2015年 5月号

 2015 年 5 月 22 日発行
第 784 号 ( 1 )
2015
5
1.教授就任
中村 和弘 …………………
2.特任教授就任
五十部 穣 …………………
3.准教授就任
冨田 章裕 …………………
4.新病院長に聞く
井澤 英夫 …………………
5.女性医師訪問
成瀬 桂子 …………………
6.NIH からのメッセージ③ 小島 博 …………………
7.診療体制一覧表(1)
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8.ご寄稿 中川区鶴友会のご報告
………………………………
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9.模擬病院開催のお知らせ
10.大学院新入生名簿
11.医学部新入生名簿
12.ご案内 名簿発行
13.学友大会ご案内
14.図書館からのお知らせ
15.編集後記
………………………………
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教 授 就 任
なかむら
かずひろ
細胞科学講座 細胞生物物理学分野 教授 中村 和弘
〈業績〉
1. Kataoka N, Hioki H, Kaneko T, Nakamura K. Psychological
stress activates a dorsomedial hypothalamus-medullary
raphe circuit driving brown adipose tissue thermogenesis and
hyperthermia. Cell Metab 2014; 20: 346-358.
2. Nakamura K and Morrison SF. A thermosensory pathway
mediating heat-defense responses. Proc Natl Acad Sci USA
2010; 107: 8848-8853.
3. Nakamura K and Morrison SF. A thermosensory pathway
that controls body temperature. Nature Neurosci 2008; 11:
62-71.
4. Nakamura K, Matsumura K, Hübschle T, Nakamura Y,
Hioki H, et al. Identification of sympathetic premotor
neurons in medullary raphe regions mediating fever and
other thermoregulatory functions. J Neurosci 2004; 24:
5370-5380.
5. Nakamura K, Matsumura K, Kaneko T, Kobayashi S,
Katoh H, et al. The rostral raphe pallidus nucleus mediates
pyrogenic transmission from the preoptic area. J Neurosci
2002; 22: 4600-4610.
〈略歴〉
平成 9 年 3 月 京都大学薬学部卒業
平成11年 3 月 京都大学大学院薬学研究科修士課程修了
平成14年 3 月 京都大学大学院薬学研究科博士後期課程修了(薬学博士)
平成14年 4 月 日本学術振興会特別研究員(関西医科大学、京都大学)
平成17年 4 月 米国 オレゴン健康科学大学博士研究員
平成18年 4 月 日本学術振興会海外特別研究員(オレゴン健康科学大学)
平成21年 4 月 京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニット特定助教
平成25年 4 月 京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニット講師
平成25年10月 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業さきがけ研究者(兼任)
平成26年 2 月 京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニット准教授
平成27年 4 月 名古屋大学大学院医学系研究科細胞科学講座細胞生物物理学分野教授
学友会の皆様におかれましては、ますますご清祥のこ
ととお慶び申し上げます。この度、平成 27 年 4 月 1 日
付けをもちまして名古屋大学大学院医学系研究科細胞科
学講座細胞生物物理学分野教授を拝命いたしました。こ
こに謹んでご挨拶を申し上げます。
私は平成 5 年に京都大学薬学部へ入学し、市川厚教授
(現武庫川女子大学薬学部長)が主宰されておりました
衛生化学教室にて、助教授の根岸学先生(現京都大学大
学院生命科学研究科教授)の御指導のもと、大学院時代
も通じて、プロスタグランジン EP3 受容体の神経機能
における役割の研究に携わらせていただきました。特
に、EP3 受容体の脳での生理機能に興味を持ち、京都
(2)
