外食 - 地銀連携産業調査センター

外
産業
アウトルック
食
2015年9月25日
担当: 佐橋 官
≫Summary

わが国家計の外食支出は、2015年2月以降、緩やかな回復過程にあ
るが、回復の勢いは弱い。家計を取り巻く雇用・所得環境は改善方
Regional banks Industrial research Center
向で進んでいるものの、足元では残業代が弱含むなど、家計所得の
伸びに再び不透明感が出てきているためである。2015年7~9月期
の家計の外食マインドの見通しは下振れしており、この先、家計の
外食需要の伸び悩みが懸念される。

一方、外食産業売上高も2015年2月以降、足踏み状態にある。客単
価は引き続き前年比プラスで推移しているが、利用客数は前年割れ
が続いている。利用客数の減少は異物混入事件という特殊要因に加
えて、一部の低価格業態において価格引き上げを契機とする顧客の
離反に拍車がかかっているためと推察される。

外食産業の2015年4~6月期の企業業績は増収減益で、売上高営業
利益率は前年同期比で低下した。外食産業全体としては値上げや高
価格帯メニューの投入などにより売上高は増加したが、食材や家賃
地代、水道光熱費、広告宣伝費などの増加率が売上高の伸びを上回
り、利益を圧迫した。この先、外食企業は利益確保のため、もう一
段の価格の引き上げに踏み込まざるをえないが、需要が伸び悩むな
かでの価格の再引き上げは来店客数の減少に拍車を掛ける恐れが
あり、注意が必要である。
≫Overview
1世帯あたりの外食支出金額(全国、実質)
季調済、千円
◆家計の外食需要回復の
11.5
勢いは弱い
11.0
総務省「家計調査」によ
10.5
れば、全国の家計の実質外
10.0
食支出金額(二人以上の世
9.5
帯、学校給食を除く、季調
9.0
済)は 2015 年2月以降、
8.5
緩やかな回復過程にある。
直近の動きをみると、6月
3か月後方移動平均
2011年
12
13
14
注:学校給食を除く外食(一般外食)。
季節調整は当センターが実施。
出所:総務省「家計調査」より当センター作成
15
本レポートに記載されている情
報は、地銀連携産業調査センタ
ーが信頼できると考える情報源
に基づいたものですが、その正
確性、完全性を保証するもので
はありません。本レポートに記
載した内容は、レポート執筆時
の情報に基づくものであり、レ
ポート発行後に予告なく変更さ
れることがあります。ご利用の
際は、最新の情報をご確認くだ
さいますようお願い致します。
本件に関するお問い合わせ
地銀連携産業調査センター
(浜銀総合研究所内)
Tel 045-225-2375
37
は前月比マイナスであったが、翌7月は喫茶代や
値、181万7,000人)は8月としての過去最高値を更
飲酒代などが増加し、家計の外食支出金額を押し
新した。さらに、訪日外国人1人あたりの飲食費も
上げた。ただし、6月と7月の値を均してみると15
直近の15年4~6月期が前年同期比5.5%増の
年5月をやや下回る水準となり、家計の外食支出
32,633円(速報値)と高水準を維持している。
の回復の勢いは依然として弱いといえる。
◆外食産業では利用客数の前年割れが続く
じる見通しであり、外食需要の伸び悩みが懸念さ
次に、外食産業売上高をみると、日本マクドナル
れる。内閣府「消費動向調査」(2015年6月調査)
ドHD㈱で異物混入が発覚した2015年1月に落ち
のレストラン等外食費D.I.(今より支出を「増や
込んだ後、一進一退の足踏み状態にある。
す」マイナス「減らす」、一般世帯、季調済)をみ
ると、15年第3四半期は前期比2.2%ポイント悪化
外食産業の売上高の推移(全国、全店)
前年同月比増減率、%
の▲31.0となった。15年春以降は多くの業種で賃
12
上げの動きが広がり、また大手企業の夏季賞与金
8
額が3年連続で前年を上回るなど、わが国家計を
4
取り巻く雇用・所得環境は改善方向で進んだ。しか
0
しながら、景気回復の勢いは依然として緩やかで
-4
あり、足元では残業代が弱含むなど、家計所得の先
行きに不透明感が出てきている。外食マインドの
客単価
-8
利用客数
-12
見通しが下振れた背景にはこうした事情があると
2011年
考えられる。
サービス支出D.I.の推移(全国、一般世帯)
D.I. 季調済、%
コンサート等の入場料(訪問)
スポーツ活動費
(郵送)
0
スポーツ活動費(訪問)
コンサート等の
入場料(郵送)
▲ 10
遊園地等娯楽費
(訪問)
遊園地等
娯楽費(郵送)
▲ 20
売上高
(折れ線)
12
13
14
15
注1:調査対象業態は、ファストフード、ファミリーレスト
ラン、パブレストラン・居酒屋、ディナーレストラン、
喫茶。
注2:「全店」とは「既存店」と「新店」の合計。
