FX Weekly 平成 28(2016)年 3 月 18 日 GLOBAL MARKETS RESEARCH チーフアナリスト 内田 稔 三菱東京 UFJ 銀行 A member of MUFG, a global financial group Table of contents 1 今週のトピックス 2 来週の相場見通し 3 来週の経済指標・イベント 4 マーケットカレンダー 1. 今週のトピックス (1) FOMC:やはり難しそうな利上げの継続 シニアマーケットエコノミスト 鈴木 敏之 (2) そろそろ気になる消費税再増税の行方とドル円相場 チーフアナリスト 内田 稔 2. 来週の相場見通し (1) ドル円:「金融緩和=通貨安」の巻き戻し 予想レンジ 109.50 ~ 113.50 (2) ユーロ:FOMC のハト派なスタンスを受けて揉み合い 予想レンジ 対ドル: 1.1000 ~ 1.1500 対円: 123.50 ~ 128.00 (3) 豪ドル: 通貨高牽制を背景に上値は次第に重くなろう 予想レンジ 対ドル: 0.7450 ~ 0.7750 対円: 83.00 ~ 87.00 (4) 人民元:材料出尽くし感から様子見姿勢が続こう 予想レンジ 対ドル: 6.4500 ~ 6.5100 対円: 1 FX Weekly | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 17.00 ~ 17.50 (1) FOMC:やはり難しそうな利上げの継続 FOMC は 世 界 経 済 、 金融情勢のリスクをみ て、年内 4 回利上げの 方針を 2 回に後退させ た 3 月 15-16 日、米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され た。政策金利は据え置かれた。また、世界経済、金融情勢を巡るリ スクを見続けるとしたので、4 月 16-17 日に利上げを行う可能性は ほぼなくなった。同時に発表されたSEP(経済見通し:Summary of Economic Projections)の中のFF金利(政策金利)の予測は、前回の 昨年 12 月 17 日の発表分より引き下げられた。昨年 12 月には、 2016 年に年 4 回の利上げをする意向をこの見通しで示していたが、 今回は本年中 2 回に引き下げられ、利上げへの姿勢は消極的となっ た。昨年来のFedの政策運営をみると、また、大統領選挙の本格選 挙戦中は動き難いとされることを勘案すると、2 回の利上げも本当 にできるのか定かとはいえない。 今回のFOMC声明のポイント ① 景気判断は、緩やかな(Moderate)成長だが、設備投資の見方を慎重化。 ② 政策金利は据え置き。声明で世界経済、金融情勢にリスクがあるという表 現を残したので、4 月の利上げの可能性はほぼなさそう。 ③ それでも利上げ継続は、引き続き主張。しかし、経済見通しに提示される FF 金利の見通しは、前回の年内 4 回利上げから、2 回利上げへ後退させ、 同中立 FF 金利も前回の 3.5%から 3.25%へ引き下げた。 ④ インフレ率の上昇は、仔細に(Closely)監視すると、警戒姿勢を示した。 ⑤ 採決では、カンサスシティ連銀のジョージ総裁が、利上げを求めて反対。 ① FOMC 声明の経済情勢判断 経済情勢判断の注目 は、設備投資の見方の 慎重化 イ)FOMC声明の景気判断は、世界的な経済、金融の混乱があって も、緩やかな(Moderate)景気拡大を続けたというものであっ た。 <評価>米国経済の強靭さへの自信を言っている。 ロ)需要項目でみると、消費、住宅投資の拡大をいう一方で、設備 投資と輸出については、弱い(Soft)と言っている。 <評価>イエレンFRB議長は、国内民間最終需要が堅実であるこ とを強調したことがあったが、その柱のひとつである設備投資が弱 まっていることを認識していることになる。この判断は、後述の利 上げの消極姿勢を持つ大きな要因といえよう。 ハ)労働市場の動向については、強い改善を言っている。 <評価>雇用者の増加、失業率の低下でみれば、労働市場の強い 改善が言えるが、先日発表の労働市場情勢指数(LMCI)は、2 月 に大き目の落ち込みを示している。 2 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 第 1 表: 米国雇用統計の主要計数の推移 雇用者増加数 千人 9月 10 月 11 月 12 月 16 / 1 月 16/2 月 149 295 280 271 172 242 262 151 改訂前 千人 内 製造業 千人 -9 2 3 6 23 -16 失業率(U3) % 5.052 5.028 5.035 5.008 4.921 4.918 失業率(U6) % 10.0 9.8 9.9 9.9 9.9 9.7 労働参加率 % 62.4 62.5 62.5 62.6 62.7 62.9 雇用 / 人口比率 % 59.3 59.3 59.4 59.5 59.6 59.8 週平均労働時間 時間 34.5 34.6 34.5 34.5 34.6 34.4 賃金(平均時給) % 2.4 2.6 2.1 2.7 2.5 2.2 1.6 2.9 2.8 2.3 -0.8 -2.4 LMCI (注) 『雇用者』は、非農業部門。『製造業』は、建設を含まない(Manufacturing)。『平均時給』は、前年同月比。 (資料)米労働省のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 ニ)インフレ率については上昇をみたが、それでも、インフレ目標 の 2%を下回り続けているとしている。ただし、その弱さは、 エネルギー価格と他のエネルギー以外の輸入品の価格によると している。期待インフレ率については、市場ベースの指標は低 位に留まっているし、サーベイによる数字はほとんど変化して いないとしている。 <評価>ここへきてコア物価指数の数字に上昇の動きが見えるが (第 2 表)、FOMC声明の経済情勢判断の部分では、それを強調し ていない。利上げ姿勢の消極化がここにもあらわれている。 第 2 表: 上昇の見えるコア物価指数のインフレ率 (前年同月比、%) 9月 10 月 11 月 12 月 1月 2月 PCE コア 1.3 1.3 1.4 1.5 1.7 消費者物価コア 1.9 1.9 2.0 2.1 2.2 2.3 生産者物価コア -1.1 -1.6 -1.1 -1.0 -0.2 0.0 (資料)米労働省のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成、 ② FOMC 声明の Fed の任務の達成状況の判断 インフレの動向を仔細 に注視という警戒姿勢 を示す Fedは物価安定と、持続可能な雇用最大化の任務があり、その達 成状況を記している。 イ)雇用について、緩やかな経済活動の拡大、労働市場の改善をみ ている。しかし、世界経済、金融情勢については、リスクとな り続いているとしている。 ロ)物価安定には、なお 2%の目標以下にとどまるが、それは一時 的な動きとし、やがて 2%の目標達成に戻るとしている。また、 インフレの動きは、引き続き、仔細に監視するとしている。 