2015 年度「ファイナンス保険数理特論」 補足7 — Black-Scholes の偏微分方程式 — 2015 年 7 月 20 日, 高岡浩一郎(一橋大)∗ 【このファイルは 5 頁分です. 】 目次 1 はじめに 1 2 定係数の熱伝導方程式への変換 2 3 熱伝導方程式の基本解 4 4 Black-Scholes 偏微分方程式の解 4 はじめに 1 本稿では,7/3(金)講義で導出した Black-Scholes の偏微分方程式 ∂c 1 ∂2c ∂c (s, t) + σ 2 s2 2 (s, t) + ( r − q ) s (s, t) − r c(s, t) = 0 ∂t 2 ∂s ∂s c(s, T ) = (s − K)+ 【満期条件】 (1) を,定係数の熱伝導方程式に変換し,基本解を用いて解く方法を解説します.ご興味があ ればご覧下さい. なお 2 つの変数が表している量は • t ∈ [0, T ] は時刻 • s > 0 は原資産価格 そして諸定数が表しているのは • T (> 0) はオプション満期 ∗ 一橋大学大学院商学研究科.E-mail: [email protected] 1 • K (> 0) はオプションの権利行使価格 • σ (> 0) は原資産価格変動のボラティリティ • r は【自国通貨の】安全利子率 • q は原資産の連続配当率.なお,もし s が為替レートを表している時は q は外貨金 利を表します. 2 定係数の熱伝導方程式への変換 以下のように順次,変数を変換していきます.新しい変数が表している量は • s̃ > 0 は,配当を連続的に原資産に再投資したものの割引価値 • x ∈ R は,モデルを駆動する Brown 運動の値 • τ ∈ [0, T ] は満期までの時間 です. Step 1:利子率 r および配当率 q の消去 s̃ := s e(q−r)t と定義し,逆算した s = s̃ e(r−q)t を c(s, t) の s に代入して全体を e−rt 倍した式を f (s̃, t) := e−rt c(s̃e(r−q)t , t) と記します.このとき ∂f (s̃, t) = −r e−rt c(s̃e(r−q)t , t) ∂t ∂c ∂c + e−rt (s̃e(r−q)t , t) + e−rt (r − q) s̃e(r−q)t (s̃e(r−q)t , t) ∂t ∂s } { ∂c ∂c −rt = e − r c(s, t) + (s, t) + (r − q) s (s, t) ∂t ∂s および s̃2 2 2 ∂2f −rt 2 2(r−q)t ∂ c (r−q)t −rt 2 ∂ c (s̃, t) = e s̃ e (s̃e , t) = e s (s, t) ∂s̃2 ∂s2 ∂s2 に注意すると ∂f 1 ∂2f (s̃, t) + σ 2 s̃2 2 (s̃, t) ∂t 2 ∂s̃ = e−rt = 0 { ∂c ∂t (s, t) + } 1 2 2 ∂2c ∂c σ s (s, t) + ( r − q ) s (s, t) − r c(s, t) 2 ∂s2 ∂s 【式 (1) より】 2 Step 2:ボラティリティ σ の消去および定係数方程式への変換 ( s̃ = exp σx − 式を σ2 t 2 ) 2 となるように x := (log s̃)+ σ2 t σ g(x, t) := f (eσx− σ2 t 2 と定義し,f (s̃, t) の s̃ に代入した , t) と記します.このとき ∂f σx− σ2 t σ 2 σx− σ2 t ∂f σx− σ2 t 2 , t) − 2 2 , t) (e e (e ∂t 2 ∂s̃ ∂g (x, t) = ∂t ∂f σ 2 ∂f (s̃, t) − s̃ (s̃, t) ∂t 2 ∂s̃ = や σ 2 t ∂f σ2 t ∂g (x, t) = σ eσx− 2 (eσx− 2 , t) ∂x ∂s̃ および 2 ∂2g ∂f 2 2 ∂ f (s̃, t) (x, t) = σ s̃ (s̃, t) + σ 2 s̃ ∂x2 ∂s̃2 ∂s̃ に注意すると ∂g 1 ∂2g (x, t) + (x, t) = ∂t 2 ∂x2 1 ∂2f ∂f (s̃, t) + σ 2 s̃2 2 (s̃, t) ∂t 2 ∂s̃ = 0 【Step 1 より】 Step 3:定係数の熱伝導方程式への変換 時間を反転させて τ := T − t と定義し,逆算した t = T − τ を g(x, t) の t に代入し た式を u(x, τ ) := g(x, T − τ ) と記します.