TMI 中国最新法令情報 ―(2015 年 2 月号)―

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TMI 中国最新法令情報
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皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。
お客様の中国ビジネスのご参考までに、「TMI 中国最新法令情報」をお届けします。記事
の内容やテーマについてご要望やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下
さい。バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきますので、
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目次
一.中国最新法令
1. 中央法規
(1) 社債発行・取引管理弁法
(2) 建築業企業資質管理規定及び資質標準実施意見
(3) 非居住者企業による財産の間接譲渡に係る企業所得税の若干問題に関する公告
2.司法解釈
(1)「中華人民共和国民事訴訟法」の適用に関する解釈
(2)「中華人民共和国民事訴訟法」の適用に関する解釈
二.連載
中国企業法実務/第七弾:労働法(第 5 回
労務派遣)
三.中国法務の現場より
海外駐在者が一時帰国した際の免税措置
1
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一.中国最新法令(2015 年 1 月中旬~2015 年 2 月中旬公布分)
1.中央法規
(1) 社債発行・取引管理弁法1
中国証券監督管理委員会
2015 年 1 月 15 日公布
同日施行
① 背景
中国証券監督管理委員会による 2007 年 8 月の「社債発行試行弁法」
(以下「試行弁法」
という。)の公布によって社債の発行試行が開始されて以来、社債市場は一定の規模に至
り、経済成長の有力な支えとなっていたが、経済発展の新たな状況により適合し、政府
の関与が緩やかな制度に転換する必要性が指摘されていた。そこで、中国証券監督管理
委員会は、この度試行弁法を改正した。また、試行弁法の内容の改正に伴って名称も「社
債発行・取引管理弁法」(以下「管理弁法」という。)へと変更された。
② 主な内容
改正後の管理弁法は 6 章 73 条からなり、その主な改正点は次の通りである。
ア
発行主体の拡大
従来、社債の発行主体は上海又は深圳の証券取引所に上場している企業、海外で上
場している中国国内の株式会社 2及び証券会社に限定されていたが、管理弁法では全て
の会社制法人に社債の発行を認めることとなった3。
イ
債券発行方式の多様化
中小企業私募債テストの経験を整理した上で、非公開発行4及び譲渡について単独の
節を設けて規定し、非公開発行制度を全面的に確立した 5。
ウ
取引所の拡大
従来、公開発行された社債の取引は上海、深圳の両証券取引所での取引に限定され
ていたが、全国中小企業持分譲渡システム及び国務院が許可する他の証券取引所でも
取引が認められることになった。また、非公開発行された社債の譲渡は、上海、深圳
の両取引所、全国中小企業持分譲渡システム、機構間私募製品見積・サービスシステ
ム及び証券会社のカウンターでできることとなった6。
エ
発行審査・許認可手順の簡素化
発行審査・許認可手順を簡素化するため、管理弁法では、公開発行時の保証推薦人
制度及び発行審査委員会制度を撤廃して確認・許認可制度へと転換し、非公開発行の
社債については、証券業協会への届出制へと転換した 7。
1
《公司债券发行与交易管理办法》(中国证券监督管理委员会令第 113 号)
2
中国語では、股份有限公司と呼ばれる。
管理弁法第 2 条第 1 項
4
公開発行とは異なり、適格投資者に対してのみ発行することができ、広告及び公開の勧誘(形を変えた公開
の方法を含む。)を行ってはならず、1 回の発行対象が 200 人を超えてはならない等の規制に服する。
5
管理弁法第 26 条ないし第 32 条
6
管理弁法第 23 条、第 30 条
7
管理弁法第 16 条、第 19 条
3
2
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オ
分類管理の実施
管理弁法では、公開発行が公衆投資者向けの公開発行と適格投資者向けの公開発行
とに分類され、それぞれの投資者に関する規律が具体化された8。
カ
情報開示義務
管理弁法は、社債を発行する企業及び信用格付け機構等に情報開示義務を課し、開
示内容や開示場所等について明確に規定した。(第 42 条~第 47 条)
キ
投資家保護の強化
管理弁法は、債券受託管理人及び債券所持者会議制度を整備し、債権受託管理契約
の条項や信用格付けアップ措置について指導的な規定を設けた9。
(2) 建築業企業資質管理規定及び資質標準実施意見10
住宅都市農村建設部
2015 年 1 月 31 日公布
3 月 1 日施行
① 背景
「建築業企業資質管理規定」11及び「建築業企業資質標準」12(以下「新標準」という。)
の発布後、新旧標準の過渡期の対応、建築業企業が旧標準 13に基づいて既に取得した資
質の帰趨等の問題について、建築業企業管理部門及び関連企業から関心が寄せられてい
た。これらの問題の帰結を明確にし、建築業企業の「資質」 14管理を規範化するため、
住宅都市農村建設部は、2015 年 1 月 31 日に「建築業企業資質管理規定と資質標準実施
意見」(以下「実施意見」という。)を発布した。実施意見は同年 3 月 1 日より施行され
る。
② 主な内容
実施意見は資質申請と許可手順、申請書類の関連要求、資質証書、監督管理、関連説
明と指標解釈、過渡期、その他の合計 7 項目、49 条からなっている。
実施意見によれば、企業は総合建設業、専門工事業、施工労務資質の各類別の資質を
