リスクコミュニケーションとダイアログ

日本原子力学会原子力安全部会 第3回夏期セミナー
リスクコミュニケーションとダイアログ
平成27年8月17日 山口 彰 東京大学大学院
1
はじめに
•  リスクコミュニケーションがなかなかうまくいか
ない・・・ •  コミュニケーション:communicate(相互理解) –  To make (opinions, feelings, informa9on, etc.) known or understood by others •  ダイアログ: Dialogue(対話) –  Exchange of ideas and opinions 出典 Longman Dic9onary of Contemporary English
2
リスクコミュニケーションの振り返り
•  原子力分野においては、これまで、各原子力事業者
内、事業者とステークホルダーの間、研究者間、ある
いは、事業者や専門家と一般公衆との間等あらゆる
レベルにおいて、原子力のリスクを提示した上でのコ
ミュニケーションが不十分であった。政府も原子力事
業者もその他原子力関係者も、「原子力施設は安全
なのか」という素朴な問いに対して、「安全だ」と答えて
きてしまった。しかし、あらゆる技術にリスクはあり、そ
れは二元論ではなく連続的なものである。常にゼロリ
スクではないことを意識したリスクマネジメントと、それ
を前提としたステークホルダーとの継続的なコミュニ
ケーションを行うベきである。 原子力の自主的・継続的な安全性向上に向けた提言、総合エネルギー調査会、平成26年5月30日
3
原子力事業のリスクガバナンスと コミュニケーション •  事業者の組織内部において –  現場のリスク情報を経営層まで共有する –  リスク情報について部門横断的に意見交換を行う –  第三者的視点から安全に関する監視を行う技師を置
くなどが必要
•  事業者と様々なステークホルダー間において –  原子力のリスクに関する問題枠組み設定(プレアセス
メント)の段階から「原子力のリスク」について幅広い
ステークホルダーと緊密なコミュニケーションを行って
いくことで、結果として原子力特有のリスクに対応し
た適切なリスクマネジメントに繋がる
原子力の自主的・継続的な安全性向上に向けた提言、総合エネルギー調査会、平成26年5月30日
4
リスク情報の取り扱い
•  当該リスクを避ける選択をした場合に生じる別のリスクやコストと
のトレードオフ関係も含めた全体像を伝達する必要がある
•  分野を越えたコミュニケーションが不足すると、リスク評価がある
一面のみに偏ったバランスを欠く評価に陥りがちとなる •  専門家がどこまでわかっていて、どこからがわかっていないのか
議論し、合意を形成しなかったことが、国や専門家が国民の信頼
を失う一因となった
•  「原子力のリスク」にとどまらない問題、すなわち、使用済燃料の
処理・処分の問題、我が国のエネルギーミックスにおける位置付
けなど原子力事業そのものの在り方を含めた形 –  双方向のコミュニケーションを通じて、ステークホルダーの価値観を
反映し、ガバナンス枠組みにおける問題設定を行っていくこと
–  原子力事業者によるもののみならず、原子力事業に関係する政府を
含めた幅広い主体によるコミュニケーションを成熟させていくこと
原子力の自主的・継続的な安全性向上に向けた提言、総合エネルギー調査会、平成26年5月30日
5
リスクコミュニケーション
•  リスクコミュニケーションに係る提言 –  リスクガバナンスの全ての段階で –  コミュニュニケーション扱う問題の幅広さ –  幅広い様々なステークホルダーを対象に –  事業者だけでなく政府も含めた幅広い主体が実施者 •  リスクコミュニケーションの定義 –  リスク評価者、リスクマネージャ、ニュースメディア、利害
関係者及び一般公衆の間で行われる(健康又は環境)リ
スクについての双方向の情報交換 •  「世界保健機関(WHO)国際化学物質安全性プログラム (IPCS)リス
クアセスメント用語集」2004 年
原子力の自主的・継続的な安全性向上に向けた提言、総合エネルギー調査会、平成26年5月30日
6
リスクに関する7つのパラドックス Seven Risk Paradoxes
