第5号 2015 年 10 月 31 日発行 生きている礼拝 ルツ 原田 里香子 「前奏と同じテンポで弾きなさい、あなたの伴 奏は歌が入ったら遅くなる」教会で奏楽を始め て間もない頃、先輩オルガニストに注意された 言葉です。テンポが遅かった会衆の歌に合わせ、 前奏より少しゆっくり伴奏したからでした。 「若い人は、私達のテンポに合わせてゆっくり 歌いなさい」同じ頃、年配の信徒の方に言われ た言葉です。当時は返す言葉もなく、これらを 黙って聞くしかありませんでした。 先日、結婚式の招待状カードを受け取りまし た。これまでの経験で、招待状まで頂いて招か れたのは結婚式だけですが、教会ではよく「招 き」という言葉を使います。礼拝で祈り、感謝、 賛美を奉げることは「神さまからの招き」を具 現化したものの一つだと思います。 万障繰り合わせて結婚式に出席するように、 日常の様々な都合を整え、私たちはその日、最 優先で教会に向かいます。神さまに招かれて聖 堂に集められます。 招かれた結婚式で、私たちは新郎新婦の誓約 の言葉の証人となり、華やかな披露宴では、お 祝いの盛り上げに一役買うように、礼拝でもま た、一人ひとりに役目が与えられています。司 式者、サーバーや奏楽者を初めとする奉仕者だ けが役目を担っているわけではありません。会 衆はただそこにいるのではなく、共に礼拝を作 りあげる役目を担って集められています。祈り と歌の声の力、沈黙や静寂の密度は、その日そ の時、そこに招かれた一人ひとりの思いが結集 したもので、聖堂に満ちる雰囲気や緊張感を左 右し、どのようにも変えていきます。 20~30 代の頃、よくロックコンサートに行 きました。コンサート会場では演奏者と観客の 熱気が互いに影響し合って一体化してゆきま す。熱気が熱気を呼んで最高潮に盛り上がり、 会場全体が一つになっていく高揚感は「ライヴ」 1 といわれるイベントの醍醐味です。 ロックコンサートと礼拝を一緒にすること はできませんが、奏楽をしていると礼拝もまた 「ライヴ、生きている」と感じます。司式者と 会衆の祈りが呼応し、会衆の歌声と奏楽が次第 に一体となり、聖餐式ではイエスの血と体を頂 くクライマックスの後、「ハレルヤ、主と共に 行きましょう」「ハレルヤ、主の御名によって アーメン」と宣言するラストへと向かっていき ます。また礼拝では予期せぬ事が起こるのも珍 しくありません。念入りに準備してもハプニン グに慌てて失敗し、奏楽者として力のなさを思 い知る時もあります。 かつて指摘された聖歌伴奏のテンポを考え る事は、常に大切な課題の一つです。自分と会 衆の望むテンポの違い、年代によるテンポ感の 違い、息継ぎの間、歌詞・言葉の意味を音色や 弾き方によってどう表現するのか?礼拝の目 的は?集まる人数や年齢層は?これらの様々 な要因によって音楽は変わっていきます。礼拝 は常にイエスの招きに応えようと集う一人ひ とりの真摯な思いによって支えられ、生きてい ます。私たち奏楽者は瞬時に息遣いを感じ取り、 全体をよい方向へ、より生き生きとしたものへ と高められるよう努めていきたいと願います。 (礼拝音楽担当、パイプオルガン委員会委員長) 第5号 2015 年 10 月 31 日発行 宮崎光司祭に聞く! Pert2! て守ります。 」と応答する者の詩が編まれます。 改訂委員会では「あなたに呼ばれて/わたしは 歩みます/わたしをこの世に/遣わしてくださ い」としました。この聖歌を「入信の式・堅信」 の項目に置く、という編集意図からです。 現在の『聖歌集』は、発行されて来年で 10年 を迎えます。聖歌集改訂委員として聖歌の改訂作 業や作詞など、さまざまな作業に携われた立教大 学チャプレン・宮崎司祭にお話を伺いました。 Q、聖歌を選ぶ時、特に子どものための聖歌を 選ぶ時はどんなことに気をつければよいでし ょうか? カトリックの修道会で歌われた訳詞では、 「主よここにわたしが/あなたが呼ばれたから /あなたの民のために/すべてを捧げます」とし ています。修道生活に召し出された人々の心、 生涯を捧げる誓願を思わせる訳詞です。 このように、訳詞において日本語の取捨選択が 迫られ、時代によって、教派によっても強調点 等は変わりうるものです。 A、詩の必然性が重要です。礼拝の中で出会っ ていく聖歌は、皆で共有できるものを選びまし ょう。もし「今日はこの歌詞を歌いたいけれど、 曲が難しい」などの問題がある場合は、「曲の 着せ替え」という方法があります。