や有能感を感じたときに成就感を味わい,それが や考え方の幅を広げ,主体的な活動が展開されるよう にすることが大切である。 学ぶ意欲につながっていると考えられる。このことか ら,話し合い学習としての討論型学習を通して,成就 5 学習意欲を高める評価 感を大切にした指導を工夫する。 自らの学習活動に着目させ,目的意識や課題意識を (2) 指導観 明確にし,学習内容の深浅,価値などに対して自己評 価できることが,高い学習意欲を喚起することにもな 生徒たちはこれまでに,教科書だけでも多様な文章 る。これまでの結果を重視した画一的な評価の発想を を読んできている。それにともなって,自分なりのと 変え,生徒に視点をおいた評価が大切である。 らえ方や考え方ができるようになっている。中学生に 発想を変える評価の視点には次の4点が考えられる。 読書の魅力と読み方を指導するという立場に立った ① 一人一人のよさを引き出し可能性を伸ばす とき,『高瀬舟』は,「人物像」 「場面描写」 「人間の生 ② 自ら学ぶ意欲(情意面)を重視する き方」「安楽死」等の多様な読みの視点が考えられる。 ③ 指導と一体化する ④ 自己評価力をつける 学習過程の中に討論型学習を設定し,各自で見つけ た読みのテーマに迫るために根拠となる資料を読む, 自分の考えを書く,相手の考えを聞く,自分の考えを 次に,生徒に視点を置く評価は,以下の4点があげ 話す等,様々な言語活動を展開する。その活動を通し て文学的な文章の多面的な読み方に気づかせ,主体的 られる。 ① ② ③ その生徒なりの進歩・発展・成長・伸び・向上 という視点から学習の目標をたてさせる。 な読書意欲の高まりを図っていきたい。さらに,学ぶ ことの楽しさや成就感を味わわせることにより,自ら その目標を実現するために,どのようなステッ プを踏み,どのような方法をとるか段階的・具体 学ぶ意欲を喚起していきたい。 的に,その方策を講じたり考えたりする。 4 指導目標 (1) 『高瀬舟』を読んで各自の読みのテーマをみつ 常にその生徒の進歩・発展あるいは自己実現の - 69 - (2) 授業仮説 け,主体的な読みの活動を行わせる。 (2) 討論型学習を通して見方や考え方を深めさせる。 討論型学習に適切な教材を選定し,ワークシートを (3) 小説の読みのおもしろさを味わわせ,読書に対 工夫することによって主体的な言語活動が展開され, する意欲をもたせる。 学ぶ喜びや成就感が生まれ,自ら学ぶ意欲が育つであ 5 本時の指導 ( 6 / 6 時) ろう。 (1) 本時の指導目標 (3) 評価 パネルディスカッションを通して,自分の意見や感 ワークシートや評価カードを通して,学ぶ意欲(情 想を深めさせ,学ぶ喜びや成就感を味わわせる。 意面)を重視した評価を行う。 (4) 本時の展開 過 程 学 習 活 動 1本時のめあてを確認する。 導 師 の 支 援 評 価 ・前時までの学習を振りかえら ・めあてを持つことができ せ,これまでのまとめをしようと たか。 する意欲をもたせる。 (観察) パネルディスカッションを通して,自分の意見や感想をまとめよう。 2討論の進め方について確認する。 入 教 パネルディスカッションの進め方 ・事前に司会者を決めておきスム ーズに会が進められるようにさ せる。 (1)司会で会を進める。 8 分 (2)グループの代表が発表を行う。 (3)質疑を行う。 (4)聞き手は,発表者の調べたことの内容を しっかり聞き,感想発表や質問を行う。 展 3発表の準備をする。 4パネルディスカッションを行う。 ①第一回発言(立論) ②司会による論題の整理 ③質疑応答及び討議 ④第二回発言(まとめ) ・聞き手はワークシート№6に感 想や質問を記入しながらしっか ・討論の進め方についてわ かったか。 り聞くようにさせる。 (観察) ・グループに分かれて発表内容を 確認させる。 ・司会は進行シナリオにそって進 めさせ,適宜援助を行いスムーズ に会を進めさせる。 開 ・第二回発言は各自のワークシー トのまとめにかえさせる。 37 分 ・パネルディスカッションを通し て,自分のテーマに対する考えや 感想をまとめさせる。 ま と め 5 分 6 5ワークシートに自分の考えや感想をまとめる。 6感想を発表し合う。 7評価カードを記入し,これまでの学習のまとめ をする。 ・生徒の発表を通して,小説を読 む楽しさに気づかせる。 ・作者の他の作品への誘い等を行 い,読書に対する意欲の喚起を図 る。 仮説の検証 ・討論に積極的に参加する ことができたか。 (評価カード) ・作品に対する自分の考え や感想をまとめることがで きたか。 (ワークシート) ・読書に対する興味・関心 を持つことができたか。 (ワークシート) (評価カード) な読みの視点を持つ教材等,教材の選択が重要である。 主体的な学びを育てる視点と討論型学習の視点か 本教材『高瀬舟』は,江戸時代「弟殺し」の罪で遠 ら,研究仮説を考察し検証を行った。 島になった喜助が,町奉行の羽田庄兵衛の護送で,京 (1) 主体的な学びを育てる教材の選定 討論型学習では,様々な考え方が導き出され,討論 都の高瀬川を下る物語である。この作品では特に,喜 助の告白(心理描写)の中に,その「社会」や「制度」 が成立する教材,主体的な読書活動に発展できる多様 等の多面的な課題が浮かび上がる。それによって庄兵 - 70 - (2) 主体的な学びを育てるワークシートの活用 衛の役人としての生き方や問題に光が当てられる構 造である。人間として最低の保障を得ただけでも喜び, 生徒が自力で自らのテーマに迫れるように,ワーク 満足する喜助を通して,足ることを知る人間の生き方 シートを活用させた。 「個」から「グループ」へ,さ と,庄兵衛を通して,常人が欲や不満の渦巻く世間に らに「全体」へと広がりながら,各自の考えを持ち, 日々流されてしまう安易な生き方とを対比させなが まとめられるように ら,価値観・人生観を読み手に問いかけてくる。そし 工夫し作成した。 てまた,苦しみから救うことは罪になるのかという 図1でまとめた各 「安楽死」の問題も提起している。 自の考えを,図2で 『高瀬舟』は,社会や時代の価値と個人の問題の葛 藤に悩む中学生が,自己をみつめる眼や感受性を高め はグループでの話し 合いを経ることによ るのに有効な教材である。さらに,討論が成立する教 って,各自のテーマ 材として,また主体的な読書活動に発展できる教材と を見なおしたり,深 して選択した。 『高瀬舟』には,次のように多様な読 めたりしてワークシ みのテーマが考えられる。 ートにまとめること <テーマ例> ができた。さらに, ・安楽死について ・喜助と庄兵衛の生き方 ・高瀬舟について ・喜助と庄兵衛の人物像 ・作者について ・情景描写と自然描写の役割 ・作者のほかの作品について 実際の指導の第2時「読みのテーマを決定する」授 パネルディスカッシ ョン学習の場でもワ 図1 個の考え ―クシートを活用して,自分の考えを発表したり質問 したりと活発な討論活動が見られた。 業で,あらすじや感想のまとめから各自の読みのテー マをみつけさせると次のようになった。 ① ② 高瀬舟・高瀬川(6名) 遠島について(11 名) ③ 作者について(9名) ④ 安楽死について(4名) 生徒が設定したテーマは,上記の4種類にとどまり 広がりはなかったが,生徒の自由な視点を大切にし, 意欲を持たせるために,あえて教師からテ ーマの提 示・誘導等を行わず4種類のテーマのみで授業を進め た。自分で探し,自分で決めた興味・関心のあるテー マなので,図書館での検索,インターネットでの検索, 友達同士の話し合い等,テーマを追究する主体的な読 みの活動がみられた。また,4種類の読みの視点から 討論することによって,次のような感想が得られた。 図2 話し合い後の個の考え 以上のように,ワークシートは自分の考えをまとめ たり意見を持たせたりするうえで有効である。また, ・みんなの意見を聞いて,一歩意味が深められた。 ・一つの物語にこれだけ多くの意味があったことを知り ました。 ・同じテーマでもみんなの意見は違っていてよく調べて いるなと思いました。 ・みんなの話を聞いているうちに作者のこと,喜助が弟 を殺したときの苦しみ等,『高瀬舟』の 内 容 が よ く わかった。 (ワークシートの感想から) 感想を毎時書かせることに より意欲の高まりをみた り,支援に生かすことができた。 (3) 自ら学ぶ意欲へつながる討論型学習 いくつかの討論学習のなかでも①思考の幅を広げ ることができる②主体的な活動が展開できる③自己 変容が可能である等の利点を持つパネルディスカッ ション学習で検証を試みた。 以上の感想から『高瀬舟』は討論型学習の教材とし パネルディスカッション学習の前に,各自のテーマ て適切な作品であり,討論型学習を通して作品の理解 を深めるために異テーマのグループによるバズ学習 も深まり主体的な学習となった。 