東京経済政策研究会第 1 8回 農業 課題書:日本は世界5位の農業大国 – 大嘘だらけの食料自給率 第一章 農業大国日本の真実 1.日本は、金額ベースでも、重量ベースでも世界最大の食料輸入国ではない。 2.食料生産額(食料 GDP)は、日本は先進国内では米国に続く二位。世界全体でも五位。 3.日本の食料自給率が低いのはカロリーベースの計算が原因。そもそもカロリーの計算すら おかしい。 4.カロリーベース計算のパーセンテージの分母には、廃棄されている食料のカロリーが含ま れている。(分母の 2473 キロカロリー中、700 キロカロリー弱は廃棄されている食料) 5.海外から輸入された飼料で育った家畜は、 「国産」ではない。 6.野菜の重量換算の自給率は 80%超え。輸出入が0になれば自給率は 100%になってしま う。つまり国際競争で海外からの食料調達に負けたり、輸出が減れば自給率が上昇する! 7.筆者の試算では生産額ベースでは日本の食料自給率は主要先進国第三位。 8.カロリーベース食料自給率を掲げているのは日本だけ。 第二章 国民を不幸にする自給率向上政策 1.食料自給率が上がらなかったのは国民への啓蒙活動が足りなかったとされ、広告代理店 (D 社)を利用した大々的な広報戦略が行われている。 2.2008 年に自給率が 1%上がったのは、海外における大豆とチーズの価格が上がり、買い 控えが起こっただけ。 3.そもそも、高齢化と健康志向で、徐々に摂取カロリーは減ってきている。 4.自給率向上に関わる費用は、結局は国民の税金。例えば、牛肉を生産するために、飼料を 国産に切り替えるとすると、肉 1kg あたり、1600 円の負担になる。(計算式は 65P) 5.補助金漬け(所得補償)は、燃費の悪いトラクターの使用や、農薬の使用につながり、環 境破壊にもつながる。 6.そもそも農業で食べようとしていない「擬似農家」に補助金を投入(所得補償)すること は、優良農家への妨害であり、作られる作物も需要を考慮しない商品になり、在庫の山 を生み出す。 7.公務員の汚職や、利権にもつながる。 8.補助金は、黒字経営をしている農家を優遇すべき。 第三章 すべては農水省の利益のために 1.耕作放棄地は問題ではない。ヘクタールが減るのは、先進国ではどこでも共通。そのかわ り生産性は上がっている。耕作放棄地を問題にするのは、農水省の土木利権。 2.小麦の貿易では、価格に 1 トンあたり、1 万 7000 円の国家マージンをのせている。 (農水 省の特別会計。1056 億円が農水省の財源。 )結果国際価格の2,3倍の価格になる。 3.小麦貿易担当は、有望な天下りコース。→「全国米麦改良協会」「製粉振興会」 4.バターや、養豚でも、保護目当てで歪んだ結果が生まれている。 5.米国では、国内市場を守る以上に、輸出機会をいかに増やすかという点で、農業政策が行 われている。 第四章 こんなに強い日本農業 1.日本の農業は、生産量においても、生産性においても、増加傾向にある。 2.農業人口の減少率は、過去10年で比較すると日本が特別高いわけではない(日本22%、 EU 平均21%、ドイツ32%、オランダ29%、フランス23%・・・) 3.1960 年には農業者1人で、7人分のカロリーしか賄えなかったが、現在は、30人まで まかなえるようになっている。 4.農業の生産性の上昇に伴い、農家の戸数の現象は問題ではない。 5.筆者の調査だと、個人農業1314人の平均年収は348万円、農業法人役員382人の 平均年収は560万円。農業法人社員870人は平均241万円。全体で343万円。 中小企業における平均年収を超える。一般企業に比べ遜色ないレベル。 6.「農業従事者の60%が65歳以上」というのが問題になっているが、擬似農家が7割を 占めるため問題はない。あくまで統計上の高齢化。 7.農業に若い事業者の参入も多い。20代のエリート農業経営者、経営幹部は全国に3万6 00人もいる。(うち7000人が女性) 第五章 こうすればもっと強くなる日本農業 1.中国やインドなどによる中間層、富裕層の増大に比して、豊かな食生活を望む傾向はふえ えている。農業が成長産業であるという認識をもつことが必要。 2.そもそも日本国内では、農業は生産過剰になっている。 3.農地の貸し出し、栽培ノウハウを開放(市民(レンタル)農園の整備)を行い、非農家の ビジネスを拡大すべき。 4.作物単位でのマーケティング団体を作り、海外へ打って出るべき。 5.科学ベースで国際競争に打って出る。技術や資材の売り込みを行うべき。 6.過去40年間でドイツが70倍、イギリスが20倍の食料輸出を増やしているのに対して、 日本は、9.5 倍と少ない。輸出をもっと増やすべき。 7.輸出競争は、実質検疫競争である。現在これらの業務(世界レベルの交渉)に携わる農水 省の人間は10人程度。これを付加価値を生んでいない職員の中から1000人くらい まで引っ張って増やすべき。 