粉体のレオロジー・交通流・アクティブマター

2015/7/14
ソフトマター工学・第11回
2015年7月14日(火)
粉体のレオロジー・交通流・アクティブマター
九州大学大学院工学研究院機械工学部門
准教授
山口 哲生
1
本日のおはなし
1.前回の復習
-ゲルとは?
膨潤・収縮挙動,体積相転移,しわ生成,ゲルアクチュ
エータ,自励振動ゲル
-生体軟骨とゲルの超低摩擦
2.粉体のレオロジー
3.交通流
4.表面張力によって駆動される粒子系
5.まとめ
6.レポート課題
2
1
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ゲルとは?
•
•
•
•
ネットワーク状の高分子
多量の溶媒を含む
やわらかい (Young’s modulus = KPa – MPa)
生体組織,食品,コンタクトレンズなど,身のまわりに
あふれている
• ゴムとの違いは?
ゲル:高分子溶液を架橋したもの
ゴム:高分子融液(メルト)を架橋したもの
※ただしそれらの区別は曖昧
生体(関節軟骨)
溶媒
高分子
架橋点
ソフトコンタクトレンズ
(support.bausch.co.jp) 3
食品
(ゼラチンゲル)
ゲルにおける興味深い現象
膨潤・収縮
高分子鎖の状態が変化し,ゲルの体積が増加したり
(膨潤)減少したり(収縮)する現象
例:化学ゲル
温度 T
体積相転移
アセトン多
膨潤・収縮挙動の一種.温度やpHなどのパラメータを
連続的に変化させると,あるところで体積が不連続に
変化する現象.
臨界点
Cf. 気液相転移
気液相転移:流体で起こる.界面エネルギーは比較的
小さい.
ゲルの体積相転移:弾性体で起こる.異なる相間の界
面エネルギーはかなり大きい.相転移温度や形状に大
きな影響を与える.
膨潤
収縮
共存
アセトン少
体積 V
www.nature.com
アクリルアミドゲル
4
(水・アセトン混合溶媒中) Ilmain et al. Nature (1991)
2
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その他の現象
ゲル表面のしわ生成
田中豊一(1946-2000)
ゲルの物理学,生物物理学に関する先駆的な研究
を数多く行なった.
ゲルの体積相転移によって表面にしわが寄ること
を発見,そのメカニズムを詳しく調べた.
現在,デバイスへの応用を目指してさまざまな研
究が行なわれている.
ゲルアクチュエータ
電場,pH,濃度場などの外的刺激を与えることに
よって,ゲルに変形(伸張/屈曲,曲げ)を誘起.
Okuzaki et al., Nature (1992)
5
自律的に振動するゲル
吉田・原ら,MITグループ
自励振動を行なう化学反応として知られ
ているBZ反応をゲル中に組み込んだBZゲ
ルは,心筋のような動きを示したり,歩
行したりする.
BZ(Belousov-Zhabotinsky)
反応
脈動するゲル
歩行するBZゲル
6
3
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関節軟骨の超低摩擦機構
1.表面における効果
電解質高分子ゲルの摩擦における超低摩擦化
表面での反対電荷の濃縮によって高い浸透圧が発生
→ 潤滑層形成,低摩擦状態の実現
ゲル
潤滑層
− +− + − − + + − + −
− − + − + + − − + − + −+
+ − + − −+
+
− +
+
− − + − −+
−+
− +
−
−
−
+ + + + + + +
+ +
−
−
−
−
−
−
−
Glass plate
J. P. Gong, Soft Matter (2006)
Kaneko et al., Adv. Mat. (2005)
高摩擦
2. 関節軟骨表面への脂質・タンパク分子吸着
脂質・タンパク質が自己組織構造を形成
→
低摩擦
低摩擦状態の実現
7
Nakashima et al., JSME Int. J. (2005)
関節軟骨の超低摩擦機構
3.内部流体による荷重支持機構
接触によって接触圧は上昇するが,成分の
大部分を占める流体によって荷重を支持.