2015 年 5 月 22 日発行
大学大学院医学研究科の金子武嗣教授にも神経解剖学の
御指導をいただきながら、ラットの脳、脊髄、末梢神経
節にわたる EP3 受容体の免疫組織化学的分布をマッピ
ングいたしました。
この研究で観察した、体温調節中枢である視索前野と
いう脳領域における EP3 受容体の分布は大変印象的な
ものでした。ちょうどその当時、京都大学の成宮周教
授のグループが EP3 受容体欠損マウスは感染性発熱を
示さないことを報告されました。こうしたことから、
感染時に産生されるプロスタグランジン E2 を視索前野
の EP3 受容体発現神経細胞が受容し、それが発熱の引
き金になると考え、発熱に至る神経回路メカニズムに興
味を抱くようになりました。そして、京都大学大学院情
報学研究科の松村潔先生(現大阪工業大学教授)に生理
学を御指導いただき、視索前野から末梢への発熱指令の
伝達を担う遠心性神経路を明らかにすることができまし
た。
博士号取得後は、金子武嗣教授、関西医科大学の伊
藤誠二教授にお世話になり、感染時の発熱や寒冷時の
熱産生を駆動する新規の交感神経プレモーターニュー
ロン群を同定いたしました。その後、自律神経生理学
の第一人者である米国オレゴン健康科学大学の Shaun
F. Morrison 教授のもとに留学いたしました。そこで、
ラット褐色脂肪組織の交感神経活動や熱産生を測定する
in vivo 生理学の技術を習得し、日本で習得した神経解
剖学的手法を組み合わせることで、体温調節に必要な温
度感覚情報を皮膚から体温調節中枢へ伝達する新たな感
覚神経路などを発見することができました。
帰国後は、京都大学生命科学系キャリアパス形成ユ
ニットにて独立した研究室を持つ機会をいただきまし
た。研究室のメンバーとともに、体温調節や感染性発熱
の中枢神経回路の全貌解明を進めるとともに、光遺伝学
などの革新的手法を取り入れることで、心理ストレスに
よる心因性発熱を駆動する神経回路を解明することがで
きました。今後は、精神的な状態が生体調節に影響を与
える仕組みの解明を通じて、「病は気から」を科学的に
解明することを目指すとともに、恒常性維持を担う中枢
メカニズムの核心を解き明かすことで、生命システムの
本質に迫る研究を展開したいと考えております。
名古屋大学の生理学教室には、久野寧先生が発汗と体
温調節に関して世界に冠たる研究をなされた輝かしい歴
史があり、そのような教室を担当させていただけること
は、体温調節研究に携わってきた者として大変光栄であ
りますとともに、身の引き締まる思いでもあります。久
野先生をはじめ、先代の曽我部正博先生に至る歴代教授
方が築いてこられた、卓越した生理学研究・教育の伝統
を守りつつも、新たな視点から本質を突く研究を行い、
その姿勢を学生に伝える教育を実践して、名古屋大学医
学部の発展に微力ながら貢献できますように努力して参
る所存です。学友会の皆様方には今後ともご指導、ご鞭
撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
第 784 号
教授就任インタビュー
教授に就任された心境や抱負をお聞かせ下さい。
名古屋大学の生理学教室には久野寧先生という方がい
らっしゃいました。先生は体温調節について素晴らしい
研究をなされ、世界的にも有名な方でいらっしゃいま
す。そのような歴史ある研究室を担当させていただくこ
とは名誉なことであると感じる一方、責任も感じており
ます。忙しくて大変だと感じることもありますが、久野
先生のように良い研究ができるよう、努力していきたい
と考えております。
■ ■ ■
生理学の魅力について教えてください。
私は体温調節が恒常性の維持において最も大切な機能
の一つだと考え、研究を行っています。恒常性は生命維
持における根幹をなしており、そのバランスが崩れてし
まうと病気や死につながってしまいます。つまり、恒常
性維持の仕組みを解明することは、生命のメカニズムの
本質を解き明かすことであるだけでなく、病気の発症メ
カニズムや治療法の開発にもつながるのです。
■ ■ ■
今の道にすすまれたきっかけや理由をお聞かせ下
さい。
京都大学薬学部に入学し、神経系の研究に興味を持つ
ようになりました。大学院生の時には EP3 に関する論
文を発表し、その後も博士研究員として体温調節につい
て研究を行いました。偉大な先生方の刺激をうけたりご
協力をいただいたりする中で、留学の経験も経て、もっ
と深く生理学について学びたいという気持ちが膨らんで
きました。そして、一人の人間が一生でやれることは限
られているけれども、せっかく与えられた一度きりの人
生ですから、枝葉の研究ではなく生命機能の本質を解明
しようという決意に至ったのです。
■ ■ ■
最後に、学生へのメッセージをお願いします。
現代の日本において必要とされているキーワードは、
創造力です。多くの人の流れや流行に敢えて逆らい、新
しく優れた価値観を生み出して社会に広める馬力や能力
を持つ人材が必要とされています。そのためにはまず、
物事の本質を的確に見抜く力、論理的な思考能力を持っ
てください。大学はこれらの能力を養う絶好の場所で
す。人と違うことを怖がらず、ユニークであることを追
求し、オリジナルな人生を送ってください。