3 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 <評価>ここで、世界経済、金融情勢のリスクのことを言ってい るのは、利上げに動けないということにつながる。FOMCで、リス クは小さくなったという判断をしなければ、利上げには動けないと みられるので、4 月 26-27 日のFOMCで利上げはできないという見 通しを持てる。利上げは、昨年 12 月の利上げの例に従うと、この リスクありの判断を解除して、さらにその次のFOMCで利上げをす ることを告知してからになるので、最速でも 6 月 14-15 日になる。 ③ FOMC 声明の金融政策決定の説明 政策決定については、 徐々に調整、すなわち 利上げの継続を示唆 イ)FOMCは、FF金利の誘導目標は 0.25-0.5%に据え置くとし、こ れは、緩和を継続しているとしている。先行きについては、経 済状態がFOMCのみるように展開するならば、徐々に(Gradual) に調整(注:利上げを示唆と解釈される)して行くと言ってい る。ただし、それは、経済状態次第であることも記している。 ロ)保有証券の償還分の再投資は継続するとしている。 ハ)当該政策決定の採決については、カンサスシティ連銀のジョー ジ総裁(Esther L.George)が、利上げを求めて反対した。 ④ メンバーの経済見通し(SEP) 2016 年中の利上げを 年内 4 回から、2 回に 引き下げ 四半期末のFOMCでは、メンバーそれぞれが経済見通しを行い、 その集計値がSEPとして公表される。その中位値は次の通りである。 また、FF金利の見通しは、いわゆるドットチャートとして示される。 そのハイライトは、2016 年中の利上げの見方を、年内 4 回から 2 回に引き下げたことである。 第 3 表: FOMC メンバーの経済見通し (17 人のメンバー中位値) 実質 GDP 成長率 失業率 PCE インフレ率 PCE コアインフレ率 FF 金利 2016 2017 2018 長期 2.2 2.1 2.0 2.0 2.4 2.2 2.0 2.0 4.7 4.6 4.7 4.8 4.7 4.7 4.7 4.9 1.2 1.9 2.0 2.0 1.6 1.9 2.0 2.0 1.6 1.8 2.0 1.6 1.9 2.0 0.9 1.9 3.0 3.3 1.4 2.4 3.3 3.5 (注)下段は、前回(2015 年 12 月)の数字 『失業率』以外は第 4 四半期の前年同月比、『失業率』は第 4 四半期平均。 (資料)FRB のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成、 4 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 第 4 図: FOMCメンバーが適切とみるFF金利の行方(ドットチャート) (%) 2016年 12月16日 4.250 4.125 4.000 3.875 3.750 3.625 3.500 3.375 3.250 3.125 3.000 2.875 2.750 2.625 2.500 2.375 2.250 2.125 2.000 1.875 1.750 1.625 1.500 1.375 1.250 1.125 1.000 0.875 0.750 0.625 0.500 0.375 0.250 0.125 0.000 -0.125 2017年 3月16日 12月16日 2018年 3月16日 12月16日 3月16日 長期 LongRun 12月16日 3月16日 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 4.250 4.125 4.000 3.875 3.750 3.625 3.500 3.375 3.250 3.125 3.000 2.875 2.750 2.625 2.500 2.375 2.250 2.125 2.000 1.875 1.750 1.625 1.500 1.375 1.250 1.125 1.000 0.875 0.750 0.625 0.500 0.375 0.250 0.125 0.000 -0.125 (資料)FRB のデータより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成、 <評価>実質GDP成長率、失業率と向こう 3 年間、ほぼ同じ数字 が並ぶ見通しである。はたして、そのような経済変動は現実的であ ろうか。前回の米国の景気後退の底は 2009 年 6 月で既に 7 年弱が 経過している。こうした時間の経過をみて、多くのエコノミストが、 景気後退に関心を示しだしている。その中で、不自然に見える経済 見通しを掲げて、向こう 3 年にわたる利上げ継続を言うことで、は たして信頼を得られるものであろうか。 ⑤ 今後の米国金融政策の行方 世界経済、金融情勢を 勘案するという姿勢で あると、継続的な利上 げは難しそう 昨年 9 月に、利上げが予想されていたが、FOMCは利上げを見 送った。その際も、世界の経済金融情勢を注視するという一文を声 明に加えた。その次の 10 月のFOMCで、その警戒を解除し、同時 に、次のFOMCでの利上げ検討を告知して、利上げを行った。 今回は、1 月に加えた世界の経済金融情勢の注視の一文を保持し た。これは、年初からの市場の動揺が終息したとみきれていないと いうことである。世界経済の力強い回復は見込み難い。FOMCは利 上げの継続、年内 2 回の利上げを見込んでいるが、このように世界 経済の情勢に配慮を示す以上、それが実現できるものか、確信は持 てない。 シニアマーケットエコノミスト 5 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 鈴木 敏之 (2) そろそろ気になる消費税再増税の行方とドル円相場 消費再増税、延期なら 5 月までに決断か 2 月下旬のG20(20 ヶ国・地域の財務相・中央銀行総裁会合)声 明にみられた通り、金融緩和策のみならず財政拡張策を含む政策を 総動員しての景気浮揚に世界的な関心が高まっている。日本では、 安倍政権に対する経済政策面でのブレーンである浜田宏一内閣官房 参与らが、消費税再増税の延期(以下、単に消費税延期)を助言し たことなどが報じられている。今のところ安倍首相は、来年 4 月の 消費税 10%への増税に関して、「リーマンショックあるいは大震 災級の事態」にならない限り、予定通り引き上げる姿勢を示してい る。しかし、足もとの円高と株安の影響もあり、市場では俄かに消 費税延期との見方も高まりつつある。前回は、引き上げ予定の 11 ヶ月前に、安倍首相が正式に延期を表明。今回に当てはめると、 延期する場合、今年の 5 月頃に意思表明がなされる可能性がある。 前回は、株高・円安の 呼び水に 2014 年 11 月、消費税延期を決定した際、大幅なドル高円安が進 んだ。直前 10 月末の日銀によるサプライズ緩和が、折からの利上 げ期待によるドル高と相俟って、もともとドル円を 109 円台から 117 円台へと押し上げていたタイミングだ。市場は、消費税延期を、 短期的には日本経済にとってプラスと総じて前向きにとらえた。衆 院選後の円滑な政策遂行への期待も重なって、非居住者の対日株式 投資が活発化し、株高と円安が併走した。