発表スライド(PDF) - 早稲田大学韓国学研究所 WIKS

2015/8/12
挨拶表現研究の必要性
2015.01.16 韓国学研究所第7回若手研究会

ポライトネス理論からみた
日韓挨拶表現の対照
現在は、定型的表現を中心に教えているが、実際は・・・。
状況・聞き手によって多様な挨拶が使われている。
―出会いの場面を中心にー
東京大学総合文化研究科博士課程
岡村 佳奈
ex. 親しい友人
→ 「영화 보러 왔어?(映画観に来たの?)」
親しくない友人 → 「안녕?(安寧?/こんにちは。)」
(박수란 2005 )




ただし、本発表においては挨拶行動は研究対象から除外し、言葉だけに注目する。
今後は、用語も「挨拶表現」で統一する。
挨拶表現の分類と機能に関する先行研究
定型性に関する研究
(김선정・김예지 2011、小林祐子 1981など)
定型性の可否で挨拶表現を分類、分析する研究が多い。
⇐挨拶表現は定型化している傾向にある (서정수 1998:14)。
*定型的/非定型的表現とは?
・ 定型的表現
言語形式が割合に固定化されているため使用頻度が比較的高く、
元来の意味が希薄になったり失われてしまっている表現のことで
あり、場合によっては言語形式が省略され得ることもある表現。
「こんにちは。」「久しぶり。」など
・ 非定型的表現
言語形式が固定化しておらず、個人の裁量によって様々な表現
が用いられるため、実質的な意味、命題が伝えられる表現である。
韓国語挨拶表現の研究
(박수란 2005, 차정민 2005)
日韓挨拶表現の対照研究
(박영순 2003、金香来 2000)
(1) 目上の人には日韓両国で丁寧な表現が用いられる。
(2) 韓国では親密度で異なる挨拶表現を用いるが、日本では親密
度を問わず定型性の高い挨拶表現を用いる。
(3) 日本語よりも韓国語の方が多様な表現が用いられる。
(拙稿 2014)

(羅聖淑 2010、中西太郎 2005)
親しい人には親密度・情を示せる表現や質問形の表現、親 しくな
い人には儀礼的、曖昧な表現を用いる。ただし目上の人には親し
くても儀礼的な表現が使用される。
*挨拶とは?
他人と出会ったり別れたりする時、円満な人間関係を形成・維
持強化するために交わす社交的もしくは儀礼的な行動様式
日本語挨拶表現の研究
「こんにちは」「こんばんは」を目上の人には用いないな ど上下距
離感、親密度によって異なる挨拶表現を用いる。
研究目的
言語的にも文化的にも似通っていると言われている日韓挨拶
表現、特に出会いの場面における表現を比較し、日本語・韓国
語教育のための基礎資料を提供すること。
学習者にとって挨拶表現の使い分けは難しいため、
研究結果が蓄積され、それが教育の場でも活用される必要
がある。
挨拶表現の使用様相に関する先行研究
研究目的及び挨拶の定義

「おはよう」「こんにちは」などの挨拶から言語学習は始まる。
・ 使用頻度が高い。
・ 話し手の印象や対話の雰囲気が決定づけられる。
・ 目標言語の文化的表象である(서정수 1998:13)。

ポライトネスに関する先行研究
(강성영 2011、拙稿 2014)
定型/非定型的表現は、前者はネガティブ・ポライトネス(NP)、後者
はポジティブ・ポライトネス(PP)に該当するとも指摘されてきた。
*NP/PPとは?
ブラウン&レヴィンソン(2011)のポライトネス理論における概念。人
間が持つ次のような基本的欲求をそれぞれ補償する行為を指す。
ネガティブ・フェイス=“他者に邪魔されたくない・踏み込まれたくない”欲求
ポジティブ・フェイス=“他者に受け入れられたい・よく思われたい”欲求 (滝浦真人 2008:17)
NP: ネガティブ・フェイスを補償。相手を遠ざけたり距離を置いたりし
たいと思っている時、また相手に配慮や敬意を示したいと思って
いる時、有 効に用いられる方法。
PP: ポジティブ・フェイスを補償。相手との距離を縮めたり親密さを表
したりしたい時、親しい人との言語行動で頻繁に現れる。
「最近どう?」「夏休みの宿題終わりました?」
1
2015/8/12
*なぜ定型的表現はNPか?
ブラウン&レヴィンソン(2011)によるNP/PPストラテジーで、 「慣
習に基づき間接的であれ」はNPだと述べられているため。
先行研究における問題点

