研 究 論 集 - 龍谷大学付属 平安中学校・平安高等学校

研
究
論
集
第 46 号
2015
龍谷大学付属平安中学高等学校
目
巻
頭
次
言
校
長
燧
土
勝
徳
実 践 報 告
学校評価の変遷と今後の展望
1
校長補佐
平
井
正
朗
建学の精神に基づく宗教教育と授業展開について
宗教科
21
楠
深
水
入試問題の解法の研究
―数学科の自主的勉強会の中間報告を兼ねて―
数学科
35
岩 井 亮 太
竹 内 智 一
矢ノ根
聡
留学生に対する化学授業プリントの作成
理
50
科
五十嵐
松 村
茂
哲
樹
雄
ニュース時事能力検定導入による授業の取り組み
─「読み」と「協同的な学び」─
社会科
60
佐々木
じろう
「英語多読」開講に向けての取り組み
英語科
-ⅰ-
79
山
下
剛
正
私たちの暮らしとグローバリゼーション
家庭科
木で作る
94
佐々木
潤
子
木を学ぶ
101
芸術科
宮
永
良二郎
発達障がいの大学生から困り感から聞き取り
高校の特別支援教育を考える
─PAC分析を利用して─
カウンセリング係
112
吉
岡
幸
司
研究ノート
NHKラジオ古典講読
「源氏物語、千年紀・選」録音データベース構築の試み
─データ構造と生徒の関わりを中心に─
国語科
情報科で小論文を書く
三
上
125
雅
也
─論理的な文章構成─
情報科
134
松
田
博
一
「体育施設の変更に伴う 新体力テストの記録の変化」について
編集後記
153
保健体育科
橋
本
謙
宗教科
寺
村
篤
-ⅱ-
巻 頭 言
明 治 9(1876 )年 滋 賀 県 彦 根 の 地 に 「金 亀 教 校 」と し て 創 立 さ れ ま し た 本 校 も
本 年 5 月 21 日 ( 宗 祖 降 誕 会 )で 満 139 歳 と な り ま し た 。 ま た 4 月 1 日 学 校 法
人 平 安 学 園 は 学 校 法 人 龍 谷 大 学 と 法 人 合 併 し 「学 校 法 人 龍 谷 大 学 」と し て 新 た
な歩みをはじめました。
現 在 、 中 学 370 名 、 高 校 1,424 名 、 中 高 あ わ せ て 1, 794 名 の 生 徒 が 在 籍 し
て い ま す 。 男 女 の 内 訳 は 中 高 と も 6: 4 の 割 合 で す 。 特 に 高 校 生 の 8 割 が 文
化 ・体 育 系 ク ラ ブ の い ず れ か に 加 入 し て お り 、文 武 両 道 、生 徒 た ち は 元 気 よ く
学校生活を送っております。
...
さ て 、 本 校 は 来 年 1 40 周 年 を 迎 え ま す が 、 創 立 以 来 親 鸞 聖 人 の み 教 え に 基
づく心の教育を謳い、宗教的情操教育を理想としてきました。その長い歴史
と 伝 統 の あ る 龍 谷 大 平 安 で 学 ぶ 意 義 に つ い て 、少 し 考 え て み た い と 思 い ま す 。
2012 年 、 IQ の よ う に 数 字 で は 表 す こ と の 出 来 な い 大 切 な も の と し て 、 EQ
を 打 ち 出 し ま し た 。EQ と は 、心 の 知 能 指 数 と 呼 ば れ る も の で す が 、本 校 で は
「こ こ ろ の 知 性 」と し て 、 す べ て は 、 私 た ち 一 人 一 人 の 心 の 持 ち よ う 、 在 り よ
うですよ。私たちは自分自身でそれぞれの心をしっかりとコントロールしま
しょうと言ってまいりました。
2013 年 、生 徒 手 帳 を 一 新 し 手 帳 に は 私 の 書 を 記 さ せ て も ら い ま し た 。仏 さ
まがあたりくまなく照らしてくださっているという『遍照』という言葉を記
しました。到底仏さまの真似は出来ませんが、私たちが生徒たちの親のつも
りで、生徒一人一人と膝と膝をつき合わせ向き合うことを望んでのことであ
りました。
2014 年 、他 人 の 気 持 ち が わ か る 、相 手 の 気 持 ち を 慮 る 心 を 持 っ て も ら い た
いとの思いから『智慧』という言葉を記しました。
2015 年 、 前 年 、 相 手 の 心 を 深 く 洞 察 す る 『 智 慧 』 と 記 し ま し た の で 、 今 年
度は、相手の悲しみや痛みが自分の悲しみや痛みとなる心、慈しみ寄り添う
心 を 持 ち 、共 生 (と も い き )の 精 神 で こ こ ろ の 幹 を 育 て た い と の 思 い か ら 、
『慈
悲』という言葉を記しました。相手の悲しみや痛みが自分の悲しみや痛みと
感 じ る こ と が 出 来 る 、そ の 心 が 慈 悲 で す 。し た が い ま し て 、今 年 度 2015 年 度
のスローガンを「~智慧と慈悲~」といたしました。
本校の教員の使命は、子どもたちに寄り添う慈しみの心をもって、決して
子 ど も に 迎 合 す る の で は な く 、共 生 の 精 神 で 生 徒 一 人 一 人 を 大 事 に す る こ と 、
そして、しっかりとこころの幹を育てる宗育を実践することであると、この
ように考えています。
龍 谷 大 平 安 が め ざ す の は 「目 に 見 え る 華 や か さ で は な く “ 目 に 見 え な い も
の ” の 本 当 の 大 切 さ 」に 気 づ く こ と に あ り ま す 。
こ の 「 心 の 教 育 」 を 基 本 と し 、 施 設 面 に お き ま し て も 2012 年 か ら 「安 全 ・
安 心 ・ 快 適 」な 教 育 環 境 の 整 備 に 着 手 い た し ま し た 。 同 年 10 月 、 京 都 市 伏 見
区 醍 醐 に 「龍 谷 大 平 安 ボ ー ル パ ー ク 」 を 竣 工 し 、全 校 舎 耐 震 改 修 リ ニ ュ ー ア ル 、
グラウンド人工芝化、北校舎コミュニケーションホール・中庭コミュニケー
シ ョ ン テ ラ ス 設 置 、全 教 室 の 照 明 の LED 化 、女 子 ト イ レ 増 設 、ト イ レ ウ ォ シ
ュレット化を実施いたしました。
こ こ に 、 本 年 4 月 の 法 人 合 併 を 機 と し て 『 研 究 論 集 第 45 号 』 (2010 年 10
月 18 日 )発 行 以 来 5 年 ぶ り に『 研 究 論 集 第 46 号 』を 発 行 す る 運 び と な り ま し
た。発行にあたりまして、編集いただきました教育研究会の皆様に感謝申し
上げご挨拶とさせていただきます。
合掌
2015(平 成 27) 年 11 月
校
長
燧
土
勝
徳
実践報告
学校評価の変遷と今後の展望
校長補佐
平
井
正
Masaaki
朗
H ir a i
キーワード:私学経営、学校評価、学校間評価、私立中高入試
Ⅰ はじめに
平 成 21 年 、 個 に 応 じ た 指 導 を 充 実 す る と い う 観 点 か ら 高 等 学 校 学 習 指 導
要 領 に 示 さ れ て い な い 内 容 も 加 味 し て 指 導 で き る 、 い わ ゆ る 、“ 基 準 性 ” (1)
が公示され、学校の裁量が拡大すると同時に、教育活動の成果を検証し、改
善を図ることによって、より質の高い指導を享受できる体制をつくる一助と
して「学校評価制度」にスポットライトが当てられた。
本稿では、私学経営を視座に、まず私学を取り巻く環境を概観する。次に
学校評価の変遷を俯瞰し、本校における学校評価の制度設計及び実践状況の
考察も含めて、今後を展望する。
Ⅱ 学校評価導入における背景-受験市場の変化-
Ⅱ-1 中学受験市場の動向
Table1 は 、関 西 2 府 4 県 の お け る 児 童 数 、入 学 者 数 及 び 入 学 率 の 推 移 を 示
したものである。全体から見れば、過去5年間、入学率は9%前後であり、
入 学 者 数 全 体 の 母 集 団 も 201 3 年 以 降 、 17 ,000 人 台 に な り 、 少 子 化 が 進 行 し
ているのが見て取れる。
Table 1 : 児 童 数 及 び 入 学 者 数 の 5 ヵ 年 比 較
児童数
入学者数
入学率
2011
2012
204,176
200,332
18,687
18,132
9.15%
2013
198,000
17,901
9.05%
9.04%
1
(エデュケーショナル・ネットワーク公表資料より作成)
2014
2015
195,866
190,935
17,531
17,520
8.95%
9.18%
Table2 は 、専 願 率 が 最 も 高 い 近 畿 統 一 入 試 日 の「 初 日 午 前 」
(以下、
「初日
AM」)の 受 験 者 数 推 移 で あ る 。京 都 の 場 合 、2015 年 は 増 加 し て い る が 、実 態
と し て は 受 験 率 11 .1 % に 過 ぎ な い 。 メ デ ィ ア で 報 道 さ れ る 倍 率 は 、 通 例 、 総
志願者数を定員で割ったものであり、併願としての午後入試や同一校ダブル
受験も含まれるため、実質倍率とはかけ離れた数字になる。因みに、京都で
