開発途上国における看護技術移転教育プログラムの

3.14 年度総括研究報告書
(14公5)開発途上国における看護技術移転教育プログラムの開発に関する研究
主任研究者:田代 順子(聖路加看護大学)
(要旨)本研究の目的は、開発途上国への看護の技術移転活動に関わる人材養成のための様々なレベルでの教
育プログラムを開発することである。平成 14 年度は開発途上国で看護技術移転活動している、或は活動経験
のある看護職専門家が考える活動過程やその過程上の課題や問題を明らかにすること、その背景となる途上国
の諸特徴を明らかにすることであった。
「人材育成プログラム」
、
「基礎看護教育プログラム」
「看護技術移転過
程」に焦点を当て、本年度は、日本国内・現地(4ケ国)で合計 34 名とカウンターパート1ヶ国の面接調査
を実施した。また1ヶ国で看護基礎教育に関して情報収集した。その結果、
「人材養成プログラム」の活動過程
は、活動の基盤整備、ベースライン調査、方針決定、実施とモニタリング方法の計画、実施計画、実施中の運
営管理、評価、評価・改善システムの形成の過程とその中での下位活動からなっていた。看護職専門家の活動
過程での課題・問題は異文化と折り合う、ことから始まり、基本能力として専門知識と技能、国際保健・協力
理論の学習ニーズや、プロジェクト目標・経過の明確化、事前準備・理解、プロジェクト内外組織の機能化、チ
ーム内外の有機的関係性、活動の継続的発展化と活動過程に応じて、課題・問題と学習ニーズが抽出された。
加えて、
バングラディシュ人民共和国の看護基礎教育のプロファイルや支援活動構築枠組みが明らかになった。
キーワード:開発途上国、看護技術移転、国際看護コラボレーター養成プログラム卒前教育、
卒後教育、現任教育
1.目的
(研究協力者:所属)
本研究の目的は看護開発を目指す開発途上諸
菱沼典子・平林優子・有森直子・水野恵理子・酒
国への日本の様々な看護の技術移転活動に関わ
井昌子・橋爪可織・大迫哲也・射場典子・佐居由
る人材養成のための基礎教育過程から現任・継
美・堀内成子・江藤宏美・Carolin M.White(聖
続教育、及び大学院修士レベルの人材養成プロ
路加看護大学)、平野かよ子(国立保健医療科学
グラム開発を行うことである。具体的には開発
院)、荒井蝶子(国際医療福祉大学大学院)、手島
途上国における医療施設内、地域保健、あるい
恵(千葉大学大学院)、三好知明、本田五月、實
は基礎教育の場での看護技術移転等、現任・継
吉佐知子、内藤里美、金居久美子、加藤紀子、田
続・大学院教育用のカリキュラム、教育内容、
村豊光、中馬潤子、藤田実香、小西香子、後藤美
教授方法を開発することである。これらの開発
知子、浅沼智恵、橋本千代子(国立国際医療セン
を通して、国際看護コラボレーションの一層の
ター)、宮地文子(埼玉県立大学)、平賀恵子・山
発展に資するものである。
田巧(国立看護大学校)
2.研究班の構成と各班の目標
3班から構成しており、市橋班は、人材養成活
(主任研究者:所属)
動に焦点を当て、様々な看護技術移転に関わる現
田代順子(聖路加看護大学)
任教育用ガイドライン(協働基準)の作成、稲岡
(分担研究者:所属)
班は開発途上国での基礎看護教育コラボレータ
市橋富子(国立国際医療センター)
ー継続養成コース開発、田代班は卒後大学院修士
稲岡光子(国立看護大学校)
レベルの国際看護コラボレーター養成プログラ
3.14 年度総括研究報告書
ムのカリキュラム開発を分担した。初年度である
び研修受講生から、d.稲岡班では対象国保健省看
本年度は、各班とも現状把握から進めた。各班の
護課、看護審議会、看護教育施設、医療施設及び
目標は、市橋班:1)現在までに実施された開発
関連機関施設での現地調査、及び聞き取り調査を
途上国での人材育成トレーニングの実施過程上
行った。
の必須活動項目を記述し、効果的人材トレーニン
2)調査方法:各班とも面接の情報収集技法は
グ管理ガイドラインの枠組みを明らかにする。稲
基本的にはインタビューガイドに基づく、半構成
岡班:2)これまでの日本の政府援助が行った開
的個別法及びフォーカス・グループ面接法
発途上国での看護教育プロジェクトの経過を記
(Kreuger,
述し、効果的な教育援助の要素を明らかにする、
験者の日本国内での面接調査あるいは複数国で
3)これまでに日本の政府援助が行われていない
専門家経験者には非構成的な講演で、研究者の質
バングラディシュ人民共和国の基礎看護教育制
疑応答で行なった。現地調査はフィールドノート
度・教育の現状とその取り巻く社会、環境、経済、
及び資料の収集を行った。また、過去の看護専門
保健医療の状況を記述・分析し、平成 15 年度の
家の活動記録も分析対象とした。加えて、活動の
本調査計画をする。田代班:4)国際看護専門家
背景となる国別概況の文献の収集を行った。
1994)であった。国際看護専門家経
として看護技術移転に関わる、或は関わった日本
3)情報分析方法:テープ録音情報の逐語録に
人国際看護コラボレーターが考える協力過程(準
し、面接時のノート等を参考にし、インタビュー
備・計画・実践・評価)上の問題や課題及び看護