例えば、 「聖 歌 113 番のメロディで 425 番の歌詞を歌う」 というやり方です。 113 番と 425 番は歌詞が違っていても、曲譜 韻律(音節数)が同じなので、メロディは違い ますが歌詞はあてはまります。こういうときに 役立つのが『聖歌集』巻末の「曲譜韻律索引」 です。ただ聖歌の詩と曲セットで有名なものは 注意が必要でしょう。 Q、「ヒム・エクスプロージョン」について教 えて下さい。 A、「ヒム・エクスプロージョン」とは、直訳 すれば「聖歌爆発」という意味ですが、20 世 紀の英語聖歌創作の活発な動きを、そのように 呼びます。その代表的な作者が、F.P.グリーン、 F.カーン、 B.レンという 3 人の牧師たちでした。 当時、自分たちのメッセージにふさわしい聖歌 がないと感じた彼らは、社会や世界の価値観を 見直すリベラルな聖歌を次々に生み出してい ました。あくまでも自分たちの司牧する教会の 礼拝のための創作であって、組織的な運動では なかったものの、同じ時期、英語圏の国々では 聖歌創作が盛んになりました。それらにいち早 く注目して「ヒム・エクスプロージョン」と称 して、作者たちを鼓舞したのが E.ラウトリーと いう牧師であり聖歌研究者でした。彼の作業は、 『聖歌集』では、127 番の作曲、473,474 番のアイルランド民謡 SLANE の編曲です。 子どもには、まず自分が気に入っている聖歌、 子どもと歌っていて幸せになれる聖歌を選び ましょう。スタッフが何を伝えたいか、メッセ ージは何かを考え、子どもだから幼稚なもので いい、というのではなく難しくない言葉で、良 いものを歌いたいです。 聖歌 282 番、355 番、538 番などは、小学 生・中学年以上なら歌えます。幼稚園や小学 生・低学年の子どもたちにはもう少しシンプル なものを選びたいですね。 Q、原詩が日本語ではない聖歌を日本語訳にす ると、歌詞の 6 割程度しか訳出できないそうで すが。 私たちの場合、『祈祷書』が口語になって口語 チャントの整備が必要となり、必然的に『古今 聖歌集』の改訂作業へとつながってきましたが、 発行までに 12 年かかりました。 A、原詩のエッセンスをつかみ、直訳ではない 違う日本語を探す作業は大変です。 聖歌 128 番”Here I am, Lord”(D.シュッテ 作詞・作曲)の場合、前半の天地万物を収める神 からの呼びかけの詩に対して、後半のおり返し の部分では、「ここに私がいます。それは私で すか、主よ。私はあなたの呼びかけを夜、聞き ました。私は行きます。あなたが導いてくださ るならば。私は、あなたの民を、私の心をこめ Q、最後に神戸教区の皆さんにメッセージをお 願いします。 A、とにかく楽しんで歌ってほしい。1 曲 1 曲 を大切にし、愛情をこめて歌い、聖歌に出会っ てほしい、と思います。 (質問者・原田里香子) 2 第5号 2015 年 10 月 31 日発行 宮崎 光(みやざき・ひかり) 1965 年東京生まれ。立教大学文学部キリスト 教学科卒業。聖公会神学院卒業。上智大学大学 院神学研究科博士前期課程修了。日本聖公会東 京教区司祭。現在立教大学チャプレン。聖公会 神学院非常勤講師(礼拝学・教会音学)。日本聖 公会聖歌集改訂委員(2000-06 年)、日本聖公会 礼拝委員、日本聖公会祈祷書改正研究委員。 著書 ・ 『聖公会の聖歌-いのちを奏でよ』(聖公会出版 2008 年) ・ 『 「改訂古今聖歌集試用版」ガイドブック・心は 賛美にみちて』(編集・共同執筆、聖公会出版 2002 年)、他 「パイプオルガンレッスンを受けて」 オルガニスト 宮崎 やよい 今から 10 年程前にアマチュア作曲家のオペ ラ公演を手伝った時のことです。「パイプオル ガンを勉強しています。」と自己紹介したとこ ろ、その作曲家の方が「パイプオルガンという 神聖な楽器を弾かれるのですね。」とおっしゃ いました。そうです。パイプオルガンは長いキ リスト教の歴史において礼拝の中で使われて きた神聖な楽器です。 私が勉強を始めた 1980 年代前半に、誰が神 戸聖ミカエル大聖堂にパイプオルガンが設置 されると想像できたでしょうか?そしてカヴ ァイエ・コルのオルガンを弾くことを許されて いる筋金入りのオルガニスト井原先生に実際 に丁寧にレッスンしていただけるようになる と想像できたでしょうか? 今パイプオルガン委員会主催のレッスンで聖 歌や典礼音楽の指導を受けていますが、神戸伝 道区内の教会オルガニスト、将来教会のオルガ ニストとして奉仕できるようになりたい方が 毎月熱心にレッスンに通って来られています。 