放射線との出会いと 製薬放射線コンファレンス

●トップコラム/製薬放射線コンファレンス 代表 大河原 賢一
●平成 26 年度/皮膚の等価線量の集計/リングバッジ着用者数推移
●お願い/バッジの返送方法について
No.456
●製品紹介/ InLightシステム
〈microStar ®〉
平成 27年 12月発行
薬などの開発および研究を中心とする事業所の管理者およ
び放射線取扱主任者による任意団体で、
「放射線利用」と
「適正で合理的な安全管理」を2 本の柱にして幅広い活動を
している。製薬企業に限らず、大学関係、放射線管理会社
の方など誰でも入会でき、個人会員と法人会員で構成され
ている。運営は世話人会で行い、年 1回の研修会、随時開
催のセミナーの他に、メーリングリストで悩みの相談や情報
交換ができるようになっており、その成果を総会・研修会で
168
報告している。
PRCの主な成果として、使用数量及び非密封R Iの基本
的流れの標準化がある。当時、使用数量の考え方には事業
所間で大きな差があり不明確であったため、アンケート調
大河原 賢一
査や法令、申請書の趣旨に鑑み、何を使用数量として記帳
するのかを検討した。これは、その後の「密封されていない
放射線との出会いと
製薬放射線コンファレンス
なRIの記録管理を分かり易く整理したものとして、2004 年
放 射 性 同 位 元 素 の 基 本 的 流 れ に つ いて(PRC Edit.)、
2004 年」につながり、障防法の趣旨を変えることなく複 雑
塩野義製薬(株)に入社当初のRIA
(Radioimmunoassay)
主任者年次大会にて報告した。流れ図等の詳細はPRCの
との出会いが放射線との馴れ初めである。当時はRIAで何
HPに掲載している。その他、事故事業所を想定した模擬記
でも測ろうといった時代で、低分子化合物でも牛血清アル
者会見によるメディアトレーニングや東日本大震災時におけ
ブミンを結合させ動物に免疫し、抗血清(抗体)を作製して
るサーベイメータの提供、中学校の出張授業等、企業の社
いた。抗体の評価やアッセイ系の構築は楽しく、反応条件
会的責任(CSR)やリスクコミュニケーションに焦点を置いた
や抗体の固相化の検討など試行錯誤の日々で、実験結果に
活動も行っている。最近はRIの利用が減っている中でRI管
一喜一憂した。職場の先輩からある時、
「君らの仕事は体力
理が事業所には必要以上の負担と感じる場面も少なくない
勝負だな、プロレスラーを雇った方が 効率が上がる」と叱
ようだ。そこで今年の研修会では法令で定められているこ
咤激 励?されたのを思い出す。その後の一時期、合成の得
とを各事業所でいかに対応しているかについて情報を交換
意 な 同 僚とHanganutziu-Deicher(HD)抗 原(異 好 性 抗
しつつ合理的な安全管理を参加者で討論する場として「製
原)の単クローン抗体作製に携わったが、こちらは上手くい
薬放射線施設の現状と課題」の座談会を企画した。参加者
かず、定められた期間に形あるものを作るという企業の厳し
も大いに盛り上がり、継続の要望が多く寄せられた。
さを痛感した。研究テーマの打切りがインスリン他のRIA製
PRCのモットーは、魅力的なことをアグレッシブに活動す
品の開発につながり、結果として良かったようだ。
ることである。そのために何でも言える雰囲気を心がけてい
1999 年からは、放射線管理に本格的に取り組むことにな
る。世話人の皆さんは手弁当だが、熱い想いと軽いフットワ
った。放射性医薬品としてRIAキットを取り扱っている部門
ークが持ち味である。今後も会員、行政との関係を密にし、
の主任者に選任されたのが RI管理への関与の始まりである。
各事業所にとって有益な情報を提供しながら放射線・放射
開発・製造・販売の一連の流れの中で、適用される法令の
性同位元素の安全利用に寄与したい。
区分等については必ずしも明確でない場合もあり、放射線
管理にはグレーゾーンが多いという印象を持っていた。薬事
おおかわら けんいち(製薬放射線コンファレンス代表)
法・障害防止法等の全体をまとめる管理者が必要なので是
非君に、という甘い言葉?に惑わされ、RI管理に従事するこ
プロフィール●1948 年群馬県生まれ。群馬大学医学部附属衛生検
とになった。幸いにして製薬放射線コンファレンスとの出会
査技師学校(現保健学科)卒。大阪工業大学卒。塩野義製薬(株)入社
いがあり、その後世話人代表として現在に至っている。
後、主に体外診断用放射性医薬品(RIAキット)の開発・製造を経て