情報を内容分析した。コーティングリストを作成
継続教育・学習ニーズを記述し、必要とされる能
しながら看護職専門家の活動過程の課題・問題と
力と能力開発ニーズを明らかにする。5)国際看
必要とされた能力の点から分析した。活動記録等
護コラボレーターの活動実施国健康・看護の課題
の文書類は活動内容のカテゴリー化を行い必須
とその背景となる社会・文化・経済状況を記述す
項目を抽出した。既存の文書は情報収集フォーム
る。6)活動実施国の医療・保健システムと看護
を作成し、同一の視点で比較検討できる資料作成
及び他医療・保健関連職種と、看護実践を支える
を行った。
看護管理・教育・行政システムを記述する。7)
4)倫理的配慮:情報提供者には研究協力依頼
上記3班の研究での結果から、各看護協力(技術
を文書及び口頭で行い、面接者には自由意志での
移転)プロジェクト間の問題あるいは課題及び学
研究協力を保障し、同意書に署名してもらった。
びの共通点と相違点それらに影響する諸要因を
個人名はコード化し匿名性を確保した。研究計画
明らかにする。
は各研究班の所属する機関、聖路加看護大学及び
国立医療センターの研究倫理委員会で審査を受
3.方法
けた。
研究方法は複数の対象と複数の情報方法を用
いて実施した。
4.結果・考察
1)調査対象:市橋・田代班とも a.開発途上
1)情報収集概要:市橋・田代班では、看護職
各国で1年以上の国際看護協力の活動に関わっ
専門家経験者 21 名、現地専門家 13 名、加えて第
た経験者で、日本国内在住の研究協力を承諾した
1 班では現地カウンターパート 11 名、トレーニン
方、と b.1 年以上の予定で国際看護協力活動し
グ受講者 1 名、ヘルスセンタースタッフ 6 名であ
ている国際看護協力専門家で調査協力を承諾し、
った。稲岡班では、保健省看護課、看護審議会委
加えて、c. 市橋班では現地のカウンターパート及
員、看護教育施設長、教員、医療施設長および職
3.14 年度総括研究報告書
員からの聞き取りを行った。加えて、文献、文書
課題であったと報告された。事前準備としてはカ
類の収集を行った。
ウンターパートの二―ズ理解や活動経過の把握
2)調査結果の総括
が課題として抽出された。活動の実施ではその母
表 1 に、各班の結果を一覧した。市橋班と田代
体組織や行政を有効に機能するように人・資源・
班の主に看護職専門家の個別、グループ面接の内
システムを活用することが課題であり、それらの
容分析結果は活動経過に沿って報告されている
多様な課題の対処能力が必要とされ、その対処の
ため、活動の過程で結果を総括報告した。加えて、
能力の学習ニーズが明らかになった。
班ごとで異なる研究結果は特記すべき項目とし
今年度明らかにしたこれら活動上の課題及び
て要約結果を提示した。
学習ニーズは背景となる様々な状況既存の情報
3)開発途上国での看護職専門家の活動過程上の
との関連を見ることで活動課題を洗練し、専門家
課題
の必要な対処能力とその能力開発を考える計画
1)市橋班は人材養成活動でのガイドラインを作
である。
成するために、専門家が現在行っている活動を段
3)稲岡班では看護基礎教育分野での看護職専
階的な課題として記述し、活動過程でとるべき段
門家の養成プログラム開発に必要となる、開発途
階を抽出した。加えて、宮地は自らの活動過程を
上国の看護教育を取り巻く状況をバングラディ
遡及的に分析し、その段階は 8 段階に示すことが
シュ人民共和国の建国の歴史、看護制度、管理と
できると示した。
教育施設・教育活動等をケースとして記述し、明
準備段階では予算・人材確保と、体制づくりが
らかにした。バンクラディシュでは限られた看護
必要であった。活動計画段階では現状の幅広い把
教育の人的・物的資源の中での自助努力は評価で
握と、カウンター・パートとの問題の共有が重要
きる現状であった。今年度、日本が実施した看護
であることが明らかになった。加えて、トレーニ
教育プロジェクトの評価は十分な情報が得られ
ングの選定、目標、カリキュラム、方法、教材、
ず、来年度の計画として進める。
場の設定、そしてトレーニングの効果評価・モニ
タリングの方法の計画活動が抽出された。活動実
施段階では時間管理とさらに、活動の継続のため
5.今後の研究の方向性
開発途上国での看護技術移転の現任・継続
の評価し改善のための活動が抽出された。カイド
卒後教育のための、今年度の現状の把握と一次あ
ラインに項目の概要が明らかになった。今後、こ
るいは二次分析は終了できたと考える。来年度は
の段階での活動項目をプログラミングとアドミ
今年度の結果を踏まえ、3 班の結果を有機的に活
ニストレーションの視点でさらに検討し、カイド
用し、国際医療に貢献できる看護教育モデルの提
ラインの作成に向けてゆく計画である。
言に向けてゆく計画である。
2)田代班では看護職専門家の認識する活動過程
上の課題を抽出し、学習ニーズを明らかにした。
6.参考文献
活動過程上の課題と継続学習ニーズとは裏腹な
1)Kueger R.A.& Casey M.A.(2000):Focus Group. Sage.
