全国電子地盤図の拡大展開

第 49 回地盤工学研究発表会 ,2014.7(北九州)
全国電子地盤図の拡大展開
全国電子地盤図,地盤情報データベース,浅層地盤
地域地盤環境研究所
○国
山本 浩司
茨城大学工学部
国
村上 哲
イー・アール・エス
正
若林 亮
地域地盤環境研究所
正
近藤 隆義
1.はじめに
『全国電子地盤図』は平成 18~22 年度科学技術振興調整費課題「統合化地下構造データベースの構築」の中で地盤
工学会が提起・開発した地盤情報システムである
1),2),3),4),5)。本システムは,①ボーリングデータを基礎に地盤工学的に
適切な解釈を加え,全国統一方法で浅層の地盤モデル(250m 区画の工学的基盤以浅の土質と N 値)を作成し,②個々
のデータの著作権,所有権の制約のない地盤情報を社会に還元することを目的としている。本文は,平成 23~25 年度
の「全国電子地盤図の作成と利用に関する研究委員会」による地域の拡大および今後の展開について述べる。
2.全国電子地盤図の意義
現在,各方面で地盤情報データベースの構築が進んでいる
6)。これは,一組織が自己の地盤情報を保管・再利用する
ことから,地域のコンソーシアムとしてまたは全国規模で地盤情報データベースを整備・構築することにより,社会が
地盤情報という資産を共有し,様々な用途に活用する段階(時代)に入ったことを意味している。
全国電子地盤図は,そのように全国に様々に分散する地盤情報(データベース)を連携し,広く地盤情報の活用を図
るための基本スキル(システム)として提起された。そして本システムが開発された背景には,次のような地盤情報に
関わる実状があった。①既に構築された多数の地盤情報データベースはシステムやデータの内容が多種多様で,それら
を連結することは単純には難しく,連結してもデータの利用が容易でない。②利用しやすく全国規模のデータベース連
携を行うには調査データ(生データ)の解釈や品質が一定の基準で統一されている必要がある。③地盤情報の公開・共
有においてデータベースのデータには所有権・著作権の問題があり,データ提供者から公開が制約されるケースも多い。
このような問題を回避し,他機関による一連の調査研究で作成される深部構造や深層の地盤モデルとも連携して補完関
係をなすことができるものとして,全国電子地盤図が想起された。さらに,この活動を介して浅層地盤に対する学術的
な解釈(知識)が副次的に集積され,種々に地盤情報活用の裾野が大きく広がることも期待された。
全国電子地盤図の利活用としては表-1 のような事項が考えられる。地盤工学の研究者には全国の地盤概況を広域で
把握でき,堆積環境の類似する同時代堆積物の工学的特性を比較することも可能となる。実務者には全国の地盤概要が
即時に検索可能となり,計画構造物に対する地盤工学上の問題点の把握や地盤調査計画立案が容易になる。一般の人々
には情報の取得により種々に専門家のアドバイスを受けやすくなり,地盤災害に対する啓発・防災教育等にも役立つ。
3.全国電子地盤図の構築と提供
全国電子地盤図の作成手順については各文献を参照されたい。
本システムの利点は,ボーリングデータ(生データ)に地質的・
工学的解釈を加えて周辺の地盤状況を検討した上で代表的な地盤
表-1 全国電子地盤図の期待される利活用
(1) 一般市民の方々にとって
・既存住宅の地震時安全性の判断,補強対策の実施
・住宅建設用土地購入時の適否の判断
モデルを決定し,それが電子データとして提供されることにある。
・地域の地盤と災害関係の教育
定性的な地盤構成を表現するだけでなく,層厚(深度),N 値な
・地震保険料率の算定
ど定量的な情報を参照できることが特長である。地域の地盤特性
(2) 自治体やライフライン企業,マスコミにとって
を反映した代表的な地盤モデルが定量的に示され,電子情報とい
・地震時危険地区の把握
う利点からインターネットでの情報発信と共有が容易であり,他
・既存公共構造物の耐震補強を優先する地区の判断
の空間情報と高度に連携することも可能となる。
・地震時の被災分布の緊急把握
全国電子地盤図の構築は,平成 23 年度からは「全国電子地盤
図の作成と利用に関する研究委員会」が引き継いだ。その前身の
「表層地盤情報データベース連携に関する研究委員会」では 9 地
域のモデル化が行われ,本委員会では地盤工学会関東支部や関連
活動による構築と合わせて全国約 30 地域へと作成地域(都市圏
内の一部の場合もあり)を拡大した。これらは平成 26 年度に Web
公開する予定であり,各方面で利活用されることが期待される。
さらに同年度より,本委員会は新しく「全国電子地盤図の拡張と
運用に関する研究委員会」に活動を継承する。
