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訴状
平成 27 年 2 月 3 日
札幌地方裁判所 御中
原告 坂東幸重
〒012-3456 北海道
電話 012-3456-7890
FAX
012-3456-7890
被告 国
〒100-8977 千代田区霞が関 1 丁目 1 番地
代表者 上川陽子 法務大臣
電話 03-3580-4111
被告 Morgan Stanley
本社所在地 アメリカ合衆国 ニューヨーク州ニューヨーク市ブロードウェイ 1585
会長兼 CEO ジェームス P.ゴーマン
日本における主たる営業所
モルガン・スタンレー・キャピタル株式会社(民事訴訟法 4
条 5 項に規定された普通裁判籍)〒100-8109 東京都千代田区大手町 1-9-7 大手町フィナン
シャルシティ サウスタワー
電話 03-6836-5200
Fax: 03-6836-5201
損害賠償請求事件
訴訟物の価額 2,568 万 9,763 円
貼用印紙の額 9 万 8,000 円
第1
請求の趣旨
1被告らは、原告に対して、連帯して、2,568 万 9,763 円及びこれに対する訴状送達の日の
翌日から支払いにいたるまで、年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告らの負担とする。
3仮執行宣言
第2 請求の原因
1事件の概要
本件では、平成 20 年 9 月 19 日に Morgan Stanley が株式会社シャルレ(以下「シャル
[1]
レ」という)の創業家とともに、シャルレの MBO(Management Buyout の略で、
「経営
陣による買収」のこと)を計画し、TOB(takeover bid の略で「株式公開買付け」のこと)
を実施することを発表した。しかし TOB 実施中に、創業家が TOB 価格を低く抑えるよう、
シャルレに不当な介入を行っていたことが発覚。平成 20 年 12 月 17 日に、応募株数が設定
していた買付予定の株券の数の下限に達しなかったために、TOB が不成立となり、MBO
が失敗した。
(参考資料1)
ところが、この TOB の不成立は、Morgan Stanley が、創業家に対して、TOB への応募
を撤回させたために、応募株数が買付予定の株券の数の下限に達せず、不成立になったも
のであり、事実上 Morgan Stanley が TOB を撤回したものであった。
Morgan Stanley の TOB 撤回により、多くの投資家が甚大な損害を被った事件である。
2公開買付け不成立の経緯における基礎事実
(1) 被告らの説明
ア 国
金融商品取引法を管轄しているのは、金融庁である。また公開買付届出書等、公開買付
制度における開示書類の受理に係る内閣総理大臣の権限については、金融庁長官を経由し
て関東財務局長に委任されている。
(金融商品取引法 194 条の7第 1 項、金融商品取引法施
行令 40 条) 被告は金融庁の過失によって、損害を被ったのであるが、金融庁は国の行政
機関であるので、国を被告とする。
イ Morgan Stanley とその支配下の関連会社
Morgan Stanley はアメリカ・ニューヨークに本拠を置く世界的な金融機関グループで
ある。Morgan Stanley は、シャルレ株式の公開買付けをするために、アジア地域におけ
るプライベート・エクイティ部門である Morgan Stanley Private Equity Asia(以下
「MSPEA」という。
)を通じて、ベルギー法に基づき MSPE Tanya Holdings BVBA(以
下「MSPETH」という。
)を設立し、さらにその子会社として、株式会社 Tomorrow(以
下「Tomorrow」という。
)を設立した。Tomorrow は、本公開買付けに先立ち、シャルレ
の創業家一族より、彼らの資産管理会社である有限会社サザンイーグル(以下「サザンイ
ーグル」という)
、有限会社オットー(以下「オットー」という)、有限会社クレマチス(以
下「クレマチス」という)の発行済株式を譲り受けた。以上の経緯により、Morgan Stanley
はサザンイーグルとオットーの発行済株式を直接又は間接に 100%保有することになった。
