会社更生法 1.会社更生とは?破産とはどう違うの? 破産手続は、経済的

会社更生法
1.会社更生とは?破産とはどう違うの?
破産手続は、経済的に破たんした企業等の財産をすべて換価し、債権者に配当
等を行う清算型の手続ですが、会社更生手続は、経済的苦境にある企業等につ
いて債務の減免等を行うことにより、その経済的な立ち直りを図る再建型の手
続です。
さらに、再建型の手続には民事再生手続と会社更生手続がありますが、前者
は対象に制限がなく個人及び法人の両方に利用できますが、後者は対象が株式
会社(一般的に規模の大きな会社を想定)に限られ、さらに手続要件が前者よ
りも厳格となっていますが、その分、会社存続へ向けた法的手続がより充実し
ています。
※ 破産手続と民事再生手続及び会社更生手続との比較(概要)
破産手続
民事再生手続
会社更生手続
法
破産法
律 (平成 16 年法律第 75
号)
民事再生法
会社更生法
(平成 11 年法律第 225 (平成 14 年法律第 154 号)
号)
目 債務者の財産等の清算 事業又は経済生活の再
生
的
事業の維持更生
概 清算型手続
再建型手続
裁判所の監督下、破
裁判所の監督下、基
再建型手続
裁判所の監督下、管財人
要 産管財人により、債務
者の総財産(個人の場
合には自由財産を除
く。)を換価し、配当
を通して債権者に公平
に分配する。
が会社の事業の経営及び
財産の管理処分にあたり、
更生計画の可決・認可及び
その遂行を通じて、事業の
再建を図る。
本的に債務者本人が事
業及び経済生活を継続
し、可決・認可された
再生計画に従って事業
又は経済生活の再建を
図る。
対 限定なし(相続財産も 限定なし(事業又は経
対象となる。)
済生活の主体となり得
象
る者)
株式会社のみ
※特に個人を対象と
する手続(小規模個人
再生手続及び給与所得
者等再生手続)がある。
財 破産管財人
産
再生債務者
※監督委員による監
督の制度がある。
管財人
※再生債務者の財産
の管理処分が失当であ
るとき等事業の再生の
ために特に必要がある
ときは、管財人による
管理が裁判所により命
ぜられる。
の
管
理
権
者
開 (1)支払不能(=支払能
力の欠如により弁済期
始 にある債務を一般的か
つ継続的に弁済するこ
原 とができない状態にあ
ること)
因 (2)債務者が法人であ
(1)破産の原因となる
事実の生ずるおそれが
あるとき
(2)事業の継続に著し
い支障を来すことなく
弁済期にある債務を弁
済することができない
(1)破産の原因となる事実
の生ずるおそれがあると
き
(2)弁済期にある債務を弁
済することとすれば、その
事業の継続に著しい支障
を来すおそれがあるとき
る場合には支払不能の とき
ほか債務超過(=その
負担する債務のすべて
をその有する財産のす
べてをもって完済する
ことができない状態に
あること)もまた開始
原因となる。
債 (1)破産債権(配当を通 (1)再生債権(再生計画 (1)更生債権(更生計画に
じてのみ権利行使可) によってのみ弁済等
よってのみ弁済等可)
権 (2)財団債権(随時弁済 可)
(2)更生担保権(更生会社
する。)
(2)一般優先債権(一般 の財産につき存する担保
の
の先取特権その他の優 権によって担保される債
先権のある債権。Ex.
権。更生計画によってのみ
区
労働債権、租税債権な 弁済等可)
ど)(随時弁済する。) (3)共益債権(随時弁済す
分
(3)共益債権(随時弁済 る。)
する。)
(4)開始後債権
(4)開始後債権
再生手続によらずに行
使することができる
(別除権)。再生手続
において行使できるの
は、被担保債権のうち
担保権の行使によって
弁済を受けることがで
更生手続中は行使するこ
とができない。更生会社の
財産につき存する担保に
よって担保される債権で、
担保目的財産の価額に相
当する部分は、更生担保権
として、更生債権より優先
受けることができない きない債権の部分に限
取 債権の部分の額に限ら られる。
れる。
扱
的に扱われる。担保権の実
行により、更生計画によら
ず満足を受けることはで
きない。
担 破産手続によらずに行
使することができる
保 (別除権)。破産手続
において破産債権とし
権 て行使できるのは、被
担保債権のうち担保権
の の行使によって弁済を
い
(法務省 HP より)
2.会社の視点から見る会社更生手続のメリットやデメリットは?