申請することができ、申請する資質の数は制限を受けない。企業が建築業企業の資質を
初めて申請し、又は項目の追加を申請した場合、新たな資質は各類型の最も低い等級の
資質となる。建築業企業の資質証書の有効期間は 5 年となる15。
また、資質証書の延期については、企業が資質証書の有効期間満了の 3 か月前に、元
の資質申告ルートに従って、資質証書の有効期間延長を申請するものとされ、企業が資
質証書の有効期間満了の 3 か月前までに資質証書の延期を申請した場合、資質受理部門
8
管理弁法第 18 条、第 24 条
管理弁法 48 条ないし第 57 条
10
《建筑业企业资质管理规定和资质标准实施意见》(建市[2015]20 号)
11
《建筑业企业资质管理规定》(住房和城乡建设部令第 22 号)
12
《建筑业企业资质标准》(建市[2014]159 号)
13
《建筑业企业资质标准》(建建[2001]82 号)
14
中国における建設業の資格制度であり、大きくは「总承包」(総合建設業)、「专业承包」(専門工事業)
及び「施工劳务资质」
(施行労務資質)に分類される。また、その中でも規模等に応じて等級が定められてい
る。
15
実施意見一、(五)及び三、(二十五)
9
3
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はその申請を受理しなければならないとされている。もっとも、資質証書の有効期間の
満了日から延長申請が許可される日までの間、企業は当該資質範囲内の工事を引き受け
てはならない16。
そのほか、実施意見は、新標準において説明されていなかった「特級資質企業の標準」
について、企業が総合建設業の資質を申請する場合、依然として、
「総合建設業企業特級
資質標準」17及び「総合建設業企業特級資質標準実施弁法」18の関連規定に従うと規定し
た19。
なお、既に資質を取得している企業は、2016 年 12 月 31 日までに、新たな資質標準の
要件に沿って新版の企業資質証書を取得しなければならない。2017 年 1 月 1 日より旧版
の資質証書は全て無効となる20。
(3) 非居住者企業による財産の間接譲渡に係る企業所得税の若干問題に関する公告 21
国家税務総局
2015 年 2 月 3 日公布
同日施行
① 背景
国家税務総局は、非居住者企業 22による中国居住者企業の持分等財産の間接譲渡に係
る企業所得税管理を更に明確化し、強化するため、
「中華人民共和国企業所得税法」及び
その実施条例並びに「中華人民共和国税収徴収管理法」及びその実施細則の関連規定に
基づき、2015 年 2 月 3 日に「非居住者企業による財産の間接譲渡に係る企業所得税の若
干問題に関する公告」(以下「公告」という。)を公布した。
② 主な内容
公告の主な内容は以下のとおりである。
ア
適用範囲
公告は、非居住者企業が、合理的な事業目的を欠く取引スキームを通じてその譲渡
による取得について中国で課税すべき財産(中国国内の機構、場所の財産、中国国内
の不動産、中国居住者企業23の権益性投資資産を指す。以下「中国課税財産」という。)
を間接的に譲渡し、中国における企業所得税の納税義務を回避しようとする場合に適
用される 24。
イ
中国課税財産の間接譲渡
中国課税財産の間接譲渡とは、非居住者企業が直接又は間接に中国課税財産を保有
16
実施意見三、(二十六)
《施工总承包企业特级资质标准》(建市[2007]72 号)
18
《施工总承包企业特级资质标准实施办法》(建市[2010]210 号)
19
実施意見七、(四十七)
20
実施意見六、(四十二)
21
《关于非居民企业间接转让财产企业所得税若干问题的公告》(国家税务总局公告 2015 年第 7 号)
22
外国(地域)の法律により設立され、実際の管理機構は中国国内に存在しないが、中国国内に機構・場所
を設立し、又は中国国内に機構・場所を設立していないものの中国国内で源泉所得のある企業を指す(企業
所得税法第 2 条第 2 項)。
23
法により中国国内に設立され、又は外国(地域)の法律により設立されたが実際の管理機構が中国国内に
ある企業を指す(企業所得税法第 2 条第 1 項)。
24
公告第 1 条第 1 項
17
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する中国国外の中間持株会社(中国国外で登録された中国居住者企業を除く。以下「中
国国外企業」という。)の持分及びこれに類似する権益を譲渡することにより、中国課
税財産を直接譲渡したのと同一又は類似の結果が生じる取引をいう。また、非居住者
企業の再編によって中国国外企業の株主が変更される場合を含む 25。
ウ
合理的な事業目的の有無の判断
公告の第 3 条では、合理的な事業目的の有無を判断する際には、中国課税財産の間
接譲渡取引と関連する全てのスキームを全体的に考慮し、実際の状況を踏まえ、以下
の(a)~(h)の関連要素を総合的に分析しなければならないとされている。
(a) 中国国外企業の持分の主な価値が直接的又は間接的に中国課税財産から生じたも
のであるか否か
(b) 中国国外企業の資産が主に直接的若しくは間接的に中国国内での投資から構成さ
れているか否か、又はその取得する収入が主に直接的若しくは間接的に中国国内
を源泉としているか否か
(c) 中国国外企業及び直接的又は間接的に中国課税財産を保有する傘下企業が実際に
履行する機能及び負担するリスクが、企業の組織構成に経済実態のあることを裏
付けられるか否か
(d) 中国国外企業の株主、ビジネスモデル及び関連の組織構成の存続期間
(e) 中国課税財産の間接譲渡取引に係る中国国外での所得税の納税状況
(f) 持分譲渡者が中国課税財産に間接的に投資して当該財産を間接的に譲渡する取引
と、直接投資して当該財産を直接譲渡する取引の代替可能性
(g) 中国課税財産の間接譲渡に係る所得に対して中国で適用される租税条約又は協定
の状況等
(h) その他関連要素
