98号

ISSN 1346-6089
水循環
貯留と浸透
第
号
98
特 集 / 水循環基本法に期待する〜都市の水循環の現状と今後に向けて〜
ARSIT
Association for Rainwater Storage
and Infiltration Technology
水循環 貯留
と浸透
Journal of Hydrological System
特集(座談会)/水循環基本法に期待する
~都市の水循環の現状と
今後に向けて~
Special Edition : Expect to the Newly Established Basic Law on Water Cycle
~Current Status and Future Prospects on Urban Water Cycle~
http://www.arsit.or.jp
公益社団法人
雨水貯留浸透技術協会
15
’
2015
VOL.
98
公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会
ASSOCIATION FOR RAINWATER STORAGE
AND INFILTRATION TECHNOLOGY
■ 水 想
「水干(みずひ)」への探訪
三井住友建設(株) 土木営業推進部長 森 理太郎
……………………………………………………………… 2
水循環 貯留と浸透
Journal of Hydrological System
2015
VOL.
98
■特集
水循環基本法に期待する
~都市の水循環の現状と今後に向けて~
・座談会・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
慶應大学 名誉教授 岸 由二
NPO 法人 雨水市民の会 理事長 山本 耕平
(公財)河川財団 理事 川﨑 和明
日野市 環境共生部 緑と清流課 平 義彦
雨水貯留浸透技術協会 常務理事 忌部 正博
■“雨やどり”
水路の流れ、管路の流れ
雨水貯留浸透技術協会 会長 松田 芳夫・・・・ 28
■雨水貯留浸透に係わる事業及び制度紹介 シリーズ NO.55
・統合型水理モデルを用いた雨水貯留効果の評価方法の提案
滋賀県土木交通部流域治水政策室 室長補佐 辻 光浩・・・・ 30
・都市浸水対策の推進について(法改正と技術実証制度)
国土交通省水管理・国土保全局下水道部 流域下水道計画調整官 小川 文章・・・・ 35
■水循環レポート
・清渓川 10 年を振り返って
韓国漢陽大学校工科大学建築学部兼任教授 朴 賛弼・・・・ 39
■トピックス
・JICA 普及・実証事業「インドネシアにおけるプラスチック製雨水貯留浸透施設の普及・実証事業」
秩父ケミカル(株) 営業開発本部 尾崎 昴嗣・・・・ 43
・
「第 8 回雨水ネットワーク会議全国大会 2015in 愛知」参加報告
雨水貯留浸透技術協会 屋井 裕幸・・・・ 46
・研究の現場を訪ねて(41) 前澤化成工業
(株) 熊谷第二工場 / 中央研究所 雨水貯留浸透技術協会 平田 京子・・・・ 49
■雨水技術コーナー
・技術評価認定
雨水製評第 10 号「もやいドレーン」
(株)吉原化工・・・・ 50
■若手の声(40)
「雨水貯留メーカー2 年生」
リプロントーワ(株) 渡邉 高義・・・・ 53
■出版物・文献コーナー
「川はどうしてできるのか」 藤岡 換太郎 著、「実務に役立つ総合河川学入門」
末次 忠司 著・・・・・・・ 54
■雨水協会のページ
・雨水協会の動き(2015.6.16~2015.9.15)・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55
・会員名簿・投稿のご案内・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56
・雨水協会の刊行物案内・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57
■次号内容予告・編集委員会委員名簿・編集後記・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58
■雨水協会ホームページのご案内
雨水協会ホームページでは、協会のプロフィール、刊行物、助成制度、技術評価認定、会員名簿、入会案内、協
会案内図などを掲載しておりますのでご活用下さい。
(http://www.arsit.or.jp )
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
水 想
「水干(みずひ)
」への探訪
森 理太郎
Ritaro MORI
三井住友建設株式会社
土木営業推進部長
「水干(みずひ)」という言葉をご存知ですか。
「分水嶺」
から更に歩くこと 15 分、目的の「水
日本国語大辞典には、
“水流の消え果るところ”
、
干」に辿りつく。
「水神社」という札と、
「水干、
“沢の行き止まり”という意味と記されている。
多摩川の源頭、東京湾まで 138km 」という標識
私は毎日通勤電車で多摩川を渡っている。車
が立てられている。そこは急な沢筋で、札や標
窓から上流の山々を仰ぎながら、四季それぞれ
識がなければ、単なる水の枯れた沢のようなと
に変わる風景を眺めている。そんなある日、ふ
ころであった。しかしながら、よく見ると岩陰
と、小学生のころ、多摩川の河口
(羽田)
から奥
に濡れた部分があり、上の岩から水滴がゆっく
多摩湖(小河内ダム)まで 80km 程度を 4 〜 5 回
りと滴っている。紛れもなくこれが多摩川の始
に分け、仲間たちと歩いた思い出が頭をよぎっ
まりであり、ここから 138km、一ノ瀬川、丹波
た。同時に、多摩川の源流、水流の消え果ると
川、多摩川と名を変えながら豊かな流れとな
ころは何処だろうと思い立ち、ある日、多摩川
り、東京湾に流れ出る。まさにその最初の一滴
の源流を訪れることとした。
の雫であった。
調べてみると多摩川の源流は諸説あるものの、
「水干」のあと、直上にある標高 1,953m の「笠
取山」に登り、帰路についた。
1878 年
(明治 11 年)
、
東京府使員・山城祐之氏の
多摩川はこの
「水干」
をスタートに全長 138km、
水源地調査により、多摩川の源流として、山梨
県甲州市
(旧塩山市)
の笠取山中腹に辿りついた。
流域面積 1,240km の川となる。流域面積では
この場所は、多摩川の最初の一滴が流れ出る場
10,000km を超える信濃川、利根川、石狩川と
所としてまさに
「水干」
と呼ばれ、現在、この一
いった大河川には及ばないものの、その流域は
帯を水道水源林として、東京都水道局はじめ流域
東京都をはじめ、神奈川県、山梨県を合わせ 30
自治体協議会などにより保全、整備されている。
区市町村にも及び、多くの人々の大切な水源と
多摩川の源流「水干」探索の当日は、奥多摩
なっている。今回の探訪を通し、改めて水源の
湖よりさらに先に国道 411 号線を進み、笠取山
大切さを感じるとともに、水源林の保全への多
の登山口の駐車場に車を止め、登山を開始し
くの人々の尽力により、私たちの水源である「多
た。登山道は「水源地ふれあいのみち」として
摩川」が守られていることを痛感したとこである。
2
2
整備されており、ミズナラの林の中を快適に歩
水干
くとこができる。途中、笠取小屋を経由し、1
時間半ほどで小さな峰「分水嶺」の石碑に着い
た。この峰は荒川、富士川、多摩川の 3 つの河
川の分水嶺となっており、この峰の東側に降っ
た雨は“荒川”に、西側に降った雨は“富士川”
に、そして南側に降った雨は“多摩川”に流れ、
遠く東京湾や太平洋に注ぎ込むこととなる。
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
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分水嶺
水循環基本法に期待する
特集/座談会
■特集/座談会
「水循環基本法」に期待する
~都市の水循環の現状と今後に向けて~
平成 26 年 7 月 1 日に「水循環基本法」が施行され、同法第 13 条の規定に基づき本年 7 月 10 日
に「水循環基本計画」が閣議決定された。本号の特集はこれらを受けて、特に「水循環基本計画」の【水
循環に関する施策の基本方針】から、流域連携の推進、流域の貯留・涵養機能の維持向上、適正な水の
有効利用の促進、健全な水循環に関する教育の推進、民間団体等の自発的な活動の推進 等について、
これまで水循環に関わりの深い方々にお集まりいただき、大いに語っていただきました。
本稿は、去る 8 月 3 日、協会にて行われた座談会の内容を取りまとめたものです。
出席者
(敬称略)
岸 由二(慶応大学名誉教授、NPO 法人 TR ネット 代表理事)
慶応大学名誉教授。理学博士。進化理論とともに総合的な生態学研究に従事しつつ、流域思考にもとづ
く都市再生推進のための理論・実践活動に参加。鶴見川流域、小網代流域、多摩三浦丘陵等で、NPO 法
人の代表をつとめる。国土交通省河川分科会委員。
山本 耕平(NPO 法人 雨水市民の会 理事長)
1994 年に東京都墨田区で開催された「雨水利用東京国際会議」の実行委員会副会長として参加したこ
とをきっかけに、
「雨水利用を進める市民の会」
(現「雨水市民の会」
)の設立に参加。2010 年から理事長。
雨水に関する市民団体の草分けとして、雨水活用の普及・啓発活動を行っています。本業は環境コンサ
ルタント。
河﨑 和明((公財)
河川財団 理事)
建設省、国土交通省で 30 年近く河川関係の仕事に従事。その間、地方公共団体、農林水産省、環境省
でも勤務。国土交通省退職後河川財団に勤務し河川教育を担当。自然体験などを通じ、川を深く理解し
て欲しいと考えています。
平 義彦(日野市 環境共生部 緑と清流課 課長補佐)
平成 23 年 10 月から水路清流行政を担当。日野市の 50 年ビジョン「水都・日野」を実現すべく「水辺
のある風景日野 50 選事業」や、上流の八王子と「浅川流域連携事業」などを推進。水辺に恵まれた現
在の姿を日野市の宝と認識し、河川・用水・湧水の保全・維持管理に従事。
「水辺に生態系を」という
日野市の伝統継承と、子ども達がいつまでも水あそびできるまちをめざす。
忌部 正博((公社)
雨水貯留浸透技術協会 常務理事)
総合建設会社を経て、平成 4 年(1992)より雨水協会に勤務。浸透施設技術指針、雨水利用ハンドブッ
ク、コミュニティポンド計画・設計の手引きなどの基準・マニュアル、全国 5 流域水循環再生構想、柳
瀬川流域水循環マスタープラン、アクションプランなどの策定に関わった。治水に加えて利水、
(水)
環境の視点から、河川整備や流域の街づくりに貯留浸透施設を活かすことに取り組んでいる。
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
座談会風景
岸(司会) 本日、座長を仰せつかった岸です。
から法律ができて基本計画ができたわけです
よろしくお願いします。
が、どんなこととお考えか、また、どんな分野
水循環基本法はずい
で水循環健全に関わってこられたかというお話
ぶん難産と言えば難産
をいただけるとありがたいと思います。日野市
という経緯をたどった
さんからよろしいですか。
のですが、昨年 7 月 1
平 日野市緑と清流課の平です。
日に法施行になり内閣
日野市は多摩川と浅
総理大臣が本部長とな
川に挟まれ、すぐ届く
る水循環政策本部が無
事発足して、本年 7 月
ところに緑や水がたく
岸 由二氏(座長)
さんある街で、用水路
10 日に水循環基本計画が閣議決定されました。
が市内を網の目状に
基本計画の流れでいくと、まず流域に関係する
走っています。田んぼ
各自治体、国の機関、市民団体等で構成する流
がいまだ残っているの
域水循環協議会が設置され、その中で流域水循
で、農業用水として水
環計画を策定し実行するという、とても美しい
を使わせてもらってい
ストーリーになっています。
ます。
平 義彦氏(日野市)
この通りにぜひうまくいって、円満にいろい
最近、水循環の中で一番困っているのは、や
ろな問題が解決されればと思っていますが、今
はりバケツをひっくり返したような雨が降った
日いろいろなところで水循環問題と関わってお
ときに、用水路で雨水を背負うので、水防の意
られる皆さんから、主として水の利用に関わる
味ではいろいろ問題はあります。
課題、利用のまずさから水循環健全が不全状態
岸 なかなか用水路に踏み込めない。
に陥っている現状のお話をしていただいて、併
平 そうですね。ついこの間の 7 月 16 日も、
せて直接の水の利用ではない都市のその他の計
台風 11 号の関係で、午前中だけの累積で日野
画との関わりで水循環健全をどうするのかとい
でも 150 mm 降りました。時間 20 mm、30 mm
うことも交えて意見交換をさせていただきたい
というのが降ると、やはり水門、川からの取り
と思います。それでは、よろしくお願いします。
入れを閉めても、街の中の道路や宅地の雨水が
走ってきてしまうので、用水路が背負うという
1. これまでの水循環との関わり
ことで水防は苦労しています。
岸 私の自己紹介はあとでまた触れますが、
もう一つは、浅川という一級河川の水質が、
まずはお一人 5 分程度で、水循環の危機がある
水循環 貯留と浸透
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上流の八王子で平成 20 年に下水道が整備され
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水循環基本法に期待する
たのでよくなったのですが、水量が減ってきて
うことではなく、循環も考えて水を生かして使お
いる。それから河床も河川工事の中で低下して
うという意味で活用という言葉を使っています。
いる部分もあるというところで、なかなか水が
水循環ということでいうと日本の都市はいままで
自然流下で取りにくくなってきていることがあ
も構造は変わっていないと思いますが、雨を捨
ります。そうは言っても導流堤を作って水は自
てる、できるだけ排除するという構造になってい
然流下で取れていますが、やはり浅川について
て、それがいろいろな問題を起こしている。
は水量を確保すること、大きくは大雨のときの
最近になって、いろいろな大きい施設で雨水
問題と通常の取水するときの部分で水循環の危
タンクをつけたりということが行われています
機を感じているところです。
が、まだまだ制度的に不十分で、ためた雨水が
岸 ありがとうございました。あとでまた治
コストや制度の問題から十分に使えないという
水のところでお話しいただければと思います。
ことが起きています。それから「雨水は身近な
では山本さん。
水源だ」という言い方をわれわれはしています
山本 雨水市民の会の山本です。
が、やはり単なる雑用水、庭にまくという以上
雨水市民の会という
の利用に関してはなかなか理解が得られない。
のは、いまから21 年前、
例えば洗濯に使うこともできるし、緊急時の飲
1994 年 に 東 京 都 墨 田
用水としても十分に活用できます。しかし制度
区で雨水利用東京国際
的に、あるいは技術的にまだまだ不十分なこと
会議が開催され、その
があって、せっかくの水資源が活用できていな
とき地元の人たちを含
いと感じています。雨が降りすぎて困るという
めていろいろな人たち
話もありますが、見方を変えれば身近な水資源
が実行委員になって会
議に参画し、その人た
が増えたともいえます。もうちょっと上手なた
山本 耕平氏
(雨水市民の会)
め方、使い方を社会全体で考えていくことが必
ちが後に市民の会の母体を作って、現在は NPO
要ではないかと感じています。水循環基本法の
として活動しております。
中で雨水の利用がうたわれていますし、雨水利
この国際会議はおそらく都市の雨水利用を考
用推進法もできたので、これをきっかけに水循
えるという意味では、世界で初めての国際会議
環の中の、非常に大きな位置を占めると思いま
だったと思います。なぜ墨田区でこの国際会議
すが、雨水利用についても考えていきたい、ぜ
が開かれたかというと、一つはいまお話があった
ひ社会全体で考えていただきたいと思います。
ように都市型の洪水が非常に増えて、錦糸町の
岸 あとで貯留・涵養のところで、もう少し
駅前が水浸しになったという現実があり、一方で
具体的な話をしていただけるかと思います。忌
30 年ほど前には東京の渇水に対して信濃川から
部さんも一言。
忌部 雨水協会の忌部です。
水を持ってこようという話もあったと思います。
一方で水に困り、一方で雨が降ると水が溢れ
協会は 20 数 年 前 に
る。まして東京の場合は合流式の下水道なので
できたということで、
非常に環境負荷も大きいということで、その対
先ほど山本さんが言わ
策として考えられるのが雨水をためる、それを
れた雨水利用国際会議
利用するという発想で両国の国技館が改修され
と割合近い頃かなとい
るときに当時の墨田区役所の職員の人たちが研
う気がします。
究し提案をして、具体的に導入されたというこ
国土交通省河川局が
とがきっかけで始まった活動です。
忌部 正博氏(雨水協)
われわれは最近、雨水の利用ではなく活用と
いう言い方をしていますが、単に水を資源とい
窓口の認可団体で、雨
水貯留浸透技術という
ものを治水、特に都市河川で普及させていこう
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
ということで出発しました。浸透ますや浸透ト
に問題だということで治水にはお金がつきやす
レンチといった浸透施設と、雨水利用も入って
いのですが、環境ということになると後回しに
いますがいろいろなところでためてゆっくり流
なる傾向があって、予算がきちっとつかない中
すということで、当初は総合治水といった中で
でアクションプランも何もない。できるところ
位置づけられてこの協会が作られました。
からやるという話しかないので、みんな元気が
実際のところ、設立されてからしばらくして
出 な い と い う か、 今 回 の 法 律 が で き て も う
水循環という言葉が出てきて、河川局でも全国
ちょっとそこが変わっていけばいいのかなとい
の流域で水循環の再生構想を手掛けることにな
う気がしています。そういう思いを持って、こ
り、そのときに私どもの協会が窓口で全部で 5
れからを期待しているところです。
流域を手始めに、水循環再生構想というものを
岸 ありがとうございます。鶴見川などとほ
作ることになりました。その時点から私自身も
ぼ同じ問題意識だと思うので、あとで流域のと
雨水貯留浸透技術が治水だけではなく、利水や
ころでお願いします。では河﨑さん。
河﨑 河川財団の河﨑です。
水環境といったものにも関係していることを十
分認識して取り組み始めたということで、実際
私どもの財団では、
先ほど岸先生が水循環に関する問題、今回の水
川のことを深く理解し
循環基本法についてもですが、それぞれ感じて
てほしいと思ってい
いることは健全な水循環とか水循環基本計画と
て、そういった関係で
いったものの中では、後ほど出てくると思いま
調査研究や助成事業を
すが、流域連携のような問題が生ずるというこ
行ったり、併せて、皆
とで、治水だけではなく携わっている方々が総
さんあまり聞き慣れな
合的にいろいろ議論して決めていくというとこ
河﨑 和明氏(河川財団)
ろに、水循環という言葉が出てくると思います。
水は基本的には流れていくわけで、循環して
い言葉だと思います
が、河川教育というも
のに取り組んだりしています。
いるものですが、その循環に関わることは治水
河川教育は、食育が食事というか、食生活を
だけではなくいろいろな切り口があるというこ
考えるように、河川をトータルに学習してもら
とで、そういったものを総合的にやっていくと
おうというもので、従前は環境教育と言われて
ころに非常に難しさがあると感じています。実
いましたが、それに限らず最近は防災という観
際に再生構想を手がけて、特に一番長く関わっ
点もあるし、また歴史や水文化・川文化という
たのは新河岸川ですが、その中の柳瀬川という
ものもあるので、私どもはそういったものを含
一番大きな支川について、実際にマスタープラ
めた、川をよく理解してもらうための教育を河
ンやアクションプランを作りました。できては
川教育と呼んでいます。
いるのですが、10 年ぐらいかかったし、実際
では、水循環の中でどういう危機感を持って
のところあまり効果がなかったのではないかと
いるのかというと、河川教育の面で言えば、対
いう反省もあります。
象は大人と子どもの両方ですが、やはり次代を
それはなぜかというと、一つは水循環のマス
担うのは子どもたちなので、私どもは子どもを
タープランやアクションプランの中で、実際に
一つのターゲットにしようと考えています。子
は農業の人、都市計画の人といった、携わって
どもたちに学んでもらえば、子どもから逆に大
いる多様な方々が関係しなければいけないにも
人に伝わることもあるのだろうと思っていま
関わらず、どちらかというとこれは河川系が中
す。そのため、子どもたちにサイエンスリテラ
心となって作ったプランなので、どうしても総
シーというか、正しい認識をまずもってもらう
合的にディスカッションする場がなかったとい
ようなことにしないと、水循環系も間違った理
うことと、あとは予算です。いまは治水が非常
解になってしまうこともあるのではないかと考
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
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水循環基本法に期待する
えます。正しい認識を持ってもらえば、それを
そういう意味では、人生の夢そのまま生きて
いろいろな場で活かしていくことができるとい
いいるという感じですが、1980 年代からの鶴
うことで、取り組んでいるところです。
見川の対策にある意味では大変大きなショック
個人的に言えば、私は山陰の中小都市で生ま
を受け、市民がいろいろ賢しらなことを言った
れ、お城の下で育ちましたが、私が生まれた頃
けれども、なんだ建設省がみんな考えているで
は家の周りは田んぼで、そこに水路があって非
はないかというのが僕にとって大変なショック
常に環境がよかったと思います。年齢が大きく
で、それなりに環境派を自認しうぬぼれていた
なると、水路に水が流れなくなったり、あるい
のですが、建設省にはかなわないなというの
は清流が流れていたところに下水が流れ込んで
で、最初から建設省の総合治水対策を応援する
きたりという状況を経験しました。単なるノス
ネットワークというのでジョイントを推進し、
タルジアではないのですが、そういう時代とい
いまもそのつもり。流域で治水も自然環境保全
うのは生活的には貧しかったと思います。でも
も統合的に推進するという総合治水の理念はす
心は豊かだったと思っていて、その時代の川を
ごいと思っています。
復活することはなかなか難しいのでしょうが、
2004 年に鶴見川は総合治水をさらに多機能
そういった川の思い出のようなものをもう一回
化した水マスタープランを作りました。これは
きちんとできたらいいのではないかと思ってい
最初から「水循環健全化」を流域でやるという
ます。
ことを掲げた計画です。そういう意味で、今回
先ほどいろいろ話が出ましたが、国の省庁と
の水循環基本法や基本計画が何よりもモデルに
いうのはパーツパーツでしかやっていないの
すべきは鶴見川流域だと思っていますが、審議
で、全体像を見ることができるのは流域の市町
の過程ではほとんど参考にされることなく、い
村、地方自治体なのだろうと思います。そうい
まもあまり前面には出ない位置にあるかもしれ
う総合行政の場で取り組んでいくことが重要な
ません。新法の流れは、利水に発して水循環の
のだろうということで、今回のいろいろな取り
課題を考えるというものだった。でも、鶴見川
組み計画も出ているのだろうと思います。これ
には利水はほどんどありません。飲料水利用は
は感想です。
ない、工業用水利用もほとんどない、農業用水
岸 ありがとうございました。
も消えていく。ただひたすら治水課題と環境課
岸です。2 歳から鶴見川の下流の水害多発地
題がある川で、流域対策をいっぱいやってきた
帯で育ちました。1958 年、66 年をはじめとして、
ことも、参照されにくかった理由の一つかもし
鶴見川の下流の大規模水害を、私の自宅はすべ