•  Learning (学ぶこと) –  Paradox 1:Without having the events we want to avoid we cannot learn –  経験していないものからは学べない ü  失敗や過ちをして修正することによらずして進歩しない •  Wisdom (知恵) –  Paradox 2:All events are preventable but only a>erwards –  発生した事象であれば完全に防止できる ü  起きたこと、なぜ起きたかについてはよくわかっているが、それは起きた後になってからである •  Social (社会の見方) –  Paradox 3:Events are acceptable to society unCl they actually occur –  実際に発生するまでは、社会は寛容である ü  生き、働くということはあるリスクと危険を受け入れることであり、そうでなければならない。そ
してそれ以外のリスクを恐れ、避けようとすることである。 Romney B. Duffey, The Seven Risk Paradoxes, PSA2015, April 26-­‐30, 2015
7
リスクに関する7つのパラドックス Seven Risk Paradoxes
•  Management (マネジメント) –  Paradox 4: Complexity and disorder are necessary for learning to emerge –  学びには、複雑さや無秩序の様相が現れる必要がある ü  マネジメントの機能は、人生と人間の行動の混沌とランダムさの中から秩序と学習の環境を
生み出すことである •  PrevenCon (防ぐこと) –  Paradox 5: Physical, legal and procedural barriers are necessary but not sufficient –  物理的、法制度、手続きによる障壁は必要であるが不完全である ü  できるだけ安全に設計し、建設し、運転する。それでもなお故障すると考えなければならない •  Unknowns (未知事象) –  Paradox 6:Rare or unknown events do not allow learning so always surprise –  稀有で未知の事象を学ぶことはできないのでそれはいつでも新しい ü  私たちは既知のことを知るのみ、ゆえに実際に起こる稀有事象は未知である Romney B. Duffey, The Seven Risk Paradoxes, PSA2015, April 26-­‐30, 2015
8
リスクに関する7つのパラドックス Seven Risk Paradoxes
•  PreparaCon(備えること) –  Paradox 7: In risk management and assessment we must expect the unexpected –  リスクマネジメントと評価では、想定外を想定しなければならない ü  私たちは最善を望んでいる、しかし最悪について計画し準備しなければならない •  結論 –  7つのパラドックスは人間の行動と社会の価値観そのもの。人生や社会で私
たちが観察し、創り出すパターンや秩序は、一見カオス的でランダムに見え
るが、それらは実際に発生する事象の結果そのものである。私たちはそこか
ら意思決定を学び、軌道修正し、改善する –  相互に絡み合うような7つのパラドックスから、より良い準備をし、リスクを低
減する方法を学び、より良いシステムを開発し、より効果の高い行動を知る
であろう。その方法は、よりロバストな工学でもなければ、フェールセーフでも
ないし、より多くのバリアーを用意することでもない。人間の学習と失敗を減ら
す継続的な努力である。 Romney B. Duffey, The Seven Risk Paradoxes, PSA2015, April 26-­‐30, 2015
9
原子力について、国や自治体の信頼を聞いたところ、信頼できる(「信頼できる」+「どちらかといえば信頼できる」)とい
う回答は8.0%であるのに対し、信頼できない(「信頼できない」+「どちらかといえば信頼できない」)という回答は
