生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)

Eco-DRRもリスク削減策のひとつであり、防災の視点を踏まえた包括的・総合的・継続的な実施・展開
が必要です。
防災では、災害が発生すると、応急対応を行い、その後の復旧・復興、そして災害から学び被害を
抑止・軽減する予防対策を行い、次の災害に備える事前準備、の4つの段階を災害マネージメント・
サイクルと呼んでおります。このサイクルを切れ目なく、またBuild Back Betterの視点を入れて
進めていくことが重要です。Eco-DRRにおいても、緊急援助の段階から並行してニーズ調査を実施
し、被災した森林等生態系の復旧、森林等生態系に生計を依存している住民の生活の復興、将来の
災害を予防するための森林等生態系の防災・減災機能の強化へと切れ目ない事業展開をしていき
ます。この他、防災の主流化を意識した、Eco-DRRと他の防災事業、そしてセクターを越えての取り
組みを促進するとともに、森林等生態系等の保全に加え防災施設等の造成・設置等の構造物対策と
コミュニティの強靭化による避難体制の確立等のソフト対策の取り組みと、時間軸だけでなくアプ
ローチの面でも切れ目のない協力を進めます。
このように、JICAでは、途上国の安定的発展をEco-DRR等防災の分野から支えることとしてお
り、防災分野に着目した開発戦略目標を掲げています。
※詳しくは、
「 防災ポジションペーパー」をご覧ください
(下記サイトから、
「 防災の主流化に向けて」をクリックしてダウンロードできます。)
http://gwweb.jica.go.jp/km/FSubject0301.nsf/VIEWALL/3958A0A725ABA98549257
A7900124F29?OpenDocument
生態系を活用した
防災・減災(Eco-DRR)
(以下の方法でもダウンロードできます。)
JICAナレッジサイトトップ http://gwweb.jica.go.jp/ から
「分野課題情報」▶「水資源・防災」▶JICAの基本方針「ポジションペーパー 」▶
「防災の主流化に向けて(和文)」の順にクリックします。
連絡先
(独)国際協力機構(JICA) 地球環境部 森林・自然環境グループ
電話: 03-5226-6660∼3(代表)
URL: http://www.jica.go.jp/index.html
途上国における
JICAのEco-DRR協力
JICA 自然環境保全分野事業戦略2014-2020における
JICA自然環境保全分野における防災の取り組み
Eco-DRR
●JICAの全体目標
JICAでは、従来世界各地の途上国で、生態系を活用した防災・減災(Eco- DRR)
を支援してきまし
自然環境の維持と人間活動の調和
た。例えば、チリにおいては、1993年から技術協力プロジェクト
(技プロ)
「 半乾燥地治山緑化計画」
を実施し、山地災害対策である治山技術を移転するとともに、その後現在まで同国を拠点として第三
国研修を実施し、同国に移転した技術を、さらに中南米地域内各国へと普及してきました。
●JICAの4戦略課題
こうした、自然災害に対して森林等生態系を活用して防災対策を行うといったEco-DRRは、近年日
本が積極的に発信し、世界的に注目が集まっています。例えば、2012年にJICAが共催して仙台で開
催された林野庁国際セミナー「自然災害における森林の役割と森林・林業の復興」では、森林の有す
る減災機能、木材供給による震災復興に果たす役割などが議論され、森林・林業が自然災害において
持続的森林管理
を通じた
気候変動対策
(REDD+)
森林等生態系を
活用した
防災・減災
(Eco-DRR)
果たす役割の重要性について認識が共有されました。この結果は2013年に開催された国連食糧農
持続的な
自然資源利用
による脆弱な
コミュニティの
生計向上
保護区及び
バッファーゾーン
管理を通じた
生物多様性保全
砂漠化対処条約
生物多様性条約
業機関(FAO)
アジア太平洋林業委員会に報告され、さらに、2014年のFAO林業委員会で、自然災
害を緩和する森林に関する情報を発信していくことが決まりました。また、2013年に同じく仙台で開
●国際社会の3動向
催された「第1回アジア国立公園会議」で採択された「アジア保護地域憲章」
においても、保護地域が
気候変動枠組条約
減 災・防 災 、復 興に果たす重 要 な 役 割に関する理 解を広めることがコミットされています。さらに
2014年に開催された生物多様性条約締約国会議(CBD-COP12)
においても、日本の提案により、
緩和
+ラムサール条約等
適応
「生物多様性の保全及び持続可能な利用と生態系の再生が生態系の機能やレジリエンスを向上させ
ることにより、沿岸や流域を保護し、災害に対する脆弱性を緩和することに留意」するとした
「カンウォ
ン宣言」が採択されました。また、第6回世界国立公園会議においても、国立公園をはじめとする保護
地域が防災・減災に果たす役割が議論されました。