れません。でも、これだけ見事な流域計画、実
ていただいてしまう暮らしで、幼少時から、い
践のある川が水循環基本法で参照されないのは
つか、水害がなくて魚がいっぱいいて、虫や鳥
本当にもったいない。
水循環基本法の精神を十全に忖度したとし
もにぎやかに暮らす鶴見川世界を作りたいとい
う熱望のようなものに取りつかれていました。
て、なおかつ基本計画をしっかり総合的に受け
助教授になってすこしゆとりができたので上流
たとすると、流域水循環計画のスペクトルの一
の町田に転居。ナチュラリストの鶴見川流域
方に利水中心の流域計画があり、他方には治水
ネットワーキングを作ろうと工夫し、1990 年
中心の流域計画、普通の川はそれらがミックス
に実現し、流域全体で活動を始めたのですが、
された中間位置の計画になるだろうと思うので
横浜で同じような関心を持っている人たちと交
す。そういう意味では、鶴見川は治水中心の流
流が始まり、91 年に鶴見川流域ネットワーキ
域計画の極北で、いいということでしょうね。
ングという組織の創設に加わり、いまその全体
これから京浜河川事務所が頑張って、TR ネッ
組織と全体調整をする NPO の両方の代表をし
トも頑張って水循環基本計画に全国的に貢献す
ています。
る道が開かれないものかと思っています。そん
-7-
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
な関心でこの問題に対応しています。
崩れ、土砂崩れをしそうだと。
忌部 川崎市は浸透適地が少ないですよね。
2. 流域の貯留・涵養機能の維持及び向上につ
岸 そうなんです。その浸透適地という概念
いて
があって、どこでもそこでも浸透すればいいと
岸 では意見交換に入ります。
いうものではないので、今回の法律の中でそれ
まずは流域の貯留・涵養機能の維持向上とい
がどう扱われるかはよくわからないのですが。
うあたりに焦点を絞っていただいて、ずれても
忌部 協会は浸透ます、浸透トレンチを専門
全然かまわないのですが、ここから派生して基
に扱っている組織なので一言コメントしたいと
底流量をどうやって確保するかを含めて環境ま
思います。いま日野市さんなどでも新築につい
で広がってもいいので、ご意見をいただきたい
ては開発指導ということである程度強制力を
と思います。
持って普及させることができています。以前は
まず日野市さんからお話をいただいて、適当
大規模に限られていましたが、大きさもだいぶ
に皆さんからチャチャを入れていただくという
絞られてきて、たとえば 500 m 以上について
感じにしたいと思います。
は問題ないということにはなっていますが、実
2
平 雨水浸透ますの設置については、早い段
際のところは既存の住宅や建物については非常
階から取り組んでいます。平成 6 年から市の事
に難しいのが現状です。
業として助成というか、設置事業を行ってきて
新しく作るときには開発申請時の指導ができ
い ま す。 新 築 に つ い て は 基 本 的 に 宅 内 浸 透
ますが、既存のところにお願いしてもやはりな
100 %で、オーバーフローは認めないというこ
かなか難しい。ただ実際にはすべての家がいつ
とでやってきています。大規模開発等について
か改築されるはずなので、長い目で見れば普及
も、開発の協議の中でしっかりと雨水をためて
していくことにはなるとは思いますが、既設の
もらって時差放流、流量調整したうえでしみこ
ところにどういうかたちで普及させるかが多分
ませていくということをやってきているという
これからの問題になっていて、そこのところで
ところです。
規制をかけるだけではなく、補助金的なものを
もうちょっと増やすとか、両面から攻めていか
貯留・涵養については浸透ます、浸透トレンチ
ざるを得ないということになっています。
というところがメインになるのかなと思います。
岸 昔から日野市さんの話をよくうかがって
う少し変えていくとすれば、浸透ます、浸透
いますが、日野市の試みが全国各地に展開され
トレンチという方向だけではなく、街づくりや
て、その過程の中で今回の立法がとてもよいも
土地利用の規制の中でそういう浸透の機能を持
のになるのではないかという議論はありますか。
つような、たとえばいまグリーンインフラと言
平 市では、平成 18 年から清流保全条例が
われていますが、インフラ整備的なところや基
動いており、そういった水循環や用水・河川・
礎的な街づくりの中で浸透や緑地を保つという
湧水も含めて保全していこう、回復していこう
部分の手当てをしていくことも結構効果がある
という動きはすでに取っていた街なので、今回
のではないかと思っています。
の基本法を受けて基本計画等も策定する中で
岸 鶴見では総合治水住宅を作ろうという話
は、主に流域連携などが出てくるのだろうなと
がよくありました。土地の利用に関する規制で
考えております。
はなく、住宅を作るときに補助金を出すとか、
岸 日野市さんの雨水貯留、浸透はどんどん
住宅そのものが雨水を貯留しやすいような住宅
行っていたのですが、鶴見川流域は実は町田と
にして、庭には池があってというのをはやらせ
横浜はうまくいっていたのですが、川崎が大き
た ら ど う か と、 実 は イ ギ リ ス の デ フ ラ ン が
くブレーキがかかっていてうまくいかなかった
2030 年の適応策イメージというので筆頭に掲
んです。雨水貯留、浸透をすると多摩丘陵が崖
げています。そろそろ時代かなと思います。
水循環 貯留と浸透
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水循環基本法に期待する
忌部 雨水協会もポイント制のようなものを
ている企業や公園・緑地というところに貯留・
検討したことがあります。たとえば住宅に浸透
浸透の自主的な貢献を要請してゆく。そこらへ
ますを設置したらポイントがつく。どういうこ
んをやらないと、次の展開はありませんね。た
とをすると何点のポイントになるかを提案した
とえば学校などで校庭を貯留・浸透のモデルに
ことがあります。そのポイントによって補助金
すると決めれば、子どもたちの多様な教育も絡
が出るようにする訳ですが、実際にはまだ実現
めることができてすんなりいくかと思います。
河﨑 私は越谷市に住んでいますが、越谷市
していません。
岸 鶴見では、水マスのときに、当時の所長
では市民からいろいろ批判がありましたが、小
だった細見さんあたりもしきりに言っていまし
中学校の校庭は全部水をためる構造にしていま
たが、庭を裸地にして緑にしていたらその分、
す。学校は基本的に校庭の水はけがよく雨が上
税金を安くしよう。
そういうことですよね。
せっ
がるとすぐ遊びに行けることが前提で、雨水を
かく法律ができたのだから、これからはそうい
ためることは逆方向なのですが、総合治水のと
うことが出てもいい。
ころに入っているので、整備を進めました。
そのときに、つい貯留浸透とつなげてしまう
忌部 たまるとなかなか水が引かなくて、表面
けれども、貯留と浸透を分けて、浸透しない貯
貯留がどうしても嫌われます。だから最近は、多
留も重要だし、貯留しない浸透も重要だから。
少お金はかかるけど地下に入れたりしています。
忌部 浸透と貯留の各々の治水効果について
岸 場合によっては校庭を単断面ではなく複
は、ある程度等価に変換できるようになってい
断面にして、たまるところはたまって湖のよう
ます。浸透をこのぐらいやると貯留に換算する
にしてしまってみんなが見ることがあってもい
とこれぐらい効果があると言うように。
いと思います。いま川崎の高津区の学校で、学
岸 鶴見はご存じのように特定都市河川浸水
校流域プロジェクトというのをやっていて、う
被害対策法の指定の流域になっているので、従
ちの法人が全部応援しているのですが、学校は
来総合治水でお願い行政で作っていた貯留施設
雨水貯留をして総合治水を応援する組織だと、
というのが開発面積 1000 m 以上の場合は義務
ゆっくりゆっくりやっています。
2
化されました。ただ自治体はそれよりもきつく
河﨑 そういうものだとみんなが思えば、で
500 m 規模の開発にも貯留を要請してきた経緯
きると思います。
ちょっと質問があるのですが、
があるので、規制をきちんとかける素材はそ
これは大都市周辺と地方都市ではかなり条件が
ろってきていると思う。
違いますよね。
2
忌部 500 m 以上なり 1000 m 以上について
2
岸 都市計画がかかっている地域とかかって
2
は、許可申請で縛りがあるので結構守られてい
いない地域では話がまったく別です。
河﨑 違いますよね。この議論は都市計画が
ると思いますが、小規模が増えているので、た
とえば 500 m 以下のような小さいものは、難
かかっていてという方向での議論ですか。
2
岸 法律は別にそうなっていないから、両方
しい。私が思っているのは、下水道が排水の確
認をしますよね。下水道の部局の人はその確認
なければいけないですよね。
をするときに、ここは浸透適地だから浸透施設
山本 雨水政策で議論してきたことのひとつ
を入れてくださいとか、貯留施設を入れてくだ
に、経済的なインセンティブがあります。なぜ
さいというようなことを強硬に言っていただけ
雨水貯留が進まないかというと、自分の敷地か
ればと思います。
ら雨水を排水するのは日本ではただです。汚水
実際にそういうことを言って、入れさせてい
は有料ですが、雨水は下水道に流入していても
る市町村もあると思います。そういうやり方が
ただです。ところが、雨水利用の進んでいるド
もっと普及していくといいかなと思います。
イツでは雨水を敷地外に排水する際にお金がい
岸 これからは、学校や大規模な敷地を持っ
る。屋根の面積によって税金をとっている。そ
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水循環 貯留と浸透
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のために、敷地内で貯留したり流出抑制するイ
の所有者に何かのお礼を出すというので、地域
ンセンティブが働きます。日本でも敷地から雨
の農業組合の組合長さんはよしやろうというこ
水を排出する量に応じて料金をとる、貯めて使
とになり、委員会としてはうまくまとまって提
えばその分安くなるというような仕組みがとれ
言したのですが、知事さんに採用はされなかっ
ないのかということです。
たと思います。
これはまじめに議論すべき話だと思います。
今度の法律でそういう議論ができる環境に
下水道の料金のとり方はすごく問題です。雨水
なったのだから、誰がやるのかはわかりません
を貯めて使えば、水資源の節約や治水上の効果
が、山本さんやそういうことができる人がそろ
がありますが、下水道料金にはまったく反映さ
そろここで始めないと、各論だけやっていても
れない。タンクにメーターをつけて、雨水を
だめかなと。
使った分に応じて下水道料金を支払えといわれ
山本 まったくそうだと思います。僕らも雨
る。確認はしていない話ですが、スカイツリー
水で、下水道料金の話などはいつも議論になり
にはすごい量の雨水を貯留し使えるようになっ
ます。何となく原則論で言えばそうだよねとい
ていますが、どのみち下水道料金をとられるの
う話にはなるのですが。
岸 原則のところで突っ張って広げる。いま
ですべてのトイレに使っていないということで
す。だけど、あれだけの規模の雨水貯留施設は、
まではできなかったけど。
山本 僕らは市民運動としてやっていますか
治水上の効果や資源・エネルギーの節約など、
都市環境の保全において相当貢献をしているは
ら、なかなかそこは難しくて政策当事者と議論
ずなので、よしんばその料金をとるにしても相
ができるぐらいですよ。
岸 議員さんや中央官僚が出てくることを期
当安くするなどコストメリットがないと企業も
大きなことをやりません。
待するのか。
ましてや一般の家庭ではなかなかそういう取
山本 そういうこともあるかもしれない。実際
り組みがされないと思うので、雨水貯留、活用
に僕らの仲間のお風呂屋さんで、メーターをつ
の政策手段として経済的なインセンティブは有
けろと言われてつけてやっているけれども、どう
効だと思います。タンクを設置すると補助金を
考えてもおかしいよなと、相当貢献している分は
出すということは広く行われていますが、得を
どう見てくれるんだという話になりますよね。
するというよりやらなければ損をするといった
岸 やはり義務を果たしていなかったらペナ
仕組みをもこれから必要かなと思います。
ルティがあって、過剰に果たしていたらプラス
岸 そういう議論に過去何度も関わっている
があるという、排出権取引の発想で出てきてい
けれども、仮に細かいことを言わず、すべて敷
る話ではありますが、議論としてはあって、今
地を管理している人には保水義務がある。義務
回のきっかけでもう一回あってもいい話かなと
を果たさなければ、何らかのかたちでペナル
思います。
ティがある。義務を越えて積極的にいいことを
忌部 処理場を行政の側で連綿と準備してい
していたらプラスのいいことがあるという考え
るわけじゃないですか。そうすると本当は処理
方をしたらどうだと、実はある川で実際に計画
場に来る汚水が減るということが事前に検討で
を立てたことがあります。
きていれば、そういう考え方が通り易いので
そのときは保水義務で縛るのは難しいだろう
しょうが、行政が先に作ってしまっていて待っ
と。むしろ保水貢献重視で、いいことをしてく
ているわけです。そうすると難しくなる。
れたらプラスということをやってみないかとい
山本 下水道料金は公共料金の決定の中でも
うので、上・中流の農業地帯の水路の安全度を
相当いろいろ研究されていると思いますが、もう
5 分の 1 で計画したのを 3 分の 1 に下げてしま
少しそのへんに詳しい人と本当にコスト/ベネ
おうと。その代わり、その分ためてくれる水田
フィットをちゃんと検討してもらって、どうだと。
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水循環基本法に期待する
忌部 水道料金も同じようなことが言えます
もらってそこに行政も乗っていくということ
よね。水道施設を作ってきて、雨水利用をされ
で、人と水との関わりの結果がいまの日野の街
て水道使用量が減ったのでは困るという論理が
の姿です。
岸 日野の用水路というのは、管理者は誰で
あるでしょうからね。全体としてよいことが評
価できるかどうかというのは時代による変化を
すか。
平 実際に流水の水の水量調整は、用水組合
考えると、なかなか難しいのでしょうね。
岸 ただ、もうそろそろできるし、やったほ
でやっています。底地については国から市に移
うがいい。
管されていますので。
岸 普通河川だったものが。
3. 水の適正かつ有効な利用の促進について
平 はい。普通河川が国から市に、平成 13
岸 次の課題に移りますが、またあとで課題
年、14 年、15 年と底地が権限移譲されています。
があれば戻りますが、適正な水の有効利用とい
岸 それを農業的に利用するというのと、環
うことで、雨水利用の話に入らせていただいた
境的に都市的内容もあるだろうし、生物多様性
ので、一人ずつ農業的な水の利用と、場合に
の保全・回復とありますが、トラブルはないの
よっては生態系の話も出てきていいかと思いま
ですか。
平 ないわけではありません。やはり落ちて
すが、平さん、いかがですか。
平 雨水が川の源というか、川が流れてき
危ないという人もいるし、蓋をしてほしいとい
て、川からわれわれは水の恵みをもらって農業
う人もいるし、都市の問題の解決の場とした
用水として日野市内を流れて、また川に戻って
い、たとえば道路を拡げたいということもあり
いくということで使わせてもらっています。当
ますが、何とか折り合いをつけながら。
然灌漑期については、4 月から 9 月はお米のた
岸 単純にいうと、多自然型の水路と農地を
めに、あるいは畑、トマト、果樹等々のために
つなげたらウシガエルが入ってくる、ザリガニ
使っていますが、日野の場合は非灌漑期、10
が入ってくる、水田も大変だろうということで
月から 3 月に水を流しています。年間通水をし
すが、以前松本の農地を信濃毎日の記者に見に
て、かつて街の作り方として臭った段階で蓋を
来てくれと言われて見に行ったのですが、多自
した街もありますが、日野は開けたままにしよ
然になっているのは河川法上の河川ばかりで、
う、川は川らしく開けておこうという、街の中
農業用水路はすべて隙間なくコンクリートで、
で都市問題が発生したときには希釈水として水
そうしないと農業者が怒ってしまう。農業用水
を流し続けようというかたちで来ています。
路を多自然になど絶対にできないと言っていま
したが、日野はできているのですか。
だいぶ水質もよくなってきた中で、水辺に生
態系をということで、やはり護岸は固めないで
平 やはり三面張りのほうが水利権者、農家
土のまま素掘りがいいんだとか、少し揺らいで
の方は管理しやすいんです。日野駅から歩いて
いるほうが生きものが生きやすいとか、深みが
10 分のところに新町の区画整理というものが
あったり、瀬があったりということで、水路の
あって、それは組合施工で農家の方が中心に
中でもそういった変化があったほうがいいとい
なってやったところですが、実はいまでも素掘
うことで、水辺の生態系づくりということも併
りの水路が区画整理地内部門に残っています。
せて行ってきています。
当初はやはり三面張りという話も出たのです
水辺の有効利用という中では、環境、生態系
が、地域の方や行政もそうですが、何とか歩い
へ人が少しぐらい遠慮するところがあってもい
て 10 分でこの環境、昔ながらの自然流下して
いのではないかということで、生きもの優先の
いるものを残そうと区画整理でもいじらなかっ
水辺というものもあっていいのではないかとい
たところがあって、なおかつ区画整理の換地の
うことで、市民の方にそういった力を発揮して
中ですぐそこに公園を換地したので、田んぼが
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水循環 貯留と浸透
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3 枚残っている。そこは東光寺小学校の子ども
うが、年を取ってきたらなかなかできないの
たちが体験学習の場になったり、中央公民館の
で、市行政にお願いということが結構あると思
田んぼの学校、生涯学習の部分で講座を開いて
います。
そこで田んぼを作ったりということが実現でき
さきほど、普通河川になっているとおっしゃっ
ています。
ているので、市がお金を出されているのか、何
岸 そういうことがうまくできている秘訣が
かされないと、たぶん市民にやれといってもな
よくわからないところがありますが、補助金を
かなか難しいと思います。
岸 下水道法上の都市雨水路の位置づけに
出したりしないでそういう調整ができているの
ですか。
なっていて、多自然系の予算をとってきたりと
平 そうですね。やはり地域の方が。
いうことも可能な領域になっているわけでしょ
岸 理解がある。
う。もちろん河川ではないですよね。
平 ええ。水とのおつきあいというものが、
平 普通河川なので、河川法は適用除外です。
昔からだったと思います。自然流下で流れてい
岸 都市用水路指定はしているのですか。
るのが当たり前で育って、それを次世代に残し
平 場所によって雨水の指定もあるかと思い
ていこうという意識の方がお住まいになってい
ます。
岸 指定してしまったほうが予算がとれると
るのかなと。
忌部 ただ、農地が宅地化されていく方向に
いうか、出るのでしょうね。やはり日野市は一
はあるわけでしょう。
つのイーハトーブのような、理想郷のような
平 そうですね。やはり都市化の。
……。みんな見に行って、どうしてこんなにう
忌部 そうすると都市を作るときに、農地で
まくいっているのですかと勉強したいと。
あった財産、排水路というものをうまく利用した
適正な水の有効利用が全然できなくてどうす
街づくりをするようなところがあるわけですよね。
るんだという事例がないですかね。本当はここ
平 区画整理の中でも農ある街づくりとか、
は中山間のダムだったり、そのへんの話題が出
水辺を生かす街づくりということで、必ずそう
るといいのですが、知っている人がいない。
(笑)
いった介入というか、農業部門も水路をあまり
河﨑 農水省的には地域用水と言いますが、
深くしてはだめだとか、蓋をすると水が冷えて
河川管理者から地域用水が認められなくて防火
しまってだめだといった……。
用水ということで何とか水利権をとっていると
忌部 民間が入ってしまうと、何かそういう
いう事例があります。農業のほうも水を有効に
ものをしないで経済ベースで街を作ろうとする
使いたいので、パイプ灌漑というものがありま
傾向にあるわけですが、実際にはどうですか。
す。パイプで水を引いてくるということになる
岸 行政指導がかなりしっかりしているとい
と水路を使わなくなってしまうので、水路の機
うことです。水路清流課という名前だったとい
能がなくなってしまう。そうすると、水路に水
う気がしますが、とてもしっかりして。
が全然流れないということになります。うまく
河﨑 換地で水路にするとかできるのだと思
やっているところだと、パイプも使うけれども
います。問題は管理者が誰なのだろうかという
なるべく水路を使って流すような計画にしてい
ことです。越谷でもそうですが、一般的には農
るとか、あるいはシンボリックにどこかで水を
業者が少なくなってしまって、要は水利組合を
パイプから外に出すときには噴水のようなかた
解散したいわけです。解散したら市町村に面倒
ちにして、そこのところに農業公園を整備し
見てもらわないといけない。市町村もなかなか
て、そこからまた個別の田んぼを灌漑するとい
できないということになると、では地元にお願
うことで、何となく水の循環がわかるように工
いしたいということになります。しかし、地元
夫しているというところもあります。
岸 日野市さんなどは予算がかなり難しいか
も若いうちは住民の勤労奉仕でできたのでしょ
水循環 貯留と浸透
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水循環基本法に期待する
もしれないけど、水路を二重化して本来の排水
をやりませんかと申し上げたのですが、治水と
機能を地下化して見えなくして、きれいな水だけ
水循環基本法と基本計画の関係、いかがでしょ
を流すということもずいぶんやっていますよね。
うか。
平 そういった場所もございます。
さっき僕もちょっと言いましたが、総合治水
岸 それも予算が潤沢なときはできるけど
対策は事務次官通達だから法律ではなかったの
ね。そうでなければ、わざわざパイプの上に水
ですが、総合治水対策の基本的な精神というの
を流すことはしませんよね。
は土地利用でした。鶴見の場合には、流域を保
河﨑 管理は楽になっていますが、水環境と
水地域と遊水地域と低地地域と三区分してし
してはよろしくなくなってしまいます。
まって、都市計画地域をそれと全然違う区域分
岸 正な水の有効利用というのはたぶんこの
けを国の機関がしてしまうという、そういう意
法律を作るとき、とても重要な動機だったと思
味ではかなり野心的というか、すごい試みで、
いますが、いろいろな議論が出ていて僕は詳細
その区域分けの地図は外に出さないでくれと、
を知らないのですが、水の利用が適正でないん
市民団体は当時京浜工事事務所から言われたり
だと今度の法律に絡んで識者が強く主張したポ
しました。
イントは何だったんですかね。しきりに週刊誌
お宅は保水地域です、遊水地域ですと地図で
や何かが言ったのは、川の水を取るのは規制が
区分けして、保水地域ではなるべく緑は保全し
厳しいけれども、山の脇に穴を掘って取ってし
てくださいと河川管理者がお願いしてしまう。
まう水と違って、これを規制するために法律を
遊水地域は基本的に中・上流部の氾濫原という
作るのだという話もあったでしょう。それがど
か田んぼがあるところで、そこは大増水して溢
の程度この法律の立法の段階で配慮されたの
れたら、溢れた水を急いで川に戻さないでため
か、ちょっとわかりませんが、話題としては大
ておいてください。場合によっては田んぼにパ
変に目立ったのはそれです。
ラペットを張って、水を貯めやすくしてくれま
川から水を取ることについてはものすごく厳
せんかと、お願していまうんですね。低地地域