日本語と韓国語に関しては、挨拶表現の研究がある程度蓄積さ
れてきたがまだ研究が不十分である。日韓挨拶表現の対照に関し
ては、日本語の方が韓国語より定型性が高いということへの注目
が顕著であるが、より具体的な比較が行われなければならない。

これまで定型的表現はNP、非定型的表現はPPの傾向が強いこ
とが議論されてきた。しかし・・・
*なぜ非定型的表現はPPか?
多くの非定型的表現がPPストラテジーと対応しているため。
ex. 「영화 보러 왔어?(映画観に来たの?)」→「聞き手(の興味、欲求、ニーズ、
持ち物)に気づき、注意を向けよ」
NP
慣習に基づき間接的であれ
両者の間に位置する表現もあるのではないか?
定型的表現であるのにPP、非定型的表現であるのにNPの
傾向が見られたりする表現もあるのではないか?
聞き手(の興味、欲求、ニーズ、持ち物)に気づき、注意を向けよ
仲間ウチであることを示す指標を用いよ
PP
ex: 「おっす。」「ちわー。」は言語形式から言えば定型的表現だが、「おはよ
共通基盤を想定・喚起・主張せよ
う」など他の定型的表現よりもPPの傾向が強い(中西太郎 2008)。
聞き手に贈り物をせよ(品物、共感、理解、協力)
調査の概要
本発表における研究課題

「定型的表現=NP、非定型的表現=PP」という枠組みでは処
理しきれない中間的なものを「準定型」と名づけ、以下のような
研究課題に取り組む。
口頭言語産出アンケート
親しい目上の人・親しい同年輩・親しい目下の人
親しくない目上の人・親しくない同年輩・親しくない目下の人
に次の状況でどう挨拶をするか、口頭で自由に答えるよう依頼。
(1) 日韓でよく用いられる挨拶表現を定型/準定型
/非定型的表現に分類する。
状況
提示した質問
状況1 日常的に出会った時
日常 状況2 偶然出会った時
(2) (1)の分類に基づいて親密度や上下関係による日
韓挨拶表現の使用様相を比較し、その特徴を明
らかにする。
韓国語母語話者
東京都内/ソウル市内にある有名デパートで次のような
日本人/韓国人に偶然会いました。何と挨拶しますか。
状況3 久しぶりに出会った時
夏休みの後、次のような日本人/韓国人と久しぶりに会
いました。何と挨拶しますか。
状況4 訪問する時
引越しパーティーに招待され、次のような人の家を訪問す
ることになりました。何と挨拶しますか?
状況5 お見舞いする時
盲腸の手術をした次のような人をお見舞いに病院に行き
ました。何と挨拶しますか?
特殊
被験者の情報

学校に着いたところ、先に来ていた次のような日本人/韓
国人と目が合いました。何と挨拶しますか。
日韓挨拶表現の類型
차정민(2005)による分類を参照し、使用頻度が低かったり類型
同士の境界が曖昧だったりするものは省略または統合。
2012年7月~9月
20~30代のソウル・京畿在住者25名
(平均年齢 29.6歳、男女比 13:12)

定型性
機能
類型
定型
NP
① 決まり文句投げかけ
② 出会いの頻度・事態言及
③ 謝意の表明
準定型
(NP)
(PP)
非定型
PP
日本語母語話者
2014年8月~12月
20~30代の東京・千葉・埼玉の首都圏在住者25名
(平均年齢 29.0歳、男女比 12:13)
④ 新語の決まり文句投げか
⑤ 労苦への察し
⑥ 踏み込みの弱い問いかけ・描写
⑦ 踏み込みの強い問いかけ
⑧ 話し手の感情表出
2
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決まり文句投げかけ