エ
中国課税財産の間接譲渡取引が行われた場合の納税者の報告義務
従来、「非居住者企業の持分譲渡所得に係る企業所得税管理の強化に関する通知 26」
(以下「通知」という。)によって規定されていた間接譲渡取引の報告に係る報告制度
は、公告によって大きく変更された。
主な変更点は、(a)義務的な報告から任意的な報告への変更、(b)取引の報告者の拡
大となっている。
(a)については、通知では一定の要件を満たす間接譲渡取引について、中国の税務機
関への報告義務が付けられていたが、公告ではそのような報告義務は課せられていな
い。代わりに、関連の当事者は間接譲渡取引を中国の税務機関に報告するかどうかを
自ら選択することができるとされている27。(b)については、通知では、間接譲渡を行
う国外投資者(譲渡者である非居住者企業)のみに対して取引の報告義務を課してい
たが、公告では、取引の当事者双方及び持分が間接的に譲渡される中国居住者企業は
25
公告第 1 条第 3 項
《关于加强非居民企业股权转让所得企业所得税管理的通知》(国家税务总局公告 2009 年第 698 号)
27
公告では強制的な報告義務を規定していないが、取引に関し中国における納税義務がある場合、報告の有
無によって取扱いが異なるため(公告第 8 条及び第 13 条)、実質的には自主的な報告を奨励しているといえ
る。
26
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いずれも中国の税務機関に報告することができるとされている28。
2.司法解釈
(1) 特許紛争案件の審理における適用法律問題に関する若干の規定29
最高人民法院
2015 年 1 月 29 日公布
同年 2 月 1 日施行
① 背景
最高人民法院は、2015 年 1 月 29 日に 2001 年に公布し、2013 年に小幅に改正した「特
許紛争案件の審理における適用法律問題に関する若干の規定」を再度改正する旨を公布
した(以下、改正後の当該規定を指して単に「規定」という。)。改正後の規定は、主に
2008 年の特許法改正に平仄を合わせるとともに、特許紛争の高度化や裁判所の審判に関
する実務上のニーズに対応するものとなっており、2015 年 2 月 1 日より施行された。
② 主な内容
今回の改正は主に 2008 年の特許法改正(以下「第三次特許法改正」という。)に平仄
を合わせ、条文の順序、表現を調整し、特許権侵害行為地、特許権評価報告書、特許権
保護範囲の判断、特許権を侵害する際の損害賠償額の計算等を修正し、現行特許法及び
関連司法解釈との整合性の確保を図っている。以下では、その主な改正内容について紹
介する。
ア
「意匠製品の許諾販売地」を「権利侵害地」に追加
第三次特許法改正で意匠特許侵害行為の類型に新たに許諾販売行為が追加されたこ
とを受けて、規定は、
「権利侵害行為地」の類型に「訴えられた意匠特許侵害製品の許
諾販売地」の内容を追加し、意匠特許侵害製品の許諾販売地の人民法院による管轄を
認めた30。
イ
出願日に応じた検索報告書又は特許権評価報告書の提出
第三次特許法改正は従来の「検索報告書」の表現を「特許権評価報告書」へと変更
した。また、かかる報告書を提出しうる特許類型に「意匠特許」を追加した。これを
受けて、規定は、出願日が 2009 年 10 月 1 日よりも前の実用新案について特許権侵害
訴訟を提起する場合、原告は特許行政部門が発行した検索報告書を提示することがで
き、出願日が 2009 年 10 月 1 日以降の実用新案又は意匠について特許権侵害訴訟を提
起する場合、原告は特許行政部門が発行した特許権評価報告書を提示することができ
る旨を定めた31。
ウ
特許権保護範囲の確定に関する条項の修正
第三次特許法改正は特許権侵害の判定に際して、特許権利者が主張した権利要求に
記載された全ての技術特徴を審査しなければならないとされていた。これを受けて、
規定も特許権の保護範囲の確定に関する条項を修正した 32。
28
29
30
31
32
公告第 9 条、第 10 条
《关于审理专利纠纷案件适用法律问题的若干规定》(法释[2015]4 号)
規定第 5 条
規定第 8 条第 1 項。なお、従来は、実用新案特許に関する検索報告書の提示についてのみ規定されていた。
規定第 17 条
6
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エ
特許権利侵害時の法定賠償金額の調整
第三次特許法改正は第 65 条第 2 項において、特許権利侵害時の最高法定賠償金額を
100 万元へと上方修正した。これを受けて、規定も損害賠償額を算定する際の考慮要
素等について相応の修正をした 33。
(2) 「中華人民共和国民事訴訟法」の適用に関する解釈34
最高人民法院
2015 年 1 月 30 日公布
同年 2 月 4 日施行
① 背景
2013 年 1 月 1 日から施行されている改正民事訴訟法では、多くの条文が修正された。
かかる改正に対応するため、最高人民法院は改正民事訴訟法の解釈作業に着手し、2 年
間かけて、
「『中華人民共和国民事訴訟法』の適用に関する解釈」
(以下「解釈」という。)
を最終的に完成させた。解釈は 2015 年 1 月 30 日に公布され、同年 2 月 4 日より施行さ
れている。
② 主な内容
解釈は合計 23 章、522 条からなり、最高人民法院史上、条文数が最も多い解釈とな
っている。注目すべき点は多岐にわたるが、今回は以下の 6 つの点について紹介する。
ア
立件審査制から登記制へと変更
解釈は人民法院が民事起訴状を受領した場合、起訴条件を満たすものに関しては登
記して立件しなければならず、その場で即時に起訴条件を満たすかどうかを判断する
ことができない場合は起訴資料を受け取り、受領日を明記した書面の証拠を発行しな
ければならないと規定した35。
イ
電子媒介に保存された情報の証拠採用
インターネット上のチャット記録、ブログ、微博(中国版ツイッター)、ショートメ