8.製造業と同じで、日本人が海外の農地で生産するという発想を持ち。国が積極的に支援す べき。 第六章 本当の食料安全保障とは何か 1.自給率と食料安全保障とは何も関係がない。例えば、1993 年の米パニックは、米の輸入 が禁止されていたことが問題であった。恣意的に自給率を向上させたことが問題を起こ した。 2.そもそも、様々な国からの輸入が突然停止することを前提にすることが荒唐無稽。 3.かりに、突然停止が起こった場合は、燃料、肥料などの生産資源、農地から都心部への輸 送のための、流通燃料もストップするため、食料自給率を100%にしたところで解決 不可能。 (自己完結できない) 4.結局のところ食料の安全保障とは、国家間のリスクマネジメントの問題であって自給率の 問題ではない。(英国) 5.食糧危機は、現実的に起こる可能性はほとんどない。なぜなら、世界的な不作が起きても、 穀物に関しては、工業用、飼料用、バイオ燃料用などのものが、食用に回されるため、 穀物単体で不足することはありえないから。 6.ニュージーランドでは補助金を撤廃することで、農業のイノベーションが進み、結果的に 生産量、輸出規模共に拡大に成功した。 【論点】 ① 食料自給率をカロリーベースで計算することに妥当性はあるのか?また、正しい自給率 の計算は存在するか? (仮説) ・筆者の言うとおり、カロリーベースで食料自給率を計算することの妥当性は極めて低 い。加えて、カロリーベースの計算では、食料の「多様性」がまったく加味されない ため、最低限、「炭水化物の自給率」「タンパク質の自給率」「ビタミンの自給率」な ど、主要栄養素ごとの自給率に分解する必要がある。 ・「食の安全保障」という観点から言うと、単純に取引額ベースでの自給率計算でも、 妥当性が難しい。 ② 筆者の言うとおり、食料自給率が食の安全保障の基準として不的確であるのというので あれば、食の安全保障を考える上で本当に必要な指標というのは一体何なのか?(国家 間のリスクマネジメントという複雑な概念を共通的な数値などに落とし込めるのか?) (仮説) ・エネルギーの安全保障については、その定量化が試みられており、例えば「多様化指 標」(輸入先国が分散しているほど高くなる)などが考案されている。こうしたエネル ギー分野で開発された指標を食糧にも適用していくのが一つの方向として考えられる。 ・ただ、日本は食糧以外にもエネルギー、鉱物資源など様々な資源を海外に依存してい るため、食糧だけを取り出して安全保障を議論するのはナンセンス。 ・安全保障とは、食に限らず国家間のさまざまな側面から考慮されるべきものでもある。 ・「食の安全保証」に限定しても、生産に必要なエネルギーや、生産した作物の流通に 必要なエネルギーなど、単純な食料以外の部分が重要になってくる。 ③ 農産品の貿易自由化を促すことは、本当に農業の発展を促すことになるのか?主要な産 業が、結果的に駆逐されることにはならないのか?(米の大半が海外からの輸入になる など) また、自由競争の結果、日本の農業が、輸出競争力のある利益率の高い特定の食料生産 に偏ることはないのか?また、それによる弊害は存在しないのか? (仮説) ・日本の技術競争力の観点から見て、農業が自由化によって滅ぶ可能性は低い。 ・仮に、特定の作物が海外との競争で敗れたとしても、より品質の高い食料を安く消費 者が手に入れられるという観点から、一概に否定されるものではない。 ・むしろ、国際価格の数倍で強制的に国産の作物を購入させられる方が、国民の生活(健 康も含め)に問題が生じる。 ④ 日本の輸出競争力がある品目は何か。また、輸出先としてどの国・地域をターゲットと すべきか。 (仮説) ・農産品輸出の7割以上がアジア向け。アジア諸国は日本と食文化が近く、地理条件 からも日本の農産品や食品を売り込みやすいので、まずはアジア市場を席巻すべき。 ・海外への輸出を増やすことは、食糧安全保障の観点からもメリットがある。 ( 「お前が輸出してくれないなら、俺も輸出しないぞ」と言える) ・輸出が拡大している品目は、りんご、長芋などの果物・野菜や、緑茶・しょうゆ・ みそなどの加工品。生鮮食品、加工食品双方ともに可能性を秘めていることが分か る。一方で、これらは、カロリーが低いため食料安全保障の観点からは、カロリー が高く高付加価値のものを輸出したほうが望ましい。 ⑤ 米国や英国の農業政策は、本当に日本が参考にするほど優れたものなのか? (仮説) ・米国においても、多くの小作農が制度的に保護されていたり、特定の利権集団が存在 していたりと、自由競争からは程遠い状態である。むしろ、極めて国家の意図や協力の 強い産業(規制産業)となっている。 ・米国の「規制緩和」 「国際競争」のポイントだけを取り出して、模倣をするのは危険。
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