Morgan Stanley は自社のグループ会社であり Morgan Stanley の日本における主たる営
業所であるモルガン・スタンレー・キャピタル株式会社の社員であった、古庄秀樹を上記
4 社の代表取締役に就けた。(甲1)
つまり、MSPEA、MSPETH、Tomorrow、サザンイーグル、オットー、クレマチス、
モルガン・スタンレー・キャピタル株式会社は、Morgan Stanley に完全に支配された、
[2]
グループ会社である。
Morgan Stanley は、サザンイーグルとオットーを公開買付者とし、実際の公開買付け
業務をモルガン・スタンレー・キャピタル株式会社に行わせる形で、公開買付けを開始し
た。
(2) 公開買付けの関係者らの説明
ア 株式会社シャルレ
株式会社シャルレは、昭和 50 年に設立された女性用下着の販売等を目的とする株式会社で
あり、平成 10 年 11 月に大阪証券取引所第二部に株式を上場し、その後、平成 18 年 6 月に
株式会社テン・アローズに、平成 20 年 10 月に株式会社シャルレに商号変更した(以下、
商号変更の前後を問わず「シャルレ」という。)。
イ 創業家一族
TOB 実施中、シャルレの取締役兼代表執行役であった林勝哉氏、シャルレの創業者であり
取締役でもあった林宏子氏、シャルレの創業者であった林雅晴氏、並びにその親族である
林達哉氏及び瀬崎五葉氏。上記5名を総称して「創業家一族」という。
(3) 公開買付けの経緯
ア サザンイーグル及びオットーは、平成 20 年 9 月 19 日、シャルレの株式に対する公開
買付けを開始する旨をプレスリリースの形で公表した。サザンイーグル及びオットーは、
同年同月 22 日、公開買付開始公告をし、金融庁の委任を受けて公開買付届出書の受理業務
を行っていた関東財務局長に公開買付届出書を提出した。(甲1)
イ 本件公開買付けの概要は、前記プレスリリースで以下の通りに記載されていた。
(ア)公開買付者であるサザンイーグル及びオットーは、いずれも、ニューヨーク証券取
引所上場会社である Morgan Stanley を頂点とするモルガン・スタンレーグループ(以下
「モルガン・スタンレーグループ」といいます。
)のアジア地域におけるプライベート・エ
クイティ部門である Morgan Stanley Private Equity Asia(以下「MSPEA」といいます。)
(注1)がファイナンシャル・アドバイザリー業務を提供する投資ファンドが直接又は間
接に支配し、本公開買付けのために設立された株式会社 Tomorrow(本店所在地:東京都江
東区亀戸六丁目 56 番 15 号。以下「Tomorrow」といいます。)が、現在、直接又は間接に
発行済株式の 100%を保有する特例有限会社です。Tomorrow は、本公開買付けに先立ち、
創業家一族(以下に定義します。
)より、公開買付者ら及びその株主である有限会社クレマ
チス(以下「クレマチス」といいます。
)の発行済株式を譲り受けた結果、公開買付者らの
発行済株式を、直接又は間接に 100%保有するに至っています(注2)なお、現在、サザン
イーグルは、対象者の株式を 3,802,432 株(対象者の総議決権に対する議決権の割合:
19.63%)保有しており、また、オットーは、対象者の株式を 1,581,050 株(対象者の総議
決権に対する議決権の割合:8.16%)保有しております。なお、クレマチスは、対象者
[3]
株式を直接には保有しておりません。また、現在、Tomorrow の指名する古庄秀樹氏が、
公開買付者ら及びクレマチスの代表取締役に就任しております。
(注1)現在、MSPEA は香港、韓国、日本及びインドに拠点を持ち、モルガン・スタン
レー・キャピタル株式会社のプライベート・エクイティ部門が日本拠点として活動してお
ります。MSPEA 並びに MSPEA がファイナンシャル・アドバイザリー業務を提供する投
資ファンド及び会社等を総称して「MSPEA グループ」といいます。
(注2) 現在、Tomorrow は、サザンイーグルの発行済株式の全てを保有しております。
現在、登記上の発行済株式数を基準とすると、Tomorrow は、オットーの発行済株式の約