ッセージ、電子署名、ドメイン名等、電子媒介上で形成又は保存された情報を民事訴
訟における証拠とみなすことができると規定し、更に、視聴資料や電子データの具体
的な類型を明確にした 36。
ウ
少額訴訟に対する一審終審制の実施
解釈は、少額訴訟に対する一審終審制の実施を規定した 37。また、以下に規定する
金銭給付を目的とした案件について少額訴訟手続を適用するとした 38。
(a) 売買契約、借金契約、賃貸借契約に係る紛争
(b) 身分関係が明らかで、金額・時間・方法に関してのみ争いのある扶養費、養育費
に係る紛争
(c) 責任が明確で、金額・時間・方法に関してのみ争いのある交通事故に基づく損害
33
34
35
36
37
38
規定第 21 条
《关于适用〈中华人民共和国民事诉讼法〉的解释》(法释[2015]5 号)
解釈第 208 条第 1 項
解釈第 116 条
解釈第 271 条
解釈第 274 条
7
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賠償及びその他人身損害の賠償に係る紛争
(d) 水、電気、ガス、熱の供給契約に係る紛争
(e) 銀行カードに関する紛争
(f) 労働関係が明らかで、労働報酬・労災医療費・経済補償金又は賠償金額・時間・
方法についてのみ争いのある労働契約に係る紛争
(g) 労務関係が明らかで、労務報酬の金額・時間・方法に関してのみ争いのある労務
契約に関する紛争
(h) 不動産管理、電気通信等のサービス契約に係る紛争
(i) その他金銭給付に係る紛争
エ
公益組織による公益訴訟の提起
解釈は公益組織による公益訴訟の提起を認め、公益訴訟を提起する際の 4 つの要件
(明確な被告がいること、具体的な訴訟請求があること、公共の利益が損害を受けた
初歩的な証拠があること、人民法院の受理範囲と管轄範囲であること)を明確にした39。
オ
冒用訴訟、訴訟妨害等の処罰
訴訟参与者又はその他の者が他人になりすまして訴訟を提起し、又は訴訟に参加し
た場合や、証人が保証書にサインした後に虚偽の証言をして人民法院の案件審理を妨
害した場合等には、人民法院が情状に応じて過料、拘置等に処することができる旨が
規定された 40。
カ
専門家意見の当事者陳述としての擬制
解釈では、専門知識を有する者が専門的な問題に関し発表した意見は当事者の陳述
とみなす旨が規定された41。
(李成慧・中国弁護士
39
40
41
中城由貴・日本弁護士)
解釈第 284 条
解釈第 189 条
解釈第 122 条 2 項
8
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二.連載 中国企業法実務
第七弾:労働法(第 5 回/全 6 回)
第1回
2014 年 10 月号
労働契約
第2回
2014 年 11 月号
労働時間、休日・休暇
第3回
2014 年 12 月号
賃金、社会保険・福利
第4回
2015 年 1 月号
労働契約の終了
第5回
2015 年 2 月号
労務派遣
第6回
2015 年 3 月号
その他の問題
第5回
労務派遣
1.概要
本連載の第 5 回では、中国における労務派遣について紹介する。諸外国の労働市場とさ
ほど変わりはないが、高度経済成長期の中国では、長期雇用を前提とする労働関係が労働
者の流動を抑制し、このような企業への拘束が経済成長のネックになることが以前から指
摘されている。労務派遣は、労働市場に一定の柔軟性をもたらし、企業生産規模の拡大に
伴う労働者確保の需要に応えつつ、企業の負担を固定化させないメリットがある。
2008 年 1 月 1 日に施行された中華人民共和国労働契約法(以下「旧労働契約法」という。)
42
及び同年 9 月 18 日から施行された労働契約法実施条例 43では、労務派遣に関する特別規
定が設けられており、中国で労務派遣の利用を規制する初期段階の法令となった。
その後、2012 年には労働契約法の改正44(以下、当該改正後の労働契約法を「新労働契
約法」という。)に伴って、労務派遣の利用がより合理化され、実務で活用されやすいもの
となった。新労働契約法の労務派遣に関する内容をさらに具体化・規範化するため、人力
資源社会保障部が、2013 年 6 月 20 日に労務派遣行政許可実施弁法 45(以下「実施弁法」と
いう。)を公布した。実施弁法の公布・施行により、労務派遣業は、人力資源社会保障行政
部門から行政許可を取得しなければ従事できない許認可事業であることが明確になった。
さらに、人力資源社会保障部は、昨年 1 月 24 日に労務派遣暫定規定 46(以下「暫定規定」
という。)を公布し、労働契約法の改正に伴う派遣労働者の使用に関連する法規則をさらに
明確化した。
本稿では、外商投資企業を含む一般企業による労務派遣の活用方法及び留意点について、
中国の労務派遣制度の関連法令を紹介すると同時に、中国で労務派遣業を経営する場合の
法規制、外資参入の可能性を検討し、労務派遣制度の改正により利用のハードルが高くな
った労務派遣制度以外の労働者の使用形態にも触れる。
42
43
44
45
46
《中华人民共和国劳动合同法》(主席令第 65 号)
《中华人民共和国劳动合同法实施条例》(国务院令第 535 号)
《中华人民共和国劳动合同法(2012 修订)》(主席令第 73 号)
《劳务派遣行政许可实施办法》(人力资源和社会保障部令第 19 号)
《劳务派遣暂行规定》(人力资源和社会保障部令第 22 号)
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2.労務派遣の利用
(1) 労働契約法の改正
① 旧労働契約法における労務派遣の関連規定
2008 年から施行された旧労働契約法では、派遣会社、派遣労働者及び派遣労働者受入
企業との間の労務派遣に関する一部の特別規定 47が設けられており、企業による派遣労
働者の使用について、労務派遣契約、派遣労働者受入企業の義務、労務派遣が適用され