障害防止法、薬事法の選任主任者として放射線施設の管理に従事。
2005 年より製薬放射線コンファレンス代表。日本アイソトープ協
会放射線安全取扱部会近畿支部長。原子力安全技術センター定期
講習・資格講習講師。2011 年退職後、神戸総合医療専門学校非常
勤講師、大阪大学大学院工学研究科特任研究員、現在に至る。
製薬放射線コンファレンス(PRC、ホームページ http : //
www.web-prc.com/)は、日本アイソトープ協会主任者部会
の「放 管 草の 根ネットワーク:製 薬 分 科 会」を前身として
1995 年に故川上猛雄氏らによって創設され、製薬・農薬・試
‐1 ‐
NLだより 2015 年 12月・No.456
平成 26 年度
2ヶ月にわたり、実効線量と眼の水晶体の等価線量の集計結
果を報告いたしました。今月号では、皮膚の等 価線 量(以下、
皮膚等価線量)の集計結果を報告いたします。平成 26 年度(平
成 26 年 4月∼平成 27 年 3 月)の当社クイクセルバッジサービス
およびリングバッジサービスによる皮膚等価線量を機関別・職
種別に集計しました。また、リングバッジの着用者数の推移も機
関別にまとめました。皮膚等価線量は、バッジから得た 70μm
線量当量とし、複数着用した場合は、それらの中で最も高い値
を採用しています。なお、弊紙 No. 449 からNo. 451 に外部被ば
く線量の算出方法を特集いたしました。よろしければこちらも
ご参照ください。
今年度より、機関を一般医療、歯科医療、獣医療、一般工業、
非破壊検査(非破壊)、研究教育の計 6 つに分類し、皮膚等価
線量を集計しました。
平成 26 年度における各機関の年間皮膚等価線量の人数分布
を表 1に示します。年間平均皮膚等価線量は集計対象者平均
で 0. 839 mSvとなりました。一方、医療分野について見ますと、
大多数を占める一般医療の集計対象人数は 150, 868 名で年間
平均皮膚等価線量は 1.103 mSvでした。歯科医療は 2 ,674 名で
0.036 mSv、獣医療は 6, 224 名で 0.049 mSvとなり、どちらも年
間平均皮膚等価線量は一般医療の 20 分の 1 以下でした。また、
皮膚等価線量の年間線量限度である500 mSvを超えた方は 1
名で、一般医療の方でした。
図 1は、機関別の年間皮膚等価線量の分布を示しています。
集計対象者のうち、72 %の方の年間皮膚等価線量が「検出せ
ず」でした。非 破壊では「検出せ ず」が 57 %、一 般 医療では
64 %であるのに対し、一般工業で 91%、研究教育では 96 %が
「検出せず」となっています。
図 2 は、過去 5 年における機関別の年間平均皮膚等価線量
の推移を表したものです。全機関の年間平均皮膚等価線量は、
5 年間で少しずつ減少する傾向が続いています。一般医療は減
少傾向を示していますが、一般工業は増加傾向にあります。過
去 5 年とも一般医療が最も高く、次いで非破壊、一般工業と続き、
皮膚等価線量の集計
[皮膚等価線量の集計対象]
平成 26 年度中に、当社の測定サービスを 1 回以上受けられ
た 210,770 名のデータを対象とし、皮膚等価線量について集計
しました。集計には平成 26 年 4月1日から平成 27 年 3月31日ま
での着用分で、報告日が平成 27 年 6 月30日までのバッジデー
タを使用しました。
なお、最小検出限界未満の線量を表す「検出せず」は、被
ばく線量を0 mSvとして計算しています。
[機関別年間皮膚等価線量の集計結果]
表1
皮膚の等価線量の集
平成26年度 機関別年間皮膚等価線量人数分布(単位:人)
機 関 名
平均線量
(mSv)
一般医療
1.103
96,950
31,922
15,160
3,350
1,273
694
407
759
272
80
歯科医療
0.036
2,528
114
31
1
0
0
0
0
0
0
0
2,674
獣 医 療
0.049
5,758
397
63
4
1
1
0
0
0
0
0
6,224
一般工業
0.305
24,513
1,877
246
116
62
45
23
64
29
1
0
26,976
非 破 壊
0.602
245
121
55
9
1
2
0
0
0
0
0
433
研究教育
0.064
22,759
626
149
32
8
10
3
5
2
1
0
23,595
全 機 関
0.839 152,753
35,057
15,704
