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高校地学で分かる食連星の物理量
機械工学科3年 石橋 尚也
電気電子工学科3年 蛭子 智貴
情報工学科3年 箭内 風海
目的
食連星の測光観測と分光観測により物理量を引き出したい。
全国的に地学を履修する高校生は多くないが、その地学の
「恒星の大きさ」「連星とその質量」「質量光度」関係などの知識
により引き出せる物質量を調べる
また、美星天文台で観測したデータから、具体的な物質量の
吟味を試みる。
食連星(V0523 Cas)の観測結果から半径比、温度比を導出す
る。
高校地学で分かることを使って食連星を考察しよう!!
2
食連星とは?
極大
主極小
極大
副極小
𝑅1 > 𝑅2 , 𝑇1 > 𝑇2 , 𝑣1 < 𝑣2
3
求めることができる物理量
○測光観測
○分光観測
○恒星の一般的特性
輝度
重心の周りの周期 それぞれの星の
軌道速度
連星と地球の間の距離
角速度
連星の質量比
2つの星の視差
温度比
連星の共通の重心から
のそれぞれの距離
最小の望遠鏡の口径
半径比
二つの星の間の距離
それぞれの星の質量
4
○連星の測光観測
測光観測とは?
V0523(カシオペア座)
等級差(△m)
-3.8
-3.6
-3.4
-3.2
-3.0
-2.8
14
16
19
時刻(UT)
・天体の明るさを測定する観測
・測光観測を時間的に継続すると天体の明るさの時間変化
がわかる
5
測光観測から分かる物理量
•
•
•
•
重心の周りの周期
角速度
温度比
半径比
第38回国際物理オリンピック2007 イラン大会 pink問題より
6
重心の周りの周期と角速度
3日
3𝑑𝑎𝑦𝑠 = 2.6 × 105 [𝑠]
2.6 ×
105
𝜔
=
2𝜋
𝜔 = 2.42 × 10−5 𝑟𝑎𝑑 𝑠
7
半径比と温度比
極大
主極小
副極小
𝑖2 = 𝑘 𝜋 𝑅1 2 − 𝑅2 2 𝑇1 4 + 𝜋𝑅2 2 𝑇2 4
𝑖0 = 𝑘(𝜋𝑅1 2 𝑇1 4 + 𝜋𝑅2 2 𝑇2 4 )
𝑖0 𝑘(𝜋𝑅1 2 𝑇1 4 + 𝜋𝑅2 2 𝑇2 4 )
𝑅2
=
=
1
+
𝑖1
𝑅1
𝑘𝜋𝑅1 2 𝑇1 4
2
𝑇2
𝑇1
4
=
𝑖1 = 𝑘𝜋𝑅1 2 𝑇1 4
1
𝛼
𝑅2 2 𝑇1 4 − 𝑇2 4
𝑖2 𝑘 𝜋 𝑅1 2 − 𝑅2 2 𝑇1 4 + 𝜋𝑅2 2 𝑇2 4
𝑅2
=
=
1
−
=
1
−
𝑖1
𝑅1
𝑘𝜋𝑅1 2 𝑇1 4
𝑅1 2 𝑇1 4
𝑅2
=1−
𝑅1
2
𝑅2
+
𝑅1
2
𝑇2
𝑇1
4
𝛽
=
𝛼
2
𝑇1
1−
𝑇2
8
4
半径比と温度比
𝛼=
𝛽=
𝑅1
=
𝑅2
𝛼
𝑅1
→
= 1.6 ,
1 − 𝛽 𝑅2
𝑇1
=
𝑇2
1 − 𝛽 𝑇1
→
= 1.4
1 − 𝛼 𝑇2
9
○連星の分光観測
分光観測とは?
光を何色にも分けて、どの部分が明るいか、暗いかを調べることを
分光観測という
各スペクトル型を代表する星のスペクトル画像。天体名は左側に、スペ
クトル型は右側に示されている。OからMまでは天体の温度の系列(O
型が最も高温)であるが、R、NやSは化学組成が特殊なために別に分類
されたものである。データは岡山天体物理観測所で取得されたもので、
図は『宇宙スペクトル博物館』(粟野諭美ほか、裳華房)による。
10
分光観測から分かる物理量
第38回国際物理オリンピック2007 イラン大会 pink問題より
• それぞれの星の軌道速度
•
•
•
•
連星の質量比
連星の共通の重心からのそれぞれの距離
二つの星の間の距離
それぞれの星の質量
11
それぞれの星の軌道速度
波長λとすると特殊相対性理論の光のドップラー効果より
𝑣
𝜆=
1− 𝑐
1−
𝑣 2
𝑐
× 𝜆0
cは光の速度でvがcに比べてずっと小さいときに上の式は
𝜆= 1
𝑣
−
𝑐
× 𝜆0 =
𝑣
𝜆0 − 𝜆0
𝑐
となり波長の変化を
Δ𝜆 = 𝜆 −𝜆0
とすると
𝜆 − 𝜆0 =
𝑣
− 𝜆0
𝑐
𝑣
Δ𝜆 = − 𝜆0
𝑐
∴
∆𝝀
𝝀𝟎
=
𝒗
−
𝒄
12
それぞれの星の軌道速度
ここで表より
𝜆1𝑚𝑎𝑥 = 5897.7 Å 𝜆1𝑚𝑖𝑛 = 5894.1 Å
∴ Δ𝜆1 = 3.6 Å
𝜆2𝑚𝑎𝑥 = 5899.0 Å
𝜆2𝑚𝑖𝑛 = 5892.8 Å
∴ Δ𝜆2 = 6.2 Å
ドップラー効果の用いる波長差は∆𝜆/2なので
Δ𝜆
𝑣
= − より
𝜆0
𝑐
𝑣1 =
𝑣2 =
Δ𝜆1 /2
𝑐
𝜆0
Δ𝜆2 /2
𝑐
𝜆0
= 9.16 × 104 ≒ 9.2 × 104 𝑚
𝑠
= 1.58 × 105 ≒ 1.6 × 105 𝑚
𝑠
13
連星の質量比と共通の重心から
のそれぞれの距離
軌道速度が分かると星の質量比は運動量保存則で求めることができる
