2015年8月 『海外勤務者の処遇の 基本的な考え方』 海外人事コンサルタント 長澤 宏 © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 1 1.海外勤務者の処遇決定時の基本コンセプト 基本コンセプト 海外事業を進めるに当たって、その担い手である海外勤 務者の給与その他処遇を、当初より、どの地域にも適用 できて、公平で維持可能なものとして設計する。 処遇の公平の三つの観点 国内勤務同格者との公平 海外勤務者間の公平(任地や赴任時期の違い、赴任形 態の違いにかかわらず公平な処遇。) 現地社員との公平 © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 2 2.海外勤務時の給与の種類と使途 現地通貨建て給与(=海外基本給+家族手当) 現地必要生計費 円建て給与(月例給与+賞与) 社会保険料の被保険者負担相当額 黒字 残留家族の生計費(単身赴任者のみ) 海外勤務手当 黒字の増額 ハードシップ手当 黒字の増額 家賃、子女教育費、医療費、通勤交通費の会社負担 © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 3 3.海外勤務時給与の構成と使途の概念図① (1)家族帯同者 国内勤務時 実年収使途 海外勤務時給与 構成 海外勤務手当 海外勤務時給与 使途 黒字の増額 所得税+住民税 国内社会保険料 社会保険料 黒字 円建て賞与 円建て月例給与 国内勤務時と 同額の黒字 消費支出 (生計費) 現地通貨建て 給与 (海外基本給+ 家族手当) 現地生計費 家賃、医療費、 教育費の会社負担 家賃、医療費、 教育費の実費 © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 4 4.海外勤務時給与の構成と使途の概念図② (2)単身赴任者 国内勤務時 実年収使途 海外勤務時給与 構成 海外勤務手当他 海外勤務時給与 使途 黒字の増額 所得税+住民税 社会保険料 国内社会保険料 黒字 国内勤務時と 同額の黒字 円建て賞与 円建て月例給与 残留家族 生計費 消費支出 (生計費) © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 現地通貨建て 給与(海外基本給) 家賃、医療費、 会社負担 現地生計費 家賃、医療費の 実費 5 5. 海外勤務時給与の使途の概念図③ (3)独身者 海外勤務時給与 構成 国内勤務時 実年収使途 海外勤務手当 海外勤務時給与 使途 黒字の増額 所得税+住民税 国内社会保険料 社会保険料 黒字 円建て賞与 円建て月例給与 現地通貨建て 給与(海外基本給) 消費支出 (生計費) 家賃、医療費、 会社負担 © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 国内勤務時と 同額の黒字 現地生計費 家賃、医療費 の実費 6 6.給与体系設計時の考え方① 海外勤務者給与を構成する各給与・手当の支給の意義と算 出根拠を明確にする。 海外勤務中も維持される本社の資格等級・国内理論年収に 応じて、報酬に差を設ける。 家族帯同時の処遇をまず決定し、これをもとに単身赴任時 の処遇を考える。 日々変動する為替レートを都度考慮しなくてもよいようにする。 現金給与は、現地生計費見合いの現地通貨建て給与*と、 社会保険料自己負担相当額と黒字見合いの円貨建て給与 (月例給与+賞与)の二本立てとする。(*黒字見合いは含まれな い。) 現地生計費見合い給与の算定ベースには、国内で勤務して いたら使っていただろう生計費(消費支出)を使用する。 © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 7 7.給与体系設計時の考え方② 赴任形態にかかわらず、円貨で少なくとも国内勤務 時と同水準の黒字を確保。 国内社会保険料の個人負担分は、円建て給与から 徴収。社会保険料の標準報酬月額は、理論基準内 月給をもとに決定し、将来の社会保障の受給におい て不利益が生じないようにする。 単身赴任者については、残留家族がこれまで通り 生活ができるように、円建て給与を家族帯同者より も合理的に増やす。 © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 8 8.