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「生活困窮者」の就労支援と労働統合型社会的企業
菰田レエ也
一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程(日本学術振興会特別研究員)
本報告は、日本で「生活困窮者(主にホームレス支援)」問題を取り扱っている社会運動団体の
展開過程を、
「労働統合型社会的企業(WISE: Work Integration Social Enterprise)」
(藤井敦史・
原田晃樹・大高研道編 2013) の側面から検討する。本報告は、藤井敦史を代表とする「社会的企
業に関する文献研究会」がおこなった文献・年表整理作業の「生活困窮者」領域における WISE
の部分を担当している。これまでの WISE 研究では、労働者協同組合運動を事例として考察する
ケースが主であり(藤井敦史・原田晃樹・大高研道編 2013)、それ以外の様々な社会運動団体も
対象として整理・検討する試みはまだ十分なされてきたとは言えない。本報告では、これまでホ
ームレス支援をおこなってきた社会運動団体の展開過程を中心に明らかにしてゆくことで、
「 生活
困窮者」の就労支援に携わる WISE の可能性を検討する。
本報告のデータは、「社会的企業に関する文献研究会」のメンバーがおこなった、「生活困窮者
(ホームレス支援)」問題を取り扱っている社会運動団体への聞き取り調査、聞き取りから得られ
た対象団体の所有するサイト情報検索、そして「生活困窮者(主にホームレス支援)」と社会的企
業に関わる文献整理作業によって得られたデータが中心である。
調べた結果、以下のことが明らかになってきた。バブルが崩壊した 1990 年代以降、ホームレ
ス=野宿者問題が「可視化」され、
「生活困窮者」に関わる問題領域が大きく拡大してきた。その
中で、これまでホームレス支援をおこなってきた社会運動団体の活動が底流にありながら、様々
な文脈を持つ社会運動団体がこの問題領域に関与するようになっていった。また、1990 年代以降、
ホームレス支援を含む「生活困窮者」問題の拡大に対応して、国家は政策・制度基盤を高度に再
構築するようになった(林真人 2014)。その結果、これまでボランティア・サークルとしてホー
ムレス支援をおこなってきた一部の主要な社会運動団体は、事業体として発展することにもなっ
た。
ホームレス支援を中心にこれまで対応してきた社会運動団体の発展過程を概観することは、
「生
活困窮者」の就労支援をおこなう WISE のあり方を考える上で重要である。
【参考文献】
林真人, 2014,『ホームレスと都市空間』, 明石書店.
藤井敦史・原田晃樹・大高研道(編), 2013,『闘う社会的企業』, 勁草書房.