ブランド化に

一次産品にかかるブランド成立の条件に関する考察メモ
総合管理学部 丸山
1.ブランド化に関する定義
ブランドとは、企業や組織が発信した時点ではなく、一定以上の生活者が認めた時点(いわゆる市民
権を得た)をもって、ブランド成立と定義する。
ブランド
以前
ブランド成立
製品
機能としての
ブランド
好みとしての
ブランド
(よい商品)
(好きな商品)
品質
性能
効能
価格
「ブランド・マーケティング(鳥居直隆著)より」
社会的評価と
してのブランド
意味的価値と
してのブランド
(評判のよい商品) (かけがえのない商品)
使用感
デザイン
見た目
パッケージ
評判
安心
ステータス
あこがれ
自我関与
愛着
自己表現
信頼
2.一次産品のブランドに関する情報収集
熊本県立大地域連携センター主催で実施した「くまもとトマトプロジェクト」フューチャーセッショ
ンの中で、
“ブランドと思う農林水産物”の洗い出しを行った。そこで抽出されたブランド一覧を下記
に示す。この分類は、農林水産物の正式な分類ではなく、生活者のマインドの中に形成されているだろ
うカテゴリーおよびブランドとして整理したものである。
大分類
中分類
米
抽出されたブランド
コシヒカリ、ササニシキ、魚沼産コシヒカリ、森のくまさん、
あきたこまち、ヒノヒカリ、伊佐米、福岡ゆめつくし
野菜
全般
京野菜、水前寺もやし、ひごむらさき、九条ネギ、だだちゃ豆、金
山ネギ、大分一村一品しいたけ、宮崎空飛ぶたまねぎ、
合馬のたけのこ
大根
桜島大根、三浦大根
じゃがいも
メークイン、男爵いも、インカのめざめ
さつまいも
安納芋、紅はるか、鳴門金時、シルクスイート
トマト
はちべえトマト、桃太郎トマト、アメーラトマト、
カゴメトマト、桃太郎プレミアム
果物
いちご
とちおとめ、さがほのか、ももいちご、紅ほっぺ、あまおう、
章姫、とよのか
ぶどう
マスカット、デラウェア、巨峰、ロザリオ・ビアンコ、
ピオーネ
バナナ
フィリピンバナナ、台湾バナナ、ドールバナナ
なし
二十世紀なし、幸水、豊水、荒尾なし、新高
りんご
王林、紅玉、青森のりんご
<つづき>
大分類
果物
中分類
抽出されたブランド
みかん
河内みかん、日向夏みかん、温州みかん、愛媛みかん
全般
宮崎マンゴー、高知の柚子、佐藤錦、山形のさくらんぼ、
天草パール柑、デコポン、岡山の桃、太秋柿、
肉
魚
牛肉
松阪牛、神戸牛、黒毛和牛、宮崎牛、但馬牛、肥後あか牛
豚肉
鹿児島黒豚、アグー豚、博多もち豚
鶏肉
比内鶏、名古屋コーチン、薩摩シャモ、天草大王、宮崎地鶏
全般
みやび鯛、長崎ごんアジ、関さば、関あじ、伊勢エビ
お茶
八女茶、宇治茶、知覧茶、静岡茶、星野茶、いずみ茶
木材
屋久杉、日田杉、飫肥杉
*今回は 10 名程度のブレストによる抽出であったため、参加者の出身地等のバイアス等の影響は
多々見られているが、目的を”ブランド成立に関する生活者意識構造の解明”に主眼を置いているた
め、この情報を元に解析をすすめることとする。全国平均的な情報作成のためには認知率測定も
含めた詳細の検討が必要である。なお、赤字のブランドは、筆者が後から追加したものである。
3.ブランド化のルール探索
メンバーで抽出したブランド群を見ながら、その後ろに隠れているルール(「生活者がそれをブラン
ドであると認識する」理由や考え方の構造)を抽出してもらった。2チームの結果を下記に列挙する。
(Aチーム)
(Bチーム)
・イメージ戦略
・過去の経験(自分がよく知っている)
テレビでよく聞く、土地に合うイメージ
加工品が多い、生産量が多い、有名人の影
・土地の特徴を連想させる
土地の持っている力がある
響
風土(気候、地質、
、)
・語れる
文化(暮らし方、雰囲気)
明確な理由がある、ゴロがいい、
・流通量のよる安心信頼(生産量 No.1)
名前がある、地元応援
・品種の違い(≒遺伝子の力)
・プレミア感
こだわり、そこでしか食べられない、貴重
・おいしい!
