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2015年6月11日
ムーディーズ・アナリティックス
「リスクアペタイトと規制遵守を最適化する実効的なガバナンス」
(サマリー版)
ムーディーズ・アナリティックス
ディレクター
水野 裕二
[email protected]
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グローバル金融市場の構造変化(“シフト”)
量的緩和によるマネー増加
余剰マネーがもたらすポート
フォリオ・リバランス現象
金融規制によるインパクト
金融規制がマネーシフトと金融
リスクを増幅する効果
リスク・トレンドの変化
市場流動性、アセット・コリレー
ション上昇、ボラティリティ・・・
金融機関の経営ガバナンス
金融市場の構造変化に対し、
どのように対応するか?
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1.グローバル金融市場で構造変化が見られている
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量的緩和・超低金利政策が意図している効果と副次的効果
インフレ期待上昇
資本市場
・資産価格の上昇
金利低下
企業と家計
・借入コストの低下
・レバレッジの低下
リスクアペタイト上昇
アセット価格の過度な
上昇
ポートフォリオの
リバランス
金融リスクテイクの
増加
銀行システム
・貸出の回復
民間バランスシート改善
経済リスクテイクの
増加
消費拡大
市場流動性リスクの上
昇(規制による増幅も)
通貨のボラティリティ
(米ドル高)
イ ンフレ率(期待)上昇
高成長と潜在力
市場ボラティリティ、コ
リレーションの上昇
新興国市場への資本
フロー増と不安定化
投資の増加
イ ンフラ投資活性化
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2.金融規制改革はさらに進展する
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金融危機後の規制政策は銀行システムのリスク抑制に注力
金融危機のメカニズム
トリガー
金融危機
(バブル崩壊)
金融機関の
脆弱性
(連鎖的な金融破綻)
(レバレッジ)
(金融機関の破綻)
(税金投入)
【トリガーの監視】
【金融機関ガバナンス強化】
• システミック・リスクの監視
• 自律的なリスク・ガバナンス
【金融機関の破綻に備える】
• TBTFを終わらせる
• 税金投入を回避する
【市場の脆弱性を除去】
• 金融市場の制度改革
【金融機関の破綻を回避】
• 金融機関の財務能力強化
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金融規制改革は金融市場のシステミック・リスクを抑制する
【現在も継続している主な金融規制改革(特に銀行業界)】
 バーゼル資本規制の見直しは分母・分子にわたって継続中
 信用リスク標準的手法の見直し(日本ではRWAが20-30%増加?)
 完全実施に向けた準備が進むLCR、NSFR、レバレッジ比率
 TLAC導入により資本・負債規制へ(最終決着は2015年中)
 IRRBB資本賦課案(銀行勘定の金利リスク)
 連続したミニ決算作業へと進化したストレステスト
 2016年1月の遵守期限を目前にしたバーゼル/データ集計・報告
 コンダクトリスクに対する強いプレッシャー
 RAFやリスク文化など、金融機関の自律的なガバナンスへの介入
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3.金融リスクのトレンドに変化が見られている
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金融危機への対応の結果として生じてきた新たなリスク・トレンド
 金融危機後の金融改革の狙い
 レバレッジは悪
 金融機関の財務能力を高める
 金融市場の安全性を強化
 金融機関のガバナンスを強化
 金融業界に発生した副次的効果
 グローバルな経済対策
 世界的な量的緩和
⇒ グローバルな金余り現象
 世界的な超低金利
⇒ マネーシフトの加速
 新たなリスク・トレンド
 金融機関の業務制約が著しく高まる
 資産価格・相関の上昇
 本来業務への回帰を迫られる
 市場ボラティリティの上昇
 規制遵守コストが大幅に増加
 市場流動性の低下
 リスクマネー供給能力の低下
 リスクトリガー事象の増加
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グローバル金融システムのリスクの軸がシフトしている
【グローバル金融システムの不安定化リスクは3つの軸でシフト】
• 先進国から新興国に
• 銀行から銀行以外の金融部門に(影の銀行、ノンバンク、ファンド・債券等)
• 信用リスクから市場流動性リスクに
【市場ボラティリティにつながる主要なリスクファクター】
• 世界的な資産価格上昇とバブル懸念
• アセット・コリレーションの上昇
• 米国金利上昇リスク
• 民間部門での高水準なクレジット残高
• 原油価格下落(長期化)のインパクト
• 市場流動性リスク(フィクストインカム、ファンド、アセットマネジメント業界)
• 対外債務負担の大きい新興国の懸念、資本フロー不安定化
• ドル高リスクと主要通貨のボラティリティ上昇
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リスク・トレンドの変化に対して必要とされるガバナンス
新たな金融リスクのトレンド
 現在のリスクは「実験場」のリスク
 リスクが波及しやすくなっている
 市場流動性は低下している
 市場悪化は突然発生し、急激に展開する
 可視化の努力を要するリスクが増えている
 RAFの実効性を高める
 ストレステストの実効性を高める
 リミット設定を強化する
 予兆管理を強化する
 業績の将来予測力を高める
 グループ・データ管理を徹底する
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4.経営ガバナンスに求められる高度化
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RAFの導入目的 =リスク選別眼を組織の意思決定フレームワーク
に定着させること
【戦略】
【目標】
海外業務の積極展開
収益目標の達成
(提携、自力展開、買収)
BSコントロール
リスクアペタイト
