序章 本書のタイトルに込めた意味 序章 本書のタイトルに込めた意味 ■成功率は 50%? 「わが町で地域ブランドを創ろう!」と思い立つグループや機関は全国 にとてもたくさんあると推測されます。マスコミでよく取り上げられる 「B−1グランプリ」には、全国から 60 を超えるご当地グルメで町興 しに取り組む団体が出展し、60 万人近くの来場者があるそうです。多 くの団体が自慢のご当地グルメを発表し、多数の来場者がその魅力の刺 激を受ける―「よし、わが町でも取り組んでみよう!」という気持ち が湧き起こるグループや機関がたくさん出てきても全く不思議ではあり ません。 言うまでもなく、地域ブランドというのはご当地グルメに限らず、農 水産一次産品(米、生肉など)、加工食品(調味料、調理品、菓子、レトルトなど)、 工業製品(伝統工芸品など)、観光(温泉地など)、酒類等々、多岐にわたり ます。物品だけでなく役務(サービス) も含まれます。それだけ地域ブ ランド創りに取り組む人の数も多いと想像できます。 ですが、その中でどれだけのグループ・機関が、地域資源を活用した 新しい地域ブランド創りに成功しているでしょうか? 1 つ興味深い数値を挙げましょう。一定の条件を満たす地域ブランド に国が知的財産権を認める「地域団体商標」という制度があります。こ の地域団体商標の登録率(出願数に対する登録数の割合)を計算したところ、 全国平均で 53.4%でした(平成 26 年 6 月現在。㈱リベルタス・コンサルティ ング算定)。つまり、単純に言えば、出願された「地域ブランド」予備軍 のうち、実際に国の承認を得ることができているのは(単なる承認待ち状 態の案件も含まれますが)半分程度だということです。 地域団体商標に登録するには、本書第 章 で解説するように、「商標 6 構成」 「主体要件」 「周知性」といった条件を満たす必要があります。私 たちが見る限りでは、地域ブランドに育て上げたい商品やサービスは決 まっているものの、主体要件(産地関係者の多数が加盟する組織の存在) と 周知性(統一ブランド名で地元都道府県及びその隣接県に出荷・販売している実 序章 態があること)を十分に満たすことができず、地域団体商標の登録にまで 到達できないケースが少なくないようです。 ブランドがあればいいのだ」と主張する人もいるでしょう。私たちもそ れを頭から否定はしません。ですが、そもそも、上記の「主体要件」と「周 知性」を満たすことができないような商品・サービス―産地関係者の 多数の参加・承認を得ておらず、地元とその周辺で買い求められていな いもの―を「これがわが町の地域ブランドです」と胸を張って言える だろうかという、根本的な疑問が残ります。 誰からも地域ブランドと認めてもらえる商品・サービスを本気になっ て創りたい―そういう意欲を持ち、諸課題に真正面から取り組んでい こうと考えている人々に読んでいただくために、このガイドブックは作 成されました。 ■「ずっと続けていくこと」≒ 成功 私たちは、東北地域をはじめとする各地の地域ブランドの実践例を見 聞きしたり、実際に参画したりする中で、1 つの確信めいたものを持つ に至りました。それは、「地域ブランド創りにおいて絶対に成功する秘 策というものは無い」ということです。 そ ん な 秘 策 が あ る く ら い な ら、 上 述 の 地 域 団 体 商 標 の 登 録 率 は 100%になっているはずです。地域によって事業環境が異なり、地域ブ ランドの素材が異なり、推進母体の形態も様々です。 また、何よりも、地域によって目指したいビジョン(成功のイメージ) が異なるはずです。産業振興、雇用創出、地域への愛着・誇りの増進、 食育、定住者の増加などなど…様々なビジョンがあることでしょう。ど こにターゲットを置くかで取るべき戦略も違ってきます。 7 本書のタイトルに込めた意味 「地域団体商標に登録できたかどうかは関係ない。地元が誇れる地域 従って、 地域ブランド創りではケースバイケースの対応が基本であり、 必要なアクションも地域によって違います。ですので、成功に向けた唯 一の処方箋というものはおそらく存在しないのです。 そのように考えたとき、私たちは、もう 1 つの確信めいた結論に到 序章 達しました。それは、 「ずっと続けていくことが、“ほぼ成功”だ」とい うことです。上述のとおり、地域ブランド創りにおいて唯一の処方箋と 本書のタイトルに込めた意味 いうものはありません。よって、 「どうすれば成功しますか?」という 問いに正確にお答えすることは非常に難しいと言わざるを得ません。 しかしながら、 「どうすれば挫折せずに続けていくことができます か?」という問いには、どうにか回答することができそうな気がします。 なぜなら、 「ブランド」とは本質的に「続けること」だと言っても過言 ではないからです。 