パリ通信1(2015 年 12 月 2 日 フランス・パリ) COP21開幕

パリ通信1(2015 年 12 月 2 日
フランス・パリ)
COP21開会式で、プルガル・ビダルCOP20議長(ペルー、環境大臣:写真右端)よりローラン・ファビウ
スCOP21議長(フランス、外務大臣:写真中央)へ議長交代。ファビウスCOP21議長の左はフィゲレス
条約事務局長、左端はチャールズ英皇太子。(写真:UNFCCCウェブサイトより)
COP21開幕、ADPは異例の前倒しスタート
フランス・パリ郊外のル・ブルジェで、11 月 30 日(月)
、気候変動枠組条約第 21 回締約
国会議(COP21)
、第 11 回京都議定書締約国会合(CMP11)が開幕しました。12 月 11 日(金)
までの期間、以下の 3 つの会議も並行して開催されます。
① 科学的・技術的助言に関する補助機関(SBSTA43)
② 実施に関する補助機関(SBI43)
③ 行動強化のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP2-12)
COP21 の目的は、2020 年以降に始まる法的枠組みに合意することです。この枠組みづく
りに関する交渉は ADP と呼ばれる特別作業部会で 2012 年 5 月から行われてきました。2014
年の COP20 では合意文書草案に含めるべき要素の検討を行い、COP21 に十分に先駆けて(で
きる国は 2015 年 3 月末までに)提出することを招請されていた国別目標案(INDC)の内容
について合意、2015 年 3 月には合意文書草案が締約国のあいだで回付されました。2015 年
6 月、8 月-9 月、10 月の交渉を経て、11 月 10 日付で公表されているもの1が現在の最新の
テキストで、54 ページあります(章立ては表 1 をご参照ください)
。COP21 最終日での合意
1
ADP.2015.11.InformalNote dated 6 November 2015 (reissued 10 November)、
<http://unfccc.int/resource/docs/2015/adp2/eng/11infnot.pdf>
-1-
をめざし、この 54 ページのテキストをベースに、パリ合意と COP 決定の交渉が行われるこ
とになります。
今回、異例だったのは COP 日程
表1 パリ合意文書草案の章立て(11 月 10 日付テキストより)
の正式な開幕日(11 月 30 日)
よりも 1 日早い 11 月 29 日
(日)
午後 5 時から、ADP 開会総会が
開かれたことです。これは、会
議初日の 11 月 30 日からテーマ
ごとの実質的な交渉に入るため
です。
通常、会議前に ADP 共同議長
がシナリオ・ノートを公表し、
そのなかで会議の進め方などの
提案をしますが、今回は 11 月
20 日付でシナリオ・ノートが公
表され、11 月 28 日に ADP 共同
議長とホスト国フランスとすべ
ての締約国との間で、会議の進め方について非公式に協議が行われました。その結果、11
月 28 日付で ADP2-12 のスケジュールについて以下の内容が公表されました2:

ADP 開会総会を 11 月 29 日(日)午後 5 時から開催する。

コンタクト・グループ(いわば全体会のようなもので、テーマ横断的なイッシュ
ー、テキスト全体の検討を行なう場)第 1 回目を、12 月 1 日(火)午前 10 時に開
催する。この模様は、入りきれない人のために別室で中継され、会場内の CCTV モ
ニターでも流す。

スピンオフ・グループ(いわば分科会のようなもので、限定したテーマについて
交渉する場。スピンオフ・グループで行われた議論の成果はコンタクト・グルー
プへ報告される)を、11 月 30 日(月)午後 7 時~9 時に開催する。スピンオフ・
グループはテーマ別に、①7 条、②8 条・8 条 bis、③11 条・12 条~26 条、④ワー
クストリーム 2、⑤前文・2 条・2 条 bis の 5 つを設置する。
11 月 29 日の開会総会で確認されたことは以下のとおりです:

コンタクト・グループは毎日開催、開催時間は午前 10 時~午後 1 時、午後 3 時~
午後 6 時、午後 7 時~午後 9 時。

1 回目のコンタクト・グループで検討するのは以下の条項:3 条・3 条 bis・3 条
ter、4 条、5 条、6 条、9 条。

スピンオフ・グループは、12 月 3 日(木)午後 6 時までにその作業を完了させ、
2
Revised note on ADP 2.12 logistical arrangements、
<http://unfccc.int/files/bodies/awg/application/pdf/revised_note_on_adp_2_12_l
ogistics_arrangements.pdf>
-2-
コンタクト・グループへその成果を報告する。