給与体系設計時の考え方③ 海外勤務者給与は手取りで決定。任地での所得申告に伴う 税は会社が負担する。 給与算出の際に、日本における理論税(所得税+住民税) 相当額を控除するが、これを赴任者に理解させる。 必要に応じ、海外勤務手当など「動機付け」を目的とする手 当を支給し、黒字を増額。 ハードシップの高い地域で勤務する者に慰労金を支給し、黒 字を増額。 © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 9 9.住宅、子女教育費、医療費、交通費の取扱い 標準的な金額の把握が困難な家賃は、その見合いを給与 には含めず、実費を会社が負担。 帯同子女の教育費も、学年により、通園通学させるに相応 しい教育機関により様々である一方、単身赴任者や独身者 には不要であるため、これも実費を会社が負担。 個人差が大きい医療費も、保険により給付されるものを除 き、原則として実費全額を会社が負担。(もし日本で同内容 の治療を受けた場合の医療費の30%を算出できるのであ れば、その金額のみ個人負担させてもよい。) 通勤には公共交通手段の利用を原則とするが、その利用 が困難な場合は、小型乗用車を1台、貸与する。その費用 見合いは現地通貨建て給与には含めず、別途実費を会社 負担する。 © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 10 10.給与体系設計時の留意点 現地通貨建て、円建ての別にかかわらず出向者の 給与その他の人件費は全額、現地法人負担が原則。 →海外(払い)給与、国内(払い)給与の区分は不要。 社宅使用料や教育費自己負担などを徴収しない。 入居時や学校選択時に妥当性を慎重に判断する。 (現地生計費見合いの現地通貨建て給与は、住宅 費も教育費も含まないので、当然の措置。) 誰しも与えられた給与の中で工夫して家計を営む。 社員に合理的な説明ができる最も低い水準でまず 決定する。 世間相場に過度に影響されない。 © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 11 11. 必要なデータとその利用 1)必要なデータの収集 総務省の家計調査年報 実年収、各費目への支出額、各費目のウエイト。→① Xpatulatorの物価差レポート 日本(東京又は大阪)と任地との費目ごとの物価差。→② 2)データの加工 ①理論年収から実年収を導き、実年収から消費支出と税、社会保険料を 控除して黒字を推計。消費支出は、別途会社負担する費目への支出額を 控除して、現地必要生計費算定ベースとする。(家族帯同時と単身赴任時 に分けて算定。) ②費目ごとの物価差にウエイトを掛けて全般的な物価差を把握。 3)データの利用 現地必要生計費算定ベースに全般的な物価差を掛けて、現地必要生 計費を算出。これに物価調査時のレートを用いて、現地通貨建て基本 給を算出。 © 2015 Hiroshi Nagasawa. 12 All rights reserved. 実年収 理論年収 可処分所得 消費支出 黒字 会社が別途負担する費 目の国内における標準 的支出額を控除 現地必要生計費 算定ベース 円建て月例給与 日本と現地との物価差に 応じて、算定ベースを増 額 現地必要生計費 海外勤務手当 本人分と家族加算分に 配分。 海外基本給基準額 物価調査時のレートで現 地通貨建てとする。 現地通貨建て海外基本給 海外勤務者の 給与決定プロセス © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 13 12.家族帯同時海外勤務者給与の一例 ■勤務地:サンノゼ ■年齢:38歳 ■配偶者と子女2名(幼稚園児と小学生)を扶養 1)理論年収の構成 理論月収 ¥450,000(見做し超勤手当を含む) 賞与 ¥1,600,000 理論年収 ¥7,000,000 2)海外勤務時の給与 海外基本給 US$2,260 海外家族手当 US$905 円建て月例給与 ¥73,500 (海外勤務手当 ¥60,000) 年間賞与 ¥1,462,000 住宅家賃、子女教育費、医療費実費は別途会社負担。 © 2015 Hiroshi Nagasawa. All rights reserved. 14
© Copyright 2024 ExpyDoc