(インタビュアー:石川 あゆみ、榎本 さやか)
2015 年 5 月 22 日発行
第 784 号 ( 3 )
特任教授就任
附属病院 先端医療・臨床研究支援センター
い
そ
べ
ゆたか
五十部 穣
〈略歴〉
1984 年 3 月 京都大学大学院 理学研究科化学専攻 修士課程修了
1984 年 4 月 住友化学工業株式会社(現:住友化学株式会社)
1984 年10月 住友製薬株式会社
1995 年11月 米国 Birch, Stewart, Kolasch & Birch 法律事務所に派遣
2005 年10月 大日本住友製薬株式会社
2015 年 2 月 名古屋大学医学部附属病院 先端医療・臨床研究支援センター
経て派遣元会社限定の特許代理人として米国特許商標庁に
登録されておりました。
帰国後も知的財産業務を続け、2001 年に日本の弁理士
資格を得て住友製薬および大日本住友製薬の代理人として
表に立っての特許庁への出願、審査官との対応等の業務を
行ってまいりました。
2010 年頃からは海外関係の業務が増え、米国 ANDA 訴
〈業績〉
1. Kazuhiko TANAKA, Hidemi YODA, Yutaka ISOBE,
Aritsune KAJI. Asymmetric synthesis of alpha-methylenegamma-bytyrolactones using chiral N-monosubstituted
2-{(tributylstannly)methyl}propenamides. Journal of
Organic Chemistry 51, 1856-1866 (1986)
2. Kazuhiko TANAKA, Hidemi YODA, Yutaka ISOBE,
Aritsune KAJI. Asymmetric synthesis of gamma-alkylalpha-methylene-gamma-bytyrolactones via 1,6- remote
induction using 2-{(tributylstannly)methyl}propenamides.
Tetrahedron Letters 26(10), 1337-1340 (1985)
3. Yutaka TAKEUCHI, Yoshiaki TAKEBAYASI, Makoto
SUNAGAWA, Yutaka ISOBE, Yukari HAMAZUME. The
stability of a novel carbapenem antibiotic meropenem (SM7338), in a solid state formulation for injection. Chemical &
Pharmaceutical Bulletin 41, 1998-2002 (1993)
4. Yutaka TAKEUCHI, Makoto SUNAGAWA, Yutaka ISOBE,
Yukari HAMAZUME, Tetsuo NOGUCHI. Stability of a
1-beta-methy carbapenem aintibiotic, meropenem (SM-7338)
in aqueous solution. Chemical & Pharmaceutical Bulletin 43,
689-692 (1995)
訟(先発医薬品のデータ保護期間満了後に参入しようとす
る後発医薬品開発会社との間での特許訴訟)対応、同様の
カナダ業務対応、幾つかの米国会社買収の対応など、様々
な業務を経験させて頂きました。
そして 2015 年になり、名古屋大学医学部附属病院の先
端医療・臨床研究支援センターのメンバーとして採用して
頂きました。先端医療・臨床研究支援センターでは、先端
医療技術の開発と臨床応用を推進するためにさまざまな専
門家が活動しており、そのメンバーとして採用して頂いた
ことに大変感謝致しますと共に責任を感じております。
私は現在医学部および附属病院における知的財産管理全
般(発明発掘、発明相談、特許出願~審査官の審査を経て
の権利成立~技術移転 ・ 契約)と橋渡し研究加速ネット
ワークプログラムに関連する知財管理を行っております。
特に前者については、学術研究・産学官連携推進本部の知
財 ・ 技術移転グループと密接に連携し、業務分担に於いて
も日常業務に於いても同グループのメンバーと一緒になっ
て行っています。
学友会の皆様におかれましては、ますますご清栄のこと
医学部及び附属病院での業務の感想ですが、着任してか
とお慶び申し上げます。
ら期間はまだ短いものの、先生方の高い専門性と研究に対
平成 27 年 2 月 1 日付で、名古屋大学医学部附属病院の
する熱意で新しい医療がまさにここから生まれるのだと強
先端医療 ・ 臨床研究支援センター特任教授を拝命致しまし
く感じております。私の役割は、その新しい医療を知的財
た。ここに謹んでご挨拶申し上げます。
産により利益確保し、事業として成り立つようにすること
私は学生時代に有機合成化学を専攻していたため、1984
で実用化の可能性を高めることにあり、そのため全力を尽
年に入社した住友化学工業・分離独立した住友製薬での 3
くしていく所存です。