神聖な楽器は練習してこないオルガニスト をはねつけます。弾き始めてこんなはずじゃな かった、と何度心のなかでつぶやいたでしょう。 でも会衆の皆さんと一つになって聖歌が歌わ れた時の喜びは、次の練習の糧となってまた前 進したい、とオルガンの前に座るのです。 19 才でオルガン奉仕を始めた時は、足踏みオ ルガンでした。ピアノに慣れていた者にとって、 自分の足をバタバタさせてペダルを踏み、空気 を送り出して音を出すのは大変でした。隔世の 感があります。その後、明石の教会では足鍵盤 付き 2 段手鍵盤の電子オルガンに変わり、昨年 30 年ぶりに新しいオルガンに買い換えられま した。私の教会生活のほとんどでオルガン奉仕 をしてきました。奏楽の奉仕は私にとって当た り前の事と思ってきましたが、今、定期的にレ ッスンを受ける機会を得、今後もできる限りレ ッスンで受けたことを生かして、礼拝音楽をよ り美しく奏で、集う会衆の方々と共に神の栄光 を伝えられるよう努力してゆきたいです。 最後に、どの教会にもオルガニストが新しく デビューすることがあると思いますが、信徒の 皆さまには、よちよち歩きの新米オルガニスト に暖かい声援をお願いします。 ~訂正とお詫び~ 前号の行事報告で「立教大学オルガンギルド」と記載 しましたが、正しくは「立教大学オーガニスト・ギル ド」です。 パイプオルガン委員会主催 レッスン報告 4 月(8 人)聖歌 170,180 番、 5 月(5 人)自由曲、6 月(6 人、聴講 1 人)自由曲、 7 月(5 人)自由曲、8 月(5 人)自由曲、 9 月(6 人、27 日:発表会 5 人)、 10 月(7 人)聖歌 69,74,91 番 ☆9 月、レッスン生の皆さんが礼拝の一部で奏 楽奉仕されました。これからも応援よろしくお 願いいたします。 (発表会にて) ~レッスン生の声~ 礼拝は、様々な奉仕によって支えられていま す。その方に相応しい賜物から成り立っている 働きですが、奏楽奉仕者の中には、長年その役 割を引き受けてこられた方々がおられます。 (明石聖マリア・マグダレン教会信徒) 3 第5号 2015 年 10 月 31 日発行 その他のレッスン 松蔭中高オルガンレッスン 6 月(6 人) 行事報告 唱詠夕の礼拝 7 月 25 日(土)、9 月 26 日(土) 聖歌隊指揮・指導:喜多ゆり氏 大聖堂聖歌隊、オルガン:原田 オルガン見学会 8 月 28 日(金) 生駒市中学校音楽教師 オルガン説明:大久保壮介氏 (マンダー社オルガンビルダー) オルガン:三浦優子氏 (六甲カトリック教会オルガニスト) 神戸ビエンナーレまちなかコンサート 10 月 12 日(祝月)雅楽演奏会 オルガン:井原由紀氏 オルガン奉献 2 周年記念コンサート 10 月 31 日(土)15:00~ オルガン:井原由紀氏 ソプラノ:喜多ゆり氏 神戸伝道区宣教委員会主催イベント 9 月 20 日(日)13:00~ 「あなたの知らない聖公会~英国聖公会の今~」 講話:ポール・トルハースト司祭 オルガン:伊藤純子氏 (オルガン奏楽で退場する雅楽会の皆さん) 11 月 18 日(日)神戸市混声合唱団 オルガン:安田哲也氏 【編集後記】 オルガンが設置されて丸 2 年、毎月レッスンを行っ てきたが、そのまとめとしてささやかな発表会を開催 した。皆、夏の間練習に励み、9 月末の本番に臨んだ。 2 年間欠かさずレッスンに来られた方、最近オル ガン練習を始めた方、神さまとの出会いが人それぞ れであるように、オルガンとの出会いもまた、人に よって様々である。人前で弾く緊張感の中、礼拝中 いかに神さまを実感しながら日頃の練習成果を出 せるか?奏楽者の果てしない道のりに愕然とする が、奏楽奉仕が許されている事に感謝し、今できる 事に力を尽くしたい。 (伊藤氏によるコンサート) お祈りとオルガン見学会 7 月 22 日(水) 徳島インマヌエル教会日曜学校 パイプオルガン会報紙事務局 (神戸教区事務所) 〒650-0011 神戸市中央区下山手通5 丁目 11 番 1 号 078-351-5469 fax(078)382-1095 Email:[email protected] 会報誌編集人 原田 里香子 (日曜学校の子どもたちとオルガン) 4
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