47.2%。また、「どちらともいえない」という回答が44.6%。前回までの参考データと比べて、大きな変動はない(やや信
頼できない側に変化しているようにも見えるが、文言が変わっているため正確な比較は難しい)。
年代別にみると、10代では信頼できないとする回答がやや少ない。
原子力に関する国と自治体への信頼
問12-1.原子力に関して、あなたは国や自治体を信頼できると思いますか。(○は1つだけ)
0%
信頼できる
07年1月全体(n=1200) 3.0
18.8
3.9
16.8
07年10月全体(n=1200)
08年10月全体(n=1200) 3.6
10年9月全体(n=1200)
20%
40%
どちらかといえば
信頼できる
どちらとも
いえない
80%
どちらかといえば
信頼できない
無回答
13.7
53.9
16.7
53.3
28.0
100%
信頼できない
56.3
19.4
4.7
60%
15.4
52.3
7.2
1.0
8.0
0.7
7.8
0.6
10.3
4.3 0.4
11年11月全体(n=1200)
1.0 10.2
51.2
23.8
13.8
0.2
12年11月全体(n=1200)
1.4 8.7
52.6
22.8
14.3
0.3
*12年11月までの質問文は「原子力の安全管理や規制は国や自治体によって行なわれています。あなたは、国や自治体を信頼できると思いますか。」
0%
20%
40%
60%
80%
100%
信頼できる
13年12月全体(n=1200) 1.4 6.6
性
出典:
別
男性(n=592) 1.5 7.6
どちらかといえば
信頼できる
どちらとも
いえない
どちらかといえば
信頼できない
44.6
信頼できない
20.3
26.9
38.5
8.3
52.8
0.2
23.6
28.7
hXp://www.jaero.or.jp/data/01jigyou/tyousakenkyu.html
女性(n=608) 1.3 5.6
50.5
25.2
10代(n=72) 2.8
無回答
0.0
17.1
23.6
12.5
10
0.3
全体
N→
専門的な知識を持っているから
国や自治体を信頼できるかどうか
1200
信頼
できる
どちらとも
いえない
信頼
できない
96
535
567
6.8
56.3
4.3
0.7
専門的な知識が不足しているから
22.4
4.2
20.0
27.9
偏った見方をしているから
19.1
2.1
10.8
29.6
公平な見方をしているから
3.0
18.8
1.9
1.4
正直に話しているから
1.7
10.4
1.1
0.7
41.2
2.1
27.1
61.2
3.3
24.0
2.8
0.2
21.0
1.0
11.2
33.7
0.5
3.1
0.2
0.4
11.3
-
9.2
15.2
3.1
30.2
0.9
0.5
16.5
-
11.0
24.5
2.0
16.7
0.7
0.7
43.7
1.0
33.6
60.5
1.5
8.3
1.3
0.5
56.3
5.2
49.9
71.1
信頼したいから
6.8
53.1
4.7
0.9
信頼したくないから
5.8
-
2.6
9.7
国や自治体は営利目的ではないから
2.6
9.4
2.1
1.9
25.7
-
13.8
41.3
3.0
2.1
4.7
1.6
正直には話していないから
私たちのことを配慮しているから
私たちのことには配慮していないから
私たちと考え方が似ているから
私たちとは考え方が違うから
熱意をもって、原子力に携わっているから
熱意が感じられないから
管理体制や安全対策ができているから
管理体制や安全対策が不足しているから
情報公開ができているから
情報公開が不足しているから
自分たちの利益優先に感じるから
その他
信頼されないから信頼されるに変
わるために u  専門的知識 u  国民に配慮 u  熱意をもって
信頼されない要因 u  正直でない u  管理体制や安全対策 u  情報公開不足 u  国民利益優先
信頼される要因 u  専門的知識 u  国民に配慮 u  熱意をもって
出典: hXp://www.jaero.or.jp/data/
01jigyou/tyousakenkyu.html
11
原子力利用に関する世論調査 原子力発電は必要か?
