モーニングレクチャー 抗菌薬とTDM 2015年 5月 28日 松山赤十字病院 ICT 薬剤部 宮岡 純也 TDM(Therapeutic Drug Monitoring) 血中の薬物濃度に基づいて投与量を設定 どんな薬が適応になるか? ・投与量と濃度の関係にばらつき ・治療域と毒性発現域が近い ・血中濃度と効果,副作用が相関 →血中濃度=薬物治療における指標の一つ グリコペプチド系 ・抗MRSA薬のバンコマイシン、テイコプラニン アミノグリコシド系 主にグラム陰性菌のスペクトルカバーのため併用 腎障害、耳毒性の副作用のため使用頻度少。 ・ゲンタマイシン・・・グラム陽性球菌に相乗効果 ・トブラマイシン、アミカシン・・・グラム陰性桿菌用 ・ストレプトマイシン・・・結核等抗酸菌治療 ・アルベカシン・・・MRSAに活性 TDMを行う意義 Defensive 安全性確保のため + Offensive 効果を最大限発揮させる PK-PD理論に基づいた投与法 PK:薬物動態(pharmaco-kinetics) Cmax 濃 度 AUC 時間 投与→吸収→分布→代謝→排泄 薬の用法・用量と生体内での濃度推移の関係 Cmax・・・最高血中濃度 AUC・・・血中濃度曲線下面積 T1/2・・・半減期 PD:薬力学(pharmaco-dynamics) Con. 1/2MIC 菌 量 MIC 2MIC 時間 薬の濃度推移と有効性、安全性の関係 MIC(minimum inhibitory concentration)・・・最小発育阻止濃度 MBC(minimum bactericide concentration)・・・最小殺菌濃度 PK-PD解析 PK 宿主×抗菌薬 PD 起炎菌×抗菌薬 PK-PD 宿主×抗菌薬×起炎菌 抗菌薬を投与して、期待する有効性を得るために、また予測される副 作用を軽減するために、どのように用法・用量を設定すべきか? Cmax/MIC、AUC/MIC、Time above MIC、 各種抗菌薬とPK-PD 濃度依存性 濃度依存性 時間依存性 各種抗菌薬のPK-PDターゲット PK-PDに基づいた投与量の変化 クラビット® 100mg×3 → 500mg×1 ゾシン® 2.5~5g/日(分2) → 13.5~18g/日(分3~4) メロペン® 最大2g/日 → 最大3g/日(髄膜炎:6g/日) ユナシンS(スルバシリン) 3g×2回 →最大 3g×4回(後発品の添付文書には記載無し) 抗MRSA薬について 抗MRSA薬 TDM推奨 • VCM バンコマイシン • TEIC テイコプラニン • ABK アルベカシン(ハベカシン®) TDM不要 • LZD リネゾリド (ザイボックス®) • DAP ダプトマイシン(キュビシン®) ①VCM:バンコマイシン • MRSA感染症治療の標準薬 • グラム陰性桿菌には抗菌力なし • 主な副作用:腎障害 • 急速投与でレッドマン症候群(アレルギー様症状) →1時間以上かけて点滴(1gあたり) VCMの使いどころ ・あらゆるMRSA感染症 (肺、皮膚、骨、心臓、中枢神 経) ・耐性グラム陽性菌感染症 -腸球菌 E.faecium (E.faecalisはペニシリン系が1st) -コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(表皮ブドウ球菌等) -ペニシリン耐性連鎖球菌による髄膜炎、心内膜炎など ・β-ラクタムアレルギー患者でのセフェムの代替薬 TDMガイドライン VCMTDMの コンセンサスレビュー IDSAガイドライン VCMのPK-PD • AUC24/MIC≧400 が有効性の指標 • 実臨床でAUCは測定困難、トラフ値を代替指標 (ピーク値は通常測定不要) ・目標トラフ値は通常10~15 ㎍/mL 重症感染では15~20㎍/mL (※添付文書 トラフ値10μg/mlを超えないことが望ましい) VCMの血中トラフ濃度と腎障害の関係 40% 33% Rate of nephrotoxicity 35% 30% 25% 21% 20% 10-15 mg/L (n=44) 15-20mg/L (n=15) 20% 15% 10% 5% 5% 0% <10 mg/L (n=95) >20 mg/L (n=12) Initial trough value, ・20㎍/mL以上は腎毒性が高リスクになり推奨されない Lodise T P et al. Clin Infect Dis. 2009;49: 507-514 VCMトラフとAUCの関係 【目標AUC/MIC≧400】 ★MRSAにおいてMIC=2はSusceptible 治療不良の報告があり、注意を要する(代替薬を考慮する) 添付文書の投与法 ・通常,1日2g(0.5g×4回) または (1g×2回) ・高齢者には,(0.5g×2回) または (1g×1回) 腎機能とVCM体内動態の関係 VCM0.5g1回投与 腎機能 AUC (μg/hr/ml) 半減期 (hr) 70≦Ccr 90 3 50~70 95 7 30~50 163 11 15~30 375 20 Ccr<15 683 35 腎機能(糸球体濾過量)の推定 ■Cockcroft-Gault式 (Cr クリアランス ) ml/min (140-年齢)×体重kg (女性×0.85) 72 × 血清Cr (mg/dl) ■eGFR推算式 ml/min/ 1.73m2 →体表面積の考慮が必要 BSA 194×血清Cr -1.094×年齢 -0.287 × (女性×0.739) 1.73 検査結果のeGFRは標準体格(1.73㎡)当たりの糸球体濾過率。 体格の小さな患者で、そのまま扱うと過量投与になりうる 腎機能(糸球体濾過量)の推定 ■Cockcroft-Gault式 (Cr クリアランス ) ml/min (140-年齢)×体重kg (女性×0.85) 72 × 血清Cr (mg/dl) ■eGFR推算式 ml/min/ 1.73m2 →体表面積の考慮が必要 BSA 194×血清Cr -1.094×年齢 -0.287 × (女性×0.739) 1.73 86歳 女性 体重41kg 血清クレアチニン 0.7mg/dl eGFR:59.0(電カル表示) CCr:37.7 ※CCr<50で減量を規定する薬は多い VCMの投与量目安 CCr 100 1g×3 1g×2 500mg×3、750mg×2 50 500mg×2、1g×1 30 750mg×1 500mg×1 500mg1~2日おき投与 透析患者:初回1~1.5g、透析毎(後)に500mg投与 カルテ記載 ↓ 新文書入力 ↓ 薬剤部 :抗MRSA薬TDM依頼書 【Ccr=70ml/min】 VCM1g×2回/day 【Ccr=20ml/min】 VCM1g×1回/day 【Ccr=20】 VCM 0.5g×1回/day 目標濃度到達に時間がかかる 【Ccr=20】 初回1g負荷、0.5g/day維持 負荷投与有りと無し ローディングドーズ1g 実測GFR eGFR推算式と実測GFRの相関 75%の症例が±30%の誤差 に収まる程度 あくまで推測値 簡易式による推定GFR 採血ポイント等 ・トラフ値は投与前30分以内に採血を実施 ・定常状態に達する3~4日目に濃度を確認 (3日目では定常状態に達せず、過小評価する危険性) ・1週間に1回のTDM実施を推奨 1日2回を9゜16゜で投与すると・・・ ★12時間おき、8時間おきなど 等間隔の投与指示を バンコマイシンまとめ ★目標濃度はトラフが10~15µg/mL、より積極的 治療を要する場合15~20µg/mL ★採血はトラフ値=投与直前(30分以内) →指示コメントを入れないと、投与後採血になること多々あり ★濃度測定は3~4日目 早めに測定しても濃度が上がりきってない場合あり ★初回投与量の減量は不要 (他の抗生剤も) VCMはとりあえず1g(0.5g×2V)を投与が無難 ②TEIC:テイコプラニン • スペクトル、有効性はVCMとほぼ同じ • 腎障害、レッドネック症はVCMより少ない • 安全域も広い(TEIC:10~30、VCM:10~20) • 半減期が非常に長い(40~150時間) =定常状態になるまで時間がかかる →ローディングドーズが必須 腎機能とTEIC体内動態 ※VCM:半減期3~35時間 半減期 ・・・薬の濃度が1/2になるのに掛かる時間 半減期1時間 半減期の4~5倍 血 中 ・通常投与で定常状態になる期間 濃 半減期8時間 ・薬が体内から抜けるのにかかる期間 度 0 6 半減期1時間 半減期×2 点滴直後 2時間後 12 ×4 4時間後 18 ×6 6時間後 24 ×8 8時間後 時間 ×12 12時間後 1 1 4 1 16 1 64 1 256 1 4096 100% 25% 6.3% 1.6% 0.4% 0.02% 【Ccr=30ml/min】 TEIC200mg×1回/day TEIC添付文書用法 通常 敗血症 初日 2日目以降 400mg又は800mg/日 を2回に分けて 800mg/日 を2回に分けて 200mg又は400mg/日 1日1回 400mg/日 1日1回 1バイアル=200mg TEIC初日400mg×2、以後400mg/日 