「 初 日 AM」 が 定 員 を 超 え 、 実 質 倍 率 1.0 を 超 え た 学 校 は 7 校 の み で あ る 。
外部環境の変化に伴い、午後入試の実施回数増加と連続日程、自己推薦制度
や教科選択制といった制度設計の多様化と併せて、大学との連携、共学化、
コース・リニューアル、プレテストの積極的活用など、生徒確保に向けた教
学・広報戦略はコペルニクス的展開とも言える様相を呈している。
Table2 エ リ ア 別 「 初 日 AM」 受 験 者 数 推 移 ( エ デ ュ ケ ー シ ョ ナ ル ・ ネ ッ ト ワ ー ク 公 表 資 料 よ り 作 成 )
2011
2012
2013
2014
2015
受験者数
2,616
2,547
2,550
2,338
2,538
児童数
24,129
23,693
23,687
23,245
22,778
受験率
10.8%
10.8%
10.8%
10.1%
11.1 %
入学者数
2,823
2,766
2,878
2,798
2,843
【 参 考 】大
阪
8,176
7,950
7 ,894
7 ,561
7,470
【 参 考 】滋
賀
563
521
506
56 9
580
また、大学進学率が全国で上位に位置する京都では、公立中高一貫校に対
する期待が高く、洛北高校附属中学や西京附属中学の倍率を見ても例年5倍
以 上 で あ る 。( 京 都 府 教 育 委 員 会 , 京 都 市 教 育 委 員 会 HP )
Table3 は 、私 立 中 学 の 定 員 充 足 状 況 を 示 し た も の で あ る 。2 府 4 県 の 平 均
が 42.4% で あ る か ら 半 数 以 上 の 学 校 が い わ ゆ る “ 定 員 割 れ ” で あ る 。
Table 3 定 員 充 足 率
校数
定員充足校数
割合
(エデュケーショナル・ネットワーク公表資料より作成)
2 府4県
大阪
兵庫
京都
奈良
滋賀
和歌山
144
63
35
24
11
5
6
61
23
16
12
4
2
4
42 . 4%
36 . 5%
45 . 7%
50 . 0%
36 . 4%
40 . 0%
66 . 7%
2
グ ラ フ 1 は 、 2 府 4 県 の 私 立 中 学 に お け る 定 員 充 足 率 と 偏 差 値 (2) の 相 関
を5ヶ年比較したものであり、縦軸は充足率、横軸は年度を表している。偏
差 値 55 が“ 損 益 分 岐 点 ”と な っ て お り 、偏 差 値 が 下 降 す る の に 従 っ て 、充 足
率も低下する。その意味で、進路保障を確かにすることが安定した生徒募集
と同義という関係性の中、受験対策といった負の要素が指摘される一方、過
去問における良問を言語材料に、背景知識を涵養し、論理的思考力を育成す
ることによって学力水準維持に貢献するという正の要素も混在する、いわゆ
る 遡 及 効 果 ( Bac kwa sh Effec t ) (3) も 見 て 取 れ る 。
グラフ1:定員充足率と偏差値の相関(エデュケーショナル・ネットワーク公表資料より作成)
120.00%
100.00%
80.00%
60.00%
40.00%
20.00%
0.00%
2011
40未満
40~44
2012
45~49
2013
2014
50~54
55~59
60~64
2015
65~69
平均
70以上
Ⅱ-2 高校受験市場の動向
2015 年 度 の 京 都 の 公 立 高 校 入 試 は 、全 国 で 唯 一 、京 都 市 ・ 乙 訓 通 学 圏 の 普
通 科 に 残 っ て い た「 総 合 選 抜 」、換 言 す れ ば 、通 学 圏 の 総 定 員 で 全 体 の 合 格 者
を決め、生徒の住所で合格校を振り分けるやり方から受験生に行きたい学校
を 選 ば せ 、合 否 は 各 高 校 で 決 め る「 単 独 選 抜 」に 移 行 し た 2 年 目 で あ る 。
「総
合選抜」時代は、願書に書かれた「最寄りのバス停」を基準に入学先を振り
分けるため、住民票を移す、あるいは、志望校の近くに親類がいなければ受
験期間だけアパートを借りる受験生がいた。また、公立高校に入学してから
本人の希望に合わないという理由で私学に転学する生徒も出た。その後、専
門学科開設やⅡ類の単独選抜化、通学圏の変更など、部分的対応はあったが
3
「総合選抜」による受験生は全体の4割程度まで激減、歯止めはかからず、
現 行 制 度 に 移 行 す る に 至 っ て い る 。( 京 都 新 聞 , 2014. 2. 1)
Table4 は 、 公 立 中 学 卒 業 予 定 者 24 ,063 人 ( 口 丹 、 中 丹 、 丹 後 、 定 時 制 除
く)に対する第1回進路希望調査のまとめである。全日制の公立への第一希
望 者 は 、 定 員 12 ,990 人 に 対 し 14 ,656 人 、 そ の う ち 2 月 中 旬 に 行 わ れ る 前 期
選 抜 の 受 験 希 望 者 は 全 体 の 約 8 割 に あ た る 11,773 人 で あ っ た 。一 方 、私 立 へ
の 第 一 希 望 者 は 全 体 の 29.3% を 占 め る 7 ,043 人 で あ り 、私 学 修 学 支 援 制 度 を
始 め た 影 響 も 相 俟 っ て 、 前 年 度 を 約 300 人 上 回 っ た 。 新 制 度 に 対 す る 不 安 感
から専願受験で合格の可能性の高い私学を選択している点も見逃せない。保
護者や生徒の意識も変化しており、選択と集中の時代到来を予感させる。
Table4 : 第 1 回 進 路 希 望 調 査 の ま と め
通学圏
京 都 市・乙 訓
山城
全日制総計
募集定員
( H26.12.3 京 都 新 聞 よ り 作 成 )
志願者数
前 期・定 員
前 期・志 願 者
6 ,8 0 0
8,274
3 ,0 1 5
7 ,3 5 2
2.4
2 ,9 9 0
3,182
1 ,0 9 1
2 ,6 1 7
2.4
1 4 ,6 5 6
5 ,1 4 8
1 1 ,7 7 3
2.3
1 2 ,9 9 0
前 期・倍 率
「単独選抜」は、本当に行きたい学校選択が可能になり、ミスマッチが少な
くなる分、どのような学力の生徒がどの高校を受験するかで合格ラインが変
化し、読みにくくなる。その意味で、選択を誤ると不合格者を出しかねない
と い う リ ス ク は あ る が 、高 倍 率 の 公 立 前 期 選 抜 は チ ャ レ ン ジ 、
“ 実 質 ”専 願 は
私 学 、も し く は 公 立 中 期 選 抜 と い う 傾 向 が 定 着 し つ つ あ る 。201 5 年 前 期 入 試
で は 、 全 日 制 の 募 集 定 員 5,14 8 人 に 対 し て 志 願 者 は 前 年 を 0 .1 4 ポ イ ン ト 下
回 り 12,149 人 、2 .36 倍 で あ っ た が 、結 果 的 に は 受 験 者 11,615 人 、合 格 者 確
定 後 の 実 質 倍 率 は 2 .2 4 倍 と な り 、 合 格 者 5 ,207 人 を 上 回 る 約 6 ,400 人 が 不
合 格 と な っ た 。普 通 科 を 志 願 し た の は 7,70 7 人 で 倍 率 2 .89 倍 、通 学 圏 を 越 え
て 受 験 で き る 全 日 制 専 門 学 科 は 志 願 者 4 ,2 03 人 で 1.81 倍 。中 期 入 試 は 、前 年
を 0.7 ポ イ ン ト 下 回 り 、 1.08 倍 と な り ほ ぼ 全 入 で あ る 。( 京 都 新 聞 H27. 3. 3 )
京都府教育委員会は、
「 単 独 選 抜 」移 行 を 視 野 に「 府 立 高 校 特 色 化 推 進 プ ラ
ン 」( 2012~ ) を 立 ち 上 げ 、 府 立 46 校 を 科 学 , 国 際 化 教 育 な ど を 行 う 4 分 野
に 分 類 し た が 、大 半 の 学 校 が“ 学 力 重 視 ”を 重 点 目 標 に 掲 げ て い る 。Table5
は 京 都 の 私 学 志 願 者 数 推 移 、 Table6 は 他 府 県 の ト ピ ッ ク の 要 約 で あ る 。
4
Table5 : 京 都 の 私 学 志 願 者 数 推 移
(大阪進研提供資料より作成)
2011
2012
2013
20,256
21,231
20,787
私学募集定員
7,548
7,393
推薦・専願
6,124
一般・併願
18,828
中3生徒数
入学者数
公私比率
(募集)
21,050
7,264
7,441
7,553
6,974
6,917
7,020
7,340
19,041
19,274
20,384
19,213
3.52
3.61
3.68
3.52
6,754
7,658
7,975
8,171
8,009
67: 33
67: 33
66: 34
66: 34
66:34
Table 6 : 他 府 県 の ト ピ ッ ク
エリア
2015
21,515
3.31
競争率
2014
(大阪進研提供資料より作成)
トピック
公私
