玩具製造業のモデル利益計画 中小企業診断士 関 信一 Ⅰ.業界の概要 1 玩具製造業の現状 通産省「雑貨統計」の分類によると玩具は、可動装置を有する機械玩具と可動装置の ないその他の玩具に大別される。機械玩具とは、LSIを用いた電子応用玩具、電池・電 気を電源とした電動玩具およびゼンマイで駆動するゼンマイ・フリクション玩具をいう。 その他の玩具とは、プラスチック製玩具および布はく製玩具をいう。 玩具製造業は、商品が多種多様であるため労働集約型であり、その企業規模は小さく、 中小企業が圧倒的に多い。全体の事業者のうち従業員 100 名以上のものは、1%程度であ る。(図表―1 参照) 図表-1 玩具の品目別・従業員規模別出荷(単位:百万円) 従業員者数 従業員者数 従業員者数 従業員者数 9 人以下 10~19 20~99 100 人以上 産出事 出荷金額 業所数 産出事 出荷金額 業所数 産出事 出荷金額 業所数 産出事 出荷金額 業所数 カルタ,すごろく,トランブ;花札囲碁, 将棋,チェス,麻雀ぱい,ゲーム盤等 45 1,690 15 2,832 9 1,496 縫いぐるみ動物 87 4,105 29 4,393 19 4,016 金属製玩具 45 2,149 20 2,475 36 17,423 137 3,850 37 2,966 13 1,407 陶磁器製玩具 41 1,492 3 556 9 3,844 プラスチックモデルキット 25 2,491 9 × 10 12,515 空気入りビニール玩具 14 1,333 13 2,310 10 6,531 その他のプラスチック製玩具 165 9,850 82 15,833 63 その他の娯楽用具,玩具 111 5,437 35 3,909 娯楽用品,玩具の部分品,付属品 158 5,919 62 98 3,009 119 西洋人形,縫いぐるみ人形 その他の人形 木製玩具(竹製玩具,羽子板を含む) 日本人形 節句人形,ひな人形 人形の部分品,付属品 児童乗物(部分品,付属品を含む) 3 3,827 25 599,880 2 × 27,299 12 37,955 46 13,097 4 11,387 8,986 52 21,654 7 12,475 13 1,558 8 2,104 6,769 45 8,926 37 18,648 34 1,570 11 664 20 5,338 88 1,799 11 976 13 3,514 102 3,982 24 2,579 17 × 2 × 53 3,049 22 5,129 19 × 2 × (注 1)×は秘匿した数字 (注 2)金属製玩具には,テレビゲーム類を含む。 (資料)通産省「工業統計表」(平成 5 年) また、メーカーそのものが一環した生産を行うのではなく、多くの下請けや外注に依 存する生産構造である。 玩具の生産は、戦後、我が国の高度経済成長とともに急速に発展を遂げ、昭和 48 年の オイルショックで成長がダウンするまで年率 15~20%の成長を見せていた。しかし、昭和 40 年後半から、香港、台湾、韓国、シンガポールなどの NIES の急成長があり、さらにオ イルショックと打撃を受け、これを克服する製品開発の努力が重ねられたもの、昭和 40 年 前半には、60%程度を占めていた輸出比率は、60%程度を占めていたものの、昭和 50 年代 には 20%まで低下した。 昭和 55 年以降は、電子化の成功もあり 30%まで回復傾向が見られたものの急激な円高 によって再び急落した。 (図表―2参照) 2 業界の特徴 (1)世界第 2 位の玩具消費国 我が国の玩具消費量は、昭和 47 年にアメリカに次ぐ世界第 2 位の玩具消費国となった。 しかし、現在の内需は、TV ゲームの活況を別にすると一般玩具は、成長鈍化の状態である。 主な要因は、子供人口の減少、消費者ニーズの変化などである。(図表―2 参照) 図表-2 日本の玩具の製品・輸出・輸入・消費の推移(単位:億円) 生産 輸出 輸入 消費 平成元年 4,399 1,034 646 8,630 2 5,125 1,659 745 9,065 3 5,901 2,106 868 9,325 4 5,858 2,141 1,010 9,455 5 5,001 1,662 983 8,644 6 4,243 1,170、 943 8,032 (資料) (社)日本玩具協会 Ⅱ.モデル会社 A 社の概要 (1)会社の経歴 A社は、B 県の C 市郊外の工場団地内に昭 和 45 年に現在の社長が、大手プラスチック玩具製造業の下請工場として設立した会社であ る。