プロジェクト 連載 2015.7.30 渚の風 5号 21 組織と人づくり④第4章 関西学院大学 人間福祉学部教授 安田美予子さん 組織開発とはなにか その3 変革の進め方 『 渚 の風 』 第2・3号では、 障 害 者 支 援 施 設・三 恵 園で始まった「未 来に向けての組 織と人づくりプロジェ クト」を進める方 法である「組 織開発」 (Organization Development、 通 称 OD) について 紹 介してきました。 OD は、 組織のコミュニケーションや人間関係、 リーダーシッ プ、協働、チームワーク、学習する組織づくり、組織文化 関西学院大学で行われた安田ゼミの授業。三恵園の利用者さんが、園の生活を紹介した 学究的 (5月 27 日、兵庫県西宮市) が示しています。しかし中村 (2015)は、 「対話型組織開発」 など、組織プロセスやヒューマンプロセスと呼ばれる組織 ベルの課題であるかもしれません。それを対象に変革に の人や関係性を対象に計画的に変化を起こし、組織の健 取り組むことや互いの役割、進め方等に合意します。これ に診断がないのではなく、OD 実践者が当事者の代わりに 全性や効果性を高めるための実践です。そして、①ヒュー が契約です。そして、当事者と OD 実践者の関係性を形 現状把握を行うのが「診断型」で、当事者同士が対話し マニスティックな哲学、②民主主義の原則、③当事者(ク 成していくことも大事です。これらはソーシャルワークでは て現状を把握するのが「対話型」であると述べています。 ライエント)中心のコンサルティング、④社会生態学的シ インテークと呼ばれている過程です。 診断型組織開発では OD 実践者主導でデータ収集と分析 ステムへの志向性という 4 つの価値に基づき実践を進め 次は、データ収集、データ分析、フィードバックという を行うのに対し、対話型では、当事者同士で対話をする ます。この価値の部分で、ソーシャルワークの価値や三恵 フェーズで、OD のアクションリサーチモデルの「リサーチ」 ことで、現状を把握し、問題・ニーズを明らかにする、そ 園での価値と通じることも述べてきました。今回は、OD に相当します。契約内容をもとに、OD 実践者は、データ して、OD 実践者は当事者間の対話が進むようにそのプロ をどのように進めるのか、紹介していきます。 収集、データ分析、フィードバックによって、真の問題やニー セスをファシリテートする点が両者の違いといえましょう。 ズを明らかにします。データ収集は、当事者とのミーティ では、 三恵園の「未来に向けての組織と人づくりプロジェ 社会福祉では、ソーシャルワーク、ケアマネジメントや 障害者の個別支援であろうとも、エントリー・契約にはじ ングでのブレインストーミング、インタビュー、観察、アン クト」の場合、変革の過程はどのように進み、どの段階ま まって、アセスメント、支援プラン計画、支援プランの実施、 ケートなどで行います。データ分析では、データを整理・ で進んでいるのでしょうか?次回では、OD の変革過程の モニタリング、終結といった「支援の過程」を経ながら進 分類し、理論的枠組みに関連づけます。それを当事者に 枠組みと関連づけながら、三恵園のプロジェクトにおける、 みます。OD も同じで、図1のようなフェーズを経て、変革 伝え対話するのがフィードバックです。フィードバックでは、 これまでの実際の過程を振り返ります。 が進められます。この進め方は OD の「アクションリサー 現状の組織プロセスの問題に当事者が気づき、変革に向 チモデル」とも呼ばれており、OD の代表的な変革のプロ け取り組むエネルギーを高めるとともに、組織の真の問題 セスとして OD の教科書で紹介されています。図 1 に従っ やニーズを明確にすることが目指されます。ソーシャルワー て、各々の段階を説明していきましょう。 クでは、情報収集とアセスメントの過程です。 まずエントリーでは、コンサルタント・研究者など組織 そして、問題やニーズが明らかになったら、当事者と 外や組織内の OD 実践者と当事者とが出会い、何を解決・ OD 実践者は変革の目標と達成方法を決定します。これ 達成したいのか、話し合って明らかにします。この段階で がアクション計画です。その計画をもとにアクションを実 明らになるのは、当事者の訴えを中心とした、大まかなレ 行し、一定期間の後、アクションの効果・成果の評価を行 います。