一般用自転車のペダリング軌跡の最適化

一般用自転車のペダリング軌跡の最適化
(第 1 報:踏み足条件の検討)
○奥山義晶(仙台電波工業高等専門学校・5年)
長嶺俊之(仙台電波工業高等専門学校・専攻科 2 年)
熊谷和志(正,仙台電波工業高等専門学校)
大泉哲哉(正,仙台電波工業高等専門学校)
1.はじめに
2.2 最適軌跡の定義
最適軌跡の定義としては,速く進むことができる
自転車におけるペダルのもっとも一般的な運動軌
軌跡と,疲れずに長期間漕ぎ続けられる軌跡の 2 つ
跡は円である.もっとも効率の良いペダリングとは,
が考えられた.後者の軌跡の評価は困難であったた
常にペダリング軌跡の接線方向に力を加えることで
め,より速く進める軌跡を最適軌跡として選択して
あるが,実際にはペダリング軌跡の接線方向に力を
いる.したがって,より大きなペダル駆動力を発生
加えるというのは不可能に近い漕ぎ方であり,効率
できる軌跡が最適軌跡となる 2).
的には無駄が多いのが現状である.最近ではSDVと
呼ばれる長円軌跡を用いてペダリング効率を改善し
た自転車も登場している 1).しかし,長円軌跡が最
2.3 最適軌跡の検討
関節の屈曲と伸展では異なる筋肉を使うことから,
適であるという実証はないことから,長嶺らは,競
膝関節伸屈,股関節伸屈それぞれに関する関節角度
技用自転車を対象に,最適なペダリング軌跡の導出
−筋力関係が必要である.発生筋力には姿勢も関係
とペダリング機構の開発に取り組んでいる
2)-4)
.
しており,自転車の乗車姿勢における筋力データの
競技用自転車は,ペダルに靴を固定する構造であ
文献が見あたらないことから,新たに筋力測定機を
るため,引き足の利用が可能である.一般用自転車
開発し,複数の被験者に協力してもらい,膝関節伸
は,ペダルに靴を固定しないために引き足を利用で
屈,股関節伸屈について,相互の関係も含めて関節
きないことから,最適軌跡の形状が異なることが予
角度−筋力関係を測定している2).
想される.そこで本研究では,引き足を利用しない
測定したデータをもとに,各関節の発生する筋力,
ペダリング軌跡の最適化を図る.本報では,踏み足
ペダル駆動力方向,発生動力等を計算する軌跡評価
となる条件の検討と軌跡の評価を行った結果につい
プログラムが制作されている2)-4).実行例を図2に示
て報告する.
す.
2. 引き足も利用するペダリング軌跡
2.1
簡易モデル
最適軌跡の導出後にリンク機構で実現可能な軌跡
へ近似する必要があるため,脚部の動きを厳密にモ
デル化しても必要以上に複雑化するだけである.そ
こで,図1に示すような脚部簡易モデルを用いてい
る2)-4).
図2.軌跡評価プログラム実行例(楕円軌跡)
2.4 軌跡の評価
軌跡の評価では,その軌跡の単位周長あたりの動力の
大きさを比較している.図3に示す,円軌跡,長円軌跡,
楕円軌跡,トロコイド軌跡1,トロコイド軌跡2が評価さ
れている.それぞれの軌跡で形状を調整し,得られた動
力の最も大きな値を表1に示す.
図1.脚部簡易モデル
ペダルに加える垂直な力と軌跡の接線との差を
yとすると yが±50 度以下の時に強い踏み込みが
行われている.そこで,踏み足の条件を yが±50
度以内の時と定めた.
3.2
図3.評価軌跡
表1.各軌跡の発生動力
軌跡
1 周期中における動力の平均
円
38.53[kgf・m/s/m]
楕円(角度 0 度)
71.61[kgf・m/s/m]
長円
41.34[kgf・m/s/m]
トロコイド 1
50.67[kgf・m/s/m]
トロコイド 2
54.25[kgf・m/s/m]
ペダリング軌跡の評価
踏み足の条件を軌跡評価プログラムに新たに追加
して,図 5 に示す軌跡を評価してみた.その結果を
表 2 に示す.
結果,楕円軌跡がもっとも効率が良いこと,自転車を
図 5.サンプル軌跡 2
漕ぐときには引き足が重要であることが分かっている4).
表 2.各軌跡の発生動力 2
3.引き足を利用しないペダリング軌跡
3.1 踏み足条件の検討
本研究では引き足を利用せず,踏み足のみで漕ぐ
一般的な自転車を対象とする.長嶺らの研究では,
発生動力を大きくするには引き足の利用が重要であ
ることが分かっている.したがって,踏み足のみを
利用するペダリングでは,引き足も利用するペダリ
ングとは最適軌跡の形状が異なるはずである.
踏み足とは,ペダルを踏み込む動作で自転車を
漕ぐ状態である.軌跡評価では踏み足状態かどうか
を判定することが必要であるから,どんな条件で踏
りも合わせ,結果として図 4 にある枠内の範囲で強
い踏み込みが行われていると判断できた.
円
16.07[kgf・m/s/m]
楕円(角度 60 度)
28.56[kgf・m/s/m]
長円
28.63[kgf・m/s/m]
トロコイド 1
21.97[kgf・m/s/m]
トロコイド 2
18.78[kgf・m/s/m]
表 2 より,最も発生動力が大きいのは長円軌跡と
軌跡と,引き足を利用しない場合では最適軌跡が異
なることが裏付けられた.
4.終わりに
まずは最適軌跡の傾向を知るため,複数名の被
ることで踏み足の条件を求めた.被験者への聞き取
半周期中における動力の平均
なった.引き足も利用する場合の最も動力の大きな
み足となるのかを求めなければならない.
験者に自転車を漕いでもらい,そのビデオを観察す
軌跡
最適なペダリング軌跡の最適化を図るにあたり,
踏み足となる条件の検討と軌跡の評価を行った.結
果として,引き足を利用しないペダリングにおける
最適軌跡は,引き足も利用するペダリングとは形状
が異なることが分かった.
今後は,より適切な軌跡を求め,さらにはペダリ
ング機構の実現を目指したい.
参考文献
1)
2)
3)
4)
図 4.踏み込み範囲
オーテック有限会社:「A Revolution in Bicycle-the SDV」http://www.bike-sdv.com/
長嶺,熊谷,大泉:自転車における脚部運動軌跡の最適化に関する研
究(第1報),機学東北支部総会・講演会,051-1,P.210(2005.3)
長嶺,熊谷,大泉:自転車における脚部運動軌跡の最適化に関する研
究(第 2 報),機学東北支部秋季講演会,2005-2,P25(2005.9)
長嶺,熊谷,大泉:自転車における脚部運動軌跡の最適化に関する研
究(第 2 報),機学東北支部総会・講演会,2006-1,P179(2006.3)