公立
特 色 選 抜 : 高 倍 率 ( 約 3 倍 で 前 年 並 ) 、 一 般 選 抜 : 40 分 →50 分
私立
全 日 制 の 倍 率 4 .31 倍 で 前 年 並 、 専 願 率 減 1 5.9%
公立
前 期 : 約 3 倍 で 前 年 並 。 後 期 : 1.21 倍 で 前 年 並 。 文 理 学 科 人 気
私立
専 願 率 : 増 25 .4% 、 授 料 無 償 化 制 度 の 継 続 ( 2016~ )
公立
特 色 選 抜 : 1 .27 倍 で 減 、 一 般 選 抜 : 1.11 倍 で 前 年 並
私立
倍 率 4.05 倍 で 前 年 並
公立
5 学 区 再 編 、 特 色 選 抜 : 増 1.73 倍 、 一 般 : 1.10 倍 で 前 年 並
私立
倍 率 3.78 倍 で 前 年 並
公立
平 均 倍 率 は 1 .00 倍 ( 特 別 選 抜 除 く ) で 前 年 並
私立
募 集 人 員 は 約 96 0 名 で あ る が 、 公 私 比 率 は 9 : 1 で 前 年 並
滋賀
大阪
奈良
兵庫
和歌山
Ⅲ 学校評価の変遷
学校経営におけるビジョン設定や改善を促し、説明責任を果たす手段とし
て 、学 校 評 価 が 検 討 さ れ 始 め た の は 、平 成 1 0 年 の 中 教 審 答 申「 今 後 の 地 方 教
育行政の在り方について」からである。地域の信頼と連携を図るために、開
かれた学校づくりと経営責任を明らかにし、教育目標や計画、その実施状況
についての自己評価を保護者や地域住民に説明する意義が言及された。平成
12 年 、 教 育 改 革 国 民 会 議 「 教 育 を 変 え る 1 7 の 提 案 」 に お い て 、 学 校 の 特 徴
5
化という観点から外部評価を含む評価制度を導入し、結果を保護者や地域と
共 有 、改 善 に つ な げ る 必 要 性 が 付 記 。平 成 14 年 、中 教 審 答 申「 今 後 の 教 員 免
許制度の在り方について」では、学校内外の双方向性のコミュニケーション
を 可 能 に す る た め 、自 己 評 価 、外 部 評 価 導 入 の 提 言 が な さ れ る と 同 時 に 、小・
中学校設置基準では、教育活動や学校運営について自己評価の努力義務化が
謳 わ れ た 。 平 成 17 年 、“ 骨 太 方 針 ” で あ る 「 経 済 財 政 運 営 と 構 造 改 革 に 関 す
る 基 本 方 針 2005」で は 、大 綱 的 な 学 校 評 価 の ガ イ ド ラ イ ン が 策 定 さ れ 、自 己
評価の実施と結果の公表が義務化、第三者機関による外部評価も含め、評価
充実策の検討が開始。また、中教審「新しい時代の義務教育を創造する」で
は、教育成果とアウトカムを国の責任で検証し、教育の質を保証する教育シ
ス テ ム 構 築 が 方 向 づ け ら れ た 。 平 成 18 年 の 「 義 務 教 育 諸 学 校 に お け る 学 校
評価ガイドライン」では、学校評価の目的として、学校の目指すべき目標を
設定し、組織的・継続的な改善を図ること、適切な説明責任を果たすととも
に学校・家庭・地域の連携協力を図ること、具体的改善措置を講じて一定水
準の教育の質を保証し、その向上を図ることなどが明記され、結果の説明・
公表、設置者への提出及び設置者等による支援や条件整備等の改善が盛り込
まれた。加えて、学校評価の推進に関する調査研究協力者会議の設置、各学
校 の 受 け る 実 施 内 容 が 不 十 分 で 公 表 が 進 ん で い な い こ と も 指 摘 。日 本 の 場 合 、
英米のような大規模レベルの監査機構的アプローチがなされておらず、情報
収集・解析・公開の校務負担が増加したことや専門的分析手法に欠けること
などの課題も散見される。
平 成 19 年 、
「学校教育法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」
に よ り 学 校 評 価 が 施 行 さ れ る こ と に な る 。 学 校 教 育 法 施 行 規 則 第 66 条 に は
「小学校は、当該小学校の教育活動その他の学校運営の状況について、自ら
評 価 を 行 い 、 そ の 結 果 を 公 表 す る も の と す る 」、 第 67 条 に は 「 評 価 の 結 果 を
踏まえた当該小学校の児童の保護者その他の当該小学校の関係者(当該小学
校の関係者を除く)による評価を行い、その結果を公表するよう努めるもの
とする」とあり、幼稚園、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校
等 に も そ れ ぞ れ 準 用 と 明 記 さ れ た 。 平 成 2 0 年 、「 学 校 評 価 ガ イ ド ラ イ ン 」 が
改訂され、高等学校を対象に、自己評価における目標の重点化、保護者によ
る 評 価 、学 校 の 積 極 的 な 情 報 提 供 、設 置 者 へ の 結 果 報 告 な ど が 論 究 。平 成 21
年 、「 学 校 の 第 三 者 評 価 の ガ イ ド ラ イ ン の 策 定 等 に 関 す る 調 査 研 究 協 力 者 会
6
議 」 が 設 置 さ れ 、 平 成 22 年 、「 学 校 評 価 ガ イ ド ラ イ ン 」 に 第 三 者 評 価 を 関 わ
る内容が追加、改訂されている。
現在の学校評価は、全教職員が設定した目標や具体的計画に照らして行う
「 自 己 評 価 」、学 校 評 議 員 、保 護 者 な ど に よ り 構 成 さ れ た 委 員 会 等 が 、教 育 活
動を観察し、意見交換などを通じて自己評価の結果について評価する「学校
関 係 者 評 価 」、 専 門 家 等 が 自 己 評 価 や 学 校 関 係 者 評 価 の 結 果 を 資 料 と し て 活
用し、専門的・客観的立場から評価する「第3者評価」に区分される。自己
評価は法令上の義務、学校関係者評価は努力義務、第3者評価は実施者が必
要であると判断した場合に実施されるものである。なお、海外でも学校教育
に対する統計的分析やデータ公開を行うことがトレンドになっており、米国
の NCLB( No Child Left Behind ) 法 、 英 国 Ofsted ( Office for Standards
in Education, Children’s Services and Skills ) に よ る 学 校 監 査 に も そ の 類
例を見ることができる。
Ⅳ 学校間評価-私学における学校評価制度構築に向けて-
学校評価制度の目的は、学校改善(設置者による条件整備等の改善措置含
む)であり、関係者等に対する説明責任と理解、参画、連携協力による学校
づ く り で あ る 。“ 説 明 責 任 ” と い う 訳 語 が 当 て ら れ て い る acco untability と
いう用語は、行政責任として税金の使途明確化という住民運動から発展した
ものであり、現在では、需要者と供給者の間での信頼関係や相互理解などを
含んだ双方向的な交流を意味するものになっている。学校評価制度は公立が
先 行 導 入 し た が 、 私 学 に お い て も MVP( Mission- Vision - Plan) に 基 づ く
教 育 活 動 の P DCA サ イ ク ル を 自 己 評 価 、 自 己 点 検 の 結 果 を 公 表 す る 過 程 で 、
教職員、保護者、地域住民との間でコミュニケーション関係を密にし、学び
の 魅 力 を 高 め る こ と が 不 可 欠 で あ る 。 平 井 ( 2015) は 、 学 校 評 価 の 実 施 状 況
に つ い て 、 私 立 中 高 38 校 ( 中 学 14 校 、 高 校 24 校 ) を 対 象 に 抽 出 調 査 を 行
っ た 。実 施 率 は 、
『 学 校 評 価 等 実 施 状 況 調 査( 平 成 23 年 度 間 )』に お け る 私 立
中 高 平 均 50% 台 に 近 い 47.4% で あ っ た 。さ ら に 、3 校 以 上 の 教 員 が 各 校 の 取
り組みを相互評価し、妥当性と信頼性を高めることを目的としたトライアン
ギ ュ レ ー シ ョ ン( Triangulation )と い う 手 法 で「 学 校 間 評 価 」を 行 っ た 。そ
の 目 的 は 、 学 校 間 同 士 が 個 々 を 評 価 し あ う Evaluation と し て で は な く 、 評
価を通して相互の弱点を補完しあうと同時に、各々の長所を有効に活かして
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い く Assessment を 実 践 す る こ と に あ る 。 教 職 員 の 資 質 向 上 に 向 け て テ ィ ー
チング・スキルを練磨し、研鑽を積んでいる点はどの学校も同じであるが、
アンケートもしくは自由記述の授業評価が多く、事後の取り組みも教員個々
