<2014 職員研究活動援助事業⑥> 夜間の見守りに関して Kinect for Windows を用いた 呼吸数・心拍数の計測についての検証 津久井やまゆり園 生活 2 課 前田 珠美 草山 知徳 宮崎 剛志 総務課 佐藤 直樹 看護課 三浦 とみ子 1.概要 るが、機材は一般に高価なために数を揃えることが難し いであろうということと、生活の場である居室で、1 人ひと りの利用者様に有線で接続することは、医療的に必要な 方は別として、馴染まないのではないかということを考慮 した。 本研究は、生活支援を通して、QOL の向上に与する 福祉業界における、労働集約的なマンパワーに頼らざる を得ない、しかし、人的資源投入が困難な夜間において、 ICT(Information and Communication technolo gy)を活用し、利用者様の安全確保に大きく寄与するも のとなる先駆的な手法であると自負するものである。 3.サーモグラフィ 最初に考えたのは、サーモグラフィであった。サーモグ ラフィとは、人体から放射される赤外線を可視化した雅俗 や装置のことである。しかし、サーモグラフィカメラによる 試験は、気軽に試すというレベルでは、価格が高く(50 万円~200 万円)断念せざるを得なかった。 Kinect for Windowsセンサーを接続したパソコン (以下 PC)を使用すると、PCモニターを通して、利用者 が生存しているかどうかを可視化(見える化)することがで きる。このシステムを利用して、夜間の定時巡回における 生存確認の精度を高めることができるかどうかを検証し た。 結論として、課題はあるものの、利用価値はあると考え る。 Martiina Viil・CC BY‐SA3.0 http://etm.wikipedia.org/wiki/Soojuskiirgus# 実際の試験の様子 4.非接触式赤外線放射温度計 2.発想の始まり 人体の温度を触れずに図る他の方法を主にインターネ ットで調べた結果、行き着いたのが非接触式赤外線放射 温度計であった。 価格も約 2,000 円と手ごろであったため、購入し、自身 の皮膚や、身近にある物品で試してみると、簡単に温度 を測れることが分かった。 夜間帯において、利用者様の生存を確認するために は、就床している利用者様の居室まで行き、目視にて利 用者様の胸の上下の動きを確認するとともに、口元まで 支援者の耳を近づけて、呼吸音を確認する必要がある。 定時巡回は 1 時間おきに行うが、実際に利用者様の近 くに行くとなると、その都度、起こしてしまうことがあり、安 眠妨害となっている事もあるのではないか、また、利用者 様の加齢・重度化に伴う夜間の急変に対して、いち早く 気づける方法はないだろうか、離れたところからでも利用 者様の様子を確認できる手段はないだろうか、という思い が発想の始まりである。 また、医療用生体情報モニターを使用すれば確実であ 1 <2014 職員研究活動援助事業⑥> (画像引用)http://www.amazon.co.jp/サインソニ ック‐非接触式 赤外線放射温度計 レーザーポインタ ー付‐電池寿命表示‐電池付‐【‐32~+380℃計測可】/d p/B006CQT7YG FE) これは、Kinect for Windowsセンサーを接続したP Cに『顔・胸部追尾型バイタルモニタ(心拍・呼吸)』【Ver sion0.18】というソフトウェアをインストールすると、人体の 顔と胸部を認識し、呼吸と脈拍(心拍)を波形として確認 できるというものであった。そして、【Kinectコンテスト 2013】について調べると、“コンピュータビジョンのセカイ今そこにあるミライ(60)Kinectを用いたビジネスのアイ デアを競う「kinect for Windows Contest」”(http: //news.mynabi.jp/series/computer_vision/060/) や、Kinect for Windows Contest 2013 リポート (3)http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles /1310/02/news063.html)などの記事から、このシステ ムであれば、園内のネットワークとPCを活用しつつ、Kin ect for Windowsセンサーのみ導入すればよいため、 比較的安価に導入することができ、検証に値するのでは ないかと考えた。 kinect for Windowsセンサーとは、赤外線を用いた 距離センサー・RGBカメラ・マイクを組み合わせた、マイ クロソフト社が開発した、いわゆるモーションセンサーのこ とである。最初はマイクロソフト社が販売している“Xbox 360”というゲーム機のコントローラとして販売された。 医療用の非接触式体温計の製品も販売されており、価 格は約 20,000 円前後のものが多い。