2013, 2013 Dec 2012, 2012 Nov Yes Likely yes 2011, 2011 Nov Uncertain 2010, 2010 Sep Likely No No 2008, 2008 Oct No answer 2007, 2007 Oct 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% source: hXp://www.jaero.or.jp/data/01jigyou/tyousakenkyu.html
12
原子力エネルギーの意義
エネルギー安定供給に多
様なエネルギー源が必要 Others 24% No 3% 国産のエネルギーを増や
すことは重要である No 2% Others 20% Yes 34% Others 42% No 24% Yes 44% Others 46% Yes 73% 原子力発電がなくても日
本は経済的に発展できる 化石資源を使い切ること
やオイルショックが心配 Yes 78% 原子力発電がないと 電気料金があがる Others 34% No 10% 原子力発電は発電の際
に二酸化炭素を出さない Yes 33% Yes 50% No 16% 出典: hXp://www.jaero.or.jp/data/01jigyou/tyousakenkyu.html
Others 51% No 16% 13
原子力エネルギーは必要か
原子力発電は 必要である Others 39% Yes 25% 原子力発電は 有益である Yes 21% Others 43% 今後、原子力を利用して
いくべきである No 17% 今後、原子力発電を廃止
すべきである Yes 16% Others 38% Yes 39% Others 42% Others 42% Yes 56% No 6% Yes 38% Others 45% No 36% No 36% 医療、工業、農業等にお
ける放射線利用は必要 原子力の利用は 暮らしの中で役に立つ No 42% 出典: hXp://www.jaero.or.jp/data/01jigyou/tyousakenkyu.html
No 19% 14
エネルギーと原子力のパラドックス
•  エネルギー安定供給、エネルギーの自給化、化石資
源からの脱却は必要である –  原子力発電がなくても、電気料金はあがるが、特に困るこ
と、大きな問題はない •  原子力は暮らしのなかで役に立つ –  原子力を利用していくべきではない(医療、農業、工業等
の放射線利用は必要) •  原子力発電は廃止すべきである –  なぜなら、原子力発電がなくとも日本は経済的に発展で
きるから・・・ •  国民の信頼を得るには、専門性、熱意、相手を思いや
るコミュニケーション、正直であること 15
“良い規制”の原則 (米国原子力規制委員会)
• 
• 
• 
• 
• 
安全規制は、高い倫理感と専門性のみに拠るべきであるが、決して規制が孤立
するようであってはならない。被規制者並びに他の一般の利害関係者から、意思
決定に利用できる全ての事実と意見を求め、最終決定は理由を明記して文書化
されなければならない(自律性:independence) 安全規制は公共サービスである。関係者(議会、他の政府機関、被規制者、公
衆)及び海外の原子力界との自由なコミュニケーションが維持されなければなら
ない(開放性: openness) 米国の納税者、納税消費者、被規制者は、規制活動の管理と運営が最善である
よう求める権利がある。NRCは自らの規制能力を評価し、継続的に向上させる方
法を確立する必要がある。現実的な規制がなされ、リスク低減効果と整合させつ
つ投入資源を最小化する必要があり、規制判断には不当な遅延があってはなら
ない。(効率性: efficiency)。 規制は首尾一貫して論理的で実際的であること、規制と機関の目標や目的とは
明確に整合することが求められる。NRCの考え方はすぐに理解され、容易に適用
できるようでなければならない(明瞭性: clarity) 研究と運転経験についての最善の知見に基づくこと、規制判断を安易に不当に
覆すことのないこと、文書化した手順により迅速、公平かつ断固たる態度で運営
されること、これにより原子力利用の実施と計画が安定的になされるべきである
(予見性: reliability) 説明性、文書化、被規制者、原則
hXp://www.nrc.gov/about-­‐nrc/values.html
16
なぜリスクコミュニケーションはNRCに
とって優先度が高いのか
•  リスクコミュニケーションは、リスク解析、リス
クマネジメント、公衆とをつなげる本質的に重
要なものである •  NRCのミッションを成就させるために、三つの
要素間で価値と前提条件、技術情報、意思
決定について統一化することが求められる •  異なるリスク認知を調和させ、ステークホル
ダーの価値観を尊重するためにリスクコミュ
ニケーションをする必要がある
NUREG/BR-­‐0308, Effec9ve Risk Communica9on, USNRC (2004)
17
NRC委員のコメント
•  “We can have the most advanced risk insights, the best science, the leading experts dialogue
isaby
first
creating a shared understan
in the field, but if we dmeaningful
o n
ot h
ave n e
ffec=ve Applying a consistent risk communication framework will h
build
theforganizational
and individual risk communic
communica=on plan, wNRC
e w
ill ail.” skills necessary to discuss scientific decisions in a nonthreat
manner while conveying the NRC’s commitment to public
Why is risk communication a priority for the NRC?
