キシステム (ABS) について考える

故障診断整備のページ
整備工場における
故障診断整備
ススメ
の
アンチロックブレーキシステム(ABS)について考える
ユーザーにとって安全性は自動車に
しも軽減され、より操舵に集中できるよ
おける重要な要素だ。エアバッグに始ま
うになっている。
り、最近では自動ブレーキなど、事故を
しかしながらパニックブレーキでロッ
基本は電子制御で行われている
ということは…
軽減する仕組みが組み込まれており、 クさせても、ハンドル操作を間違えてし
作動する仕組みはもちろんおなじみ
その進化のスピードは速い。
まっては事故が起きてしまう。そうは言
の電子制御なので、もちろん点検にはス
さて、現在ではほとんどの車両に標準
っても、ロックして車体が滑べるよりも
キャンツールが用いられる。ABSの点
装備としてつけられているABSだが、
格段に安全である。つまり、ABSの最
検と一言で言うと、何を思い浮かべるだ
その歴史は古く1978 年にボッシュが自
大の目的は障害物や人を回避する状態
ろうか? メーターのチェックランプが付
動車用として実用化し、メルセデスベン
を作ってくれることなのである。
かなければ ABSの不良は無い、などと
ツW116 型に搭載されたのが元祖と言
最近では、自動車教習所でもABSに
思う人もいるかも知れないので、日常的
われている。軽自動車や高級車であって
対して説明されているが、仕組みや緊急
に点検するもの、という認識を持ってい
もABSの装備が当たり前になっている
時の扱いなど、詳しくは理解されていな
ただきたい。言うまでもないが、ブレー
のが現在の自動車事情だ。
いのが現実だ。こういった背景があり、
キに関わる重要な部品だからだ。
緊急時にABSがあるから安全、などと
しかし、これが困ったことに車検の点
思っているユーザーが少なくないかも知
検項目に含まれていないため、日常的に
ABSは、制動中に車輪がロックする
れない。ABSが当たり前と思うユーザ
点検する習慣があるとは思えない。ユー
のを防ぐことで、車両の操舵性と方向安
ーも少なくないので、当然そこはメカニ
ザーが ABSの効きが悪いなどと、マニ
定性を維持しようするブレーキシステム
ックによる適切なアドバイスが要求され
アックな注文をつけてくるケースも稀だ。
なのだ。よく、制動力を上げるためと思
る。また、ABSが働いた場合、制動距
さらに困ったことに車検時にも、ブレー
われがちだが、実際には操舵性を高め
離は車輪が完全にロックした場合より
キがロックするぐらい効けばいいという
るものである。普通にクルマに乗ってい
も短くなるが、路面とタイヤの摩擦係数
チェックしかない。ABSはロックを防ぐ
てABSを効かせたことのある方なら分
(ミュー)が低い場合には制動距離が長
ものなのに、ロックさせる検査ライン…
かると思うが、急激な蹴り返しを経験し
くなることがあると伝えることが最善と
大いなる矛盾を孕んでいる。だからこ
た と 思 う。現 在 のABSは 一 昔 前 の
言えるかも知れない。
そ、メカニックとしてはABSに不具合が
ABSと上手に付き合うためには説明を
無いか、定期的に確認する必要がある
ABSから進化しており、そうした蹴り返
せいび界
FEBRUARY 2015 vol.588
01
SEIBIKOHOSYA
せいび広報社
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ABS 診断を行うことで新たなビジネスチャンスが生まれる
といえる。上記通りABSを過信してい
る。車輪の現速度とスリップ率が基準を
確に検知しているか、車輪がロックした
るユーザーもいる可能性が否定できな
超えると、ABSコントローラーは油圧
ら油圧コントロールをするか、といった
いからこそ、徹底していただきたい。
ユニットに命令を送り、ロックの心配が
点が挙げられる。ブレーキ周りの診断と
なくなるまでブレーキ油圧を保持する
銘打って、サービスメニューに組み込む
か、低下させる。その後、制動力が小さ
整備工場も現れているとも聞く。 ABSも進化しているが、大元にある
くなり過ぎないように、ブレーキ油圧を
ABSが緊急時に効かないという現象
目的は事故を防ぐ、軽減するということ
再び上昇させる。ブレーキの自動制御
は、どこかエアバッグのリコール同様、
だ。トラクションコントロール、エレクト
中に車輪の回転挙動が安定、不安定の
他人事に聞こえない。だからこそ日々の
リックスタビリティコントロール、ブレー
どちらにあるかを常時モニターし、車輪
チェックが必要なのだ。車検に出したの
キバイワイヤなど、多くの部品が ABSと
が最大制動力を確保できるように、一
にABSが効かなかったというのは残念
同居している。現在のブレーキ事情は特
連の圧力増減及び保持制御を行う。平
な話だが、車検点検項目でない以上は、
に困難を極める。ドラムやディスクとい
たく言うとポンピンググレーキを機械が
整備工場に落ち度はない。しかしなが
ったパーツだけではなく、電子制御がブ
高速で行ってくれるということだ。もち
らスキャンツールを繋ぐことで、こういっ
レーキにもふんだんに使われているの
ろん、高速のポンピングブレーキを人間
たトラブルを防ぐことも出来るのではな
で、スキャンツールでの診断が必要にな
が出来るかというと難しい。電子制御が
いか? 自社の入庫を増やすも減らすも、
る。
なせる業である。
対応一つというわけだ。これはABSに
ABS ってそもそも何?
スキャンツールを上手に使って
ABS 同様にある操舵関係の電子制御部品
ABSの主要構成部品は通常のブレ
ABSでも入庫確保が出来る?
限った話ではないが、日常的にスキャン
ツールを繋ぐことを習慣とすれば、クレ
ームも防げる。もちろん電子部品だけで
ーキシステムとABSコンピューター、ハ
さて、ABSの重要性は言うまでもな
はなく、ローターの歪みや、ホイール取
イドリックユニット、そしてホイールスピ
いが、やはり電子制御という点が、これ
り付け面の汚れも確認する必要がある。
ードセンサーだ。制御プロセスとして
からの整備需要として欠かせないとは
ブレーキ周りの部品という認識をお持
は、車速センサーが車輪の動きを監視
思えないだろうか。スキャンツールで確
ちであれば、必須点検項目として取り入
しており、車輪ロックの兆候は車輪の現
認するのはエラーコードだけでなく、ホ
れていただきたい。
速度とスリップ率の急速な上昇で分か
イールスピードセンサーが車輪速を正
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02
< 次号へ続く>
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