の自己評価、問題がある場合は管理職任せというのが実態であった。学校評
価のあり方についても捉え方に温度差があり、形骸化しないような体制づく
りの必要性が指摘され、
「自己評価」
「学校関係者評価」
「 第 三 者 評 価 」を 組 み
合わせた体系的評価体制の構築が、ハロー効果や寛大化、厳格化といった評
価バイアスを減らし、フィードバックが得られるという結論に至った。ヒア
リング、学校間評価、総括の概略を要約する。
■ ヒアリング
・初年度は手探りになるが、年々、組織的かつ合理的に検証され、分掌、学年、教
科、クラブ等に落としこまれていくと、少しずつではあるが確実に結果となって
現れてくるので、成功体験の積み重ねという点で皆のモチベーションが上がり、
学校全体が活性化されていくのが手に取るようにわかる。
・ 結 果 が 客 観 的 に 受 け 取 れ 、 毎 回 、 課 題 と 共 に PDCAサ イ ク ル を 確 認 で き る 。 被 験
者となる生徒に学級や教科に関するコメントを記述させ、全教職員にフィードバ
ックできるようにした方がよいのではないか。文章による評価は、“生徒の声”
が反映するので、ある意味、厳しさを持っているが、自助努力し、自己の向上を
図り続けるという点で効果的。無記名がよいかどうかも議論しておきたい。
・学年によって評価に差が出る。中高共に1年は高く、2年で下がり、3年でまた
上がるのが一般的傾向。心身ともに安定する上級学年になるにつれて満足度が上
がるようだ。また、年2回の実施を通じて改善すべき点がどう変化しているのか
客観的に見ることも必要。生徒の力で“助けられている”ことや実施直前に宿題
を減らして楽をさせれば評価が上がるなど、まだまだ効果的な活用ができていな
いように思う。
・集中して評価を記述できる生徒とできない生徒がいる。“受験勉強”に特化
しているコースの生徒は短期集中的取り組みに慣れているせいか、記述が早
い。全体的には1年=期待値、2年=中だるみ、3年=進路意識向上という
傾向。習熟度、年齢によって生徒の目線が変わるので、学年によって発問形
式を変えることも考えてみてはどうか。生徒個々の入学時の期待度に反映し
ているように思える。現段階では、生徒の発達段階に応じて、評価の活かし
方を検討することが第一歩。
・ 調 査 用 紙 の 配 布 者 及 び 記 入 の 指 導 が 担 任 で あ る こ と が 適 当 で あ る の か 否 か 。 HR
の時間を利用して書かせているので、時間的な余裕があるのか否か。調査開始か
ら終了までの説明の文言に統一したマニュアルが必要ではなかろうか。話しすぎ
る教員もいるし、説明をまったくしない教員もいる。温度差解消が急務である。
言葉のかけ方ひとつで数値が変わることもある。結果を鵜呑みにしてよいものか
どうか。
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・担任教員も評価の対象となっているが、生徒にとって無言の圧力がかかっていな
いだろうか。第三者によってアンケートを取った方がよいのではないか。また、
学校全体の評価という観点からクラブ指導者(監督・コーチ等)に対する評価も
加えるべきではないか。
・ ア ン ケ ー ト に 答 え る 時 間 は 10 分 が 限 界 だ と 思 う 。 最 初 の 5 分 は 真 面 目 に 取 り 組
んでいる が 、後 半にな ると集中 度の 欠 ける生 徒が多い ような 気がす る。設問
は厳選する必要がある。また、生徒の捉え方に温度差が生じるのは言うに及
ばず、正確な評価という点で何か工夫が要ると思う。例えば、各教科に対す
る自由記述で、生徒の素直な気持ちを文面に反映させるのはどうか。「あな
たの一言が私たちの教育の励ましになります」というフレーズを加えること
で前向きな取り組みができるようになってきた。記述責任と教育効果という
点で、生徒には「自分の反省点を書きなさい」という項目も設けている。
・保護者からもアンケートをとり、保護者会でフィードバックしてはどうか。
また、保護者会の回数を増やして、報連相を密にすることによって、より的
確な評価を得られるのではないだろうか。
・組織力を反映させる学校評価と個人の力量を判定する個別評価では対象が異
なるため、自ずとめざす方向性も異なってくる。書き手である生徒は対象が
学校全体、もしくはその中での自分の成長度合いと認識してはいるが、設問
によっては誰が対象かわかりにくい場合もある。選択肢で「やや思う」の項
目を研究する必要があるのではないか。
・アンケートには記述欄があるが、記述するのは数パーセント。ポジティブな
ものとネガティブなものに分かれるが、「この学校に入ってよかった。本当
にありが とうご ざいま した!」 など、 肯定的 な意見が 多いの も 事実 。 1単位
ものについては評価するのに十分な時間がとれていない。宗 門関係 学校とい う
ことで心の教育に関する設問を加えたほうがよいのではないか。
■ 学校間評価
・学校評価そのものが目的化しないように、教職員、保護者、生徒に周知徹底し、
よりよい学校づくりの資料、つまり改善の資料とする旨、「報告・連絡・相談」
を密にする体制づくりが不可欠。具体的に言えば、質問すべてが学校や教員につ
いて聞いているが、聞かれている側の立場に立てば、数値化して判断する情報が
少 な く 、質 問 も 定 義 が は っ き り し な い も の も あ り 、改 善 を 意 識 し た 段 取 り が 必 要 。
・学 校 評 価 、学 力 調 査 、学 校 選 択 制 と い う「 三 位 一 体 改 革 」が 潮 流 と な っ て い る が 、
学 校 評 価 を ど う 学 力 向 上 に つ な げ て い く か 、現 行 カ リ キ ュ ラ ム を 自 律 学 習 で き る
よ う な 内 容 に シ フ ト す る 必 要 が あ る の で は な い か 。ゆ と り 教 育 や 総 合 的 学 習 に よ
る 学 び へ の 倦 怠 感 や 閉 塞 感 が 学 ば な い 現 象 を 起 こ し て い る の は 周 知 の 通 り 。定 期
考査をしたり、保護者会を開いたり、クラス通信を出したりといった、あるいは
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進 路 保 障 な ど 、通 常 の 学 校 シ ス テ ム も あ る 意 味 、外 部 評 価 を 受 け て い る よ う な も
のであるからこの検証も重要なファクターとなる。
・統計分析の技術が進展している今日、全生徒、全保護者、全教職員からデータを
取る必要があるのか。サンプル調査でもよいのではないか。その意味で、妥当性
のある標準化された評価にするためには、テスティングの専門家に一部委託する
のも一策。ただし、丸投げするのではなく、私学の独自性という点で、管理職が
しっかり目を通し、学校主体の策定が基本であることは言うまでもない。
・学 校 評 価 は 、基 本 的 に は 教 育 行 政 シ ス テ ム に 主 眼 を 置 く べ き で は な い か 。例 え ば 、
現 在 の 授 業 時 間 数 は 学 力 伸 長 に 適 切 な も の か 、あ る い は 、図 書 館 に は 自 分 の 調 べ
た い 蔵 書 が 十 分 あ る か な ど 、行 政 面 へ の 評 価 も 必 要 だ と 思 う 。ま た 、一 般 的 ・ 抽
象 的 な 問 い 方 は 、そ う い う 時 も あ る が 、そ う で な い 場 合 も あ る と い う 反 応 に な る
の で 注 意 。相 対 的 に 見 て ま ず は 建 学 の 精 神 を 具 現 化 で き る 人 づ く り 、さ ら に ビ ジ
ョ ン に 基 づ く 教 職 員 の 自 己 評 価 が あ っ て 、学 校 関 係 者 評 価 、さ ら に 第 三 者 評 価 と
い う 仕 組 み に す る の が よ い の で は な い か 。 1970 年 代 の ア メ リ カ の 大 学 に お い て
入 学 者 減 、中 退 者 増 と い う 状 況 を 受 け て 、入 学 か ら 卒 業 後 ま で を 一 貫 し て サ ポ ー
ト し て い く エ ン ロ ー ル メ ン ト・マ ネ ジ メ ン ト と い う 手 法 を 私 立 中 高 現 場 に 導 入 す
ることは時代に即応した合理的かつ興味深い取り組みであると思われる。
■ 総括
・スタートラインは、学校の「強み」「弱み」といった学校を取り巻く外部要因の
把握というニーズ分析を行い、自校の教育活動の行き着くところ、つまり、ミッ
ションをおさえ、未来像となるビジョンを構築、それを具体化して、中期及び短
期経営目標へ。経営計画に続いて、評価計画も必要。ここでは、評価すべき目標
と手段、方法を明確化し、実施の進行管理(モニタリング)や外部評価計画を年
間 ス ケ ジ ュ ー ル の 落 と し 込 ん で お か な け れ ば な ら な い 。同 時 に 外 に 向 か っ て W e b
ページを活かした学校情報の積極的な発信と地域との交流は今や常識。