さらに、良好な米雇用統 計を受けたドル高の加速も加わり、ドル円は 12 月 8 日、121 円台後 半まで続伸。10 月末からわずか 1 ヶ月強の間に、ドル円は 12 円を 上回る急騰劇を演じた(第 1 図)。 第 1 図:ドル円相場と非居住者の対日株式投資(12 年 11 月以降のネット買い越し額) (兆円) 25 (円) 130 ③良好な米雇用統計 20 125 120 非居住者の 日本株見直し買い 115 ②消費税延期および 衆院解散総選挙決定 15 110 105 ①日銀追加緩和 10 100 95 5 90 2012年11月以来の非居住者による日本株の買い越し額累計 0 12/11 ドル円(右目盛) 13/5 13/11 14/5 14/11 15/5 15/11 85 80 16/5 (年/月) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 内外の環境は、当時と 全く異なる 6 一方、当時と比べると足もとの状況は一変しており、同じ消費税 延期という材料で、大幅なドル高円安が進むとは考えにくい。 まず、昨年 12 月の補完措置の導入や 1 月末のマイナス金利導入 後、かえって株安と円高が進んだ。このため、日銀の金融緩和を テーマとした(株高や)円安への期待は著しく後退している。 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 次に、前回は消費税延期を前向きに評価した非居住者も、昨年半 ば以降、日本株投資を手控えるばかりか、世界的に株式相場が下落 した局面では、利益確定と思しき売り越し側へと転じて久しい(再 び第 1 図)。無論、持ち高が軽くなった分、見直し買いの可能性も あるが、消費税延期の背景は、これまでのアベノミクスや日銀の異 次元緩和にもかかわらず、上向かない物価上昇圧力や円高、株安の 進行と言える。非居住者による対日株式投資は、迫力を欠くだろう。 さらに、米国の利上げを見越した当時のドル高地合いも、予想比 ハト派寄りとなった今週の米FOMCを受け、寧ろドル売り優勢な地 合いに転じている。米経済の先行きに対する期待も、当時と比べれ ば落ち着いたものとなっている。こうしてみると、消費税延期決定 後、前回同様の波及経路によるドル高円安は、限定的となろう。 悪い円安への警戒、シ ングル A なら影響軽 微か 一方、消費税延期が決まると、日本の財政健全化への信認は揺ら ぐおそれがあり、格下げが意識される。実際、前回の消費税引き上 げ後も、欧米の主要な格付け機関は、日本国債を相次いで格下げし ており、いわゆる悪い円安も想起される(第 2 表)。 第 2 表:大手格付け機関の本邦外貨建て長期債務格付け(日付はその格付けとなった日) Aaa Aa1 Aa2 Aa3 A1 A2 A3 Baa1 Moody's 2004/4/7 2009/5/18 2011/8/24 2014/12/1 S&P AAA AA+ AA AAA+ A A‐ BBB+ Fitch 2001/11/26 2011/1/27 2015/9/16 2012/5/22 2015/4/27 (資料) 各格付け機関より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 但し、以下二つの理由から、こうした円安も限定的と考えられる。 まず、次回の格下げでもシングルAにはとどまるとみられる。前 回のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)やフィッチ・レー ティングス(Fitch)の格下げの際、ドル高円安地合いであったにも かかわらず、円安の反応はほとんどみられていない(ムーディー ズ・インベスターズサービス<Moody’s>格下げの際は、追加緩和 による円安の時期であり、影響の見極めが困難)。シングルA内で の格下げなら、影響は限られよう。 次に、格下げの結果、ドル資金の調達コスト(ドル円のベーシス スワップのスプレッド)は上昇する可能性が高く、機関投資家など によるヘッジ付き外債投資の収益率は低下することが見込まれる (第 3 図)。このことが、引き金となって、ヘッジ付き外債投資の ヘッジ外し(円売り)や、円投を伴うオープン外債へのシフトが進 めば、相応の円安圧力になるだろう。但し、110 円割れもうかがお うかとの状況下、円高リスクが警戒され、為替リスクはとりにくい とみられる。 7 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 第 3 図:ドル円のベーシススワップスプレッド(3 ヶ月) (bp) 10 (ドル調達コスト低下) 0 -10 -20 -30 -40 -50 -60 -70 (ドル調達コスト上昇) -80 12 13 14 15 (年) 16 (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 無視できない円高への 経路 流動性が低下している国債市場では、何らかの材料によって、相 場が乱高下。金利が急上昇する場面がみられるかも知れない。実際、 量的緩和の下、2015 年 4 月にドイツでは国債相場の急落(利回り は急上昇)がユーロの急反発を招いており、リスク回避的な円高に 一定の警戒が必要だろう(第 4 図)。 第 4 図:金利低下ばかりではない QE 下でのドイツ国債イールドカーブ変化 (%) 2.5 2.0 ①14年6月4日(マイナス金利決定前) ②15年4月17日(大幅に金利低下) ③15年6月10日(金利急騰) ① ③ 1.5 1.0 0.5 ② 0.0 -0.5 -1.0 1M 3M 6M 1Y 2Y 3Y 4Y 5Y 6Y 7Y 8Y 9Y 10Y 15Y 20Y 25Y 30Y (満期までの期間) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 また、消費税延期が、日銀の量的質的金融緩和(QQE)遂行(国 債買入れ)に影を落とす可能性も低くない。2014 年 10 月末の日銀 のサプライズ緩和が、政府の消費税引き上げを後押しする側面支援 だったとのとの見方も根強い。大規模な国債買入れを進める日銀に とって、財政健全化は、QQEを遂行する上で、極めて重要と言える。 消費税延期を機に、気の早い市場参加者が、QQEの存続や量的な拡 大余地に疑念を抱くと、円高材料との様相を強める可能性がある。 ただでさえ、日銀の金融緩和を以ってしても円高に歯止めがかかっ ておらず、こうした視点も必要だろう。 8 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 シナリオ予想、メイン は「影響限定」だが。 以上の通り、前回とは環境が大きく異なっているため、消費税延 期を前向きに評価した株高および円安地合いの再来は、やや考えに くい。また、次回の格下げでも、シングルAにはとどまると考えら れ、いわゆる「悪い円安」地合いに転じていくとは、現時点では考 えにくい。一方、消費税延期後も、日銀の緩和姿勢は続くとみられ、 すぐにQQEの行き詰まりを想定した円高材料とみなすにも、やや距 離がある。このため、消費税延期は、ドル円の方向感を決定付ける 材料にはなりにくいだろう(メインシナリオ)。 