しい規制があるのに、そうではないところから
は打つ手がないからピロティの建築にして自衛
水を利用しようとするとできてしまうから、川
してくださいとか、下水道法で地下でいろいろ
だけではなく河川法だけではだめだ、流域でど
対応する方策をすすめる。治水目的を実現する
うこうというのがあったと思います。
ための流域土地利用計画のようなものだったん
河﨑 地下水は地下水法ですね。
ですね。どうしてあんなことができたかという
岸 今回の地下水に関する法律が水循環の新
と、鶴見川はもうほかに手がないほど氾濫が危
しい法律でどうなるのか。
険になっていたのです。1980 年に定められた
河﨑 これに地下水マネージメントというの
総合治水の流域整備計画は、1990 年代には新
が出ていますね。
整備計画に引き継がれ、さらに 2004 年には、
岸 ジャーナリスティックには、そこが興味
「鶴見川流域水マスタープラン」という、さら
の焦点の一つでしたね。
簡単に言ってしまえば、
に多機能的な流域計画に改定再編され、現在に
ありとあらゆる水に関するコントロール、マ
いたっているんですね。
ネージメントを流域でもう一回全部見直さない
この経緯の中で、総合治水の当初の眼目だっ
とだめだということですが、具体的な事例でこ
た土地利用を軸として治水対策をすすめようと
んなことがあるということがあれば、いま出し
いう方針は、精神としては残っているけれど
ていただくといいかもしれませんが…。
も、具体的施策としての大きな進展はないかも
今日は、みなさんの得意な議論でやりますの
しれません。でも、新法の精神からいうと、総
で、次に行きましょうか。
合治水対策で鶴見川が最初にやった土地利用計
先ほど差し挟みたいということで、治水の話
画のようなものが、もしかすると、そもそもの
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
岸 それこそ協会さんが音頭をとって、では
理想のかたちの一つかもしれない。
今度の法律を議論する中で、このあたりの課
みんなで悩もうかというのが、新しい法律体制
題がまとめて議論されているように見えにく
になって忘れられてしまっては困る。新しい体
い。今後の課題の中でもはたしてどうなるのか。
制の、場合によっては目標値のところにいる計
鶴見でずっと活動していると、とても心配に
画が、あまり早くやりすぎたので忘れられてし
なってきます。
まうというのでは、あまりにもったいないです。
忌部 私も新河岸川の支川で柳瀬川の水循環
忌部 今回の水循環基本計画で打ち出された
マスタープランをやっていて、あとの流域連携
流域マネージメントとか流域水循環計画、流域
の話にも絡んでくるのですが、たとえば治水に
水循環協議会と言ったキーワードは、水マスで
関するいろいろな検討をしたときに、一方で河
行ってきたこととほとんど同じ内容ではないか
川整備計画なり流域整備計画があるわけです。
と思います。
それとの関係がどうなるかというのが、これか
岸 あとでその話もしないといけないのです
ら問題になると思います。私どもが水循環マス
が、その前に、地球温暖化というのはどうで
タープランを作ったときには治水はもう標別に
しょうか。
やっているから、いじれないということになり
適正な水の有効利用ということで書いていま
ました。だから平常時の流量を目標に掲げて、
すが、水循環の基本法は地球温暖化適応策とい
あとは治水にも役に立つよというぐらいで、あ
うことは明示されていません。でも、同時並行
まり深入りしないということになりました。
でついこの間、国土の水適応策の小委員会が終
岸 鶴見の場合は、水マスタープランが流域
結したところで、もうまもなく国としての適応
全体を首長さんの合意でマネージする大枠に
計画が閣議決定されて外に出てこないといけな
なってしまったので、その中でアクションプラ
い。どういう段取りになっているか、僕は知り
ンというものを進めよう。そのアクションプラ
ませんが、いま非常におもしろいというか、複
ンが 7 本あって、その第一アクションプランが
雑な状況にあって、適応策が動いていて水循環
河川の整備計画なんです。
基本法が通って、水循環計画でさあどうなるか。
忌部 その中に入っているからできるんです。
でも、適応策の中心課題になるような集中豪
岸 特定都市河川に対する水害対策という計
雨や、まだ顕在化はしていないけれども大規模
画は 2 本目に出てくる。法定計画、水マスター
な広域豪雨に対する対応、場合によっては高潮
プランの中に入ってくる。
や海面上昇なども絡んでくるのですが、これと
忌部 これから水循環計画を新たに作ろうと
水循環基本計画、流域計画との関わりというの
したときに、必ずその問題が生じるわけです。
を、やはり治水の中で問題にしないとだめだと
それまでにやっていたものをどう取り込めるの
思います。いままでの議論の経緯の中では、水
かということがたぶん問題になるのではないか
循環基本計画は中心課題ではありません。
という気がします。
だからといって、全部、別ラインで進めるわ
岸 新河岸と鶴見と、印旛沼もそうですか。
けにもいかないですよね。どうやって絡んでく
忌部 印旛沼もやっていますね。
るのですか。いまのお話だと、水マスタープラ
岸 だから水循環マスタープランのようなも
ンのようなものをやっている流域は暗に中心課
の、昔の総合治水を流域計画でもうちょっと整
題で意識していますから入ってくるけれども、
理してしまったようなものが動いているところ
たとえば日野市さんがいまやっているいろいろ
があって、場合によってはそういうところもこ
な水に関する施策の中で集中豪雨、そこは時間
れからどうしようかという話し合いをやってい
何 mm というので対応するのでしょうが、温暖
ていいんですよね。
化を意識されていますか、まだですか。
忌部 それもありますね。
水循環 貯留と浸透
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平 実際には小学校に出前授業で行くときに
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水循環基本法に期待する
は、やはり山があって川があって海に行って、
ん。でも、相当水をためる量が増えてくると、
蒸発したものがまた山に当たって雨が降ってと
飲み水にするとか、もうちょっと高品位な集め
いう中で、われわれの目の前に流れている川が
方をしてもっと上手に使うということをやったほ
あるという入り方はしていますが、実際に実務
うがいいと思っています。われわれは実際に墨
の部分で水路を管理するときにはなかなか地球
田区の環境学習施設でためた雨水をちゃんと保
温暖化というところまでの取り組みはできてい
健所で検査したうえで、煮沸してイベントなど
ないのが現状です。
でお茶を出すということをやったりしています。
岸 時間 50 mm 超えの雨が 30 年間で 1.4 倍
たとえばわれわれの仲間が家を建てたときに
とか、80 mm 超えの場合、40 年間で倍になっ
も雨水をためて洗濯にも使っています。雨水は
てきていますが、そういう温暖化に対応した危
超軟水だから洗濯などはものすごく適していま
機ととらえて、局所の土砂崩れなどに反映され
す。実験をやっても泡の出方も全然違う。今度
てくるので、そういう議論もまだない。
雨水利用推進法の基本方針の議論のプロセスで
平 平成 25 年 7 月 23 日に時間 100 mm 近い
も、飲用水のようなことが書いてあったら厚生
雨が 30 分ぐらい降ったのですが、そうすると
省がだめだと削られている経緯があります。リ
水路も噴いてしまうし、去年の 6 月 6 日、7 日
スクがあるという見方がありますが、災害のと
で 200 mm、100 mm と 300 mm 降雨があったの
き飲めるとか、タスマニアでは雨水をボトル詰
ですが、山が切れました。それが地球温暖化と
めして飛行機で出しているそうですが、世界中
いうところとはなかなか、現場の動きの中では
で雨水は飲んでいるわけです。日本でも沖縄や
まだ出ていない。とにかく対症法的にあそこを
伊豆諸島では雨水を飲んでいました。この活動
直さなければいけないと。
を始めた頃に、秋田県の大潟村から干拓地なの
岸 水利用というものが中心で出てきている
で地下水が飲めない、空がきれいだから雨水を
法律だから、そういうところにどう踏み込んで
飲みたいと言って、われわれのところに来られ
いくかというのはこれからの課題になっていく
たこともあります。
と思いますが、流域ごとの流域水循環計画を作
岸 腸内細菌の調整が必要だから、このバク
るときには、沖積地を抱えている臨海都市でな
テリアのタブレットを飲んでから飲んでくださ
くても中山間の都市でも、局所豪雨対応はかな
いと。
(笑)
りはっきり……。水・国土の委員会は局所豪雨
山本 雨水そのものは蒸留水と一緒なので飲
対応をどうするんだということを前にポコンと
めるわけです。この間もメンバーの一人が 3 年
出していますから、どこかで書いておくので
前の台風のときにとったタンクにためた雨を
しょうね。
持ってきてみんなで味見したのですが、ちゃん
そういう局所豪雨に絡んで、これは水循環上
と飲めました。有機物が入らない限り水は腐ら
の大課題とすでにどこかの自治体が話題にして
ないわけだから、せっかくためたものをもう
いるとか、協会さんでテーマになっていると
ちょっと高度に使うことも、仕組み上、組み込
か、山本さんが何かやっているとか、お話しい
んでいくのは必要だなと思います。
ただけないかと思いますが。
東京はあまりそういうことを意識しません
山本 そこまではいかないのではないかと思
が、松山などしょっちゅう渇水があるところで
いますが、気候変動でゲリラ豪雨というのはあ
は水利用ということを考えて、もうちょっと高
るのでしょうが、要因としては地球温暖化で
度な使い方ということを考えておられると思い
しょうね。
ますが、そのへんが水循環基本法の中では雨水
もっと話が小さくなりますが、水利用という
を飲み水に使うということは書いていない。
か雨水利用という話をすると、雨水が汚れてい
岸 そういうおもしろい話はこれからでしょ
るとか、せいぜいトイレにという話しか出ませ
う。昔鶴見川では TR ネットの理事のお一人が、
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
土手のところに降った雨を浸透させてドレーン
のではないかと思っていました。そうしたらそ
で抜くぐらいだったら、集めて土手に枕のよう
うでもない。結果的にはやはり雨です。東京の
に貯水管をずっとつけておけば自然流下するか
そういうものを含んで降ってきます。利根川だ
ら、ところどころに関所を作っておくと緊急時
けがそうかなと思ったら、全国での調査をみる
に水が使えるのではないか、そういうことをや
と日本海側の雪が降るところも同じような問題
らないかという話をしていましたが、そういう
があって、大気の汚染をかなり含んで降ってき
議論はおもしろいんです。
ますので、無菌というわけにはいかない。
山本 要するに水の使い方をもっといろいろ
忌部 そのへんの問題があるのですが。
工夫すれば、ため方もいろいろなことがあるわ
岸 アメリカのハバードブルックというとこ
けです。いまは住宅でせいぜい散水に使うとい
ろで、数十年にわたって森林に降る雨を流域ご
う程度の話をしているから、屋根から取るとか
とに集めて分析をしていて、本当は森林管理に
程度ですが、水遊びに使うために公園で溜める
生かそうと思っていたのですが、実は酸性雨の
とか、今のお話のように緊急時のために河川の
チェックが主たる成果になって、テーマが変
堤防で溜めるとか、われわれの会ではアーケー
わってきてしまってた。大気が運んでくる酸性
ドで雨水を取って雨水商店街というアイディア
はかなり大きいんですね。
もありましたし、
、高速道路の路面で取って散
山本 たとえばタンクにためた水を分析して
水や清掃に使うというアイデアもありました。
も、本当に飲めるような水が取れる。タンクの
たとえばシンガポールのチャンギ空港など
中には微生物の膜−バイオフィルムができて、
は、滑走路から雨水を集めて利用をしていま
その中で水が浄化されている。雨が運んできた
す。そういうもっと規模の大きな雨の利用の仕
ほこりやチリはタンク内で沈殿するので、上澄
方というものも、たぶんあると思います。
みの水は非常にきれいです。原発の事故のあと
岸 協会さんは貯留・浸透と、浸透に行かな
もいろいろ調べたのですが、水そのものが放射
い貯留、別利用というあたりで新しいプロジェ
能を帯びるわけではないので、調べたら水質に
クトはないですか。
関して問題はないわけです。
忌部 最近いろいろ話が出ている中では、た
雨というものは空の汚染物質を落としてくれ
とえばいままでは屋根の水だけを対象にしてい
るわけですが、その結果雨が汚いとか、雨が汚
たけれども、道路は結構面積があるので道路の
れていると言われても、雨は立つ瀬がないと思
水を考えない手はない。ただ道路からの排水は
います。
(笑)雨が汚れているのではなく、空
結構汚れていて重金属も入っているので、その
気が汚れているわけで。
岸 そのうまい利用の仕方があるんじゃない
処理に工夫が必要です。
先程お話が出ましたが、
既成市街地になかなか普及しにくいという課題
ですか。
ですが、たとえば既設のますを浸透タイプに改
山本 そのへんも結構誤解があって、たとえ
造する技術が実用化しています。あとは先ほど
ば原発のあと横浜市の小学校の雨水タンクを全
お話ししたグリーンインフラという時流に乗っ
部止めてしまったということがあります。われ
て、街づくりのインフラ整備に雨水貯留浸透技
われ緊急アピールか何かをして、雨が悪いので
術を生かすとかを考えています。
はないとか、雨が空をきれいにしてくれたのだ
岸 本来そういう不思議な企画をいっぱい研
から雨を悪者にするなと言って。
岸 聞こえてこなかったですね。
(笑)
究費を出して。(笑)
河﨑 一つだけ付言しておくと、私どもで前
山本 そういうのを出しました。本当に雨水
に自主研究で雨の調査をしたことがあります。
は大事だと思います。そこのもっと上手な、高
実は山のほうにあるダムの水質は窒素分が高い
度な使い方というのは考える必要があると思い
のです。森林を育成するのに肥料をまいている
ます。
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
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水循環基本法に期待する
岸 ちょっと大きな課題を出してしまうと、
水マネージメントになってくる。マネージメン
水利用と治水の関係と、水利用ではなく土地利
トというのはうまい言葉で、雨水管理というと
用と治水の関係というのはちゃんと議論すれば
またイメージがちょっと違ってしまいます。
山本 そのへんは、高橋裕先生は上手に表現
つながっているのだけれども、意識としてかな
り違うでしょう。水利用の仕方が悪いから治水
されますが。
(笑)
に関して危機があるという意見と、土地利用あ
4. 流域連携の推進について
るいは都市計画の問題があるから治水の危機が
あると、今後の水循環基本法の議論の中でその
岸 いろいろ話題を出していただいたのです
両者をどう調整していくか。法律の中でそれを
が、水循環に関して流域連携をどう進めていく
調整していかないとだめだというのが入ってい
かというのが一番重要な点かもしれません。水
ると僕は思っていますが、このへんはみなさん
循環に関する流域連携の進め方は忌部さんから
の意識としてどうですか。
ですか。
法の理念のところには、とにかく利用の適切
忌部 先ほどちょっと言ったので繰り返しに
化を図れば水循環は健全化すると読めるビジョ
なってしまいますが、水循環基本計画を流域ご
ンが書かれていますね。流域の地べたそのもの
とに協議会を作って進める時、連携ということ
の取扱いも水利用に入れてしまうんだよと。そ
が出てくると思います。そのときの協議会のメ
ういう方式でやってゆけますかね。
ンバーをどうするのかというところが一番重要
忌部 そう考えないといけないと思います。
なところになると思います。学識者と行政と市
私はどちらかというと治水は土地利用とすごく
民代表、あとは企業ですかね。そのへんをどう
関係があると思っていて、雨水利用というのは
連携して、会議をうまく進めるかというと、ま
どちらかというと人工的に雨水を使うという
ず問題はどこがイニシアティブを取るか。誰が
か、循環を変えていくという感じがするので、
イニシアティブを取るか。
自然の循環で考えたときには土地利用が一番大
流域なら河川管理者かというと、でも河川管
きいと思います。ただ、その土地利用も先ほど
理者がやってしまうとまたおかしなことになる
山本さんが言われた雨水活用という観点、雨水
気がするし。
をどう流すかということで考えれば、両者は同
岸 いま新河岸はどうなっているのですか。
じことになるというイメージです。
忌部 連綿と荒川下流河川事務所がやってい
岸 土地の管理や利用というのは、水循環を
ますから、河川管理者です。その代わり、農業
左右する非常に重要なファクターですが、土地
部門などが入ってきません。ほとんど河川と下
の利用やマネージメントというのを狭義の水利
水道と街づくりがちょっと入っているかな。
岸 名目上はみんな入っていることになりま
用とは言いにくい。
そこが難しいところかなあ。
忌部 そのへんをどう解釈するかになってくる
すが、各自治体からやってくる人は河川管理者
かになってくるかもしれませんね。
で、かたちは別の部門が入っているけれども、
岸 土地利用というかたちで水を利用してい
横の連携は。
忌部 別の流域のときに、農業部門を入れよ
るんだと、素直に読み込めていけば問題はない
んですけどね。
うという話をたくさんしたけれども、結局壊れ
忌部 そうですね。
てしまいました。縦割りのいろいろな役割分担
岸 そういうことをするほかないような法律
があって。
岸 名目的には各自治体の首長さんではなし
の構成になっている気がします。
忌部 そういうイメージではないですか。利
にしても、助役さんや副市長さん、局長、部長
用から活用に変えたというのがね。
さんなどが入っているわけですよね。
岸 なるほど、利用ではなく活用。本当に雨
忌部 私どもの柳瀬川のときは、それは市の
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
部長さんどまりです。鶴見川の水マスのときには
30 年前はまったく意識しなかったけれども。
もっと上のポストの方が入っていたようですが。
岸 そういう意味で僕は 1977 年の第三次全
岸 全部入っているけれども、実態には各自
国総合開発計画、下河辺さんがまとめたやつに
治体によって水マス担当というのきわめて限定
深い感銘を受けてこういう運動をやっているこ
的に氏名しているはず。
ともあるけれども、あれは流域圏というものを
忌部 認識はしているけれども、実際に動い
掲げたのですが、あのあと 80 年代の国家計画
ているのは担当者ということです。
をあれが左右する力をバブルのときに失ってし
岸 それは河川部の職員が。
まって、あのときに流域で議論するということ
忌部 標どうしてもそうなってしまいます。
が消えたのかな。もう流域でやったら話になら
岸 課長さんが出てきたのが係長さんしか出
ないから、水循環という婉曲法が出たと勝手に
てこなくなったり、係長さんが出てこなくなっ
僕は思っているのですが、水循環という言葉
て担当の若い職員が来て、何が何だかわかりま
で、これは玉虫色の概念だからみんないろいろ
せんという会議になってしまう。
なことを考えますよね。水だけと思う人もいれ
忌部 そのへんをどうしていくかですよね。
ば、総合治水や河川管理、水循環は流域のこと
河﨑 総合治水などでいうと、河川管理部局
なんだと、ひそひそとやるわけでしょう。
でも、
と都市計画あるいは企画部局ということになって
統一的な意見はありません。
しまいますが、これが水循環という広いもので
忌部 非常に不思議に思うのは、水循環とい
あれば関係省庁はたくさんあるので、そういった
うのを流域で考えるというのがすごく日本的
ところが連携しないとできないかもしれない。
で、ほかの国にはあまりないのではないかとい
岸 これに関して河川管理者以外ではいと手
う気がします。
岸 議論からいうと、水循環の地べたの上で
を挙げるセクターがありますか。
河﨑 音頭を取るのはなかなか。
の基本枠組みが流域であるので、水循環そのも
岸 協議会について法的なステータスを規定
のは蒸発して雲になって落ちて流れて地下水も
できるか。本当に観念的に極端なことをいうと、
全部入れてしまう。一般論ですね。
ファンクショナルガバナンスという考え方もあっ
忌部 日本は、もともとそういう発想がある
て、流域ごとの協議会を作ったらそこにある程
んですよね。流域という捉え方がね。だけど流
度の決定権と予算を与えてしまって、関連する
域で捉えるということになってくると、河川管
自治体なり組合員が権限を要する条例などを作
理者がやるのかという話になって、それが必ず
る。極論ですが、そういうこともあり得ると思い
しもそうではないような気もするし。
河﨑 必ずしも河川管理者だけとは思いませ
ます。
忌部 どういう議論になっているかはわかり
んけどね。
岸 僕は、ある意味ではオタクでこういうこ
ませんが、そういうものが出てこないと何かい
ままでと同じではだめかなという感じがします。
とをやっているので、学者さんたちは流域と
岸 でも、今回これが目玉ですからね。水流
言ってしまうと表面流域を想像するから、もっ
域協議会を作って、流域循環計画を立てなさい。
と曖昧にするために、あるいは一般化するため
山本 そもそも市町村で流域という概念はな
に、流域圏と、いう、またさらに婉曲な表現を
いですよね。
使うんですね。
岸 教育とも絡みますが、何もない。
河﨑 あと流域というのは、森林で出てきま
山本 そもそも流域で何か主体的にやれとい
す。流域別に森林計画を作る。
うと、治水は何となく、あるいは下水道、環境
岸 あれも法定ですか。
だって本当は流域単位でリバーネームとか、岸
河﨑 森林法の中で出てくるので、そう思い
先生にそういう話を教わるまでは流域などは
ます。
(森林法では都道府県知事は森林計画区
水循環 貯留と浸透
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水循環基本法に期待する
別に地域森林計画を作ることになっており、森
をしっかり水辺に近づけようということで、子
林計画区は主として流域別に都道府県の区域を
どもの交流事業といったことをもう 4 回、年に
分けて定めるとされている。
)
一度ですが 4 回続いていて、午前中は最上流の
忌部 地下水もだいたい流域と重なるという
夕やけ小やけで川を見て、午後は日野の高幡の
ことで、表流水と地下水の一体管理も打ち出し
ふれあい橋のところで思い切り飛び込みをやっ
ていますよね。いずれにしろ、流域的なもので考
て川遊びをやってということで、水辺に子ども
える。では、市の水循環基本計画はないのかと。
たちを近づけようと両市連携でやっています。
岸 たとえば日野市さんが流域単位で水循環
岸 それでも地図は一個にならない。(笑)
平 そうですね、できればそういった地図も
計画を立てろと言われたときに、どういうこと
になりますか。わりとやりやすいですか。
八王子と日野で作れたらいいと思います。
平 実は八王子は水循環計画を持っていて、
岸 鶴見川は京浜河川事務所が総合治水や水
早かったんですよ。法令より早く水循環計画を
マスをコントロールしているから、流域全体の
作っていて、ここで改訂しました。このときに
地図を持っているのは国と、市民団体の TR ネッ
は、浅川も多摩川も上流が八王子で日野は下流
トだけです。TR ネットはいろいろなかたちで流
なので、八王子が来て一緒にヒアリングをやり
域地図を作ります。それをたとえば子どもたち
ました。
の遊ぶ拠点を紹介するという理屈で、1 万部と
岸 共有の地図などは書き込まれているので
か 2 万部とか、バーンとまいてしまって流域啓
すか。これは非常に重要です。
(笑)
発をしていますが、自治体は川崎市、町田市、
平 地図までは…。
横浜市も決して流域の地図は作りませんね。
岸 自治体が流域を扱うときに、自分の市境
笑い話もあります。
界で流域地図を見事に切り離すので、全体はわ
