平成18年度 財団法人静岡総合研究機構学術教育研究推進事業費補助金 実 施 事 業 の 概 要 区分:一般研究 学会開催 東海大学 静岡県SOE(○で囲む) 職名 海洋学部 教授 氏名 松尾 俊彦 事業名: 静岡県下の港湾を利用したCO2排出削減に資する海上ネットワークの研究 事業の概要と成果: 1.目的 清水港はコンテナ貨物を中心とした地方港湾としては、極めて優秀な港湾である。しかし、交通に対し ては土肥港と結ぶフェリー航路のみで、極めて貧弱な港湾でもある。 一方、清水港に近い東名高速道路は、日々24時間トラック輸送は絶えることがなく、そのCO2排出量は極 めて大きなものとなっている。この東名高速道路を走行しているトラックを、清水港から長距離フェリー に乗せることができれば、CO2排出量を削減することが期待でき、清水港の新たな役割と評価されるであろ う。 本研究は、静岡県下の港湾を利用した新たなフェリー航路開設について検討し、CO2排出量の削減に資す る海上ネットワークについて、その可能性を企業へのヒアリングを行いつつ検討することとした。 2.研究の方法 本研究では、2000年に実施された全国貨物純流動調査(物流センサス)の3日間調査データを使い、フ ェリーと営業用(宅配等混載)トラックが代表輸送機関となっているものを分析用データとして使用し た。また、主要国道ネットワークと866港を結ぶ海上ネットワークを作成し、距離データとして利用した。 次に、数理モデルは本研究では物流センサスデータをそのまま使うことから、陸路(トラック)とフェ リーを対象とする非集計二項ロジットモデルを用いることとした。 さらに、モデルに投入する要因としては、先行研究の内容や企業(荷主・フェリー会社など)へのヒア リング調査結果も参考にして、道路距離を陸路の固有変数、フェリーの航路長をフェリーの固有変数とし た。さらに、陸路と海路(港までの距離を含む)の距離差を共通変数とした。それから、貨物のロットも 共通変数として使用し、フェリーの週当たりの便数と運賃負担力や船種(たとえば貨物船かタンカーの違 いなど)の情報も加味できること考慮して品目をダミー変数として用いた。 3.モデルのパラメータと選択要因 本研究で構築したモデルの尤度比は0.5103と高い値を示し、的中率も全体で87.1%、陸路で93.3%、フ ェリーで73.7%となった。データ数が偏っている割には、データ数の少ないフェリーの的中率も比較的高 いものとなり、モデルとしては良好な結果となった。 t検定量を見ながら輸送経路について考察を加えてみると、まず、一番大きく影響するものは陸路の道 路距離となった。この距離が長くなればフェリーの選択確率が大きくなる。次に、貨物のロットが大きな 影響を与え、ロットが大きなものはフェリーの選択確率が大きくなる。続いて、フェリーの週当たりの便 数が影響を与え、便数が増えればフェリーが選択される傾向となる。これはフェリーサービスを考える上 で重要な点を示している。そして、陸路と海路の距離差、フェリーの航路長の順となっている。ここで、 距離差の符号がプラスとなっているが、これについては、先に述べたように陸路の道路距離が大きくなれ ばフェリーの選択確率が大きくなることと、フェリーの航路長が長くなれば陸路の選択確率が大きくなる ことを合わせて考えれば、フェリーの選択については、ある程度の航路長が必要で、この航路長があまり にも短くなる場合は陸路が選択されると理解した方がよい。別な見方をすれば、発着地からの港湾までの 距離が長すぎる場合は、陸路が選択される傾向が強くなるとも考えられる。 そして、品目についてみると農水産品・林産品・軽工業品・雑工業品の輸送には、フェリーの選択確率 が大きくなることが分かった。 4.モーダルシフトとフェリー航路 実際には陸路で輸送されたものが、モデルではフェリー利用となるもの、すなわち、モーダルシフト可 能なものについてその利用航路を見ると、一番多かったのは静岡県の港と宮崎県の港を結ぶもので、次い で東京都∼宮崎県、新潟県∼島根県などという順となった(表1参照)。 既存(2000年当時)のフェリー航路では、モーダルシフト可能なものは川崎港∼南九州の航路が選択さ れる場合が多かったが、新たなフェリー航路を見ると、静岡県∼南九州の航路があれば、そちらを選択す る結果となった。具体的には、川崎港∼宮崎港や川崎港∼細島港を結ぶ航路よりも、沼津港∼宮崎港や沼 津港∼延岡港の航路の方が利便性が高い結果となった。このことは、静岡県∼中・南九州を結ぶフェリー 航路が開設されれば、モーダルシフトが促進されることを意味する。そのため、これらの新航路はCO2排出 削減に効果をもたらす航路ということができる。 最後に、本研究調査の機会をいただいた(財)静岡総合研究機構とヒアリングに協力を頂いた企業の 方々に厚く感謝の意を表したい。 表1 新たなフェリー航路と利用量 航路のある県のO Dペア 利用した新たな航路 データ 件数 トン数 貨物流動のODペア(県) 神奈川∼鹿児島、埼玉∼鹿児島 埼玉∼宮崎、 神奈川∼宮崎 栃木∼熊本、 神奈川∼熊本 埼玉∼熊本 東京∼鹿児島、 東京∼宮崎 千葉∼鹿児島、 茨城∼宮崎 沼 津 港 ∼ 宮 崎 港 295 547.8 沼 津 港 ∼ 延 岡 港 80 198.5 東 京 港 ∼ 宮 崎 港 226 551.6 柏 崎 港 ∼ 三 隅 港 93 256.2 栃木∼福岡 新 潟 港 ∼ 三 隅 港 19 30.5 新潟∼福岡 大 阪 ∼ 福 岡 大 阪 港 ∼ 苅 田 港 53 707.7 大 阪 ∼ 大 分 大 阪 港 ∼ 守 江 港 43 1,539.4 静 岡 ∼ 大 分 沼 津 港 ∼ 日 出 港 55 779.9 神奈川∼福岡、 栃木∼長崎 和歌山下津港 ∼ 宮崎港 41 202.1 愛知∼鹿児島 加 太 港 ∼ 宮 崎 港 15 40.7 石川∼宮崎 千 葉 ∼ 宮 崎 千 葉 港 ∼ 宮 崎 港 51 19.7 千葉∼鹿児島、 静 岡 ∼ 鹿児島 沼 津 港 ∼ 志布志港 43 107.9 静 岡 ∼ 宮 崎 東 京 ∼ 宮 崎 新 潟 ∼ 島 根 神奈川∼福岡、 静岡∼福岡 愛知∼福岡 埼玉∼福岡 和歌山∼ 宮 崎 注)貨物流動のODペアは、データ件数が10件以上となるもののみ。 千葉∼宮崎 神奈川∼鹿児島、埼玉∼鹿児島
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