当時は、機械玩具が主であった。しかし昭和 48 年のオイルショックを契機に社長、専 務を中心にプラスチック製玩具の開発に着手し昭和 50 年に特許申請を行った。以降A社は、 プラスチック製玩具の設計、製造、販売を行っている。 社長の方針は、「子供に夢を与え、安全なおもちゃづくり」である。 今後は、全社をあげて環境にやさし製品づくりに努力していきたい。 ① 企業概要 1.会社形態:株式会社 2.資本金 :3,000 万円 3.従業員:社長、専務 1 名、技術課5名、 製造課 35 名、営業課 5名、 総務課 5名 計 52 名(内パート 10 名) 4.主要設備:CAD/CAM システム、NC マシン、 射出成形機、フライス盤、ボール盤 Ⅲ.A 社利益計画の問題点 ①現状分析 A 社の損益計算書および売上原価内訳を黒字企業平均の経営指標と比較した結果は、以下 のとおりである。(図表-3・4参照) 図表-3 A社の損益計算書 (単位:百万円) 平成8年度実 績 構成比(%) 経営指標(%) 売上高 1,448 100.0 100.0 売上原価 1,056 73.8 72.9 売上総利益 392 26.2 27.1 販売費・一般管理費 337 22.3 23.3 55 3.9 3.8 営業利益 (出典) 中小企業庁「中小企業の経営指標(平成8年度)」より作成 図表-4 A社の売上げ原価内訳 (単位:百万円) 平成8年度実 績 売上原価 構成比(%) 経営指標(%) 1,056.0 73.9 72.9 0.0 0.0 0.0 1,056.0 73.9 72.9 商品売上原 価 製品売上原 価 製品売上 材料費 887.6 61.3 59.3 原価内訳 労務費 86.8 6.0 5.0 減価償却費 33.3 2.3 3.3 62.3 4.3 5.3 その他の経 費 (出典) 中小企業庁「中小企業の経営指標(平成8年度)」より作成 ① 問題点 (1) 収益性に問題あり 収益性の指標である売上高対総利益率、売上高対営業利益率、売上高対経常利益率ともに 経営指標と対比して悪く、収益性に問題がある。 収益性悪化の最大の原因は、売上高対売上原価率が悪いことである。(経営指標 72.3%に 対し、73.8%)その要因を売上原価の内訳でみると材料費率と労務比率が高いことがわかる。 したがって、いかに材料費と労務費を低減するかが A 社の課題である。 (2) 原価管理が不十分 景気の低迷により売上高の減少を補うには、原価低減が急務である。A 社は、販売・一般 管理費の削減や設備投資を抑制することなどで原価低減に取り組んできたがその場しのぎ の部分的な改善に終始し、会社全体としての原価低減には至っていない。 (3) 需要低迷による売上高の減少 バブル崩壊後、景気低迷が長期化し、その後景気は回復基調にあるというものの価格競争 が激化し売上高が減少している。また、急激な円高による輸出の低迷と、海外からの商品 により厳しい状態である。 Ⅳ.問題点の改善策 1全社的なコストダウン体制づくり 商品が市場に出た後も、多くの人に購入していただくためには、低価格化を目指して、 製品原価を下げていかなければならない。 コスト低減は、源流段階での取組みが必要になる。 (1)コストダウンの目標の設定と活動プログラム策定 コストダウン活動を推進するに大切なことは、コストダウン計画の設定と組織的な実施 である。社長の方針が各部署に具体的な目標でブレークダウンされて初めて実行に移すこ とができる。 (2) 目標設定留意点 社長はじめ全員が強い意思を持つこと。 ② コストダウンの目標を各部署に割り当てる。 ③ 具体的な指標を設定する。 ④ 実行の責任体制を強化する。 (3) ① 活動のプログラム コストは、設計でその大半が決まってしまう。活動プログラムは、プロジェクト活動 で各設計者の持っている固有技術、設計手順、設計情報及びその活用技術をコスト的に評 価検討し組織の総合力で産品が低価格で設計することをねらったものである。 (4) プロジェクト・全員参加活動 ① 工数低減活動 ② 改善提案制度 ③ TQC活動 ④ TPM活動 ⑤ 小集団活動(QCサークル活動、ZD運動) 2材料費の削減 (1) 設計段階における材料費の切り下げと歩留まり向上 ①標準部品の徹底採用 部品の種類や点数の削減 作り方の根本的見直し ②資材情報を技術にフィードバック (1) 仕入価格の低減 ① 納入業者・外注先との情報交換の早期実施 (2)材料不良の低減 受入れ検査規格の確立と受入れ検査技術の 向上 (3)加工不良の低減 作業標準の確立とその徹底実施 統計的品質管理手法の導入 ポカヨケの設置、ゲージ化などを含めた 治工具・設備の改善 検査体制の確立(検査規格の確立、作業者 による自主検査の実施、検査員による検査の 実施など)不良発生処理システムの確立 (4)加工段階における歩留向上 作業標準の確立 図面の整備 (5)材料の品質劣化の防止 在庫管理システム、資材管計画システム、確立による過剰在庫、遊休在庫発生の防止 保管方法の改善 (6)設計変更にともなう不要材料発生の防止 設計変更処理手続きの設定 製品開発管理の強化と開発、設計段階への 品質管理の導入による無用な設計変更の減少化 3 労務費の削減 生産性を向上させることにより労務費の削減を図る。 (1) 製造工程の改善 U字ラインによる生産人員の削減 ① 生産の流れを中心にライン化する。ライン化とは、コンベヤー化することではなく、1 個送り同期化生産できるように現場を編成することである。 工場のレイアウトには、直線型とアルファベットの“U”に似たU字型に大別される。 直線型ラインに優れた点もあるが、単なる直線ラインでは完成品ができ、完成品を置いて 次の材料を取りに行くのにもと来た道を手ぶらで帰ることになりムダになる。 1 人多工程持ちには入り口と出口を接近させたU字型が最適である。 U字ライン化の主な効果は、高い柔軟性を実現できる、作業効率の向上、働きがいの醸成、 売れるスピードでのモノ作りなどがあげられる。 長所は、ライン編成効率が 100%、精神的満足度が高くなる、品質責任意識などである。 短所は、個人の技量差が、Q(品質)、D(納期)に現れる。 ②U字ライン作りの手順 -1.製造部長を長にU字ライン化チームを編成する。 -2.現状の流れを把握する。 -3.U字ライン構想をねる。 -4.U字ラインを作って試行する。 -5.ムダとりの改善を実施する。 -6.小人化効果を確認する。 -7.工場全体の流れ作りをする。 ③運搬の改善によるコストダウン 運搬改善のねらいは、資材の受け入れから製品の出荷まで、付加価値の生まない移動・運 搬を無くすことにある。資材・製品の運搬をマテハン(Material Handling)と呼んでいる。 運搬の改善には次のような方法がある。 *マテハンそのものを改善 レイアウト改善などでマテハンをミニマムにする。 *マテハン作業を改善 人手作業を機械化、自動化して楽にする。 ④負荷山積表の採用で人や設備をムダなく -1.負荷と能力の調整とコストダウン 販売予測や、受注実態から生産計画を立てたり、受注納期から逆算して生産計画を立て たのでは、人や設備などの生産能力が不足し、遅れが生じたり、逆に遊ぶことさえある。 つまり、ムラが起こるという事態になる。 このことから、生産効率を高め、収益増大を図っていくには、日程計画を組む段階での負 荷(仕事量)と能力(保有する人や設備)が不可欠になる。 設備稼働率のアップ、2交代など 品質向上 ポカヨケシステム スキルアップ 単能工から多能工化へのシフトが必要になる。それには、作業員の教育研修が不可欠に なる 。特にOJTによる教育が重要である。 (3)季節変動対策 需要期が、クリスマス、正月、ゴールデンウィークと休日集中購買傾向が顕著である。 このため需要期の機会損失をなくすための対策が必要になる。これについて具体的に述べ る。 1.社内での生産能力を把握すること。 2.需要予測に基づき生産計画を立てる。 3.資材、部品手配を行う。 4.外注工場の能力を把握する。 5.平準化生産の実施による負荷の分散を行う。 (4)コンピュータの活用により第三の利益を生み出す 生産の管理レベルを上げ管理によるムリ、ムダを排除し管理利益を生み出すことである。 具体的には、①生産のリードタイム短縮、②仕掛かり在庫の最小化、③機械や設備の稼 働率向上、④歩留まりの向上、⑤保全費の軽減,⑥間接人員の削減などが上げられる。 生産管理にコンピュータを活用する。これは、生産計画から、部品手配、生産指示と一 連の生産の流れを管理できる点で優れている。 最近は、パソコンの性能が一段と向上しまた安価であるため中小企業でも簡単に導 入が可能である。 工程毎に生産能力を把握することにより、簡単なパッケージソフトなどの活用によ り効果を出すことができる。 また、中小企業地域情報センターなどで実施している情報化支援制度の活用も有効 である。 なお、支援事業としては、アドバイス支援制度、貸付制度(情報基盤整備貸付、中 小企業情報化促進貸付、設備近代化資金貸付、設備貸与制度など)、税制(メカトロ税制) などがある。 