Risk communication provides the essential link
tween risk analysis, risk management, and the
Successful completion of the NRC mission requ
integration among each of these areas regard
values and assumptions, technical information
decisions.
You need risk communication to reconcile diff
perceptions of risks and gain an18appreciation
NUREG/BR-­‐0308, Effec9ve Risk Communica9on, USNRC (2004)
stakeholders’ points of view.
リスク
•  リスクは、二つの重要な要素からなる:暴露と
不確かさ。リスクとは我々が不確かと考える
“もの”への暴露である •  “Risk entails two essen9al components: exposure and uncertainty. Risk, then, is exposure to a proposi9on of which one is uncertain.” –  G.A.HOLTON,“Defining Risk”, Financial Analysts Journal, Vol 60,6, pp.19-­‐25, www.cfa.pubs (2004) 19
リスクと“危険”
工学システムから視る定義(防止する) *
ハザード リスク= 安全防御 公衆の側から視る定義(被害を緩和する) *
リスク=確率と被害、あるいは、不確かさと被害 ハザードが大きい 被害が大きい
確率が小さい 安全対策が万全
安全防御とは“気づき”であり、 不確かさとは未知の程度である
* On the Quantitative Definition of Risk Stanly Kaplan and B. John Garrick, 1980
20
NRCのリスクコミュニケーションガイドライン
•  資源配分の優先度付けと補償手段の決定のためにNRCは次の定義を用
いる。ただし、リスクの評価は、科学的合理的な分析に基づく リスク=確率X被害(consequence) •  リスクコミュニケーションの専門家Dr.Sandmanによれば、公衆の見方は: リスク=ハザード+混沌(outrage) •  何か悪いことが起きて混乱を生じるような事態に至る確率が公衆のリス
ク認知に関係する。公衆の混沌(outrage)に影響する要因はハザード規
模の認識、ハザードに関する未知、ハザード対策をする機関への不信、
メディアの注目度である。 •  公衆とNRCのリスク定義と認知の違いは異なった言語の会話のようなも
の。意味ある対話の唯一の方法は共通理解である。一貫したリスクコミュ
ニケーションの枠組みを用いればNRCは組織としての、そして個人として
の、威圧感を与えることなくNRCの公衆安全に対する責任を伝えつつ、科
学的な決定を伝えるリスクコミュニケーションのスキルの構築に役にたつ NUREG/BR-­‐0308, Effec9ve Risk Communica9on, USNRC (2004)
21
信頼(Trust)の要素
•  同じ立場での共感(Empathy) –  もしもステークホルダーの立場であればどのように思うかを理
解しようとする真摯な努力。共感や合意と同じではない •  正直であること(Honesty) –  知っていること、知らないことについて誠実で寛容であること。
情報の開示をためらうのではなくより多く示そうとする性向 •  献身(Commitment) –  公衆の安全を守ること、ならびにステークホルダーと率直にコ
ミュニケーションして両者の見解を相互に理解しあうことに努め
ること •  競合力/専門性(Competence/exper9se) –  自らの専門能力。同じ専門性をもたないステークホルダーと交
流する時、技術的な競合は信用されるための一要因にすぎな
い NUREG/BR-­‐0308, Effec9ve Risk Communica9on, USNRC (2004)
22
リスクへの取り組み
•  リスクとは選択することができるだけで、それ
から逃れることはできない
•  “理に適う意思決定”では、そのプロセスでリ
スクを明瞭に定量的に表現しなければならな
い(全ての他のリスクのコスト、便益とともに)
•  従って、コミュニケーションを良好にし、混乱
や相互矛盾を防ぐためには以下が不可欠:
–  リスクの考え方を定量化して表現すること