76.00%を保有しており、また、クレマチスは、オットーの発行済株式の約 24.00%を保有
しています。また、現在、Tomorrow はクレマチスの発行済株式の 49.00%を保有しており、
また、Tomorrow の完全子会社であるサザンイーグルがクレマチスの発行済株式の 51.00%
を保有しているため、Tomorrow は実質的にクレマチスの発行済株式の 100%を保有して
います。従って、Tomorrow は、実質的にオットーの発行済株式の全てを保有しておりま
す。
(原告による補足:甲1
ページ 12 ストラクチャーの概要を参照)
(イ)本公開買付けは、いわゆるマネジメント・バイアウト(MBO)の手法により対象者
株式を非公開化させるための一連の取引の一環として実施されるものであり、公開買付者
らは、本公開買付けにおいて、その保有する対象者株式(合計 5,383,482 株、対象者の総議
決権に対する議決権の割合:27.80%)を除いた、対象者の発行済株式の全て(但し、自己
株式を除きます。
)を取得することを企図しております。対象者の取締役兼代表執行役であ
る林勝哉氏、対象者の創業者であり取締役でもある林宏子氏、対象者の創業者である林雅
晴氏、並びにその親族である林達哉氏及び瀬崎五葉氏(以下、上記5名を総称して「創業
家一族」といいます。)は、それぞれ、以下のとおり対象者の株式を保有しているところ、
公開買付者らは、創業家一族との間で、その保有する以下の対象者株式の全てについて、
本公開買付けに応募する旨の合意をしております。
創業家一族 所有する株式数 総議決権に対する議決権の割合
林勝哉氏 957,100 株 4.94%
林宏子氏 1,037,699 株 5.36%
林雅晴氏 1,508,925 株 7.79%
林達哉氏 954,700 株 4.93%
瀬崎五葉氏 954,700 株 4.93%
また、本公開買付けにおいては、「買付価格の評価の公正性を担保するための措置及び利
益相反を回避するための措置等本公開買付けの公正性を担保するための措置」に記載のと
おり、株主の意思確認を尊重する見地から、本公開買付けに応じて売付け等をした株券等
(以下「応募株券等」といいます。
)の数が 9,704,989 株に満たない場合には、応募株券等
の全部の買付け等を行わない旨の条件(買付予定数の下限)を付しております。一方、本
公開買付けにおいては、応募株券等の数が 9,704,989 株(買付予定数の下限)以上の場合
[4]
には全ての応募株券等の買付け等を行います。
なお、対象者は、平成 20 年9月 19 日開催の取締役会において、本公開買付けに賛同す
ることを決議しております。
(ウ)本公開買付けの決済が完了した場合においては、①林勝哉氏を含む創業家一族の一
部は、ハヤテ・ビークルに対してリミテッド・パートナーとして出資を行い、また、②ハ
ヤテ・ビークルは本公開買付けの決済後に Tomorrow が行う予定の第三者割当増資を引き
受け、創業家一族がハヤテ・ビークルに対して出資した金銭のうち金 31 億円について、
Tomorrow に対して出資することを予定しております。当該第三者割当増資が実行された
後においては、MSPETH 及びハヤテ・ビークルは、Tomorrow の発行済株式総数のそれ
ぞれ約 50.8%及び約 49.2%を保有することとなる予定です。
(エ)公開買付者らは本公開買付けについて、対象者の自己株式を除く発行済株式総数
(19,380,335 株)から公開買付者らが保有する株式の数(5,383,482 株)及び本公開買付
けに応募する旨の合意をしている創業家一族が保有する株式の数(5,413,124 株)を控除し
た数のうちその過半数に相当する数(4,291,865 株)の応募がなければ公開買付けが成立し
ない水準に買付予定数の下限を設定することにより、公開買付者ら及び創業家一族以外の
過半数の株主の皆様の賛同が得られない場合には本取引を行わないこととし、対象者の
株主の皆様の意思を重視しております。
ウ 関東財務局長に提出された公開買付届出書には以下の契約が記されていた。
(当該株券に関して締結されている重要な契約)
公開買付者らの発行済株式の 100%を実質的に支配する Tomorrow は、
本 MBO 基本契約
において、創業家一族より、それぞれ以下の対象者株式の全てについて、本公開買付けに