4 製品開発の強化 玩具は、子供とのかかわりが重要であり、嗜好性に強く依存する。子供を中心に消費さ れることから、一般的には、消費は流行の波に支配されやすく、ライフサイクルは極めて 短い。また、同一商品が反復して購買されない一回消費型の商品であり、需要がクリスマ ス、正月、あるいは節句に集中する季節商品でもある。 (1) コンカレントエンジニアリングの実施による開発期間の短縮 製品開発期間の短縮は、早期に新製品の投入により、売上高に寄与することができる。 これを実現するためには、技術、購買、製造、営業がそれぞれの役目をシリーズ(直列) に仕事をしていくのではなく、パラレル(同時)に情報を交換し仕事を行っていくことに より開発期間の短縮を図る。 (2) 技術者の生産性向上 設計合理化手法の活用 ① グループテクノロジー設計図の削減、類似品の採用による新設計の削減 ② 類似設計法 過去の設計図を分類し、新設計に際し類似の設計図をそのまま使用する。 ②編集設計法 既存技術の組み合せで、新規性を編集する。 ③バラエティリダクション 製品の多品種化、高級化を受け入れ、 かつ生産構造の簡素化をはかることの矛盾を解 決する。 (3)マーケティング力の向上 ユーザニーズをいち早く製品に結び付けるためには、販売店からの情報を製品開発部隊に 情報をフィードバックすることが必要である。 5 販売の拡大 (1) 販売の強化と販売員の育成 生産性向上により、余剰となった人員を販売員として販売部門の人員を増強し、育成する とともに社長自らもユーザー拡大の努力を行う。 (2) 拡販報奨金制度確立による販売員のモラールの向上 (3) 新規顧客の開拓 Ⅴ.改善後のモデル利益計画 Ⅳの改善策を実施した場合の改善後の利益計画は,図表-5,図表-6 のようになる。以下問題 点の改善効果を説明する。 A 社の課題は,収益性の改善であるが、社長のリーダーシップの下にユーザー二一ズ に合った新製品開発,全社的コストダウンの取組みと販売部門の強化により、平成 8 年度 .実績対比で、売上高は 5.5%,売上総利益は 14.9%,営業利益は 84.7%の改善が見込める。 売上原価の削減は、全社的コストダウンの取組みにより、材料費が売上高材料費率で 54.3% から 53.3%の改善が見込まれ,また労務費については,生産性向上と余剰人員の販 売部門での有効活用により、売上高労務費率で 12.4%から 10.9%の改善が見込まれる。一 方,販売部門の強化により一般・管理費が平成 8 年度実績対比で増加が見込まれる。 需要低迷による売上高の減少に対する改善策として,販売員の増強・育成や積極的なユーザ ーの開拓,マーケティング強化によるユーザー二一ズに合致した新製品開発等により売上 高 5.5%の増加を見込んでいる。 以上の全社的コストダウン、販売拡大、新製品開発力の強化により,売上高営業利益は, 2.8% から 4.9%へと改善が見込める。今後の課題は,ユーザー二一ズに合った商品開発を行い、 いち早く市場に投入し、売上に寄与させることである。また,全社的コストダウン体制を 構築し収益性を向上させることが重要である。そして,社長の理念にあるように,環境にや さしい夢のある安全な玩具を提供し,社会に貢献していくことが求められる。 図表-5 A 社のモデル利益計画 (単位:百万円) 平成 8 年度実 構成比(%) 績 モデル利益計 構成比(%) 伸長率 画 (%) 売上高 1,448 100.0 1,528 100.0 5.5 売上原価 1,074 74.2 1,099 71.9 2.3 売上総利益 374 25.8 429 28.1 14.9 販売費・一般管理 333 23.0 354 23.2 6.4 41 2.8 75 4.9 84.7 費 営業利益 図表-6 A 社のモデル利益計画(売上原価内訳) (単位:百万円) 平成 8 年度実 構成比(%) モデル利益計画 績 構成比 伸長率 (%) (%) 売上原価 1,074 74.2 1,099 71.9 2.3 製品売上原価 1,074 74.2 1,099 71.9 2.3 製品売上 材料費 583 54.3 586 53.3. 0.4 原価内訳 労務費 133 12.4 120 l0.9 △10.1 減価償却費 30 2.8 33 3.0 9.6 その他の経費 50 4.7 52 4.7 2.3
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