このEco-DRRは、2005年に兵庫県で開催された
「第2回国連防災世界会議」で合意された防災に
関する国際的指針である
「兵庫行動枠組」
( HFA)の5つの優先行動のひとつである
「潜在的なリスク
要因を軽減する」
に対して、環境資源の管理を通じて取り組むものであり、今回の第3回国連防災世
JICAにおけるEco-DRRの取り組みの例
界会議で策定される予定の次の防災指針(Post-HFA)
においても重要な取り組みになると考えられ
ます。
★
このように、Eco-DRRへの関心が世界的に高まっていることを踏まえ、JICA地球環境部では、自然
環境保全分野事業戦略(案)の戦略課題のひとつに
「森林等生態系を活用した防災・減災」
を掲げ、取
ミャンマー
マングローブ植林による沿岸の防災機能強化
り組みを一層強化していきます。
2008年5月に上陸したサイクロンにより、同国のマングローブ林は、高潮による被害の軽減に役立った
ものの大きなダメージを受けました。このため、前年より実施中の技プロ「エーヤーワディ・デルタ住民参加
型マングローブ総合管理計画プロジェクト」の内容を修正し、衛星画像を用いたハザードマップの作成、復
旧資材の配布等、
「 抑止・減災」
と
「災害応急対応」を実施しました。さらに、マングローブ林の防災機能の強
化の観点から、無償資金協力によるマングローブ植林(1,154ha)や、森林監視タワー兼避難施設の建設
等、
「 復旧・復興」へ至る
「シームレスな協力」を実施しています。
1
2
パラオ国際サンゴ礁センター
技プロによるマングローブの植林
両国による科学研究の協働推進
森林監視タワー兼避難施設
健全な生態系が自然災害リスクを軽減する
東日本大震災の減災にも役立った海岸防災林
サンゴ礁の健全性が損なわれることは島嶼国で大きな問題となっており、この結果、砂浜が侵食され水
没の危機に瀕している地域もあります。
「 統合的沿岸生態系保全・適応管理プロジェクト」
(フィリピン)で
2001年の日本学術会議の答申(「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価
について」)
によれば、森林には防風、防潮等の機能があり、条件がよければ海岸での飛砂の防止も可能で
は、モニタリングシステムと意思決定システムを開発し、沿岸生態系を保全するための適応管理をするこ
とにより、こうした自然災害リスクを軽減することを目指しています。
す。海岸防災林はこうした機能を発揮する森林で、東日本大震災でも津波の被害を軽減しています。
例えば、八戸市では、津波によって海岸林が最大170mなぎ倒されましたが、漂流物は倒された森林
★
内に捕捉されました。さらに、津波の波力も減殺され、海岸林より陸側の住宅等への被害が軽減されて
います。
また、海岸林の存在が一種の土地利用制限となり、住宅等が海岸から遠ざけられていたために、家屋の
マケドニア
森林火災危機管理能力の向上
流出等の被害が軽減された箇所もあります。
もちろん、海岸防災林は津波を完全に止めることはできませんが、海岸林を計画的に配置して健全な
マケドニア旧ユーゴスラビア共和国では、2007年に大規模な森林火災が発生し、14日間にわたり国家
森林を維持することで、減災効果が期待できます。
このため、現在、日本でも、東日本大震災で被災した海岸防災林の復旧が進められていますが、途上国
緊急事態宣言が発せられました。そこで、マケドニア政府は、森林火災の予防・早期警戒のために危機管理
でもあらかじめ海岸防災林を整備するとともに、万一の災害の場合には、復旧・復興計画にEco-DRRの視
センターの能力向上を計画しました。JICAでは2011年から3年間の技プロにより、森林火災のリスクアセ
点を取り入れ、海岸防災林の復旧も含めることが必要です。
スメントの仕組みを構築し、その予防・早期警戒のためのシステムの構築を支援しました。このシステムに
は、単に森林火災の予防・早期警戒だけでなく、持続可能な森林経営を推進するための森林資源情報も含
まれ、森林火災の発生リスクの低い健全な森林生態系を保つことにも寄与するものとなっています。また、
同システムは、同じように森林火災の被害に直面している周辺国にも注目され、2015年から第三国研修に
より技術の地域展開を図っていく計画です。
★
パラオ
サンゴ礁島嶼系における気候変動による危機とその対策
サンゴ礁は暴風雨や侵食から海岸を保全する等の防災機能を有していますが、パラオでは人為的な影響
の増加などに加え、気候変動による海水温上昇・海洋酸性化などの影響によってサンゴ礁生態系の健全性
が損なわれています。そこで、無償資金協力によるパラオ国際サンゴ礁センターの建設や、技プロによる専
門人材の育成により、サンゴ礁島嶼生態系の維持管理のための支援をしてきました。2013年より、総合対
策・政策オプションを提言することを目的として、気候変動や観光開発等によるサンゴ礁生態系への影響を
解明する新たな地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)を開始し、