る職種等が定められている。
ア
労務派遣契約
企業が労務派遣を使用する際に締結しなければならない労務派遣契約について、同
契約において派遣の職種、派遣労働者の人数、派遣期間、報酬及び社会保険料の金額
並びに支払方法及び違約責任を定めることが求められている48。
イ
労務派遣の使用人の義務
旧労働契約法第 62 条では、派遣労働者受入企業には、(a)国の労働基準に従い、相
応する労働条件及び保護措置を提供すること、(b)派遣労働者に業務の内容及び報酬を
通知すること、(c)残業代、業績連動型ボーナスを支払い、職務に関連する福利厚生を
提供すること、(d)在職中の派遣労働者に職務上必要なトレーニングを行うこと、(e)
連続して派遣を受ける場合、通常の賃金調整制度を適用することが求められ、派遣労
働者を他の企業に再派遣できない旨も定められている。
ウ
派遣労働者の「同工同酬」(同一労働同一報酬)原則等
旧労働契約法では、派遣労働者が、使用人の一般従業員と同様の業務に従事する場
合、同様の報酬を得る権利を有するとされ 49、労務派遣は、臨時的、補助的又は代替
的な職種で実施するとされていた 50。
② 新労働契約法の改正点
2012 年 12 月 28 日に改正され、翌年 7 月 1 日に施行された新労働契約法では、派遣労
働者の使用について旧労働契約法第 63 条(労働報酬の支払基準)、第 66 条(労務派遣の
実施範囲)の内容を拡充した。
新労働契約法では、上記①「ウ」で説明した「同工同酬」について、労務派遣企業と
被派遣労働者との労働契約及び派遣会社と派遣労働者受入企業との労務派遣契約に記載
され、又は約定される労働報酬は、当該原則に適合しなければならない旨が定められて
いる51。
新労働契約法では、労務派遣を利用できる条件がより詳細に定められている。同法に
よれば、労働契約による雇用は、中国企業の基本的な労働者雇用形態であり、労務派遣
による労働者の雇用は補充形態であり、臨時的、補助的又は代替的な職務においてのみ
47
48
49
50
51
旧労働契約法第 57 条ないし 67 条、第 74 条第 3 号、第 92 条
旧労働契約法第 59 条第 1 項
旧労働契約法第 63 条
旧労働契約法第 66 条
新労働契約法第 63 条第 2 項
10
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実施することができる 52。また、同法は、「臨時的、補助的、代替的な職務」について、
それぞれ、存続期間が 6 か月を超えない職務(臨時的な職務)、主要業務を行う職務のた
めにサービスを提供する非主要職務(補助的な職務)、派遣労働者受入企業の労働者が職
務を離れて学習し、又は休暇を取得するなどの理由により就業することのできない一定
の期間内において、他の労働者が業務を代替することができる職務(代替的な職務)と
定義している53。
(2) 労務派遣暫定規定
労働契約法の改正を受け、人力資源社会保障部は、2013 年 8 月に労務派遣若干規定
(パブリックコメント稿) 54を公布した。同部は、パブリックコメントの募集及びその
後のコメント稿に対する修正及び審議を経て、2014 年 1 月に労務派遣暫定規定を公布し
た。
① 労務派遣の利用制限
暫定規定は、派遣労働者の使用範囲について、新労働契約法で規定されたとおり、臨
時的、補助的又は代替的な職務においてのみ、派遣労働者を使用できると定めている55。
「臨時的、補助的、代替的な職務」の定義は、新労働契約法のそれらとほぼ一致してい
るが、
「補助的な職務」の決定は、従業員代表大会又は従業員全体の討議を経て、方案及
び意見を提出し、工会(労働組合)又は従業員代表と平等に交渉して確定し、企業内で
公示しなければならない旨が追加されている 56。また、これらの職務で使用される派遣
労働者の人数は、派遣労働者受入企業が労働契約を締結している労働者と派遣労働者を
合計した労働者数の 10%を超えてはならないとされている57。
② 労務派遣契約の内容、派遣労働者を派遣会社に戻す事由
暫定規定では、派遣会社と派遣労働者受入企業の間で締結される労務派遣契約書の内
容について、以下の事項を明記しなければならないと規定されている58。
(a) 派遣職務の名称とその性質
(b) 勤務場所
(c) 派遣労働者の人数と派遣期限
(d)「同工同酬」の原則に基づいて確定された報酬金額と支払方法
(e) 社会保険料の金額と支払方法
(f) 勤務時間と休憩・休暇に関する事項
(g) 派遣労働者の労災、出産、罹病期間の待遇
52
53
54
55
56
57
58
新労働契約法第 66 条第 1 項
新労働契約法第 66 条第 2 項
《劳动派遣若干规定(征求意见稿)》(人力资源和社会保障部)
暫定規定第 3 条第 1 項
暫定規定第 3 条第 3 項
暫定規定第 4 条第 1 項
暫定規定第 7 条
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(h) 労働安全衛生及び研修
(i) 経済的補償等の費用
(j) 労務派遣契約の期限
(k) 労務派遣サービス料の支払方法と基準
(l) 労務派遣契約違反時の責任
(m) 法律、法規、規則により労務派遣契約に盛り込むべきその他の事項
また、暫定規定では、派遣労働者を派遣会社に戻すことができる状況について、以下
の 3 つの事由を挙げている59。
(a) 派遣労働者受入企業に労働契約法第 40 条第 3 号 60又は第 41 条 61に規定される状況
がある場合
(b) 派遣労働者受入企業が法に従い破産宣告され、営業許可証が取り消され、閉鎖を
命じられ、抹消され、経営期間満了前の解散を決定し、又は経営期間満了に伴い
経営を継続しないと決めた場合
(c) 労務派遣契約が期間の満了により終了した場合
③ 地域をまたぐ労務派遣の社会保険
地域をまたぐ労務派遣の場合、原則として派遣会社が派遣労働者受入企業の所在地に