応募する旨の合意を得ております。但し、創業家一族等につき MBO 基本契約に定める表明
及び保証の違反又は義務の違反が発生した場合、対象者及びその子会社の事業、資産、財
務及び経営の状況並びにそれらの見通しに重大な悪影響が生じた場合、対象者の賛同表明
が撤回された場合等一定の事由が発生若しくは判明した場合には、創業家一族は、本公開
買付に応募しないか又は応募を撤回する義務を負うことがあります。
創業家一族 所有する株式数 総議決権に対する議決権の割合
林勝哉氏 957,100 株 4.94%
林宏子氏 1,037,699 株 5.36%
林雅晴氏 1,508,925 株 7.79%
林達哉氏 954,700 株 4.93%
瀬崎五葉氏 954,700 株 4.93%
エ MBO 基本契約は、Tomorrow、MSPETH、Bianco Capital Ltd.(創業家一族に対して、
シャルレの株主総会対策やシャルレ株式の公開買付け等のコンサルティング業務を行って
[5]
いたハヤテインベストメント株式会社がケイマン島に設立した会社)
、創業家一族の間で結
ばれた。MBO 基本契約には以下の内容があった。
(甲4)
1.MSPETH、及び Tomorrow は、本公開買付期間中、以下のいずれかの事由が発生又は
判明した場合、創業家一族に対する書面による通知により、(i)本応募前であれば、本件公開
買付に応募しないことを、(ii)本応募後であれば、本件公開買付にかかる契約を解除するこ
とを、請求することができる。
(1) 本契約等に定める創業家一族又は Bianco Capital Ltd.の表明及び保証の違反が判明し
た場合。
(2) 創業家一族又は Bianco Capital Ltd.が第 7.1 条に定める誓約事項その他契約等に定める
義務の履行を怠った場合。
(3) 対象会社又はその子会社の事業、資産、財務及び経営の状況並びにそれらの見通しに重
大な悪影響が生じた場合。
(4) 本公開買付期間終了日までに対象会社の取締役会が本件公開買付けに賛同する旨の意
見を公表しない場合又は賛同する旨の意見を変更した場合。
(5) 株式市場環境の著しい変更、その他本件公開買付者による本件公開買付の遂行を著しく
困難とする事由が発生した場合。
2.創業家一族は、本公開買付期間終了日の午後 1 時までに前項に基づく解除請求に係る
通知を受領した場合、(i)本応募前であれば、本件公開買付に応募しないものとし、また、(ii)
本応募後であれば、公開買付け説明書に記載される方法に従い、本件公開買付けに係る契
約を直ちに解除するものとする。
オ 平成 20 年 9 月 22 日に買付価格、1株につき 800 円で、公開買付けが開始された。な
お、本公開買付価格は、対象者の平成 20 年9月 18 日までの大阪証券取引所における対象
者株式の終値の前日終値 509 円、
過去1ヶ月単純平均値 517 円、
過去3ヶ月単純平均値 531
円、過去6ヶ月単純平均値 535 円、過去 12 ヶ月単純平均値 565 円に対してそれぞれ約
57.2%、54.8%、50.7%、49.6%、41.7%のプレミアムを付した価格であった。
カ
原告は、大証のホームページで公開されていた、公開買付けに関するプレスリリース
で、シャルレ株式に対する公開買付けが実施されることを知り、平成 20 年 10 月 17 日から
同年 12 月 1 日にかけて、シャルレの株式 5 万 7800 株を総額 4511 万 20 円(1株平均 780
円 45 銭)で購入し、その全ての株式について本件公開買付に応募した。
キ シャルレは平成 20 年 12 月 2 日開催の取締役会において、シャルレの取締役兼代表執
行役社長であった林勝哉が不正に公開買付け価格の決定に関与していたことを理由に、
「公
開買付に賛同できない。
」と、決議した。
[6]
ク 平成 20 年 12 月 3 日サザンイーグルとオットーは、
プレスリリースにて以下のように、
実質的に公開買付けを撤回することを発表した。
(甲2)
「対象者の取締役兼代表執行役である林勝哉氏、対象者の創業者であり取締役でもある林
宏子氏、対象者の創業者である林雅晴氏、並びにその親族である林達哉氏及び瀬崎五葉氏