→ 軟骨中の弾性体成分は
わずかな垂直抗力の負担で済む.
→ 発生するせん断力が小さくなる.
→ 摩擦係数も小さな値を取る.
しかしながら,このメカニズムは流体が抜け
てしまうと働かなくなる,過渡的なものであ
る.
→実際には,立ったり座ったり,歩行時・走
行時には脚を入れ替えたりしているので,そ
の都度(除荷時に)回復することができる.
N. Sakai et al., Tribol. Int. (2012)
Compression
Shear
Cylinder P(x):pressure
Flow field
Articular
cartilage
(gel)
x
Compression
Cylinder
Gel
Elastic stress
Hydrostatic pressure
8
4
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2.粉体とは?
粉体(granular matter)
粉,粒などの集まったもの(集合体).粉
(粒)の間の空間(空隙)を占める媒質も含め
て一つの集合体と考える.個々の粉,粒は固体
であるが,集合体としては流体(液体)のよう
に振る舞う場合がある.砂の振る舞いは一つの
例と言える.
例
砂,セメント,小麦粉,コロイド,磁性流体,
磁気テープなどに塗布する磁性の(超)微粉
末,
コピー機のトナー,土星の輪
9
粉体は流体,それとも固体?
右図のような砂山斜面では,表層部分の
み流動しており,その下のバルクではほ
どんど動きがない.
⇒ 固体(のように動きがない)領域と
流体になっている領域が共存.
粉体の構成関係(応力とひずみあるいは
ひずみ速度を関係付ける式)は,未だに
良くわかっていない.
10
5
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応力鎖(Stress chain)
固化している場合には,光弾性円盤を用
いて応力を可視化することによって,応
力鎖と呼ばれる状態を見ることができる.
⇒ 応力の空間分布に大きな揺らぎ
応力のかかった状態で粉体を流すと,急
激な応力上昇のために,サイロが崩壊す
ることもある.
movie
11
その他の奇妙なレオロジー現象
ブラジルナッツ効果
異なる大きさからなる粉粒体を振ると、最
も大きな粒子が表面に浮き上がってくる現
象(Wikipedia).
液状化現象
地震の際に地下水位の高い砂地盤が、振動
により液体状になる現象。これにより比重
の大きい構造物が埋もれ、倒れたり、地中
の比重の軽い構造物(下水管等)が浮き上
がったりする.(Wikipedia)
這い上がるコロイド懸濁液
次世代のロボット???
movie
movie
急速に膨潤するゲル粒子系の座屈現象
(山口の研究)
movie
movie
12
6
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ジャミング転移
T. Hatano, JPSJ (2008)
単純な設定(無重力下,球状粒子,
摩擦なし)で,コンピュータシミュ
レーションを用いて粉体系のせん断
流れの様子を調べた.
粉体の密度があるところよりも大き
くなると,せん断速度γを小さくし
てもせん断応力Sが有限の値を持つ
(降伏応力が存在).
movie
これをジャミング(渋滞)転移とい
う.
13
粉体レオロジー研究の難しさ
• 粉体は,熱揺らぎの効果が効かない粒
子からなる.そのため,平衡状態に緩
和しない.
• 粉体の形状が球状であるか棒状である
か円盤状であるかによって,静的な振
る舞いや流動特性が大きく異なる.
• 粒子間には摩擦が働くが,摩擦は接触
状態に大きく依存するため,解析は極
めて困難.
⇒粉体の挙動を統一的に説明する理論は
未だできていない.
14
7
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3.交通流
渋滞とは?
• 物体(車など)が多すぎて,のろのろした
状態.
⇒ 密度(単位体積あたりの物体の数)が大
きくなりすぎて,流量(単位時間当たりに通
過する数)が小さくなる現象.
‐交通渋滞
‐人の混雑,行列
‐インターネットの輻輳(つながりにくい状態)
‐ガラス状態,紛体のジャミング
基本図
(東名高速道路)
など,渋滞は身の回りに溢れている.
