ZE26A-20 イオンビームを用いた高粒子・高熱負荷実験設備の整備と 核融合炉ダイバータ材の試験 山本 靖 1,興野文人 2,米津大吾 1,登尾一幸 3,笠田竜太 2,小西哲之 2 1 関西大学システム理工学部 京都大学エネルギー理工学研究所 3 富山大学水素同位体科学研究センター 2 1. 緒言 核融合装置では極めて過酷な形で流れるエネルギーを理解、制御し利用することが必要とされる。 高熱粒子負荷に耐え、熱利用を可能とするダイバータはその典型的な部分である。実験的研究におけ る高熱負荷源としては電子ビーム照射装置が広く用いられているが、粒子負荷という面ではイオンビ ームを用いることが必要である。高熱負荷・高粒子負荷実験に使用可能な規模のイオンビーム発生装 置は国内にも幾つかあるが、そのほとんどはプラズマ実験装置の一部であり、本拠点の南 3 号棟にあ る直接発電実験装置のイオンビーム装置(水素ビーム 30kV,6A)はテストスタンドとして利用可能な 数少ないものである。本共同研究では、水素イオンビームによる模擬条件を構成し、損耗と 10MW/m2 領域でのエネルギー移行現象のメカニズムの解明を目標とする。また、受熱機器としては、W被覆 SiC 複合材ダイバータを検討し、液体金属冷却を用いることで、500℃以上での利用可能な形に目標とする。 2. 研究成果 ・イオンビームの引き出し 8.0 Arc Voltage (15V/dev) 昨年度より開始したアーク放電、イオ Arc Current (10A/dev) 7.0 Pressure (10Pa/dev) ンビームの引き出し実験では、電極間の Piezo Voltage (10V/dev) 6.0 ブレークダウンと、それに伴うサージに 5.0 よる電源の故障が発生した。イオン源の 4.0 エージング過程ではブレークダウンが避 けられないことから、サージブロックの 3.0 追加、インターロックの整備などを行っ 2.0 ているが、当面の対策としては、一部を 1.0 更新前の電源に戻したりして、対応して 0.0 いる。 ‐1.0 図1に PIG 放電におけるピエゾバルブ ‐1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 電圧とピラニ真空計からの圧力信号、ア ーク電圧・電流波形を示す。放電時間は 図 1 アーク放電電圧・電流,ガス圧波形 約 300msec, 110V-37A の放電である。こ のときは、ピラニ真空計に圧力波形に合わせて、アーク放電のタイミングを定めていた。しかし、そ の後の実験より、ピエゾバルブへの印加圧を止めるとアーク放電電流がガス不足で減少し始めるまで の遅延時間が約 20msec であることから、圧力信号が大幅にずれていることが想定されている。これは、 デジタルピラニ真空計に A/D 変換は、200ms 毎であり、出力信号はデジタル値を値間の補間を含む D/A 変換であることから、A/D 変換時間の数倍の時間遅れがあるためと推定している。現在は、この遅れ を考えてながら、ガス圧の低いところでの放電を探索している。 図2に 12 月末の 15kV ビーム実験での加速電源・減速電源電流波形、アーク電源の電圧・電流波形 を示す。 ZE26A-20 0.1 0.40 0.0 昨年に比較すると、 0.35 加速電流 減速電流 PIG 放電を繰り返し、 ‐0.1 0.30 [100mA/dev] [ 10mA/dev] 0.25 徐々に放電電圧を増加 ‐0.2 0.20 させたことで、これま ‐0.3 ‐0.4 0.15 での最大引き出し電圧 ‐0.5 0.10 は 17kV であり、15kV ‐0.6 0.05 では、安定したビーム ‐0.7 0.00 引き出しができるよう ‐0.8 ‐0.05 になった。 ‐0.6 ‐0.4 ‐0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 ‐0.6 ‐0.4 ‐0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 過去の運転記録を元 加速電流波形 減速電流波形 に、PIG 放電パラメータ 8 の調整を試みている。 Arc Volt (15V/dev) 7 Arc Cur (10A/dev) ・piezo 印加電圧を減少。 56V → 47.5V 6 Piezo Volt (10V/dev) PIG 放電はガスが多い方が安定するが、加速電流はガス 5 を絞る方が増加する傾向にあり、生成したイオンがガスと 4 の衝突により失われていると考えられることから、ガスパ 3 ルスのタイミングを調整しながら、最適点を検索。 2 ・アーク設定電圧の減少 150V → 130V 1 パルスの始めに、加速電流が大きく流れるのを抑制する 0 ‐1 ことを目的に、初期設定を下げていくと、アーク放電電流 ‐0.4 ‐0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 としては、時間と共に増加する傾向であるが、加速電流と アーク電流電圧波形 しては、ほぼフラットな特性を得ることができた。 図2 ・磁場電流の増加 35A → 42A PIG 放電のみのときは、アーク電流を増やす目的で電流 を少なめで運転してきたが、アーク放電を集中し、チャンバー内にプラズマを押し出すこと、また、 このイオン源ではプラズマ閉じ込め用のカスプ磁場がついていないことから、強めの方が閉じ込め 効率が良いと考えられることから、増加させていくと、アーク電流は減少するが、加速電流は増加 する傾向にあり、最適点を検索。 電源などの更新があるため、過去(15kV-1A を目標)と同じではないが、調整を行った結果、引き出 し電流を 300mA 程度から、650mA 程度まで増加させることができた。 今後は、可動型のカロリーメ ータ、マイクロファラディ-メータを用いて、引き出しプロファイルを確認しながら、更に調整を進め るとともに、一度イオン源を分解して、内部の状況を確認してみる必要がある。 ・試験部の検討 試験部としては、当面の実験としては、ビーム直接発電実験装置同様に、試験片ホルダーを上部フ ランジより吊り下げて行うことを検討している。 3. 今後の予定 安定稼働に向けてサージ対策、イオンビームプロファイル測定と運転パラメータの最適化などを進 める計画である。また、実験の進展により、制御系の問題点なども明らかになってきていることから、 その改善も進めると共に、試験部/実験測定系の整備に着手する。 今回の更新・近代化は、電源系を中心としたため、イオン源ソースプラズマ部の更新、効率改善な どは未着手であり、今後はこれらの課題にも取り組んでいきたい。
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