9)仕組み債の資金フローについて 住友信託銀行株式会社市場金融部審査役 山田 雅章氏 (1)仕組み債とその意義 仕組み債はデリバティブを内包した債券だが、これが為替市場にどのような影響をもた らしていくかを分析した。最初に仕組み債の意義などを解説した後、仕組み債の中で、非 常に成功をおさめたと言われているパワー・リバース・デュアル・カレンシー債(以下、 PRDC)について考察する。 ①仕組み債とは (図表9-1)仕組み債とは 図表9-1に仕組 投資家 ① ① 発行体 スワップハウス み債の概略を示 した。仕組み債 ② ①,②:仕組み債利払いキャッシュフロー 取引 ①:エキゾティックキャッシュフロー は債券の一種だ が、通常の債券 ②:プレーンキャッシュフロー インターバンク、 金融市場 仕組み債を特徴付けているのは、 だと発行体と投 資家とのキャッ エキゾティックキャッシュフローとスワップハウス シュフローのや 仕組み債は、投資家ニーズに応じてユーロ市場で私募形式で発行され、高格付を 取得(発行体は海外政府系金融機関が多い)。また、アップフロントの利率が高い、 流動性に乏しく時価評価が容易でない、という特徴がある。 りとりで終わる のに対し、仕組 み債の場合はス ワップハウスというデリバティブの専門会社が関与してくる。 固定利付債、固定金利あるいは6カ月の期間の決まった金利がプレーンなキャッシュフ ローだが、そのキャッシュフローが投資家にいかずに、一旦スワップハウスに流れる。ス ワップハウスはそれをインターバンクや金融市場におけるキャッシュフロー変換によりエ キゾチックなキャッシュフローに変える。このエキゾチック・キャッシュフローは、色々 なインデックスに連動して支払額が変わるようなキャッシュフローだが、これは投資家の 運用ニーズやリスク許容度に対応したものである。 仕組み債はユーロ市場で発行されており、公募よりも私募の方が多く、高格付を取得し た発行体のものが多い。日本の投資家ニーズに合わせた結果、相当な残高となっている。 エキゾチック・キャッシュフローは、デリバティブの世界と現実の世界の格差を使って 作られるものであり、仕組み債は投資家ニーズに合わせることを目的とした金融商品であ る。 102 ②仕組み債の意義 (図表9-2)仕組み債の意義 図表9-2に示したように、 デリバティブ市場の特徴 参加者間における貸借契約履行の確実性が高い デリバティブ市場の特徴は ⇒債権の流動性が高い(現金化が容易・・・現在価値による評価) 参加者間において貸借契約 ⇒無裁定理論モデルに基づいた債権のプライシング の履行の確実性が非常に高 デリバティ ブの世界 現物の 世界 モデルパラメータが理論の枠外に逸れるため有効期間短い いことが挙げられる。履行 投資家はデリバティブ市場の取引参加者ではない の確実性が高いと色々な取 引が流動性を持ってくる。 仕組み債:投資家にとって魅力的な投資機会を提供 例えば、プレーンキャッシュフローを投資家に 払った場合はLIBOR+10bpだが、エキゾ ティックキャッシュフローを用いることでLIBOR −10bpの調達が可能となる。 エキゾティックキャッシュフロー リアルな世界とデリバテ ィブの世界を端的に示した のが図表9-3。リアルな世 (図表9-3)デリバティブの考え方 界において、10年の金銭消 10年 2% 費貸借契約が1%で、同時 に5年も1%であったとする。 5年 1% デリバティブの世界ではこ 5年 3% れらの契約がほぼ確実に履 10年 5% 1ドル 100円 行されるので、5年後から 10年後までの契約が何%で 10年 1% あるべきかを計算し始める。 110÷ 1.5≒ 73 その答えは3%。デリバテ ィブの世界における考え方 はこうだ。例えば100円を持っていた人の10年の運用を考えると、10年後には120円にな っているので、5年1%で運用した場合に、10年後に120円になるために6年以降は3%の利 回りが必要となる。これはフォワード契約というデリバティブ取引である。 為替レートについても同様に、例えば日米金利で10年5%と10年1%と格差があり、為替 レートが足元で1ドル100円だとすると、日本の金利で運用すると、10年後大体110円にな っている。米国は、10年で5%なので、1ドルを運用すれば1.5ドルになる。今、為替レー トが1ドル100円で、かつ今、手元に100円あれば、日本で運用した人は110円になるが、 米国USドルで運用し10年後に戻ってくるものは、110円になるはずである。10年後に 1.5ドルが110円に換算されなくてはならない、ということから、10年後の為替レー トは1ドル73円と計算されてくる。 これらの取引は市場参加者間においてほぼ確実に債務が履行される、義務が果たされる という状況により担保されている。