分支機構を設立し、派遣労働者の保険手続を行い、社会保険料を納付する運用となって
いるが、派遣会社が派遣労働者受入先企業の所在地に分支機構を設立していない場合、
派遣労働者受入企業が派遣会社に代わって派遣労働者のために社会保険の加入手続を行
い、社会保険料を納付することになっている 62。
④ 法的責任
暫定規定において、派遣労働者受入企業が「補助的な職務」の決定手続に関する規定63
に違反した場合、人力資源社会保障行政管理部門が是正を命じ、警告するとされており、
派遣労働者に損害が生じた場合は、法に従い損害賠償の責任を負担するとされている64。
派遣労働者受入企業が、上述した暫定規定第 12 条(派遣労働者を派遣会社に戻す事由に
関する規定)に違反し、派遣労働者を派遣企業に戻した場合、労働契約法第 92 条第 2
項の規定に従い、人力資源社会保障行政管理部門は、派遣労働者受入企業に是正を命じ、
期限を過ぎても是正しない場合は、1 人につき 5,000 人民元以上 10,000 人民元以下を基
準として過料に処する。さらに、派遣労働者に損害を与えた場合、派遣労働者受入企業
59
暫定規定第 12 条
労働契約の締結時に根拠とした客観的状況に重大な変化が生じたことにより、労働契約を履行することが
できなくなり、使用者と労働者が協議を経ても、労働契約の内容の変更について合意に達することができな
い場合。
61
企業破産法の規定に従い会社再生を行う場合や、生産経営に重大な困難が発生した場合等。
62
暫定規定第 19 条
63
暫定規定第 3 条第 3 項
64
暫定規定第 22 条
60
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が派遣会社と連帯して賠償責任を負う65。
(3) 労務派遣利用時の留意点
新労働契約法、労務派遣暫定規定の公布・改正公布により、企業による労務派遣労働
者使用時の留意点も少しずつ明確化している。中国で労務派遣を利用する際に、派遣労
働者の職務は、あくまでも「臨時的」、「補助的」又は「代替的」なものに限られ、これ
らの職務に使用される派遣労働者の人数は、派遣労働者受入企業の総労働者数の 10%を
超えてはならない点に特に留意する必要がある。
また、中国では外商投資企業(外商独資企業、中外合弁企業、中外合作企業)、外国企
業の駐在員事務所による従業員の採用にも一定の制限があることについても留意が必要
である。外商投資企業が外国籍従業員を採用するにあたって、当該従業員は居留証、就
業証等を取得する必要があるが、労務派遣制度の利用の要否に関する規定はない。一方、
外国企業駐在員事務所は状況が異なるため注意が必要である。すなわち、外国企業駐在
員事務所は、法人格がないため従業員を直接雇用できず、中国政府が指定する派遣会社
から労務派遣を受ける形式の間接的な雇用形態でなければならない 66。この場合、通常
の労務派遣と異なるため、派遣労働者の職務を「臨時的、補助的又は代替的な職務」に
限る旨の制限及び派遣労働者の人数が「労働者数の 10%を超えてはならない」旨の制限
を受けない 67。
3.労務派遣業の経営
(1) 労務派遣行政許可実施弁法
新労働契約法では、労務派遣業務を営むには、労働行政部門に対して法により行政許
可を申請しなければならず、許可を得た場合、法により相応の会社登記の手続を行わな
ければならず、いかなる単位及び個人も許可を得ずに労務派遣業務を営んではならない
とされている68。人力資源社会保障部は、新労働契約法第 57 条第 2 項の規定に基づき、
実施弁法を公布し、労務派遣の業務を営む全ての企業が、行政許可を取得する必要があ
ると規定している。実施弁法の公布・施行により、労務派遣市場への参入は従前よりハ
ードルが高くなったものの 69、これまで規律が明確化されていなかった労務派遣市場に
おける参入許可制の導入は、派遣労働者の不満を解消し、健全な労務派遣市場の形成に
大いに寄与するものと期待されている。
65
暫定規定第 24 条
「外国企業常駐代表機構の管理に関する暫定規定」(住宅の賃借、職員の雇用)第 11 条によれば、常駐代
表機構が住宅を賃借し、職員を雇用するときは、当該地の渉外サービス単位又は中国政府が指定するその他
の単位に委託しなければならない。
67
「労務派遣暫定規定」第 25 条によれば、外国企業常駐代表機構及び外国金融機構駐中国代表機構等が派遣
労働者を使用する場合、並びに船員の派遣労働者受入先企業が労務派遣の方式にて国際遠洋船員を使用する
場合、臨時的、補助的又は代替的な職務及び労務派遣による労働者使用の割合に係る制限を受けない。
68
新労働契約法第 57 条第 2 項
69
旧労働契約法第 57 条では、派遣会社の登録資本金が最低 50 万人民元と定められていたのに対し、新労働
契約法第 57 条及び「労務派遣行政許可実施弁法」第 7 条では、最低 200 万人民元と定められている。
66
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① 労務派遣企業経営の条件及び申請書類
実施弁法では、労動派遣業務経営の申請条件について、(a)登録資本金が 200 万人民
元を下回らないこと、(b)業務の経営に相応しい固定の経営場所及び施設を有すること、
(c)法律、行政法規の定めに合致する労務派遣管理の制度を有すること、(d)法律、行政
法規が定めるその他の条件の 4 つが定められている70。
また、実施弁法によると、労務派遣経営許可を申請するにあたり、申請者は、(a)労務
派遣経営許可申請書、(b)営業許可証又は「企業名称事前確認通知書」、(c)会社の定款及
び出資検査機構が発行する出資検査報告又は財務監査報告、(d)経営場所の使用証明及び
業務の経営に相応しい施設・設備、情報管理システム等のリスト、(e)法定代表者の身分
証明、(f)労働契約、労動報酬、社会保険、勤務時間、休憩休暇、労動規則等の労働者自
身の利益に関係する規則、制度の文章を含む労務派遣管理制度、及び派遣労働者受入企
