一般浴槽での入浴介助のポイント 介護の知識 50 介護の知識 一人浴槽での入浴介助のポイント これまで入所されていた老健施設でリフト式浴槽で入浴されていた方 が一人浴槽で入浴された際に、 「あぁ久しぶりに風呂に入った」とおっし ゃったことを今でも覚えています。 一人浴槽での入浴は、心身ともに満足度の高い入浴方法として、また、 少ない介護職員でも入浴介助を行うことができる方法として必要な技術 となります。 1)一人浴槽への入り方(右マヒがある方の例) ☆浴槽から離れた場所から (ア) 浴槽にできるだけ近づいた場所に座ります。離れて座った場合は、 近くによります。 足を入れると、足裏が浴槽の 底に付かないため、不安定に なり危険です。 ☆手・足・お尻の3点が安定 すると体全体が安定します。 体を動かすときは3点のう ちどれか一つずつ動かしま す。1点でも離れると体は不 安定になるので、必ず介助者 1 (イ) 手すりがあると足を入れる際に邪魔になるため手すりを外します。 は肩を支えバランスを保つ (ウ) 次に左手をお風呂のお尻側のふちにつかまっていただいたあと、健 ようにします。 側の足を浴槽に入れてもらいます。自力でできる方には自分で行っ ☆患側の足を湯船に入れる ていただきます。手を離したときや、足を上げると体が不安定にな とき、太ももを持ち上げても るため、介助者は必ず肩に手を回し、バランスを保ちます。健側の 足先が下がったままなので 足がしっかりとお風呂の底についていることを確認します。 浴槽をまたぐことができま せん。また、体が後傾してし まうため危険です。 全国高齢者ケア研究会 一般浴槽での入浴介助のポイント (エ) 患側の足首を持ち、湯船に誘導します。 (オ) 両足が底にしっかりと着いていることを確認。左足をやや前に動か します。左手で浴槽の正面にあるふちにつかまっていただき、その 後左肘をふちにつくように曲げるよう声かけしながらでん部を湯 ☆体が左右に傾き危険な場 船の中に誘導します。 合は浴槽のコーナーを使う と安定します。 2 ☆円背が強い方のお尻を後 ろに引きすぎるとお湯に顔 がつきそうになるため危険。 (カ) 足を伸ばし、体を固定させます。仙骨すわりになっていると体が浮 きやすくなり危険なため、頭はお尻より前側にくるように座ってい ただきます。 全国高齢者ケア研究会 一般浴槽での入浴介助のポイント (キ) 足を伸ばしても体がブロックできないときは、台を入れ、長さを調 整します。 (図は左マヒの方がモデル) 2)一般浴槽からの出かた (ア) でん部を浮かすための準備をしていただきます。左手はなるべく前 のほうをつかんでいただき、足はなるべく体に近づくよう折り曲げ ていただきます。患側は介助します。 下の図より左手はもっと前側を持っていただきます。 3 (イ) 介助者は入浴台に膝をつけるとともに、でん部を誘導するスペース を確保する体制をとります。 今回はマヒ側からあがるので、体をねじらなくてもよいようにやや 背中をあがる側に向けます。 全国高齢者ケア研究会 一般浴槽での入浴介助のポイント (ウ) 立ちますよと十分に声掛けした後、背中を前に押します。するとで ☆でん部を支えるときの手 ん部が浮力で浮くため、でん部を手のひらですくうように支え引き は手のひら全体を使って支 上げます。 えます。指を曲げてつかむよ うにすると、相手にとっては 痛みとなりますし、介助者は 手を傷めます。 4 (エ) お尻は一度にイスまで引き上げることはできません。一旦浴槽のふ ちにお尻が乗る程度に引き上げ、その後左手の位置をかえ、深く座 りなおしていただきます。 (オ) 入るときとは逆の順番で片足ずつ足を出していただきます。この時 も足首を支えること、肩から手を離さないことが重要です。 全国高齢者ケア研究会 一般浴槽での入浴介助のポイント (カ) お風呂から上がった後は、顔色などを確認しましょう。体を洗うと きや、車椅子に座りかえる場合は浴槽のふちに手すりをつけ、それ を握ってもらうほうが安定します。 (入浴 1 枚目の写真参照) 今回は浴槽の横側から入り、同じ側から上がっていただきましたが、浴 室のスペースや、本人の動きやすさによって様々な入浴法があります。か かわる人によって入り方が変わることがないようにしましょう。 特養の職員さんから、「今はほとんどの方が機械浴で入浴しています。 今後一人浴槽を導入したいのですが、上手く入れられるでしょうか」とい う質問を受けることがあります。 個浴に入るためには、ある程度安定した座位が保てること、職員は引き 上げる介護ではなく、前かがみになってから立っていただくという介護方 法を十分に理解し使いこなせることが必要になります。 裸になると羞恥心や恐怖心から、いつもよりも動きが硬くなりやすいた め、介護職員には普段よりも高いコミュニケーション技術とトランスファ ー技術が求められます。 普段から座るという場面を増やし、しっかりと座ることができるケアを 続けることと、前かがみからの立ち上がりを介助するケアを続けること で、一人浴槽で気持ちよく入浴していただける方が増えていくと思いま す。 ※参考「お風呂が生活を変えていく~入浴介護の技術と環境整備~」 中央法規 監修:上野文規・下山名月 全国高齢者ケア研究会 5
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