図表9-3に示した例が拡張されていくに従って、色々な 商品が一定の価格でなければならないという無裁定理論が成立するようになる。取引に際 103 して、無裁定理論はリアルな世界では普通は考慮されないが、デリバティブの世界では常 に考えられている。 このような無裁定理論の存在により、デリバティブの世界で組成された仕組み債がリア ルな世界にいる投資家に供給されることが仕組み債の意義で、こういうものが次々に市場 に出て投資家に供給されている。 (図表9-4)仕組み債資金フローの特徴 ②仕組み債キャッシュフ 固定利付債の資金フローは、あらかじめ指定された元利金支払期日に一定額が発 行体から投資家に支払われるというもの。 仕組み債では、相場変動に応じてスワップハウスの動的ヘッジによる資金フローが 随時発生しうる。特に、同一ストラクチャー間の銘柄相関は高く、資金フローの規模 は同一ストラクチャーの仕組み債残高に比例すると考えられる。 キャッシュフロー ローの特徴とマーケッ ト・インパクト 図表9-4に示したよう に、固定利付債は、あら かじめ指定された利払い 日に一定額が発行体から ・・・・ 時間 投資家に支払われるもの 「仕組みCF」の動的ヘッジ取引 であり、キャッシュフロ 相場変動に伴って発生 ーの発生時点、発生金額 同じ「仕組み」であれば、同時に発生する可能性 がある:銘柄間相関が想定される は確定している。これに 対して、仕組み債ではス ワップハウスが動的ヘッジによりキャッシュフロー変換を行うために、相場変動に応じて キャッシュフローが発生するという特徴がある。注意したいのは、仕組み債の銘柄間相関 である。同じようなエキゾチック・キャッシュフローだと銘柄間の相関が高くなり、同時 に同じようなヘッジ取引が起こることになる。例えば、同じようなエキゾチック・キャッ シュフローの仕組み債 (図表 9-5)仕組み債のインパクト が10億円、10日間に亘 ス ワ ップ ハ ウ ス の 動 的 ヘ ッジ の た め に 、相 場 変 動 に 伴 って 売 買 が 発 生 す る 。 その売買の定性的特徴は、 り毎日、合計100億円 ◎ 売 買 の 引 き 金 と な る 相 場 変 動 は 、一 つ の 市 場 で は な く、複 数 の 市 場 に よ る 発行されていたとした ◎ 相 場 変 動 に 対 しては 原 則 的 に 順 張 り取 引 、す なわ ち、変 動 を加 速 しや す い 場合、エキゾチックな ◎ 同 一 ス トラ ク チ ャ ー の 銘 柄 間 相 関 は 高 く、売 買 高 は 同 一 ス トラ ク チ ャ ー の 残 高 に比例 キャッシュフローをつ 動 的 ヘ ッ ジ に お け る 売 買 は グ リ ー ク (リ ス ク フ ァ ク タ ー に 対 す る 価 格 反 応 度 )に よって把握するのが一般的 P :デ リ バ テ ィブ 価 格 S :トレ ー ダ ブ ル な リ ス ク フ ァ ク タ ー 価 格 ∂P ∂S Sに 伴 う価 格 変 動 の 一 次 近 似 式 :グ リ ー ク の 一 種 で デ ル タ と 呼ばれる くるヘッジ取引は大体 類似したものになって くる。つまり、100 億円の仕組み債の動的 価格変動を一次近似す る際の保有量を示す ヘッジ取引が起こる。 資金フローの規模は同種類の仕組み債の残高に比例すると考えられる。 このほかに複数の市場にまたがった売買が行われることや、多くの場合は動的ヘッジ取 引は順張り取引になるので相場変動を加速しやすい、というような特徴がある。 104 上述した様に、デリバティブの世界は無裁定理論を前提につくられているので、数学的 な世界で売買が行われる。ギリシャ文字という意味でグリークとデリバティブ世界で呼ん でいるが、リスクファクターに対する価格反応度(グリーク)をモデル価格式の偏微分に より計算して、持ち高はこれに従って調整されている。モデル価格式の数学的偏微分によ り発生する取引は市場キャパシティの問題を引き起こす原因となる。 (2)PRDCの解説 ①PRDCとは 具体的に仕組み債にどんなものがあるかということで、PRDCを説明する。 図表9-6にPRDCの例を示す。は、金利の低い国の通貨が高くなるというのがデリバテ ィブの世界だが、これをうまく使ったのがPRDCである。デリバティブの世界での為替 レート予測を図表9-7に示した。為替レートを1ドル120円、足下(2005年12月)の円金利 と米金利を使って計算すると、図表9-7の青い線のように大体の将来の為替レートが計算さ れる。30年先は1ドル50円と予想するのがデリバティブの世界である。 (図表9-6)パワー・リバース・デュアル・カレンシー債(PRDC)1 PRDCは、仕組み債で最も成功を収めたストラクチャーの1つ ◎元本確保が望ましく、信用リスクを取りたくない投資家のニーズに対応 財団法人:基本財産の要件 信金:満期保有目的での会計処理、低リスクウエイト(発行体) 2002年には150億ドルが発行されたとの市場観測 <概要例> 30年債 利払い:年1回 クーポン円ドル為替連動型 利率:1年目4%、2年目以降 max( 0,14% × 利払い時為替レート −10% ) 基準為替 コール権:発行体は各利払い毎に100円で償還する権利をが持つ 基準為替:発行時為替レート ― 5 (図表9-7) パワー・リバース・デュアル・カレンシー債(PRDC)2 PRDCストラクチャーは、わが国が他国と比較して金利が低く、デリバティブ市場 における為替レートの予想値(フォワード為替レート)がスポットよりも円高にシフ トすることを利用している。フォワード為替レートから、PRDCのクーポンレートを 計算してみると、図のように低下傾向となる。 140 7 120 フォワード(左) 6 100 利率(右) 5 80 4 60 3 40 2 20 1 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 105 22 24 26 28 30 PRDCは2002年には150億ドルぐらい1年間で発行されたという市場観測がある。P RDCは日本の低金利環境が成り立たせる商品で、海外では見られない。 購入した投資家は、元本確保の範囲において利回りを求める投資家で、基本財産の組み 入れ要件で、元本の償還が確実なものという条件がある財団法人などの非営利法人。また、 預貸率(預金と貸し出しの比率)が低く、経費率の高い信用金庫は、余裕資金を高利回り で運用するニーズが強い。満期保有目的で購入すれば価格変動の影響を会計上は受けない で済むが、満期保有目的での購入が認められるためには元本確保が必要要件である。PR DC発行体は海外の政府関係金融機関など高格付けの機関が多いのも、金融機関のリスク 資産評価上でも有利である。 図表9-6の例は30年債と長いが、金利低下に対して高い当初金利をつけるために期間が 長くなっていったもの。 ②PRDCが為替に与える影響 このPRDCがどのように為替相場に影響をもたらすかを試算してみた。図表9-8の横軸 が為替レート、縦軸がPRDCの価格で、元本100円当たりの値段で計算すると、ピンク の線が為替に対するPRDCの価格変化のグラフ。円高に大きく振れるとゼロクーポンに なるので、割引債の値段がPRDCの下限となる。上限は100円を少し上回るものになっ ているが、発行体が100円で償還するコール権を反映したもの。PRDCのデリバティ ブ上の価格が100円を超えてくるとスワップハウスはこれを100円で買い戻してこのキ ャッシュフローを市場で売却することでコール権の評価益を実現する(コール権の行使に よる利益は発行条件に織り込まれている、つまり、投資家はコール権を発行体に売却した 分、当初クーポンが高いなどメリットを受けている)。 (図表9-8)為替レート変動時のデルタ変化 120円、130円と為 105 PRDC価格 替が円安に推移して 100 いく時、投資家にと 95 100円の時のデ ルタは 0.5 90 ってはコールが行使 120円の時のデ ルタは 1 されない方が理論的 85 には有利であるが、 80 現実には、1年とか2 為替レート 75 80 90 100 110 120 130 140 年で償還することを 好む投資家が多い。 投資家の選好に合わせたこともPRDCが隆盛した理由の一つに上げられるように思う。 さて、デリバティブの世界におけるPRDC価格に対して、為替レートがどんな変動を もたらすかを簡便に計算した(図表9-8)。スワップハウスは、ピンク色の線で示されたP RDCの価格変化を複製するヘッジ取引を行う。120円のところで接線を引くと、傾きは 106 1になっている。つまり、為替レートが1円動くとPRDCの単価は1円変化するという ことを示している。 次に、1ドル100円で接線を引くと、傾きは0.5、つまり、為替レートが1円変化す るとPRDC価格は50銭変化する。 このことは、120円から100円に円高に進む過程でスワップハウスはドルの持ち高を減らし ていかなければならないことを意味している。PRDCが発行された際に、1ドル120円 だとすれば、スワップハウスは元本100円に対して1ドル持っている。ドルの持ち高は、 相場が動くとずれてくる。そのずれを調整するのが動的ヘッジ取引と言える。動的ヘッジ 取引の結果、発行時点に対して20円ぐらい円高になるとその持ち高はいつの間にか半分ぐ らいになっている。