一様等方性乱流における eigen-vortical-axis line の

231
一様等方性乱流における eigen-vortical-axis line の圧力極小特性
Pressure minimum feature of eigen-vortical-axis line in isotropic homogeneous turbulence
○学 長谷川 秀樹(愛工大院) 正 中山 雄行(愛工大)
Hideki HASEGAWA, Division of Mechanical Engineering, Graduate school of Engineering, Aichi Institute of Technology,
Yachigusa 1247, Yakusa-cho, Toyoya-shi, Aichi, Japan
Katsuyuki NAKAYAMA, Department of Mechanical Engineering, Aichi Institute of Technology,
Yachigusa 1247, Yakusa-cho, Toyoya-shi, Aichi, Japan
Key Words: Isotropic Homogeneous Turbulence, Eigen-Vortical-Axis Line, Pressure Minimum Feature
1.緒言
渦は乱流現象において重要な役割を果たしており, 工学
分野では機械の性能や安全性の評価にも関わっている. 渦領
域の同定は乱流の研究や流体工学技術に必要不可欠であり, これまでに多くの渦定義が提案されている (1-3). 一方で, 渦
軸の同定も渦の特性の解明や流体機械中に発生する渦の追
跡をする上で欠かせない. しかし, 統一的な渦定義が未確立
であるため, 渦軸を同定するための様々な手法が今日までに
提案されている(5-9). 圧力断面極小旋回法 (5,6)は圧力のヘシアンと空間微分より
求められる圧力極小点より渦軸を定める方法で,圧力極小面
における速度勾配テンソルが複素共役固有値を持つ条件を
加えることで, 平面上で流れが旋回するトポロジー条件を課
す. この手法によって追跡された渦軸は圧力極小平面(固有
平面)に垂直であると仮定されている. しかし, 非定常項と
粘性項が圧力のヘシアンに影響を及ぼす懸念が存在する. こ
れ以外に一様等方性乱流に適用された渦軸同定法には, Q の
極大値を軸として追跡する方法がある(7). ここで, Q は速度
勾配テンソル∇v の第 2 不変量であり, 圧力のラプラシアン
に関わっている(1). この追跡法による渦軸は渦線に沿って追
跡されているが, 各追跡ステップでは渦度ベクトルに沿った
方向において Q の極大点を探索する. 最も重要な渦定義の一
つであるΔ定義は, ∇v の固有値と固有ベクトルによって特
定されるガリレイ不変の局所流れトポロジーに基づいてい
る(1). このΔ定義に基づく渦軸追跡法では, 例えば, 実固有
ベクトルに垂直な平面上における速度が零である点を渦軸
として同定している(8). しかし, 一様流が存在する場合や渦
軸の速度が零でない流れにこの同定法を適用することは困
難 で あ る . 他 の 手 法 と し て は , CFD (Computational Fluid
Dynamics)において, 特定の計算セルの形状に基づいて定式
化されているが, 数値計算法による依存性がある(9). 近年, ∇v によって定められる局所的な流れのトポロジー
に着目し, 局所運動学の観点から渦流の軸方向を定めている
∇v の実固有ベクトルに平行な eigen-vortical-axis line が定義
された (12). この同定法はガリレイ不変の局所的な流れのト
ポロジーが示す軸線に沿って渦軸を追跡するものである. ま
た, この軸線は渦領域の中心部を通っており, 一様等方性乱
流では, 高い swirlity(10)の特性と渦流の対称性(10)を持つこと
が確認されている. 本研究では, eigen-vortical-axis line と λ2 定義(3)における圧
力ヘシアンの固有ベクトルが示す渦軸(圧力極小性)との比較
を行い, 軸軌道と圧力極小の特性について考察する. 2.Eigen-vortical-axis line
速度勾配テンソル∇v が共役複素固有値εR ± iφ (i: 虚数),
固有ベクトル ξp ± iηp と実固有値εa, 実固有ベクトル ζ を有す
るとき, ある点近傍の局所的な流れのトポロジーは固有値と
固有ベクトルの線形結合によって表現される(12).
x = 2exp(ε R t ){cos( φt )ξ p − sin( φt )η p } + exp(ε a t )ζ.
(1)
式(1)の流れの軌道は, ξp と ηp で定義される平面を旋回しつつ,
ζ 方向に進むあるいは収束する様相を表している. ここで, φ
€ は相乗平均的な旋回の強さを表す swirlity φ(10)と等しい. ま
た, この流れの様相は旋回平面上の流れと軸方向流れに分解
することが可能である. このとき, ζ は渦流れの軸方向を示
している. ここで, 以下の式から得られる軸線 α = [αi] (i = 1,
2, 3)を考える.
dα1 dα 2 dα 3
=
=
.
ζ1
ζ2
ζ3
(2)
α は各点の ζ に平行な曲線であり, この軸線を eigen-vorticalaxis line (以下, EVAL)と定義する(12). α は連立常微分方程式の
€
数値解析法(Runge-Kutta
法など)を用いて追跡することがで
きる.