・生徒個々の学力向上に向けて、成果目標と努力目標の区別が必要。前者は、授業
理解度、満足度に対して教師の指導力の変化が授業改善につながり、テスト、作
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文、発表など生徒の表現力や総合力の変化が学力向上につながるというもの。後
者 は 、 シ ラ バ ス ・ チ ェ ッ ク 、 公 開 授 業 、 T T 実 施 な ど 校 内 体 制 の 強 化 に 加 え て 、教
員の校内外研修参加、生徒の学習習慣・態度の改善がポイントになる。
・ PDCA サ イ ク ル の 確 立 、 ビ ジ ョ ン の 作 成 と 明 確 化 、 共 有 化 に は 、 管 理 職 と 教 職 員
の中間的立場に立つ部長・主任クラスが経営方針や活動の方向性を全スタッフに
周知徹底する助言をしたり、現場の意見を吸い上げ、管理職と“報連相”するな
ど、組織の意志疎通を円滑にして全体の活性化をはかる体制づくりが必要ではな
かろうか。
・学校における教育活動の改善が目的であることを常に念頭に置きつつ、検証した
い仮説を立て、それを立証していくまでの道筋を最初から見通しておくことが大
切。単純集計が出てからの処理、つまり、入手できたデータを最大限活かしきれ
ていない例が多いと聞く。それ相応の時間と労力を費やすのだから情報の有効活
用を行うべきだと思う。管理職を中心とした分析チームをつくるべきではなかろ
うか。今後、データ分析には、●●という質問には△△と答えた生徒が、〇〇と
い う 質 問 に は ××と 答 え た 、 と い う よ う な ク ロ ス 集 計 も 必 要 で は な い か 。
・学校評価を意欲的なものにするために、まずはやりやすいところから取り組み、
スモールステップによる成果を確認しあいながら適宜、丁寧に情報発信していく
姿勢が重要。課題を絞り込み、評価につなげていくためには、保護者会や地域の
人々から意見を聞いたり、課題の職員室掲示や教員同士の日頃の励ましあいの中
から気づきやアイデアを引き出す努力も問われる。評価結果の効果的な活用につ
い て は 、学 期 ご と の 振 り 返 り や S W O T 分 析 な ど の 手 法 を 活 用 す る の も よ い 。会 議
ではねらいを決めて協議し、振り返りと改善策については、すぐできることと次
年度に回すものを明確にしておくべき。建設的なアイデアを導くためには、時間
を 決 め て 、ブ レ ー ン ・ ス ト ー ミ ン グ 、 K J 法 な ど を 活 用 。学 校 の 自 己 点 検 、 評 価 の
位置づけについては、アンケートの取り方、日時、聞きたい内容をチェック。具
体策と今後の方針は、誰にどんな協力を得たいのか、ポイントを絞った公表を心
掛け、タイムリーな情報発信を行うことが肝要である。同時に第三者評価による
大局的視点での見解も活用する。
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Ⅴ 学校評価導入について
本校の特に中学の生徒募集において、少子化や公立中高一貫校の台頭によ
り 、大 学 付 属 校 化 も シ ナ ジ ー 効 果 と は な ら ず 、2010 年 以 降 2 年 連 続 で 定 員 充
足 率 が 50% 台 ま で 落 ち 込 み 、経 営 計 画 や 教 学 面 で の 実 践 方 法 そ の 他 諸 々 に つ
いて見直しが始まった。自発的な組織改善を図る一助として学校評価の制度
化 が 求 め ら れ て い た 時 代 背 景 も あ り 、 PDCA サ イ ク ル の 円 滑 な 機 能 に 伴 う 組
織 の エ ン パ ワ ー メ ン ト に 向 け て 201 2 年 か ら 「 学 校 評 価 」 を 導 入 す る こ と に
なった。グラフ2は、志願者、入学者及び定員充足率の推移を示したもので
あ る 。 入 学 者 の 減 少 に 伴 い 、 募 集 定 員 は 105 名 か ら 90 名 ( 2 009~ 2010)、
60 名 ( 2011~ 2013)、 90 名 ( 2014 年 ~ 現 在 ) と 変 化 し て い る が 、 充 足 率 は
学 則 定 員 150 名 で 算 出 し て い る 。 縦 軸 は 総 出 願 者 、 横 軸 が 年 度 、 折 れ 線 が 入
学 者 及 び 充 足 率 で あ る 。 2012 年 度 ま で は 50 % を 割 り 込 ん で い た 充 足 率 も
2013 年 67.3% 、 201 4 年 82.7% 、 2015 年 99.3% ま で 回 復 し て い る 。
グラフ2:入学者と充足率の相関
600
160
140
500
120
400
100
300
80
出願者
入学者
充足率
60
200
40
100
20
0
0
9
10
11
12
13
14
15
教職員のヒアリングやインタビューから課題として、単年度積み上げ、事
後 対 応 型 の 運 営 、“ 一 国 一 城 の 主 ”“ 学 級 王 国 ” 的 な 個 々 へ の 依 存 体 質 、 校 務
固定に伴う組織の硬直化、相互不干渉・前年踏襲の先送り体質、第三者によ
る指摘不足などが浮き彫りにされた。開かれた学校づくりと協働的職場風土
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への転換を目標に、教職員スタッフの育成指標として、ビジョン(中期・年
間・月間)と校務の有機的結合、事前管理とコンプライアンス、トップダウ
ン と ボ ト ム ア ッ プ の 融 合 、全 体 最 適 視 点 、OJT( On the Job Trai ning )と Off
JT( Off the Job Tra ining ) の バ ラ ン ス な ど の 定 点 観 測 も 含 め た マ ネ ジ メ ン
ト・サイクルを浸透させ、組織の自律化を試み、グランド・デザインの精度
を 高 め て い く こ と が 確 認 さ れ た 。 Table7 は 学 校 評 価 の フ ロ ー で あ る 。
Table 7 : 学 校 評 価 の フ ロ ー
( 2015 平 井 を 加 筆 ・ 修 正 )
サイクル
時期
内容
PLAN
3月
・ビジョン:経営計画及び教育指導計画(重点目標)
ト ラ イ ア ル・プ ラ ン
DO
4月
作 成 と 面 談( 部 門 別 目 標 ,個 人 目 標 )
・ 教 育 実 践 : PD C A サ イ ク ル ( 全 教 職 員 : 部 門 別 + 個 別 )
c f . 「 相 互 授 業 参 観 」「 教 員 研 修 会 」「 新 任 研 修 会 」「 新 担 任 研 修 会 」( 各 年 2 回 )
CHECK
9月
・「 授 業 業 満 足 度 調 査 」( 生 徒 )「 学 校 評 価 ア ン ケ ー ト 」( 生 徒 ・ 保 護 者 ・ 教 職 員 )
自己評価
「前期振り返りシート」作成(全教職員:部門別+個別)
・前期評価[中間報告]と指導面談(管理職⇒部門責任者⇒構成者)
修正・改善計画
職員会議にて部門別プレゼンテーション⇒後期実践
ACTION
10 月
・ 教 育 実 践 : PD C A サ イ ク ル ( 全 教 職 員 : 部 門 別 + 個 別 )
2月
・「 授 業 満 足 度 調 査 」「 学 校 評 価 ア ン ケ ー ト 」
自己評価 「前期振り返りシート」作成
・ 後 期 評 価[ 年 間 報 告 ]と 年 度 末 指 導 面 談( 管 理 職 ⇒ 部 門 責 任 者 ⇒ 構 成 者 )
学校関係者評価
学 校 評 価 実 施 報 告 作 成 と HP に て 公 表
cf. 学 校 関 係 者 評 価 委 員 会 : ア ン ケ ー ト 項 目 や 評 価 結 果 を 踏 ま え た 支 援 策 も 検 討
PLAN
3月
・第三者評価:学校評価システム再構築
3月
・次 年 度 ビ ジ ョ ン:修 正・改 善 か ら 経 営 計 画・教 育 指 導 計 画 を 策 定
職員会議にて部門別プレゼンテーション
【用語解説】
・「 ト ラ イ ア ル ・ プ ラ ン 」: 全 教 職 員 が 各 自 の 年 間 目 標 を 数 値 化 し て 本 校 オ リ ジ ナ ル の 自 己 評
価 用 計 画 書 に 落 と し こ み 、前 後 期 単 位 で P D CA サ イ ク ル が 展 開 で き る よ う に な っ て い る 。
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ゴ ー ル イ メ ー ジ 、成 長 ス テ ッ プ 、フ ォ ロ ー ア ッ プ 体 制 を 明 確 に し て 計 画 を 策 定 、ス ケ ジ ュ
ーリング、実践するといったフローチャートである。
・「 相 互 授 業 参 観 」: 他 の 教 師 の 授 業 を 見 学 し 、 積 極 的 な 意 見 交 換 ・ 助 言 を 通 じ て 、 教 科 横 断
的に授業力のスキル・アップを図る取り組みであり、年2回3週間実施。本校オリジナ