円高が進む過程でドル売り円買いが起きているわけで、相場を加速す る方向の取引となっている。 PRDCの残高が仮に1兆5000億円であるとすれば、20円円高に進む過程で発生した動 的ヘッジの金額は7,500百万ドルのドル売り円買いと大変に巨額なものとなる。 (図表9-9)ドル金利上昇時のデルタ変化 105 為 替 レ ート が 変 PRDC価格 動 し た ケ ース を 解 発行時のデルタ は 1 100 95 説 し た が 、P R D 90 C 価 格 は ドル 金 利 に よ る 影 響も 受 け ドル金利上昇時の デルタは 0.75 85 る 。 ド ル 金利 が 上 80 為替レート 75 80 90 100 110 120 130 140 昇 し た ら どう な る かを、図表9-9に示 し た 。 ド ル金 利 が 1%上昇するとPRDC価格は青い線からピンクの線に下落していく。ドル金利による価 格変動のヘッジはドル金利の売買で成されるが、為替の価格反応度が違ってくるために、 為替取引も発生する。為替水準が1ドル120円で変わらなかったとしても、為替の1円 の変化に対するPRDCの価格変化は75銭に減少しているからだ。金利の世界が動いても 為替取引が発生する。 ③PRDC残高の推定 PRDCの市場残高が、現時点でどのくらいあるのかが気がかりになってくる。非常に 大雑把なものだが、シミュレーションを行ってみた(図表9-10、図表9-11)。 図表9-11に示す発行条件を前提として、そういう債券が発行された時に償還しているか どうかを計算した。例えば2002年3月に発行された債券(横軸目盛り0203のところ)は、 コール権行使時点2003年3月でコールされるか否かをPRDCの単価を計算して評価した。 図表9-10は縦軸で発行時点を読んで、同様に横方向のポイントがなくなったところで償還 107 (コール)が起きたと予想されることを示している。 (図表9-10)米ドル参照PRDC償還分析 96 84 72 60 48 36 24 12 0 9803 9903 0003 0103 0203 0303 0403 0503 (図表9-11)PRDC残高推定シミュレーション 為替レート、円金利、外国金利に実際のデータを用いて、PRDC償還シミュレー ションを行った。ストラクチャーは発行時のデータから次のように設定した。 だったのは2002年だが、 1年目利率:(外国金利+国内金利)÷2 2年目以降: PRDCが非常に活況 ⎧ 外国金利+国内金利 ⎫ 利払い時為替 +10⎬ × max(0, ⎨ −10) 2 ⎩ ⎭ 発行時為替−5 コールは利払い時(年1回)のPRDC価格が発行時PRDCの105%を上回っ ていた場合に行使されるものとした。 なお、利回り曲線はフラットと仮定し、利回り水準は、米ドルでは米国債10年 物利回り、豪ドルでは豪国債10年物利回り、円では日本国債20年物利回りと した。 次葉に示すシミュレーション結果は、2002年後半からの金利低下局面で購入 したPRDCは、コール権が行使されずに現存している可能性を示唆している。 その前の年は相次いでコ ールがかかってきていた 時期で、コールがかから なくなったのは2002年か ら。2002年の後半、日本 の長期国債の金利で1%を 割り、さらに長期金利は 2003年5月、6月で0.5%を割るところまで低下したわけだが、10年の長期国債利回りで見 て1%を割るという非常に金利が低い環境で購入すると、その後の金利の上昇に対してな かなか債券の時価が高まっていかないのでコールがかからないで残っている、ということ が図表9-10から想像される。 従って、1年分の発行残高ぐらいはコールがかからないで市場に滞留しているだろうと 想定される。米ドルのほかにも、日本に対して高金利な国であれば基本的にこういうもの はできるので、豪ドル為替レートに連動したPRDCも出ていて、豪ドル金利は非常に高 くなっているので、USドルよりもコールが若干多くかかっている感じがするが、いずれ にしてもこの時期、低金利になったところではコールがかからずに、市場に滞留している ものと推察される。 PRDCの現在の市場規模については特段の統計もなく、把握するのは容易ではない。 108 参考程度に、信用金庫全体でどのように外国証券が増えているかを図表9-12に示した。P RDCは外国証券に含まれていると考えられる。信用金庫全体で98年3月では外国証券が3 兆円ぐらいだったのが徐々に増え、現在5兆円ぐらいになっている。全部がPRDCとい うわけではないが、このような形で外国証券が増えており、そのある程度のものはPRD Cと考えられる。 (図表9-12)信用金庫の証券投資 信用金庫はPRDCの主要な投資家の一つである。全国信金の証券投資額 の合計値の推移を下図に示す。