𝑚1 𝑣2 1.6 × 105
=
=
= 1.73 ≒ 1.7
𝑚2 𝑣1 9.2 × 104
さらに軌道速度により連星の共通の重心からのそれぞれの距離も求めるこ
とができる
𝑣
𝑟 = より
𝜔
𝑟1 =
𝑣1
𝜔
=
9.2×104
2.4×10−5
= 3833333333 = 3.8 × 109 𝑚
𝑣2
1.6 × 105
9 [𝑚]
𝑟2 =
=
=
6666666667
≒
6.7
×
10
𝜔 2.4 × 10−5
14
二つの星の間の距離
二つの星の間の距離は𝑟1 と𝑟2 を使って
𝑟 = 𝑟1 + 𝑟2 = 3.8 × 109 + 6.7 × 109 = 1.1 × 1010 [m]
𝑟1
𝑟2
共通の重心
太陽-地球間の距離 1AU=1.5 × 1011 𝑚
15
それぞれの星の質量
等速円運動の公式より
𝑎 = 𝑟𝜔2
これより
𝑎=𝑟
𝑎=
𝑉 2
𝑟
𝑉2
𝑟
また、𝐹 = 𝑚𝑎より
𝑚1 𝑚 2
𝐺 2
𝑟
=
𝑉1 2
𝑚1
𝑟1
=
𝑉2 2
𝑚2
𝑟2
16
それぞれの星の質量
よって、
𝑚1 =
𝑚2 =
𝑚1 =
𝑚2 =
𝑟 2 𝑉2 2
𝐺𝑟2
𝑟 2 𝑉1 2
𝐺𝑟1
1.0×1010
2
1.6×105
2
6,7×10−11 ×6.5×109
1.0×1010
2
9.2×104
6,7×10−11 ×3.8×109
2
= 5.87 × 1030 = 6.0 × 1030 [𝑘𝑔]
= 3.32 × 1030 = 3.0 × 1030 [𝑘𝑔]
太陽の質量 2.0 × 1030 [𝑘𝑔]
17
14
16
18
14
20
16
18
観測結果から求める物理量(V0523 Cas)
35
35
30
30
20
15
25
y = 0.649x3 - 38.009x2 + 708.1x - 4232.2
I/I’
I/I’
25
20
20
3
2
I/I’
I/I’
I/I’
y = 0.4631x - 32.592x + 725.86x - 5177.8
①それぞれのグラフの山、谷
10
16
18
20
1514
35
5
を切り取る。
10
30
0
②グラフの近似曲線をとる(3
5
25
14
16 時刻(UT) 18
20
次式)
20 0
35
③近似曲線の式から極値を
14
16 時刻(UT) 18
20
15
30
計算する。
y = -14.428x3 + 762.32x2 - 13393x + 78275 10 35
25
30
④周期を計算する。
y = 6.8673x3 - 359.53x2 + 6181.5x 5
20
25
34732
⑤半径比、温度比を計算す
0
15
20
る。
時刻(UT)
10
15
5
10
0
5
時刻(UT)
0
18
時刻(UT)
周期を求める
14
35
30
(15.349 , 28.667)
18
20
𝒕_𝟏 (18.180 , 26.370)
25
I/I’
1. 半周期の𝑡1 と𝑡2 を求
める。
16
20
2. 半周期𝑡1 , 𝑡2 を
足し周期を求める
15
10
(16.739 , 17.791)
𝒕_𝟐(19.573 , 15.966)
5
0
時刻(UT)
𝑡1 + 𝑡2 = 5.667
5.667時間
= 5時間40分1.2秒
19
半径比、温度比を求める
極大値𝐼0 を求める
𝐼𝐴 + 𝐼𝐵
𝐼0 =
= 27.52
2
𝐼0 を1とする時の副極小、主極小
の光度比
𝐼1
𝛼 = = 0.6320
𝐼0
14
35
30
16
18
20
𝐼𝐵
𝐼𝐴
25
20
𝜶=
15
10
𝐼2
𝛽 = = 0.5802
𝐼0
𝐼1
𝜷=
𝐼2
5
0
時刻(UT)
半径比、温度比を求めると
𝑅1
=
𝑅2
𝛼
= 𝟏. 𝟐𝟐𝟕
1−𝛽
𝑇1
=
𝑇2
1−𝛽
= 𝟏. 𝟎𝟔𝟖
1−𝛼
20
解析結果と考察(V0523 Cas)
計算より、V0523 Casの公転周期は5時間40分である。
<分かったこと>
(1) 半径比より、二つの星の大きさに差があまりない。
(2) 温度比より、二つの星の温度はほぼ同じである。
14
I/I’
文献データとして、この食連星
はおおぐまW型(EW)であり、周
期は5時間31分であるから、分
析結果はほぼ一致している。
計算誤差は多少あるが、半径
が変わらない連星の温度比は
差がないこともわかる。
16
18
20
35
30
25
20
15
10
5
0
時刻(UT)
21
まとめ
・10月に美星天文台に観測に行ったときには機械の故障
で分光観測ができなかった。
・12月V1848(ori)の測光観測を行い,データが取れた。
・違った種類の食連星の物理量を求めると違った結果が
得られるので非常に興味深い。
22
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