但し、円高地合いが続いている地合いだけに、消費税延期が、日 本経済の先行き不透明感を連想させ、リスク回避的な円高へ波及す るケースは念頭に置く必要があろう(サブシナリオ)。また、いわ ゆる悪い円安シナリオにも、一応の警戒は必要だろう(リスクシナ リオ)。いずれにせよ、消費税延期によるドル円相場への影響や評 価は、時間の経過や外部環境によって、目まぐるしく変容していく と考えられる。また、消費税延期を決定する場合も、無期限での延 期とするのか、期限を区切った先延ばしとするのかによって、その 評価は分かれよう。一概にドル円の上下いずれの材料かを予想する のは難しい材料だけに、実際の状況に応じてその都度、予想に取り 入れていくほかないだろう。 チーフアナリスト 9 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 内田 稔 (1) ドル円:「金融緩和=通貨安」の巻き戻し 今週のレビュー ドル円相場続落、再び 110 円台へ 今週のドル円相場は、大幅に続落し、17 日の海外市場で 2014 年 10 月 31 日以来の安値となる 110.67 を記録した(第 1 図)。今週は、 追加緩和を見送った日銀の金融政策決定会合の後、ドル円がじり安 に転じた。特段、本邦では追加緩和への期待が高まっていたわけで はないが、前週 10 日、欧州中央銀行(ECB)が、事前の予想を上 回る金融緩和策を決定。そのECBは、マイナス金利に量的緩和策を 組み合わせる類似の金融政策の枠組みを採用しているとあって、追 加緩和を見送った日銀に対する「失望」とのキーワードが連想され た面はあるだろう。とは言え、当日の安値は 112.63 止まりであっ た通り、ドル円 111 円割れの決定打となったのは、予想よりもハト 派と映った米連邦公開市場委員会(FOMC)の方だ。政策金利の据 え置き自体は、大方の予想通り。ただ、参加者による無記名の政策 金利予想分布図(ドットチャート)において、2016 年末予想の中 位値が、前回 12 月会合時の 1.375%(2016 年の 4 回利上げ予想)か ら 0.875%(同、2 回)へと、0.5%も引き下げられた(第 2 図)。 これが、米国債利回りの低下とドル円を含む幅広い通貨に対するド ル安をもたらした。ドル円は 110.67 まで下落した後、一時 112 円 台まで急騰する場面もみられたが、次第に軟化。翌 18 日も、円高 進行を嫌気して軟調に推移する日経平均株価を横目に、ドル円は改 めて 110 円台に突入している(18 日正午のドル円スポット相場: 111.20~25)。 第 1 図: 過去 4 年間のドル円相場 第 2 図:米 FOMC のドットチャート中位値の推移(過去 6 会合) (円) (%) 4.0 130 マイナス金利付きQQE導入 3.5 120 3.0 110 2.5 QQE拡大 14年12月FOMC 15年3月FOMC 15年6月FOMC 15年9月FOMC 15年12月FOMC 16年3月FOMC 2.0 100 1.5 量的質的金融緩和(QQE)導入 90 1.375% 黒田総裁就任 1.0 第二次安倍内閣発足 80 0.875% 0.5 70 12 13 14 15 16 (年) (資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 ドル売り誘った FOMC 0.0 15年末 16年末 17年末 18年末 Longer Run (資料)米 FRB より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 FOMCは声明文に、設備投資が弱含んでいるとの文言を織り交ぜ るなど、経済の先行きに対する慎重な見方を滲ませた。一方、足元 の物価上昇圧力にも配慮しており、その動向を注視する意向もみせ ている(第 3 図)。経済情勢を踏まえつつ、慎重ながらも正常化 (利上げ)を継続するという基本姿勢は変わっていない。ドット チャートで示唆された年 2 回の利上げ見通しに関して、市場では物 価上昇圧力が高まった場合、利上げ頻度が増し、ドル高円安に弾み 10 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 が付くとの見方もある。ただ、米国のインフレ圧力高進は、ドル円 相場と相関の高いドルの実質金利(=名目金利-インフレ率)を押 し下げる為、必ずしもドルの支援材料とはならない(第 4 図)。 加えて、年初来高値を更新した米国の主要株価指数は、良好な経 済指標もみられる中、利上げは限定的と、言わば都合のいい解釈の 結果とも言える。利上げ回数が増すとの見方が強まれば、株式相場 への下押し圧力となり、それが「株安⇒円高」といった波及経路を 刺激しよう。米国の物価上昇圧力高進による利上げ回数の増加は、 ドル円上昇を意味しないだろう。 第 3 図: 米国の PCE デフレーター(前年比) 第 4 図:2012 年 10 月以降のドル円と金利差拡大幅 (%) 5 (%、2012年10月初=0) 3.5 ヘッドライン コア(除、食品・エネルギー) 4 (円) 130.0 予想実質金利差の拡大幅 3.0 122.5 ドル円(右目盛) 3 2.5 115.0 2 2.0 107.5 1 1.5 100.0 0 1.0 92.5 -1 0.5 85.0 -2 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (年) 16 (資料)米経済分析局より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 0.0 12/10 13/10 14/10 15/10 77.5 (年/月) (資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 「金融緩和=通貨安」 の巻き戻し 政策据え置きを決定した今回の日銀会合だが、本来、追加緩和を 講じるのは物価展望レポートを公表する 4、7、10、1 月と考えられ、 今回の決定は想定内だ。ただ、1 月の突然のマイナス金利導入の背 景が、1 月に示現した 115 円台への円高であったとする見方も根強 い。足元の 110 円近辺は、日銀が 2014 年 10 月末に、同じくサプラ イズとなった追加緩和を講じた当時の水準であり、円が高止まりす れば、4 月以降の追加緩和の可能性が意識されよう。但し、昨年 12 月、日銀が量的質的金融緩和の補完措置や今年 1 月のマイナス金利 の導入決定後、かえって円高が加速。また、ユーロ圏でも昨年 12 月と前週とも、ECBの追加緩和決定後、かえってユーロ高が進んで いる。金融緩和が、必ずしも通貨安をもたらすとは限らないとの見 方を強める市場参加者は徐々に増えつつあり、追加緩和観測による ドル円の下支え効果は、あまり期待できないだろう。 円高の背景は、「リス ク回避」に非ず ドル安の恩恵を受け、ドルと逆相関性の高い原油先物相場のほか、 幅広いリスク資産が反発しており、VIX指数も 14%台と 3 ヶ月ぶり の水準にまで低下(第 5 図)。市場の緊張は相応に緩和している。 一方、足元のドル円は 2 年ぶりの安値(円の高値)を更新中。円高 の背景を、リスク回避による一時的な動きとする見方は完全に否定 される。