後段で説明しますが、私たちは、地域ブランドを基本的に次のように 定義しています。すなわち、 『地域独自の価値を込めた商品やサービス の提供を通じて、その価値を求める顧客の期待と信頼に永遠に応え続け ることにより、一定の収益性と地域還元効果を実現している、地域資源 及び知的資源を結集した事業プロジェクト』 。 「永遠」というと大げさに聞こえるかもしれませんが、皆さんの身の 回りで「ブランド」と呼ばれているものの大半は、常に顧客のニーズに 真剣に応える努力を怠っていないはずです。それに対する信頼を顧客か ら勝ち取っているからこそ、選ばれ続ける。さらに選ばれていくため、 さらにブランド価値に磨きをかける努力を続ける―こうした努力と信 頼の好循環を永続化しているものが、すなわちブランドなのです。そし て、 「地域ブランド」とは、こうした努力を地域(産地)レベルで実践す ることで産み出される価値の結晶体と言えましょう。 このように考えると、私たちが「ずっと続けていくことが、“ほぼ成 功”だ」と確信する理由を理解していただけると思います。地域(産地) として明確なビジョン(成功イメージ)を持ち、そこに向かって突き進ん で行くことはもちろん大事なことですが、最終的な成功のことばかり考 えるのではなくて、そこに辿り着くまでの道のりを着実に進んでいくた 8 めのやり方の考案や仕組みの構築に知恵を絞り、一所懸命に実践するこ との方がより大切であり、この点に周到に対応した地域こそが、結果的 に最終的に目指す“成功”により早く近づくことができる―私たちは そのように考えています。 序章 世の中で「企業ブランド」や「地域ブランド」と呼ばれるものの多くは、 独自の個性に加え、ブランド価値を磨き上げてきた長い歴史を持ってい たいと願っても、それは 5 年、10 年あるいは 100 年先のことかもし れません。そうであれば、ちょっと肩の力を抜いて「楽しみながら粘り 強く取り組んでいくぞ」との思いを胸に秘めつつ、「どうしたらヘコた れずに続けていけるだろうか」という点を具体的に考えてみませんか? 本書を読めば、私たちがこだわる「ずっと続けていくこと」の具体的 な実践方法についてのヒントをつかんでいただくことができるはずで す。 本書のタイトルを『地域ブランドの創り方―ずっと続けていくため の実践ガイド』としているのも、以上のような私たちのこだわりがある からなのです。 ■5つのキーワード 上述の「ずっと続けていくこと」を実現するための要件として、この ガイドブックでは「5 つのキーワード」を示します(第 章で詳述)。 5 つのキーワードとは、 「産地ビジョンの策定」「推進母体の構築」「ブ ランド価値の定義」 「情報発信と販路設定」 「周到な知的財産活動」です。 これらの要素をバランスよく備え、有機的に機能させることが肝要です。 本書では、これらのキーワードのほかに、地域ブランドの基礎知識や 地域ブランドを取り巻く近年の状況に関する解説(第 章)や、地域ブ ランド創りの過程においてぶつかりがちな壁(課題)と、それへの対処 方法(第 章)についても言及します。いずれも私たちの実践経験に根 差した知見、あるいはこれまでに協働してきた多くの専門家の方々から ご教示いただいた知見です。 9 本書のタイトルに込めた意味 ます。それだけブランド創りには時間を要するということです。成功し さあ、素敵な(でもけっこう厳しい)地域ブランド創成の世界へと、一緒 に進んで行きましょう! ■ POINT ■ 序章 ■地域ブランド創りにおいて絶対に成功する秘策というもの は無い。ケースバイケースの対応が基本であり、必要なア 本書のタイトルに込めた意味 クションも地域によって違う。 ■地域ブランドについては「ずっと続けていくことが“ほぼ 成功”だ」と言うことができる。なぜなら、“ブランド” とは顧客からのニーズや信頼にずっと応え続けることだか ら。 ■地域ブランド創りは時間を要する。であればこそ、「楽し みながら粘り強く取り組んでいくぞ」との思いを胸に、 「ど うしたらヘコたれずに続けていけるだろうか」という点を 具体的に考えよう。 ■地域団体商標の登録率グラフ■ ■地域団体商標の登録率(出願数に対する登録数の割合) 北海道 59.1% 東 北 42.9% 関東甲信越 46.3% 北 陸 71.2% 東 海 57.7% 近 畿 50.2% 中 国 58.3% 四 国 69.4% 九州・沖縄 54.8% 全 国 53.4% 0 10 20 30 40 50 60 70 注:特許庁公表データに基づき㈱リベルタス・コンサルティング作成 平成 26 年 6 月 23 日現在 10 80 (%)
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