例:
「おはよう。」「こんばんは。」「안녕하세요?(安寧です
か?/こんにちは)」など。
特徴:使用頻度が高く、実質的な内容が省略、希薄化され
ているため原意が伝達されにくい。
出会いの頻度・事態言及

例:

特徴:「偶然に会いました。」や「오랫동안 못 봤습니다.(長
らくお会いできませんでした。)」のように最後まで言
い切らず一語的な言語形式が習慣的に用いられて
いる。
⇓
定型的表現・「慣習に基づき間接的であれ」からNP
日本語:「今晩は良い晩ですね。」の下線部など実質的な内容が省略されている。
韓国語:「安寧・無事ですか?」という意味で発話されているか?
⇓
定型的表現・「慣習に基づき間接的であれ」からNP
*차정민(2005:59)の聞き手への「情」が顕在化されていなく、出会った事実のみを
述
べている、つまりPPの要素がないという言及と一致。
謝意の表明


例:
新語の決まり文句投げかけ
「招待ありがとうね。」「おじゃまします。」「고마워.(あ
りがとう。)」など

特徴:言語形式が一定であり、また発話内容の原意を話し

例:
「やっほー。」「おっす。」「굿모닝.(Good morning.)」
特徴1:由来となる「決まり文句投げかけ」や英語の借用語
手があまり考慮せず、単なる挨拶表現としておそらく
使用しているだろうことから、実質的な意味が弱まっ
ている。

特徴2:仲間語して使え(比嘉正範 1985:20~21 )、「決まり文句
自体の原意が希薄である。定型的挨拶表現?
投げかけ」よりもぞんざいな表現(羅聖淑 2010:18)であ
る。「仲間ウチであることを示す指標を用いよ」とい
うPPストラテジーに該当し、PPか?
⇓
定型的表現でありながらPPの傾向も強い準定型的表現
「私のような者は邪魔になる。」と考えながら「お邪魔します。」と言っているか?
⇓
定型的表現・「慣習に基づき間接的であれ」からNP
労苦への察し

例:
踏み込みの弱い問いかけ・描写
「お疲れ様です。」 「고생 많았어.(苦労が多いね。)」や
相

例:

特徴1:疑問文が多く相手に合せて多様な表現が使われる。
手を見舞う時に用いる「この度は大変でしたね。」など

特徴1:「お疲れ」系の挨拶表現は原意が希薄化しており(倉持益子
2008, 羅聖淑 2010)、相手を見舞う挨拶表現でも「大変」や
特徴2:「お疲れ」系は、①相手の努力への評価、思いやりの意
味で使われる、②相手が疲れていることが分かる=互い
が仲間であるということを示唆させる(倉持益子 2008)。
「共通基盤を想定・喚起・主張せよ」などに相当し、PP?
⇓
定型的表現でありながらPPとしても機能する準定型的表現
「元気だった?」「どうしたの?」「일찍 오셨네요?
(早くいらっしゃいましたね。)」など
「聞き手(の興味、欲求、ニーズ、持ち物)に気づき、
注意を向けよ」に該当する。非定型的表現・PPか?
「ご愁傷様」という言葉の使用率が高い(鈴木孝夫 1981:55 )。
定型的表現?

「久しぶり。」「偶然ですね。」「오랜만이야.(久しぶ
り。)」など。

特徴2:疑問文でも質問ではないなど、問いかけよりは「描
写」という性格が強い。質問でも真偽疑問文で発話
されるため相手への踏み込み度合は低い。
「お買いものですか?」 vs 「何買いにきたんですか?」
⇓
非定型的表現・PPだが、NPの要素もある準定型的表現
3
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話し手の感情表出
踏み込みの強い問いかけ

例:

特徴1:その都度、異なる言語形式、特に疑問文によって発
「夏休み何してたの?」「누구랑 왔어?(誰と来た
の?)」「방구는 나오니?(おならは出ている?)」

例: 「すごいきれいな家だね。」「잘 꾸며놓고 사네요.(お

特徴:日本語では、挨拶表現としての出現率が低い(小林祐子
しゃれな所ですね。)」「반갑다.(会えて嬉しいよ。)」
1981)ため、それに比例して固定的でない表現が使わ
れ実質的な意味が伝達されやすい。NP/PPも「共
通基盤を想定・喚起・主張せよ」や「聞き手に贈り物を
せよ(品物、共感、理解、協力)」に該当するPPである。
韓国語でも既知の間で交わされる挨拶表現に関して
は、先行研究で述べられたことがないため、それだけ
定型性が低いのではないか。
⇓
非定型的表現・PP
話され、また「聞き手(の興味、欲求、ニーズ、持ち
物)に気づき、注意を向けよ」に該当するPPだ。