かねて指摘の通り、円高の背景にあるのは、経常黒字の拡 大や実質金利の高止まりといった歴然たる円高要因だろう。また、 11 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 それに乗じた投機筋の円の先高観の台頭(円ロングの構築)が、値 幅や速度を高めている面もありそうだ。加えて、金融緩和による通 貨安といったここ数年のテーマの妥当性が試されている可能性も疑 われる。需給に目を転じても、本邦勢が受け取る配当金の集積であ る第 1 次所得収支の黒字は、例年 4 月まで月間 2 兆円程度を維持 (第 6 図)。全てが円転されるわけではないが、円買い需要は旺盛 とみられる。潜在的な円売りである対外直接投資や証券投資も、こ の円高の地合いとあって、手控えられる可能性が高く、円高抑止力 としてはあまり見込みにくい。来週のドル円は、期末も近づく中、 一段安への警戒が必要と考えられる。直近安値(110.67)の更新や 110 円割れも視界に入ろう。但し、110.99 から 113 円台に急速に切 り返した 2 月 11 日や、同じく 110.67 から 112 円台へと短時間に急 騰した 3 月 17 日の値動きも意識され、値動きは神経質なものとな りやすい。予想レンジは、相応に取らざるを得ないだろう。 第 5 図:VIX 指数(恐怖指数) 第 6 図:第 1 次所得収支(月次、16 年 1 月まで) (%) 45 (億円) 25000 13/4 15/4 40 14/4 20000 35 12/4 15000 30 25 10000 20 5000 15 10 15/8 15/9 15/10 15/11 15/12 16/1 16/2 (資料)Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 予想レンジ 0 16/3 (年/月) 11/1 11/7 12/1 12/7 13/1 13/7 14/1 14/7 15/1 15/7(年/月) (資料)財務省より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 ドル円:109.50 ~ 113.50 チーフアナリスト 12 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 内田 稔 (2) ユーロ:FOMC のハト派なスタンスを受けて揉み合い 今週のレビュー 今週のユーロドル相場は、3 月FOMCでのハト派なスタンスを受 けたドル売りから上昇(第 1 図)。 第 1 図: 今週の為替相場推移 (ドル) 1.140 ↑ユーロ高 1.130 1.120 1.110 ↓ユーロ安 1.100 3/14 3/15 3/16 3/17 3/18 (月/日) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 ユーロドルは、週初に 1.11 ドル台後半で寄り付いた。週前半は 3 月ECB理事会での包括的追加緩和に対する見直し的なユーロ売りや、 欧米主要株価指数の堅調推移を受けたドル買いなどから、ユーロド ルは 15 日に 1.1072 まで下押しした。16 日の米 3 月FOMC直前には、 米 2 月コア消費者物価指数は前年比+2.3%と幾分上昇し、ユーロド ルが 1.1058 まで下落した。 しかし、FOMCでは、参加者の政策金利の予想分布図(ドット チャート)における 2016 年末時点の予想中位値が、前回 12 月の年 4 回の利上げ示唆から年 2 回の利上げ示唆に引き下げられるなど、 総じてハト派な内容となった。米国債利回りの低下とドル売りが活 発化し、ユーロドルは 1.1244 まで急上昇した。17 日もドル売りの 流れが続き、ユーロドルは 1.1342 まで上昇した。 ユーロ円は日米中銀政策決定に絡んで揉み合った。 第 2 表: 相場に影響した主な経済指標 発表日 3/16 経済指標名 米 2 月コア消費者物価指数(前年比) 結果 +2.3% 市場予想 +2.2% 前回 +2.2% (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 来週の見通し 来週は、独 3 月Ifo景況指数(3/22)、独 3 月ZEW景況指数 (3/22)、ユーロ圏 3 月消費者信頼感指数(3/23)等の経済指標が 発表される。ユーロ圏景気指標は原油安や物価下落による実質購買 力の上昇を受けた個人消費の増加、ユーロ安を受けた輸出の持ち直 しから、引き続き、ユーロ圏景気の着実な持ち直しを示す良好な結 果となろう。ユーロ圏 2 月新車登録台数は前年比+14.4%と好調な 水準を維持している(第 3 図)。ユーロ圏鉱工業生産も堅調に推移 している(第 4 図)。 13 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 第 3 図 :新車登録台数(前年比) 20 第 4 図:鉱工業生産 (2010=100) 110 (%) 105 10 100 0 95 -10 90 85 -20 12/1 12/7 ドイツ 13/1 フランス 13/7 イタリア 14/1 14/7 スペイン 15/1 その他 15/7 ユーロ圏 16/1 (年/月) (資料)欧州自動車工業会より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 08/1 09/1 10/1 ユーロ圏 ドイツ 11/1 12/1 スペイン 13/1 フランス 14/1 15/1 イタリア 16/1 (年/月) (資料)Eurostat より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 しかし、来週発表される独 3 月Ifo景況指数等のソフトデータでは、 現状指数が良好な水準となる一方、期待指数は最近の金融市場の混 乱を受けて幾分悪化することが見込まれる。 加えて、ユーロ圏景気はデフレギャップ(実際のGDPが潜在GDP を下回る幅)が引き続き大きい上に、消費者物価指数(HICP)は 前年比マイナスで推移することが見込まれる。そのため、ECBは 3 月理事会で包括的追加緩和を実施した。理事会後も、ドラギECB総 裁は「ECB理事会は、金利が長期間、さらに資産買い入れ期間終了 後も、現行の水準にとどまる、もしくは現行よりも低い水準で推移 することを想定している」(3/17)との発言を繰り返している。 他方、3 月FOMCでは、米国景気は回復(「(経済活動は)緩や かなペースで拡大」に上方修正)し、消費者物価は持ち直しの動き になっているが、海外経済と金融情勢が米国経済に与える影響を考 慮して、ハト派なスタンスが打ち出された。 来週のユーロドルは、ECBによる金融緩和を受けたユーロ売りと、 FOMCによるハト派なスタンスを受けたドル売りが交錯して、揉み 合う展開を予想する。ただし、3 月期末を前にしたドル売りポジ ションの利益確定の動きに留意したい。ユーロ円は揉み合う展開を 予想する。 予想レンジ ユーロドル:1.1000 ~ 1.1500 ユーロ円:123.50 ~ 128.00 シニアアナリスト 14 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 天達 泰章 (3) 豪ドル: 通貨高牽制を背景に上値は次第に重くなろう 今週の豪ドル相場は 0.75 台半ばで寄り付くも、鉄鉱石価格の下 落を背景にその後軟化。