3,512
1,345
752
433
828
303
82
図1
検出せず
0.1 mSv∼
1.0 mSv
1.1 mSv∼ 5.1 mSv∼ 10.1 mSv∼ 15.1mSv∼ 20.1 mSv∼ 25.1 mSv∼ 50.1 mSv∼ 100.1mSv∼ 500.1mSv 合計人数
5.0 mSv
10.0 mSv 15.0 mSv 20.0 mSv 25.0 mSv 50.0 mSv 100.0 mSv 500.0 mSv ∼
1 150,868
1 210,770
平成26年度 機関別年間皮膚等価線量分布(単位:%)
検出せず
(機 関 名)
0
0.1mSv∼
1.0 mSv
50
1.1mSv∼
5.0 mSv
60
一 般 医 療
獣 医 療
80
25.1 mSv∼
50.0 mSv
50.1 mSv∼
100.0 mSv
100.1 mSv
∼
90
100%
10.05
92.51
平均 0.049mSv
一 般 工 業
56.58
6.96
27. 94
研 究 教 育
12 .70
96.46
平均 0.064mSv
72.47
16. 63
‐2‐
0.84
2.22
0.46
1.16
4.26
0.27
0.50
0.18
0.05
1.01
0.06
0.02
0.02
0.43
0.91
0.23
0.17
0.09
0.24
0.11
2.08
0.23
0.46
0.03
0.04
0.01
0.02
0.01
0.21
0.39
0.14
0.04
6.38
90.87
平均 0.305mSv
平均 0.839mSv
70
20.1mSv∼
25.0 mSv
94.54
平均 0.036 mSv
全 機 関
15.1 mSv∼
20.0 mSv
21.16
歯 科 医 療
平均 0.602mSv
10.1 mSv∼
15.0 mSv
64.26
平均 1.103mSv
非 破 壊
5.1 mSv∼
10.0 mSv
7.45
0.63
2.65
0.14
0.64
1.67
0.36
0.04
NLだより 2015 年 12月・No. 456
リングバッジ着用者数推移
集計
これらの機関から大きく離れて残り三つの機関となっています。
平成 26 年度は研究教育、獣医療、歯科医療の順になりました。
[職種別皮膚等価線量の集計結果]
図 3 は、職種別の年間平均皮膚等価線量です。また、それ
ぞれの職種でリングバッジ非着用者と着用者に分けました。平
成 26 年度中に、1 度でもリングバッジを着用された方は着用者と
して集計しています。
全職種の年間平均皮膚等価線量は、リングバッジ非着用者
では集計対象人数 205,150 名で 0.70 mSv、リングバッジ着用者
では 5,620 名で 6.08 mSvとなり、その違いは 8 .7 倍に及びました。
いずれの職種においても、リングバッジ着用者が非着用者より
も線量が高いという結果になりました。
リングバッジ着用者では、技師よりも医師の年間平均皮膚等
価線量が高くなり、非着用者とは逆の傾向を示しました。また、
助手と工員はリングバッジの着用者が少ないため、皮膚等価線
量が高い一部のデータに平均が押し上げられています。
図2
機関別年間平均皮膚等価線量推移
図 4 は、過去 5 年における機関別のリングバッジの着用者数
の推移を表したものです。機関によって着用者数が大きく異な
りますので、縦軸は対数目盛で表示しました。なお、歯科医療
と非破壊は着用者が 10 名以下と非常に少ないため表示してい
ません。
一般医療が一番多く全体の 73%を占めています。これに一
般工業の 22 %が続きます。機関ごとの全体の割合は 5 年間で
ほとんど変わっていません。着用者数も全機関で大きな変化は
見られませんでした。
外部被ばくによる線量が末端部で最大となるおそれがある
場合、末端部の 70μm 線量当量の測定が法令で義務づけられ
ております。放射線作業上、末端部の被ばくの可能性がある方
は、皮膚等価線量を正しく測定するために、リングバッジの着用
をご検討ください。 (技術室)
図4
(mSv)
1. 3
1 .2
リングバッジ着用者数推移
機関別リングバッジ着用者数推移
(人)
10,000
一般医療
1.244
1.140
1.171
1 .1
1.124
5,330
5,450
全機関 5,634
3,866
3,940
4,078
1 .0
0 .9
0.849
0.893
0 .8
0 .7
0.848
全機関
0 .5
0.569
0.572
0.768
0.859
