ミニアンカー工法の概要と斜面補強・擁壁補強への適用例

技 術 紹 介
ミニアンカー工法〈先端拡大型補強材〉の
概要と斜面補強・擁壁補強への適用例
佐藤 文雄、中谷 登
大日本土木株式会社
土木本部
工法活用の背景
近年、農業農村整備事業においても安全で安心
できる農村づくりのため、地震・豪雨等に起因す
る自然災害から地域住民の生命・財産への二次的
被害の発生防止、避難路や避難拠点の整備等が鋭
意進められている。また、既存施設の機能を良好
に保全・有効活用するための﹁維持管理・更新﹂
へも積極的な取組がなされている。
本工法は先端部を機
械的に拡大可能な比較
工法の特徴
カー︼により、自然斜面、切土斜面の補強や既存
的脆弱で周面摩擦抵抗
今回紹介するミニアンカー工法は、棒状補強材
の 先 端 部 に 拡 大 機 構 を 有 し た 補 強 材︻ ミ ニ ア ン
擁壁などの補強技術として活用されている。本稿
が小さい地盤に対して
表面保護工
先端拡大部
グラウト材
中空ロッド
グラウト注入孔
定着長
︵1︶従来の補強材︵鉄筋やロックボルト︶と比
較して、大きな引抜き抵抗力を有し、短い
補強材長で大きな補強効果が期待できる。
︵2︶構造上、中空ロッドを通してグラウト注入
を行うため、グラウトが拡大したロッド先
端部から孔壁に向かって注入され、高い充
填性が得られる。
︵3︶ミ ニ ア ン カ ー 先 端 の 拡 大 に 要 す る 時 間 は、
センターホールジャッキを用いることによ
り、二∼三分で完了するため、施工速度は
エアー
︵4︶一般的な削孔機︵クローラードリル、
従来の鉄筋補強土工法と同程度である。
鉄筋等︶と比較して、引抜抵抗が大きく、補強材
間でも十分適用が可能である。
オーガー等︶で施工可能で、狭隘な作業空
可能となる。
図 1 工法概要図
適用するもので、次ぎのような特徴を有している。
では技術の概要ならびに適用事例を紹介する。
工法概要
ミニアンカー工法は、急傾斜斜面の表層崩壊や
掘削に伴う切土斜面等の崩壊防止ならびに既設ブ
ロック積み擁壁などの補修補強や耐震補強などに
効果を発揮する補強土工法である。
本工法は図1に示すように、補強材打設後にミ
ニアンカー先端部が地中で拡大することによって
形成される︻支圧抵抗部︼と、ロッド部の︻摩擦
抵抗部︼によって引抜き力に対して抵抗する。し
たがって、
︻ 摩 擦 抵 抗 部 ︼の み で 補 強 効 果 を 期 待
拡大
長を短くしたり、補強材本数を少なくすることが
する同等長さの一般的な補強材︵ロックボルト、
摩擦抵抗部
支圧抵抗部
拡大前
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土地改良 290号 2015.7 ●
︵3︶削孔径
孔に挿入する。挿入は残留スライム等に注意して
計上決められた位置まで挿入するためには、削孔
挿入を完了したアンカー体の頭部に先端拡大機
︵ ま た は セ ン タ ー ホ ー ル ジ ャ ッ キ ︶ を セ ッ ト し、
おこなう。
︵3︶アンカー体先端拡大
ミニアンカー工法の特徴は先端拡大部の支圧抵
抗にある。適用にあたっては以下の点に留意し、
径がこの直径以上なければならない。
ロークは 一六五 二㎜ を確保する。
適用範囲
ミニアンカーの先端拡大部は構造図に示すよう
に、直径約六一㎜ となっている。この拡大部を設
所定の引抜き抵抗力が発揮されるよう設計施工す
実際には孔壁は凹凸があることから六五㎜ 以上
の径での削孔をおこなう。また、孔壁が自立しな
︵4︶反カパイプ撤去とロッド位置修正
を短く抑える点にある。先端拡大が可能な脆弱地
ミニアンカーの特徴は、比較的脆弱な地盤に対
して先端拡大部の引き抜き抵抗により、補強材長
拡大部の残存土砂や孔内のスライムを除去する
ため、高圧の圧縮空気にてエアブローを行う。エ
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ミニアンカーは先端拡大部の支圧抵抗を期待す
るため、先端拡大部を孔内の所定の位置まで挿入
盤が深い等特殊な場合を除き、補強材長はこの特
ア ブ ロ ー は 一 本 当 り 六 〇 秒 以 上 と し、 ロ ッ ド を
油圧をかけて拡大する。拡大時のジャッキストー
る必要がある。
い地盤ではダブルケーシング掘りとする必要があ
ること
︵1︶ ミ ニ ア ン カ ー 先 端 部 が 拡 大 可 能 な 地 盤 で あ
り、この場合には九〇㎜ 以上の削孔径となる。