週央にかけては、安値となる 0.7415 まで 下落した。もっとも、その後は、FOMCを受けてドル売りが強まる 中、豪ドルは反発。約 9 ヶ月ぶりとなる高値(0.7681)を記録して いる(第 1 図)。他方、対円相場は、週初に高値(86 円台半ば) を示現するも、鉄鉱石価格の下落を受けて軟化。翌日には、安値と なる 83 円台後半を記録した。その後は、リスク回避の動きが和ら ぐ中、週末にかけて反発。本稿執筆時点では、85 円絡みで推移し ている。 今週のレビュー 第 1 図: 今週の為替相場推移 (ドル) 0.770 ↑豪ドル高 0.765 0.760 0.755 0.750 0.745 ↓豪ドル安 0.740 3/14 3/15 3/16 3/17 3/18 (月/日) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 鉄鉱石価格の反発(第 2 図)や、米利上げ観測の後退など、この ところ豪ドルを支援する材料が増えつつある。しかし、豪州経済に は依然として不透明感も根強い。今週発表された豪州の雇用統計で は、失業率こそ改善を見せたものの、雇用者数変化は 3 ヶ月連続で 低調な結果となった(第 3 図)。冴えない小売売上高や設備投資の 他、賃金伸び率や物価上昇圧力の弱さも警戒される。加えて、主要 輸出先「中国」の景気減速懸念も気がかりだ。このように、豪州を 巡っては、内外共に不確実性が増している。 来週の見通し 第 2 図 : 鉄鉱石価格と交易条件の推移 第 3 図 : 失業率と雇用者数変化の推移 (指数) (米ドル) 200 130 (万人) (%) 5.0 7.0 常勤 非常勤 雇用者数変化 失業率(右目盛) 4.0 6.5 3.0 6.0 2.0 5.5 1.0 5.0 0.0 4.5 -1.0 4.0 -2.0 3.5 160 120 110 120 100 80 交易条件 鉄鉱石価格(右目盛) 40 90 0 80 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料) 豪統計局、Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 15 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 -3.0 3.0 11 12 13 14 15 16 (資料)豪統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 (年) こうした中、オーストラリア準備銀行(RBA)による緩和的な金 融政策は当面続けられる公算が大きい。事実、直近で発表された声 明文(3/1)では、「低インフレ環境が続けば、需要喚起の為、一 段の緩和があり得る」と、追加緩和の可能性を示唆。可能性の度合 いを示す文言についても、従来までの「may(かもしれない)」か ら、より強い表現「would(だろう)」に変更する等、総じてハト 派寄りの結果となった。加えて、「最近の豪ドル相場上昇は比較的 緩やかだが小幅に下落すれば歓迎する(3/8)」「現行水準からの 下落が好ましい(3/17)」等、昨夏以降封印してきた当局による豪 ドル高けん制(口先介入)も再開。豪ドル高に対する警戒感が再燃 している。日欧の金融緩和、米利上げ観測の後退、中国による財政 出動期待等を背景に、足許ではやや楽観ムードが根強いが、次第に 上値は重くなろう。また、こうした期待感が剥落し、株および商品 市況の反落に繋がれば、豪ドルが下落する展開も見込まれる。引き 続き、株および商品市況を睨みながらの神経質な展開を想定する。 予想レンジ 対ドル:0.7450 ~ 0.7750 対円:83.00 ~ 87.00 アナリスト 16 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 藤瀬 秀平 (4) 人民元:材料出尽くし感から様子見姿勢が続こう 今週のレビュー 今週の人民元相場は、CNY(オンショア人民元)、CNH(オフ ショア人民元)共に年初来高値を更新した。週初、6.4915 で寄り付 いたCNYは、対ドル基準値の元安設定を背景にその後軟化。週央に かけては、安値となる 6.5225 を示現した。もっとも、その後は、 予想比ハト派寄りとなったFOMCを受けてドル売りが活発化。CNY も急反発する中、年初来高値 6.4576 を記録している。CNHも同様 に、週央にかけて安値となる 6.52 台半ばを記録するも、FOMC後に 急反発。年初来高値 6.43 台後半を示現し、結局 6.46 台半ばで越週 しそうだ(第 1 図)。 第 1 図 :人民元相場の推移 (CNY) 6.80 対ドル基準値 6.70 オンショア人民元相場 6.60 オフショア人民元相場 6.50 6.40 6.30 6.20 6.10 6.00 15/01 15/03 15/05 15/07 15/09 15/11 16/01 16/03 (年/月) (資料) Bloomberg、中国人民銀行より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 第 12 期全国人民代表大会(全人代)は 16 日、「第 13 次 5 ヵ年 計画(2016 年~2020 年)」を採択の上、閉幕した。李克強首相は、 「供給側(サプライサイド)改革の断行」を強調すると共に、「中 高速成長の維持」「失業増の回避」を訴えた。供給側改革に伴う実 体経済への下押し圧力を、機動的な政策運営で下支えする姿勢を示 し、ハードランディングに陥る可能性を否定した。2016 年の成長 率目標は 6.5%~7.0%に設定(第 2 図)。2020 年までの 5 年間は、 年平均 6.5%以上の成長を目指す等、習近平指導部が掲げる「2020 年までに国内総生産と所得を 2010 年対比倍増させる」との目標に 平仄を合わせた格好だ。 第 2 図 : 中国の 2016 年の主要目標 2015 年目標 2015 年実績 2016 年目標 実質 GDP 成長率 7.0%前後 6.9% 6.5%-7.0% 消費者物価指数 3.0%以内 1.4% 3.0%前後 都市部登録失業率 4.5%以内 4.1% 4.5%以内 都市部新規雇用創出 1000 万人 1312 万人 1000 万人 12.0% 13.3% 13.0%前後 - - 13.0%前後 マネーサプライ(M2) 社会融資残高 財政赤字比率 鉄道投資 道路建設投資 2.3% - 3.0% 8000 億元 8238 億元 8000 億元 - - 1 兆 6500 億元 (資料) 政府活動報告などを参考に三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 17 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 来週の見通し 通貨オプション市場におけるリスクリバーサルの低下(ドルコー ル人民元プットオーバーの縮小/第 3 図)や、オンショアとオフ ショアの価格差一致(第 4 図)が示唆する通り、人民元の先安観は 足許で後退している。 