・育て方(エサ、環境)の違い
・メーカー(カゴメ、ドール)
→メーカーブランドと同じルール
普段から食べている、気に入っている
味にはずれがない
A チームは、ブランドとしての出力の仕方を中心に抽出し、B チームは出力の中身の分類を抽出
した傾向となった。この分析結果から、一次産品のブランドが発信すべき情報構造として、情報そのも
のが持つべき要素をそれが生活者に及ぼす作用として構造化を試みてみたい。
情報の
<生まれ>
<育ち>
<その他>
立脚点
・品種(≒遺伝子)
・土地、場所、方法手法
量、体験、文化、安心信頼
生活者心理
●当該カテゴリーは、品種に
●当該カテゴリーは、それが
●No.1 はおいしいから。
よって味や形が大きく
育った土地の風土によ
異なってくる。農業も
って、味や栄養や形が
スキーマ1
品種改良によって成長
してきた。
異
●よい文化はよいものを
育む
●大きいことは安心
なってくる。気候や地
質、海流等が影響する。
●育て方、方法、手法が
影響する
生活者の
<よいイメージを持つ> <プレミア感を持つ>
受け止め方
<人に語れるストーリーを有する>
一次産品の場合、その性質上からブランドを構成する要素として、<生まれ>と<育ち>が大きく生
活者へアピールするポイントとなると言える。ここで出てきた構造でいくつかのブランドを分析して
みる。
① 魚沼産コシヒカリ ―― “米”は品種改良によって進化してきた。コシヒカリは日本を代表する
品種である。加えて、魚沼という産地で栽培されたコシヒカリは、最も
おいしい銘柄として人気を誇っている。これは、<生まれ><育ち>の
両要素を掛け合わせたブランドであると言える。
② あまおう(イチゴ)―― イチゴの品種の愛称名称であるが、イチゴ自体は多くの品種が出回って
おり、品種によって甘さや酸味、そして形が異なっている。あまおうは
果実が大きく形が整っている、赤くてつやが良い、糖度が高い特徴を持
つことから、
「あかい・まるい・おおきい・うまい」から命名された。
③ 鹿児島黒豚
―― 鹿児島県内で飼育された純粋バークシャー種の豚肉を指す。黒豚は
鹿児島県以外にも存在するが、鹿児島産は別格の扱いを受ける。
これも、<生まれ><育ち>の掛け算ブランドであると言える。
また、この構造で、ブランド化されているカテゴリーとそうでないカテゴリーを比較してみる。今回
のセッションで登場しなかったカテゴリー、例えば、キャベツやレタス、ニンジンなどは、ブランド品
が多く登場しているカテゴリーと何が異なっているのか?
それは、上述した生活者心理のスキーマ
がそのカテゴリーに当てはまるかどうかであると言える。
<生活者心理スキーマ>
ブランド化
しやすい
カテゴリー
1
品種や土地、風土などで、味や香
り
栄養、機能といったパフォーマン
ブランド化
しにくい
カテゴリー
ス
スキーマとは、心理学用語で「人が新しい経験をする際の判断に用いる,過去の経験に基づき形成さ
れた心理的な枠組みや認知の構造」を指す。常識や通念などが影響して形作られる。例)コーラは黒
が異なる。(違いが生じる)
い色をしている、
そう
思わない
そう思う
生活者視点で見ると、ブランド化されているカテゴリーについては、購入や利用(食べる)時にお客
様はブランド(銘柄)名という固有名詞でその商品を呼ぶのに対し、ブランド化されていないカテゴリ
ーの場合は、お客様はカテゴリー名という一般名詞でその商品を呼ぶという大きな違いがみられる。
4.一次産品のブランド開発の考慮すべきこと(仮説)
①これからブランド化していくブランド以前の商品の場合に、作るのは「満足」ではなく「期待」
ブランド以前の商品は、生活者は当該商品を知らないし出会ったこともないことを前提に考えなけ
ればならない。いかにおいしかったり高い機能を有していたとしても、生活者は知らないものは簡単に
は買ってくれないし、手にも取ってもらえな
い。
右図に示すように、初めて商品を買う場合
は、まだ試したことがないため、
「期待」によ
トライアル
(最初に買う理由)
期待を作る
リピート
(次に買う理由)
満足を作る
って買うのである。もちろん、買った後は、
そのおいしさやパフォーマンスの高さで「満
足」し、次の購入につながる。その意味で、
高い品質や機能は必須であるが、ブランド以
前の新しい商品の場合には、
「期待」を作れる
かどうかが最初の関門となるのである。
②当該カテゴリーに、“差異性”の認知する生活者心理スキームが存在するかを考察
その上で、どうやって「期待」を生み出す事ができるかを考えなければならない。イチゴや牛肉のよ
うに既に差異を認めるスキームが生活者の中にある場合は、新しい銘柄(ブランド)を投入する事で、
生活者に「どんな味だろう、今までよりおいしいかも」といった期待を持って迎えてもらうことも可能
である、つまり、第一歩の「期待」が既にあるのである。
しかし、このスキームがないカテゴリーの場合はこの第一歩の「期待」がないわけで、育成しようと
する銘柄(ブランド)が、この生活者心理スキームを同時に形成することが求められる。
トマトについては、イチゴや牛肉ほどのスキームがまだ形成されていないように推察される。その意
味では、トマトブランドの開発の際は心理スキームの同時形成を図る必要があろう。
③魅力あるストーリー(物語)のあるブランド作り
一次産品のブランド作りには、品種(≒遺伝子)
による<生まれ>情報による差異性、そして、土
おいしさ、健康効果等
<期待>
地や風土や、育て方(方法・手法)による差異作
り、加えて、土地の文化や人の想いといった要素
を組み合わせて、物語(ストーリー)を作ること
は有効であると言える。
<生まれ>情報
・品種(遺伝子)
<育ち>情報
・土地、風土
・方法、手法
物語、ストーリー化
<その他>情報
・文化
・人の想い、評判