OK122 0315 Kotonarumono-2 - E

公文式オーバーカッセル教室
教室便り第122号2015年3/4/5月
指導者 教育学博士 Fuchs(フックス) Tel 0211/573573 (教室)
Tel 02163/450393 (フックス自宅)
自在になるなんて、信じられない思いだった。夢中
異なるものをめぐる風景
2015年は、私にとって、ちょっぴり記念すべき年
だ。教師生活40年。いや、その前年に北海道根室市
で教育実習をしたときの教え子ともいまだコンタク
トがあるし、それ以前、学生のバイトとして家庭教
師もしていたから、正確には「先生歴」はもう少し
長い。思えば、なんという長きにわたって、私はこ
の仕事を続けてきたことだろう。その原動力は、い
つでも目を見張るこどもたちの成長ぶりである。
いったいどこからその力がわき起こってくるのか、
その秘密が知りたくて続けていたら、いつのまにか
40年たってしまった。そして、この長い間には、ま
た新たな楽しみが加わった。持つべきものは教え子
かな。そう、生徒たちの成長の行方がさらに発展し
て、それぞれに社会で活躍しており、彼らの個性的
な生き方に、私もこのご縁を生かしてあずかること
が出来るからだ。
その中の一人、デュッセルドルフ補習校講師時代
の生徒、Takao
Babaの舞台を先日見に行った。彼
は只今、このTanzhaus nrwを中心に活躍中のダン
サー・振付師である。その夜のパフォーマンスのタ
イトルは、『Ronin-made in Germany』。日本の
武家時代の「浪人」、つまり、主を持たず、故郷も
持たない人間の生き方と、たとえばドイツのような
移民社会の現実との間に何か近似するものがあるの
かという問いが立てられる。それに加えて、アイデ
ンティティの模索や自分の帰属意識と人々との連
帯、一方、そのような人間に対抗する極右保守主義
とどのように向き合うか。これは今日、先進国が共
通して直面している問題でもあり、日本もその例外
ではない。
テーマは重いが、ダンサー一人ひとりの動きは軽
い。息もつかせぬパフォーマンスの連続で、それが
ゴムのように波打って連動する。スポーツや運動が
苦手な私には、そもそも人間の身体があんなに自由
で見ていたら、気がつくと、最後のシーン。Baba君
がパフォーマンスの間ずっと背中に持っていた浪人
の刀とおぼしきものが、実は傘で、それを彼がさっ
と開き、ダンサーたち全員がその傘の下に寄り添う
ように入ってきた。そして、一人ずつまた、そこか
ら出て行って終わるという、共同と独立と開かれた
場という、まさに今の時代を暗示する演出で、私は
深く感動した。ああ、本当に世界が早くそうなって
ほしい。
心地よい興奮にひたりながら、帰宅して、私は
ネットを開けた。実はその数日来、イスラム国に拘
束された日本人の運命が心にかかり、数時間おき
に、彼の運命をネットで追跡していたのだ。だが、
それは本当に残酷な結末だった。たった今見てき
た、平和共存と相互理解の舞台の余韻が消し飛ん
だ。ネットに繰り広げられていた、それとはあまり
に対照的な展開、背後に隠された圧倒的な政治権
力、その闇に押しつぶされた人間の運命を思って、
私は普通以上に打ちひしがれた。これが私たちの生
きている世界の現実なのだ。
そのショックからまだ立ち直れずにいた2月末、
私が今1ヶ月に一度主催しているくもんカルチャー
カフェで、日本からの講師、辛淑玉(しん・すご)
さんをお迎えし、『差別と日本人』というテーマで
お話を聞く機会があった。辛さんの、いわゆるヘイ
トスピーチに関するプレゼンはすさまじいものだっ
た。どれほど日本でここ数年、在日の人々をはじ
め、障碍者、部落出身者、生活保護受給者、被災
者、原発被害者などに対する攻撃が強められてきた
か、私をはじめ、参加者のかなり多くはドイツ在住
歴も長く、ほとんど知らないことばかりだった。ま
さか、ハーケンクロイツがヘイトデモの現場で、好
んで振られていようとは、思いもよらなかった。そ
して、そのヘイトスピーチの担い手が、ネットを通
してつながっていく「草の根」の右翼であることが
怖ろしい。普通の人が、社会的弱者を差別し、排除
しようとする。新自由主義で経済格差が広がりつつ
アイデンティティを持った若者たちが今、ドイツの
ある今日、自分たちの社会的ステイタスが脅かされ
社会に急増していること。移民として育つ者の帰属
ていると感じる人々が、こういう自分より弱い者へ
意識のなさ、それはある意味、アイデンティティの
の攻撃によって、一種の浄化作用を得る。彼らの
不安にもつながるが、逆に強さにも働く。また私事
ターゲットは、たいていの場合「異なるもの」だ。
で恐縮だが、我が家の愚息どもは、いわゆるハー
そこにつく理由は、早く言えばなんでもよい。
フ。どの社会にあっても「異なるもの」としてし