Ccr=70 Ccr=30 TEICのTDM目標値 ・目標トラフ値は10~30µg/mL、専門家は15µg/mL以 上を推奨している ・重症例、難治例(心内膜炎,骨感染)は、20µg/mL以上 に設定 (20以下で治療失敗例の報告) ・ 30µg/mL以上の維持は有効性の報告無く、 コスト面からも推奨しない ・ トラフ値40~60以上では、腎・肝・血液毒性の報告 TEICトラフ20µg/mL以上における腎障害発現率 TEICトラフ最高値 腎障害発現率 20~25 25~30 30~40 ≧40 7/129例 9/47例 1/23例 0/5例 5.2% 19.1% 4.3% 0% 腎障害発現率 8.3%(17/204例) 腎障害による治療中断 2.5%(5/204例) トラフ値と腎機能低下の発生率の間に正の相関は認められなかった 2012日本化療学会抗菌薬TDM ガイドライン作成委員会報告 高トラフ値におけるVCMとTEICの腎障害の比較 トラフ濃度 (µg/mL) 腎障害発現率 VCM P値 TEIC 20~25 15/39 (38.5%) 7/61 (11.5%) 0.003 25~30 7/13 (53.8%) 3/22 (13.6%) 0.005 ≧30 10/18 (55.6%) 1/13 (7.7%) 0.008 Total 32/60 (45.7%) 11/9 (11.5%) <0.001 TEIC はVCM と比較して, トラフ値≧20 μ gmL における腎機能障害の 発現リスクは少ない 日本化学療法学会雑誌 2012; 60: 157-161 TEIC高用量投与 通常投与 (初日800mg、以降400mg/日) 高用量投与 (初日1600mg、以降800mg/日) トラフ 4日目 9.4 vs 16.3 µg/mL 8日目 12.2 vs 20.5 µg/mL 上田康晴 他.日本化学療法学会雑誌 2007; 55: 8-15 初回のTDMでトラフ15µg/mL以上とするには 一般的なローディングドーズでは不十分、エキスパート は400mg、1日2回を2日間連続投与を推奨している。 さらなる高用量レジメンも検討されている TEICローディングドーズ ×3 ×2 1日目 ×3 ×2 ×2 2日目 ×2 ×2 3日目 3日目以降~は腎機能に応じて投与 TEICのすすめ ・腎障害の副作用が懸念される際のVCMの代 替に ・血中濃度が上がりにくいためローディングドー ズ必須 ・重症例には積極的なローディングドーズ、高 めのトラフ値を考慮 ③ABK:アルベカシン ・アミノグリコシド系→グラム陰性桿菌に活性有 ・肺炎、菌血症、皮膚軟部組織感染等 いずれにも第一選択薬としての推奨無し 濃度依存性抗菌薬 ピーク値 9-20 ㎍/mL (治療効果) トラフ値 2 ㎍/mL以下 (腎毒性) 同じABK 180mg/日でも ピーク値を確保 → 1回投与量は充分に トラフ値を下げるため → 分割投与しない ABKのPK-PD 推奨指標:Cpeak/MIC≧8 MIC=1 (S) MIC=2 (S) MIC=4 (S) MIC=8 (I) ・・・ピーク8 ・・・ピーク16 ・・・ピーク32 ・・・ピーク64 → 200mg/回でぎりぎり → 実用性無し 腎機能高度低下例 1回投与量を確保するとトラフ<2が困難 トラフ<2に合わせるとピーク不十分・投与数日おき ④DAP:ダプトマイシン ・環状リポペプチド系抗菌薬(新作用機序) ・1日1回投与(ボーラス投与も可能) 皮膚感染:4mg/kg 敗血症:6mg/kg(8~10mg/kg高用量も推奨) ・TDMは不要、CCR<30で1日おき投与へ減量 副作用:骨格筋障害(CPKをチェック) DAP:ダプトマイシン ・肺胞で不活性化されるため肺炎には不可 ・皮膚や骨への組織移行は良好(DM患者でも) 髄液移行性は悪い ・添付文書:右心系感染性心内膜炎にのみ使 用すること (→試験での症例数が限られていたた め、その後左心系での有効報告も見られる) ⑤リネゾリド(ザイボックス®) ・肝,腎,体重による調節不要 (成人:1回600mg、1日2回) ・副作用:骨髄抑制(血小板↓)、神経障害 ・内服でも注射と同等の体内動態を示す (※消化管が正常な場合) 注射 35558円/日 内服 25871円/日 messages ★抗菌薬の投与量は成書を参考に (疾患、起炎菌、薬の選択、投与期間) ★腎機能評価時は体格に注意 (eGFRはBSA1.73㎡あたりの値!)
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