0.246
0.253
0 .1
0.338
234
82
80
87
238
72
78
0.064
0.049
0.036
年度
23
年度
22
年度
年度
年度
26
25
平成
24
10
年度
23
獣医療
研究教育
年度
年度
年度
22
243
244
100
0.305
0.079
0.064
0.061
0.051 0.044 歯科医療 0.038
0.064 0.043
年度
図3
平成
0
261
1,211
研究教育
獣医療 0.063
0.059
0.056
0.041
1,221
1,192
1,000
0.265
0 .2
5,075
0.602
一般工業
0 .3
4,073
1,196
1,145
0.531
0 .4
5,620
一般医療
一般工業
0.839
非破壊
0 .6
5,594
1.103
24
26
25
平成26年度 職種別年間平均皮膚等価線量
(mSv)
10.0
9.75
リング非着用者
リング着用者
全体
9 .0
8.11
8 .0
7 .0
6.87
6.50
6.17
6 .0
6.08
5 .0
4.0
2 .0
1.73
2.05
1.09
1 .0
1.41
1. 24
0.54
0.57
0.08
0.09
0.44
0.70
0.84
全平均
0.11
0.29
その他
0.02
教員
‐3 ‐
0.34
工員
0.02
0.15
1.07
0.40
技術員
0.28
研究員
0.21
助手
看護師
医師
技師
0
3.42
3.10
3 .0
NLだより 2015 年12月・No.456
お願い
バッジの返送方法について
お問い合わせ:お客様サポートセンター Tel. 029 - 839 - 3322 Fax. 029 - 836 - 8441
バッジの返送方法に関するお願いです。
①着用済みのバッジはできるだけ早くご返送ください。
②輸送中のバッジの保護のため、トレーに入れてご返送ください。
③登録内容に変更が生じた場合は、
「登録変更依頼書」にご記入の上、 Fax(または電話)していただくと共に、念のためバッジと一緒に
ご返をお願いいたします。
※変更がない場合は、
「登録変更依頼書」を同封していただく必要は
ございません。
製 品 紹 介
R
InLightシステム
microStar(マイクロスター)は汎用化された小型
のOSL線 量計 測定システム(写真1)で、インライト
バッジ(写真 2)を用いることにより線量をその場で
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(写真 2)は、小型でX線画像に写らないという特徴
から、従来では線量測定が困難であった場所の線
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びができ、家庭用100 V交流電源のみで動作する
microStarは、線量測定の新たな可能性を広げて
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(110×325×245 ㎜ 13 . 6 ㎏)
写真1 P Cおよびリーダー本体
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Tel. 029 - 839 - 3322
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長瀬ランダウア(株)ホームページ・Eメール
編集後記
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作だということ。よって浅野内匠 頭も吉
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信に涙する方は多いのでは?ただ意外と
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誤解されがちなのが、忠臣蔵は赤穂事件
す。皆様にとって良い年になりますようお
そのものではなく、事件を題材にした創
祈り申し上げます。 (K.O.)
‐4 ‐
http://www.nagase -landauer.co.jp
E-mail:[email protected]
No. 456
平成 27 年〈12月号〉
毎月1日発行 発行部数:37,000部
発 行 長瀬ランダウア株式会社
〒300 - 2686
茨城県つくば市諏訪C 22 街区 1
発行人 中井 光正