業と締結する予定の労動派遣契約のサンプルといった資料を提出する必要がある71。
② 労務派遣経営許可証
実施弁法によれば、申請人の申請が法定の条件に合致する場合、許可機関は、法に従
い行政許可を与える書面決定を行い、かつ決定を行った日から 5 営業日以内に、申請人
に「労務派遣経営許可証」を受領するよう通知しなければならない 72。
また、実施弁法によれば、当該「労務派遣経営許可証」には、単位の名称、住所、法
定代表者、登録資本金、許可経営事項、有効期間、番号、許可証発行機関及び許可証発
行日等の事項を記載しなければならず73、同許可証の有効期間は 3 年とされている74。
さらに、実施弁法では、許可機関又はその上級行政機関による労務派遣行政許可の取
消事由について、(a)許可機関の職員が職権を濫用し、職務を怠り、条件に合致しない申
請人に許可証を発行した場合、(b)法定の職権を超えて許可証を発行した場合、(c)法定
の手続に違反して許可証を発行した場合、(d)法に従い行政許可を取り消すことができる
その他の事由の 4 つの事由が挙げられている 75。
③ 労務派遣企業の報告義務、法的責任等
実施弁法によれば、派遣会社は、毎年 3 月 31 日までに許可機関に前年度の労務派遣
状況の報告書を提出しなければならず、報告書には、(a)経営状況及び前年度の財務監査
報告書、(b)派遣労働者の人数及び労働契約締結の状況、工会(労働組合)への参加状況、
(c)派遣労働者への労動報酬の支払状況、(d)派遣労働者による社会保険の加入、及び社
会保険料納付の状況、(e)派遣労働者受入企業、派遣数、派遣期間、職種の状況、(f)派
遣労働者受入企業と締結する労務派遣契約の状況及び派遣労働者受入企業による法定義
70
71
72
73
74
75
実施弁法第 7 条
実施弁法第 8 条
実施弁法第 13 条第 1 項
実施弁法第 14 条第 1 項
実施弁法第 14 条第 2 項
実施弁法第 24 条
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務の履行状況、(g)子会社、分公司設置の状況といった内容を含む必要がある 76。
管理弁法は、許可を得ずに無断で労務派遣業務を経営した場合のいわゆる無許可経営
について、人力資源社会保障行政部門が違反者に対して違法行為の停止を命じ、違法所
得を没収し、併せて違法所得の同額以上 5 倍以下の過料に処し、違法所得がないときは、
5 万人民元以下の過料に処することができる 77等の行政処罰を定めている。
(2) 労務派遣業への外資参入に関する検討
外国資本による労務派遣業の参入可否について、中国の外資規制の政策を検討する必
要がある。中国では、外国資本による特定分野への投資の可否及び参入が認められる場
合に許容される参入の程度については、「外商投資産業指導目録」(以下「指導目録」と
いう。)で、分野ごとに詳細な規定が設けられている。また、全国他の地区の規定と異な
る一部の自由貿易試験区(上海自由貿易試験区等。以下「自貿区」という。)では、試験
区外の外資政策と異なる政策が試行されていることがあるため留意が必要である。
以下、全国及び自貿区における外資による労務派遣業への参入の可能性について分析
する。
① 外資による労務派遣業の参入の可能性(全国)
「賃貸及び商業サービス業」の
現時点において最新の指導目録(2011 年改定)78では、
分類に属する人材資源サービス業は、外商投資の奨励類産業と分類されている。一般的
な解釈としては、人材資源サービス業には、労務派遣業、人材仲介業及び職業紹介業が
含まれると思われるが、現行の法規定では、外資による労務派遣業への参入は明確にさ
れていない。実務上、中外合弁の派遣会社は、稀ではあるが存在している一方で、外商
独資の派遣会社は殆ど見られないため、一部の専門家の中でも、外商独資の労務派遣企
業は設立できないとの見解が存在する。
しかし、(a)指導目録又は他の関連法令が外商独資の派遣会社の設立を明確に禁止して
いないこと、及び(b)人力資源社会保障部が公布した「労務派遣行政許可管理弁法(パブ
リックコメント稿)」では「外商投資企業が労務派遣業務を申請する場合、中国国内の派
遣会社と合弁経営するものとし、外商独資の派遣会社の設立を禁止する」との規定(第
32 条)があったのに対し、管理弁法の正式版では当該規定が削除されたという経緯等に
鑑みると、中国で外商独資の派遣会社の設立は可能であると思われる。
この点について、北京市及び上海市の人力資源社会保障局の労働関係課へ問い合せた
ところ、両市の人力資源社会保障局労働関係課からは、外商投資企業(中外合弁又は外
商独資)であることを理由に労務派遣経営許可証を発行しないことはないという明確な
回答を得た。もっとも、現時点で外資による労務派遣分野の進出事例は少なく、各地の
所轄官庁ごとに申請手続に一定の差異が生じる可能性は否定できない。そのため、派遣
会社の設立を検討する場合、設立までの一連の手続について、企業設立予定地の商務主
76
77
78
実施弁法第 22 条
実施弁法第 31 条
《外商投资产业指导目录(2011 年修订)》(国家发展和改革委员会、商务部令第 12 号)
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管部門、工商管理局及び人力資源社会保障管理部門に事前に問い合わせることが望まし
い。
② 上海自由貿易試験区の状況
中国(上海)自由貿易試験区外商投資参入特別管理措置「ネガティブリスト(2014 年
改正)」では、外資人材仲介機構の設立(「L リース及び商業サービス業/L72 商業サー
ビス/117」)について一定の制限を設けているが、外資労務派遣業への参入に関する規
制はない。このため、自貿区は、上記①で説明した「外資による労務派遣業の参入」と
同様の状況にあると思われる。
4.結び
本稿は、中国の旧労働契約法、新労働契約法、労務派遣暫定規定、労務派遣行政許可実