15
渋滞の種類と起こりやすい場所
渋滞の種類
• 信号機による渋滞
• 事故による渋滞
• 自然渋滞
起こりやすい場所
• 景色がいいところ
• 合流地点
• いつの間にか上り坂に
なっているところ(サグ)
合流地点
サグ
16
8
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渋滞現象の理解のために
• なぜ渋滞が起こるか,どうしたら渋滞
を解消できるか?
⇒現場(高速道路など)で渋滞を観察す
る.
⇒渋滞を模擬した実験を行なう.
⇒車の動きを単純化したモデルを考え,
現象を解析する.
movie
ここでは,
目的:車の密度によって車の流れがどの
ように変わるかを調べる.
手法:セルラ-オートマトンモデル
17
モデルの定義と性質
定義
• 空間(1次元),時間:離散的な(とびとびの)値を取る
• 右(前方)に車がいないときの速さ:1 (Δx/Δt = 1 )
いる
0
• 空間に関して,周期的境界条件が課されている
性質
• 車の台数は途中で変化しない
• 追い越しができない
X=
1
2
3
4
5
6
7
8
時間 n
1
0
1
1
0
0
1
0
時間 n+1
0
1
1
0
1
0
0
1
18
9
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セルラーオートマトンモデル
• 箱の中に,1または0を入れる.
1:車あり, 0:車なし
• 時間を1つ進めるとき,(時間 n =1, 2, 3, …, N)
“1”の右(前方)に車がない ⇒ 1を1つ進める.
ある ⇒ 1はその場所に留ま
る.
• “1”が右端から出たら左端から入る(周期境界条件).
X=
1
2
3
4
5
6
7
8
時間 n
1
0
1
1
0
0
1
0
時間 n+1
0
1
1
0
1
0
0
1
19
現実はもっと複雑
今回のモデルでは,
‐1車線,追い越しできない.
‐速度は0か1.
‐離散時間,離散空間.
‐分岐,合流なし.
だが実際には,
‐2車線以上のところもある.レーン変更すれば,追
い越しもできる.
‐時間,空間,速度は連続.
‐分岐・合流あり.
今回のような単純なモデルでどこまで説明できるのだろうか?
20
10
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“実験”してみよう
n=1
1
0
1
1
0
0
1
0
n=2
0
1
1
0
1
0
0
1
n=3
1
1
0
1
0
1
0
0
n=4
1
0
1
0
1
0
1
0
n=5
0
1
0
1
0
1
0
1
n=6
1
0
1
0
1
0
1
0
21
車の数が少ないとき,多いとき
(密度依存性)
  N / M = (車の数)÷(箱の数)
• 密度

N

• 平均速度 V    vi  / N = (動ける車の数)÷(車の数)
 i 1

車の数が少ないとき(ρ = 0.375)
n=1 0
0
1
1
0
0
1
0
n=2
0
0
1
0
1
0
0
1
n=3
1
0
0
1
0
1
0
0
平均速度
V 1
ρが小さいときには,渋滞は起こらない
22
11
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車の数が少ないとき,多いとき
(密度依存性)
車の数が多いとき(ρ = 0.625)
n=1
0
0
1
1
0
1
1
1
n=2
1
0
1
0
1
1
1
0
n=3
0
1
0
1
1
1
0
1
n=4
1
0
1
1
1
0
1
0
平均速度
V  0.6
ρが大きくなると,平均速度が1より小さくなる(渋滞発生)
23
もう少しだけ実験してみると
車の数が多いとき(ρ = 0.75)
n=1
1
0
1
1
0
1
1
1
n=2
0
1
1
0
1
1
1
1
n=3
1
1
0
1
1
1
1
0
n=4
平均速度
V  0.33
1
0
1
1
1
1
0
1
24
12
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もっと車が多いときには
車の数が多いとき(ρ = 0.875)
n=1
1
1
1
1
0
1
1
1
n=2
1
1
1
0
1
1
1
1
n=3
1
1
0
1
1
1
1
1
n=4
1
0
1
1
1
1
1
1
平均速度
V  0.14
ρが1に近づくと,平均速度はほぼ0になる
25
平均速度,及び流量の密度依存性
流量 = (動ける車の数)÷(箱の数)
= (密度)x(平均速度)
Q  V
平均速度
基本図
0.5
1
0.4
0.8
流量
平均速度
基本図(東名高速道路)
0.6
1.2
0.6
0.3
0.4
0.2
0.2
0.1
0
0
0
0.5
密度
1
0
0.5
1
密度
セルラーオートマトンモデルで得られた基本図は,高速道路
での観測結果と類似.