PRDCは外国証券に含まれている。 単位:億円 140,000 120,000 100,000 国債 地方債 社債 80,000 投資信託 60,000 外国証券 40,000 20,000 0 9803 9903 0003 0103 0203 0303 0403 0503 (出所:信金総合研究所データから筆者作成) (3)動的ヘッジ取引と市場キャパシティ 代表的な仕組み債であるPRDCを取り上げて、それがどのような取引をもたらすのか を示し、市場においてまだ残存しているとの推定結果も得られたが、実際には市場キャパ シティの制限の下で相場変動に連動して動的ヘッジ取引を行うなど、スワップハウスは難 しい問題に取り組んでいる。 PRDCとは離れるが、市場で色々なことが起きている。日本経済新聞などの記事に、 例えば「円相場が対象期間内に一度も116円をつけなければ数千万ドル単位のオプション 料が転がり込む半面、一度でも116円をつければ一ドルも受け取れない」という取引があ って、116円を防衛線に円を買い支える行動に出ているという記事がある。 また、輸入企業は商品などを輸入するためにオプション取引を行っている。契約期間中 に一度も円相場が1ドル=115円を超す円安にならなければ手数料を割り引くといった事 例の記事がある。 このように、PRDC以外にもデジタルオプションと呼ばれる為替の取引はノックアウ ト、ノックインとか色々言われているが、ある条件が起こる、起こらないで受け払いが大 きく変わるというデジタルな動きをする取引がある。 109 理論的にはプライシングがある程度できるが、現実的にはヘッジ取引は困難である。例 えば、PRDCと類似の債券で利率が120円以上円安であれば4%、円高であれば0%とい う債券があった時に、スワップハウスがデジタルオプションをどうやってつくるかという 問題がある。 (図表9-13)当該デジタルの構成例 その一つの実現の ペイオフ 複製誤差部分 方 法 を 図 表 9-13 に 示 した。行使価格110円 4000万円 119 120 為替レート ①1億400万円 のコールオプション を4,000万ドル買いと 4,000万ドル売りとい ②9100万円 う取引を同時にすれ 米国金利4%、日本金利0%、スポット120円、期間1年、 ばいいのだが、コー 為替ボラティリティ9%とした場合、 ルオプションは、行 ①−②=約1300万円 使価格より為替レー トが上回ったら上回 った分だけ受け払いが行われる。119円のコールオプション、横軸を為替レートにすると、 円安になるほど受け取りが増える、このようなコールオプションを買って、逆に120円の コールオプションを売ると、台形の部分だけが残る。この台形の部分の高さが4,000万円 だったら120円超えれば4,000万円。ここは複製の誤差部分で、スワップハウスが得る値段 は大体1,300万円。このコールオプションが1億4,000万円ぐらいで、このコールの売りは 9,100万円ぐらい。その差額で1,300万円ぐらいと。このようにつくっていく。 (図表9-14)デルタ(持つべき外貨残高) 1.2 1Y 1.0 0.8 1M 4000万ドル 1W 1D 0.6 1H 0.4 0.2 0.0 116 116.5 117 117.5 118 118.5 119 119.5 120 120.5 121 121.5 122 122.5 123 2つのコールオプションの合計のデルタを上図に示す。満期までの時間が短くな るに連れて、トリガー付近(119から120円)のデルタの変化は大きなものとなる。 110 図表9-14に、オプションの満期まで残り1年、1カ月、1週間、1日、1時間前と理論 計算をした4,000万ドルのドルの持ち高を示す。利払いまで1年間ある場合、ほとんど取 引はしないに等しい状況だが、1日前になるとこの青い線、1時間前になると紫色の線に なる。為替レートが119円前後にいる、あるいは120円前後にいると、巨額な売買をやらな ければならなくなる。こういう問題をどのように解決していくかという問題にスワップハ ウスは直面している。 非常に理論的なマーケットである一方で、実際の売買はキャパシティとか、理論は連続 時間でつくられているが、現実には連続時間ではないし、あるいは取引の値段も連続では なく離散している。色々な問題をいかにうまく市場インパクトがないように消化していく かもスワップハウスのテーマである。 そもそもは資金フローに影響を与えないのがいいのだが、部分的に大きな市場インパク トをもたらすようなイベントが起きてしまう可能性が仕組み債にはある。 111
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