会社更生手続を選ぶことによるメリットは次のとおりです。
①財産を分配して終了してしまう破産等の清算型と違い、会社更生手続は再
建型の手続ですので、事業継続を前提として企業価値が評価されます。
②会社更生手続開始の決定がなされると、破産や民事再生等の他の倒産手続
きは一旦中止されますので、会社更生手続は他の倒産手続に優先することに
なります。
③担保権や租税債権等を含めたすべての債権が更生手続きに従います。
④更生計画に盛り込むことにより、増資、減資、定款変更、合併等が、簡易
に行えるようになります。
⑤債権届出期間内に届出のなかった債権は失権します。
会社更生手続を選ぶことによるデメリットは次のとおりです。
①従前の取締役は全て辞任し、会社経営及び会社財産の管理処分権は管財人
に移行します。
②予納金が高額になります。
③手続終了までに長期間を要します。
3.手続の流れ
大まかな流れは次のようになっています。
Ⅰ 会社等からの申立によって開始し、
Ⅱ 会社の財産・負債を調査し、
Ⅲ 更生計画を作成の上、債権者の決議を経て裁判所が認可し
Ⅳ 更生計画を遂行します。
この計画に基づく手続きが終了すれば更生手続きも終了します。
そして、これらをより詳細に見ていくと以下のようになっています。
(1)更生手続の開始
①更生手続開始の申立
会社更生手続は、
a.破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがある場合
b.弁済期にある債務を弁済することとすれば、その事業の継続に著し
い支障を来すおそれがある場合
に限り、定められた申立権者からも申立が可能で、この申立により手続が
開始します。
また、裁判所より保全処分命令(申立会社の任意弁済及び財産処分行為
が禁止等の保全処分)が申立直後になされます。
また、主要な債権者の審尋を経た後、裁判所により保全管理人(一般的
には申立に携わった弁護士等)が選任されます。保全管理人は、従来の経
営者に代わって更生会社の業務執行権及び財産管理処分権を有します。
保全管理人は、会社再建の見込みがあるかどうかを調査の上、裁判所へ
報告します。
裁判所は、保全管理人からの報告を受けて、再建の見込みがあると判断
した場合には「更生手続開始決定」をします(再建の見込みなしと判断さ
れた場合には、職権で破産手続へと移行します)。
②更生手続開始の効果
裁判所により更生手続開始の決定がなされると、必ず更生管財人が選任
されます。一般的には、法律管財人と事業管財人に権限を分掌し、法律管
財人には申立代理人及び保全管理人である弁護士が、また、事業管財人に
はスポンサーが更生手続開始決定時に決まっている場合にはスポンサーか
ら派遣された者や、そうでない場合には旧経営陣の中から経営責任のない
者等が選任されるようです。
そして、破産手続や民事再生手続は一旦中止され、会社更生手続が優先
されます。また、担保権や租税債権を含めた全ての財産が会社更生手続に
従うこととなります。
さらに、会社更生計画に基づかない諸手続(株式の消却・併合・分割・
無償割当、募集株式の発行、新株予約権の募集・消却・無償割当、資本金
又は準備金の減少、剰余金の配当、解散・会社継続、組織変更・合併・会
社分割・株式交換・株式移転、事業譲渡等)をすることはできず、定款変
更についても更生計画に基づくか又は裁判所の許可を得てする必要があり
ます。
(2)更生手続開始決定後の手続の概要
①会社財産の調査・貸借対照表及び財産目録の作成
②債権届出期間内に申出のあった債権及び担保権の調査
③否認権の行使
管財人は、会社が更生債権者等を害することを認識しながら行った行為
や、等を否認し、それによって減少した財産を回復させることができます。
④役員に対する責任追及
管財人は、役員等に対する損害賠償請求権を保全するため、当該役員等
の財産に対する保全処分をするよう裁判所へ申立てることができます。
⑤更生計画案の作成及び提出
管財人は、債権の確定の後に更生計画案を作成し、更生計画提出期限ま
でに裁判所に対し更生計画を提出します。裁判所は、提出された更生計画
案を決議に付する旨の決定をし、それに従い更生債権者等や株主により更
生計画案が決議に諮られます。更生計画案を可決するには、更生債権、更
生担保債権、株式等の各種類の権利ごとに、一定以上の者の同意がなけれ
ばならず、更生債権については、議決権を行使することができる更生債権
者の議決権の総額の二分の一を超える議決権を有する者の同意がなければ
なりません。
⑥更生計画
更生計画案が可決され、それを裁判所が認可すると、認可の決定時から
更生計画として効力を生じます。これ以後は、管財人は、更生計画に従っ
て、資産の売却、弁済等を行い更生計画を遂行していきます。
⑦更生手続終了
更生計画が遂行された場合、更生計画の定めによって認められた金銭債
権の総額の三分の二以上の額の弁済がされた時において、当該更生計画に
不履行が生じていない場合及び更生計画が遂行されることが確実であると
認められる場合に更生手続は終了します。
(3)更生債権
①更生債権
更生債権とは、更生会社に対し更生手続開始前の原因に基づいて生じた
財産上の請求権又は次に掲げる権利であって、更生担保権又は共益債権に
該当しないものをいいます。過払金返還請求権はこれに該当します。
○更生手続開始後の利息の請求権
○更生手続開始後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権
○更生手続参加の費用の請求権
②更生債権の行使
更生債権を有する者(以下、更生債権者といいます。)は、あらかじめ定
められた債権届出期間内に届出をすることにより、以後、更生債権者とし
て、更生計画案の決議において議決権を行使することができるようになり
ます。
(4)相殺
更生会社に対し、債権を有している一方、債務も負担しているという場合
には、会社に対し相殺の意思表示をすることにより、重複する範囲内で債権
と債務を消滅させることができます。
①要件
自己の有している債権及び負担している債務の両方について弁済期が到
来していること、もしくは自己の負担している債務は弁済期が未到来だが、
自己の有している債権は弁済期が到来していることが必要です。
②相殺権の行使
管財人に対し、相殺を援用する旨の意思表示をする必要があります。意
思表示の方法としては、内容証明郵便等、記録により意思表示をしたこと
を証明することができるよう書面を郵送する方法によるのが一般的です。