BSの将来予測
収益シミュレーション
規制達成状況
収益達成の主戦場となる各
市場動向の精査
各シナリオ下でのバランス
シートのシミュレーション
各シナリオ下での収益達成
シミュレーション(ストレステスト)
各シナリオ下での規制達成
状況のシミュレーション
1)業務環境とリスク
1)グループレベル集計
1)ベースライン
1)規制予測値のレンジ化
2)資産クォリティ
2)拠点別集計
2)市場悪化シナリオ
3)収益性
3)アセットクラス別集計
3)危機的シナリオ
2)リスクアペタイトとしての
経営承認
リスクアペタイトをリスクとリ
ターンの両面で精査する
リスクアペタイトによるバラ
ンスシート影響を予測する
バランスシート影響から収
益シナリオを再検証する
各シナリオ下における規制
達成状況を精査する
リスク選別眼を一連のフレームワークとして整合的に実現する
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現在のリスク・トレンドに即してストレステストの位置付けを再考する
◎ ビジネスの海外展開は不可避な流れ
◎ グローバル市場ではリスクが見えづらいものになっている
 現在のリスクは「実験場」のリスク
⇒ ストレステストによって初めて特定できるリスクがある
 市場悪化は突然発生し、急激に展開する
⇒ 危機時における耐久力のみならず、対処方法を考える
 可視化の努力を要するリスクが増えている
⇒ ストレステストを活用して、リスクの川上に遡る
リスクアペタイトとしてよりアグレッシブな目標設定をするために
は、ストレステストを活用した突っ込んだ証明が必要
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ストレステストを危機に備えるための思考訓練(あるいは防災訓練)
と位置付け、アクションプラン策定にまで拡張する
ストレステストを金融危機を対象とした「思考訓練」と捉え、危機発生後の
アクション・プラン策定にまで拡張する
 危機を引き起こすきっかけとなるトリガー事象への対処
 トリガー事象が金融市場で引き起こす「直接的な損害」への対処
 トリガー事象が他市場へ波及するリスクへの対処
 金融危機による市場混乱が継続するリスクへの対処
トリガー事象
金融市場での
直接的損害
波及効果によ
る損害拡大
市場混乱の
継続
「耐久力の証明」にとどまっていたストレステストを、「アクション・プラン策定」
にまで拡張し、リスク・アペタイトをダイナミックに証明する
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ストレステストと予兆管理の枠組みを再整理する
【管理フレームワーク】
トリガー
一次的リスク
トリガー事象
予兆管理としてのモニタリング
市場リスク指標(結実点①)への影響
ストレステストの対象
二次的リスク
事後対処
自社リスク指標(結実点②)への影響
アクション・プランと耐久力の証明
リスクアペタイト上の危機対応計画
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ストレステストと同様に予兆管理を独立した機能として確立させる
【予兆管理が必要とされる市場環境】
 可視化の努力を必要とするリスクがある
 リスクは突然発生し、急激に展開することがある
 コリレーションが高く、リスクが波及しやすくなっている
【予兆管理の位置付け】
 グローバル金融規制の観点では「エマージング・リスク管理」
 リスク管理共通の観点では「フォワード・ルッキングな管理」
⇒各分野に精神として溶け込ませるだけでなく、独立した機能として確立させる
予兆管理対象の
リスクの特定
予兆管理指標の
特定
リスクマップと一体
化したモニタリング
ストレスシナリオ
の策定
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集中リスクはより広義に捉えると共に、リミット設定で対処する
【集中リスク管理が重視される背景】
 グローバル展開の初期段階にはエクスポージャー集中が発生しやすい
 リスクは局所的に発生し、金融機関に部分的に大きな損失をもたらす
 リスクは突然発生し、急激に展開する
 コリレーションが高く、リスクが波及しやすくなっている
【集中リスクをより広義に捉える】
 債務者(大口与信)、業種、カントリーリスクなどの切り口
 アセットクラスによる切り口(売却のタイミングが集中するプロダクト)
 リスク・プロファイルによる切り口(波及効果勘案後に同一種類とみなしうるリスク)
債務者
大口与信管理
業種
カントリー
与信リミット設定
アセットクラス
リスク・プロ
ファイル
流動性
データ管理
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RAF運営に伴う各種の計算はIT支援による自動化が必須
業務面のコントロール
収益目標
リスクアペタイト運営
収益シミュレーション
バランスシート予測
• リスクに応じたリスクリミット設定によるビジ
ネス行動のコントロール(与信リスクの国・
業種リミット等)
諸規制の達成
プライシング設定
リスク視点を強
化するために、
EC(UL)の力
を借りる
• リスクに応じた所要スプレッドの設定(ファン
ド・トランスファー・プライシング)
IT面のコントロール
グループ管理
リミット設定
データ統合
規制計算エンジン
• 本店の全営業部門、支店、海外拠点、子
会社、関連会社を通じた統合的な管理
• 全グループを通じて整合的に構築された
統合データ基盤
• 複数のシナリオを速やかに計算できる高
度なシミュレーション機能
• リスクアペタイトの下に結集した全グルー
プの経営プロセス
• 取引データ、債務者属性データ、市場イン
プットデータ、リスク指標(KRI)、経営指標
(KPI)の統合管理
• 日次で集計されるデータに基づいて最新
の規制指標を算出
• 全グループ横断的なリスク把握と集計
• グループ統一のプラットフォームによるIT
ガバナンス
• 高度なデータモデルとエラー検証による
データ・クォリティ(モデル化に耐える水準)
• リスク指標や経営指標を速やかに経営陣
に報告する経営情報システム
• 複数の規制を統合DBに基づいて整合的
に算出できるERMインフラ
• 各国で細かい設定が異なる規制を同一プ
ラットフォームで管理する機能
リスクアペタイト運営の実効性を高めるためのITフレームワークを明確に設定し、長期計画を立案する
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ご清聴ありがとうございました