壊疽に対する下肢切断術における皮膚灌流圧(SPP)測定の 有用性の検討

〔原
著〕
壊疽に対する下肢切断術における皮膚灌流圧(SPP)測定の
有用性の検討
山 内
柴 田
直
人
定
堺
浅 岡
隆
慎
浩
大
川
田 明
匡
央
Keywords:Gangrene 壊疽,Amputation 切断術,Skin perfusion pressure 皮膚灌流圧
要
やバイパス術といった血行再
旨
の進歩により救
肢できる症例は多くなっているが残念ながら切
下肢切断術における Skin perfusion pres-
断を余儀なくされる例もある。切断高位によっ
(SPP)の有用性について検討した。対象は
sure
てその後の ADL が大きく変わることもあり,
下肢壊疽・感染の治療のために切断術を要した
検討においては壊死範囲,局所所見,元々の
35例 43肢である。切断高位における SPP 値と
ADL,下肢血管評価などが重要となる。今回
治療成績について評価した。
全 43肢のうち3ヶ
我々は切断を要する下肢壊疽・感染に対する
月以内に
SPP と治療成績について検討したので報告す
上
癒合したのは 29肢であり,
3ヶ月以
癒合が遷
したのは5肢,再切断に至った
る。
の は 9 肢 で あった。切 断 高 位 の SPP が 30
対 象 と 方 法
mmHg 未満であった全 12肢では7肢(58.3%)
が再切断に至り,1肢は
癒合が遷
対象は下肢壊疽・感染の治療で切断術を要し,
した。そ
れに対し切断高位の SPP が 30mmHg 以上で
あった 全 31肢 で は 再 切 断 に 至った の が 2 肢
切断高位における SPP を測定した 35例 43肢
(男性 26人,女性 15人)である。平
年齢は
が4肢で認めら
67.4歳であり術前合併症は ASO 27例,DM 31
れた。SPP が 30mmHg 未満の場合,
2/3の症例
例,維持透析8例であった。予定切断高位にお
に再切断や
ける SPP が 50mmHg 以下の場合は血行再
(6.5%)であり,
癒合の遷
癒合不全を生じたことから,切断
高位を検討する際に SPP 30mmHg 以上がひ
の適応を検討し,可能な場合は血行再
とつの有用な指標となる。
した。感染が一定制御でき下肢切断術前に血行
は
閉塞性動脈
じ
め
に
化症(ASO)や糖尿病(DM )な
再
を優先
を行えたのは 18肢であり,血管内治療が
18肢,バイパス術が3肢(重複あり)であった。
各切断高位は足趾切断 27肢,サイム切断4肢,
どを背景とし下肢壊疽・感染を生じる症例は少
下
なくない。皮膚灌流圧測定(SPP)や経皮的酸
高位は皮膚に感染・潰瘍等の問題がなく SPP
素
が 30mmHg 以上となる最遠位の高位を第一選
圧などを利用した血流評価や,血管内治療
切断7肢,大
切断が5肢であった。切断
Validity of Skin Perfusion Pressure (SPP) Measurement in Lower-Limb Amputations for Gangrene Treatment
Yamauchi, N., Sakai, M ., Okawa, T., Shibata, S., Asaoka, T., Matsuda, A. Department of
Orthopedic Surgery, Kin-Ikyo Central Hospital:勤医協中央病院整形外科
Vol. 34 23
北勤医誌第 34巻
2012年 12月
図 1 全 43肢の治療成績と SPP
択とし,これに元々の ADL や本人・家族の希望
図 2 切断高位における SPP が 30mmHg 未満の全 12
肢の治療成績
もふまえて最終決定した。SPP は予定切断高位
において2ヶ所で測定し低い方で評価した。
癒合については3ヶ月以内に治癒したものを治
癒群,3ヶ月以上を要したものを
再切断群と
癒合遷
け て 評 価 し た。SPP の 機 種 は
(カネカメディックス社)を
PAD3000
結
用した。
果
全 43肢の内訳としては治癒群が 29肢,
合遷
群,
癒
群が5肢,再切断群が9肢であった(図
1)。今回,切断高位決定においてひとつの目安
と し た SPP 30mmHg で
け る と SPP 30
図 3 切断高位における SPP が 30mmHg 以上の全 41
肢の治療成績
mmHg 未満の全 12肢では7肢(58.3%)が再切
断,1 肢 が
癒合遷
という結果であり
症
SPP 30mmHg 以上では全 31肢中再切断は2
肢(6.5%),
癒合遷
例
群は4肢であった(図
70歳男性。左前足部に黒色壊死と感染を生じ
2・3)。特に SPP 20mmHg 未満の5肢では4
他科から紹介となる(図4)。合併症として ASO
肢が再切断,1肢が
と糖尿病があり,初診時の足関節上腕血圧比
癒合遷
と不良な結果で
あった。SPP 30∼59mmHg では治癒群が全 22
肢中 16肢, 癒合遷
群が4肢,再切断群が2
(ABI)は 0.76と軽度の低下であった。しかし
SPP で は 下
が 16mmHg,足 関 節 が 15
肢であり,SPP 60mmHg 以上では9肢全例が
mmHg,足底で9mmHg と低値であり,下
治癒した。
断術も困難な状況であった。そのためまず血管
癒合遷
群の5肢はすべて足趾切断例であ
り,再切断群の9肢は足趾が5肢,サイムが1
肢,下
が2肢,大
が1肢であった。これら
外科で大
・膝窩動脈バイパス術による血行再
を行った(図5・6)。この結果,SPP は足関
節部で 51mmHg,足底で 31mmHg まで改善
の 13例 14肢の術前合併症は ASO 13例,糖尿
しサイム切断術を選択した。術後の
病 11例,維持透析5例であった。
好であり3ヶ月で義足歩行を獲得した。
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切
治癒は良
壊疽に対する下肢切断術における皮膚灌流圧(SPP)測定の有用性の検討
図 4 初診時の左足部写真
前足部壊疽。母趾は黒色壊死となりその
近位には黄色壊死組織を認める
図 5 血管外科術前の MRA
左大 動脈に高度の狭搾を認める
図 6 左大 −膝窩動脈バイパス
術後の MRA
れている。また,その他の利点として足関節よ
り末梢を含めた任意の部位の評価ができること
が挙げられる。一方欠点として高度の腫脹・浮
腫では精度が低くなる点や,1ヶ所の測定につ
き数
間の安静を要し,体位や体動・室温など
わずかな変化の影響を受けやすいという点が挙