26
13
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動くことができる車は?
車の数が少ないとき(ρ = 0.125)
n=1
0
0
0
0
1
0
0
0
n=2
0
0
0
0
0
1
0
0
車の数が多いとき(ρ = 0.875)
n=1
1
1
1
1
0
1
1
1
n=2
1
1
1
0
1
1
1
1
“1 0”はどのような状況でも速さ1で動くことができる
27
結果を見直してみる
0.6
ρ = 0.375のとき
0 0 1 1 0 0 1 0
n=2
0 0 1 0 1 0 0 1
n=3
1 0 0 1 0 1 0 0
0.4
流量
n=1
0.5
0.3
0.2
0.1
0
ρ = 0.675 (= 1 – 0.375)のとき
0
0.5
1
密度
n=2
1 0 1 0 1 1 1 0
n=3
0 1 0 1 1 1 0 1
流量 = (動ける車の数)÷(箱の数)
= 3 ÷8 = 0.375
n=4
1 0 1 1 1 0 1 0
いずれの場合も,
の数は3.
基本図のρ=0.5に関する対称性は簡単に理解できる.
28
14
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渋滞現象:まとめ
基本図(東名高速道路)
• 渋滞は,車の密度が大きくなることに
よって,流量が小さくなる現象であ
る.
• 基本図(流量の密度依存性)は,セル
ラーオートマトンと呼ばれる単純なモ
デルで説明することができる.
• “1 0”はいつも速さ1で動ける車とみ
なせる.これによって,簡単に流量を
計算することができる.
基本図(セルラーオートマトンモデル)
0.6
流量
0.5
さらに勉強したい人には
参考図書:西成活裕著 「渋滞学」(新潮選書)
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
0.5
密度
1
29
4.両面張力によって駆動される粒子系
アメーバのように水中を自発的に
動くロボットを作りたい!
アメーバの場合には,モータータ
ンパクによって駆動される原形質
流動が運動を支配.
ここでは,ソフトマターにおいて
しばしば重要となる,界面張力の
効果によって物体を動かすことも
できる例を示す.
30
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自発的に動く液滴
油滴の前後にできる界面張力の差を利用して動く.
31
5.本日のまとめと次回の予告
本日のまとめ
本日は,レオロジー現象の特殊な例として
-粉体
-交通流
-表面張力によって駆動される粒子系
について学んだ.
次回(7月21日,最終回)
ソフトマターと生体模倣
32
16
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6.レポート課題(7月14日出題分)
レポート課題
A4数枚程度に以下の設問に対する答えをまとめてください.
(冒頭に,必ず
学生番号
研究室名
氏名
を書くこと!)
1.講義(ソフトマター工学)全般に関する感想,コメント,改善点など
(かならず)書いて下さい.
2.英語で書かれた雑誌の中から,ソフトマターに関わる論文を一つ(以
上)読み,その内容を図などを交えて分かりやすく紹介してください.
(著者名,タイトル,号,ページ番号,出版年など出典情報も書くこと)
ただし,Nature系列の雑誌のように,ネット上に公開された日本語要約
を転用することは不可とします.
締切,提出先
7月27日(月)17時までに機械系事務室に提出のこと.
33
17