(以下、上記5名を総称して「創業家一族」といいます。)は、それぞれ、以下のとおり対
象者の株式を保有しているところ、公開買付者らは、創業家一族との間で、その保有する
以下の対象者株式の全てについて、本公開買付けに応募する旨の合意をしております。し
かしながら、下記に記載のとおり、対象者の賛同表明が撤回され、最終的な意見として本
公開買付けについて賛同できないとされたことを受けて、Tomorrow は、下記本MBO基
本契約の条項に基づいて、創業家一族に対し、本公開買付けに応募しないこと又は応募を
撤回することを請求し、創業家一族は、本MBO基本契約に基づき、本公開買付けに応募
しない又は応募を撤回する義務を負っております。創業家一族がかかる義務を履行するこ
とにより、買付予定数の下限を満たさないことになり、結果として本公開買付けは成立し
ないことになります。
」
実際に平成 20 年 12 月 2 日に株式会社 Tomorrow から、創業家一族に応募を撤回するよ
う、通知書が送られていた。
(甲3)
ケ 平成 20 年 12 月 17 日公開買付が不成立となったと、発表された。
(甲5)創業家以外
の応募株数が 5,483,070 株と本来なら公開買付が成立する応募数があった。つまり「対象者
の自己株式を除く発行済株式総数(19,380,335 株)から公開買付者らが保有する株式の数
(5,383,482 株)及び本公開買付けに応募する旨の合意をしている創業家一族が保有する株
式の数(5,413,124 株)を控除した数のうちその過半数に相当する数(4,291,865 株)の応
募がなければ公開買付けが成立しない水準に買付予定数の下限を設定」とされていたのに
対し、創業家以外の応募株数 5,483,070 株は、過半数に相当する数(4,291,865 株)を上回
っていた。しかし、創業家一族が応募を撤回させられたため、公開買付は不成立となった。
原告は公開買付け不成立によって返還された応募株券 57,800 株を市場取引にて平均
コ
355 円 99 銭で売却し、1,942 万 257 円を回収した。取得金額が 4,511 万 20 円であるので、
2,568 万 9,763 円の損失を被った。
(甲9)
3被告らの不法行為および重大な過失
(1) 国の過失
イ 金融庁は「株券等の公開買付けに関する Q&A」というものを平成 21 年 7 月 3 日か
らホームページで公表している。(甲7)この Q&A は、金融庁が広く意見を募集したうえ
で、金融庁の見解と整合するものを掲載しているものである。金融庁は本件シャルレの公
開買付け不成立に関して意見を受け取り、それを平成 22 年 3 月 31 日に Q&A の(問37)
[7]
として、公表した。それを以下に記す。
(問 37)公開買付けに先立ち、公開買付者と対象者の大株主との間で、公開買付者の行
う公開買付けに大株主が応募する旨の合意をします。当該合意の内容として、特定の事由
が生じた場合には、大株主が応募を取り止めることを義務付けることは、公開買付規制上、
どのような問題がありますか(金融商品取引法第 27 条の 11 第1項関係)
。
(答)
公開買付けに先立ち、公開買付者が対象者の大株主との間で、公開買付者の行う公開買
付けに大株主が応募すること又は応募しないことを合意することは、それ自体、直ちに公
開買付規制に抵触するものではないと考えられます。しかし、公開買付者が、公開買付け
における買付予定の株券等の数の下限を定める場合であって、当該大株主が応募しない限
り応募株券等の数が当該下限に達せず公開買付けが不成立となることが明らかである場合
においては、特定の事由が生じた場合に当該大株主が応募を取り止めることを義務付ける
ことは、実質的には当該特定の事由を公開買付けの撤回事由とすることと同視されるため、
公開買付けの撤回等に関する規制(法第 27 条の 11 第1項参照)の趣旨が及ぶものと考え
られます。
したがって、上記の要件に該当する場合は、
① 法令上、公開買付けを撤回することができる事由(令第 14 条参照)以外の事由によ
り応募の取止めを義務付けることはできず、
② 法令上、公開買付けを撤回することができる事由の範囲内で応募の取止めを義務付け
る場合であっても、どのような場合に応募の取止めを義務付けているかについて、あらか