第 3 図 : リスクリバーサルの推移 第 4 図 : オンショアとオフショアの価格差 (%) (人民元) 6.80 5.00 0.4500 オンショア人民元相場 6.60 4.00 0.5000 オンショアとオフショアの価格差 6.70 0.4000 オフショア人民元相場 6.50 0.3500 6.40 3.00 2.00 1.00 USDCNH リスクリバーサル(3ヶ月物/25デルタ) 0.00 15/01 15/03 15/05 15/07 15/09 15/11 16/01 16/03 (年) (資料) Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 0.3000 6.30 0.2500 6.20 (スプレッド) 6.10 0.1500 6.00 0.1000 5.90 0.0500 5.80 0.0000 0.2000 5.70 15/01 -0.0500 15/07 (年/月) 16/01 (資料)Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 こうした動きの背景には、①中国による財政出動期待の高まりや、 ②FOMC後のドル安の流れ、③当局による資本規制の強化(個人の 外貨両替規制の厳格化や、窓口指導を通じた企業の外貨買い制限、 オフショアへの資金移動制限など)が挙げられよう。事実、当局か らはここ数日、「資本流出圧力は最近緩和した」「国境を越えた資 本の流れは近い将来安定」等の発言が報じられている。加えて、こ れまで資本流出とセットで警戒されていた外貨準備の急減について も、足許でひとまず歯止めがかかった格好だ。とはいえ、中国を巡 る不透明感は今尚根強い。過剰生産、過剰設備を背景に固定資産投 資(第 5 図)や鉱工業生産(第 6 図)が伸び悩む他、小売売上高 (第 7 図)や輸出統計(第 8 図)も冴えない。供給側改革に伴う実 体経済への下押し圧力を、金融・財政両面にて下支えすることは容 易では無く、今後、財政出動への期待感が剥落するに連れ、元安圧 力が再燃する可能性も低くない。もっとも、来週は、材料出尽くし 感からひとまず様子見姿勢が強まりそうだ。米ドル主導の展開を想 定する。 第 5 図 : 固定資産投資の推移 第 6 図 : 鉱工業生産の推移 (前年比累計、%) (前年比累計、%) 20.0 30.0 固定資産投資 内不動産開発投資 18.0 25.0 16.0 20.0 14.0 12.0 15.0 10.0 10.0 8.0 5.0 6.0 4.0 0.0 12 13 14 15 16 (年) (資料) 中国国家統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 18 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)中国国家統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 第 7 図 : 小売売上高の推移 第 8 図 : 輸出統計の推移 (前年比、%) (前年比累計 %) 20.0 60 50 輸出伸び率 40 30 15.0 20 10 0 10.0 -10 -20 -30 -40 5.0 12 13 14 15 16 (年) (資料) 中国国家統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 予想レンジ 08 09 10 11 12 13 14 ドル人民元:6.4500 ~ 6.5100 16 (年) 人民元円:17.00 ~ 17.50 アナリスト 19 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 15 (資料)中国国家統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 藤瀬 秀平 来週の主な経済指標 予想 21 日 (月) 22 日 (火) 23 日 (水) 24 日 (木) 8:30 8:30 8:30 8:30 8:30 8:30 21:30 日 ユ 米 ユ ユ 独 独 独 独 独 米 米 ユ 米 米 英・独 米 日 日 日 日 日 日 米 17:15 18:00 1:40 14:15 21:00 2:30 8:00 21:40 8:50 21:00 21:15 米 ユ 米 豪 ユ 米 米 ユ 日 ユ 米 ラッカー・リッチモンド連銀総裁講演 リーカネン・フィンランド中銀総裁講演 ロックハート・アトランタ連銀総裁講演 スティーブンス・RBA 総裁講演 ビルロワドガロー・フランス中銀総裁講演 エバンス・シカゴ連銀総裁講演 ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁講演 バイトマン・ドイツ連銀総裁講演 日銀金融政策決定会合における主な意見(3/14, 15 分) クノット・オランダ中銀総裁会見 ブラード・セントルイス連銀総裁講演 日 ユ ユ 日 日 ユ 月例経済報告(3 月) 30 年債入札(ドイツ) 国債入札(イタリア) 2 年債入札 北海道新幹線開業 夏時間に移行 18:00 23:00 18:00 18:00 18:00 18:00 18:00 19:00 19:00 22:00 23:00 0:00 21:30 21:30 25 日 (金) 市場休場 経常収支(1 月・億ユーロ) 中古住宅販売件数(2 月・万件) 製造業 PMI(3 月速報) サービス業 PMI(3 月速報) Ifo 景況指数(景気動向、3 月) Ifo 景況指数(現況評価値、3 月) Ifo 景況指数(予想値、3 月) ZEW 景況感調査(期待指数、3 月) ZEW 景況感調査(現況、3 月) FHFA 住宅価格指数(前月比、1 月) 新築住宅販売件数(2 月・万件) 消費者信頼感指数(3 月速報) 新規失業保険申請件数(3/19・万件) 耐久財受注速報(前月比、2 月速報) 市場休場 一部市場休場 消費者物価指数(全国、前年比、2 月) 消費者物価指数(全国、除生鮮、前年比、2 月) 消費者物価指数(全国、除食料エネ、前年比、2 月) 消費者物価指数(東京都区部、前年比、3 月) 消費者物価指数(東京都区部、除生鮮、前年比、3 月) 消費者物価指数(東京都区部、除食料エネ、前年比、3 月) GDP(前期比年率、4Q 確定) 中央銀行関連 21 日 (月) 22 日 (火) 23 日 (水) 24 日 (木) 25 日 (金) その他 21 日(月) 22 日(火) 23 日(水) 24 日(木) 25 日(金) 26 日(土) 27 日(日) 19:35 19:00 12:45 ※市場予想は Bloomberg 調査中央値 時刻は日本時間 *印は作成日(3/18)現在で未確定のもの 20 来週の経済指標・イベント | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 前回 ▲ 2.5% 414 547 51.2 53.3 105.7 112.9 98.8 1.0 52.3 0.4% 49.4 ▲ 8.8 26.5 4.7% 0.3% 0.0% 0.8% ▲ 