外国人女性の流入によるわが国のジェンダー関係の変容について The Change of Gender Relations Caused by the Inflow of Immigrant Women in Japan 国立社会保障・人口問題研究所 是川 夕 現代社会における国際移民の流入は,様々な面での社会変動を引き起こすと考えられる が,わが国でも,1990 年代以降,外国人人口の急増が見られ,その中で「移民の女性化」 現象が進んだ.その一方で,同現象が,わが国の階層変動に与える影響についての分析は ほとんど見られず,わずかに性風俗産業で働く外国人女性についてのルポルタージュや, 日本人男性を夫とするアジア人女性に関するエスノグラフィーが存在するに過ぎない.こ うした状況を受け,本稿では「移民の女性化」現象が,わが国の階層変動に与える影響を 明らかにするため,外国人女性の労働参加,職業的地位といった経済的同化に注目すると ともに,それらに対するジェンダー関係の影響を明らかにする. 分析にあたっては,平成 22 年国勢調査の外国人の全数,及び抽出詳細集計用に作成され た総人口の 10%サンプルである.この内,人口規模の大きな順に,中国人女性,フィリピ ン人女性,ブラジル人女性,タイ人女性を分析対象とした. その結果,わが国における「移民の女性化」現象は,中国人女性,フィリピン人女性, タイ人女性において顕著であり,その主たる要因は,日本人男性との国際結婚であること が示された.経済的同化について,労働参加率,失業率,就業者に占める非正規雇用,及 び上層ホワイトカラーの割合を見ると,わが国における外国人女性の経済的同化は,概し て阻害されていることが明らかになった.多変量解析の結果,外国人女性の労働参加の決 定にあたっては,無配偶/有配偶の違いだけではなく,有配偶者の間でも夫の国籍や労働 力状態によって,女性の労働参加率が大きく異なることが示され,その背景には外国人女 性の置かれたジェンダー関係の影響があることが示された.更に,外国人女性の経済的同 化の程度を主要カテゴリー別に予測すると,経済的同化は,日本人男性を夫とする場合や, 本人が高学歴であるほど,阻害されることが多く,反対に外国人男性を夫とする場合や, 学歴が低いほど,相対的に進みやすい傾向が示された. こうしたことは、外国人女性の経済的同化について分析する際、男性の場合とは異なり、 人的資本や定住化の影響だけでではなく、ジェンダー関係からの影響も視野に入れること の重要性を示すものといえよう。更に、今後、わが国が移民の受け入れを拡大した場合、 わが国のジェンダー関係自体が、変化する可能性をも示唆するものである。
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