僕が代表をしている源流グループが毎年、鶴
からなくなる。
見川源流の都立公園の丘で鶴見川源流祭という
忌部 八王子市だから、流域ではないですよ
のをやります。そこに国も来るし、東京都も来
ね。でも、絵は流域になっている。
ますが、残念ながら神奈川、横浜、川崎は来ま
岸 地図になると消えます。日野市はなくな
せん。数年前その会場で責任者をしていた私に
るはずです。
携帯電話がかかってきました。電話の主は、
「源
平 そうですね。
流祭はどこでやっているんだ。来たのに旗も
岸 流域でやるのだから、せめて流域絡みの
立っていない」と怒っています。
「どちらの源
計画については自分の自治体が流域の中のどこ
流におられるのですか」と聞いたら、
「寺家ふ
の位置にあるか、関連流域を全部地図化しろと
るさと村だ」
(笑)
。エッと。
「どこの地図で見
いうのをそれこそ法定計画で縛るということを
ましたか」と聞くと。
「横浜市の地図にここが
やらないと、なぜよその市の地図をうちの市の
鶴見川源流と書いてある」
「あ、本当の源流は、
。
税金でやるんだという話がすぐできて、全部消
そこから 15km ぐらい。歩いても来られますが」
えてしまいます。本当にイロハのイですが。
というと電話が切れました。現在もそのままの
河﨑 八王子は上流だからやりやすいでしょ
地図のはずです。
うが、下に来たら難しいですよね。
流域の議論をする基本の難しさは実はここに
平 流域連携というキーワードで、八王子と
あって、流域の地図を描けるのは、民間でなけ
は平成 23 年から両市長がシンポジウムをやり、
れば、一級水系で全体を管理している国か、基
一緒に頑張っていこうよという感じでスタート
礎自治体をカバーして水系全体を管理している
できました。わかりやすいところから始めよう
都府県。
ということで浅川写真コンクールをやって、今
忌部 でも、結局いまの基本計画なりを作る
年でもう 5 年目です。それから、まずは子ども
ときに、流域で考えたときには国が入らざるを
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
得ないということですよね。
んあるんでしょうね。
岸 それができるかですよね。
山本 それはよくわかりませんが、水循環の
河﨑 国かそれぞれの自治体か。
ために流域で何かをやる必要があって、実際に
岸 東京都などは、たとえば渋谷川の流域地
こういうことをやらないといけないということ
図というのを作っているから検索すれば手に入
がもう少しクリアになってくると、動くと思い
る。でもたぶん港区に行くとない。上水循環計
ますが。
画を作ってくださいという指示が、自治体に出
岸 動かしやすい一番いい位置にいられるの
てしまうと、それをまとめる上位の組織の介入
は河崎さんです。
(笑)河川財団は流域教育で
をしっかりしないと、現状の多くの河川整備計
バーッとね。各自治体が、自分の自治体を越え
画と同じになってしまうはず。
た流域地図を作って子どもたちの啓発活動をや
忌部 そうですね。
ると言ったら、河川財団の助成金を出すと言っ
河﨑 流域の範囲がどこまでなのかというこ
たら、日野市はできるでしょう。市長も怒らな
とがありますね。全体の川の流域になればそう
いですよね。
山本 川の活動をしている、いい川づくり
いうこともあるし、それが単一の自治体に納
まっているのか、あるいは複数あるけれども、
ワークショップなどでやっている連中は、かな
それが一つの都道府県だったらまだ話は簡単な
り子どもたちに流域という考え方や、上下流交
のでしょうが、東京都、神奈川とかに別れたら
流ということを市民目線でやっています。僕も
また。
昔、鶴見川を楽しくする会をつくって岸先生た
岸 河川財団さんや協会さんは、国のような
ちともいっしょに活動していました。イベント
雰囲気で川や流域を議論してしまうから、こん
で、ここが鶴見川の源流という看板を背負って
なことは当然と思うけれども、自治体の人はそ
立てに行ったり、源流の水で沸かしたコーヒー
れがとても難しい。自治体が考えたときに、流
を下流のイベントで販売したり、流域といって
域の地図というのを自治体のお金で作って、八
も町田から横浜の鶴見までですが、地場の農産
王子市まで含まれている地図を市民に配れるか。
物で鶴見川鍋をつくったり、というようなこと
山本 逆に言えば、そういう考え方を定着し
をやっていました。
ていろいろな施策を行わないといけない。たぶ
そんなことをやっている連中はたくさんいる
ん水だけではなくほかの環境問題を考えるとき
わけです。川で活動している連中の活動の一つ
も流域という概念はものすごく重要ですが、た
の内容として、流域という考え方を上・下流で
とえば環境基本計画などでも流域という言葉が
仲間だよとか、下流の子どもたちは上流に行っ
出てきますが、必ずしも流域で環境管理をして
て上流にお世話になっているとか、上流の子ど
いこうというようなけいかくにはなっていない
もたちも自分たちが出したものが下流に行っ
のが実情です。
て、そこで下水処理が行われているとかね。
岸 そこに自治体が入ってくるとだめにな
それから、上・下流交流というのはわりとど
こでもやり始めて、それはもしかしたら適応す
る。
(笑)
るかもしれない。だけど、それが具体的な施策
山本 それはあるかもしれません。少なくと
や行動に結びつくものというものは、いままで
もいま川に関わっている人たち、市民団体はか
にあまりありません。
なり流域ということを意識しているし、流域で
岸 みんなが逃げる(笑)。水循環という言
少なくとも活動があっても、TR ネットも同じ
葉で逃げるし、山・川・海連携などは流域連携
で下流と上流が一緒に活動するようになった
そのものじゃないですか。あれを流域と言わず
じゃないですか。昔はそういうことがあまりな
に山・川・海と逃げている。なぜ、まっすぐ
かったと思いますが、そのへんが何かやること
〈流域〉と言わないのか。難しいことがたくさ
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
の一つの突破口かもしれません。
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水循環基本法に期待する
5. 健全な水循環に関する教育の推進について
世界史で出てくるというものです。あと専門の
岸 それで次の健全な水循環に関する教育を
学科があります。たとえば農業科では、森林の
推進するためには、流域を普及させないといけ
ところやあるいは農業土木で水循環というのが
ないということですが、河崎さんにこの間の調
教科書にあるのですが、そこで流域という言葉
査 の こ と な ど も 教 え て い た だ く と、 皆 さ ん
が出てきます。
ショックでおもしろいと思います。
それでは、なぜ流域に着目をして考えないと
河﨑 学校、特に義務教育である、小学校、
いけないかというと、先ほどから話が出ていま
中学校で川や水に関する学習というのはよく
すが、気候変動が進展すると水に関係する自然
やっています。たとえば 1 年生や 2 年生の生活
災害や利用環境といった問題といったは非常に
科でも川に出かけていって、春や夏や秋にどん
深刻化していきますが、その問題解決をしてい
な植物が生えていたり、あるいはどんな魚なり
くフレームとしては流域が重要有用なのだろう
動物が棲んでいたりするのかといった学習は
と思っていて、そういった概念を知っていて使
やっています。
えるようになっていくということが大切だと
それから川に直接関連するものを言えば、た
思っています。
とえば小学校 5 年生理科で「流水の働き」とい
岸 流域という概念は、一般市民と話をした
うのをやっています。浸食・運搬・堆積の 3 つ
り、議員さんの話をしたりというときに、お使
の働きで上流の石はこうだとか、中流に行った
いになりますか。
平 日野の場合は、わりと……。
というのは、
らこう、下流はこう、川の中の流れはこうだと
いうことを習っています。
やはり浅川などは圧倒的に八王子で 8 割、9 割
それから小学校 3・4 年生の社会科でも、
「地
流れてきて、われわれの流れる部分はごく一
域社会における災害の防止」の中で水害なども
部、10 %ぐらいのところなので、やはり浅川
一応習うことになっていますが、災害を勉強し
を考えるときには上のというところがあって、
なさいと言われているだけなので、災害という
昔から浅川については流域で考えないと、ごみ
のは火事や地震とかいろいろとあるので、どれ
などでも日野だけでクリーン作戦をやっても上
かを選択しなければいけない。一番選択が多い
流から一雨でも流れてくるというつながりがあ
のは火事です。消防署が身近にあったりしてす
るので、そういう意味では。皆さん、何となく
ぐわかるので。水害というのは経験されたとこ
流域と言ったらわかるけれども、ではそれを正
ろ、それもつい最近経験されたようなところで
確に言うとか、どこかで習ったのかと言われる
やっているにすぎません。
と、なかなか厳しい。
あとは小学校 6 年生で政治経済を学ぶと、
「地
岸 僕は流域のこと、様々な分野の方とやり
方公共団体や国の政治の働き」の中で災害復旧
取りするんですが、実のところほとんど理解さ
の取り組みを学ぶということで、一応ある意味
れませんね。わかっているように対応されてい
体系化されていて、勉強するということはやっ
て、原稿ができてきてチェックすると、流域は
ています。やっているのですが、先ほど岸先生
川辺の草の生えているところ、に落ちてしま
がおっしゃったように、では流域と結びついた
う。氾濫原という理解がまだほとんどかもしれ
かたちで学んでいるかというと、実は流域とい
ません。
う言葉は出てこないのです。どこで出てくるか
河﨑 流れる場所だから。
というと、歴史です。インダス文明やエジプト
岸 だから一般の人には通っているつもりで
文明などで流域というものが出てくるというこ
流域、流域としゃべっているけれども、実は何
とになっています。
も通っていない。そういう体験を繰り返し、繰
それも調べてみると、小中学校ではそういう
り返ししています。どうしたらこの流域という
ものを習わないので、高等学校になって初めて
概念を一般化できるか。地理の教育に関するい
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
ろいろな資料を見たりしますが、地理の教育の
でかなり大きなウェイトを占めるものが流域と
ほかに地形に関する教育というのが雨であるか
いう概念だと思います。流域が異なると別の水
ら、流域が出る以前からかもしれません。地理
循環になっていますので。
教育も、中学は地層ばかりだし、地形がない。
岸 流れる水の働きというのは、うちの法人
河﨑 先だって、私どもの基金助成研究成果
は場合によっては 100 人ぐらいの子どもを対象
発表会で、秋田大学教育学部の理科教育の先生
として、間に行政が入って、アウトカーブには
にお聞きしたことですが、浸食・堆積・運搬の
石がある、インカーブは泥だとやります。教科
授業を理科専修の学生たちに行った時、風化現
書には浸食・運搬・堆積しかないのですが、水
象を今の学生たちは習っていないので、彼らの
はまず流れています。たくさん流れると水害に
理解は石がゴロゴロ流れてくると、それが壊れ
なって、少し流れると水害にならない。その水
て砂になる。だから上流は大きい石があって、
がどこから来るかはどこにも書いていない。僕
中流は中間ぐらいの石で、下流に行くと砂にな
が見たすべての教科書は、川に流れている水が
るということで終わっています。実際は風化に
どこから来ているかが書いていない。
よって山の上流でも砂になっていますし、重た
実は河川に関する普及書を読むと、これにも
いものは上流で河床に落ちますし、軽ものが下
流域の話は出ていないのが普通です。専門家が
流に流れていくということで振り分けが行われ
書いていても出ていない。教科書に即して書く
て、石の大きさが変わっていくというこをを、
はずなので、流域は自動的に話題にならないと
教育学部の理科専修の学生でも全然わかってい
いうことになのかもしれません。目下最大の課
ない。
題です。
しかし、それを現地で実験してみると、ああ
これはあまりの根本問題でなかなかすっきり
そうなのだとわかるという話がありました。
いきませんね。
だから、いま学校は教えないといけないこと
何でこんな不思議なと思うと、実は河川に関
がいっぱいある中で、精選されてカリキュラム
する普及書を読むと、流域の話は出ていないの
が決まっているので、流域ということがものす
が普通です。
専門家が書いていても出ていない。
ごく価値が高いというか、すべていろいろなこ
あれは教科書に即して書きます。だから流域に
とを考えるときに基本だということになれば、
は触れないということになっています。最大の
当然授業の中で取り扱われることになります。
課題です。
岸 どこで誰が話題にすれば、小学校の教科
6. 民間団体等の自発的な活動を促進するために
書に載ったりするのですか。
どんな感触ですか。
岸 では最後の話題になりそうす。民間団体
内閣総理大臣が言うと載りますか。
河﨑 どうでしょうか。やはりいろいろなこ
の自発的な活動を推進するために、それぞれの
とを教える中で、これは重要で基本的な概念と
ご経験でどのようにしたら、これは企業も含め
してみんなが知っていないといけないのだよと
てと考えたらいいと思いますが、企業、民間団
ならないと難しいと思います。
体が自発的な水循環健全関連活動をしていくこ
岸 流域水循環計画にするのだから、流域が
とを励ますには、どんなことができるだろう
わかっていないとだめなので、流域を学校教
か、どうしたらいいだろうかと思いますか。平
育、小中高すべてで義務教育に反映してくださ
さん、どうですか。
平 実際に水循環基本法が企業の活動にどう
いと、内閣総理大臣が言えばいいわけです。
河﨑 この法律も、水循環に関する教育の推
影響していくかという部分は私も未知ですが、
進が入っていますよね。水循環教育教材の作成
まず広大な敷地がある中で日野台地上に企業が
が、こういう法律に基づいて水循環教育は具体
多くあるので、そういった工場の中でも敷地の
的にどうしていくのかとなったときに、その中
中でしっかりためてもらうというところを、も
水循環 貯留と浸透
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水循環基本法に期待する
うすでにやってもらっていただいていると思い
そうすれば、いろいろと取り組みも進んでくる
ますが、さらにもう一歩というところをやって
でしょうし、全社的な取り組みであれば、いま先
いただけるかどうか。その中で、法を受けてそ
生がおっしゃったように世の中が変わるという
ういった水循環計画を自治体が作った中でいろ
ことにもつながっていくのだろうと思います。
いろと意見交換しながら、もう一歩できますか
岸 協会さんは企業とのお付き合いは。
というようなところでうかがいながらというと
忌部 うちは表彰制度のようなものを立ち上
ころになるのかなと思います。
げてはいます。たとえば民間開発や学校・公園
岸 日本の社会は、地域市民が、団体を作っ
の公共施設に貯留浸透施設を入れたりして、治
てこういうことをやるということが実は大変に
水効果や水循環に貢献したものに対して表彰す
難しくて、一生懸命やっている人は、政治派閥
るという制度はありますが、まだ実際に……。
があったり、オタクだから頑張っているという
要は、そういう制度をこちらから見つけるのも
人たちが多いので、実は地域で連携して動くと
いいし、向こうから応募してきて、うちは第三
いうのが非常にむずかしいのです。しかし、僕
者機関で評価して、これだけの効果があるから
の長い経験だと、企業が地域で動くと、会社員
ということで表彰状を出す。
が動いて会社がすこし変わり、会社員が変わる
うちだけではちょっと弱いのであれば、もう
から、市民社会が変わるというロジックがあ
ちょっと大きな表彰のシステムにしてというよ
る。そういう意味でいうと今回はとてもいいタ
うなものだと思いますが、いまのところそうい
イミングかもしれません。大きな敷地を持って
うものを立ち上げてはいるのですが。
岸 昔、鶴見川の治水貢献賞というのをやっ
いる企業が水循環健全貢献を始めると、それは
必ずや地域の NPO や、学校敷地と連携してゆ
ていましたけどね。
く。そういうことをやったところはもちろん、
山本 何かそういうものがありましたね。
誉めに誉める。財団が、良い顕彰制度など、お
岸 総合治水のパンフレットで、個人で雨水
持ちではないですか。
貯留をやると誉めてもらえた。
平 いいですね。
山本 ありました。
岸 企業が CSR 貢献で何をしたらいいかと
岸 何かみんな忘れてしまってそれをやって
いうときに、いま温暖化緩和策についても生物
いませんが、流域の水の循環の協議会ができた
多様性についてもものすごく難しいことばかり
ら、そこの機能の一つとして、貢献した企業、
で、何をやっていいかわからない。社員が参画
学校を表彰したらいいと思います。
する次元があまりないですね。でも、裸地を
忌部 そういうものが PR にもなりますしね。
草っ原にして池を作ったら、ここで水をためて
いいのではないかと思います。いまのところ、
偉いと内閣総理大臣から表彰状が来たらうれし
今回のような法律をバックにしてもうちょっと違
いですよね。財団さんが企業とつながる。未来
うかたちで大きくなっていけばいいと思います。
山本 僕らのように雨水をやっている市民団
への鍵ですね。
河﨑 いま岸先生からもいろいろご指導をい
体はそれほど多くはないのですが、いま雨水
ただいてやっているのですが、企業も社員全員
ネットワーク会議という全国組織を作って、雨
で取り組むことをしたいというお気持ちがあり
水協も含めて国交省や環境省にオブザーバーで
ますね。工場だけというのではなく、本社の人
入ってもらって、全国シンポジウムを今年は名
も一緒にできる。やはり企業として打ち出すた
古屋でやります。今年で 8 回目になります。
めには、企業内のいろいろな人が心の底からや
シンポジウムをやったところで新しい活動が
るんだということが重要なので、そういったこ
生まれたり、市民のネットワークが次第にでき
とに対して、我々が何を提案できるのかという
つつあります。もう一つ行政の連携には僕らは
ことになると思います。
関われないので、墨田区が音頭を取って、雨水
- 23 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
利用自治体担当者連絡会というものを作りまし
具体的に何をやったらいいのかというのが目に
た。最初はよかったのですが、熱心な担当者が
見えてこない。
岸 敷地にでかい池を作ってくれたら、それ
退職してしまうと活動は低調になってしまいま
すね…。僕は、これは自治体担当者連絡会では
でもいい。
山本 それは偉いのですが、僕らとしては頑
だめだ、首長連絡会か何かにしろと言っていま
すが、市民団体なので関われない。
張っている市民団体にお金を出してくれたら
一つは、自治体との協力や連携というのは、
もっと偉いと思います。
(笑)
市民団体としてはすごく力になるわけです。わ
河﨑 日本河川協会の調査によれば、川や水
れわれは地元の企業と言ってはあれですが、ラ
をテーマに活動する団体は全国で約 3600 あり
イオンという大きな企業と子どもを対象の雨水
ます。ただ、活発さについてはちょっとよくわ
活用アイディアコンテストというものをやって
かりませんが。
いますが、自治体も含めてそういう連携ができ
山本 ただ、土地から離れられない活動が大
ると市民の活動もそこそこできる。自治体で熱
半ですよね。つまりここの川とか、この湧水と
心な人が市民と共同でハッパをかけていただけ
いうところで、もうちょっと普遍的な水循環と
るといいかなと思います。
いうところで一緒に議論するという話になる
もう一つ、さっきの雨水の水質という話をし
と、なかなかそういう団体というのは多くはな
ましたが、もうちょっと全国でそういうことを
いんです。川の団体はたくさんあるけど、川を
やりたいんです。たとえばタンクもいっぱいで
きれいにするとか川の環境を守るとか、その手
きてきたので、統一した方法で雨の水質を測る
段としてみんな楽しく遊んでというような活動
ということで、一種の市民調査のようなことを
で、なかなか場を離れた活動にはいかないとこ
やって、そういうことで広げていく。つまり市
ろがありますよね。
民団体として教育や啓発だけではなくて、もう
岸 国の河川や下水道や流域の仕事に関わる
ちょっと積み上げていってということもやりた
ようになったのは、最初は国土庁でした。1992
いのですが、いまのところまだ水に関する団体
年か 3 年に国土庁からお声がかかって、さっき
というのはそれほど多くない。そもそも川はそ
の三全総が崩壊したあと、もう一回流域のビ
こで遊べるのですが、雨では遊べないので、楽
ジョンを再生したいと言って、流域、流域と言
しく活動するテーマになかなかなりにくいのか
い回っている先生がおもしろいから参加してく
なあと…。
れと言われて、全国流域活動調査という組織が
そういう民間市民団体と企業も含めて、政策
でてきて、座長をやって全国調査をやったので
にも反映できるような市民調査というものを一
すが、そのときにたぶん全国で川や流域などで
緒にやるという活動目的を持ちたいなと思って
引っかかったのは 200 ぐらいだと思います。20
います。そのためにはお金がいるので、そのお
年前です。
金をどうしようかというのが、目下の悩みです。
それが 3000 、4000 になったということは、
岸 そういう意味では、やらなくていい環境
10 倍だからすごいですよね。
貢献ですごくお金を遣っている。10 分の 1 で
河﨑 ただ、小規模な団体で、なおかつ高齢
もっと貢献できるような分野が本当に軽視され
化ですから、
(笑)
これらの団体の課題はいかに
ていますね。
若い人をリクルートして、持続的にその活動を
山本 水に関係しているところはそれなりに
やっていただくというふうになっていかないと。
多少意識はあると思いますが、みんなが関係し
岸 僕は、いまや人生のほとんどを流域思考
ている水を使わない企業はほとんどないはずで
の市民活動にかけているのですが、市民社会か
すが…。
ら、われわれの世代の感覚で次の活動を大きく
河﨑 やはり皆さん、重要なテーマですが、
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
リクルートすることはほとんど不可能と見極め
- 24 -
水循環基本法に期待する
ています。可能性があるとすれば、やはり企業
NPO も行政の仕事がたくさんありますが、いま
だと思いますね。企業の CSR 幹部がコンサル
この瞬間発足でいうと、たぶん企業の仕事のほ
タントと抽象論議に没頭するのではなくて、敷
うが額が多い。そういうところに企業が出てく
地の中で生きものの世話をしたり水循環貢献の
る。それが同時に企業の地域貢献、社会貢献、
水辺をつくったりして、普通の社員が動き出す
環境貢献になるという仕掛けを工夫する。ここ
環境を用意する。そういう社員の中におもしろ
で頑張るしかないかな。
そういうことでいうと、
がる人が出てくることで、たぶん次の社会の動
内閣総理大臣の表彰状というのは、とても、と
きがはじまる。そんな直感がありますね。
ても、魅力的です。
市長さんではないんですね。
河﨑 企業があるところはいいのですが、田
これでオチになってしまいましたが。
(笑)
舎に行くとなかなか企業もないので、ではどう
7. おわりに
いった人をリクルートするのかと言ったら、市
町村や地元の学校にお勤めのような方で愛郷心
岸 最後に一言いただいて、終わりにしたい
というわけではないのですが、郷土を何とかよ
と思います。では山本さん、よろしくお願いし
くしていきたいと思っているような人に入っても
ます。いつもこれで終わるので、もうちょっと
らわないと、次につなぐ人がいないと思います。
希望のある話を。
(笑)
岸 ここの議論はいつもそこに行くのですが。
山本 今回、法律ができて新たな目標ができ
山本 市民団体というものはしょうがない。
て。何かやるべきことが見えてくると、また活
われわれも、岸さんも僕も昔は若かったですよ
動の仕方もわれわれ市民団体としては幅が広
ね。30 年前に下流のほうで僕は鶴見川を楽し
がってくるかなという気はします。