0.1% ▲ 0.2% 0.5% 1.0% 0.0% 0.0% 0.7% 0.1% ▲ 0.1% 0.5% 1.0% 531 51.4 53.4 105.7 112.5 99.7 5.0 0.5% 51.0 ▲ 8.0 マーケットカレンダー 月 火 水 2016/3/21 米/中古住宅販売(2 月) ユーロ圏/経常収支(1 月) 木 22 金 23 米/FHFA 住宅価格指数(1 月) 米/新築住宅販売(2 月) ユーロ圏/製造業 PMI 速報 ユーロ圏/消費者信頼感指数 (3 月) 24 米/耐久財受注速報(2 月) 日/日銀金融政策決定会合 速報(3 月) 25 米/GDP 確報(4Q) 日/消費者物価指数 主な意見(3/14, 15 分) (東京都区部 3 月、全国 2 月) サービス業 PMI 速報(3 月) 日/月例経済報告(3 月) 独/Ifo 景況指数(3 月) ZEW 景況指数(3 月) 米・リッチモンド連銀総裁講演 米・アトランタ連銀総裁講演 日市場休場 米・シカゴ連銀総裁講演 米・フィラデルフィア連銀総裁講演 28 米一部市場休場 英・独市場休場 日・北海道新幹線開業(26 日) 欧州夏時間(27 日~) 米・セントルイス連銀総裁講演 29 30 米/個人所得・消費支出(2 月) 独/小売売上(2 月)* 米/ケース・シラー住宅価格 米/ADP 雇用統計(3 月) 指数(1 月) ユーロ圏/欧州委員会景況指数 米・2 年債入札 英・独市場休場 米・サンフランシスコ連銀総裁講演 米・5 年債入札 米・7 年債入札 31 4/1 米/雇用統計(3 月) ISM 製造業景況指数(3 月) 建設支出(2 月) CB 消費者信頼感指数(3 月) (3 月) 速報(3 月) ユーロ圏/マネーサプライ M3 独/消費者物価指数速報 日/住宅着工件数(2 月) 自動車販売(3 月)* ユーロ圏/失業率(2 月) (2 月) (CPI、3 月) 日/完全失業率(2 月) 日/鉱工業生産速報(2 月) 中/製造業 PMI(3 月) 家計調査(2 月) 日/日銀短観 概要 4 5 米/シカゴ PM 景況指数(3 月) ユーロ圏/消費者物価指数 6 7 8 米/製造業受注指数(2 月) 米/貿易収支(2 月) 米/FOMC 議事要旨(3/15,16 分) 米/消費者信用残高(2 月) 米/卸売在庫・売上(2 月) ユーロ圏/生産者物価指数(2 月) 独/貿易収支(2 月) ユーロ圏/ECB 理事会議事録 ISM 非製造業景況指数(3 月) 独/鉱工業生産(2 月) 日/日銀短観 求人労働異動調査(2 月) 日/景気動向指数速報(2 月) (3/10 分) 日/国際収支速報(2 月) 調査全容、業種別計数 ユーロ圏/小売売上(2 月) 対外対内証券売買契約等 豪/RBA 理事会 の状況(3 月) 景気ウォッチャー調査(3 月) 米・イエレン FRB 議長討論会 米・カンザスシティ連銀総裁講演 日・黒田日銀総裁挨拶 米・ミネアポリス連銀総裁討論会 11 中/消費者物価指数(3 月) 生産者物価指数(3 月) マネーサプライ M2(3 月)* 日/機械受注(2 月) 12 米/輸出入物価指数(3 月) 財政収支(3 月) 13 米/地区連銀経済報告 小売売上(3 月) 生産者物価指数(3 月) 企業在庫(2 月) ユーロ圏/鉱工業生産(2 月) 英/MPC(BOE 金融政策委員会、 14 15 米/消費者物価指数(3 月) ユーロ圏/消費者物価指数確報 米/NY 連銀景況指数(4 月) 鉱工業生産(3 月) 設備稼働率(3 月) (3 月) 英/MPC(BOE 金融政策委員会) MPC 議事録 豪/雇用統計(3 月) ~14 日) ミシガン大消費者信頼感指数 速報(4 月) 証券投資収支(2 月) ユーロ圏/貿易収支(2 月) EU27 ヵ国新車登録台数(3 中/貿易収支(3 月) 月) 中/GDP(1Q) 鉱工業生産(3 月) 小売売上(3 月) 固定資産投資(都市部、3 月) 欧州議会本会議(~14 日) 米・サンフランシスコ連銀総裁講演 *印は作成日(3/18)現在で日程が未確定のもの 21 マーケットカレンダー | 平成 28(2016)年 3 月 18 日 米・パウエル FRB 理事証言 IMF・世界銀行春季総会 (~17 日) 照会先:三菱東京UFJ銀行 グローバルマーケットリサーチ チーフアナリスト 内田 稔 当資料は一般的な情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定のお客様のニーズ、財務状況又は投資対象に対応することを意図しておりませ ん。また、当資料は、適用法令上許容される範囲内でのみ利用可能であり、当資料の頒布を制約する法令が存在する地域の方によって利用されることを意 図しておりません。当資料内のいかなる情報又は意見も、預金、有価証券、デリバティブ取引その他の金融商品の売買、投資、保有などを勧誘又は推奨す るものではありません。 当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当行はその正確性、適時性、適切性又は完全性を表明又は保証するものではなく、 当行、その子会社又は関連会社は、お客様による当資料の利用等に関して生じうるいかなる損害についても責任を負いません。ご利用に関しては、すべて お客様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。 また、過去の結果が必ずしも将来の結果を暗示するものではありません。 当行は、当資料において言及されている会社と関係を有し、又はかかる会社に対して金融サービスを提供している可能性があります。当行のグループ会 社は、当資料において言及されている証券又はこれに関連する証券について権利を有し、又はこれらの証券の引受けを行っている可能性があり、また、こ れらの証券又はそのポジションを保有している可能性があります。 当資料の内容は予告なしに変更することがあり、また、当行、その子会社又は関連会社は、当資料を更新する義務を負っておりません。また、当資料は 著作物であり、著作権法により保護されております。当行の書面による許可なく複製又は第三者、個人顧客もしくは一般投資家への配布をすることはでき ません。 (BTMUロンドン支店のみに適用される情報開示) 株式会社三菱東京UFJ銀行(以下「BTMU」)は、日本で設立され、東京法務局(会社法人等番号 0100-01-008846)において登記された有限責任の株式会 社です。 BTMUの本店は、東京都千代田区丸の内二丁目 7 番 1 号(郵便番号 100-8388)に所在しています。 BTMUロンドン支店は、英国会社登録所において、英国支店として登録されています(登録番号BR002013)。 BTMUは、日本の金融庁によって認可及び規制されています。BTMUロンドン支店は、英国プルーデンス規制機構より認可を受けており(FCA/PRA番号 139189)、英国金融行為監督機構の規制とプルーデンス規制機構の限定された規制の対象となっています。英国プルーデンス規制機構によるBTMUロンド ン支店の規制の範囲の詳細は、ご請求いただいた方にお渡ししております。 22 FX Weekly | 平成 28(2016)年 3 月 18 日
© Copyright 2024 ExpyDoc