げられる。また,マンシェットでの加圧が必須
であり虚血肢では疼痛を伴うことが多い。それ
でも任意の部位の血流を客観的に数値化して評
価できることは治療の選択をする上でひとつの
指標となりうるため,その有用性について多数
の報告がなされている。
Castronuovo ら は虚血性潰瘍が治癒可能な
図 7 サイム切断術後1ヶ月時
SPP 値についての検討を行い,SPP 45mmHg
以上で 100%の治癒が得られ,SPP 30mmHg
以上であることが潰瘍治療のボーダーラインと
察
述べている。重
ら は糖尿病性足病変の治療
用し皮膚微小
において SPP 40mmHg 以上なら 86%で改善
血管の潅流量を検出する。末梢血流不全に対す
がみられたと報告しており,正木ら も ASO の
る ス ク リーニ ン グ と し て 広 く 行 わ れ て い る
重症虚血肢に対し血行再
ABI が高度の動脈石灰化により過小評価とな
mmHg 未満であった症例は 11例中 10例が大
SPP はレーザードプラーを
を行 う も SPP 30
るおそれがあるのに対し,SPP では動脈石灰化
切断に至り SPP 30mmHg 以上なら良好な結
の影響を受けにくいことから糖尿病や透析患者
果が得られたと報告している。浦部ら は虚血
など重症虚血肢の評価により適しているといわ
性潰瘍症例の保存的治療による治癒の可能性に
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ついての検討で SPP 40mmHg 以上が肢の予
唆される。手術による治療成績を向上させるた
後に影響する唯一の因子であると報告してい
めにも下肢血流評価に加えて他の因子について
る。これらの報告からは,虚血肢の潰瘍治療に
も今後の検討が必要である。
おいて SPP が 30mmHg∼45mmHg 以上なら
結
傷治癒を見込めるひとつの指標となることが
語
切断高位における SPP が 30mmHg 未満の
いえる。下肢切断術の高位判定に SPP を利用
した報告は乏しいが,自験例の切断例において
場合,2/3の例で再切断や
も SPP 30mmHg 未満では 12肢中8肢で再切
おり,切断高位を検討する際にひとつの有用な
断や
指標となる。
癒合不全を生じている。造影 CTA や
癒合不全を生じて
M RA は血管内腔の状態を把握し,閉塞や狭搾
部位の評価には有用であるが,皮膚
部を治癒
させるに足る血流があるかどうかについては評
(本論文の要旨は第 123回北海道整形災害外科
学会にて発表した。)
価が難しい。それに対し SPP は任意の部位で
文
の評価が可能であり,切断高位の決定に有用で
ある。また,たとえ救肢が望めない症例でも,
献
1) Castronuovo JJ Jr, Adera HM, et al: Skin
患肢を長く温存することが ADL の低下を抑え
perfusion pressure measurement is valuable in
ることにつながるため,可能な限り血行再
the diagnosis of critical limb ischemia.J Vasc
Surg, 26:629 −637, 1997
試みて血流の改善を図ることが重要と
を
える。
2) 正木久男,田淵篤ら:重症虚血肢の集学的治療と
SPP の問題点については菰田ら が SPP 値
と
傷治癒の乖離に影響を与える因子として動
治療戦略.日血外会誌,20:905−911,2011
3) 重
脈閉塞,側副血行路による血行の変化,糖尿病
性末梢神経障害,静脈うっ滞,手術手技を挙げ
邦広,赤井淳ら:糖尿病性足病変に対するス
トラテジー:虚血肢評価の観点から.脈管学,50:
697−702,2010
4) Urabe G, Yamamoto K, et al: Skin perfusion
て い る。自 験 例 で も SPP が 42mmHg・50
pressure is useful tool for evaluating outcome
mmHg と比較的良好であった2肢にも再切断
of ischemic foot ulcers with conservative therapy. Ann Vasc Dis, 2:21−26, 2009
を要しており,手術手技,後療法も含めたその
他の因子も術後成績に関与している可能性が示
5) 菰田拓之:足病変患者への皮膚灌流圧(SPP)の
有用性の検討.日形会誌 29:73−82,2009
Abstract
This studyexamined the validityof skin perfusion pressure(SPP)measurement in lower-limb
amputations by evaluating SPP values at amputation levels and treatment outcomes,involving 43
limbs of 35 patients requiring amputation for the treatment of lower-limb gangrene and infection.
Among the 43 limbs, 29 healed within 3 months, 5 healed after this period, and 9 required
reamputation. Among 12 limbs with SPP values lower than 30 mmHg at amputation levels, 7
(58.3%)required reamputation,and 1 showed delayed healing. In contrast,among 31 limbs with
SPP values of 30 mmHg or more,2 (6.5%)required reamputation,and 4 showed delayed healing.
Considering that two-thirds of the limbs with SPP values lower than 30 mmHg required
reamputation,or showed delayed healing,SPP values of 30 mmHg or more may be a valid index
for the determination of amputation levels.
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