- 新適塾 - 「未来創薬への誘い」第 34 回会合 『微小気泡を利用した次世代型 超音波診断・治療システムの構築』 講師: 鈴木 亮 (すずき りょう) 帝京大学薬学部 薬物送達学研究室 准教授 日時: 2016年4月18日(月) 18:00~20:30 場所: 千里ライフサイエンスセンタービル 講演会 5階 サイエンスホール (18:00~19:30) 懇親会 6階 千里ルーム A 室 (19:30~20:30) 講演・懇親会ともに参加費無料 コーディネーター: 中川 晋作(大阪大学大学院薬学研究科 教授) コーディネーター: 小比賀 聡(大阪大学大学院薬学研究科 教授) 主 催: 公益財団法人 千里ライフサイエンス振興財団 〒560-0082 大阪府豊中市新千里東町1丁目4番2号 千里ライフサイエンスセンタービル20階 E-mail:[email protected] Tel:06-6873-2001 http://www.senri-life.or.jp 1 【要 旨】 超音波技術の発展に伴い超音波診断における画像の画質も飛躍的に向上し、循環器領域に とどまらず、様々な分野の一般診療において超音波診断が必要不可欠な診断手法となってい る。また、近年では体外からがん組織に向けて超音波エネルギーを集束させ、がん細胞を焼 灼することのできる低侵襲的超音波治療装置も開発されている。このように超音波は、診断 と治療の両者に利用できる外部エネルギーであり、最近注目されている診断・治療統合シス テム(セラノスティクス)を構築する上で重要な役割を担うものとして期待されている。こ れに加え、超音波診断・治療の効率を増強するためのツールとして微小気泡(ナノ・マイク ロバブル)の併用が期待されている(文献1)。しかし、微小気泡と超音波の併用による治療に 関する研究の歴史は浅く、本方法の特性評価に関する基礎研究が続いている。 このような背景のもと我々は、様々なタイプの微小気泡の開発を進めており、病変部位の 超音波診断や標的組織への遺伝子・薬物デリバリーツールとしての可能性評価を行っている (文献2-4)。実際に、がん組織や血栓部位の超音波造影剤としてがん組織の新生血管部位また は血栓に結合性を示すペプチドを修飾したアクティブターゲティング型微小気泡の開発に 成功している(文献5, 6)。また、微小気泡に超音波診断より少し強度の高い超音波を照射す ると微小気泡の圧壊(キャビテーション)が誘導され、微小気泡の周囲にジェット流が生じ る。このジェット流を駆動力として細胞内に様々な物質を導入できる。そこで我々は、この 現象を利用し標的組織特異的な遺伝子導入法の確立を試みた。微小気泡とプラスミドDNA をマウス尾静脈から全身投与し、肝臓や脳に向けて超音波を照射すると、超音波照射した組 織において導入遺伝子の発現が認められた(文献7)。このことから、本方法が組織選択的な遺 伝子導入を可能とするユニークな方法であることが示された。また、同様の方法で抗がん剤 のがん組織移行性を改善できることも明らかとなった(文献8)。これに加え、さらに強力な超 音波照射と微小気泡の組み合わせにより、キャビテーションによる強力なジェット流および 発熱を利用したがん細胞の直接傷害も可能であることを見出している(文献9)。このように、 微小気泡が超音波診断用造影剤としてのみならず、遺伝子や薬物デリバリー効率を向上する ための新たなドラッグデリバリーツール、さらには機械作用や熱作用の増強によるがん治療 への応用も期待される。 このように、微小気泡と超音波の組み合わせは次世代の超音波診断・治療システム(超音 波セラノスティクス)を構築する上で重要な医療技術になるものと期待される。そこで本講 演では、超音波セラノスティクスの構築に向けた我々の取り組みについて紹介し、今後の展 開について議論したい。 2 【参考論文】 1 Suzuki R.Klibanov A.L.: Co-administration of Microbubbles and Drugs in Ultrasound-Assisted Drug Delivery: Comparison with Drug-Carrying Particles. Adv Exp Med Biol; 880: 205-220, (2016). 2 Suzuki R., Takizawa T., Negishi Y. et al.: Gene delivery by combination of novel liposomal bubbles with perfluoropropane and ultrasound. J Control Release; 117: 130-136, (2007). 3 Un K., Kawakami S., Suzuki R. et al.: Development of an ultrasound-responsive and mannose-modified gene carrier for DNA vaccine therapy. Biomaterials; 31: 7813-7826, (2010). 4 Suzuki R., Oda Y., Utoguchi N. et al.: A novel strategy utilizing ultrasound for antigen delivery in dendritic cell-based cancer immunotherapy. J Control Release; 133: 198-205, (2009). 5 Negishi Y., Hamano N., Tsunoda Y. et al.: AG73-modified Bubble liposomes for targeted ultrasound imaging of tumor neovasculature. Biomaterials; 34: 501-507, (2013). 6 Hagisawa K., Nishioka T., Suzuki R. et al.: Thrombus-targeted perfluorocarbon-containing liposomal bubbles for enhancement of ultrasonic thrombolysis: in vitro and in vivo study. J Thromb Haemost; 11: 1565-1573, (2013). 7 Suzuki R., Omata D., Oda Y. et al.: Development of tissue-selective gene delivery system with ultrasound. Asian Journal of Pharmaceutical Sciences; 11: 162-163, (2016). 8 Ueno Y., Sonoda S., Suzuki R. et al.: Combination of ultrasound and bubble liposome enhance the effect of doxorubicin and inhibit murine osteosarcoma growth. Cancer Biol Ther; 12: 270-277, (2011). 9 Suzuki R., Oda Y., Omata D. et al.: Tumor growth suppression by the combination of nanobubbles and ultrasound. Cancer Sci, (In press). 3 【講師略歴】 学 歴 平成 8 年 3 月 平成 10 年 3 月 平成 13 年 3 月 平成 13 年 3 月 職 東京薬科大学 薬学部 薬学科 卒業 大阪大学大学院薬学研究科 応用医療薬科学専攻 博士前期課程 修了 (眞弓忠範教授) 大阪大学大学院薬学研究科 応用医療薬科学専攻 博士後期課程 修了 (眞弓忠範教授) 博士(薬学)取得(大阪大学) 歴 平成 13 年 4 月 東レ株式会社 入社 平成 16 年 4 月 帝京大学 薬学部 助手 平成 19 年 4 月 帝京大学 薬学部 助教 平成 21 年 4 月 帝京大学 薬学部 講師 平成 23 年 4 月~ 帝京大学 薬学部 准教授 現職 平成 26 年 2 月~平成 27 年 2 月 University of Virginia, Research Scientist 平成 27 年 11 月~平成 28 年 3 月 大阪大学大学院薬学研究科 招へい准教授 【受賞等】 平成 22 年 9 月 日本バイオイメージング学会 平成 23 年 7 月 日本DDS学会 平成 25 年 5 月 日本薬剤学会 平成 25 年 8 月 日本ハイパーサーミア学会 奨励賞 奨励賞(臨床) 奨励賞 研究奨励賞 4
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