施弁法の解説を通じ、中国における労務派遣の使用、労務派遣業の経営、外資による労務
派遣業の参入について、法的な観点から分析を展開したものである。労務派遣は、あくま
でも通常の雇用形態の補充と位置付けられているものの、労働法上の同制度設計が一部の
派遣労働者受入企業に悪用された過去の苦い経緯があるため、今日の中国における労務派
遣の制度は、派遣労働者の権利保護に傾いた制度改正が着実に進んでいる。
[応用編]
企業の製造現場ではコスト節約のために、派遣労働者を使用するケースが多く、派遣労
働者を企業の主要活動である生産活動に従事させるケースが多く見られている。昨年に公
布・施行された「労務派遣暫定規定」において、労働派遣の職務で使用する派遣労働者の
人数は派遣労働者受入企業の労働者総人数の 10%を超えてはならず、これらの使用は「臨
時的」、
「補助的」又は「代替的」な職務に限る等の規制が導入された。これにより、中国
国内で派遣労働者を活用している製造業者は、雇用政策の転換という問題に直面せざるを
得なくなった。厳格に法に従って労務派遣を活用する場合には企業の生産活動及びその変
動に対応しきれないおそれがある一方、派遣従業員の雇用形態を直接雇用に切り替えた場
合、企業は退職時の経済的補償金が発生するリスクを抱えることとなる。
昨年、暫定規定が公布・施行された後、一部の製造企業が上記の法的リスクを回避する
手段として、労務派遣を製造請負又はアウトソーシング等に切り替える動きが見られる。
しかし、暫定規定の附則において、「派遣労働者受入企業が請負、アウトソーシング等の
名義で、労務派遣の方式により労働者を使用する場合、本規定に基づき処理する。」(第
27 条)旨が定められていることもあり、請負又はアウトソーシングによる労働力の利用
に対するルールが明確化されていない現状では、労務派遣に対する法的規制を回避する目
的での請負やアウトソーシングの利用には、一定のリスクがあり、注意が必要である。
(莊凌云・中国弁護士)
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三. 中国法務の現場より
海外駐在者が一時帰国した際の免税措置
今年の春節期間に日本を訪れた中国人観光客は約 45 万人、日本での消費額は合計 60 億
元(約 1125 億円)に上ったという。一人当たりの支出額が平均約 25 万円というから、そ
の旺盛な消費意欲には驚くばかりであるが、これからも多くの観光客に日本を訪れてもら
い、日本経済へ大いに貢献して頂きたいと思う。
中国人観光客の消費熱には到底及ばないが、私のような中国駐在者が日本に帰国した際
の楽しみの一つがショッピングである。折からの円安-元高の影響で、日本では何もかも
が安く感じられるが、さらに、一定の要件を満たす海外赴任者が一時帰国した際には、日
本人であっても「非居住者」として消費税の免税措置が受けられる場合がある。
消費税法第 8 条によると、「輸出物品販売場」(いわゆる免税店)が「非居住者」79に
対して特定の物品を販売した場合には消費税が免除される。都心の家電量販店やデパート
には免税店の許可を受けた店舗が多く、中国駐在者の場合、通常、免税店の免税カウンタ
ーにパスポートを持参して入国印と居留許可を提示すれば「非居住者」と認定してもらえ
るようである。
また、2014 年 10 月の消費税法施行令の改正によって、従来は「消耗品以外のもの」(電
化製品など)かつ 1 万円超の物品に限定されていた免税対象品が、「消耗品」(食品、医
薬品、化粧品等)で同一の非居住者に対する同一店舗における 1 日の購入額が 5000 円~50
万円までの物品にまで拡大された。中国駐在者の中には、帰国時に、レトルト食品や医薬
品、コスメ製品をまとめ買いする方も少なくないと思われるが、免税店で 5000 円以上買え
79
「非居住者」に該当する日本人は、①外国にある事務所(日本法人の海外支店等、現地法人、駐在員事務所
及び国際機関を含む)に勤務する目的で出国し外国に滞在する者、②2 年以上外国に滞在する目的で出国し外
国に滞在する者、③①及び②に掲げる者のほか、日本出国後、外国に 2 年以上滞在するに至った者、④①か
ら③までに掲げる者で、事務連絡、休暇等のため一時帰国し、その滞在期間が 6 か月未満の者、をいう(外
国為替及び外国貿易法第 6 条第 1 項第 6 号、「輸出物品販売場制度に関するQ&A」[国税庁消費税室平成 26
年 8 月 http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/shohi/menzei/pdf/05.pdf])
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ば消費税 8%が免税になるというのはかなりお得だと言えよう。
なお、免税店で購入した際に、免税カウンタ
ーで、「購入したものを日本で消費せず 30 日
以内に国外に持ち出す」旨の誓約書を提出した
後、購入した消耗品は所定の包装に入れられた
上で開封時に開封したことが表示される特殊
なテープで封印される。また、「購入記録票」
というレシートのような紙がパスポートに張
り付けられるので、出国前に税関(空港の出国
審査場付近にカウンターがある)に立ち寄って
この紙を外してもらう必要がある。欧州諸国とは異なり、実務上、日本の税関で、消耗品
の消費の有無を目視確認されることはほとんど無いようだが、仮に包装を開けて、日本国
内で「消耗品」を消費してしまった場合は、法令上、税関で消費税相当額が徴収されるこ
とになるのでご注意頂きたい。
(野中信孝・弁護士)
TMI 中国最新法令情報―2015 年 2 月号―
発
行:TMI 総合法律事務所
監
修:何連明・外国法事務弁護士
編集主幹:山根基宏、中城由貴・弁護士
発 行 日:2015 年 2 月 28 日
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