これらは、アクションリサーチモデルの 「アクション」 図1、ODにおける変革のフェーズ/アクションリサーチモデル リサーチ に相当します。評価によってアクション実施の効果が認め られない場合、または、新たな問題やニーズが発見された アクション 場合、リサーチのいずれかの段階かアクション計画の段階 終 評 クの支援プランの計画、実施、そしてモニタリングに相当 します。 結 価 アクション実施 アクション計画 フィードバック データ分析 データ収集 エントリーと契約 に戻って、そこからプロセスを開始します。ソーシャルワー 評価によって一定の効果・成果が認められれば、終結し ます。ソーシャルワークの終結に当たります。 以上は 1970 年頃までにアメリカで確立した伝統的な変 革の進め方で、 「診断型組織開発」と呼ばれています。こ れに対し、データ収集、データ分析、フィードバックという 出所:ヘインバーグ(2012) 『組織開発の基本』p.43 および、 中村(2015)『入門組織開発』p.85 をもとに筆者が作成。 「診断」 、すなわちリサーチの段階がない 「対話型組織開発」 が 1990 年頃から出現したという見解をアメリカの研究者 (次回は社会福祉法人「産経新聞厚生文化事業団」の ホームページに掲載します) Profile や す だ み よ こ 大 阪 府 出 身。 こ れ ま で、 病 院 の ソ ー シ ャ ル ワーカーによる退院援助、ソー シャルワークにおける質的研 究、障害者の自立生活支援など のテーマで研究してきた。大学 では、社会福祉学原論、社会福祉質的調査法、ソー シャルワーク演習、障害者領域のソーシャルワーク 実習を、大学院では質的調査法を教えている。 参考文献 リサ・ヘインバーグ(2012) 『組織開発の基本: 組織を変革するための基本的理論と実践法の体系的 ガイド』ヒューマンバリュー。 中村和彦(2015)『入門 組織開発:活き活きと 働ける職場をつくる』光文社新書。 W.ウォーナー・バーク(1987) 『組織開発教科 書:その理念と実践』プレジデント社。 京セラ稲盛名誉会長の徹底教育 「知っていることをきちんと実践できているか」 が、そのときに大切にしたのがプリミティ 部の意識改革。それは、プリミティブな め、 結 果、 予 想を超 に参加した。医療機関がさまざまな角度 ブ(初歩的)な倫理観「人間として何が 教育だった。しかし、やれと言われたこ える V 字 回 復となっ からマネジメントについて考え、実践する 正しいのか」 「ウソをつくな、正直であれ」 とに対して「そんな幼稚なこと」と強烈な た。 会で、会員の演題発表の他、シンポジウ だ。経営上の判断をするときには常に基 反発があった。だが、知っているが身に 稲盛会長の経営哲 ム、特別講演などが催され、大変多くの 準にされ、 「経営は当たり前に従えばいい」 ついていない、実践できていないのが現 学は、規 模の大小や 参加者で盛り上がっていた。特に、グラ と簡単なようだが難しく、奥深い言葉で 実。その結果が会社更生法の適用となっ 業 種にかかわらず 参 ンキューブの大ホールがほぼ満席となっ われわれを諭してくれた。 たのだ。反発されても稲盛会長は辛抱強 考になる。 「わが職場ではどうだろうか?」 先日、 日本医療マネジメント学会 (大阪) 鷹取敏昭さん 稲盛会長は経営困難に陥った某航空 く徹底して教育をやり続けた。齢を感じ と振り返ってみてはどうだろうか。 「知っ 講演「なぜ医療に哲学が必要か」だった。 会社の再建を託され、その手腕によって させないバイタリティをもって。再建する ていることをきちんと実 践できている この哲学とは経営哲学だ。 見事に復活したことはあまりにも有名だ 上で、何としても乗り越えないといけない か」。上司も部下も、経営者も。 たのが京セラ稲盛和夫名誉会長の特別 稲盛名誉会長も京セラ創業時は経営 が、その時すでに 80 歳にもならんとし 壁だと悟ったからだ。現場で直接社員に 人事マネジメント研究所 の経験はなく、かなり苦労されたようだ ていた。再建で手がけたことは、経営幹 も働きかけた。次第に意識が変わりはじ 進創アシスト代表 鷹取敏昭
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