注3:売上高と客単価は税抜き価格による比較。
出所:一般社団法人日本フードサービス協会「外食産業
市場動向調査」
足元の外食産業売上高を客単価と利用客数に分
Regional banks Industrial research Center
加えて、この先、家計の外食マインドは悪化に転
解すると、客単価が引き続き前年比プラスで推移す
る一方、利用客数は業態による差はあるものの、外
▲ 28.8
▲ 30
レストラン等外食費
(訪問)
レストラン等
外食費(郵送)
▲ 31.0
▲ 32.7 ▲ 32.8
▲ 40
1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q
2010年
11
12
13
14
15
注1:サービス支出D.I.は、今後3か月間に、現在よりも
支出を「増やす」という回答割合から「減らす」とい
う回答割合を引いた値。
注2:2015年第3四半期の値は、2015年6月調査における
2015年7~9月の支出予定に関するD.I.。
注3:2013年第2四半期までの値は訪問調査、2013年第3四
半期以降の値は郵送調査による。なお、2012年第4四
半期から2013年第2四半期は、訪問調査と郵送による
試験調査の両方が実施されており、折れ線グラフの点
線は郵送による試験調査結果をしめす。
出所:内閣府「消費動向調査」
食産業全体では前年比マイナスが続いており、外食
チェーン店からの客離れが進行している。この背景
として、日本マクドナルドHD㈱において2015年1
月の異物混入事件の影響が長引いていることがあ
げられるが、それ以外にも、牛丼や餃子など、デフ
レ経済下で低価格を武器に客数を伸ばしてきた外
食チェーン企業において、外食価格の引き上げを契
機に利用客数が減少傾向に転じたことがある。たと
えば、和風ファストフードでは、14年12月中旬の㈱
吉野家HDによる値上げ以降、利用客数の前年同月
一方、訪日外国人による外食需要は増勢が続い
比減少幅が拡大したままである。低価格業態の顧客
ており、わが国外食需要の押し上げ要因となって
はもともと価格に対する感応度が高く、牛丼チェー
いる。訪日外客数は13年2月から直近の15年8月
ンの顧客の一部は値上げを機に、麺類ファストフー
まで31か月連続で前年同月比プラスが続いており、
ド(セルフサービスのうどんや立ち食いそばのチェ
また15年8月の単月で見ても、訪日外客数(推計
ーン店)など依然として割安感が強い外食業態にシ
38
フトしたと考えられる。事実、麺類ファストフード
舗改装など、料理やサービスの質を高める施策が
の利用客数は前年を上回る伸びが続いている。
引き続き顧客からの支持を得ていると推察される。
また、外食産業全体で利用客数が減少しているこ
ただし、ファミリーレストランでは、一部の高価格
とを踏まえると、コンビニエンスストアやスーパー
帯店舗において、このところ利用客数の減少が目
で販売される調理パンやおにぎりなど、外食から中
立つようになってきており、この先、外食マインド
食へのシフトが加速していることも推察される。
下振れの影響により売上高の増勢が鈍化する懸念
がある。
和風ファストフードの売上高の推移(全国、全店)
居酒屋の売上高の推移(全国、全店)
前年同月比増減率、%
20
前年同月比増減率、%
客単価
15
20
売上高
(折れ線)
10
5
10
客単価
0
-10
-10
利用客数
利用客数
-15
売上高
(折れ線)
-20
2011年
12
13
14
15
2011年
麺類ファストフードの売上高の推移(全国、全店)
12
13
14
15
洋風ファストフード売上高の推移(全国、全店)
客単価
前年同月比増減率、%
前年同月比増減率、%
20
利用客数
15
10
売上高
(折れ線)
10
5
0
5
-5
0
-10
客単価
-5
-15
-10
-20
2011年
12
13
14
注1:全店とは、既存店と新店の合計。
注2:売上高と客単価は税抜価格による比較。
資料:一般社団法人日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」
業態別売上高をみると、店舗数の純減が続く居
2011年
12
13
14
上高を下押している。洋風ファストフードでは直
近8月の売上高が前年実績を上回ったが、これは
ファミリーレストランの売上高の推移(全国、全店)
売上高
(折れ線)
10
5
0
客単価
-5
利用客数
前年8月の売上高が大幅に落ち込んでいたためで
あり、売上高の水準としては依然として低迷が続
いている。
これに対して、ファミリーストランとディナー
レストランでは売上高が前年を上回る展開が続い
ている。両業態とも利用客数の前年割れが軽微に
15
前年同月比増減率、%
15