岸 晩年においてなお希望をつないでいく。
くする会というのをやって、上流のほうで鶴見
(笑)
にいた先生がいると言って交流が始めり、鶴見
川流域ネットワーク− TR ネットに広がって
山本 そう言われたら身も蓋もないのです
いったわけじゃないですか。そこからお互い
が。だからそういうことで、もう一頑張りする
30 年年を取って、岸先生もいつの間にか名誉
かと。
(笑)
教授になられているわけだから、そこに若い人
岸 では、若手の平さん。
を引っ張ってくるというのは…。たぶん若い人
平 水循環基本法と併せて雨水利用推進法も
できたかと思うので、いま雨水はそんなに利用
は若い人で何かやっているんです。
をどうやってやろうかというのが自分自身も見
やっていませんか。われわれがいなくなると
えていないので、どちらかというと一気に川に
生まれるのかもしれない。
岸 でも、山本さんや僕らの世代がそのまま
出してはだめだよというのが法の趣旨だと思い
通過して、世の中は静かになってしまうかもし
ますが、先ほど言われた活用というのがまだま
れないとも、思うんですね。
だ雨水、場合によってはもっともっといいもの
これは本当に重大な課題。解決はやはり仕事
にどんどんできると思うので、いまはどちらか
化、かなと思うんですね。大企業に行けば年収
というと洪水の関係しか雨水はおつきあいがな
400 万かもしれない。うちの NPO だと 250 万。
いのですが、うまく使わせてもらってまた川に
だけど働かないかいうと応じてくれる若者はい
戻していくところがもうちょっとうまくできれ
るんです。優秀で志があって。でも食えないの
ばいいかなと思います。
だったらだめ、団塊世代みたいな乱暴はだめ。
岸 河﨑さん。
そういう若者を支えられるような民間組織をど
河﨑 2 点あって、1 点目は私どもでは河川
うやって作れるかというと、行政の税金でそれ
基金の助成をさせていただいています。助成先
を支えるのはもう不可能なので、やはり企業活
の団体の多くは先ほどのような状況だという認
動との連携なのかなと思っています。うちの
識ですが、では川以外に、あるいは水環境以外
- 25 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
に目を転じてみると、必ずしも元気がないわけ
健全な水循環、特に都市の健全な水循環の中で
ではないという状況もあります。そうすると水
非常に重要な役割を与えられてきていると思っ
の団体だけがそういう元気のない状態であると
ています。そういう意味では今度の法律は追い
するならば、どういったことをすれば元気にな
風ではないかとは思っています。実際のところ
り、活動が継続できるような力をつけていくの
組織の活動そのものが先ほどの岸先生の話にも
かとということが課題だと考えています。そう
ありましたが、やはり人が動くためにはお金も
なるように、助成の仕組みも変えていく必要が
いるというところで、そのへんをどうやって活
あるのではないか。まだ具体的なイメージはな
動を維持していくかは、技術だけの問題ではな
いのですが、助成の仕組みをまず変えていって、
く、そういった人間のネットワークなりお金を
何とか支えていただけるような団体になってい
どうやって調達するかという話を含めて考えて
ただく支援ができればいいなと思っています。
いかないといけないと思っています。そういう
それから 2 点目は、河川教育をいろいろなと
意味では今日のディスカッションの中でまた頭
ころで普及させていきたいと思っていまして、
が痛いなという感じもしました。以上です。
特にいままで私どもの助成は総合的な学習の時
岸 僕から 2 点、実は水防法が一部改正され
間で取り上げてもらっていたのですが、そうす
ていって、あまり話題になっていないのです
ると地の利がいい学校しか勉強してもらえない
が、日本の治水に関する国というか、姿勢が革
のです。一校時 45 分の授業ですから、20 分も
命的に変わったと思っています。それは治水を
30 分も川から離れている学校というのは、そ
扱うときに従来沖積地の大水害、氾濫原を考え
もそもしないわけです。川が目の前にあるとい
るときに、ハザードマップをやったのですが、
う状態でないと総合学習では取り上げてもらえ
ハザードマップの基本は河川整備計画ありきで
ないので、全員が学ぶ教科学習の中で何かやっ
やっていたので、ここは多摩川だったら 200 分
てもらえることがないのかと思っています。社
の 1 の雨で大氾濫しているときに、どのくらい
会や理科といった中で、流域のように別にどこ
のハザードです、鶴見川なら 150 分の 1 とやっ
かに出かけなくても勉強できる部分もあります
ているのですが、国際的な常識とまったく違いま
ので、教科学習の中で川や流域に取り組むよう
す。国際的な常識で河川整備計画を外したハザー
なことができるようなかたちにして、その中で
ドを出しているのは、たぶんないと思います。
は環境もあり、防災もあり、あるいは歴史・文
基本的にはヨーロッパではみんな 1000 分の
化といったものもあるだろうと思っています。
1 とか、1 万分の 1 と言って、そこまで安全度
そういったことで子どもたちに勉強してもらっ
を上げるというのとセットでやっているとは思
て、彼らが大人になり、そういった考えを持っ
えない。僕は専門ではないから、本当はやって
て取り組んでもらえば、いい水循環系が復元と
いるかもしれないけれども、今回河川整備あり
いうのか、あるいはさらに良くなることにつな
きのハザード表示をやめると決めました。
がっていくと思っていて、そういった努力をし
それで、ただやめるというだけではなく、そ
ていきたいと考えています。
れがあまり外に見えやすいように書いてないか
岸 では協会さんから。
らあまり知られていないのですが、1000 分の 1
忌部 私の協会は雨水浸透貯留技術協会とい
でやると一応なっています。だから、多摩川
う、ものすごくわかりやすい名前で、当初、浸
200 分の 1 のハザード、鶴見川 150 分の 1 のハ
透ますや浸透トレンチといった施設の普及で、
ザードではなく、たとえば鶴見川の下流の左岸
総合治水、治水の中で総合的な面的な整備に貢
の流域、大氾濫原は、そこに 1000 分の 1 の雨
献するということで出発しました。しかしなが
が降ったときにどれだけ水没するかを表示する
ら、途中から健全な水循環という言葉が出てき
方向でこれから検討が進みます。
て、いま私どもは雨水貯留浸透技術というのは
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
これはたぶん日本国家としては初めてのこと
- 26 -
水循環基本法に期待する
で、ということは我らが水災害の未来に何と怖
団さんが関連している子どもの水辺の学習のこ
いことが起こるのだろうと、市民、行政、企業
とですが、協議会が流域ベース、自治体ベース
一堂が、ありありと見わたしてしまうことが始
でできているので、たとえば鶴見川の場合なら
まるわ。これで初めて、みんなが流域を意識し
下流の子どもが上流に行って遊ぶというのは協
出す。流域でやらないとだめだということをみ
議会システムでできないわけです。協議会は地
んなが感じはじめるのかもしれない。で、これ
域ベースで作られてしまうのですが、それでも
が今度の水循環基本法を推進する、まだよく意
流域協議会ができた中に、必須の要素として流
識されていないけど、最大の側面の要素になる
域の学習支援も組み込んで、財団さんが死ぬ気
と思っている。
で頑張ればできるだろう。
それでいうと、先ほどから流域教育とか、流
もう一つはやはり企業さんの貢献です。それ
域貢献という概念がきわめて重要になってき
については貯留浸透以上にわかりやすい分野は
て、流域教育をどうやって促進するか、流域貢
ないわけなので、協会さんが獅子奮迅で頑張っ
献をどうやって進めるかというと、流域教育は
ていただく。われら三人は、河川財団さんと協
やはり学校をターゲットにしてほしいと、流域
会さんに未来を託して、一晩、良いお酒でもの
を扱える教育システムを、教科書を書き換える
めたらと思うのであります。こんなところで終
とか、応援のかたちを工夫してほしい。
わりたいと思います。
ありがとうございました。
これは僕の前からの自論ですが、いま河川財
- 27 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
雨やどり
雨やどり
上下水道の技術者は、開水路と管路の両方を
扱うから、いずれの特質も十分承知しているの
水路の流れ、管路の流れ
であるが、根本にあるのはそれらの水路を流れ
る流量があらかじめ規定されている、計画され
ていることである。
松田 芳夫
Yoshio MATSUDA
一方、河川技術者にとっては、河川や排水路
(公社)雨水貯留浸透技術協会
会長
の流下能力は土木施設である以上、何らかの計
画に基いて設計されているのであるが、そこに
はあらゆる不確実さと疑問とが存在している。
水を流すには、自然の河川や用排水路のよう
仮に想定以上の大雨が降って大洪水になり河
な水路を流すのと、管の中を流すのと大きく分
川が氾濫したとしても、免責されるか否か自信
けて 2 つの方法がある。
が無い。雨の想定は適切か?雨と洪水の関係は
計算通りか?洪水の水面計算なんて信頼できる
水路は流れている水が人の目に見えるのに対
のか?堤防の強度は十分だったか?ダムの洪水
し、管路は流れている水が外から見えないとい
調節管理は計画通りうまくいったか?等々あら
うのも大きな違いである。水路と管路の中間的
ゆる不確定要素が気になる。
存在として、水路に蓋をかけた暗渠というもの
もある。
そもそも降雨自体、あらかじめ想定したパタ
ーン通りか、洪水が河川を下流に流下してくる
水理学的にうるさい事をいうと、大気に接し
のに追随して追いかけるように雨が降るとか
ている“自由水面”を持つ流れの流路を“開水
(実例がある)
、自然そのものを相手にしている
路”
(open channel )という。大気に触れず密閉
と想定外のことが起こるのは当たり前であり、
された流路を“閉水路”
(closed conduit )というが、
自然とは実に意地悪なものであると思う。
一般にこれはあまり使われず管路(pipe )と呼
というわけで、河川技術者は流路の弾力性と
ばれる。
いうか流水の自由度というのに最終的期待を託
管路といっても、その流れは上水道のように
しているのである。流水の自由度の無い管路に
管の内部を隙間無く満たして流れる流れと、下
洪水の流下をまかせるというのには本能的とも
水道のように隙間があり自由表面を持つ流れと
云うべき警戒感がある。
があり、後の場合は水理的な流れとしては開水
開水路には計画以上の流量が流れても、その
路のそれと変わらない。
いくらかは吸収する余裕があるので若干の安心
暗渠の流れは開水路に蓋をしただけだから、
感がある。
満水でなければ開水路の流れと変わらない。
近年、都市水害への緊急的対応として河川事
さて、本稿は水理学の解説ではない。
話題にしたいのは水路を扱う技術者によっ
業、下水道事業のいずれの分野においても地下
て、開水路と管路に対する感覚がかなり異なる
の管路、トンネルによる雨水の分水路、排水路
ということである。とくに河川技術者の開水路
が計画され、実施されているが、管水路には流
へのこだわりである。
下能力の限界値があるということを承知してか
からねばならない。
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
- 28 -
雨やどり
(4)暗渠
さて、ここで水路の違いによる流水の自由度
というのを考えてみよう。水理学的に正確では
水面の上昇に限界があり
(0.5z )
、流れの方向
ない点もあるが御容赦願いたい。
(x )
とで自由度は 1.5。
(1)全くの自然河川
平面的に自由に流れが移動でき
(x, y )、水面の
上下(z )、河床変動
(u )の計 4 個の自由度あり。
(5)管路
自由度があるのは流れの方向
(x )
のみ。
自由度 1。
(2)両岸に護岸のある川、水路
流れの方向のみ
(x )
、水面の上下
(z )
、河床
変動(u )と自由度は 3 に減る。
こうしてみると、河川技術者が、流水の自由
度の大きい開水路にこだわることも理解できる
(3)三面張りの河川、水路
であろう。
流れの方向
(x )と水面の上下
(z )の 2 つの自
由度しか無い。
- 29 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
雨水貯留浸透に係わる事業及び制度紹介
シリーズ No.
55
統合型水理モデルを用いた雨水貯留効果の評価方法の提案
~滋賀県の流域治水 雨水を「ためる」対策の取り組み報告~
辻 光浩
Mitsuhiro TSUJI
滋賀県土木交通部流域治水政策室
室長補佐
1. はじめに
本稿では、滋賀県が取り組んでいる流域治水
近年、全国的に水害が頻発している。このた
政策のうち、
雨水を
「ためる」対策に関して、
統合
め、河川などの治水施設の整備は、根幹的な治
型水理モデルを用いた雨水貯留効果の評価方法、
水対策として推進されるとともに、例えば 100
具体的には、住民が住んでいる場所ごとの浸水
㍉ /h 安心プランなどにより、地域全体におけ
深や浸水開始時刻の変化量等を評価する方法を
る雨水貯留浸透施設の設置も推進されつつあ
検討しているため、その概要について報告する。
る。公益社団法人雨水貯留浸透技術協会発行の
2. 統合型水理モデルの概要
各種の技術指針等により、各地域の特性に応じ
(1)統合型水理計算モデル
た施設設計が行われているところである。
平成 26 年には、
「水循環基本法」および「雨
降雨の流出過程は、
「降雨」→「山地や流入
水の利用の推進に関する法律」が施行され、ま
域からの流出」→「河道内の流下」→「河道か
た、自治体では、雨水の流出量抑制や雨水利用
らの氾濫」というプロセスを経るとともに、堤
の促進等の目的で、雨水タンク等を設置する事
内地に直接降った雨は、河道に流出する前に窪
業主に補助金を助成する制度が増えつつある。
地や盛土に囲まれた箇所で浸水することが考え
今後もさらに、雨水貯留浸透対策が促進され
られる。一般的に、前者を外水はん濫、後者を
るためには、これまで以上に雨水貯留浸透対策
内水はん濫と呼んでいる。
これらの外水はん濫、
の効果を国民・住民にわかりやすく示すことが
内水はん濫を区別なく、一体的に統合的に解析
必要と考える。
できるモデルを統合型水理モデルと呼んでいる。
しかしながら、雨水貯留・浸透施設の効果に
ついては、下流河川の基準点における河川計画
規模における流量低減量を評価している事例な
ど、住民目線の効果、例えば住民が住んでいる
場所ごとの効果量を評価した事例は少ないと思
われる。
滋賀県では、平成 26 年 3 月に「滋賀県流域
治水の推進に関する条例」 を制定し、大きな
1)
河川だけでなく、下水道や農業用排水路などの
身近な水路のはん濫も想定した水害リスク情報
「地先の安全度」 を基礎情報として、川の外
2)
側の対策も含めた総合的な治水対策を実践して
いるところである。
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
図–1 統合型水理モデルのイメージ
- 30 -
雨水貯留浸透に係わる事業及び制度紹介
3. 統合型水理モデルを用いた雨水貯留効果の
統合型水理モデルを活用することで、生活圏
である氾濫原を取り囲む河川・水路群からの複
評価方法
合的な氾濫、つまり住民が住んでいる場所ごと
(1)評価フロー
の水害リスクを表現することが可能である。
滋賀県では、県下全域を対象に統合型水理モ
デルを用いて作成した「地先の安全度マップ」
を公表
し、氾濫原における「河川等の整備」
3)4)
はもちろん、川の外側の対策である「雨水貯
留」「避難計画」
「まちづくり」等も含めた総合
的な治水対策の基礎資料として活用している。
図–2 地先の安全度マップ 最大浸水深図
(最大浸水深 1/10)
モデル設定条件等は次のとおりである。地盤
高データは、
50 m メッシュDEM(地盤高データ)
としている。平成 18 年度に近畿地方整備局が
実施した航空レーザ測量結果(レーザプロファ
イラデータ)や国土地理院の数値地図を用いて
いる。河川のうち、氾濫原を流れる河道断面
データの測量成果がある区間は、上下流方向の
流量・水位の伝播(時間的変化)を解析するた
め、一次元不定流モデルを構築している。堤内
地は、拡散する氾濫水を解析するため、地盤高
データ(50 m × 50 m メッシュデータ)
、盛土
ラインデータ、開口部諸元等を考慮した平面二
次元不定流モデルを構築している。なお、洪水
図–3 統合型水理モデルを用いた評価フロー
流量は河道域からの氾濫と堤内地への降雨によ
り発生するものとしている。
(2)設置可能な雨水貯留施設の諸元(種類、位
置、貯留量)の整理(フロー(1)
1)
)
設置可能な雨水貯留施設は、日本国内での実
施例をふまえ、各戸貯留、校庭貯留および公共
施設貯留とした。また、貯留施設は、貯留浸透
施設は降雨前に空の状態とし、累加雨量が一定
値になったら貯留を開始するケース(0 mm、
10 mm、30 mm、50 mm )を想定した。貯留施設
- 31 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
へは貯留容量を上回るまでを貯留するものと
浸水世帯数に確率規模に応じた区間毎の生起確
し、それ以降は流出が始まるものとした。
率を乗じることにより確率規模別の年平均想定
床上もしくは床下浸水世帯数を算出したものを
表–1 統合型水理モデルによる評価方法の
基本的な考え方
指す。
なお、評価項目の定義は次のとおりとした。
浸水開始時刻:計算開始から当該メッシュの浸
水深が 1 cm になる時刻
歩行による避難可能時間:浸水深が 10 cm から
50 cm になるまでの時間
床上浸水世帯数:最大浸水深が 50 cm 以上を示
すメッシュに存在する家屋世帯数
床下浸水世帯数:最大浸水深が 10 cm 以上 50
cm 未満を示すメッシュに存在する家屋世帯数
4. 適用と考察
(3)複数規模の外力設定
(1)実氾濫域への適用
雨水を「ためる」対策の検討を行うにあたり、
a )雨水貯留施設設置想定地区の概要
評価対象外力として、2 年、3 年、5 年、10 年、
評価対象地区として、近年市街化が進んでい
る滋賀県南東部の 2 地区を設定した。
50 年、100 年および 200 年を再現期間とする 7
降雨波形を流域全体に一様に与えた。2 年、
3 年、
表–2 対象エリアの施設毎の雨水貯留施設
5 年確率は、発生頻度の高い降雨を意図してい
る。10 年確率(時間最大雨量 50 mm/hr、170 mm/
24 hr )は小河川、下水道(雨水)および農業用
排 水 路 等 の 整 備 目 標、50 年 確 率(86 mm/hr、
384 mm/24 hr )は概ね大河川の当面の整備目標、
100 年確率(109 mm/hr、529 mm/24 hr )は大河
川の河川整備基本方針レベルの整備目標、200
年確率(131 mm/hr、634 mm/24 hr )は超過洪水
を意図している。
なお、降雨波形については、滋賀県降雨強度
式を用いて継続時間を 24 時間とした中央集中
型を採用した。
(4)評価指標の設定
住民が住んでいる場所ごとの雨水貯留効果を
評価するため、施設設置前後の浸水深、浸水開
始時刻等を算出し、1)最大浸水深の低減量、2)
浸水開始時刻の遅延時間、3)歩行による避難
可能時間の増加量、4)年平均想定床上浸水世
帯数の低減量、5)年平均想定床下浸水世帯数
b )評価指標の評価
の低減量を評価指標とした。年平均想定床上浸
現況(雨水貯留施設なし)と雨水貯留施設設
水の解消世帯数、年平均想定床下浸水の解消世
置後のシミュレーションの結果を比較し、メッ
帯数は、区間毎の年平均想定床上もしくは床下
シュごとに評価した。主な評価結果は次のとお
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
- 32 -
雨水貯留浸透に係わる事業及び制度紹介
表–4 校庭貯留の年平均想定床下浸水解消世帯数
【貯留開始累加雨量=30mm】
りである。
(2)考察
a )評価可能範囲の考察
図–4 浸水深の低減量評価 避難所貯留 1/10
統合型水理モデルを用いることにより、雨水
貯留施設設置想定地区直下のメッシュのみなら
ず、数 km 下流の琵琶湖までの全メッシュにおけ
る面的な評価が可能であることが示された。雨
水貯留施設の設置場所から下流域の地点におい
て、最大浸水深さの低減、浸水開始時間の遅延、
歩行による避難可能時間の増加、床上浸水世帯
数の低減、床下浸水世帯数の低減の結果を得た。
b )主な評価指標の考察
最大浸水深については、各戸貯留で 1 cm 程度、
図–5 浸水開始時刻の遅延時間の評価
避難所貯留 1/10
校庭貯留で 10 cm 程度、避難所貯留で 3 cm 程
度の低減となった。
浸水開始時刻の遅延については、各戸貯留で
表–3 校庭貯留に関する評価結果
【校庭貯留 貯留開始累加雨量= 0 mm 】
(表中の数値は、
全メッシュ中の最大値)
K 地区
(広域)
K 地区
(狭域)
10 分から 30 分程度、校庭貯留で 60 分程度の
遅延となった。このように、避難可能時間確保
につながる効果が示唆された。
Y 地区
5. 結語
滋賀県では、統合型水理モデルを用い、県下
全域における各地点の水害リスクを評価してい
る。これまでも、現況施設における浸水深の時
系列予測データをもとに、住民や市町と避難
ルートや避難タイミングの検討を行っている。
今後は、雨水貯留施設設置による浸水深の低減
量や浸水開始時刻の遅延効果から、避難行動に
対するメリットがあることも含め、雨水貯留施
設設置の効果をわかりやすく示したいと考えて
いる。特に、当面の河川整備や下水道整備が概
成している地域、100 ㍉ /h 安心プランの適用を
検討する地域において、有効に活用できると考
える。また、上流域で設置される雨水貯留施設
の効果が数 km 下流地点にまで及ぶことを定量
- 33 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
評価できることから、地域全体として雨水貯留
に即した取り組みにつながることを期待し本稿
に取り組むインセンティブが働き、さらには雨
の結びとしたい。
水貯留施設設置に対する税金支出の根拠に活用
<参考文献>
できると考える。
1)滋賀県流域治水の推進に関する条例(平成
さらに、今回提案した評価方法を活用した資
26 年条例第 55 号)の解説
料は、行政機関や関係住民らと共有していくこ
2)瀧健太郎、松田哲裕、鵜飼絵美、小笠原豊、
とが重要と考えるため、引き続き、水害に強い
地域づくり協議会等における具体的な検討資料
西嶌照毅、中谷惠剛:中小河川群の氾濫域
として共有していきたい。
における減災型治水システムの設計、河川
技術論文集、第 16 巻、p477 、2010 年 6 月
最後に、国土交通省が公表された「新たなス
3)滋賀県ホームページ、地先の安全度マップ
テージに対応した防災・減災のあり方」5)に
おいても、今後の施策の具体化にあたっては、
の公表について
必要に応じて関係省庁や地方公共団体、経済団
http://www.pref.shiga.lg.jp/h/ryuiki/tisakino
体等とも連携を図ってさらに検討を進めること
anzendo/top_page.html
4)滋賀県ホームページ、滋賀県防災情報マッ
とし、熟度があがったものから順次実現を図っ
プ、http://shiga–bousai.jp/dmap/top/index
ていくとされている。今回の報告が、例えば、
都市化が著しく進行し河川や下水道の整備が困
5)国土交通省:新たなステージに対応した防
難である中心市街地等における雨水を「ため
災・減災のあり方、p22 、2015 年 1 月 20 日
る」対策の検討に寄与し、「新たなステージ」
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
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雨水貯留浸透に係わる事業及び制度紹介
雨水貯留浸透に係わる事業及び制度紹介
シリーズ No.