特徴2:疑問詞疑問文で発話されるため「踏み込みの弱い
問いかけ・描写」より相手からの自己開示をより多く
求め、真偽疑問文であっても相手の領域をより深く
侵害する。PPとしての機能が強化されている。
「元気?」 vs 「夏休み何してたの?」
「괜찮아?(大丈夫?)」 vs 「방구는 나오니?(おならは出ている?)」
⇓
非定型表現・PP
状況による日本語挨拶表現の使用様相
⇓
類型
定型
(NP)
状況1
状況2
状況3
状況4
状況5
決まり文句投げかけ
81%
50%
17%
15%
7%
出会いの頻度・事態言及
0%
24%
79%
0%
1%
謝意の表明
準定型 新語の決まり文句投げかけ
(NP) 苦労への察し
(PP)
踏み込みの弱い問いかけ・描写
非定型 踏み込みの強い問いかけ
(PP)
話し手の感情表出
0%
0%
0%
69%
0%
9%
7%
3%
0%
1%
7%
2%
0%
6%
17%
12%
33%
27%
1%
93%
5%
1%
19%
3%
7%
0%
0%
0%
15%
9%

日本語は定型性が高いと言っても「決まり文句投げかけ」だ
けが多用されず、各状況に合せた挨拶表現が選択される。
「この状況ではこの表現」のような状況と挨拶表現の結びつ
きが強い。

各状況ではNPである定型的表現が選択されるが、それでは
状況にふさわしい挨拶ができない場合は例外として準定型
的表現も用いられる。
状況による韓国語挨拶表現の使用様相
⇓
類型
定型
(NP)
状況1
状況2
状況3
状況4
状況5
決まり文句投げかけ
67%
49%
33%
25%
10%
出会いの頻度・事態言及
1%
14%
21%
0%
0%
謝意の表明
準定型 新語の決まり文句投げかけ
(NP) 苦労への察し
(PP)
踏み込みの弱い問いかけ・描写
非定型 踏み込みの強い問いかけ
(PP)
話し手の感情表出
0%
0%
0%
25%
0%
3%
1%
1%
0%
0%

0%
0%
0%
0%
3%
35%
42%
53%
0%
72%

9%
13%
23%
0%
20%

1%
5%
5%
43%
7%
韓国語における「決まり文句投げかけ」の使用可能範囲は、
日本語よりも広いと言うことができる。だが、それ以外の表現
も多用されるため、全体としては定型性が低いと思われる。
① 韓国はPP志向が強く、準定型/非定型表現が好まれる。
② 「잘 지냈어?(元気?)」が日本語の「元気?」よりも定型
化している?
4
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状況による日韓挨拶表現の対照



日本語は定型的表現、韓国語は定型的表現の使用率も高
いが準定型/非定型的表現を多く用いていることから、日本
語はNP、韓国語はPPへの志向が強いと言えそうだ。
つまり・・・
日本では相手への領域侵害に注意をより払いながら挨拶を
しており、韓国では領域を侵害したとしても相手との距離を
縮めたり互いが親しい関係にあることを強調しながら挨拶す
ることを好む?
日本語については定型的表現を交わすことが習慣化されて
いるため、NP/PPを意識せずにそれが多用されている一
面もあるかもしれない。いずれにせよ、定型的表現は相手と
の距離感を示してしまうため、日本語においては挨拶表現で
親しさを伝えることは難しいだろう。
上下距離感による日韓挨拶表現の使用様相
日本語母語話者
類型
定型
(NP)
韓国語母語話者
目上
同年輩
目下
目上
同年輩
目下
決まり文句投げかけ
42%
30%
30%
44%
33%
33%
出会いの頻度・事態言及
22%
21%
20%
7%
9%
6%
謝意の表明
15%
14%
13%
6%
5%
4%
0%
6%
6%
0%
2%
1%
7%
5%
7%
1%
1%
0%
30%
34%
35%
44%
40%
37%
6%
7%
8%
12%
12%
15%
4%
5%
6%
11%
13%
13%
準定型 新語の決まり文句投げかけ
(NP) 苦労への察し
(PP) 踏み込みの弱い問いかけ・描写
非定型 踏み込みの強い問いかけ
(PP) 話し手の感情表出
新密度による日本語挨拶表現の使用様相
*目上の人にはより形式的な表現を用いる傾向があるというこ
とを指摘した박수란(2005)とは異なる調査結果である。