関係で語られた。
2)Partanen TJ, Hogstedt C, et al.(1999): Collaboration
派遣後はまず、異文化と折り合う課題を持ち、
between developing and developed countries and between
加えて、専門家としての活動目標・計画の明確化
developing countries in occupational health research
が大きな課題であり、また、有効な活動のために
and surveillance. Scand J Work Environ Health.
は人間関係づくり・コミュニケーションや交渉が
25(3):296-300.
3.14 年度総括研究報告書
表 1.開発途上国における看護職専門家の活動過程での過程・特記一覧
活動
過程
業務概要
派遣準備
活動準備
活動計画
活動実施
活動評価
人材養成活動
トレーニング対象者
・3次医療施設看護職
・補助医師、助産師、
ヘルスワーカー
看護基礎教育支援
インドネシア国
地域母子保健
母子健康手帳の
普及
平成 15 年度調査計画
異文化と折り合う(力)
基本能力(語学力)(看護観)
(協働関係構築力)
国際保健・協力理論の知識
(疫学、社会人類学・医療経済学)
(看護専門知識・技能)
プロジェクト目標・計画の明確化
相手国国情・人材確保
(対象国プロフィルと構造理解)
事前準備
(カウンターパードニーズ分析)
事前調査の活用
(プロジェクト展開経過の知識)
組織の有効な機能化
(人間関係づくり)(コミュニケ
ーション・交渉力)(決定や主張
力)
(人・資源マネージメント力)
(課題解決能力)
(看護管理・教育の知識と能力)
活動の継続発展化
(カウンターパートへの自立支
援 力 )( 相 手 国 の 取 り 組 み 支 援
力)
(成果形成と表現力)
専門家としての能力開発
(体験を生かすステップ・アッ
プ)
予備調査
(バングラディシュ)
背景と現状
歴史
看護教育制度
看護審議会、看護課によ
る統括
4 年制ディプロマ課程
実習には奨学金給付
教育施設・設備の不整備
継続教育 ICU/CCU
大学院、遠隔教育 1 年
(オーストラリアによ
る)
開発途上国の問題
看護権限の弱さ
人材不足
言語化・思考
教育方式の違い
活動に影響するもの
対象国の文化・政治・経済体制
保健医療システム
プロジェクトの定着性
能力開発法
段階に応じた教育
リーダーシップトレーニング
支援ネットワーク
7.住民への啓発
(啓発・教育活
動)
8.手帳の有料化
対策(ニーズ調
査、施策化)
カウンターパート調査
人材育成トレーニ
ングは病院・地域医療の
質向上と評価
仕事量の増加、トレー
ナーと一次医療の人材
の不足、
日本人専門家との短
期的多彩な活動とカウ
ンターパートとの長期
展望とのギャップが報
告された。
コラボレーション活動
(病院、PHC,看護教育)
プロジェクト看護職専門家活動
ODA
13 名
NGO
5名
課題 と(学習ニーズ)
1.プロジェクト
基盤整備(計
予算の確保
画・策定・体制
人材の確保(人材不足) 作り)
体制作り(委員会設置) 2.ベースライン
調査(地区診
現状把握・問題の共有
断・疫学調査)
人材育成ニーズの把握
研修対象者の選定
3.母子手帳配布
研修目標の設定
方針の決定(事
トレーニング方法論
業計画、従事者
カリキュラム
研修)
教材の作成
4.モニタリング
モニタリング・評価法
(保健事業の評
会場設定
価)
時間管理
5.母親学級の実
施(健康教育、
地区組織育成)
評価サイクルシステム
6.教材開発(健
形成
康教育・従事者
研修)
改善活動
特記事項
地域での
活動例