55
都市浸水対策の推進について(法改正と技術実証制度)
小川 文章
Fumiaki OGAWA
国土交通省 水管理・国土保全局
下水道部流域管理官付
流域下水道計画調整官
1. はじめに
情報を取得して施設運転に役立てることが必要
近年、局地的な大雨が頻発していることに加
である。このため、国土交通省では平成 23 年
え、都市化の進展に伴う雨水の浸透量の減少や
度より下水道革新的技術実証事業
(通称 B–DASH
地下空間の発達により、都市の浸水に対する安
プロジェクト)を実施し、先進的な技術を実施設
全性が低下している。このような背景を受けて、
に導入し、効果の評価を行っているところである。
水防法、下水道法、日本下水道事業団法を一体
的に改正する「水防法等の一部を改正する法律」
が平成 27 年 5 月 20 日に公布され、平成 27 年 7
月 19 日に一部を除き施行された。本改正では、
頻発する浸水被害への対応を図るため、以下の
とおりハード・ソフト両面からの改正を行った。
(図–1)
(水防法改正)
・想定し得る最大規模の洪水・内水・高潮に係
る浸水想定区域を公表する制度の創設
図–1 水防法等の一部を改正する法律案の概要
(浸水対策関連)
・下水道や海岸の水位により、浸水被害の危険
を周知する制度の創設
2. 改正水防法の概要
(下水道法の改正)
・都市機能が集積しており下水道のみでは浸水
改正水防法においては、住民の避難等に資す
対策が困難な地域において、民間の雨水貯留
る情報を的確に提供するため、都道府県知事又
施設に対し、自治体等が協定を締結し管理で
は市町村長が、内水(法律上の用語としては
きる制度(浸水被害対策区域制度)の創設
「雨水出水」
)により相当な損害を生ずる恐れが
・汚水処理方式を浄化槽等の下水道以外の方法
あるものとして指定した下水道(水位周知下水
に見直した地域において、雨水のみの公共下
道)について、内水による災害の発生を特に警
水道(雨水公共下水道)を整備できる制度の
戒すべき水位として雨水出水特別警戒水位を定
創設
め、水位周知下水道の水位が雨水出水特別警戒
また、より効果的かつ一部改良等による低コ
水位に達したときは、都道府県知事又は市町村
ストな浸水対策を実施していくためには、管内
長がその旨を都道府県の水防計画で定める水防
水位や地表浸水位などの情報を定量的に把握
管理者及び量水標管理者に通知するとともに、
し、今後の施設設計や浸水シュミュレーション
必要に応じて一般に周知しなければならないと
に活かすことや、レーダーや雨量計による降雨
している。
(図–2)なお、雨水出水特別警戒水
- 35 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
とを基本とすることとした。
位は、指定した水位周知下水道において、不特
定多数の利用が見込まれる地下街等の利用者の
今後、改正水防法に基づき、下水道の水位情
人命が損なわれるなど、内水による相当な被害
報を観測し住民等に周知する体制を構築してい
の発生を特に警戒すべき水位として定められる
くとともに、内水浸水想定区域を提示し、避難
ものである。
場所や避難経路情報等と併せて、ハザードマッ
プにより周知していくことで、避難体制等の充
雨水出水特別警戒水位に到達した旨の情報の
実強化に取り組む方針である。
伝達方法については、市町村の地域防災計画に
定めることとなるが、事前に住民や地下空間利
用者に対して雨水出水特別警戒水位に関する十
3. 改正下水道法の概要
分な理解を促しておくことが必要である。
また、
3.1 民間雨水貯留施設
雨水出水特別警戒水位は、内水による浸水が発
既成市街地における内水対策を強化するため
生する恐れがある際に、地下街管理者等が策定
に、民間事業者による雨水貯留施設の設置を促
した地下街利用者の避難計画や浸水防止計画に
進する取組みは、一部の市町村等で先進的に行
基づき、必要な措置を開始する目安ともなる。
われているケースはあったが、自治体が作成す
る指導要綱等の要請レベルのものであり、法的
な枠組みは無かった。
今回の下水道法改正により、公共下水道の排
水区域のうち都市機能が集積し、下水道のみで
は浸水被害への対応が困難な地域において、民
間事業者の協力を得つつ浸水対策を推進するた
め、条例で浸水被害対策区域を指定し、民間事
図–2 内水に係る水位周知制度の概要
業者が設置する雨水貯留施設を市町村等が協定
に基づき管理できる制度を創設した。
(図–4)
さらに、内水により相当な被害が発生した場
合の損害軽減を図るため、水位周知下水道が存
浸水被害対策区域は、浸水対策を下水道整備
する区域において、想定最大規模降雨により雨
のみで行うことが費用対効果、技術的可能性、
水が排除できなくなった場合等に浸水が想定さ
社会的影響等のいずれかの面から現実的でない
れる区域を内水浸水想定区域として指定するこ
と認められる場合などに、市町村等が地域の実
ととしている。(図–3)
情を踏まえて判断し指定することができる。
図–3 内水浸水想定区域図のイメージ
想定最大規模降雨量の具体的な設定手法につ
図–4 官民連携による浸水対策のイメージ
いては、有識者からなる「想定最大外力(洪水、
(1)民間の雨水貯留施設の管理協定制度
内水)の設定に係る技術検討会」において検討
された結果、日本を 15 地域に分け、各地域に
雨水貯留施設の管理協定は、一定規模(原則
おいて観測された最大降雨量により設定するこ
として貯留容量 100m )以上の施設について、
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
3
- 36 -
雨水貯留浸透に係わる事業及び制度紹介
市町村等が自ら管理する必要があると認める場
留施設の整備等についても環境貢献の取組とし
合に、以下の基本的事項を規定し、施設所有者
て評価可能との規定が追加されたところである。
との間で締結する。
3.2 雨水公共下水道制度の概要
・雨水貯留施設の管理方法(施設の点検、清
汚水処理方式については、各市町村等が下水
掃、運転操作など)
道、集落排水、合併処理浄化槽等の汚水処理施
・管理協定の有効期間
設の特性を踏まえて適切な手法・区域を選択し、
・管理協定に違反した場合の措置
(ただし、
不当
各都道府県において都道府県構想として取りま
に重い負担にならないようにする必要がある)
とめている。平成 26 年 1 月、国土交通省・農林
なお、当該協定は、将来的に施設所有者が代
水産省・環境省は、汚水処理人口普及率が約
わった場合でも次の所有者等に対して効力を有
88%
(平成 24 年度末)
に達するなかで、
今後 10 年
する(承継効)ため、市町村等が継続的に施設
程度での汚水処理施設の概成を目指した「持続
を管理することができる。このため、行政側に
的な汚水処理システム構築に向けた都道府県構
とっては、民間の雨水貯留施設による浸水被害
想策定マニュアル」を公表し、各都道府県に対
軽減効果を長期にわたり期待することができ
し、都道府県構想のさらなる見直しを要請した。
る。また、民間事業者にとっても、費用や管理
これにより、公共下水道の普及率が低い地域
等に係る負担を軽減することができる。
では、もともと公共下水道による汚水処理を予
(2)浸水被害対策区域での貯留浸透施設の設置
定していた区域のうち、下水処理場から距離が
あり管渠整備に費用や時間を要することが見込
の義務付け
浸水被害対策区域では下水道法第 10 条の排
まれる場合などには、汚水処理方式を合併処理
水設備の基準に代えて、条例で雨水の一時的な
浄化槽等に変更するようなケースが出てくると
貯留又は地下への浸透に関する技術上の基準を
想定されている。
しかしながら、従来の下水道法では、公共下
定め、民間事業者に対し雨水貯留浸透施設の設
水道区域は汚水処理と雨水排除の両方を行うこ
置等を義務付けることができる。
とを前提としていたため、公共下水道の汚水処
(3)民間雨水貯留施設等の設置の推進策
浸水被害対策区域での民間事業者の雨水貯留
理をとりやめた区域では、浸水対策のニーズは
施設等の設置を進めるため、管理協定制度のほ
高くても、公共下水道による浸水対策事業を実
か、補助制度、税制優遇、容積率緩和等の支援
施できないという制度上の課題があった。
このため、汚水処理方式を下水道から合併処
策を用意している(図–5)。
特に補助制度(特定地域都市浸水被害対策事
理浄化槽等に見直した地域において、雨水排除
業)
は、今回の法改正にあわせて平成 27 年度に
のみを目的とした下水道を整備できる雨水公共
創設した新規制度(平成 27 年度予算 国費 2 億
下水道制度を創設した。
(図–6)
円)であり、浸水被害対策区域における雨水貯
留施設等の整備費用に対し、国が民間事業者に
直接補助
(補助率は最大 1/3、ただし市町村等が
並行して支援する額の範囲内)
するものである。
また、雨水貯留施設を設置する民間ビル等の
容積率緩和については、これまでも都市再生特
図–6 雨水公共下水道の実施区域のイメージ
別措置法に基づく都市再生特別地区等で事例が
あり、平成 27 年 1 月 18 日に改正された
「都市計
なお従来から、雨水排除に特化した下水道と
画運用指針」
において、
都市再生特別地区におい
して都市下水路があるが、都市下水路は既存の
て容積率制限等の緩和を行う場合は、処理水再
水路等を下水道施設として指定するものであ
利用等による親水空間の整備等に加え、雨水貯
る。一方、雨水公共下水道は、管渠やポンプ場
- 37 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
等を新たに整備することにより、市街地の降雨
ファイバー雨量計、光給電カメラなどを接続
を面的に排除するものである。また、雨水公共
し、リアルタイムの雨量情報提供システムを構
下水道の整備にあたっては、通常の公共下水道
築することにより、浸水予測を行い、既存施設
と同様に下水道法第 4 条に基づく事業計画を定
能力を最大限に生かした運転管理を行う技術に
める必要があり、同第 10 条に基づき、供用開
ついて評価する。平成 26 年度に施設を設置し、
始区域においては雨水を集める宅地内の排水設
平成 27 年度中は通年観測を行い、システムの
備を下水道に接続する義務が生じる。
実用性評価を行い、ガイドラインを策定する予
雨水公共下水道は、通常の公共下水道の雨水
定である。
(図–7)
管と同様の機能を有するものであるため、これ
らの整備費用については通常の公共下水道と同
様、防災・安全交付金により支援(交付率は概
ね 1/2)することとしている。
また、雨水公共下水道の整備にあたっては、
効率的かつ効果的な対策とするため、放流先河
川との調整を図るとともに、既存の排水路等を
活用することなども重要な点である。この点に
おいて、国としても適切な技術的・財政的支援
図–7 広島市江波地区における実証事業の概要
を行っていきたいと考えている。
4.2 都市域における局所局所的集中豪雨に対
なお、雨水公共下水道に関する規定は、「水
する雨水管理技術の実証
防法の一部を改正する法律」の公布後 6 か月以
福井市と富山市において、小型レーダーを用
内に施行予定であり、詳細については施行通知
いた局地的集中豪雨の予測技術、短時間降雨予
等により周知することとしている。
測技術、高速流出解析によるリアルタイムでの
4. 下水道革新的技術実証事業(B–DASH )
浸水及び管内水位予測技術を組み合わせた情報
近年、ICT 技術の進歩が著しく進歩し、社会
配信システムを構築し、予測精度の向上技術等
インフラ分野においても積極的な技術導入が図
について評価する。X バンド MP レーダで用い
られている。都市浸水対策分野においても、こ
られているものよりも低出力であるが、小型か
れまでに高精度レーダー、高速流出解析ソフ
つ安価で観測メッシュの細かい市販レーダーを
ト、各種センサー類などが開発されてきてお
複数台用い、降雨予測や流出解析を行い、その
り、そのコストも低減していることから、今後
情報を広く提供したり、施設の運転操作に利用
一層の導入促進が期待されている。このため、
した場合の効果について評価する。
(図–8)
国では費用の全てを国が負担する下水道革新的
5. おわりに
技術実証事業(B–DASH )の一環として、平成
国土交通省では、浸水に対して安全安心な社
26 年度から浸水対策技術の実証研究を実施し
ている。
会の実現に寄与するため、法改正や技術開発制
4.1 ICT を活用した浸水対策施設運用支援シ
度により、ハード・ソフト両面からの支援を引
ステム実用化に関する技術実証
き続き推進し、頻発する浸水被害に対処してい
きたいと考えている。
広島市江波地区において、全長約 4 km の光
ファイバーを下水管内に敷設し、光水位計、光
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
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水循環レポート
水循環レポート
清渓川 10 年を振り返って
朴 賛弼
CHANPIL PARK
法政大学デザイン工学部建築学科専任教員(助手)
韓国漢陽大学校工科大学建築学部兼任教授
工学博士
1. はじめに
れは東京の首道高速道路を手本として計画され
私は日本へきて早くも 29 年が過ぎた。この
た、韓国の高度成長のシンボルであった。
29 年間、韓国は大きく変わった。その中で最
チョンゲチョン
も大きく変わったこととして私は清渓川再生を
ウルチ ロ
挙げたい。私が生まれたのは乙支路 5 街で清渓
川の中心部の付近である。今でも清渓川の記憶
は鮮明に残っている。
写真–3 川は覆われ、その上を清渓高架道路が走る
(2000 年ごろ清渓川文化館提供)
写真–1 朝鮮王朝時代の清渓川 5 街の浚渫、
左上にかすかに見える屋根は現在の東大門
(清渓川文化館提供)
写真–4 工事中の清渓川、高架道路と覆蓋道路は撤去
され、青空があらわれた(2004 年 6 月著者撮影)
行き過ぎた都市化の反省から、都市に自然を
回復することは今や世界の課題だが、そのもっ
とも先進的な事例が韓国の首都ソウルの清渓川
写真–2 1900 年ごろの清渓川、今の清渓川 2 街あた
りから 3 街を眺める(清渓川文化館提供)
である。再生した清渓川は現在、街区ごとに
テーマ性をもたせた整備により、地域ごとの特
ソウル旧市街の中心部を東西に流れている清
色がある。1 、4 街は歴史・文化をテーマに、か
渓川は朝鮮王朝(1392–1910)の都市づくりの重
つての橋や宮殿の庭などの歴史的な造形物を再
要な要素の一つであった。しかし、その歴史は
現、観光スポットとなっている。4 、
7 街は遊び・
1970 年代に入ってから途切れてしまった。経済
教育の空間として、その周辺は商業施設や高層
成長に伴う交通手段として川の上をコンクリート
マンションなどの建設が進んでいる。7 街から
の道路で覆い、さらにその上に高架道路を建設
下流については、自然と生態系を生かす空間と
したためである。これが清渓高架道路である。そ
いうことで、川の再生と同時にビオトープがつ
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
くられた。
に、大雨などで河川流量が増えた場合に、洪水
本稿では清渓川復元後から 10 年を振り返っ
を防ぐ目的の敷地である高水敷地も設置した。
て、今まで清渓川の水に関する管理や変化した
清渓川の川幅と堤防の高さは場所によってま
もの、問題点などを述べた。
ちまちである。実際の流路の幅は約 5 m〜約 80
m までとされている。その幅は 3 段階になって
2. 清渓川の水管理
いるが、普段見られる低水位の流路幅は約 5 m
1)水の供給と制御
〜約 30 m で、200 年水位の平均流量は約 20 m
現在の清渓川の維持管理する基本水量は 1 日
〜80 m の幅になっている。堤防の高さは下段
に 12 万トンが必要とするといわれている。供
高が 1 m〜4.1 m で、上段高は 2.3 m〜6.5 m であ
給水量は漢 江 の水を浄化し、上流までポンプ
る。これらの流路の幅と堤防の高さは洪水の頻
アップして 6 万トン、周辺の地下水と 2 カ所の
度を計算して算出した数値だといわれている。
支流から 6 万トンで水深 40 cm が保たれる。大
低水敷地の場合は年間 13 回と高水敷地の場合
雨の時には水門を開けるが、このときは人為的
は年間 3 回の洪水を推定した高さになっている。
に 12 万トンから 14 万トンの水を流し、水深は
断面計画は 3 つのパターンになっていて各区間
普通の 40 cm より約 5 cm〜10 cm 深くする。
にはそれぞれの特徴を持ち、変化を見せている。
ハン ガン
これは、雨が降るとわざと水量を多く供給す
清渓川は人工水路とはいえ、洪水時の対策も
ることである。その理由は、清渓川は合流式の
必要であるため、川の両側に延びる車道の下に
下水処理であり、大雨のときは水門を開くと周
は合流式の下水道管が埋没されており、大雨の
辺の下水の汚水が清渓川へ流れ込んで、水質を
際にはここから清渓川へ水が流される。
薄めるため多くの水が必要からである。
清渓川に起こりうる災害への対策は清渓川の
清渓川の水の供給と制御などは清渓 9 街に位
構造にも現れている。復元された清渓川の川岸
置しているソウル特別市施設管理公団が維持管
の斜面はきつい形をとっている。これは、大量
理を行っている。7 階には総合状況室があり、
に水嵩が増したときにも氾濫しないよう、清渓
ここで清渓川の全体を監視し、制御している。
川排水区域内の土地利用及び開発現況、地質、
維持用水の供給、水質のコントロール、川の施
土壌状態と現在までの降水量を測定した資料を
設や設備が正常に作動しているかを確認してい
もとにして流水量を算定し、最近の異常気象に
る。また、この管理センターでは経営管理、施
よる局地性の集中豪雨に備えることのできるよ
設管理、生態管理という 3 つの組織がよく噛み
うにという考えからである。また、川道には避
合って運営されている。
難用のはしごも設置されている。
2)洪水対策
3)下水道の役割
清渓川は昔から大雨のたびに洪水に悩まされ
清渓川は都市型の自然河川を目指したもので
てきた川であった。このため、大雨の時のため
あり、普段目にするのはあくまでも清流である
に洪水対策も考えておかなくてはならない。ソ
が、同時に清渓川は下水の役割も担っている。
ウル市は、道路が舗装されるにともなって雨水
ソウル市の排水は分流式が 13 %で 87 %が合流
が地下に染み込むことが少なくなり、大雨の場
式である。清渓川は洪水が起これば汚水があふ
合、洪水の危険性が高くなっている。
れ、清渓川に直接流れ込んでくることになる。
清渓川の治水計画は 200 年水位、50 年水位、
すなわち、雨水及び下水のための合流式処理シ
平水位を推定して治水計画がたてられた。つま
ステムである。合流式だと平常時には下水が周
り、最大で 200 年に一度の降雨、1 時間に 118
辺の建物から流され、遮集管渠(地下に埋設し
mm という局地的な集中豪雨にも耐えられるよ
て、蓋がしてある通水路または排水溝)に流れ
うに川の幅や堤防の高さを確保した断面になっ
込む。1 時間当たり 20 mm までの降雨であれば
ているのである。また、散策路、低水路のほか
この管渠に流れるが、20 mm を超えると河川本
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
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水循環レポート
流に流して河川水と合流する。
集積地効果が落ちた。また、復元後には車路が
降雨時の初期に発生する汚染度の高い初期汚
狭くなり駐車空間も少なく、老朽化した建物な
水がそのまま清渓川に流れ込んでくれば、復元
どが考えられる。
された清渓川の生態系が破壊されることにもな
る。そのため、初期汚水を集め、簡易下水処理
施設に送るため、時間あたり 20 mm 降雨の雨水
を処理することのできる大型暗渠を設置した。下
水管は乾期の汚泥沈殿を防ぐために適切な流速を
維持できるようにした。なお、清渓川の下水道整
備は、下水管が清渓川復元区間内の発生最大下
水量の 3 倍を処理できるように設計されている。
写真–5 復元直後の清渓川 8 街の風景、
記憶を継承しながらもあらたな環境が
形成されていく(2006 年 10 月著者撮影)
3. 清渓川復元 10 年後の変化
1)光と影
清渓川の復元でソウルのイメージが大きく変
わった。清渓川周辺は訪れる人が多くなり経済
カンナム
ミョンドン
効果も大きくなった。ソウルは江南と明洞とい
う大きな商圏から清渓川を含む新しい商圏が拡
張することになった。ソウル市施設管理公団に
よると 2005 年 10 月清渓川復元から 2014 年 12
月までで約 1 億 8165 万人が訪れたという。これ
を 1 日当たりにすると約 5 万 4 千人である。この
写真–6 清渓川復元後の広蔵市場の屋台は活発で人気
がある(2014 年 3 月著者撮影)
訪問者は清渓川だけではなく、その周辺の店ま
で訪れることによって商売が活発になっている。
清渓川の復元後 10 年の歳月は清渓川周辺の
2)都市環境の変化
姿を変えた。清渓川周辺は新しい建物や店など
・温度
がどんどん増えて、新しい都市の風景になって
復元後の清渓川の夏の気温はソウル都心部の
いる。しかし、従来の市場の姿は変わってない
周辺より最大 10〜13 %低くなっている。これ
が、活発である。その一つの 広 蔵 市場は古い
は真夏の気温が 30 度なら 3 、4 度が下がるとい
在来市場で知られているが、復元後には外国観
う意味である。復元前の清渓川高架道路と覆蓋
光客も多く訪れる場所にもなった。広蔵市場の
道路はコンクリートの蓄熱のため、清渓川周辺
営業者によると市場を訪れる客は復元より約 3
がソウル都心部の平均より 3 、
4 度以上高かっ
倍以上増えているという。その反面、過去の清
たことを考えるとその差は約 6〜8 度の差であ
渓川に依存して生活してきた零細製造業者は仕
る。その要因は清渓川の流水、水生植物と並木
事が減り、露天商らは場所を失った。また、清
による緑地空間、通風、自動車運行台数減少で
渓川 3 、4 街にある中小の工具、照明器具、電
ある。これらは都市のヒートアイランド現象を
気専門店は商売がうまくいかず、店を閉めてい
防ぐ手法として立証された。
グァンジャン
るところも多くなっている。このような製造業
・都市の自然換気
や店は清渓川の復元の前には韓国の近代化を導
ソウルの高密度都市開発は円滑な風の流れを
いていた。しかし、復元後の 10 年間は経営が
遮断して汚染物質の大気停滞を招き大気環境が
赤字で苦しんでいる。その原因は復元の工事期
悪くなる要因である。清渓川復元により、風の
間中に周辺の店がこの場所から去る店もあり、
道ができることによって大気停滞を改善し、都
- 41 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
4. おわりに
市の自然換気がよく行われるようになった。清
渓川路周辺や清渓川水辺の地域で平均風量は最
「文化・歴史・人間」という一番大切なこと
小 2.2 %から最大 7.8 %が増加した。その風量
をわれわれはこのところ忘れていたようであ
は場所によってそれぞれ違うが、清渓 8 街付近
る。これらが清渓川を復元することによって現
が一番多いと判明された。
在に蘇ったのである。清渓川復元事業はたしか
・水質
に予想を上回る成功を博した。清渓川の復元は
復元前の清渓川の水質は BOD
(生物化学的酸
「水の再生」がテーマであったが、やってみた
(化学的酸素要求量)
は 6 等級で、
素要求量)、COD
ら「空の再生」にもなったことに気がついた。
SS
(浮遊物質)は 4 等級であった。しかし、復元
これからはいろいろな問題が出てくると思う
後から今までの水質は BOD、COD は 1b 等級、
が、これからその問題点を解決しながら清渓川
SS は 1a 等級に維持されている。魚類は、復元
を守るのが大切である。この復元工事は、都市
前は 7 種 175 個体から復元後は 23 種 2050 個体
の環境を改善するためだけではなく、ソウルが
と大幅に増えた。特にその魚類は漢江の本流か
首都となってからの約 600 年の歴史も復元する
ら上ってくる魚が多いといわれている。植物も
ことによって、現在、未来へと結ぶ媒体の意味
80 科 365 種で、昆虫や野生鳥類も急増した。
をもつことになったのである。
このように自然が豊かになった清渓川は市民
清渓川も今年の 10 月で 10 年を迎えるが、今
には憩いの場として、子供たちには自然学習の
後持続可能な都市河川として歴史と自然生態を
場として遜色がない場所に安着した。
回復維持できるよう努力を願う。
3)批判と問題点
もともと清渓川は自然河川であったため、清
渓川支流を使わずに漢江本流から水を引いて流
される人工河川という批判がある。すなわち、
人工的に流れる清渓川ではなく、支流を復活さ
せて完全自然体で作り直すべきという説であ
る。しかし、本来は清渓川には 16 の支流があっ
たが、その中で 2 支流は現在も清渓川本流とつ
ながっていてその水を利用している。残りの
写真–7 復元 10 年後の清渓川の風景、清渓川 3 街あ
たりから 2 街を眺める(2015 年 6 月著者撮影)
14 の支流を復活させるのは至難の業である。
謝辞
復元後、清渓川を訪れてしばしば思うのはゴ
ミと周辺の整備の問題である。ゴミは川周辺で
本稿においては、ソウル特別市施設管理公団の
はあまりないが、川の上の歩道や橋の上には問
担当者(イムクンシク運営チーム長)の方々に色々
題がある。特に橋の上のゴミとバイクなどの駐
と貴重な資料とご教示をいただきました。また、
車により歩行者に対して迷惑になっている。
清渓川周辺の商人の方々にご協力をいただきまし
たことを末尾ながら記して謝意を申し上げます。
韓国ではタバコの問題が社会問題になって
2015 年から約 2 倍近く値上がりすると同時に
飲食店の室内での喫煙は全面禁止になってい
<参考文献>
る。しかし、外では意外に禁煙の場所はなく、
・朴賛弼『ソウル清渓川再生−歴史と環境都市
喫煙は自由である。そのためかどこでもタバコ
への挑戦−』鹿島出版会、2011 年 12 月
の吸い殻が見られる。ソウル市では屋外での喫
・朴賛弼「ソウル漢清渓川復元における都市構
煙の問題を解決しない限り、せっかく自然を戻
造の空間構成に関する研究」
研究成果報告書、
した清渓川の意味を失ってしまう恐れがある。
法政大学大学院エコ地域デザイン研究所
2007 年 7 月
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
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トピックス
トピックス
■ JICA 普及・実証事業
インドネシアにおけるプラスチック製雨水貯留浸透施設の
普及・実証事業
尾崎 昂嗣
OZAKI Takatsugu
秩父ケミカル株式会社
営業開発本部
1. はじめに
JICA 普及・実証事業において採用するプラス
秩父ケミカル株式会社は、プラスチック製雨
チック製雨水貯留浸透施設『ニュートレンチく
水貯留浸透施設の開発・販売を約 20 年前より
ん』と『プラダムくん』は、駐車場や緑地の地
日本国内において行っており、多くの実績を積
下を活用し、小規模で種々の都市開発プロジェ
み重ねてきた。その後海外(特に中国・韓国・
クトに適用可能な汎用性のある技術である。
東南アジア)からの要望もあり、約 5 年前より
海外展開を図ってきた。その結果、現在、韓国
ソウル市、台湾台北市に弊社製品を設置した実
績を有している。今回、東南アジアモンスーン
地帯であるインドネシアジャカルタ首都圏
(JABODETABEK )の浸水被害対策として、JICA
(国際協力機構)事業に応募した結果、有効な
技術として採択を得た。現在事業は進行中であ
るが、その内容を報告する。
写真–1 降雨時のジャカルタのようす(2014.2.22)
2. 事業の背景
ジャカルタ特別州及び周辺市・県を含むジャ
カルタ首都圏(JABODETABEK )は、人口約 2,400
万人を擁する世界第 2 の大都市で、人口・産業
が集積し、20 年後には東京圏を上回る大都市
に成長するといわれている。人口増加、緑地の
開発・都市域の拡大に加えて、雨水流出量の増
大と上水道水源の約 50 %を依存する地下水の
過剰な組み上げ、地盤沈下を要因とする洪水被
害が恒常的に起こるなど、複雑な都市問題を抱
写真–2 ジャカルタにおける現地調査のようす
(2014.2.22)
えている。
3. 普及・実証を図る製品・技術
これらの課題を解決するためには、大規模な
浸水対策(公共事業)と民間開発プロジェクト
本事業では、浸透トレンチ型プラスチック製
とが連携し、都市開発と浸水被害の軽減・地下
雨水貯留浸透施設①ニュートレンチくんと、プ
水の涵養を両立させるための仕組みが、技術的
ラスチック製雨水貯留浸透槽②プラダムくんを
にも財政的にも実際的であると考えられる。
採用する。
- 43 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
3.1 ニュートレンチくん
ニュートレンチくんは、95 %以上の空隙率
を有しており、土被りを 0.5m 以上確保するこ
とで上載荷重 T–25(25 トン)に対応可能となる。
また、1 部材が約 5.6kg と軽量であるため、人
力での施工が可能である。
雨水を下流に排水するための通水管を内蔵し、
さらには目づまり防止・槽内清掃用の移送管を
内蔵しているため、容易に維持管理が可能な構
造となっている。これらの点が評価され、国土
交通省新技術情報提供システム『NETIS 』に登
録されている(NETIS No. KT–130092–A )。
図–2 プラダムくん本体イメージ(上)と設置例(下)
4. 事業実施計画
4.1 事業目的
本事業は、雨水の流出抑制対策および地下水
涵養による地盤沈下対策等に資するため、プラ
スチック製雨水貯留浸透施設を用いた図–3 の
ような流出抑制型雨水排水システムを構築する
ことを目的とする。下水道普及率が 100 %近い
日本では本システムへの移行は困難と考えられ
るが、下水道普及率が 10 %以下と低いジャカ
ルタ首都圏では効果的な手法と考えられる。
また、プラスチック製雨水貯留浸透施設は、
現地で人力による組立が可能なほど簡易な施設
図–1 ニュートレンチくん本体イメージ
(上)
と設置例
(下)
である。したがって、本施設の普及により現地
における新たな雇用が創出され、経済の活性化
3.2 プラダムくん
にも寄与すると期待される。
プラダムくんは、ニュートレンチくんと同様、
さらに、本事業ではプラスチック製雨水貯留
95%以上の空隙率を有しており、土被りを 0.5m
浸透施設の継続的な普及を目指し 、 雨水流出抑
以上確保することで上載荷重 T–25(25 トン)
制対策に関する条例等の制定に向けた検討を行
に対応可能となる。また、1 部材が約 6.8kg と
う。
軽量であるため、人力での施工が可能である。
・主要部材が 1 つの部材
(本体ブロック)で構
プラダム工法
成されており、専用ジョイントを手作業で接続し
て組み立てる構造のため、施工性に優れている。
ニュートレンチ工法
国内では、施設規模が数十 m 〜数千 m と様々な
3
3
規格に対応可能なため、汎用性に優れている。
幹線
水路・河川へ
図–3 流出抑制型雨水排水システム
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
- 44 -
トピックス
写真–3 関係機関との協議のようす(2015.1.19)
写真–5 放流先河川
[Ciparigi Riv.]