日韓の挨拶表現には上下距離感があまり反映せず表現の
使い分けがなされていない。しかし、特定の表現に関しては
目上の人には敬意や礼儀を示すこと、つまりNPを志向する
ためより多く用いられたり逆に用いられない表現があるとい
うことが言えるだろう。
類型
定型
(NP)
親しい人
親しくない人
決まり文句投げかけ
25%
43%
出会いの頻度・事態言及
23%
19%
謝意の表明
15%
13%
6%
3%
準定型 新語の決まり文句投げかけ
(NP) 苦労への察し
(PP) 踏み込みの弱い問いかけ・描写
非定型 踏み込みの強い問いかけ
(PP) 話し手の感情表出
8%
5%
42%
23%
9%
5%
6%
4%
新密度による韓国語挨拶表現の使用様相
⇓
類型



「親しい人=PP、親しくない人=NP」の傾向がある。
親密度による使い分けが明確ではなく、親しくてもNP・定型
的表現を志向する。
なぜ準定型的表現が非定型的表現に比べ多用されたか?
「親しい人にはPPで親しみを表したい。しかし、PPで挨拶を
すると相手に失礼になってしまう可能性があるから親しみを
表しつつも礼儀に反しない表現で挨拶したい。」という思いか
ら?
定型
(NP)
親しい人
親しくない人
決まり文句投げかけ
22%
52%
出会いの頻度・事態言及
7%
7%
謝意の表明
2%
7%
1%
1%
準定型 新語の決まり文句投げかけ
(NP) 苦労への察し
(PP) 踏み込みの弱い問いかけ・描写
非定型 踏み込みの強い問いかけ
(PP) 話し手の感情表出
0%
1%
45%
36%
23%
3%
19%
6%
5
2015/8/12
調査結果のまとめ
⇓


「親しい人=PP、親しくない人=NP」という使い分けが明確
である。

「労苦のへ察し」や「新語の決まり文句投げかけ」は、韓国語
では親しい人にはPPを志向し非定型的表現を用いるため、
それが使えないために代用する準定型的表現を敢えて使用
する必要性がなかったかも。

「잘 지냈어?(元気?)」が「元気?」よりも定型化されており、
親しくない人にでも頻繁に使われたか?


日本語母語話者は定型的表現、韓国語母語話者は定型的
表現だけでなく準定型/非定型的表現を多用していた。先
行研究とも一致する結果であり、日本語母語話者はNP、韓
国語母語話者はPPを志向することを裏付けるものである。
上下距離感による様相は、日韓両言語で際立った差異が認
められなかった。ただし目上の人へのNPを志向のため、目
上の人に好まれたり避けられたりする類型があった。
日本語母語話者は、親密度を考慮してはいるもののNP志
向が強いため、親しい人にでも非定型的表現はあまり用い
ず、定型的表現や、相手に親しみを表しつつも礼儀を示せる
準定型的表現で挨拶することが明らかになった。一方、韓国
語母語話者は、親しい人には定型的、親しくない人には非定
型的表現を用い、準定型的表現に関しては親密度による差
異がほとんど認められなかった。
本発表の意義と今後の課題

意義:
定型/非定型的表現という分類に準定型的表現を加えたこ
とにより、日韓挨拶表現の差異をより詳しく明らかにした点。

今後の課題:
インタビューなどを行って挨拶表現の使用に潜む意識を考
察できていないこと、また口頭言語産出アンケートのデータ
が実際の挨拶談話とは異なる可能性があることなど。
6