ハイライト表示

修士論文(研究報告書)要旨
論文(報告書)タイトル:「高品質化と低コスト化の両立」
学籍番号:AM13007
氏
名:劉宇荟
指導教授:伊藤善夫
【論文(報告書)の構成】
はじめに
第 1 章 問題意識の提示と研究目的
第 2 章 先行研究
第 3 章 事例分析
第 4 章 仮説の提示と実証の方法
第 5 章 仮説の実証分析
おわりに
【論文(報告書)の内容】
1、研究目的
コストダウンだけを追求する場合、必ずどこかに不具合が発生する。一方で、単に品質を向上
させれば、コストが増大する可能性がある。だが、コストダウンと品質向上を同時に実施するこ
とは相当に難しい。一見すると相反するように思える二つの要求だが、その両立に成功している
企業も存在する。そこで本研究では、品質とコストという同時追求の難しい要因の両立の可能性
を検討することを目的とする。
2、研究方法
まず、高品質化と低コスト化の実現方法についての先行研究を整理する。高品質化と低コスト
化を推進する要因間の矛盾を確認するとともに、矛盾しない要因を探索する。
次に、高品質化と低コスト化に成功・失敗した企業の事例を検討し、上で見出した要因がどの
ように作用したかを見極める。理論的な検討と事例の分析結果から、高品質と低コストを両立す
るための必要条件を抽出し、仮説を構築した上で、製造企業を対象にして、アンケート調査を行
い、実証する。
なお、実証結果に基づき、世界の工場と言われて久しい中国での日本企業現地法人における高
品質化・低コスト化の実態を観察することで、本研究が見出した仮説の妥当性を評価する。
3、研究結果
品質とコストの関係から、先行研究を分析した後で、日産、パナソニック、トヨタおよびソニ
ーという四つの企業を事例研究した。その事例研究から、
「生産活動と他の活動の連携に基づいて
活動を標準化することで、品質とコストの両立が可能になる」という仮説を提示した。また、仮
設を実証するために、過去 3 年間に研究開発費を計上している、上場企業及び有価証券報告書提
出企業 2025 社を対象としてアンケートを行い、仮説の構成概念に関する観測変数について測定し
た。調査結果を共分散構造分析により分析した。
係数の有意確率を次のように記号で示す
***
1%有意
**
5%有意
*
10%有意
「コスト」という構成概念の観測変数のうち「営業利益率」を制約条件 1 にして、
「価格競争力」
という観測変数の有意確率は「0.069」と表示され、係数の有意確率の 0.05 を超えた。それから
見ると、構成概念の「コスト」は「営業利益率」と強い関係があるが、
「価格競争力」との関係が
弱いと判定された。他の観測変数は係数に適する値に達したので、各観測変数を全体的に見ると、
本研究の仮設モデルの設定が一定程度妥当であると判断された。
指標名
計算結果
基準値
判定
適合度検定
有意確率
0.075
≥0.05
○
GFI
0.904
≥0.9
○
AGFI
0.838
≥0.9
×
CFI
0.927
≥0.9
○
RMSEA
0.066
<0.05 または<0.1
○
本研究では有意水準を基本的に 5%とした。実証結果としては、適合度検定有意確率が 7.5%あ
るため、モデルの設定が正しいとする帰無仮説は廃却されなかった。GFI の値は 0.9 以上で 1 に
近いほどモデルの適合度が高いとされるが、本モデルでは GFI の値は 0.904 であるので、モデル
がある程度適合的であると判定される。AGFI の基準は 0.9 以上が望ましいが、本モデルでは 0.838
であるので、基準を満たしていなかったが、GFI との差は大きくないので、許容されるであろう。
CFI の値は 0.927 であり、基準の 0.9 を上回ったので、モデルの適合度が高いと判定された。RMSEA
は 0 に近いほど適合度が高く、0.1 以上であれば適合性が悪いと判断する。
本モデルでの値は 0.066
であるため、モデルの適合度は低くはないと判断される。モデルの適合性に関する指標全体から、
本研究の仮設モデルの設定が一定程度妥当であると判断される。したがって、全体的に見ると、
生産活動と他の活動の連携に基づいて活動を標準化することで、品質とコストの両立が可能にな
る、という仮説が実証されたと考えられる。
【主要参考文献】
(1). 伊藤 嘉博(2010)
「品質向上とコスト削減を両立させる『品質コストマネジメント』とは」,
http://www.hummingheads.co.jp/reports/interview/i090625/interview37_02.html.
(2). 小塩 真司(2005)『研究事例で学ぶ SPSS と Amos による心理・調査データ解析』,東京図書
株式会社.
(3). 辻本 攻(2010)
『品質管理活動の「全容」と「基本」
』,日刊工業新聞社.
(4). 豊田 秀樹(2007)『共分散構造分析[Amos 編]―構造方程式モデリング―』,東京図書株式会社.
(5). Philip B. Crosby 著 小林宏治監訳(1980)『クオリティ・マネジメント』,日本能率協会.