このとき,Step 2 より,u は定係数の熱伝導方程式 1 ∂2u ∂u (x, τ ) = (x, τ ) ∂τ 2 ∂x2 (2) を満たし,その「初期条件」は 【つまり g, f, c に対しては満期条件が対応する】 u(x, 0) = g(x, T ) = f (e 2 σx− σ 2T ( , T) 2 σx+(r−q− σ2 )T = e−rT c e { σ2 = e−rT eσx+(r−q− 2 )T 【Step 2 より】 ) ,T 【Step 1 より】 }+ −K 【式 (1) より】 3 (3) 熱伝導方程式の基本解 3 1 ∂2K ∂K (x, τ ) = (x, τ ) かつ K(x, 0) = δ(x) 【デルタ関数】 ∂τ 2 ∂x2 を満たす関数 K を,この熱伝導方程式の基本解 (fundamental solution) といいます.一般 の初期条件を満たす熱伝導方程式の解 u は,基本解と初期条件の畳み込み (convolution) ∫ ∞ u(x, τ ) = K(x − y, τ ) u(y, 0) dy (4) −∞ と書き表されます† .実際,この右辺を x や τ で偏微分すると積分記号のなかで K を偏 微分することになるため,この u(x, τ ) が偏微分方程式 (2) を満たしますし,初期条件も K(x, 0) = δ(x) より満たされることが分かります. また,基本解 K の具体形は ( x2 ) 1 K(x, τ ) = √ exp − 2τ 2πτ (5) です‡ .この導出方法としては,x についての Fourier 変換および逆変換を用いる方法など があります.偏微分方程式の入門書を参照してください.ネット上でも「熱方程式 フー リエ変換」などの検索ワードで検索すると,良い解説資料が見つかります. そして式 (4) (5) より ∫ ∞ K(x − y, τ ) u(y, 0) dy u(x, τ ) = −∞ ∫ ∞ √ √ √ √ と変数変換】 = K( τ z, τ ) u(x − τ z, 0) τ dz 【z := x−y τ −∞ ∞ ∫ ( z2 ) √ 1 √ u(x − τ z, 0) dz exp − 2 2π = −∞ (6) Black-Scholes 偏微分方程式の解 4 本稿冒頭の Black-Scholes 偏微分方程式 (1) の解 c(s, t) は 【§2 の Step 1 より】 c(s, t) = ert f (s e(q−r)t , t) rt = e g rt ( (log s) − (r − q − = e u σ2 2 )t σ ( (log s) − (r − q − σ2 2 )t σ † ) ,t , T −t 【§2 の Step 2 より】 ) 【§2 の Step 3 より】 厳密に言えばこの形以外の解も存在しますが,偏微分方程式論において通常は “病的” な解 (pathological solution) として扱われます.オプションの「倍賭け」的な複製戦略に対応した解です. ‡ 原点から出発する Brown 運動の密度関数の形をしています. 4 ∫ = ert ∞ −∞ = e −r(T −t) ( z 2 ) ( (log s) − (r − q − σ2 )t √ ) 1 2 √ exp − u − T − t z, 0 dz 2 σ 2π 【式 (6) より】 ∫ ∞ −∞ ( z2 ) { √ }+ σ2 1 √ exp − s e−σ T −t z+(r−q− 2 )(T −t) − K dz 2 2π 【式 (3) より】 ここで d± := と定義し, s e−σ √ log (s) K (7) + (r − q ± 12 σ 2 )(T − t) √ σ T −t 2 T −t z+(r−q− σ2 )(T −t) ≥ K ⇐⇒ z ≤ d− に注意すると,式 (7) において積分範囲を −∞ < z ≤ d− に限定することにより式中のポ ジティブパートの記号 {· · · }+ が外せて,以下のように変形できます: c(s, t) = e−r(T −t) ∫ d− −∞ ( z2 ) { √ } σ2 1 √ s e−σ T −t z+(r−q− 2 )(T −t) − K dz exp − 2 2π ∫ d− ∫ d+ ( z2 ) √ σ2 1 √ exp − e−σ T −t z− 2 (T −t) dz 2 2π −∞ ∫ d− ( 1 z2 ) √ − K e−r(T −t) exp − dz 2 2π −∞ ∫ d− { (z + σ √T − t)2 } 1 −q(T −t) √ exp − = se dz 2 2π −∞ ∫ d− ( z2 ) 1 −r(T −t) √ exp − −K e dz 2 2π −∞ = s e−q(T −t) ( z2 ) √ 1 √ exp − dz 【 ∵ d+ = d− + σ T − t 】 2 2π −∞ ∫ d− ( 1 z2 ) √ − K e−r(T −t) exp − dz 2 2π −∞ = se −q(T −t) = s e−q(T −t) Φ(d+ ) − K e−r(T −t) Φ(d− ) ただし,Φ は標準正規分布関数.この最終式が,Black-Scholes 式です. 以上 5
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