地方創生からつながる・始まる地域おこし

地 方 創 生からつな がる・
始まる地 域おこし
地域は面白い
大学卒業後、2008年に総務省に入省した。
入省1年目の職員は各
都道府県に赴任するのが旧内務省以来の伝統で、
愛知県庁で社会
人や地方行政のいろはを学んだ。
配属は総務部市町村課。
財政や税務などについて市町村の相談
に応えるのが仕事だ。
市町村課では県庁職員はもとより、
市町村か
らの実務研修生にとてもかわいがっていただいた。
【第1回】
地域の魅力と課題
研修生の期間も1年〜2年。
限られた期間だからこそ、
仕事も遊
びも全力で取り組む。研修生から誘われ、
地元のお祭りにもよく足
を運んだ。
お祭りで気付いたことの一つは、
地域には
「隠れたヒーロー」
がた
くさんいるということ。
特殊な技能を披露する方もいるし、
お酒で顔
を赤らめたおっちゃんが、
すごく本質的なことを話す。
地域は面白い!地域で活動する人は、
そのホームグラウンドでこ
そ輝く。東京・総務省に戻った後は、
週末を利用して全国の
「地域の
隠れたヒーロー」
を訪ね歩くことにした。
相手の懐に飛び込んでじっくりお話を伺う中で確信したのは、
「人も地域もダイヤモンド」
だということ。
光の当て方で輝き方が変
わる。
いわゆる限界集落と呼ばれる地域にも、
伝統ある祭り、
すがす
井上 貴至氏
いのうえ・たかし
長島町副町長
■プロフィル
がしい朝、
滋味豊かな食事など、
豊かな生活が確かに根付いている。
朝活
「地域力おっはークラブ」で
地域活性化を
1985年、大阪生まれ。大阪星光学院高校、東京大学法学部卒業
後、2008年総務省に入省。2015年4月、地方創生人材支援制
度の鹿児島県派遣第1号として長島町役場に赴任、同年7月
から副町長に就任。
週末は地域の隠れたヒーローを訪ね歩く。
「 ミツバチが花
粉を運ぶように全国の人をつなげたい」。
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一方、地域で活動する方は往々にして地元や業界のことしか知ら
ないことにも気付いた。僕が出会ったすてきな人、
場所、事例を、
ミツ
バチが花々を飛び回るように心地よくつなげることで、
新しい花が咲
くのではないか。
「地域のミツバチ」
として活動することが僕のライフ
ワークとなった。
若手官僚が唯一実名で書き続け
るブログ
「地域づくりは楽しい」もそ
の一つ。人とお会いしても、
「ああ、よ
もちろん地域づくりの主役は地域の住民だが、
住民だけでは煮
詰まってしまう。かつて4番ファーストばかりを集めたプロ野球
チームが失敗したように。
いいチームには外野手もファンも必要だ。
どのように外の人を巻
かったな」
では、
すぐに忘れてしまう。
き込んでいくか。
外の人も思わず参加したくなるような場をつくっ
何がよかったのか、
自分なりに見つめ
ていくか。
それが大切だと思う。
直し、言葉に紡ぐことが大切だと思
う。
その気付きをブログという形で発
信し、
仲間と共有している。
情報を発信し続けることで、新たな情報や仲間が得られるという
好循環が生まれ、
今、
鹿児島県長島町で地方創生を進める上で大きな
武器になっている。
また、
「地域のミツバチ」活動の一環として、
地域で活動する人が上
いわば
「地域のミツバチ」を政策にした
「地方創生人材支援制
度」
。
僕自身も第1号として、
4月から長島町に派遣された。
長島町の地方創生の目玉
「ぶり奨学金」
京した時に、
その思い・経験・知恵を共有いただき、
みんなで交流して
中の人と語り合い、外の目で見る
新しいものを生み出す朝活
「地域力おっはークラブ」
を主宰するよう
ことで、長島町のさまざまな課題に
になった。
気付いた。
一番の課題が、
町内に高校
最近は読売新聞の
「顔」欄に取り上げられるなど定着した地域力
おっはークラブだが、
当初は試行錯誤の連続だった。
がないこと。高校時代から町外の学
校の寮に入るかバスで1時間程度か
いい人にお話しいただいてもなかなか参加者が集まらない。地域
けて通わざるを得ず、他の地域より