–  リスクの統一的な概念/用語の枠組み構築
NUREG/BR-­‐0308, Effec9ve Risk Communica9on, USNRC (2004)
Defini9on of Risk Assessment
•  リスク評価とは発生を否定できない“危
険”や“害悪”の程度を定義すること。統計的
確率や頻度の定量的推定と、傷害や損失の
深刻度 •  “Risk assessment can be thought of as defining the degree of peril or possible harm that might occur. It is the sta9s9cal probability or quan9ta9ve es9mate of frequency and severity of injury or loss” R. BEA, “Human & Organiza9onal Factors in Design and Opera9on of Deepwater Structures”, University of California Berkeley, Report to BP, Houston, Texas, BP Trial Exhibit TREX-­‐20309 (2003)
24
防止と緩和:適切なリスク管理
What is the consequences? 深刻度 リスクトリプレット*
中越沖地震では設計基準を
厳しくした。より小さい頻度と
考えられる地震まで考慮す
ることとした。 フランスのルブライエ原子力発電所
では自然現象の重ね合わせにより
原子炉建物に浸水した。経験に学
び、考慮すべきシナリオを見直すこ
とが重要であることが示された。 ル・ブライエ 暴風雨
発電所
高潮
3.11 地震
水素爆発 格納容器
変圧器火災 津波 全電源 漏えい
喪失
中越沖地震
消防車や免震重要棟が機能した。
これらは、シナリオに依存しない対
策である。設計基準事象を厳しくす
るだけではない対策が有効であっ
たことを示している。 *リスクトリプレット: 三つの座標軸の組み合わせをリスクのモノサシにする考え方
リスクトリプレット
•  リスクとは、どのようなことが起きうるのか(シ
ナリオ)、その結果どのような被害あるいは影
響があるのか(影響度)、そのような事態はど
れくらい現実的なのか(確からしさ)の三要素
からなる •  さらに、リスク管理にかかる意思決定におい
ては、リスクトリプレットにより、結果を解釈し、
意思決定者と適切にコミュニケーションしなけ
ればならない。
リスクガバナンス/マネジメント
リスク意思決定・対応
プレ・アセスメント
知識識⽣生成・評価
・ 問題枠組み設定
・ 早期警告(
新たなハザードの調査)
・ スクリーニング
・ 科学的な方法論や手順などの決定
リスク評価
リスクマネジメント
実施
リスクアセスメント
・ オプションの実現化
・ モニタリングと制御
・ リスクマネジメント活動の
フィードバック
コミュニケー
ション
意思決定
・ 対策オプションの同定と生成
・ オプションの多面的分析
・ オプションの評価と選択
・ 技術の選択
・ 代替のポテンシャル
・ リスク便益の比較
・ 政治的な優先度
・ 補償のポテンシャル
・ コンフリクト管理
・ 社会的動員のポテ
ンシャル
・ ハザードの同定および推定
・ 暴露評価と脆弱性評価
・ 定量的・定性的リスク推定
関心事アセスメント
・ リスク認知
・ 社会的関心事項
・ 社会経済的影響
リスクの特徴づけ/判断
リスクの判断
リスクの特徴付け
・ 受忍性及び受容性の判断
・ リスク削減対策のニーズ
の決定
・ リスク・プロファイル
・ リスクの深刻度の判断
・ 総合化とリスク削減オプション
リスクプロファイル
・ リスク推定値
・ 推定値の信頼幅
・ ハザードの特徴
・ リスクの心理的認知
・ 合法化の範囲
・ 社会的、経済的な含意
深刻度度の判断
・ 法的要求事項への適合性
・ リスクトレードオフ
・ 公平性への影響
・ 社会的受容性
(出典)谷口武俊、日本原子力学会標準委員会シンポジウム「原子力安全の基本的考え方について~原子力安全の目的と基本原則~」
講演資料, 2013
国際リスクガバナンス協議会、“An introduction to the IRGC Risk Governance Framework”, 2007より
4
継続的な安全向上(リスク管理)
プレアセスメント
リスクマネジメント
知識の不完全 新知見と運転経験
全てのシナリオを考慮
深層防護 重大事故影響緩和 SAM**、リスク管理 深層防護 緊急計画・対応
で住民を守る ALARA* 費用対効果
残留リスク 安全上の対処 リスクの観点から
重要ではない 深層防護(重大事故防止) 設計基準代表シナリオ
リスク評価(リスクトリプレット)