酒屋と異物混入事件の影響が続く洋風ファストフ
ードで売上不振が続いており、外食産業全体の売
売上高
(折れ線)
-25
15
◆一部には質の向上で売上を伸ばす業態も
利用客数
Regional banks Industrial research Center
0
-5
-10
2011年
12
13
14
15
注1:全店とは、既存店と新店の合計。
注2:売上高と客単価は税抜価格による比較。
資料:一般社団法人日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」
◆2015年4~6月期の企業業績は増収減益
留まり、月によっては利用客数が前年を超えるこ
続いて外食産業の経営状況をみると、足元の企
ともある。高級食材を用いたメニューの提供や店
業業績は増収減益で、収益性が低下した。財務省
39
「法人企業統計調査」をみると、2015年4~6月
期の飲食サービス業の売上高は前年同期比23.0%
の増加、営業利益は同39.0%の減少となった。ま
た、売上高営業利益率は1.5%となり、前年同期の
水準である3.0%を下回った。14年後半から、飲食
サービス業では食材や人件費などのコスト上昇分
の外食価格への転嫁や、利益率の高い高付加価値
飲食関連の景気判断に関するDI値の推移(全国)
DI
景気の先行き
(方向性)
60
55
50
45
景気の現状判断
(方向性)
40
35
30
メニューの投入などにより営業利益率が改善に向
25
かっていた。しかし、15年4~6月期は食材価格
20
15
や水道光熱費、家賃地代、広告宣伝費などの増加
ただし、その一方で売上高人件費比率は同3.2%ポ
イント低下しており、人件費を抑えた効率的な事
業運営が進められたことがうかがえる。
2011年
12
13
14
15
資料:内閣府「景気ウォッチャー調査」
≫Forecast
なお、15年4~6月期の設備投資(ソフトウェ
この先も利用客数の減少と客単価の上昇が続く
アを除く)は前年同期比73.0%増となり、3四半
2015年度末までの外食産業を見通すと、引き続
期連続で前年同期を大きく上回る水準を維持して
き利用客数は減少傾向、客単価は上昇傾向が続き、
いる。その背景として、大手チェーン店が2~3
両指標のせめぎあいにより、外食産業売上高は一
年程度の計画で、店舗や厨房施設の改装などを順
進一退の展開となることが予想される。
このうち利用客数は、居酒屋業態と洋風ファス
次進めていることがあげられる。
トフード業態での客離れの進行が外食産業全体の
飲食サービス業の営業利益の推移(全国)
営業利益、十億円
400
売上高営業利益率、%
営業利益
(左軸)
350
売上高
営業利益率
(右軸)
300
250
200
8
屋業態では既に大手チェーン店による不採算店舗
7
の閉鎖計画が発表されており、当面、店舗数の純減
6
5
1.5
100
107
50
65
クドナルドHD㈱の既存店の利用客数が直近の8
3
月に前年同月比3.3%減まで回復したが、比較とな
2
る前年(14年)8月の利用客数が同16.9%減と大き
1
0
0
-1
-50
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q
2011年
12
13
14
が続く。また洋風ファストフード業態では、日本マ
4
3.0
150
利用客数を下押す状況が続くと推察される。居酒
15
資料:財務省「法人企業統計調査」
◆企業の景況感に陰り
Regional banks Industrial research Center
が売上高の伸びを上回り、営業利益を圧迫した。
く落ち込んでいたことを踏まえると、足元では依
然として厳しい状況にあると推察される。
次に、客単価は、引き続き食材などのコスト上昇
圧力が強く、利益確保のために外食価格の再引き
上げに踏み切る企業が出て来ると予想される。た
飲食サービス業における利益率の低下を受け、
だし、家計の外食マインドは弱含みとなる見込み
足元のレストラン経営者やスタッフらの景況感に
であり、こうした状況下での価格の再引き上げは
陰りが出てきた。総務省「景気ウォッチャー調査
利用客数の減少を招く恐れがある。
(街角景気)
」によると、飲食関連の現状判断DI
なお、外食産業の競合であるコンビニエンスス
(3か月前と比較した景気の現状に対する判断D
トア業界では、地域限定販売のおにぎりや調理パ
I)は直近の8月まで3か月連続で好不調の判断
ンなどの開発、さらに惣菜の味付けを地域毎に変
の目安となる50を下回った。また、景気の先行き判
えるなど、中食に関するきめ細かな対応を推し進
断DI(2~3か月先の景気に対する判断DI)
めている。外食産業は競合環境からみても、しばら
も、8月に50を下回った。
く厳しい状況が続くとみられる。
40