年間はカルバペネム化合物の合成プロセス研究を行いまし
知的財産は最先端の科学を扱うため特許庁も私共も理解
たが、同化合物の開発が進んだため、1987 年に工場に異動
が難しく、審査官を説得する文書を作成するには直接お会
し製剤開発に従事しました。
いしてお話を伺うことが非常に重要です。またそのような
後に一般名メロペネムと命名されるこの化合物は、早い
お話をさせて頂くことで次の発明の発掘にも繋がるため、
時期から英国 ICI 社(現 AstraZeneca 社)と共同開発して
直接お話させて頂く機会を多く頂きたいと存じますので、
いたため、海外基準での治験薬 GMP 対応が必要でした。
よろしくご協力をお願い致します。
そのことが技術事務に対する興味を抱くきっかけとなった
大学での業務については初めてですので不慣れな点も
ように思います。
多々あるかと存じますが、できるだけ早く慣れて皆様のお
異動を希望して 1992 年からは法務部で知的財産業務を
役に立てるようになりたいと存じます。学友会の皆様には
開始し、1995 年からの 2 年間は米国 Virginia 州の Birch,
機会がございましたら何卒ご指導頂きますよう、宜しくお
Stewart, Kolash & Birch 法律事務所に派遣されました。
願い致します。
その間に日本でいう弁理士にあたる Patent Agent 試験を
(4)
2015 年 5 月 22 日発行
第 784 号
准教授就任
病態内科学講座 血液・腫瘍内科学
と み
た
あ き ひ ろ
冨田 章裕
〈略歴〉
平成3年3月 岐阜大学医学部医学科卒業
平成3年5月 名古屋第二赤十字病院 研修医
平成5年5月 名古屋第二赤十字病院 血液内科
平成7年4月 名古屋大学大学院医学研究科
平成11年4月 名古屋大学医学部第一内科 客員研究員
平成12年7月 米国立保健研究所 (NIH) 客員研究員
Lab. of gene regulation and development, National Institute of Child
Health and Development (NICHD), National Institute of Health (NIH)
平成13年3月 日本学術振興会海外特別研究員 (NIH)
平成15年3月 米国立保健研究所 (NIH) 客員研究員
平成16年4月 名古屋大学医学部附属病院 難治感染症部 医員
平成18年5月 名古屋大学医学部附属病院 血液内科 助教
平成22年12月 名古屋大学医学部附属病院 血液内科 講師
平成27年 1 月 名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座血液・腫瘍内科学准教授
〈業績〉
1. Tokunaga T, Tomita A, Sugimoto K, Shimada K, Iriyama C,
Hirose T, Shirahata-Adachi M, Suzuki Y, Mizuno H, Kiyoi
H, Asano N, Nakamura S, Kinoshita T, Naoe T. De novo
DLBCL with a CD20 IHC(+) and FCM(-) phenotype: molecular
mechanisms and correlation with rituximab sensitivity. Cancer
Sci . 2014;105(1):35-43.
2. Goto E, Tomita A, Hayakawa F, Atsumi A, Kiyoi H, Naoe
T. Missense mutations in PML-RARA are critical for the
lack of responsiveness to arsenic trioxide treatment. Blood .
2011;118(6):1600-9.
3. Hiraga J, Tomita A, Sugimoto T, Shimada K, Ito M, Nakamura
S, Kiyoi H, Kinoshita T and Naoe T. Down-regulation of
CD20 expression in B-cell lymphoma cells after treatment
with rituximab-containing combination chemotherapies: its
prevalence and clinical significance. Blood . 2009 ;113(20):4885-93.
4. Tomita A, Buchholz DR, Obata K, Shi YB. Fusion protein of
retinoic acid receptor alpha with promyelocytic leukemia protein
or promyelocytic leukemia zinc finger protein recruits N-CoRTBLR1 corepressor complex to repress transcription in vivo. J
Biol Chem . 2003;278(33):30788-95.
