平 成 26 年 度 活 動 報 告 バイオマスによる持続可能な社会構築への貢献と課題を探る研究集会 ~電源開発株式会社 施設研修~ 11月 29日 ( 土 ) 第 12回 と な る 「 バ イ オ マ ス に よ る 持 続 可 能 な 社 会 構 築 へ の 貢 献 と 課 題 を探る研究集会」と題した施設研修会を北九州市にある電源開発株式会社若松研究所に お い て 参 加 者 34名 を 得 て 実 施 し た 。 研修会は、当学会九州支部の星野幹事長の挨拶に始まり、技術開発部若松研究所バイ オ研究室課長の松本様による「微細藻類を用いたグリーンオイル生産技術開発における J-POWERの 取 組 に つ い て 」と 題 し た 講 演 と 国 内 最 大 規 模 の 屋 外 培 養 施 設 の 視 察 、そ し て 質 疑の順で約3時間に亘って熱心に行われた。 電源開発株式会社若松研究所バイオ研究室では、CO2起源による地球温暖化対策の ため、非食料系原料である微細藻類を用いた太陽エネルギーのグリーンオイル(バイオ デ ィ ー ゼ ル 燃 料 、ジ ェ ッ ト 燃 料 な ど の バ イ オ 燃 料 )へ の 変 換 技 術 の 開 発 に 取 組 ん で い る 。 微 細 藻 類 を 用 い た グ リ ー ン オ イ ル の 生 産 技 術 は 、1970 年 代 か ら 長 年 に わ た っ て 開 発 が 進 められ、淡水微細藻類の活用による生産技術開発は確立されてきたものの、広大な土地 や豊富な水源を確保しなければならないことが課題となっていた。近年では、オイル生 産性の高い海洋微細藻類が発見され海洋の表層を利用した培養技術開発の研究が進んだ こと、原油価格や食料価格の高騰などの社会情勢の影響を受けにくいこと、新たな耕地 造成などの環境破壊を回避できること等のメリットがあることから再評価され ており、 多くの企業や研究者により技術開発が積極的に進められている。 我 が 国 で は 、① エ ネ ル ギ ー 消 費 地 か ら 近 い 場 所 (理 想 は 5km 圏 内 )に 広 大 な 土 地 (最 低 1 ha 以 上 、理 想 は 10ha 以 上 )が 確 保 す る こ と が 困 難 で あ る こ と 、② 冬 季 に は 曇 天 が 多 く 水 温も低くなるため微細藻類の培養速度が遅くなること、③海水だけでは微細藻類の生育 のための栄養分が不足すること、④冬季の海水温度のコントロールを図ること等の課題 がある。 その対応策として、①省エネルギー化及び自動化を考慮した簡易な培養装置の技術開 発と維持管理上の改善、②冬季の低温にも耐えられる北方の海域から分離した海洋微細 藻 類 の 活 用 、③ 下 水・排 水 に 含 ま れ る 有 機 物 の マ テ リ ア ル リ サ イ ク ル (排 水 中 の 細 菌 類 に 耐 え ら れ る 海 洋 微 細 藻 類 の 選 定 が 重 要 )、④ 工 場 か ら の 蒸 気・温 水 等 の 熱 供 給 に よ る 効 率 化等の日本型の研究開発を行っており、来年度はグリーンオイルの抽出設備を増設し一 貫生産プロセスの検証を行う準備を進めているとの説明があった。 今後の研究を進めるうえで重要な視点として、次の2点があげられ、海洋微細藻類 (JPCC DA0580 株 )を 用 い た グ リ ー ン オ イ ル 生 産 の 全 プ ロ セ ス を イ メ ー ジ し な が ら 、 個 別 プ ロ セ ス の 技 術 開 発 、EPR の 最 大 化 の 検 討 を 続 け 、EPR を 持 っ て プ ロ セ ス 全 体 の 評 価 を 行 っていくとの説明があり、研究の方向性を示唆された。 <研究に当たっての重要な視点> (1) ど の よ う な 方 法 で 培 養 し 、 ど の よ う な 燃 料 に 転 換 す る の か 、 ど の 分 野 に 貢 献 す る の か な ど の グ リ ー ン オ イ ル 生 産 の 全 体 戦 略 を 練 り 上 げ る こ と 、な ら び に 各 個 別 プ ロ 1 セ ス の 開 発( 微 細 藻 類 の 選 定 、大 量 培 養 、回 収 、オ イ ル 抽 出 、燃 料 化 、排 水 処 理 な ど )だ け で な く 、グ リ ー ン オ イ ル 生 産 の 全 プ ロ セ ス を イ メ ー ジ し て 一 貫 し て 研 究 し ていく必要がある。 (2) 付 加 価 値 の 高 い 物 質 生 産 な ど は 、 主 に 経 済 的 な 収 支 を 追 え ば よ い が 、 エ ネ ル ギ ー 生 産 プ ロ セ ス と す る 場 合 は プ ロ セ ス 全 体 の ERP(Energy Profit Ratio : Output energy/Input energy≧ 1 : で き る だ け 大 き く す る )を 評 価 す る と と も に 、 C O 2 固 定プロセスとなっているかの評価が重要である。 このように研究開発の進歩は加速しているものの、現状では、エネルギー生産性や CO2固定などの限界、ならびに大規模及び大量処理を必要とするプロセスの適用には 高い壁があり、微細藻類からのグリーンオイル(バイオ燃料)生産の実用化の目処につ い て は 、 大 量 培 養 技 術 (用 地 の 確 保 、 周 辺 技 術 )や 燃 料 の 生 産 量 や コ ス ト 等 の 克 服 す べ き 課 題 を 解 決 す る の に 、革 新 的 な 技 術 進 歩 が な い 限 り 、少 な く と も 10 年 間 程 度 の 研 究 開 発 期間が必要であろうとの見解であった。 以上の講演、視察の後に質疑応答が行われた。質疑応答の詳細は事項掲載のとおりで あるが、グリーンオイル生産技術や維持管理上の課題、今後の具体的な計画等の質問も あり、活発な質疑が交わされた。 今回の研修を通して、最新のバイオマスによる持続可能な社会構築への 技術開発の取 組状況及び微細藻類を用いたグリーンオイル生産技術開発の重要な課題と中長期的な将 来展望を理解できたことは今回の研修の大きな成果であった。 最後に、今回の施設研修開催に当たりご協力 いただいた電源開発株式会社若松研究所 の松本様をはじめ関係者の皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。 ※微細藻類:数μm~数十μm程度の大きさで光合成を行いながら生育する。微細藻類は太陽光 変換システムである光合成機能を活用し、微細藻類の中には、細胞内に中性脂肪や 油分を大量に蓄積するものもいる。 施設研修部会幹事 2 質 疑 応答 議事 録 Q1:石油の原油と比べて、生成された中性脂質は一体どのような性状のものか。 A1:中性脂質はパーム油と同じようなものと見てもらいたい。パーム油はほぼ食品用 と し て 使 わ れ て い る が 、3 割 程 度 は 潤 滑 油 や 界 面 活 性 剤 に 使 用 さ れ て い る 。石 油 の よ う に 分 留 す れ ば い ろ い ろ な も の が 取 れ る と い う よ う な 油 の 性 質 で は な い の で 、用 途 に 合 わ せ て 改 良( 変 換 )し て い く 技 術 が 必 要 に な る 。プ ラ ス チ ッ ク 原 料 や グ リ セ リ ン に し た い 場 合 に は 、化 学( ケ ミ カ ル )の 力 を 使 っ て 、そ れ ぞ れ の 素 材 に 代 え て い く こ と になる。一つのプロセスで色々な物が出来て来るわけではない。 Q2:説明資料の「藻体回収プロセスの更なる低エネルギー化」で助剤としてパ ーライ トを添加とあるが、この助剤とは凝集剤のことか。 A2:パーライトはシリカを主成分とする食品添加物で、フィルルタープレスが目詰ま り を 起 こ し て し ま う の で 、そ の パ ー ラ イ ト が 緩 衝 剤 と し て 搾 り 易 く す る 働 き を 持 っ て い る 。 PAC 等 の 凝 集 剤 で は な く 、 凝 集 助 剤 と し て シ リ カ の ガ ラ ス 系 の 素 材 を 使 っ て い る。 Q3:油を搾った後に搾り滓が出てくるが、油1トン当たりに対してどの程度の油滓が 発生するのか。また、どのように処分するようにしているのか。 A 3:単 純 計 算 で 、乾 燥 状 態 の 藻 体 が 2 ト ン 発 生 す る と し て 、う ち 40% が 油 で 、60% が 残 渣 に な る の で 1.2 ト ン が 滓 と し て 発 生 す る 。そ れ に パ ー ラ イ ト 分 が 加 わ り お そ ら く 等量(約 2 トン)ぐらい出てくるとみている。 その滓をどのように処理・処分するかは、現在アイデア段階ではあるが、埋め立て る だ け で は も っ た い な い の で 、バ イ オ マ ス 源 と し て プ ラ ス チ ッ ク 原 料( バ イ オ プ ラ ス チ ッ ク 源 )に 利 用 で き な い か 検 討 中 で あ る 。