コンタクト・グループは、12 月 3 日(木)午後 9 時までに交渉を完結させる。

これらの成果を反映させた改訂版テキストは、12 月 4 日(金)午前 8 時に締約国
に公開され、引き続きコンタクト・グループで検討が行われる。12 月 5 日(土)
午前 10 時までにその検討作業を終え、COP へ提出するため合意文書の最終案の準
備に入る。
COP21の課題
CASA の考える、COP21 の主要な課題は以下のとおりです。
① INDC(約束草案)
COP21 の最大の課題は、2℃未満とのギャップを埋める道筋に合意することです。条約事
務局によれば、10 月 1 日までに提出された INDC では 2℃目標には足りず、2100 年におよそ
2.7℃上昇するレベルだとされています。
本来は、各締約国は COP21 の期間中にもそれぞれの INDC を見直し、より野心的な INDC
に改訂する努力をすべきです。もしそれが無理であれば、最長でも 5 年、できればより短
い時間枠でより野心的な INDC に見直すプロセスに合意すべきです。気候行動ネットワーク
(CAN)は、新しい国際枠組みが開始される 2020 年までに、できる限り早く現在の INDC を
評価し、削減量を引き上げるべきだとしています(11 月 30 日付 CAN ニュースレター
「eco」
)
。
② 長期目標
長期目標としては、工業化以前(1850 年頃)からの平均気温の上昇を 2℃未満に抑制す
ることは合意されていますが、小島しょ国連合は平均気温の上昇を 1.5℃未満に抑制するこ
とを強く求めています。CAN も、1.5℃を長期目標として合意することを求めています(11
月 30 日付「eco」
)
。後述のとおり、リーダーズ・イベントでオランド仏大統領も、1.5℃目
標に言及していました。
③ 適応、損失と損害(ロス&ダメージ)
AR5 は、すでに地球温暖化の影響が世界全体に広がっていることを明らかにしました。こ
うした地球温暖化のリスク・影響を小さくするためには、適応と適応の限界を超えて顕在
化し始めている「損失と損害」に対する対応が決定的に重要です。COP21 では、適応対策を
早急に強化することに合意するともに、
「損失と損害」を独立の項目としてパリ合意に記載
し、
「損失と損害」に国際社会が対応する意思を明確にすべきですが、日本を始め、アメリ
カ、カナダ、オーストラリアなどはパリ合意に「損失と損害」の条項を入れることに反対
しています。
④ 資金
適応や「損失と損害」への対応のためには資金が必要で、COP21 では、すでに約束されて
いる 2020 年までに年 1000 億ドルの資金移転を確実にするとともに、2020 年以降の資金移
転額については年 1000 億ドルを最低限として、これに上乗せした資金移転の合意が必要で
す。
⑤ 2020 年までの行動
-3-
2020 年以降の削減目標を引き上げるためには、2020 年までの行動が決定的に重要です。
締約国は、カンクン合意の 2020 年までの目標を確実に実施するとともに、直ちに 2020 年
目標を引き上げるべきです。
⑥ 法的拘束力
ダーバン合意(COP17)では、2020 年以降の枠組みは「新たな議定書、法的文書あるいは法
的成果」とされており、COP21 で合意が目指されているパリ合意は、何らかの法的拘束力を
持ったものでなければなりません。ツバルやキリバスなどの小島しょ国は、パリ合意の削
減目標に法的拘束力を持たせるべきだと主張しています。
リーダーズ・イベント
11 月 30 日 COP21 開会式のあと、引き続いて開催されたのは各国の首脳級のスピーチが行
われる「リーダーズ・イベント」です。COP21 議長国・フランスのオランド大統領が各国首
脳をこのイベントに招待し、
これに応えた世界約 150 ヵ国の首脳級がパリに集まりました。
スピーチを行う首脳級のリストには、オバマ米大統領、習近平中国国家主席、プーチン露
大統領、モディ印首相、日本の安倍首相などの名前がありました。
COP の会期は約 2 週間で、通常、閣僚級会合(ハイレベル・セグメント)は 2 週目に開催
され、日本からは環境大臣が現地入りします。今回も 12 月 7 日、8 日に通常の閣僚級会合
が予定されていますが、それに加えて、会期初日に「リーダーズ・イベント」が開催され
ました。2 つの会場において、途中 1 時間の休憩をはさんで、正午からスピーカー・リスト
が終わるまで、同時並行で首脳級のスピーチが行われました。スピーチでは、温暖化問題
への対処の必要性・緊急性などが力強く語られ、合意に向けた政治的な機運の高まりを世
界に発信するイベントとなりました。
リーダーズ・イベントのオープニングでホスト国・フランスのオランド大統領は、二酸
化炭素(CO2)濃度の上昇ならびに極端現象の記録的な多発に言及し、犠牲となって生命を
落とす人々が数百万にのぼり、物質的な損害は数十億にのぼると述べ、気候変動がもたら
す破壊を免れる国はないと述べました。また「温室効果ガスの排出量が最も少ないにもか
かわらず、最も脆弱な最貧国の皆さんが最も深刻な影響を受けることをどう容認できよう
か。いまこそクライメート・ジャスティス(気候正義)の名の下に我々は行動すべきだ」
と語ったほか、①長期目標で 2℃もしくは 1.5℃未満に気温上昇を抑制する確かな経路を確
認する必要がある、②最新の科学の知見と関連付けて我々の進捗を 5 年毎に評価するメカ
ニズム「revision mechanism」が必要であるとする、前向きで力強く、具体的な中身のあ
るスピーチをしました。
安倍首相も、スピーチをしました。その中で、「今の各国の約束草案だけでは、2℃目標
達成は困難であると指摘されている」とし、