しかし、この現象が、このドイツでも今同じよう
か、生きる道はない。愚息二人は、ドイツのギムナ
に広がりつつある。ドレスデンのPEGIDAに端を発
ジウムを卒業して、日本の大学に進学したのだが、
し、デュッセルドルフでもDÜGIDAのデモが毎週行
二人とも日本では「日本人のふり」をしていると
なわれるようになった。反イスラムを標榜し、移民
言っていた。だが、この距離感はいい。どんな現場
が社会の脅威だという彼らの主張は、在日を敵視す
でも、主観的でなく、分析的・批判的に視る目が、
る日本のヘイトスピーチとあまり変わらない。この
ネットで即座に世界とつながる時代、どれほど求め
運動の担い手も、日本の場合と重なる社会的階層だ
られることか。
ろう。グローバルな情報社会に広がる新自由主義の
日本では、国際結婚も増加し、また外国在住経験
荒波が、各国でこのような動きを派生させているよ
を持つ若者たちもその数を増している。彼らがドイ
うに見える。先日、ちょうどこの反DÜGIDAデモが
ツのように、開かれた社会に向けて力を発揮するの
行なわれていたので、滞独中の辛さんと一緒に見に
に、おそらく時間はかかるだろうが、同化を強要す
行った。デュッセルドルフでは、このカウンターデ
る日本社会も、数の力で少しずつは変化していくと
モ参加者のほうがはるかに多い。皆、外国人排斥に
思われる。ヘイトスピーチや人種主義を生み出すの
対して、思い思いのウィットの効いたプラカードを
が、ボーダーレスの新自由主義であるなら、同じ
掲げていた。教会関係、労働組合、各地のNPOな
ボーダーレスでも、世界的に見れば私たちは常に
ど、たくさんの団体、また、たくさんの外国人もデ
「異邦人」なのだから、この視点から日常の現場に
モに参加している。振り返ればしかし、この風景
戻って、そこでの他者への開かれた連帯を模索する
は、私にとってはデジャヴューだった。90年代後
のが、今日の希望と言えるだろう。
半、外国人排斥が吹き荒れた頃、ドイツ社会では、
官民あげてその対抗運動が展開された。それが功を
★ 春休み
奏していったんは収まったのだが、昨今のイスラム
オーバーカッセル教室では、3月27日(金)~4月12
日(日)を春休みとします。特にお申し出のない限
り、休み前最終学習日に通常の枚数で日数分をお渡
しします。
★ 最終教材修了おめでとう!!
なんと今回は修了生3人です。修了順にご紹介しま
す。山口知朗君(中1 英語)、2013年10月にD教
材から開始、わずか1年2ヶ月でO教材修了。これは
新記録です!最後まで毎日10枚の信じられないハイ
ペースを守って学習を続けていた@@/山口君。学校
が試験期間でも、宿題を残すことなく、普通に淡々
と学習。おみごと!
増渕菜々子さん(中3 英語)。2015年1月に最終
教材修了。この教科が大好きという菜々子さん、学
習にもその様子が表れていました。英語での弁論大
会にも出場してみごと特別賞を受賞!日本人学校か
らISDに進学、大好きな英語を生かせる毎日が本当
に楽しそうです。
森谷耶子さん(8年生 EFL)、この3月にO教材修
了。G教材から開始という、かなり高いスタートで
勢力の台頭から、またしても「異なるもの」を排斥
する動きが息を吹き返してきたのだろう。だが、こ
のドイツで外国人として生きる私は、今回も、おそ
らく最終的には、この動きが一掃されるのだと信じ
たい。
私の確信には、二つの理由がある。一つには、ド
イツ社会を貫くキリスト教の力である。先ごろ、頼
まれてドイツのキリスト教教育について小文を書い
た。この地で幼稚園から高校卒業にいたるまで、ド
イツの学校を通して我が家の子育てに携わってきた
私は、その期間、たくさんのポジティヴなキリスト
教の影響があったことをあらためて認識した。逆説
的に響くが、ドイツの多文化インクルージョンを保
障 す る の は 、 教 育 に よ って 介 さ れ る キ リス ト 教
ヒューマニズムである。
第二には、冒頭に掲げたBaba君のような新しい
2
したが、途中は学習枚数が落ちてずい分苦しみまし
た。でも、英語はギムナジウムでも得意科目になっ
たそうです。彼女の音読には、いつもほれぼれ、す
ばらしかったですねえ!
★ 欠席連絡をお願いします
事故防止のためにも、欠席する場合は、原則、教室
への電話連絡をお願いいたします。
★ Elite Instructors
ヨーロッパ・アフリカ公文では、毎年、各国の指導
者のうち、その指導実績によって、特に優秀と認め
られる指導者を招待し、Elite Instructorsという国
際会議を開催しています。今年もフックスはドイツ
でただ一人(^_^)/Gold Insttuctorとして表彰され
ました。皆様方にはご迷惑をかけて大変恐縮です
が、4月27日(月)はそのため教室はお休みとさせ
ていただきます。どうぞご了承下さいませ。 3