価格面から、購入 には至っていない。 (画像引用)http://www.amazon.co.jp/【サーモフ ォーカス-プロ】非接触式-皮膚赤外線-計測時間わずか 1 秒-THERMOFOCUS/dp/B00AEG6ZRW/ 5.体温とは何か 放射温度と体温の違いは何か。調べていくと体温を測 るといった場合、深部体温という体腔温(食道内、直腸内、 膀胱内、鼓膜温度)や肺動脈内血液温を計ることである と学んだ。 また、調べていく過程で、法医学を紹介するウェブサイ トにたどり着いた。その中で、死体温についてふれている 部分があり、『死体温は通常直腸内温度で表現する。室 温であれば 1 時間に 0.5~1℃前後低下する。(引用※ 1)』 引用※1 名古屋市立大学大学院医学研究科法医学分 野:法病理学講義ノート http://www.med.nagoya ‐cu.ac.jp/legal.dir/lectures/newest/lecturenot es.html 7.ソフトウェア開発者の紹介と動作原理について (1)開発者 開発者は、上田智章氏である。『顔・胸部追尾型バイタ ルモニタ(心拍・呼吸)』【Version0.18】というソフトウェア を作成した。 (2)ウェブサイト 私設研究所 Neo-Tech-Lab http://www.neo-tech-lab.co.uk (3)『顔・胸部追尾型バイタルモニタ(心拍・呼吸)』【versi on0.18】の動作原理について 6.Kinect(キネクト)センサーとの出会い 以下、Neo-Tech-labウェブサイトより引用 『【kinectで呼吸モニタ】kinectのデプスカメラを使え ば、1m位離れた位置で大体 2,3mmの精度で距離測定 を行うことができます。kinectはランダム・ドット・パターン を投影して距離を測定しているので、多数の画素を使え ば精度を向上させることが可能です。n=40×40=1600 画素の領域を使えば分解能は√n=40 倍に向上させる ことができるのです。呼吸に伴ってカメラ-胸部間の距離 がわずかに変化する様子を捕捉できれば、非接触で呼 吸をモニタできるはずと考えて実験してみました。なんと 布団をかぶっていても 1m離れて呼吸をモニターすること に成功しました。【ヘモグロビンの赤外線吸光特性】kine ctの赤外線ランダム・ドット・パターンは、波長 827nmで 照射されるらしい。kinectブログにもしエミッタの照射を 止めて外部LEDで証明を行うならその波長を使うように (画像引用)http://www.itmedia.co.jp/news/art icles/1201/10/news075.html 利用者様には触れずに生存核にする方法を模索する 中で、【kinectコンテスト 2013】非接触バイタルセンシン グ(呼吸・心拍)というYou Tubeの動画を見つけた(htt ps://www.youtube.com/watch?v=xQrN5d1rY 2 <2014 職員研究活動援助事業⑥> アクセスポイント:WHR-HP-G タブレット:iPadまたはNexus7(2013);VNC(Virtual Network Computing)アプリにより接続 書いてあったからだ。酸素と結合しないヘモグロビンHb は赤色光(波長 665nm)では吸光度が高いため、静脈血 は黒っぽくなるが、酸素と結合したヘモグロビンHbO2 が 多くふくまれる動脈血は赤色光(脈長 665nm)では吸光 度が低いので、結果として動脈血は赤色になる。しかし、 HbO2 でも波長 827nmでは吸光度が高いので心拍に伴 って血圧が変化すると、毛細血管の太さが変化するので、 赤外線吸光度も変化する。上述の理由で、波長 827nm の近赤外光を照射しながら反射した赤外線の強度変化 を捕捉すれば脈拍が計測できるわけだ。でもいろいろな 障害要因(乱反射、室内照明のノイズ等)の影響を避け なければならないのでソフトウェアは工夫が必要だった。 (引用※2)』 引用※2 http://www.neo-tech-lab.co.uk/ARse nsing/index.htm しかし、当法人のネットワーク及びサーバークライアント の保守会社に上記のネットワーク構成を打診したところ、 iPadによるVNCは有償であるため、推奨できないこと、 また、androidOSの導入実績はなく、セキュリティの観点 から好ましくないことなどを指摘された。そこで、再度検 討し、まずは園内の支援を使って構築し、課題が発生し たら改めて見直すこととした。タブレットは購入せずに、 古くなっていたアクセスポイントを新しいものに交換する ことで無線LAN環境を強化した。また、PC間の遠隔操 作はWindowsリモートデスクトップを使用することにし、 Kinect-PC⇔アクセスポイント⇔PCという構成に変更 した。 (構成) 本体:Kinect for WindowsセンサーV1 PC:HP ProBook4540s(OS Windows7Pro) アクセスポイント:WAPM-1166D PC:HOP ProBook4540s;Windowsリモートデスクトッ プにより接続 8.試験環境の構築 (1)被験者について 研究開始に当たり、まず被験者の選出を行った。原 則として、機材に手を触れない方であることと、加齢等に より、直ちに医療面での配慮は必要ないが、生活支援に 当たり、特に夜間は心配である方を看護課及び生活支 援員間で話し合った上で決めた。 被験者A様:男性、年齢:63 歳、既往歴:脳梗塞・転倒 による外傷性硬膜下血腫・イレウス・誤嚥性肺炎となって いる。転倒による外傷性硬膜下血腫になる前までは、自 立歩行は可能であったが、現在は車いすの使用となって いる。立ち上がりや歩行は、現在も可能であるが、職員 が必ず付き添うことになっている。食事中の様子は、特に 水分摂取の際に、むせこみが見られる。夜間の様子は、 仰向けに寝ており、殆ど寝返りを打たず、定時巡回の際 に訪室すると、動きが見られない。睡眠時無呼吸症候群 の可能性や、誤嚥性肺炎の既往があることから、唾液や 舌根沈下による窒息などの可能性があると思われる。な お、研究を行うに当たり、本人、家族に、研究の趣旨を説 明し、同意をいただいた。 9.検証 夜間のホーム風景 (2)Kinect for Windowsセンサーの選定 Kinect for Windowsセンサーの購入については、 2014 年 9 月にバージョン 2 の情報もあったが、システム 要件をクリアできないことから、バージョン1を、およそ 25,000 円で購入した。 被験者A様 (3)ネットワーク構成について ネットワーク構成については、園内の無線 LAN を使 用して、当初、Kinect-PC⇔中継器⇔アクセスポイント ⇔タブレットという構成で検討していた。 (構成) 本体:Kinect for WindowsセンサーV1 PC:HP ProBook4540s(OS Windows7Pro) 中継器:WAPS HP G54 3 <2014 職員研究活動援助事業⑥> とを優先とした。センサーによる呼吸や心拍といった生体 情報の取得は、病院に入院していると当然のように実施 されているが、観察の対象者を生活の場である施設内に おいて決めるといった場合は、まだコンセンサス(共通理 解)がないものであるため、他の利用者様・他セクション へ広げづらいものがあった。 (2)Kinect for windowsセンサーの性能 深度センサーの精度によると思われる人体の認識に 時間がかかる。座っている姿勢であれば人体の検知が ほぼ瞬時に行われるが、寝ている姿勢の場合でも検知さ れるようにする必要がある。事最の試験では、被験者に ベッド上で上体を起こしてもらい、Kinect for window sセンサーに認識させて方、センサーが追尾できるように ゆっくりと上体をたおして寝てもらうようにしている。また、 その過程でKinect for windowsセンサーの最適な設 置場所を決めるために時間がかかった。 Kinect for Windows センサーの設置 (3)ソフトウェアの課題 オーバーフローエラーが発生することがある。 2015 年 5 月 5 日午前 1 時 39 分 居室にて波形観察中 オーバーフローエラー (4)アラート昨日の必要性 呼吸や脈が止まった(波形の揺れ幅が極端に小さく なる)場合にアラート昨日があると良い。 2015 年 5 月 5 日午前 2 時 20 分 支援員室において Windowsリモートデスクトップを起動して波形観察中 (5)記録機能の必要性 仮に、死亡が確認されて、警察による現場検証が行 われた場合に、証拠資料として、提出出来るよう記録(ロ グ)機能があると良い。 11.結論 機材を設置し、被験者をKinectに認識させるまでの調 整に時間がかかったが、このシステムを使用した生存確 認の方法は有効であると思われる。身近にあるネットワー ク環境にKinect for windowsセンサーを導入するこ とで、利用者様の命の危険をより早く気づくことができると 考える。 2015 年 5 月 5 日午前 3 時 42 分 オーバーフローエラーにより試験終了 10.課題 おわりにあたって (1)人権への配慮 今回の研究に当たり、被験者の人権への配慮(プライ バシーの保護)から、本人と家族に説明し、同意を得るこ 本研究に際して、株式会社オフィスメガ(PhosMega Co.,Ltd)代表取締役 上田智章氏とそのウエブサイト 4 <2014 職員研究活動援助事業⑥> から様々な知見を学ばさせていただき深謝いたします。 また、実験の際に被験者を快く引き受けてくださったA様 とそのご家族様に感謝いたします。 5
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