低頻度高影響のシナリオ 不確かさが大きい 安全目標
リスク評価
リスクの特徴付け/判断
28
リスクコミュニケーションの目的
•  情報を提供する –  ステークホルダーの関心に答える、法律上の告知、ステークホルダー
の意思決定への参加・関与の支援 •  情報を収集する –  ステークホルダーの関心、リスク認知、リスクマネジメントの意思決定
への関与の期待など •  信頼、信用を獲得する –  リスクコミュニケーションの基本となるポイントである •  参加・関与を呼びかける –  意思決定に関与してもらう。関与の程度を明確にすることが大切であ
る。 •  行動やリスク認知を変える –  ゴールは、よりリスクが小さい行動の選択へ、と変えることである
NUREG/BR-­‐0308, Effec9ve Risk Communica9on, USNRC (2004)
29
コミュニケーションの目的を理解する
•  伝えようとすることは分かっていると過信しては
ならない。その前に、ゴールは何かを考え、聴衆
について知ることが重要である。 •  コミュニケーションの目的を見つけ出す最善の方
法は、自らに目的は何か問いかけることである。 •  まず、ガイドラインの質問を参考にコミュニケー
ションの目的を書き出してみなさい。そしてそれ
をできるだけ短く、25単語以内で文章化しなさい。
そして、様々な公衆のステークホルダーの立場
になってみて、彼らの目的は何かを考えてみな
さい。
NUREG/BR-­‐0308, Effec9ve Risk Communica9on, USNRC (2004)
30
BSEにおける教訓
•  結果 –  英国では44億頭の牛が屠殺された。そのためのコストは
44億ポンドと推定されている。 –  変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)により165人が死
亡した。 •  教訓 –  No evidence of proof is not evidence of no proof •  初期 –  No scien9fic evidence that BSE can be transmiXed to humans •  政府が関連性を認めたのちの畜産業界 –  There is no proof of a link between BSE and CJD An introduc9on to the IGRC Risk Governance Framework, Interna9onal Risk Governance Council, 2008
31
適切なタイミング 禁止を肉骨粉に拡大するのに9年をかける
•  1984年12月 –  牛が異常な行動をすると最初に報告 •  1985年8月 –  動物から摂取したサンプルを最初に英国中央動物医療
研究所で検査 •  1986年6月 –  新しい病気の存在が認められた •  1987年1月 –  農業省に報告 •  1987 年10月 –  英国厚生省に報告 An introduc9on to the IGRC Risk Governance Framework, Interna9onal Risk Governance Council, 2008
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システミックリスク
•  社会的、財政的、経済的影響を広く含意する •  自然事象、経済発展、社会発展、技術開発と政
策行為の共通部分に存在する •  そのようなリスクは国家の国境で閉じない –  単一のセクターの活動ではマネジメントできない –  適切にマネジメントするためにはロバストな統治アプ
ローチが要求される •  システミックリスクの統治は、国家間の連携、そ
のプロセスに政府と産業界と学会と市民社会が
含まれることが必要である
An introduc9on to the IGRC Risk Governance Framework, Interna9onal Risk Governance Council, 2008
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システミックリスクマネジメントにおけ
るコミュニケーションの意義
•  リスクのみでなく、リスクマネジメントプロセスを伝える
こと •  コミュニケーションを含む全てのリスク対処過程で、双
方向ダイアログを行うこと –  リスクにかかる意思決定に責任あるものと、その決定の
拠り所となる知見を提供することに責任あるもの •  “良い”コミュニケーションにより以下が可能となる –  リスクにかかる意思決定と相反問題の解決に、ステーク
ホルダーが関与する –  ステークホルダーが、リスクについての情報を知った上で