じめ公開買付開始公告及び公開買付届出書に具体的に記載する必要があり、
③ 実際に当該事由が生じた場合には、公開買付開始公告の訂正及び公開買付届出書の訂
正届出書の提出が必要であると考えられます。
なお、上記の要件に該当する場合に限らず、公開買付者と対象者の大株主が公開買付け
への応募について何らかの合意をしている場合には、大株主の応募の有無が公開買付けの
結果に与える影響の大きさに鑑み、その内容を公開買付開始公告及び公開買付届出書に具
体的に記載する必要があると考えられます。
以上のように金融庁は、シャルレの公開買付けで、創業家一族に対して応募を取り止め
させた行為が、公開買付けの撤回等に関する規制(法第 27 条の 11 第1項)に抵触してい
ることを認識している。
ロ ところが、金融庁は Morgan Stanley の法務部の職員及び、MBO 基本契約書を起案し
た森・濱田松本法律事務所の弁護士から、本件解除請求権を含めた本件 TOB のスキームに
ついて、法規制に照らし合わせて問題がないか、何度も事前相談を受けていた。公開買付
[8]
け期間中も、何か変更がある都度、事前照会を受けており、当然本件解除請求権の行使に
ついても事前照会を受けていたはずである。
(古庄秀樹の陳述書 甲6)しかし、公開買付
けの撤回等に関する規制
(法第 27 条の 11 第1項)
に抵触していることを指摘しなかった。
ハ 平成 20 年 9 月 22 日に、金融庁の委任を受けて公開買付届出書の受理事務を行ってい
た関東財務局長(金商法施行令 41 条の2第1項)に提出された本件公開買付届出書には、
本件応募撤回義務付条項の存在が明記されていた。つまり、「創業家一族につき本件 MBO
契約に定める表明及び保証の違反又は義務の違反が発生した場合、シャルレ及びその子会
社の事業、資産、財務及び経営の状況並びにそれらの見通しに重大な悪影響が生じた場合、
シャルレの参道表明が撤回された場合等一定の事由が発生若しくは判明した場合」には「実
質的に当該特定の事由で公開買い付けを撤回することが出来る。
」仕組みが明記されていた。
これは金融商品取引法第 27 条の 11 第 1 項の公開買付の撤回等に関する規制に抵触する内
容である。しかし関東財務局長は、何ら指導をすることなく漫然とこれを受理した。
二 平成 20 年 12 月 2 日関東財務局長は、公開買付届出書の訂正届出書を受理したが、こ
の中には「対象者の取締役兼代表執行役である林勝哉氏(注3の2をご参照ください。)、
対象者の創業者であり取締役でもある林宏子氏、対象者の創業者である林雅晴氏、並びに
その親族である林達哉氏及び瀬崎五葉氏(以下、上記5名を総称して「創業家一族」とい
います。
)は、それぞれ、以下のとおり対象者の株式を保有しているところ、公開買付者ら
は、創業家一族との間で、その保有する以下の対象者株式の全てについて、本公開買付け
に応募する旨の合意をしております。しかしながら、下記に記載のとおり、対象者の賛同
表明が撤回され、最終的な意見として本公開買付けについて賛同できないとされたことを
受けて、Tomorrow は、下記本MBO基本契約の条項に基づいて、創業家一族に対し、本
公開買付けに応募しないこと又は応募を撤回することを請求し、創業家一族は、本MBO
基本契約に基づき、本公開買付けに応募しない又は応募を撤回する義務を負っております。
創業家一族がかかる義務を履行することにより、買付予定数の下限を満たさないことにな
り、結果として本公開買付けは成立しないことになります。
」の記載があった。これは、明
らか金融商品取引法第 27 条の 11 第 1 項の公開買付の撤回等に関する規制を潜脱したもの
であるにもかかわらず、関東財務局長は何ら指導することなく、黙認した。
ホ 以上のように、金融庁は Morgan Stanley からの事前照会、公開買付届出書の受理、公
開買付届出書の訂正届出書の受理と、幾度も金融商品取引法第 27 条の 11 第 1 項の公開買
付の撤回等に抵触することを認識する機会があったにも関わらず、適切な指導を行わなか
った。このため、公開買付の撤回が行われたのである。金融庁が、Morgan Stanley に法律
違反を指摘して TOB の実施を遂行するよう、指導していれば、TOB が成立し、原告が不