ル の C A N - DO 項 目 ( ビ ジ ュ ア ル 、 導 入 、 音 声 、 目 的 、 明 瞭 性 、 ア プ ロ ー チ 、 注 視 率 、 展
開、授業参加、指示、受験、教材、板書、達成度、応用力、満足度)に照らして情報共
有できる仕組みになっている。
・「 教 員 研 修 会 」: 全 教 職 員 を 対 象 に 年 2 回 実 施 。 前 後 期 の 振 り 返 り を 部 長 ・ 主 任 が 「 3 分 間
スピーチ」して方向性を共有、外部講師を招いて新知見を吸収したり、接続する大学と
の「 F D 懇 談 会 」に 充 て る こ と も あ る 。法 人 合 併 前 は 大 学 教 職 員 傍 聴 の「 公 開 職 員 会 議 」
を行った。
・「 新 任 研 修 会 」: 教 員 採 用 試 験 後 、内 定 者 に 対 し て 10 月 以 降 、月 1 回 の ペ ー ス で 実 施 。建 学
の精神に基づく指導のあり方から学級運営、教科指導等、教師としてのイロハを学ぶ場
になっている。
・「 新 担 任 研 修 会 」: 管 理 職 及 び 指 導 主 事 に よ り 新 担 任 を 対 象 に 実 施 。 ク ラ ス 経 営 に お け る ノ
ウハウにとどまらず、教師としてのイロハを再確認する場になっている。
・「 授 業 満 足 度 調 査 」: 振 り 返 り の 一 助 と し て 、 年 2 回 実 施 。 チ ェ ッ ク リ ス ト 方 式 で あ り 、 内
容 は 、理 解 度 、興 味 ・ 関 心 ・ 意 欲 、予 復 習 、考 査 ・ 模 試 、学 力 伸 長 実 感 、努 力 目 標 な ど 。
そ れ 以 外 に 、放 課 後 の「 ド ラ ゴ ン ゼ ミ 」( 大 学 受 験 対 策 講 座 )に つ い て も 年 2 回 ア ン ケ ー
ト実施、担当者に反映するようにしている。
・「 学 校 評 価 ア ン ケ ー ト 」: 対 象 は 生 徒 、 保 護 者 、 教 職 員 で 年 2 回 実 施 。 年 度 末 に は 「 第 三 者
評価」を行い、より客観的な視点から検証している。
・「 前 期( 後 期 )振 り 返 り シ ー ト 」: 前 期( 後 期 )を 振 り 返 り 、課 題 を 抽 出 し た 上 で 、後 期( 次
年度)への具体的な取り組みを部長、主任、担任が入力し、全教職員が共有できる仕組
み に な っ て い る 。 ま た 、「 振 り 返 り シ ー ト 」 の ダ イ ジ ェ ス ト 版 は 部 長 会 、 主 任 会 で 報 告 ・
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共有することになっている。
・「 前 期 ( 後 期 ) 評 価 [ 中 間 ( 年 間 ) 報 告 ]」: 前 期 ( 後 期 ) 終 了 段 階 で 「 振 り 返 り シ ー ト 」 に
まとめた内容を各自の「トライアル・プラン」と比較検討し、部長・主任は部門別に管
理職に報告、指導を受けた上で、教職員会議で発表する。その後、部長・主任は部内・
科内のメンバー個々にヒアリングし、助言する体制になっている。
・「 研 究 授 業 」: 教 科 教 育 法 の ブ ラ ッ シ ュ ・ ア ッ プ を 図 る た め に 年 2 回 10 教 科 で 実 施 。前 期 は
ベテラン、後期は若手教員が担当するケースが多い。授業後、教科内で反省会を開き、
ティーチング・スキルを共有する。また、個々の継続的テーマは「研究論集」にまとめ
て 発 表 す る 。 HP で 公 開 し て い る 5 教 科 の 「 C A N - D O リ ス ト 」 は 、 教 師 用 だ け で な く 、
生徒の振り返り用もあり、様々な場面で活用されている。
本 校 で は 以 下 の よ う な 学 校 評 価 に お け る 設 問( 2012 年 度 版 )を 設 定 し て い
るが、状況に応じて適宜改訂を加えている点もお断りしておく。
学
観点
項目
私学
建学の
の独
精神
自性
愛校心
教育
学習指 導要領
教育課程は、学習指導要領に沿って作成されている。
課程
教育計画
年間を通じた教育計画に従って、各教科・科目別の授業が展開されている。
HP の 活 用
教育活動について、ホームページや通信等で可能な範囲の情報
校
開か
経
建学の精神に基づく教育目標と方針が教職員、生徒、保護者に
よく浸透している。
在校生、卒業生は学校に誇りを持っている。
を公開する体制ができている。
れた
財務関係
財務諸表等を公開している。
学校
授業公開
保護者などへの公開授業や行事が公開されている。
地域交流
地域や地域住民との交流ができている。
教員間
営
設問
連
連携
教職員
携
連携
保護者
教 員 間 の 相 互 理 解 が な さ れ 、信 頼 関 係 の 下 、教 育 活 動 が 展 開 さ れ て い る 。職 員 会 議 は じ
め、学年、分掌、教科の会議は、課題検討と有用な情報交換の場として機能している。
教員と事務職員の相互理解がなされ、信頼関係の下、教育活動
が展開されている。
P TA 活 動 が 盛 ん で 、本 校 の 教 育 方 針 に 対 す る 保 護 者 の 理 解 と 協
15
連携
学
教員
校内研修
効 果 的 な OJT を 立 案 ・ 実 施 し 、 教 職 員 の 資 質 向 上 に 努 め て い る 。
研修
資質向上
「相互授業参観」
「 ト ラ イ ア ル プ ラ ン 」研 修 会 参 加 な ど を 通 じ て
校
経
資質向上に努めている。
危
役割分担
事故、災害等、非常事態に対処する役割分担が明確にされている。
機
講習訓練
AED の 講 習 、防 災 訓 練 等 を 通 じ て 、生 徒 ・ 教 職 員 の 防 災 ・ 安 全
管
営
理
意識を高めている。
個人情報
施設管理
個人情報の管理について、十分な配慮がなされている。
施設管理について、日常的に点検・補修を行い、常に適正に管理している。
生
学校生活
徒
校則の
「あじみそ運動」を通じて基本的生活習慣の確立に努めている。
指
遵守
校内外美化に取り組み、施設設備を大切にする心を養っている。
導
組織的
対応
教
育
力が進んでいる。
意識の
進
向上
路
情報の
指
活用
導
個別指導
生徒は学校生活を楽しんでいる。
生徒指導に組織的に対応する体制がある。
また、問題行動の防止に向け、早期指導を行っている。
生徒の適性に応じて個々の興味・関心を引き出し、学年に応じ
たキャリア教育を行っている。
生徒が適性に応じて進路選択できるように、必要な情報を収集
するなど、広く大学との交流を行っている。
生 徒 の 学 習 到 達 度 を 正 確 に 把 握 し 、客 観 分 析 と P D C A を 通 じ た
進路指導を行っている。
活
質的向上
授
動
業
担当者は、各教科のコース別到達目標に向かって、わかりやす
い授業、授業の工夫、改善を心がけている。
きめ細や
「 SUT 方 式 」 に よ る 積 み 残 し 解 消 プ ロ グ ラ ム が 構 築 さ れ て お
かな指導
り、宿題・提出物等の管理も行き届いている。
高大連携による高大接続授業が完備されている。
国際理解教育
人権教育
国際化時代に対応した教育活動を行っている。
人権侵害や差別意識の助長を許さない教育に努め、生徒の人格
が尊重されるように努めている。
環境教育
情報モラル
環境学習に取り組み、環境保護に対する実践に努めている。
情報の発信に伴う責任など、情報モラル面での教育に十分に取り組んでいる。
16
教
カウンセリ
不登校の生徒や心的問題を抱える生徒にカウンセラーの支援
体制がある。
育
そ
ング体制
活
の
部活動
動
他
特別活動
クラブ活動の役割を重視し、より多くの生徒が参加できるように体制を整えている。
それぞれの学校行事を年間指導計画の中の位置づけ、生徒が積
極的に参加できるように努めている。
現 在 の 学 校 評 価 は 、英 米 の よ う な 大 規 模 な 監 査 機 構 的 ア プ ロ ー チ が 求 め ら れ
ているわけではないため、校務負担が増す、第三者評価に際して統一的組織
デ ー タ を 整 備 す る 必 要 が あ る な ど 、調 整 し な け れ ば な ら な い 点 も 残 っ て い る 。
本 校 で は こ れ ま で 3 ヵ 年 の デ ー タ( 24 年 度 : 1 回 、25 年 度 : 2 回 、26 年 度 :
2 回 )を 蓄 積 し て い る が 、こ こ で は 平 成 26 年 度 に つ い て の み 言 及 し 、3 ヶ 年
比較は別の機会に譲る。
■ 平 成 26 年 度 学 校 評 価 実 施 に 向 け て ( 第 三 者 評 価 を 受 け て )
全体的には、達成度の数値が向上しており、進歩が見られる。教職員・
保護者の数値が高いのは、教職員のモチベーションの高さや保護者の期待
値の高さを伺わせるが、生徒の数値が思ったほど伸びておらず、数値の乖
離 現 象 が 生 じ て い る 。例 え ば 、
