東日本 SAD 計画支援とコミュニティアーキテクト育成支援 ―「東北の原風景持続再生」 「地域コミュニティ持続再生」にむけて― 宇杉和夫( 日本大学、西安交通大学客員教授 ) 1.地域継承空間システムと近代の空間システム (1)空間文脈と「近代の空間システム・日本の空間システム」 都市形成・計画史小委員会は 2003 年の都市形成計画史公開研 究会で「都市の原形」 「地域の原風景」の理解・共有化は計基本 的な画課題であることを確認・合意した。以後都市形成・計画 史公開研究会は制度史とは別に「空間システム」 「空間文脈」を 重視し、都市形成について計画領域の学際的取り組みを目指し た。 「近代の空間システム・日本の空間システム特別研究」は都 市形成における「空間システム文脈」 「計画文脈」において計画 系で共有できるものをつくる目的で始まった。 (2)都市形成から地域文脈形成へ 「近代の空間システム・日本の空間システム」の関係を「空 間文脈」 「計画文脈」から、特に 1960 年代以降を重視して省察・ 批評し、今後持続的な環境形成には「地域継承空間システム」 図1 空間システム研究から SAD・CA 研究へ ( 「地域の原風景」 「地域空間の原形」 ) を尊重した持続的な地域 主体のデザイン体制が必要と位置付けられた。新規供給を重視 した「近代空間計画理論」とその成果である現在の都市空間は 「地域継承空間システム」を活用する文脈の中に再編成される 経過の中に現在が位置づけられる。 (3)地域主権・地域文脈形成の担い手 建築学会においても地域空間の研究調査は 1970 年代以降拡 図2 モダンアーキテクトからコミュニティアーキテクトへ 大し、社会と市民も地域固有の空間遺産尊重、資産活用の時代 に入っているが、1つに行政・社会制度は戦後の量産消費経済 活性のままで、建築学の体系も地球環境に対する修正はあって も地域主体に対する構造的変革が進んでこなかったが、地域で は現在、NPO の成果も含めた新たな試みも始まっている。 2.サスティナブルエリアデザイン SAD と CA (1)サスティナブルエリアデザイン SAD 東日本大震災復旧復興では「地域コミュニティ持続再生」が 大きな共通の課題になっている。被災者の早急な復旧支援が急 がれる一方では 20 世紀の中の共通する課題であった認識も重 図3 SAD 育成・CA 育成の SAD/CA 機構 要である。また放射能汚染被災は地震被災・津波被災と分けて SAD を考えることになる。地震被災・津波被災はこれまでの体 験から持続的な方向を組み立てることになるが、放射能被災に よって大地が環境浄化と子供を育んできた歴史を次世代以降に 継承できなくなる状況における SAD は別に考える。 (2)東日本大震災復旧復興に対する SAD/CA 構想の表明 3 月 14 日帰国した状況認識を「SAD と CA 特別研究委員会」 53 表1 東日本大震災復旧復興の課題表明(3月20日) HP に「表2」のようにまとめて報告した。続いて「東北の原 風景持続再生」 「地域コミュニティ持続再生」 についての取り組 みの立場、及び「地域主権」には平時からの「地域支援」の連 帯関係が築かれていることが重要であること等を公表し、後に 雑誌『地理』等に掲載してきている。参考文献参照。 (3)復興計画と SAD 計画支援 図4 SAD・CA 計画支援の枠組み 現在の復旧復興計画は①避難救助、 ②生活維持、 ③仮設居住、 ④復興計画を地域主体で応急的に取り組んでいるが、①地域の 原風景再生等の総合的持続的課題、②その担い手育成、も含め た「SAD と CA」都市計画を中心としたより包括的な計画枠組 が並行して重要である。また当該市町村の応急的な計画をサポ ートする県レベル等の総合的な取り組みが重要であるが、これ が極めて弱い状況である。 図5 東日本 SAD・CA 計画支援の枠組み (4) 「地域主権」 「地域支援」と東日本 SAD・CA 計画支援 当該市町村の計画(地域主体)と国の計画(国支援)の構造 では「地域主権」の体制とはならない。 「地域支援」の構造化が 不可欠である。①隣接地域支援、②広域地域支援、③広圏域地 域支援、④他地域支援、他広圏域地域支援。SAD と CA 特別研 究継続グループ( 「地域主体の空間計画(SAD と CA)研究会」 では継続して、SAD・CA 支援体制の構築には「SAD・CA 推進 機構」の設置が必要としている。 (5)地域コミュニティ持続再生計画の支援枠組み 「地域コミュニティ持続再生」 は本被災復旧復興にあたって、 共有する認識、課題になっている。しかし現実にその方法論が 形成されているかといえば、極めて貧弱な状況である。先ず① 図6 地域景観の構造(宮古市の神社景観) 避難から仮設居住そして居住地形成までの統合的な方法論・資 料整理ができていない。図7、は、避難所の居住地別避難者を 整理した図であるが、居住地形成までの計画的フローが必要で ある。また「帰る」 「帰らない」の単純な区分ではなく、コミュ ニティや地域をどのレベルに設定するかの計画的指針、コミュ ニティの指針が重要である。 (6)地域の原風景持続再生計画支援の枠組み 東北の持続的な地域空間形成・環境形成をどのように計画す るかについての議論がこれまで不十分であった。地域固有の空 間資産を活用・再生する地域まちづくりが現在合意されている。 これをより広域の観光需要育成に向けて、また漁業を基本とす る地域生業(コミュニティビジネス)の発展に向けての展望が 必要である。日本国土にとってはもちろん、アジア地域・世界 にとっての固有の意味再生のデザインが目指されるべきである。 (7)計画概念・再構築と地域主権のデザイン担い手 現状の計画者不足は建築学(教育)の経過と国家補助金体制 の結果である。地域主権の枠組み構築は地域における担い手の 概念構築及びその教育育成の枠組みの構築から始める必要があ る。東日本 SAD・CA 支援は関東 SAD・CA 活動の中で統合的 に進められる枠組・体制の早急な構築が必要である。 ( (前)SAD と CA 特別研究委員会委員長) 54 図7 避難所の居住地別避難者(宮古市の例)
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