のようす
(2015.3.11)
写真–4 現地における現地地盤掘削のようす
(2015.2.11)
写真–6 現地浸透試験のようす(2015.5.19)
4.2 活動内容
本事業の活動内容を以下に記す。
~プラスチック製雨水貯留浸透施設の実証事業~
① 既存資料分析、関係者ヒアリングを通じ
て実証活動地を選定
② 実証活動地の地形・地質・地下水位等基
礎情報の収集・整理及び現地調査・簡易
測量
③ 工法の選定、施工計画・施工マニュアル
写真–7 プラダムくん設置作業
の作成
④ 資材輸送・施工
② 現地資機材のサプライチェーンやパート
⑤ 実証効果のモニタリング・評価
ナー企業候補の確認
③ 企業進出のための法規制等の調査
⑥ 維持管理マニュアルの作成
~プラスチック製雨水貯留浸透施設の導入体制
強化~
5. おわりに
① 既存条例等の資料調査・整理
本事業は、公益社団法人 雨水貯留浸透技術協
② 既存条例等に関する関係者ヒアリング
会及び日本テクノ株式会社の協力のもとに遂行
③ 現地条例等の今後のあり方検討
しており、2015 年 9 月 23 日現在、ニュートレン
④ プラスチック製雨水貯留浸透施設の設
チくんとプラダムくんの施工は完了し、一部の舗
装工と桝設置工を残すのみとなっている。JICA
置・施工に係る現地セミナーの開催(2 回)
⑤ 本邦受入活動(1 回)
をはじめ、関係各位の支援のもと、施設設置完
~将来的な普及に向けた検討~
了後にその効果が実証されインドネシアにおい
① 既存技術の課題分析及び提案技術のニー
ての浸水被害軽減に寄与出来れば幸いである。
ズ調査
(インドネシア・ボゴール市にて筆者執筆)
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
トピックス
第 8 回雨水ネットワーク会議全国大会 2015
in 愛知 参加報告
屋井 裕幸
Hiroyuki OKUI
公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会
技術第二部長
(雨水ネットワーク会議・世話人)
1. はじめに
ナー& 行政部会・企業部会設立会議」
、二日目
2014 年 8 月 21 日(金)
〜23 日(日)
の間、愛・
は、
「雨の環シンポジウム」
・
「雨の環ミーティ
地球博記念公園(モリコロパーク)地球市民交
ング」
・
「雨の環交流会」
、最終日に「雨の水み
流センターにて「第 8 回雨水ネットワーク会議
ちツアー」が表–1 に示す内容で進められた。
全国大会 2014 in 愛知」が開催された。
また、公園内で開催ということで、一般来場者
への PR も兼ねて 8 月 22 日・23 日の両日にわ
雨水ネットワーク会議は、全国各地の市民、
企業、行政及び学会からなる、雨を活かし循環
たって、雨水活用製品の展示や参加団体の環境
する社会の実現を目指した情報交換と交流活動
活動の展示並びに雨を考える体験イベント(お
のためのプラットホームである。
言葉ワークショップ、雨のステンドグラスづく
2008 年の第 1 回の東京大会を皮切りに、持
り、風のバードモビールづくり、ぽいぽいてる
ち回りで全国大会を毎年開催している(図–1)
。
てるゲーム)
など盛りだくさん内容となっていた。
今回は、記録的な豪雨により大きな被害をもたら
した「東海豪雨」から 15 年、自然の叡智をテー
マとした「愛・地球博」から 10 年ということで、
当地での開催が決定されている。3 日間の参加
者総数は、大会事務局の確認するところでは、
231 名(登壇者・実行委員会含む)であった。
写真–1 博記念公園・地球市民交流センター
図–1 全国大会開催状況
2. 全国大会の概要
今大会は、「雨は、恵と緑と情をはぐくむ〜
写真–2 展示状況
ものづくり愛知の忘れ物 雨水 里山 環の心〜」
をメインテーマに掲げ、初日には「雨水セミ
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
3 日間の大会プログラムを表–1 に示す。
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トピックス
表–1 大会プログラム
で別々に行われてきた。昨年 5 月に「雨水の利
用の推進に関する法律」
が施行されたことから、
「雨水ネットワーク会議」を「雨水ネットワー
ク」へと名称を改め、これまで以上に継続的か
つ活発な活動をおこなっていくことを目的に国
土交通省、環境省や地方自治体をはじめとした
行政間の情報共有や交流の場としての「行政部
会」
、雨水活用関連企業の情報共有や協働の場
としての「企業部会」を新設した。
行政部会においては、自治体担当者連絡会の
事務局機能を①雨水ネットワーク
(世話人会)に
移管すること、②雨水活用に関する情報プラッ
トホームを作ること、③企業部会等他分野との
交流などが了承された。一方、企業部会におい
ては部会の目的・課題について活発な意見交換
が行われ、①市場拡大、②技術交流、③産管学
民の協働、③今後の活動について議論された。
(2)雨水利用~雨水活用~グリーンインフラ
大会実行委員会のメンバーは、里山や緑を
テーマに活動していた方々が中心で、雨水に直
接関わっていない。しかし、これまでの全国大
会において雨水利用から雨水活用へと取り扱う
テーマが拡大してきたのと同様に、今回の大会
を通じて雨水と緑とのコラボレーションから、
「緑の価値」
、
「雨庭」
、
「グリーンインフラ」へ
と雨水ネットワークのテーマも更に進展したよ
うだ。大会シンボルの 4 つの漢字を用いて、延
藤大会会長がまとめられた今後の方針を表 –2
に紹介する。
表–2 鼎談「雨 恵 緑 情」のまとめ
3. 愛知大会の特徴
表–1 の各プログラムの内容については、次
号掲載予定の大会実行委員会からの報告や雨水
ネットワークのホームページにアップロードさ
れる報告書に委ねるとして、愛知大会の特徴を
以下に列記する。
(1)雨水ネットワーク「行政部会・企業部会」
の設立
(3)都市公園施設での開催
雨水ネットワーク会議は、雨水利用自治体担
新しい試みとして都市公園施設において開催
当者連絡会の提起で 2008 年 8 月に墨田区役所
にて第 1 回全国大会が開催された。それ以降、
したため、本大会の参加者だけでなく、一般の
全国大会と自治体連絡会は同時期に同じ開催地
公園来場者に対しても展示物等を広く PR がで
- 47 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
きたことは、次回以降の開催場所の選定に非常
字をつなぎ合わせると、
「ありきたりをこえよ
に参考になった。愛知県公園緑地課の発表では、
う」という新たなキーワードが現れるとういう
およそ 500 人の来場者が展示会場に立ち寄った
オチまで付いていた。改めて、日本語(漢字・
ようだ。また、公園緑地課職員による地球市民
ひらがな・カタカナ)の持つ表現の奥深さと柔
交流センター見学ツアーの開催やパークスタッ
軟性を感じる。また、日本人にしか作成でない
フによる大会運営のサポート、更に日頃から本
大会宣言であることに感銘する。
公園を拠点に活動しているサトラボ里山開拓
4. おわりに
団、森の学舎、NPO スポーツサポート協会の
方々からの協力など、多くの方から支援をいた
今回、紙面の都合で雨の水みちツアー「長久
だくことができた。
手里山湧水めぐり」
への参加報告を割愛するが、
熊張集落においては、深度 40〜100m の掘り抜
き井戸から自噴する地下水を生活用水(飲用
水、料理、冷却水、洗濯、風呂等)に、雑木林
等から染み出る湧水を農業用水に利用してい
る。また、自噴井戸からの湧水を地域住民にお
裾分けする湧水口も点在している。更に、庭に
湧水を利用してせせらぎを作りカワニナ・蛍を
養育し、児童等に鑑賞会をしている住民もいる。
里山における湧水の恵みを皆で享受している様
写真–3 雨水タンク(ドーム屋根散水利用)
[地球市民交流センター見学ツアー]
は、今回の大会のメインテーマである「雨は、恵
と緑と情をはぐくむ」をまさに地で行くコミュニ
(4)漢字に込めた大会宣言
ティが現存していることに驚かされました。
雨水セミナー、雨の環シンポジウム及び雨の
最後に、来年は、東京での全国大会の開催を
環ミーティング等の全プログラムを通しての成
予定していることをお伝えしておく。
果として、延藤大会会長がメインテーマの「雨
恵 緑 情」の 4 文字の概念も取り込んで、写真
–4 に示すように漢詩四行詩にしたためている。
この四行詩の読み方は、横(上から順番に左
→右)、縦(右から順番に上→下)と斜め(右
上からと左上から)方向に 10 通りある。
10 行の漢詩を日本語に意訳して、その頭文
写真–5 湧水のお裾分け
写真–4 漢詩四行詩に込めたユニークな大会宣言
水循環 貯留と浸透
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トピックス
トピックス
■研究の現場を訪ねて
(41)
「三現主義」のもと提案型企業としての発展を目指して
前澤化成工業株式会社 開発設計部 開発設計課
●インタビュアー
平田 京子
Kyoko HIRATA
公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会
総務部
今回は、昨年 8 月に正会員となった、前澤化成工業の熊谷第二工場をお訪ねし、開発設計部の山崎課長、内山氏に
会社の事業内容や技術開発等についてのお話を伺いました。
【会社の歴史・特徴】
行っており設計までをメインに担当しております。
前澤化成工業は、
昭和 29 年
(1954 年)
12 月 10 日
現在は、上下水道関連製品が圧倒的に多いで
に設立し、昨年で 60 周年を迎えました。
「水の
すが、今後は、上下水道に続く「第 3 の水分野」
マエザワ」として上・下水道、環境機器関連製
として雨水の排除や利用についても積極的に取り
品の製造・販売に携わっています。その沿革は、
組んでいきたいとのことでした。そのためにも協
前澤バルブ工業
(前澤工業の前身)
の硬化塩化ビ
会の技術やノウハウをこれまで培った上下水道技
ニルパイプを溶かして融着させる
(当時は圧着)
術と上手に繋いでいくことが「継手」を得意とする
“継手”
の生産を中心にした部門が独立しました。
前澤化成の使命であるとも考えているようでした。
お客様のニーズを具現化する「研究・開発力」
、
顧客満足を高め続ける
「営業力」
、さまざまな価
値を最適化する
「技術力」
の
「三現主義
(現場に行
く、現物を見る、現実を知る)
」をモットーに、
日々研究・製品開発に取り組んでいるそうです。
熊谷第一・第二工場
(第一は現在建て替え中)
では、約 200 人の従業員がおり、その平均年齢
も 30 代半ばと、若い方たちが大変多く活躍さ
内山氏と屋井部長(工場内にて)
れています。主に塩ビ製の継手やパイプの製造、
自動梱包ののち出荷までの業務を行っているそ
うです。現在の主力製品としては、塩ビ製の汚
水マスが多く、意外なところではデザイン性の
高い水栓柱は全国シェア率約 70 %を占め、年
間 40〜50 万本の出荷があるそうです。今後は
汚水マスだけでなく、雨水関連製品にも力を入
れていきたいということで、雨に特化した情報
左から進さん、内山さん、山崎さんと筆者
収集のため当協会に入会されたそうです。
【インタビュアーの感想】
【開発設計課での業務と今後について】
取材日は 5 月でしたが気温は 31 度。そんな中、
日本 1 、2 位に暑い街である熊谷へ行ってきました。
研究所内の皆さんは全身白の作業着を着用し、所
内も天井から差し込む太陽光を照明代わりとして、
とても明るく開放的な空間でした。これまでの工
場のイメージとはだいぶ違う印象を受けました。
基本新製品の開発が主体となっており、
(上下
水道に付随している製品)
、お客様の要望等をい
かに製品化することがポイントとなります。必要
に応じて製品の市場調査も営業と強力しながら
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
■雨水技術コーナー/技術評価認定(平成27年8月17日 雨水製評第10号)
雨水流出抑制施設
もやいドレーン 立体網状スパイラル構造体
株式会社吉原化工
◆問い合わせ先
株式会社吉原化工
〒470-3412 愛知県知多郡南知多町豊浜字椿廻間7-11
TEL:0569-65-1911
FAX:0569-65-2557
1. はじめに
面は線条網状の全面開口型で、80 %以上の集
近年、雨水流出抑制対策としてプラスチック
約された空隙を有し、何よりも、高耐圧強度、
製の雨水貯留浸透施設が普及し、その基礎及び
高圧縮クリープ特性を可能にしています。
外周の浸透層には単粒度砕石等の骨材が使用さ
れています。しかし、骨材の充填による浸透層
の施工では作業効率に課題があるという声も聞
かれます。そうした現場の声を反映しつつ、且
つ、単粒度砕石等の骨材よりも機能的な部材と
して、プラスチック製の暗渠排水材「もやいド
レーン」を使用した工法を発案しました。
本製品は特異な構造により暗渠排水材として
の評価は非常に高く、供給先は 95 %以上が公
共機関であることから高い信頼性を得ています。
写真–1 「もやいドレーン」
今回その「もやいドレーン」が雨水貯留浸透
3. 製品の特長
施設の浸透層に求められる機能が単粒度砕石等
の骨材同等以上であり、浸透層(砕石層)のな
(1)雨水貯留構造体の施工にあたり、工種の簡
い貯留施設にも緩衝材として土圧から貯留槽本
素化が図れるため工期短縮に繋がる。
体を保護する効果があると確認されました。
(2)雨水貯留構造体の底部に使用することによ
以上から、雨水貯留浸透施設に使用する単粒
り貯留槽と一体的な雨水貯留浸透槽が形成
度砕石等の骨材の代替部材として、また、貯留
でき、平坦性を確保することで、不陸対策
機能を備えた緩衝材として、平成 27 年 8 月 17
として安定した施工が可能である。
日付で雨水貯留浸透製品評価認定書「雨水製評
(3)空隙率が 80 %以上有するため、単粒度砕
第 10 号」を取得いたしました。
石等の骨材(空隙率 10 %〜40 %)に比べ、
流出抑制機能が向上する。
2. 立体網状スパイラル構造体
(4)雨水貯留構造体の側面に設置すると、掘削
「もやいドレーン」はポリプロピレンを素材
面との緩衝材として使用できる。
とし、押出成形による線条相互融着した立体網
(5)リサイクル材を使用しているため、環境負
状体であります。しかし一般的な立体網状体
荷が少ない。
(ヘチマ構造)とは異なり、内部にスパイラル
4. 耐圧強度の評価
パイプ状の筒状空洞部が配列され、立体網状体
でありながら複数の中空部を有しています。こ
「もやいドレーン」側面用の耐圧強度は 100
の構造を立体網状スパイラル構造体と呼び、表
kN/m 荷重時、厚み方向の圧縮率は 10 %以下
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
2
- 50 -
雨水技術コーナー
であり、幅方向は 3.5 %以下である。ここで設計
基準である水平方向荷重計算例より埋設深さ(地
表載荷荷重あり)3.9 m 相当、荷重 29.43 kN/m 、
2
及び鉛直方向荷重計算例より土被り 1.8 m(死
荷重)相当、荷重 32.4 kN/m に対して検証する
2
と、安全率を加味し 35 kN/m 荷重時とした場
2
合、厚み方向の圧縮率は 4.2 %以下、幅方向は
1.2 %以下である。結果「もやいドレーン」は
貯留施設周囲の土圧から貯留構造体を保護する
図–3 「底部・上部用」圧縮クリープ試験結果
ことができます。
6. 製品構成
今回の認定製品は使用箇所で規格が変わりま
す。基礎底面と本体の高さ調整として平面で使
用する「底部・上部用」は厚み 20 mm となり
ます。また、本体回りに厚み面が上下となるよ
うに段積みする「側面用」は厚みを 50 mm とし、
本体高さに合わせるため幅は 3 種類となってい
ます。また、2 枚重ねが標準仕様となり、「底
部用」
は両端揃いで結束していますが、
「側面用」
図–1 「側面用」耐圧試験結果(厚み方向)
は長手方向ジョイントが重なり合うように、50
mm 程ずらして結束しています。
図–2 「側面用」耐圧試験結果(幅方向)
5. 耐久性能評価
写真–2 「側面用」2 枚重ね
「もやいドレーン」底部用の耐久性は、圧縮
クリープ試験を上載圧 50 kN/m により 3 ケ月間
表–1 規格表(対象製品)
2
実施した結果試験体高さ 20mm に対し載荷 1 時
間後からの圧縮変形率 3.5 %であった。総圧縮
量で 0.75 mm という非常に小さい値となってい
る。この特性から雨水貯留構造体の基礎地盤と
して長期に亘り平坦性が確保されます。
- 51 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
(4)長さ調整及削孔の加工
「もやいドレーン」
の標準長さは 1.8 m であり、
設置の際端末の長さ調整が必要になりますが、
のこぎりで簡単にカットできます。また、本体
への流入管、及び流出管の挿入孔もホルソー等
にて削孔できます。
図–4 「もやいドレーン」浸透層 概略図
7. 施工手順
(1)連結方法
製品同士の連結は長繊維不織布(t = 4 mm )
を熱溶着にて貼り付け連結します。
写真–5 製品削孔状況
8. 環境への配慮
環境への負荷の低減は、土木事業にも課せら
れた責務のひとつです。そのためには供給され
る資材も環境保全に配慮した製品が求められま
す。
「もやいドレーン」は資源の循環を目的と
写真–3 連結方法
して、ポリプロピレンのリサイクル材を 50 %
(2)
「底部・上部用」設置
〜60 %使用したエコマーク認定商品であり、
貯留構造体の底部・上部に本体面積以上全面
溶出試験結果では環境面の影響を与える有害な
に敷設します。製品同士隙間のないように並べ、
物質の溶出は確認されていません。
長手方向、幅方向共に長繊維不織布の熱溶着に
9. おわりに
て連結します。
(3)
「側面用」設置
近年多発する水災害に対し、雨水流出抑制施
厚み面が上下となるように設置し、段積みは
設の必要性が増し、より機能的で作業効率の良
本体設置に並行して行います。製品同士が隙間
い工法が求められるようになっています。そん
のないようにして、長手方向、幅方向共に長繊
な背景の中で「もやいドレーン」の立体網状ス
維不織布の熱溶着にて連結します。
パイラル構造体が評価され、
(公社)雨水貯留
浸透技術協会のご指導のもと、品質条件の厳し
い雨水貯留浸透施設の補助材として認められま
した。本製品が雨水貯留浸透施設の貯留槽本体
をサポートすることで、施設自体を恒久的に機
能させ、雨水流出抑制施設の充実化に寄与でき
ると考えております。
写真–4 「側面用」設置
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
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若手の声
若手の声(40)
「雨水貯留メーカー2 年生」
渡邊 高義
Takayoshi WATANABE
リプロントーワ株式会社
営業部
昨今ゲリラ豪雨や竜巻の出現が地域に被害を
ていくことが今でもよくあります。
配属当初に、
与える様子を目の当たりにし、これまでの常識
取引先の販売店と同行した打合せの席では、何
を覆す甚大な被害が問題になっております。当
語をしゃべっているのか?というほど話の内容
社は現在、プラスチック製の雨水貯留槽メーカー
を理解するのに苦労しました。何せ雨水抑制が
として、河川等の溢水を防ぐのに一躍を担って
なぜ必要なのかさえ、よく理解していない状況
おります。そんな当社ですが、かつては建設・
でしたので。これまで学んできた製造分野の知
土木資材のメーカー様から受託した製品を作る
識とは一線を画し、すべて一から勉強をしない
1 プラスチック工場という立場で、良質な製品
といけない、いわば異業種転職したような状態
を作り出荷することに終始するものでした。し
であります。
かしながら現在は、貯留槽メーカーという立場
全てがチャレンジとなると、気が遠くなるよ
に変わり、そこに販売責任が加わりました。非
うな想いでこの一年を過ごしたように思いま
常に重大な任務を授かったのでありますが、異
す。しかしながら、この雨水貯留という業界が
常気象により安心な生活が脅かされる中、一つ
独特だと感じたのは、協会行事が沢山あるとい
の問題解消に向けて、社会に貢献する仕事に携
う点です。昨年 11 月には、雨水貯留浸透技術
わっていることは、私自身も誇りに思う昨今で
協会主催のセミナーに参加しました。雨水貯留
す。当社は元々、古河電気工業様から製造委託
の意義を理解し始めたのは、この時が起点だっ
という裏方の立場で、原料の選定及び製造、成
たかもしれません。各自治体が抱える雨水問題
形、出荷という工場側の業務に終始するに留まっ