「 あ じ み そ 運 動 」を 通 じ て の 基 本 的 生 活 習 慣
の確立については、教職員・保護者とも達成していると判断しているが、
生徒には出来ていないと判断している者もいる。また、教職員の教育目標
やその達成状況は高い数値が出ているが、生徒の進路指導に対する意識や
評価が満足すべきものには至っていない。
26 年 度 に つ い て は 、 25 年 度 に 指 摘 さ れ た 内 容 を さ ら に 精 査 し た 上 で 、
学 年・分 掌・教 科 に 中 期 ビ ジ ョ ン に 基 づ く 年 間 計 画 を 落 と し 込 み 、
「トライ
ア ル ・ プ ラ ン 」 に お け る PDCA サ イ ク ル を 円 滑 に 機 能 さ せ 、 よ り 組 織 的 な
教育活動を展開することによって、心の教育を通じた社会に通用する人間
づくりに注力する。
■ 平 成 26 年 度 達 成 状 況 と 課 題
・ 教 職 員 の 達 成 率 が 8 0%を 超 え る 項 目 が 半 分 以 上 あ り 、 意 識 の 改 革 が 浸 透
し て い る 。( 注 ) 達 成 率 と は 、 設 問 に 対 し て 「( よ く ) あ て は ま る 」 と 回 答 し た 人 数 を 総
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数で割ったものである。
・ 保 護 者 の 平 均 達 成 率 が 中 学 ・ 高 校 と も 8 0%と 高 い 状 態 で 推 移 し て お り 、
期待値の高さが見てとれる。
・教職員:改善しているが、以下については、対策を講じる必要がある。
① 事故・災害等の非常事態への対応
② 環境学習への取り組み
③ 地域や地域住民との交流
・ 生 徒 : 平 均 達 成 率 は 中 学 68%、 高 校 64 %で 推 移 し て お り 、 高 校 は 改 善 。
中学は先生に気楽に相談できる雰囲気や進路指導等で伸び悩んでいる点
が課題。高校は、以下の3点について対策を講じる必要がある。
① 伸びの実感
② 先生と保護者の連携
③ 防災・安全意識
■「学校評価」から抽出した課題から構築した次年度のテーマ
2015 テ ー マ : 「 学 力 の 伸 長 と 伸 び の 実 感 」
■ 次年度への取り組み
(1) 共 通 テ ー マ : 基 本 的 生 活 習 慣 の 確 立 と 「 あ じ み そ 運 動 」 の 徹 底
* 「 あ じ み そ 運 動 」:「 挨 拶 」「 時 間 」「 身 な り 」「 掃 除 」 の 頭 文 字 を と っ た も の で あ る 。
・全体への目配り ⇒“叱る時は叱る、ほめる時はほめる”指導
・生徒とのコミュニケーション深化
⇒ 先生に気楽に相談できる雰囲気づくりと内面理解
(2) 学 級 経 営 に お け る 重 点 テ ー マ : 「 こ こ ろ の 教 育 」
・ 目 標 達 成 に 役 立 つ 学 習 ・ 進 路 指 導 と 個 別 フ ォ ロ ー ( PDCA サ イ ク ル )
⇒ 考 査 ・ 模 試 デ ー タ の 活 用 、 「 CAN-DO リ ス ト 」 の 活 用
・教室内の環境、清掃活動、環境美化、防災・安全意識
・ SHR や LHR の 活 用 、 生 徒 会 活 動 の 推 進 ⇒ す べ て が 有 益 な 教 育 活 動
・ 必 要 に 応 じ た 教 職 員 と 保 護 者 の 連 携 , HP の 情 報 活 用
(3) 教 科 指 導 に お け る 重 点 テ ー マ : 「 授 業 の 充 実 」 ( で き る ま で 面 倒 を 見 る )
・授業や板書の工夫、教科に対する興味・関心、予復習時間の確保
18
⇒「相互授業参観」「研究授業」「模試分析会」「模試分析通信」
「進路ガイダンス」の活用
・目標達成に役立つ学習指導と個別フォロー:「積み残しゼロ運動」
⇒ 定 期 考 査 と 「 CAN-DO リ ス ト 」 、 シ ラ バ ス の 整 合 、 誤 答 分 析 と
類題演習、小テスト
本校の建学の精神は、親鸞聖人のみ教えをもとに「特に仏教精神に基づく
情 操 教 育 を 行 う 」 で あ り 、「 三 つ の 大 切 」、 即 ち 、 こ と ば を 大 切 に ( 正 確 な こ
と ば 、や さ し い こ と ば 、て い ね い な こ と ば )、じ か ん を 大 切 に( 今 と い う じ か
ん 、青 春 と い う じ か ん 、人 生 と い う じ か ん )、い の ち を 大 切 に( い た だ い て い
るいのち、願われているいのち、支えられているいのち)に基づく教育活動
を展開している。
あ ら ゆ る 教 育 活 動 に お け る PDCA サ イ ク ル の 円 滑 な 機 能 に 向 け て 、 2 012
年後期から学校評価を導入し、4年目を迎えるが、改善につなげる前提とし
て、時代の潮流に対応する新しい取り組みを積極的に行い、組織運営をより
良質なものにしていこうという学びの文化・風土を醸成していくことが不可
欠である。また、そこには学校全体のあり方の変容を解発するポテンシャル
を備えたものがあり、そのポテンシャルが現実的な力を発揮し、組織経営の
自律化を促すストラテジーとなるようさらなる研鑽を重ねていきたい。
注
( 1) 学 習 指 導 要 領 に 示 さ れ て い る 内 容 は 、 す べ て の 生 徒 に 指 導 し な け れ ば な ら な い
も の で あ る と 同 時 に 、個 に 応 じ た 指 導 を 充 実 す る 観 点 か ら 、学 習 状 況 な ど そ の 実
態 に 応 じ て 、学 習 指 導 要 領 に 示 さ れ て い な い 内 容 を 加 え て 指 導 す る こ と も 可 能 で
あることが告示されている。
( 2) 偏 差 値 は 母 集 団 の 多 い 駸 々 堂 の 模 試 を ベ ー ス に し て い る 。
( 3) 倉 元( 2 0 05 )は 遡 及 効 果 を「 テ ス ト の 形 式 や 内 容 が 教 育 内 容 を 逆 に 規 定 し ま う 現
象 」と し て い る 。西 郡( 20 1 2 )は 、受 験 経 験 お け る 成 長 感 を「 忍 耐 力 」
「集中力」
「 感 謝 の 心 」「 思 考 力 」 等 、 1 4 の カ テ ゴ リ ー に 分 類 し て い る 。
参考文献
19
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『 日 本 私 学 教 育 研 究 所 紀 要 第 50 号 』
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評価とをつなぐ新しい学校評価システムの構築』学事出版
20
実践報告
建学の精神に基づく宗教教育と授業展開について
宗教科
楠
深水
Shinsu i Kusu noki
キーワード:建学の精神、今月の言葉・聖語、縁起、いのちを大切に
Ⅰ はじめに
本校の建学の精神は、浄土真宗の精神であり、浄土真宗本願寺派の宗門校
と し て 、教 育 基 本 法 ・ 学 校 教 育 法 に 従 い 、中 等 及 び 高 等 普 通 教 育 を 施 し 、
「特
に仏教精神に基く情操教育を行う」ことにある。これを具現化する手だてと
し て 、学 園 生 活 を 送 る 生 徒 た ち の 心 に ご く 自 然 な 形 で 染 み 込 む よ う に 、
「こと
ばを大切に」
( 正 確 な 言 葉 、や さ し い 言 葉 、て い ね い な 言 葉 )、
「じかんを大切
に 」( 今 と い う 時 間 、 青 春 と い う 時 間 、 人 生 と い う 時 間 )、「 い の ち を 大 切 に 」
(いただいているいのち、願われているいのち、支えられているいのち)の
3 つの大切を根底においた教育活動を展開している。
こうした建学の精神をすべての教育活動の根底におく本校では、宗教科の
授 業 を 必 修 と す る と と も に 、お 釈 迦 さ ま の 誕 生 を 祝 う「 花 ま つ り 」、悟 り を 開
き 仏 に 成 ら れ た こ と を 祝 う「 成 道 会 」、入 滅 し て 安 ら か な 悟 り の 世 界 に 入 ら れ
た こ と を 記 念 す る 「 涅 槃 会 」、 親 鸞 聖 人 の 誕 生 を 祝 う 「 降 誕 会 」、 親 鸞 聖 人 の
ご恩に報じる「報恩講」という、年間 5 回の仏教行事には全校あげて参加し
ている。さらに、入学式・卒業式も仏式で挙行し、徹底した仏教教育を貫い
て い る 。(『 学 校 要 覧 』 参 照 )
以上のことから、建学の精神に基づく情操教育が本校の柱であり、その実
践に教科として携わる宗教科は、大きな役割を担っていると言うことが出来
る。
本稿において、
「 宗 教 教 育 」と「 授 業 展 開 」と い う 2 つ の 側 面 か ら 、現 在 行
っている実践内容についてまとめてみる。
Ⅱ 宗教教育について