・地震後の緊急復旧時に必要な機材・人材の判断
・地盤に関係した災害のメカニズムの解釈
(3) 地盤関係の技術者や研究者にとって
・構造物新設にあたっての基礎や掘削方法の選定
・地盤調査計画にあたって深さ,調査間隔の判断
・地盤調査結果の解釈
・地域の浅層地盤に対する学術的解釈の集約
・全国の地盤概況の広域把握,
類似堆積環境・同時代堆積物の工学的特性の比較
・3 次元メッシュ化と 3 次元解析(地震応答,地盤沈下)
Development of Nation-wide Digital Underground Maps based on Geo-informatics Databases throughout Japan :
Koji Yamamoto (Geo-Research Inst.), Satoshi Murakami (Ibaragi Univ.), Ryo Wakabayashi (ERS)
4.まとめ-今後への展開の課題と可能性-
この地盤情報システムは,クラウドコンピューティングやユビキタス社会などの情報インフラが整備される近未来社
会においても地盤工学会が貢献し続けるツールの一つになりうるであろう。地盤工学に関わる学際的な地域研究の推進
や強い相互連携体制の創造など,専門家に関わることから一般に向けての分りやすい地盤情報の提示や地震リスクと結
びつけた暮らしの安全・安心の提示など,時代のニーズに応じ,社会へ向けての情報発信となることを期待したい。
その推進のために,新委員会では以下のような課題の解決に取り組むことになる。
①全国展開:日本全国を網羅するための地域の拡大(「全国 77 都市の地盤と災害ハンドブック」相当)
②浅層地盤モデル化技術の改善:ボーリングデータ空白域の補間,深度方向のモデル化領域の拡大,モデル情報の高度
化(地質地層モデルの付加,三次元構造モデル化,物性モデルの付加)
③地震ハザードマップ等への活用:ハザードマップの高規格化への寄与,普及活動(自治体調査等への活用の推進)
④全国電子地盤図システムの運用対応:技術的な管理体制の検討(対応),持続可能なシステムの利用と運用
地域選択
トップページ
地層分布図
No
モデル柱状図
モデル断面図
図-1
全国電子地盤図(Web 公開)
2006-11 委員会
別途作成
2012-14 委員会
図-2
全国電子地盤図の作成状況
(右表:作成地域一覧)
(左図:作成地域の分布)
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31
32
33
地域
札幌市
新潟市中央区・東区
東京都
名古屋市
大阪市
広島市
松山市
福岡市
仙台市
京都市
八戸市
静岡県
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埼玉県
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滋賀県東域
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作成者
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北陸支部(長岡技科大)
北陸支部(長岡技科大)
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神奈川大学・他
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関東支部(千葉工大)
関東支部(東京電機大)
京都大学
松江高専
香川大学
参考文献
1)
2)
3)
4)
藤堂・山本・安田・三村:特集 地盤情報データベース「3. 地域の地盤情報データベースと最近の動向」
,地盤工学会誌,2009.
藤原:統合化地下構造データベースの構築に向けて,シンポジウム「統合化地構造データベースの構築に向けて」,pp.9-22,2007.
安田・藤堂・三村・山本・近藤:全国電子地盤図の Web 公開と利活用について,第 45 回地盤工学研究発表会,pp.131-132,2010.
安田・山本・三村・藤堂:表層地盤情報の連携と統合に向けた全国電子地盤図の構築,第 5 回シンポジウム「統合化地下構造デー
タベースの構築」プロジェクト5ヶ年の研究成果報告と地盤情報のさらなる利活用に向けて,防災科学技術研究所,pp.27-34,2011.
5) 村上・山本・若林:全国電子地盤図の構築と利活用,地盤工学会誌,Vol.61,No.6,pp.12-15,2013.
6) 山本:地盤情報データベースの進展と利活用,地盤工学会誌,Vol.61,No.6,pp.4-7,2013.