3.渦軸の解析
ある瞬間速度場の渦領域 V (ここでは 0 < φ, 即ち Δ 定義を
満たす領域とする)において, 以下の EVAL α に関する常微
分方程式を解くことで渦軸を追跡する. dα i
= ζ i (i = 1,2,3).
dτ
(3)
ここで, |ζ| = 1 とし, τ は軸追跡をするためのパラメータであ
る. 解析の手順では, 初めにある瞬間の速度場において渦解
€
析を行ない渦領域
V を定める. 次に, V において EVAL を
同定するために初期点を特定する.本研究では, 2 < φ と 0.7
< c を満たしている点を初期点とする. c は渦流の対称性を表
すパラメータである(10). そして, 初期点より EVAL を追跡
する. また, ζ の符号を切り替えることにより, 渦の上流/
下流の両方向に対して追跡を行う. 本解析において軸追跡は, 軸上の φ が 0.01 未満, もしくは, 軸が解析領域から出るとき
を終了条件としている. 渦軸の解析は, 一様等方性減衰乱流を対象として行うもの
とし, 擬スペクトル法による DNS (Direct Numerical Simulation)から求める. DNS では, 3 次元非圧縮性流体における
Navier-Stokes 方程式並びに連続の式から得られる渦度方程
式を数値的に解く. 一様等方性乱流の DNS において, 初期の
テイラーレイノルズ数は Reλ = 311, テイラーマイクロスケ
ール λT = 0.59, コロモゴロフスケール η = 0.015 であり, eddy
turn over time は 1.14 である. また, 解析領域を(2π)3, 周期境
界条件とし, 節点数 2563, 波数ベクトル k = (k1, k2, k3)の範囲
は|k| < 121 (|k| = (kiki)1/2), 動粘性係数 0.002, タイムステップ
0.001 とする. 初期の速度場には, エネルギースペクトル E(k)
= (k/kp)4exp{-2(k/kp)2} (kp = 4)においてランダム位相を与える.
日本機械学会東海支部第 65 期総会・講演会講演論文集(’16. 3. 17-18) No.163-1
λ2 定義において, 非定常項と粘性項を除いた圧力ヘシアン
に関する方程式は
−
1
p = s s + ω ik ω kj (i, j, k = 1,2,3).
ρ , ij ik kj
(4)
と表すことができる. ここで, ρ は密度, p は圧力を示してい
る. また, p のカンマ以降の下付き添字は指標方向の空間微
€
分を意味する.
sij = (∂vi/∂xj + ∂vj/∂xi) / 2 は歪み度テンソル, ωij =
(∂vi/∂xj - ∂vj/∂xi) / 2 は渦度テンソルを表す. この固有値 λi (λ1 ≤
λ2 ≤ λ3)における λ3 の固有ベクトルを δ とし, これを接ベクト
ルとした圧力極小軸 L を EVAL と同様に追跡する.
4.解析結果
EVAL と圧力極小軸 L の軸追跡結果を比較する. ここで,
渦軸における圧力極小の評価として渦流による旋回平面上
の圧力ヘシアンを示す ι と Q を適用する. ι はΔ-, Q-, λ2- 定義
を統一した定義(4)として提案されたものである. 符号が負の
ι は圧力極小の特性を示す. 物理量 φ, Q, ι は適切な時間にお
けるそれぞれの root mean square 値で無次元化する.
Figure 1, 2 は解析領域内の一部における渦領域を示してお
り, φ = 2 の等値面を表している. この領域内に初期点から追
跡された EVAL と圧力極小軸 L を併せて示す. 渦軸の色は軸
上の ι, Q の値(ιa, Qa)を表している. これらの図は EVAL (太
線)が渦の中心領域(φ = 2)の内部に位置しており, ιa と Qa が示
す強い圧力極小の特性を持っていることが解る.
一方で, 圧力極小軸 L (細線)は渦の中心領域から逸脱して
いる. ここで, φ = 2 の等値面から逸脱している L 上の ιa と Qa
に注目すると, この軸部の ιa は正であり(Fig 1), また Qa は負
の値になっている(Fig 2). 即ち, 圧力ヘシアンの固有ベクト
ルによる軸線は, ある部分では ι 定義だけでなく, Q 定義も満
たさない場合が有り得ることを示している.
Fig. 1 Contours of φ = 2 in a subdomain (37η×37η×37η) and
vortical axes traced by eigen-vortical-axis line (bold line) and
pressure minimum line along δ (narrow line). Color of axes
shows value of ι(ιa).
5.結言
一様等方性乱流において, eigen-vortical-axis line と圧力極
小軸による渦軸追跡の比較を行なった. 本解析では, eigenvortical-axis line は λ3 の固有ベクトルによる軸追跡と比べて, 渦の中心領域を通り, 強い圧力極小の特性を持ち得ることを
確認できた. 参考文献
(1) J. C. R. Hunt, A. A. Wray and P. Moin, Center for
Turbulence Research CTR-S88, 193-208 (1988).
(2) M. S. Chong, A. E. Perry and B. J. Cantwell, Phys. Fluids
A2(5), 765-777 (1990).
(3) J. Jeong and F. Hussian, J. Fluid Mech. 285, 69-94 (1995).
(4) K. Nakayama, K. Sugiyama and S. Takagi, Fluids Dyn.
Res. 46, 055511 (2014).
(5) H. Miura and S. Kida, J. Phys. Soc. Japan 66, 1331-1334
(1997).
(6) S. Kida and H. Miura, E. J. Mech. B/Fluids. 17(4),
471-488 (1998).
(7) M. Tanahashi, T. Miyauchi and J. Ikeda, 11th Symposium
on Turbulent Shear Flows, 4-17-22 (1997).
(8) D. Sujudi and R. Haimes, AIAA 12th CFD Conf., 792-799
(95-1715) (1995).
(9) K. Sawada, Japan Soc. Aero. Space Sci., 38(120),
102-116 (1995).
(10) K. Nakayama, Fluid Dyn. Res. 46, 055502 (2014).
(11) K. Nakayama and Y. Ohira, Theor. Appl. Mech. Japan, 63,
43-51 (2015).
(12) K. Nakayama and H. Hasegawa, ICNAAM 2015, AIP Proc,
(in press).
Fig. 2 Same vortical region and vortical axes as Fig. 1. Color of
axes shows value of Q(Qa).