「パリ合意には、長期目標の設定や、削減目標
の見直しに関する共通プロセスの創設を盛り込みたいと考える」としたことは評価できま
す。しかし、日本の約束草案を「志の高い約束草案」だとしたことには違和感があります。
日本の約束草案が「先進国で最低レベル」と評価されていることを知らないのでしょうか。
また、日本の削減目標の見直しのプロセスにも言及して欲しかったと思います。途上国へ
-4-
の資金支援については、安倍首相は、
「2020 年に現在の 1.3 倍、官民併せて年間約 1 兆 3 千
億円の気候変動対策の事業が、途上国で実施される」ようにするとし、「これにより、年間
1000 億ドルという、COP15 での約束を達成する道筋がつく」と胸を張りました。しかし、
「2020
年に」とされているように、2020 年までに現在の 1 兆円を徐々に引き上げていくのではな
く、2020 年に 1 兆 3 千億円にするということのようです。また、こうした資金は「新規で
追加的(new and additional)
」である必要があり、既存の ODA などの看板を付け替えただ
けでは、
「支援」の意味はありません。また、「官民併せて」とされていますが、公的資金
がどの程度かについても明らかにされていません。政府の発表資料では、支援の内容につ
いては「地熱発電,都市鉄道,防災インフラ,水確保など」とされていますが、この「都
市鉄道」に、事実上受注が決まっているタイやインドの高速鉄道などが入っているとすれ
ば、これらの建設費だけで 2 兆 8000 億円近くなります。支援の具体的な内容についても明
らかにする必要があります。
現在のINDCsでは、2℃目標には不十分
11 月末までに、183 ヵ国(EU を含む)から 156 の INDC が提出されており、これは世界の
排出量の 94%、提出した国の人口は世界人口の 97%に達しています。
The Climate Action Tracker (CAT)3の評価では、現在提出されている約束草案では 2030
年の排出量は 53~55 ギガトンに達するとされています。2℃目標を達成するためには、2030
年の排出量は 36~40 ギガトンにする必要があり、現在の INDC では 15~17 ギガトンの乖離
(ギャップ)があるとされています(表 2)
。
すなわち、現在の INDC では 2℃未満の達成は極めて困難で、2030 年までに現在の INDC
に、さらに 15~17 ギガトンの削減量を上乗せする必要があります。
表2 現在の INDC と 2℃目標、1.5℃目標(単位:ギガトン CO2e)
2020 年時点
の排出量
2025 年時点
の排出量
2030 年時点
の排出量
BaU(追加対策なし)
52-53
55-57
58-61
INDC 実施後
51-52
52-54
53-55
2℃目標達成の水準
43-46
39-43
36-40
41
36
31
**********
11-13
15-17
1.5℃目標達成の水準
2℃目標と現状の INDC とのギャップ
出所:CAT、「Tracking INDCs」より。ギガトン=10 億トン。<http://climateactiontracker.org/indcs.html>
3
The Climate Action Tracker (CAT)。世界の著明な 4 つの研究機関(Climate Analytics、
Ecofys、NewClimate Institute、Potsdam Institute for Climate Impact Research)で構
成される民間の研究機関で、INDC の最新の評価を提供しています。
-5-
会議場から
パリで発生した同時多発テロから 2 週間が経過し、パリ郊外のル・ブルジェの見本市会
場で COP21 が開会しました。会場は、同時多発テロの現場となったサッカー競技場から車
で 15 分、首謀者らの拘束作戦が展開されたアパートからも車で 15 分くらいだそうです。
フランス政府は COP21 の会場警備に 2800 人の警官や軍隊を動員したと伝えられていますが、
市内は比較的平穏で、レストランなども通常営業をしており、警察官などもあまり見かけ
ません。しかし、150 人近い首脳が演説した 11 月 30 日の会場付近には、厳重な警備態勢が
敷かれていました。
2009 年、コペンハーゲンで開催された COP15 には 120 人近い世界の首脳が集まったとさ
れていますが、今回の COP21 は 150 人と COP15 を大きく上回りました。もうひとつ COP15
と違うのは、COP15 では最終盤に世界の首脳が集まりましたが、今回はフランス政府が会議
初日に各国の首脳を招聘したことです。その意図は、COP の冒頭に各国首脳に前向きな演説
をさせ、交渉を促進させたいと考えたからかもしれません。できれば、各国の首脳が恥を
かかないように、次につながる合意がまとまることを期待したいと思います。
発行:地球環境市民会議(CASA)
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TEL: +81-6-6910-6301
FAX: +81-6-6910-6302
早川光俊、土田道代
現地連絡先:
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土田道代 +81-90-4299-8646、[email protected]
#これまでの通信は、以下のサイトをご覧ください
http://www.bnet.jp/casa/cop/cop.htm
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