こ の 他 、微 粒 子 状 の シ リ カ が 混 入 し て い る の で 触 媒 の 単 体 に 使 え な い と か 、あ る い は 強 度 を あ ま り 必 要 と し な い 、使 い 捨 て の 皿 、コ ッ プ 、ス プ ー ン と か い ろ い ろ 模 索 し て お り 、再 利 用 が 叶 え ば そ の 分 石 油 資 源 が 削減できるのではないかと考えている。 Q4:油は内燃機関にも使えるのか。 A4:一般的に食用油をバイオ燃料として使用しているところが、ここエコタウンでも あ る が 、普 通 に デ ィ ー ゼ ル 燃 料 と し て 使 用 で き る 。も ち ろ ん 、デ ィ ー ゼ ル ト ラ ッ ク に も 問 題 な く 使 え る 。こ の プ ロ ジ ェ ク ト の 最 終 目 標 は ジ ェ ッ ト 燃 料 に よ る 航 空 機 へ の 利 用である。 Q5:視察した屋外実験施設は何名でオペレイトしているのか。 A5:現在4名で動かしている。ただし、現施設には自動化装置は付けていない。計画 と し て 、 1ha 当 た り に 2 名 を 想 定 し て お り 、 全 自 動 で バ ル ブ 等 も 操 作 で き る よ う に し た い 。人 海 戦 術 で で き な い わ け で は な い が 、そ の 場 合 人 件 費 が 相 当 か か る の で は な い かと思っている。 3 Q6:日射が少ない曇天が続いた場合はどのように対処されるのか。 A6:よく質問を受けるが、太陽光は室内光よりもはるかに強いので、それほど心配は な い 。確 か に 晴 天 時 に 比 べ れ ば 少 な い が 、足 り な い か と い え ば そ う で も な い 。太 陽 光 はコントロールできないので、なるようにしかならないと思っている。 Q7:大変ということは理解できたが、もう少し夢を語ってもらいたい。 A 7:1 ha 規 模 の も の が 動 き だ せ ば 夢 が 語 れ る か も し れ な い が 、現 時 点 で は ま だ 夢 を 画 け る 状 況 で は な い 。遺 伝 子 組 み 換 え も 厳 し め で 見 て い る 。仮 に 我 々 が 遺 伝 子 組 み 換 え を で き た と し て も 、光 を エ ネ ル ギ ー と す る 光 合 成 微 生 物 は 複 雑 な 生 き 物 な の で 、せ い ぜ い 2~ 3 割 程 度 の 向 上 し か 望 め な い の で は な い か と 思 っ て い る 。 Q8:御社は火力発電を主事業にされておられるので、熱源等の不足するものを補完し あえる状況にあると思われるが、そうしたコラボレーションの予定はないのか。 A 8:発 電 所 の 敷 地 の 中 に 建 設 す る と い う の は あ る 。た だ し 、発 電 所 の 隣 に 何 百 ha の 敷 地 が 確 保 で き る の か 、ま た 出 て き た 油 を ど の 用 途 に 使 う の か 、パ フ ォ ー マ ン ス と し て は 可 能 で も 、事 業 化 と い う 面 で は 現 実 的 で は な い と 思 わ れ る 。小 規 模 、少 量 生 産 で は い け る と 思 う が 、そ れ 以 上 の 話 に な っ た 時 に は 発 電 所 の 隣 と い う こ と で は な く 、一 般 的 に 大 規 模 集 中 排 出 源 か ら 経 済 的 な 達 成 が で き る 範 囲 ( 5km 圏 内 ) か ら 立 地 場 所 を 探 し て カ ー ボ ン を 入 れ る こ と に な る の で は な い か 。事 業 性 を よ く 検 討 し て 判 断 す べ き と 思う。 以上 4 施設研修の講演風景 参考図 1 グリーンオイル生産技術の概要 5 参考図 2 グリーンオイル一貫生産プロセス研究の概要 参考図 3 大量培養プロセスの重要性 6 参考図 4 参考図 5 電源開発バイオ研究室が保有する微細藻類 下水処理水を用いたソラリス株の培養 7 参考図 6 実験施設の概要と屋外培養施設の状況 8 参考図 7 参考図 8 CO2固定量の試算例 バイオ研究室で保有する微生物類データ 9
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