「 自然災害リスクの的確な把握
と共通理解の促進」を支援しています。
山火事による森林の消失
3
予防・早期警戒のための気象観測施設
4
チリ
パナマ
ホンジュラス
パラグアイ
★
★
日本方式の普及と日本製品の海外展開
流域管理による水害対策
★
★
崩壊地の復旧のために土木工事と緑化工事を組み合わせる、日本の治山技術は、100年を越える治山
中南米の各国では、ダムや運河の水源林の消失や劣化による水源涵養機能の低下が問題になっていま
す。このため、JICAでは各国で流域管理プロジェクトを実施し、さらに技術移転の成果を第三国研修により
周辺国へ移転し、地域全体の防災能力の向上を図っています。こうした流域管理プロジェクトにおいては、
水源地域の住民の森林管理活動への参加が不可欠です。プロジェクトの活動により、単に水源林の機能が
強化されるだけでなく、地域社会の強靭性も高まり、コミュニティの防災・減災にも役立っています。
の歴史の中で発展してきたもので、
「 日本方式」の代表例ともいえるものです。つまり、日本の治山技術の
活用は、日本方式の普及という点でも高く評価されるものです。
また、日本では、治山事業の施工のためにさまざまな製品が開発されており、こうした日本製品を使用
した工法で施工することは、日本製品の海外展開の面でも重要な役割を果たしています。
この他、インドネシアで実施されたSATREPS「 泥炭・森林における火災と炭素管理プロジェクト」では、
衛星や無人航空機を活用したリモートセンシング技術が開発されており、こうした分野での日本方式も世
界の注目を集めています。
参考1
Eco-DRRとは
「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について」によれば、森林
は、土砂災害防止、土壌保全や水源涵養等の多面的機能を発揮しており、これによって、侵食や崩
壊、土砂災害、雪崩、風害、雪害等が防止され、洪水も緩和されます。この他、サンゴ礁は海岸線を守
荒廃水源林での治山事業の実施(チリ)
植栽後7年で森林の機能が向上(チリ)
★
り、湿地は洪水を緩和するなど、生態系はさまざまな防災、減災機能を有しています。
また、こうした生態系に生計を依存している人々にとっては、万一の災害時に木材や薪、食物や薬
品の原料などの生活の維持や復興に必要な資材を生態系から得ることができることが、復旧・復興
中国
四川省震災後の森林植生の復旧
のために大きな意味をもっています。
さらに、特に里山、里海といった生態系を持続的に利用しているコミュニティには社会資本が蓄積
四川省において2008年に発生した四川大地震は、森林にも多大な被害を与えました。そこで、技プロによ
り治山技術を導入し、これまで以上に防災機能の高い森林への復旧を支援するとともに、被災森林植生の復
されており、これが災害時の緊急避難や復興に際して底力を発揮します。
こうした、森林等生態系を利用した防災・減災をEco-DRRと呼んでいます。
旧に果樹を導入し地域住民の生計向上を図ったり、復旧事業への参加によってコミュニティのレジリエンス
の強化につなげるなど、
「より災害に強い社会の構築」(Build Back Better)を支援しています。さらに、中
国政府はプロジェクトの成果に着目し、これまで中国、そしてアジアの森林面積の回復の原動力となった「退
参考2
防災の主流化と自然環境保全分野の取り組み
耕還林」
( 大面積の造林計画)政策同様、
「 林業治山」を森林法に規定して国家政策として積極的に「防災投
資」
をしようとしています。プロジェクトは中国政府の「防災体制の確立と強化」
にも貢献しています。
各国政府が防災を政策の優先課題に位置付けること、防災の視点をあらゆる開発セクターに取り
入 れること、防 災 へ の 事 前 投 資を拡 大して いくことで「より災 害に強 い 社 会 」の 構 築 ( B u i l d i n g
Disaster Resilient Society)につながるよう
「防災の主流化」を進めています。JICAにおいても
全ての事業に防災の視点を取り入れる
「防災の主流化」を推進しています。
森林等の生態系についても、単に森林資源の保全ととらえるのではなく、防災・減災の視点を踏ま
え災害に強い社会を構築するための「防災投資」
として整備に取り組むことが必要です。特に、災害
が発生した場合に、その復旧・復興に当たっては、災害「前」の森林等と同じ状態に戻すのではなく、
より強靭な状態への復興(Build Back Better)を考えることが必要です。
JICAは、
「 防災の主流化」
を
「開発のあらゆる分野のあらゆる段階において、さまざまな規模の災害
を想定したリスク削減策を包括的・総合的・継続的に実施・展開し、災害に対して強靭な社会を構築す
ることにより、災害から命を守り、持続可能な開発、貧困の削減を目指すもの」
と定義しています。
日本の治山技術により復旧が進む
復旧に日本製品(鋼製枠土留)も活用
5
6