の講演、実際の対策を講じた現場を視察し、
ておりました。しかし昨年 4 月、古河さんの事
様々な手法を凝らして取り組む様子を垣間見る
業撤退に伴い、ハイドロスタッフの商権を譲り
ことができました。そして今年 1 月には、東京
受け一年半になります。商権譲渡と併せ継承し
ビッグサイトで開催された Inter Aqua2015 にて、
た技術評価認定は、メーカーとしての責任の重
協会ブースの 1 小間を充当頂いて当社も参加
さも同時に担い、会社を挙げて今まで以上に、
し、多くの方々にお立ち寄り頂きました。雨水
技術力の向上と販売促進に邁進しているところ
対策を知らない人への説明を繰り返すうちに、
です。かつては、製造を担当する立場として、
また質問を投げかけられるうちに、自分がモ
生産、納期対応に協力して参りました。当時、
ヤっとしていたことを払拭させるのに良い機会
技術認定に際しては古河さんと一体となって取
となったように思います。
り組んでおりましたので、品質に対する理解は
今日の活動においては、設計コンサル、地方
ありましたが、今後はメーカーとして、雨水全
自治体の関係窓口を訪れ、設計の打合せや PR
般並びに地質、河川といった周辺環境への知識
活動を行っております。また、販売店との二人
を含め、一層理解を深めていく必要があります。
三脚の活動も相まって、足を動かすごとに日進
私自身は現時点で、雨水貯留に関する知識は
月歩という実感を得ながら、日々の活動に励ん
充分とはいえず、直面した課題ごとに理解をし
でいます。
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水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
出版物・文献紹介コーナー
川はどうしてできるのか
実務に役立つ総合河川学入門
地形のミステリーツアーへようこそ
藤岡 換太郎[著]
末次 忠司[著]
講談社/2014 年 10 月発刊
出版社名/2015 年 01 月発刊 /A5
河川は我々の生活に非常に身近な存在である
大学における河川工学の講義というと、基本
が、
その成り立ちについては知られていないことが
的な河川・洪水の特徴、雨水流出、河道計画、土
多く、
意外と奥深い。
そのような川のなりたちを地
砂動態などの知識を習得することに主眼がおか
形や地質の観点から迫っているのが本書の趣旨で
れていた。ところが、学生がいざ公務員あるい
ある。
本書の特徴は、
非常に難解で複雑な河川の形
はコンサルタントとして実務に付いたとき、
打合
成過程を謎かけ形式にして、
読者に平易に説明し
せの場で交わされる聞いたこともない数々の専
ている点である。
この中では、
河川が作り出す不思
門用語や慣用句に頭を悩まされることであろう。
議な現象を
“13 のミステリー”
として紹介している。
本書はこうした若手技術者の誰しもが直面す
例えば、
“ヒマラヤを乗り越える川”
では、
世界
る問題を見事に捉えており、実務における河川
の屋根と呼ばれ、標高 4000m のヒマラヤを乗り越
技術の云々を若手技術者の視点に立って実に簡
えて流れている川の謎について説明されている。
潔明瞭に解説している。まさに河川に携わる者
そもそもヒマラヤ山脈は、今から 4300 万年
の入門書である。本書の目次構成は、①河川全
前にインド亜大陸がユーラシア大陸に衝突して
般、②地形・河川、③雨・洪水・土砂、④水
できたが、その以前に周辺を流れていた川は山
害、⑤水害などに影響をおよぼすもの、⑥対
と共に隆起して傾斜が急になるため河床を侵食
策、⑦利水、⑧環境、管理となっており、河
する下刻作用により河床をより深く削る。この
道・流域で起きている現象についてのプロセス
隆起と下刻の絶妙な調和がヒマラヤを乗り越え
を通して河川工学を総合的視点で記述されてい
る川を維持している。また、
“河川の争奪”の
る。本書の特徴は以下のとおりであり、河川の
謎でも、断層のずれや河川の浸食作用が深く関
基礎知識および要点を理解しながら実務で使う
わっており、アジアにおけるかつての最大河川
内容も知ることができる。
であったホン川の上流部が揚子江やメコン川に
・各項目の文頭に要点が整理されている。
奪われた事例も説明されている。水環境や河川
・図、
表、
写真を用いて説明が簡潔に整理されている。
分野における昨今の中心的話題である気候変動
・説明文のなかで重要な用語が赤字になっており、各
やその影響評価に関しては代表的な時間スケー
項目のキーワードを簡単に把握することができる。
ルはせいぜい 100 年オーダーであるが、本書で
このため、河川に関わる若手技術者だけでな
は、地形変化の時間スケールは数万年、数十万
く、初めて河川工学を学ぶ学生、技術者にも参
年、場合によっては数百万年以
考となる書籍である。また、著
上に及ぶ“壮大”なものである。
者の経験も活かされ、就職・公
このように河川計画・管理を行
務員・技術士試験等の資格試験
う上でも、壮大な時間軸を経て
の要点もしっかり押さえられて
きた河川を理解する必要がある
おり、これから試験を控える者
と考えられる。(Y.N )
たちにとっても必見である。
(J.O)
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
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雨水協会のページ
雨水協会のページ
□雨水協会の動き
〔2015.6.16~2015.9.15〕
■国際会議・国際交流等
① 建築総合設備協会講演(2015.7.8)
‌ (一社)建築設備綜合協会が主催した“「雨
水活用を推進する技術と豪雨対策」-雨水利
用推進法への対応を考える-”をテーマとし
た「第 53 回新技術・製品フォーラム」にて、
「建築物における雨水活用の意義と事例」と
題して、屋井部長が基調講演を行った。
(参加者:27 社、55 名)
*国立台湾海洋大学 廖教授来訪
(2015.8.17~8.20)
廖教授と江助手が来日し、協会の案内で日本
工営の水循環解析ソフト(NK-GIAS, NK-GHM )
の研修プログラムを受講した。
■普及啓発のための関係機関等への協力等
*インターンシップ(2015.7.28~8.4)
夏期休暇期間を利用したインターンシップ
で、福井工業大学の大学院生(前川翔太さん)
が当協会で 1 週間、雨水貯留浸透技術の研修を
行った。
② 会員企業出前講座(前澤化成工業)
(2015.7.9)
‌ 当協会の会員企業・前澤化成工業㈱の社員
研修会「水防法、下水道法の一部改正のポイ
ント」において、日本水道新聞社の村仲部長
の法改正の概要説明に関連して、屋井技術部
長が「プラスチック製貯留構造体の規格化に
向けて」と題して、講演を行った。
(聴講者:約 20 名)
*第 8 回雨水ネットワーク会議全国大会 in 愛知
(2015.8.21~23)
~ものづくり愛知の忘れ物 雨水 里山 環の
心~
平成 20 年の第 1 回東京都に始まり、福岡市、
松山市、大阪市、東京都、仙台市、福井市を経
て、第 8 回目は愛知県の愛・地球博記念公園の
会場で開催された。当協会は、実行委員会世話
人会のメンバーとして発足当初より参画してい
る。開催内容については、本号トピックス欄に
掲載、また講演内容等については次号にて紹介
する。
■協会の行事
*内閣府立入検査(2015.9.4)
当協会は平成 24 年 8 月 1 日に公益社団法人
に移行したが、3 年に 1 回の内閣府による立入
検査が 9 月 4 日に行われた。当日、内閣府より
2 名の検査官が来協し、事業内容、会計業務等
について監査を行った。
*国分寺崖線湧水見学会(2015.9.11)
水文水資源学会 2015 年総会の全体プログラ
ムの中で、韓国および中国からの代表団対象の
現地視察コースの 1 つとして、国分寺崖線湧水
見学会が企画された。協会の案内で「殿ヶ谷戸
庭園」
、
「真姿の池湧水群」などを見学した。
(参加者:約 10 名)
*常設委員会
・編集委員会(2015.9.7)
・編集小委員会(2015.8.31)
・評価認定委員会(2015.8.4)
*その他の会議、委員会等
・雨水ネットワーク会議世話人会(2015.6.24)
・日本建築学会雨水普及小委員会
(2015.6.17 、8.19)
・グリーン・ビジネス・マネジメント研究会
(2015.8.28)
・プラスチック地下貯留槽共同研究会
(2015.6.23 、7.7)
*社外講演
市民団体や関連関係機関等の依頼により、雨
水貯留浸透や水循環に関する講演活動を行なっ
た。
- 55 -
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
雨水協会のページ
会員名簿
[正会員] 22 社
株式会社アートンシビルテクノ
株式会社IHIインフラシステム
いであ株式会社
株式会社エイト日本技術開発
エバタ 株式会社
共和コンクリート工業株式会社
株式会社建設技術研究所
清水建設株式会社
積水化学工業株式会社
タキロン株式会社
秩父ケミカル株式会社
東急建設株式会社
株式会社東京建設コンサルタント
日本工営株式会社
日本ヒューム株式会社
パシフィックコンサルタンツ株式会社
物林株式会社
株式会社ホクコン
前澤化成工業株式会社
丸栄コンクリート工業株式会社
三井共同建設コンサルタント株式会社
三井住友建設株式会社
一般社団法人地下貯水工法協会
中央開発株式会社
鶴見コンクリート株式会社
帝人フロンティア株式会社
天昇電気工業株式会社
株式会社トーテツ
東邦レオ株式会社
鳥居化成株式会社
株式会社日東
日東商事株式会社
日本道路株式会社
株式会社 NIPPO
株式会社ハイクレー
パスキン工業株式会社
株式会社林物産
日之出水道機器株式会社
有限会社プラネッツ
平和コンクリート工業株式会社
株式会社ホクエツ
北海道ポラコン株式会社
ポラコン工業会
松岡コンクリート工業株式会社
三井住建道路株式会社
ミニゲート研究会
株式会社明治ゴム化成
株式会社ヤマックス
リス興業株式会社
リプロントーワ株式会社
集水軒工程顧問有限公司(台湾)
道峰コンクリート(韓国)
[賛助会員]45 社
秋田エコプラッシュ株式会社
アロン化成株式会社
雨水貯留浸透製品工業会
株式会社エコマック
株式会社オーイケ
関西ポラコン株式会社
株式会社コクカコーポレーション
株式会社佐藤渡辺
株式会社サムシング
サントップエンジニア株式会社
スピーダーレンタル株式会社
世紀東急工業株式会社
積水テクノ成型株式会社
株式会社ソイルリサイクル工業
大成ロテック株式会社
「水循環 貯留と浸透」 投稿のご案内
「水循環 貯留と浸透」編集委員会では会員・非会員を問わず、以下のコーナーに掲載する原稿
を募集しています。
コーナー名
募集対象者
頁数
雨水貯留浸透に係わる事
業への取り組み
自治体職員
3-4
水循環レポート
自治体職員、一
般読者、NPO 関
係者等
2-3
同上
1-2
読者の声
文字数・写真図表等の枚数の目安
1 頁:1500 字
2 頁:3250 字
3 頁:5000 字
4 頁:6800 字
*写真、図表は 1 点 250 字に相当
内容
雨水貯留浸透に係わる自治
体の事業紹介
水循環に係わる活動報告
本誌に関する感想、要望等
・原稿は「横書き」とし、電子データでご提出ください。
・掲載にあたっては、委員会にて原稿を確認して修正のお願いをすることがあります。
また、場合によっては掲載をお断りすることがあります。
・紙面のデザインは、編集の都合上、事務局が行います。
なお、ご不明の点がございましたら、事前に以下へお問い合わせもしくはご相談下さい。
〒 102-0083 東京都千代田区麹町 3 − 7 − 1 半蔵門村山ビル 1F
公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会 技術第二部 屋井裕幸
TEL:03-5275-9591 FAX:03-5275-9594
E-Mail:[email protected]
ホームページ:http://www.arsit.or.jp
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
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雨水協会のページ
雨水協会のページ
雨 水 協 会 の 刊 行 物 案 内
□ご希望の方は、下記申込様式により FAX または E-mail でお申込みください。
平成 26 年 4 月 1 日より改訂
○お問い合わせ・お申込み先
平成 年 月 日
公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会 総務部 宛
TEL:03-5275-9591 FAX:03-5275-9594 E-mail:[email protected]
購 読 申 込 書
*概要は http://www.arsit.or.jp「書籍」を御覧下さい。
図 書 名
判型・頁
単価(税込)
円
雨水浸透施設技術指針(案)
−調査・計画編−(増補改訂版)
A4・146
5,400
雨水浸透施設技術指針(案)
−構造・施工維持管理編−(増補改訂版)
A4・120
5,400
流域貯留施設等技術指針(案)
−増補改訂版−(CDR 付)
A4・101
4,320
戸建住宅における雨水貯留浸透施設
設置マニュアル(簡易製本)
A4・127
2,160
雨水利用ハンドブック
A4・380
6,480
雨水貯留浸透施設−製品便覧−
A4・150
2,700
雨水活用建築製品便覧(CD 版)
A・115
1,620
雨水活用建築製品便覧(簡易製本)
A・115
2,160
雨水貯留浸透施設総覧(簡易製本)
A4・429
4,320
都市の水循環再生に向けて(簡易製本)
A4・136
3,240
都市域における水循環系の定量化手法
−水循環系の再生に向けて−
A4・139
2,160
エコロジカルポンド
−計画・設計の手引−
A4・227
3,240
コミュニティポンド
−整備事例集−
A4・174
3,240
コミュニティポンド
−計画・設計の手引−
A4・188
3,240
雨水技術資料(VOL.1 〜 40)
B5
原則非売品
水循環 貯留と浸透(VOL.41 〜 98)
A4
原則非売品
数量
冊
金 額(税込)
円
合 計
◎別途送料が必要となります。
送 付 先(請求先)
住 所
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または会社名
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所属部署
担当者名
(会社の場合)
TEL
FAX
E − mail
右の書類が必要な際は を付けて下さい。
(請求書等は図書に添付します)
見積書
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納品書
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
次号内容予告(第 99 号)
特集:気候変動適応策のあり方
■ 水循環レポート
■ 特集/報文
□ 第 8 回雨水ネットワーク会議全国大会 in 愛知を終えて
□「雨庭のすすめ」 京都大学名誉教授 森本幸裕
□ NPO の取り組み紹介 樋井川市民会議
□ 次号の特集は、社会資本整備審議会河川分科会の「気候変
動に適応した治水対策検討小委員会」から出された答申「水
災害分野における気候変動適応策のあり方について」を取
り上げ、施設の能力を上回る外力(超過外力)の考え方、
災害情報・ソフト対策、貯留浸透の適応策としてのあり
方、渇水と雨水利用等について、それぞれの分野に携わる
方々にご執筆いただくこととした。
■ トピックス
□ 研究の現場を訪ねて(42) 群馬大学若井研究室
□「雨と上手につきあう」 下水道展 NPO コーナーより
■ 雨水技術コーナー
□ 技術評価認定「レインボーエコブロック」日本道路(株)
■ 雨水貯留浸透に係る事業及び制度
(シリーズ NO.56) ■ 若手の声(41) 群馬大学若井研究室学生
□ 水循環基本法及び水循環基本計画の概要
「水循環
編集委員長
守 田 優
編集副委員長
二 瓶 泰 雄
アドバイザー
山 下 武 宣
委
員
■ 出版物・文献紹介コーナー
貯留と浸透」編集委員会
「水循環
委
芝浦工業大学
工学部 土木工学科 教授
員
長
委
員
グエン・ソン・フン
本 庄 正 良
内 山 雄 介
日本工営(株)流域・都市事業部 河川 ・ 水工部 課長
三 好 祥 太
川 㟢 将 生
国土交通省 国土技術政策総合研究所 水循環研究室 室長
吉 田 寿 人
久 保 田 勝
東北電力(株)顧問
吉 原 美 穂
栗 原 秀 人
メタウォーター(株)技監
島 津 哲 也
東京都 建設局 河川部 計画課 課長
増 田 隆 司
日本下水道事業団 理事
舛 原 邦 明
ライト工業(株)関東支社 顧問
三 宅 紀 治
元)清水建設(株)技術研究所
(株)建設技術研究所
東京本社 国際部 顧問
(公社)雨水貯留浸透技術協会
水循環アドバイザー
(株)ホクコン 技術開発チーム サブリーダー
秩父ケミカル(株)
代表取締役社長
日本水道新聞社 出版企画事業部
(敬称略 五十音順)
編集後記
今年の夏は記録的な暑さで、全国各地で観測以来の猛暑日
となった。また、日本だけでなく世界的にこの傾向は続いてい
るようで、7 月の世界の気温は観測史上最も高く、2015 年 1 月
~7 月の平均気温でも観測史上最も高かったという。猛暑とは、
平常の気温と比べて著しく暑いときのことを言うが、日本では 1
日の最高気温が 35 ℃以上の日を猛暑日という。
少し気象用語のおさらいをしてみよう。夏日…1 日の最高気
温 25 ℃以上の日、真夏日…30 ℃以上の日、猛暑日…35 ℃以
上の日、熱帯夜…夜間の最低気温 25 ℃以上の日、酷暑日は猛
暑日と同じ意味であるがマスコミ用語で気象用語ではない。ち
なみに、冬日は 1 日の最低気温が 0 度を下回る日、真冬日は 1
日の最高気温が 0 度を下回る日のこと。
若 山 清 海 (公社)日本河川協会 嘱託
横 山 晴 生 (独)都市再生機構 都市施設整備室長
(敬称略 五十音順)
Journal of HydrologicalSystem
三井共同建設コンサルタント(株)
大 久 保 純 一 東京事業本部 河川計画グループ 主任技師
国土交通省 水管理・国土保全局 治水課
堤防構造分析官
水循環 貯留と浸透
日本工営(株)
流域・都市事業部 河川 ・ 水工部 課長
内 山 雄 介
東京理科大学
土木工学科 教授
VOL.98
貯留と浸透」編集小委員会
発行日:2015 年 10 月 19 日(通巻 98 号/年 4 回発行)
編 集:公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会
「水循環 貯留と浸透」編集委員会・編集小委員会
発行人:公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会 忌部 正博
〒 102 ー 0083 東京都千代田区麹町3丁目7番1号(半蔵門村山ビル1階)
TEL:03 ー 5275 ー 9591 FAX:03 ー 5275 ー 9594
E - mail:[email protected] URL:http://www.arsit.or.jp
国際標準逐次刊行物番号 ISSN 1346 − 6089
水循環 貯留と浸透
2015 vol.98
ASSOCIATION FOR RAINWATER STORAGE AND INFILTRATION TECHNOLOGY
3-7-1,Kouji-Machi Chiyoda-Ku,Tokyo Japan 102-0083
- 58 -
ISSN 1346-6089
水循環
貯留と浸透
第
号
98
特 集 / 水循環基本法に期待する〜都市の水循環の現状と今後に向けて〜
ARSIT
Association for Rainwater Storage
and Infiltration Technology
水循環 貯留
と浸透
Journal of Hydrological System
特集(座談会)/水循環基本法に期待する
~都市の水循環の現状と
今後に向けて~
Special Edition : Expect to the Newly Established Basic Law on Water Cycle
~Current Status and Future Prospects on Urban Water Cycle~
http://www.arsit.or.jp
公益社団法人
雨水貯留浸透技術協会
15
’
2015
VOL.
98
公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会
ASSOCIATION FOR RAINWATER STORAGE
AND INFILTRATION TECHNOLOGY