を行い,後に同テーマのグループによるバズ学習を行 - 71 - った。少人数のためか和やかな中にも,全員が発表し また,自己評価カード「あしあと」の, 「読書に興 活発な話し合いが行われた。生徒の感想は次のような 味関心をもつことができましたか」の結果は,図3の ものがあった。 通りである。 (ワークシートの感想) バズ学習(異テーマのグループでの話し合い) ・みんなの意見を聞いてテーマを変える必要があると 思った。 ・対立する意見を聞いて心が揺らいだ。 ・一人一人が違うテーマで,その人の考えがわかった。 バズ学習(同テーマのグループでの話し合い) ・同じテーマなのに違うとらえかたがあることに気が ついた。 ・明日の発表に向けてもっとちゃんとまとめたい。 「 読書」 に対して興味・ 関心を持つことができましたか あまりできな かった 3% できなかった 0% できた! 55% だいたいで きた 42% 図3 「読書」に対して興味・関心を持つことが「できた」 以上のように,各自の読みのテーマを見なおして深 めたり,友達の発表を聞いてお互いを認め合ったりと は 55%,「だいたいできた」は42%である。約9割の バズ学習の成果を見ることができる。 生徒が討論型学習を通して,読書の楽しさやおもしろ パネルディスカッション学習では,4種類のテーマ さに気づき読書に対する新たな意欲を持つことがで を7グループに分けて発表し合った。「作者の生き きたようである。討論型学習を通して成就感や満足感 方」から作品の内容に言及したり, 「遠島」について を味わうことにより,次の活動への意欲を持ったこと 調べることを通して喜助の気持ちを考えたり,喜助の がわかる。 行為について有罪か無罪か対立する意見をまとめた Ⅳ りと,作品に対する理解を深める内容がパネラーの発 まとめと今後の課題 表にみられた。反面,調べたことのみの発表のため討 論に発展できず,深めることのできないテーマもあっ 「自ら学ぶ意欲を育てる国語科学習指導の工夫」を た。しかし,質疑応答を繰り返す中で,各自のテーマ テーマに研究を進めてきた。 成果として, 「バズ学習 を深めたことが,次の感想からうかがえる。 やパネルディスカッション学習等の討論型学習を通 して生徒の主体的な学習活動の展開をみることがで きた。」「自分で見つけたテーマを全員が持ち,それぞ (ワークシートの感想) ・最初,『高瀬舟』を読んだとき難しい言葉があって 理解しにくかったが,話し合いを通して内容を深め ることができた。 ・同じテーマでもみんなの意見が違っていてよく調べ ているなあと思った。 ・私は無罪だって思っていたけど,みんなの意見を聞 いて有罪なのかなとも思った。でもやっぱり無罪だ と思う。 れのテーマに迫ったり,討論を通して自分の考えを深 めたりすることができた。」等があげられる。さらに, 普段積極的に授業に参加しない生徒が,自らパネラー や司会等に立候補し意欲的に活動する姿に,討論型学 習が生徒の主体的な活動を生み出し,自ら学ぶ意欲が さらに,授業後の感想は次のようなものがあった。 (自己評価カードの感想) ・読書に対してあまり興味を持っていなかったけど, この学習を通して作品の深いところまで考えさせ られて楽しかった。 ・一つでもテーマをもって読むといろんな感想が出て きた。これからは読書に対して私の読み方が変わる と思う。 ・パネルディスカッションでみんなの話を聞いて,い ろいろな興味が出てきた。もっと読んでみたい。 <参考文献> 上条晴夫 2000 1998 金子守 喚起されていることを感じた。 今後の課題としては,生徒の主体的な活動を大切に しながら,討論に広がりや深まりを持たせる支援のあ り方を工夫し,さらに,生徒が目を輝かせ身を乗り出 してくるような授業を展開していきたい。 『みんなが発言したくなる討論・話し合い授業』 学事出版 「学習意欲に働きかける評価の実際」 『月刊国語教育』 通巻 202 東京法令出版 桜井茂男 1998 『自ら学び・考える力の育成』教職研修9月増刊号 教育開発研究所 速水敏彦 1998 『自ら学び・考える力の育成』教職研修9月増刊号 教育開発研究所 - 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