5. Tomita A, Towatari M, Tsuzuki S, Hayakawa F, Kosugi H,
TamaiK, Miyazaki T, Kinoshita T, Saito H. c-Myb acetylation
at the carboxyl-terminal conserved domain by transcriptional
co-activator p300. Oncogene . 2000;19(3):444-51.
この度、2015 年 1 月 1 日をもちまして、名古屋大学大学
院医学系研究科病態内科学講座血液・腫瘍内科学の准教授
を拝命致しました。学友会の諸先生方には日頃より温かい
ご支援をいただいており、この場をお借りして深謝申し上
げます。
さて私は、1991 年(平成 3 年)に岐阜大学医学部を卒業
したのち、名古屋第二赤十字病院で臨床研修をさせていた
だきました。その間、平林憲之部長率いる血液内科医の、
血液悪性腫瘍患者さんに対する決してあきらめない、果敢
な診療の姿勢に感銘をうけ、血液内科を志望させていただ
くに至りました。またこの時期は、血液疾患の診断や治療
において、分子生物学的知見がまさに応用されはじめた黎
明期でもあり、このことも血液内科を選択させていただく
大きな原動力の一つとなりました。
その後、齋藤英彦教授率いる内科学第一講座に入局、
1995 年からは堀田知光先生、村手隆先生、木下朝博先生と
いった錚々たるメンバーの在籍する第二研究室において、
大学院生として臨床と基礎研究に没頭させていただく機会
をいただきました。当時最先端の分子生物学的手技を諸先
輩方に直接御指導いただき、「T 細胞性白血病細胞に発現
する異常 Myb 転写因子の分子生物学的意義」について研究
をさせていただきました。
この時の仕事に端を発して、「血液悪性腫瘍における
エピゲノムを介した異常な転写調節機構」に興味を持ち、
2000 年には米国国立衛生研究所(NIH)において、核内受
容体による転写調節機構を研究テーマとする Dr. Yun-Bo
Shi のラボに留学をさせていただきました。アフリカツメガ
エルの卵母細胞や遺伝子導入オタマジャクシを実験系とし
て用いる全くの基礎研究を、MD がほとんど在籍しない環
境下で集中して行うという極めて貴重な経験をさせていた
だきました。
2004 年に帰国してから現在に至るまでは、統合された血
液・腫瘍内科学教室において、直江知樹前教授及び清井仁
現教授のもと、悪性リンパ腫、白血病、造血障害関連疾患
などの診療、研究に携わっております。特に悪性リンパ腫
分野においては、前々准教授木下朝博先生のお仕事を引き
継ぐという大役をいただきました。また、日本臨床腫瘍研
究グループ(JCOG)や日本成人白血病治療共同研究グルー
プ(JALSG)などにおいてプロトコル作成の段階から参加
をさせていただいており、医局員とともに高度先進医療を
含む種々の医師主導臨床試験を実施しております。研究面
では「標的薬に対する耐性獲得機序の解明と克服法の開発」
をテーマに、これまでに B 細胞リンパ腫における抗 CD20
モノクローナル抗体治療薬リツキシマブや、急性前骨髄急
性白血病における亜ヒ酸治療に対する耐性獲得の分子機序
を明らかにしてきました。現在では末梢血無細胞遊離 DNA
を用いたリンパ腫の分子診断や、予後不良症例における分
子背景の同定と克服法の開発などにも着手しており、今後
も常に患者さんに寄り添った視点でのトランスレーショナ
ルリサーチを、積極的に推し進めて参りたいと考えており
ます。
近年、新しい診断技術や治療法の開発に対する期待は大
きく、それに加えてより安全で満足度の高い医療の提供が
求められています。このような要求に継続的に答えていく
ためには、特に若い世代の医療スタッフが、モチベーショ
ン高く溌剌と日常臨床および研究に邁進できる環境作りが
不可欠と考えています。私が本職に就かせていただくこと
によって、医師、学生、看護師、薬剤師、その他関連スタッ
フの方々に少しでも明るい未来を感じていただけるよう、
鋭意努力をして参りたいと思います。今後ともご指導ご鞭
撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。