当に損害を被ることはなかったのであるから、金融庁は、原告に損害を賠償する責任があ
[9]
る。金融庁は国の機関であるので、国は国家賠償法 1 条 1 項により原告に対して賠償責任
を負う。
(2) Morgan Stanley の責任
Morgan Stanley は公開買付の主体者であり、Tomorrow を介して創業家一族に公開買付
けへの応募を撤回させることにより、公開買付を不成立にした。これは金融庁の公表して
いる「株券等の公開買付けに関する Q&A 問 37」の実例そのものであり、公開買付けの撤
回等に関する規制(法第 27 条の 11 第公開買付けの撤回等に関する規制(法第 27 条の 11
第1項参照)1項参照)に違反したことは明らかである。よって民法 709 条により Morgan
Stanley は原告に対して、賠償責任をもつ。
4 損害の因果関係及び損害額の算定
(1)公開買付の撤回と、原告の損失との因果関係
ア 平成 20 年 9 月 19 日に Morgan Stanley がシャルレ株式を 1 株 800 円で TOB を実
施することを表明したが。
この公募価格 800 円は発表前日の同年 9 月 18 日終値 509 円に、
291 円、率にして 57.2%のプレミアムを付したものである。この発表直後からシャルレ株
価は高騰し、TOB 価格の 800 円にさや寄せした価格で推移した。しかし Morgan Stanley
が公開買付を撤回したことにより、シャルレ株価は TOB 発表前の株価 509 円をはるかに下
回る、319 円まで急落した。
イ この急落の原因は以下の3つによって構成されている。
① Morgan Stanley が TOB で付したプレミアムである 291 円が、公開買付の撤回により
剥脱した。
② Morgan Stanley が、法律で禁止されていて不可能なはずの公開買付けの撤回をしたこ
とにより、投資家の狼狽売りが出て急激に需給が崩れた。
③ 公開期間中に起きた様々な出来事が絡んで、公開買付け開始時と比べて既にシャルレ株
式の市場価値が低下していた。
上記①②は、公開買付けの撤回が直接の原因になっているが、③は公開買付の撤回と直
接的な因果関係がない。しかし公開買付者は一度公開買付を開始したならば、買付対象の
会社の価値を毀損するような出来事があっても、株式相場全体が下落するような出来事が
あっても、公開買付価格を引き下げたり、公開買付けを撤回したりすることは出来ない。
つまり公開買付期間における、対象会社の株式の価値の低下は、公開買付者が負うべきリ
スクである。Morgan Stanley は、公開買付けの撤回により、公開買付中に生じた対象株式
の価値の低下による損失を、不当に投資家に転嫁したことになる。
ウ 以上のごとく、原告が被った損害は、すべて Morgan Stanley の公開買付け撤回によっ
て、被ったものである。よって公開買付の撤回を行った、Morgan Stanley は民法 9 条によ
[10]
り、これを許可あるいは黙認した金融庁の過失については国が国家賠償法 1 条 1 項により
賠償責任を負う。
(2)損害額の算定
原告は、Morgan Stanley の TOB 実施表明後にシャルレの株式 57,800 株を 1 株平均
780 円 45 銭、総額 4,511 万 20 円で 購入して、公開買付けに応募した。しかし Morgan
Stanley が公開買付を撤回したため、返却されたシャルレ株式を平均 335 円 99 銭で市場
売却し、1,942 万 257 円を回収した。損失額は購入代金 4,511 万 20 円と売却代金 1,942
万 257 円の差額 2,568 万 9,763 円である。この損害を、民法 709 条により Morgan Stanley
に、国家賠償法 1 条 1 項により国に、連帯して賠償するよう請求する。
証拠方法
甲1号証ないし甲9号証
内訳は 証拠説明書(その1) に記載
付属書類
1 訴状副本 2通
2 参考資料 1ないし3
各2通
3 甲1ないし甲9号証(写し) 各2通
4 証拠説明書(その1)副本 2通
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