廃棄クリと電気ショックを用いた効率的なエリンギ生産法の検討

プロジェクト発表会 区分 「食料・生産」
廃棄クリと電気ショックを用いた効率的なエリンギ生産法の検討
愛知県立猿投農林高等学校
1
はじめに
日本をとりまくエネルギー事情の変化やTPP問題をはじめとした社会情勢の変化に対応するた
めに,コストを削減した効率的でエコな農林業を行わなければならない。そこで,私たち,猿投農
林高校林産工芸科森林科学研修班では,日々の学習で取り扱うキノコを題材とし,効率的なエリン
ギ生産についての研究を行ってきた。
2
これまでの研究
日本には古くから雷キノコという言葉がある。雷が森林
等に落雷した後,その周辺でキノコがよく発生する現象を
指している。私たちはこれをヒントにいまだ詳細な研究が
行われていないエリンギを対象にして,効率的な生産に繋
げる研究を4年もの間行ってきた。
通電器具として,防犯用スタンガンを使用し,圧倒的な
発生量を実現した。さらに家畜用の電気鞭(図1)を使用
して,生産現場での効率的な生産方法を確立した。電極間
の距離が広がることにより,通電有効部位を拡大すること
や,培地内部に挿入して通電することで,より広範囲に活
性部位を広げることに成功した。活性が極めて低下した菌
体試料を用いた詳細な実験でも高い効果を表した(図2)。
エリンギをより多く収量するために,一般的に2回発生
させ,2回採取が行われている。しかし,本実験で,通電
し1回発生させたほうがより効率的だと実証した。
( 図3)。
これらの実験の成果によって,研究発表会において全国
入賞,愛知県最優秀を果たすことができた。また、電気ス
パーク事業の方々やその関連産業の方も学校に見学に来
られ,多くの情報交換と今後の相互協力のお話をいただい
た。あいちさんフェスタにおいても研究発表を行った。T
Vや他のメディアでも大きく取り上げられ,日本中で反響
を呼んだ。
研究を続けながら,電気ショック栽培したエリンギを
「エレキノコ」としていろいろな場で,多くのお客様に販
売した。その販売額は,この3年間で 154,600 円となった。
今年度の研究
これまでは,従来の一般的な栽培法に新たな工程を加え,
子実体発生を促すものであった。今年度は栽培に関わる原
料をよりエコで持続可能なものとすることをテーマとし
た。
図1 家畜用電気鞭
図2 エリンギの培地
3
図3 電気ショックの効果
エリンギは菌糸ビンを用いた菌床栽培が一般的である。
菌床培地の材料で大部分を占めるのが針葉樹のおが粉で
ある。通常,これにフスマを養分添加し,水を加える。菌
糸ビン一本当たりの各成分量を求めるために,容積重を計
り,綿密な計算を行った。すると,一般的な菌糸ビンの中
身 500gの内訳はおが粉 133g,フスマ 50g,水 317g程
度ということを明らかにした。(フスマ:小麦粉を精製す
る際に取り除かれる表皮部分)
このフスマ 50gの代わりとなる新たな材料は無いかと
考えた。フスマには多くの炭水化物や糖分が含まれている。
図4 菌床培地の検討
同等に栄養価が高く,入手しやすい材料として,私たちの
研修班が栽培しているクリに注目した。商品に適さず廃棄されてしまうクリをフスマの代わりに有
効活用することができれば,菌糸1ビン当たり 20 円,本校の生産量にすれば 46,380 円と 30%以上
のコスト削減や効率化が図れるとともに,クリ農家の収入増にもつながると考え,実験計画を立て
た(図4)。
(1) 供試クリの調整法の検討
まずは,実験に供試するクリの粉末をいかに調整するかが問題となった。生でも,茹でたもので
も,皮を剥くのには時間がかかりすぎ,実用化には向かない。しかし,一度茹でたものを乾燥させ