づくりを考える役割の公務員がなぜ来ないのか、
イライラした時期も
就学に相当のお金が掛かる。そのた
あった。
め、経済的事情から2人目・3人目の
ある時ふと気づいた。高校時代から続ける柔道の朝稽古をしてい
る時だ。投げよう、
投げようと力を入れ過ぎると、
うまく投げられない
し、
逆に投げられてしまう。
いかに肩の力を抜くかが大切ではないか。
大真面目に語れば語るほど、
周りの人は一歩引いてしまう。本質的
子どもを諦める人も少なくない。
また、
町外に出た高校生の多くはそのまま他地域で働き始め、若
者の流出が続く。
なんとか子育ての負担を軽減し、
若者に戻ってきてほしい。
なことをいかに柔らかく伝えるか。
それからは、
場づくりにこだわるよ
そこで考えたのが
「ぶり奨学金」
。高校・大学などを卒業した若者
うになった。
アカペラユニットのXUXUさんにテーマソングを作って
が、
ふるさと長島に戻ってきた場合は、
その期間の返済を町等が補て
もらう。
コラージュ作家Mioさんにカラフルな紙芝居を作ってもらう。
んする制度だ。
そして、
香り高いコーヒーとおいしいパンで出迎えるなどの工夫を重
ねた。
1日30品目の食事を取ると身体によいといわれる。会議も同じだ。
長島町の特産で、回遊魚・出世魚のブリにちなみ、将来は地元の
リーダーとして戻ってきてほしいとの願いを込めた。
とはいえ、
役場には金融のノウハウがない。
そういうときは信頼で
聞くだけではどうしても眠くなる。歌う、
紙芝居を見る、
飲む、
食べる、
きるパートナーを見つけることが一番だ。
サッカーに例えるならば、
伝えるなど30の動きを加えることで、
朝の脳を活性化している。
ひとりでドリブルするだけでなく、最適なプレーヤーにパスを出す
「地域力おっはークラブは楽しい!」
そうした評判が、
参加者の多様
性につながり、
そこから新たな動きが生まれるようになった。
内閣府
方がかっこいい。
そこで、
日頃から地域貢献に熱心な鹿児島相互信用金庫に働き掛
の食堂のおばちゃんも常連だ。地域づくりマニアにはない視点から、
け、
すぐに積極的で良心的な提案をいただいた。緻密な論点整理を
いつもたくさんの気付きをいただいている。
行い、
来年度から実現できるめどが付いてきた。
公務員の公務員による公務員のための勉強会は、
ともすれば日頃
鹿児島相互信用金庫等との議論を重ねる中で、
ぶり奨学金では、
の傷をなめ合うことに終始しがちだが、
地域力おっはークラブはその
画期的な仕組みを導入することになった。
それは、
奨学金の返済費用
点で一線を画していると思う。
を行政だけで補てんするのではなく、
島一丸となり補てんすること。
地方創生人材制度の狙い
地域の隠れたヒーローを訪ね歩いて5年余り。
気が付けば、
国の
「地方創生」
の有識者のほとんどは、
僕の仲間になっており、
僕自身
も政策を提案する機会に恵まれた。
その一つが、官僚や大学教授などを小規模市町村に派遣する
「地方創生人材支援制度」
だ。地方自治体、
特に小規模市町村の最
例えば、
ブリ1本につきいくら、
島美人1本につきいくら、
居酒屋の
ビール1杯につきいくら、
という具合に基金に積み立てていく。
これにより、
①行政負担の軽減による制度の持続性の向上 ②モ
ラルハザードの防止 ③島内での経済の好循環を実現していきた
い。
お父さんだって、
「外でお酒ばかり飲んで」
と言われても、
「いやい
や、
このビールは、
ぶり奨学金に積み立てられるから」
と“言い訳”する
ことができる。
経済の循環には、“言い訳”も大事だと考える。
大の課題は、
ほとんどの住民がその地域に住み続けるあまり、
課題
長島町の一番の課題に真正面から取り組んでくださる鹿児島相
に気付いていないこと。
また、
課題を解決するためのネットワーク
互信用金庫の存在は本当にありがたい。
これからも鹿児島相互信用
が乏しいことであり、
そこに、
一石を投じたかった。
金庫とともに、
長島町から地方創生のモデルをつくっていきたい。
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