先端拡大後、ジャッキストロークを元にもどし
て拡大機を撤去する。
反カパイプを抜き、
アンカー
する必要がある。
孔壁が崩れ、
設計計算によって決
徴を生かすため五mまでを標準としている。ただ
ゆっくり回転させながら行う。
︵4︶補強材長
アンカー体
められた位置まで挿入できない場合 、
し、設計において補強材長が五mを越える場合に
︵6︶グラウト注入
適用可能な地盤の目安を表1に示す。
︵2︶ 地盤削孔直後、孔壁が自立していること
の引抜き抵抗が不足し設計安全率を確保できない。
は、 地 盤 と 施 工 条 件 を 勘 案 し て 補 強 材 長 を 八 m
表− 1 ミニアンカーが適用可能な地盤
<先端拡大前>
414
260
<先端拡大後>
図− 2 構造図
︵5︶先端拡大部の清掃
らくしてグラウト材が下がった場合は再注入を実
施する。グラウト材は強度
%
0
5
を標準とする。
︵7︶頭部処理
を取り付ける。
張りコンクリート等が先行施工されている場合
にはベアリングプレートを設置してベルキャップ
表面保議工を施工しベアリングプレートを設置
してナットで締結する。
∼
0
4
=
C
/
W
,
2
n
r
m
/
N
4
2
拡大部棒鋼
体頭部が設計位置となるよう調整する。
孔壁が崩れやすい地盤では、ダブルケーシング
掘りとする等の対策が必要となる。
先端拡大部
ロッド部
施工方法
程度までとすることも可能である。また、ミニア
N値≦15程度
グラウトホースを接続しミニアンカー外周部に
グラウトを充填する。充填は孔口部より余剰グラ
粘性土
ンカーは現地の施工条件に応じて接続式の構造と
適用範囲
N値≦30程度
ウトが流出した時点で完了とするが、注入後しば
外鋼管
ロッド
︵1︶削孔
アンカー打設位置にマーキングし、設計により
定められた角度にて削孔する。削孔は地山の状況
を判断し、先端拡大部が挿入可能な方法でおこな
う。削孔長は検尺により確認する。
︵2︶アンカー体挿入
反カパイプをセットしたアンカー体を削孔完了
● 土地改良 290号 2015.7
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地盤種別
砂質土、レキ質土
することも可能である.
300
技 術 紹 介
新潟県長岡市
採用理由
「 平 成25年 7 月・ 8 月 の 豪 雨 災
害」に対する急傾斜地崩壊防止
工に伴う斜面補強対策工として、
通常のロックボルト(L=5.0m)
に対して、補強材長を短くでき
るミニアンカー工法(L=3.5m)
が採用。
NO.1
GH=65.48
Co
▽64.89
▽63.90
粘性土
▽62.73
掘削
8.4㎡
▽61.56
高さ
(m)
5
勾配
1:0.8
土質
粘性土
ミニアンカー
長さ
(m)
×
本数
(本)
3.5m×37本
▽60.53
強風化シルト質砂岩
埋戻し
0.5㎡
崩土
掘削
4.7㎡
施工例
地域
︵1︶自然斜面の補強事例
適用概要
先端拡大型補強工
▽58.53
水平間隔 1,500mm,L= 3,500mm
削孔径 90mm, 削孔長 3,630
風化細粒砂岩(礫混じり)
風化礫岩
︵2︶既設擁壁の補強事例
写真− 1 先端拡大状況
写真− 2 現場状況
写真− 3 擁壁補強完了
防災・災害対策への適用
防災・減災ならびに国土強靭化が叫ばれる中、
補強土工法をはじめとする防災関連技術の活用が
重 要 と な っ て い る。 ミ ニ ア ン カ ー 工 法 は、 平 成
二十七年三月末現在、一一〇件、約八〇〇〇本が
適用され、約六割が防災・災害対策及び擁壁補強
工事での適用となっている。昨今頻発する地震・
降雨・火山などの自然災害や既存ストックの維持・
保全に対して微力ながら農業農村整備にも役立つ
S
I
T
E M
N i
D
S
A
J
︵国
︵ 斜面防
よう今後も技術研鑽を図る所存で有る。尚、本稿
紙面に記載出来ない部分については、
土交通省新技術活用システム ︶
、
災対策技術協会︶などの登録情報を参照願いたい。
適用概要
地域
長野県飯田市
採用理由
既設ブロック積み擁壁のはらみだしに伴う擁壁
補強に対して、用地境界内で補強可能なミニア
ンカー工法が採用。
高さ(m)
3.73
勾配
1:0.3
土質
粘性土
ミニアンカー
長さ(m)×
本数(本)
2.5m×27本
土地改良 290号 2015.7 ●
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