れば取り出しやすくなると想定し,食品乾燥機を使い乾燥した。すると,実と皮との間に隙間が生
まれ,簡単に中身を取り出せた,これを食品用のミルミキサーを用いて粉砕することで,大量生産
を目的としたクリ粉末の調整法の確立に見通しがたった。
(2) クリとフスマの養分比較
続いて,クリが含有する糖分を,フスマと同様に利用す
ることができるのかどうかを,キノコ類と同じ微生物に分
類されるイースト菌を用いて検証した。イースト菌は,糖
をアルコールと二酸化炭素に分解する。分解された糖分は
気体となって放出されるため,発酵前の重量から残った固
体分の重量を差し引けば,含まれていた糖分量を簡易的に
知ることができると考えた(図5)。加えて,種類は違う
が,微生物が使える糖分ならばクリの代用の可能性も高く
なる。菌糸ビン一本中に含まれるフスマは 50gのため,
図5 イースト菌発酵の仕組み
これと同量のクリ粉末とおが粉の3区画で比較実験を行
った。それぞれの試料に水とイースト菌を加え,20℃で培養した。数時間後にはフスマとクリ区で
発泡している様子が確認された。1週間後,水分を加熱蒸発させ,残った固体分の重量を測定し,
減少した量を算出した。
すると,クリ区とフスマ区ではともに5g,おが粉対照区では1gの減少が確認された。以上に
より,クリの糖分は微生物が利用可能であることが明らかになり,エリンギ培地添加剤活用として
の可能性が示された。また,糖分量はフスマと同程度であることから,培地への添加量はフスマと
同程度とすることを基準とすべきではないかと推察した。
(3) クリの適正添加量の検討
クリ粉末の適切な添加量の検討を行った。先の実験より,菌糸ビン 1 本あたり 50gという添加量
を基準に 10gから 80gまでの 10g刻みの8区画と,対照区としてフスマ 50g添加の計9区画を設
定して,培地調整等や植菌を行い,室温 20℃で培養しながらエリンギ菌糸の伸長状況調査を行った。
菌糸の様子は,12 日後,60g添加区が 2.35cm と,フスマの対照区の 1.35cm と比較しても最も良
好に伸長していた。23 日後では 50g添加区が 5.65cm と,対照区の 3.95cm と比較しても最も良好に
伸長していた。37 日後ではどの区画も更に伸長した。特に,クリ 50g以上の添加区においてはどれ
図6 調査結果①
図7 調査結果②
も良好に伸長し9cm前後と対照区の 6.95cm を上回っている(図6)。
この伸長状況調査を踏まえ,早く効率的に菌糸を伸長させるなら,50g以上の添加がよいとい
うことが分かった。50gと 80gを比較すると伸長量にあまり差がないことから,実生産に導入する
ための妥当な値は 50gだと結論づけた。また,従来と同程度の伸長速度を維持し,材料費を抑える
ためには 30~40g程度の添加も効率的であることも明らかにした。(図7)。
4
まとめ
今年度の私たちの研究により以下のことが明らかになった。
(1) 添加クリ粉末の効率的な調整法開発
(2) クリとフスマの有効成分割合の解明
(3) クリ粉末の適正添加量の確立
5
おわりに
廃棄クリを使い、さらに先輩たちが確立した電気シ
ョック法を取り入れた栽培法で,続々と子実体が発生
してきている。風味はこれまでにないもので,ヌカ臭
さやクセが全く無く,コスト削減以上に新たなブラン
ドキノコとして確立できる可能性も出てきた。これは
クリンギと名付け,成果も大きく報道された。この秋,
クリの季節が訪れたら,本格的にクリンギ大量生産を
進めていきたい。
また,私たちは,10 月下旬に,ESDユネスコ世
界会議に係わる研究発表を行った(図8)。
小さな培養室で始まったこの研究を世界規模で広
めていきたい。
図8 研究発表の様子