2.SMC金融・経済マーケットレポート (2015.1.24第730号)追加

SMC金融・経済マーケットレポート
ReporterYourFinancialBrain SMC 豊島 健治
魁か、それとも鬼っ子か
(わが道をゆく地銀)
昨年12月20日のレポート「データが指し示
す先」で、3つのデータを選んで地域金融機関の
厳しい状況をお伝えしましたが、その翌週、日経
新聞が「銀行-稼ぐ力-消失の危機」という見出し
記事で、銀行の稼ぐ力の目安である「総資金利鞘」
が限りなく縮小し、それが地方銀行の再編を促し
ていることを伝えていました。端無くも同じ趣旨
の記事だったので丁寧に読んだのですが、記事の
中に「総資金利鞘上位・下位行ランキング」が出
ていて、上位トップにスルガ銀行があることが目
を引きました。総資金利鞘 1.30%で2位の三井住
友銀 0.61%を押さえ断トツの1位です(ちなみに、
千葉銀は9位で 0.40%、利鞘がマイナスの銀行も
11行あった)。その時、昔「スルガ銀行ソフト
バンク支店」というレポートを書いたことを思い
出し、何時ごろ書いたのか調べてみたら 2000 年 5
月でした。14 年以上前ですが、改めて読み直して
みました。そして、もう一度スルガ銀行を調べて
みようと思い立ちました。
14年前のレポートでは、スルガ銀行の当時の
株価が全銀行中トップであることに着目し、その
理由を探ったものです。株価を押し上げている理
由として、①立って受付する窓口業務等顧客目線
でユニークな施策を実施している、②株式を外国
人投資家に売り出すなど既存銀行とは真逆の株式
流動化策をとっている、そして③ネット上にスル
ガ銀行ソフトバンク支店を立ち上げ全国を視野に
営業する作戦に出ている、の3点を挙げていまし
た。地銀としては珍しく独自性の強い経営をして
いる様子が伺えたわけですが、調べてみると、そ
の後もその独自性を磨いて現在の「総資金利鞘ト
ップ」地銀となっているようです。
静岡県には、堅実経営で鳴る静岡銀行がありま
す。取引層の厚さや規模の面では全く歯が立たな
い存在な筈ですが、先ず両者を数値で比較してみ
たのが下表です。(単位:%)
スルガ銀行
静岡銀行
貸出利回
貸出利回
利鞘
利鞘
1.66
0.50
3.26
1.09
23/3 期
1.56
0.47
3.22
1.15
24/3 期
1.46
0.40
3.29
1.24
25/3 期
1.33
0.43
3.38
1.31
26/3 期
(註:利鞘=総資金利鞘)
いかがでしょうか。貸出利回りが全然違います。
加えて、静岡銀も他の銀行と同様に貸出利回りが
下がっていますが、スルガ銀は若干ながら上がっ
ています。結果として利鞘も拡大しています。静
岡銀の預金量は 8.2 兆円、貸出残は 7.2 兆円に対
し、スルガ銀のそれは、3.8 兆円、2.8 兆円です。
倍以上の差がありますが、実質利益を表す業務純
益は、静岡銀が 647 億円、スルガ銀が 475 億円で、
時系列で追うと徐々に差が詰まっている姿が浮か
び上がります。両行の違い、スルガ銀と他の銀行
の違いはどこにあるのでしょうか。
数値を追っている内に解ってきたことがありま
す。それは個人(家計)への取り組みの違いです。
スルガ銀行は預金残高の 70%以上が個人で、貸出
残高の 85%が個人向けです。静岡銀行のそれは分
かりませんが、ずっと低いと思います。特に貸出
に占める個人の割合は他の銀行と比べて突出して
高いと思います。14年以上前から「法人向け貸
出で静銀と争ってもとても敵わない、であれば個
人(家計)向けで戦おう」と、個人向け融資をせ
っせと磨いてきた結果が今になっていると私は見
ました。実際同行のHPを覗いてみると、既にソ
フトバンク支店はなくなっていましたが、ネット
支店が14支店もあり、様々な個人・家計向けサ
ービスが展開され、普通の銀行のHPとは一寸色
合いが違いました。他の銀行が融資対象から外し
ている未婚女性や芸能人、プロスポーツマン等に
対するローンも取扱い、それらが厚い利鞘確保に
繋がっているように思われました。
日経新聞に倣って云えば、銀行は稼ぐ力の消失
危機にあります。超低金利は債務者にとっては慈
雨ですが、融資する方にとっては干天です。この
まま行けば干上がってしまうでしょう。といって
どうすれば良いのか、悩みを深めている姿が目に
浮かびます。
スルガ銀行を調べて思ったのは、改めて資本主
義経済の利益の源泉は<差異性>にあるというこ
とです。同一歩調を常としてきた銀行の中で、他
の銀行と異なること(差異性ある事業)に取組ん
できたことが他銀行比高収益の要因であることは
明白です。「じゃ、他の銀行も取組めばいいじゃ
ないか」と誰もが思いますが、銀行界は何よりも
<同一性・同調性>を重んじてきました。そんな
銀行にとってスルガ銀行は独り勝手にわが道をゆ
く「鬼っ子」に見えるのでしょうか。
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2015.1.24(№730)
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