実際の知識(事実)と、自分たちの利害、関心、信念、リ
ソースをバランスさせてリスクについての選択を行う
An introduc9on to the IGRC Risk Governance Framework, Interna9onal Risk Governance Council, 2008
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コミュュニケーション
•  コミュニケーションはもっとも大切なもの –  ステークホルダーと公衆、社会にリスクそのものを理
解してもらう –  リスクガバナンスのプロセスにおけるそれぞれの役
割を認識してもらい、双方向を心がけることにより発
言をしてもらう –  リスクマネジメントで意思決定を行うときの、その合理
性(Ra9onale)を説明し、リスクとそのマネジメントに関
する選択肢ならびに、自らの責任を人々に知ってもら
う •  有効なコミュニケーションは、リスクマネジメント
について信頼を生み出す鍵である。 An introduc9on to the IGRC Risk Governance Framework, Interna9onal Risk Governance Council, 2008
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地質・地盤に関する安全審査の手引き (平成22年10月15日)
•  建物・構築物が設置される地盤は、想定される地震力及び地震発
生に伴う断層変位に対して十分な支持性能をもつ必要がある •  建物・構築物の地盤の支持性能の評価においては、次に示す各
事項の内容(省略)を満足していなければならない。ただし、耐震
設計上考慮する活断層の露頭が確認された場合、その直上に耐
震設計上の重要度分類Sクラスの建物・構築物を設置することは
想定していないことから、本章に規定する事項については適用し
ない –  上記ただし書については、耐震設計上の重要度分類Sクラスの建物・
構築物の真下に耐震設計上考慮する活断層の露頭が確認される場
合、その活断層の将来の活動によって地盤の支持性能に重大な影
響を与えるような断層変位が地表にも生じる可能性を否定できないこ
とから、そのような場所における当該建物・構築物の設置は想定して
いないという趣旨である。なお、地震を発生させうる断層(主断層)と
構造的に関係する副断層についても、上記ただし書を適用する。
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解釈の任意性に関する問題
• 
• 
安全調査副管理官:“手引きには、ある2行、3行ぐらいが載ることになります。こ
れが将来のこととして、例えば5年後、10年後もこれがずっと使われていくという
意味で、いろいろな人が使う、ここにいらっしゃる先生がずっと何十年後も使って
いただけるのであれば、そこは全く問題ないんですけれども、こういった検討の趣
旨を全くご存じないというか、そこが薄れていってしまうということで、将来、間違っ
た使い方、間違った解釈をしないように”
委員:“「耐震設計上考慮する活断層の露頭が確認された場合には、この直上に
耐震設計上の重要度分類S クラスの建物・構築物の設置をしないこと。」を入れる
ことには賛成できないが、これが文章化された場合には、「活断層」や「露頭」の
解釈に幅ができてしまい、ここでイメージしているものと異なる可能性がある” –  適用外規定については、検討の趣旨を踏まえて将来に誤解を生じないように “限定的
に運用されるべき”という多くの意見があったが結局削除された • 
副断層の扱いについて、主断層の動きと関連して変位を生ずる可能性につい
て、“過去の活動履歴から”を削除した –  “活動履歴に限定する必要はない”との意見が、“否定できない場合”の趣旨になった 37
まとめ
•  リスクコミュニケーションの前に、ダイアログが必要ではないか •  リスクと原子力に関するパラドックスの共通理解は、コミュニケーションの
基盤 •  USNRCの目的の明確化、原則による実施、文書化による確認の戦略は
参考になる •  特にリスクコミュニケーションの目的を認識することは重要である – 
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目的を参加者が理解する 目的に応じた方法をとる 目的に応じた参加者を選ぶ 一度に多くの結果を欲張らない •  伝えるべきメッセージを用意する。相手のメーッセージを理解する –  BSEの問題では、メッセージを誤った •  双方向、インボルブメントとは、両者が責任と役割を持つこと •  内部のコミュニケーションからしっかりするべき、ダイアログが欠けている
(活断層問題) 38