本 校 に は 、宗 教 教 育 係 と い う 校 務 分 掌 が あ り 、基 本 方 針 は 、
「学園生活を通
して建学の精神の具現化を啓蒙し、豊かな人間性、夢や理想の実現に向かっ
21
て生きる力、志を持って自立していく為に必要な能力、よりよい社会を創っ
ていく態度の育成に努める」である。活動内容は、仏教行事の運営(京都中
学 高 等 学 校 仏 教 青 年 会 連 盟 も 含 む )、仏 教 行 事 や 仏 参 の 法 話 、講 話 を 一 冊 の 本
に ま と め た『 明 る い 朝 』の 編 集 と 発 行 、
「 今 月 の 言 葉 」・「 今 月 の 聖 語 」の 発 信
とその紹介文の作成等である。本稿ではこの中で、生徒に向けて毎月発信し
て い る 「 今 月 の 聖 語 」・「 今 月 の 言 葉 」 に 焦 点 を 当 て 、 実 践 報 告 を 行 い た い 。
「 今 月 の 言 葉 」( 写 真 1 参 照 ) と は 、 毎 月 ホ ー ム ル ー ム 教 室 に 掲 示 を 行 う
も の で あ り 、「 今 月 の 聖 語 」( 写 真 2 参 照 ) は 、 学 校 の 正 門 に あ る 聖 語 板 に 毎
月記載する聖語のことである。
「 今 月 の 言 葉 」は 、仏 教 者 の 詩 や 言 葉 等 か ら 文
面 的 に も 生 徒 に と っ て 理 解 し や す い 言 葉 を 選 出 し て い る 。「 今 月 の 聖 語 」 は 、
親鸞聖人や仏陀の言葉を中心に、
「 こ と ば を 大 切 に 」、
「 じ か ん を 大 切 に 」、
「い
の ち を 大 切 に 」の 3 つ の 大 切 と い う 要 素 も 踏 ま え な が ら 選 び 、発 信 し て い る 。
登下校の際、またホームルーム教室で自然に生徒の目に触れる機会も多いこ
とから、言葉や聖語の発信だけでなく、紹介文も作成し、掲示している。
【写真 1
【写真 2
今月の言葉と紹介文】
※ 各教室掲示
※
今月の聖語】
学校正門聖語板
実 際 に 2014 年 度 の 1 年 間 に 発 信 し た 「 今 月 の 言 葉 」、「 今 月 の 聖 語 」 を 下
にまとめてみることにする。
22
【資料 1
2014 年
今月の言葉一覧】
4 月
善 い こ と ば を 口 に 出 せ 。悪 い こ と ば を 口 に 出 す な 。善 い こ と ば を 口 に 出 し た ほ う が 良 い 。
悪いことばを口に出すと、悩みをもたらす。
2014 年
『ウダーナヴァルガ』
5 月
一切の有情は、みなもつて世々生々の父母兄弟なり。
2014 年
6 月
わが心にまかせずしてこころをせめよ。
2014 年
『歎異抄』
『蓮如上人御一代記聞書』
7 月
水よく石をうがつ。
2014 年
蓮如上人
8 月
念ずれば花ひらく。
2014 年
坂村真民
9 月
たった一言が人の心を傷つける
2014 年
たった一言が人の心をうるおす。
殿村進
10 月
人 が 生 ま れ た と き に は 、実 に 口 の 中 に は 斧 が 生 じ て い る 。愚 者 は 悪 口 を 言 っ て 、そ の 斧
によって自分を斬り割くのである。
2014 年
『スッタニパータ』
11 月
真理の一言は悪業を転じて善業と成す。
2014 年
『楽邦文類』
12 月
ひとつの言葉でけんかして
ひとつの言葉で仲なおり。
ひとつの言葉はそれぞれに
ひとつのこころをもっている。
2015 年
1 月
遇いがたくして
今遇うことを得たり、
聞きがたくして
すでに聞くことを得たり。
2015 年
『教行信証』
2 月
根を養えば樹は自ら育つ。
2015年
吉野弘
東井義雄
3月
再び通らぬ 一度きりの尊い道を いま歩いている。
23
榎本栄一
【資料 2
2014 年
今月の聖語一覧】
4 月
自分の目的を熟知して、自分のつとめに専念せよ。
2014 年
『ダンマパダ』
5 月
前 に 生 ま れ ん 者 は 後 を 導 き 、後 に 生 ま れ ん 者 は 前 を 訪 え 。
2014 年
6 月
自己こそ自分の主である。他人がどうして(自分の)主であろうか。
2014 年
『教行信証』
『ダンマパダ』
7 月
他人の過失を見るなかれ。他人のしたこととしなかったことを見るな。
ただ自分のしたこととしなかったことだけを見よ。
2014 年
『ダンマパダ』
8 月
怠りなまけて、気力もなく百年生きるよりは
堅固につとめ励んで一日生きる方が優れている。
2014 年
『ダンマパダ』
9 月
怨みに報いるに怨みをもってしたならば、ついに怨みのやむことがない。
『ダンマパダ』
2014 年
10 月
人の生を受くるは難く
2014 年
やがて死すべきものの
今生命あるは有り難し。
『法句経』
11 月
人のわろきことはよくよくみゆるなり。
わが身のわろきことはおぼえざるなり。
2014 年
12 月
善き人々は
2015 年
遠くにいても輝く‐雪を頂く高山のように。
『ダンマパダ』
1 月
足ることを知らない者は
2015 年
蓮如上人
富んでいても貧しい。
『遺教経』
2 月
ジャスミンの花が萎れた花びらを捨て落とすように、貪りと怒りとを捨て去れよ。
『ダンマパダ』
2015年
3月
ただそしられるだけの人、またただほめられるだけの人は、過去にもいなかったし、
未来にもいないであろう、 現在にもいない。
24
『ダンマパダ』
これらの言葉を発信するに当たり、毎月教室掲示を行っている紹介文の一
例 を 挙 げ て お く 。 以 下 は 2014 年 10 月 の も の で あ る 。
【資料 3
2014 年
今月の言葉・聖語の紹介文】
10 月
「今月の言葉」と「今月の聖語」についての紹介
今月の言葉
人 が 生 ま れ た と き に は 、実 に 口 の 中 に は 斧 が 生 じ て い る 。愚 者 は 悪 口 を 言 っ て 、そ の 斧
によって自分を斬り割くのである。
「人に七癖
我が身に八癖」
『スッタニパータ』
他 人 の 癖 は 目 に つ き や す く 、案 外 自 分 の 癖 は 自 分 で は
気 が つ か な い も の で あ る 。だ か ら 自 分 に は 他 人 以 上 の 癖 が あ る も の だ と 心 得 な い と い け
ないということを示す諺です。
言葉が人を傷つける武器になることは、頭では充分理解していることだと思います。
し か し な が ら 、私 た ち は 先 の 諺 の よ う に 、人 の 欠 点 が よ く 見 え る こ と か ら 、自 分 の こ と
は棚に上げ、時として人の悪口を言ってしまうこともあります。
ここで釈尊は、口の中にある斧で斬り割くのは他者ではなく自分自身だと言います。
ひ ょ っ と し た ら 、み な さ ん の な か に も 口 の 中 の 斧 に よ っ て 苦 い 経 験 を し た 人 が い る か も
知れません。日常で口に発する言葉を改めて見つめ直すように教えられる言葉ですね。
今月の聖語
い のち
人の生を受くるは難く
やがて死すべきものの
今生命あるは有り難し。
『法句経』
釈 尊 の 教 え に 次 の よ う な も の が あ り ま す 。あ る 時 釈 尊 は 、大 地 の 砂 を 手 に す く い 、弟
子 た ち に 次 の よ う に 質 問 し ま し た 。「 こ の 手 の ひ ら の 砂 の 数 と 大 地 の 砂 の 数 は 、 ど ち ら
が 多 い で し ょ う 。」こ の 問 い に 対 し 、弟 子 は 答 え ま し た 。
「もちろん大地の砂の数の方が
多 い で す 。」 す る と 釈 尊 は 、 静 か に う な ず か れ て 、「 そ の 通 り で す 。 こ の 世 の 中 に 生 き て
いるものは大地の砂の数くらいたくさんいるけど、人間としていのちを恵まれるもの
は 、 手 の ひ ら の 砂 の 数 ほ ど わ ず か な も の だ よ 。」 と 答 え ら れ ま し た 。
こ の 世 に は 多 く の 生 物 が 生 き て お り 、そ の 中 で 、今 人 間 と し て 生 き て い る こ と の 有 り
難 さ 、不 思 議 さ を 改 め て 実 感 さ せ ら れ ま す 。数 え 切 れ な い ほ ど の ご 縁 で 人 と し て こ の 世
に 生 ま れ 、そ し て 限 り あ る「 い の ち 」を 今 こ う し て 生 き て い ま す 。普 段 過 ご し て い る 一
日が、実は大変尊いものだと再認識させられる言葉ですね。
合掌
25
まとめ
以上のように、宗教教育の 1 つの側面として、日々の学校生活で生徒の目
に触れるよう親鸞聖人や仏陀の言葉をはじめとする様々な言葉を毎月更新し、
また同時に紹介文も発信している。宗教の授業だけでなく、日常のなかで自
然と目に触れる機会が多いこれらの言葉・聖語は、宗教教育という点で非常
に重要な役割を担っていると考える。従って、選出する言葉の精査、そして
紹介文の内容の充実に今後も努めていかなければならない。
在学中に発信してきた言葉・聖語を卒業後にも触れることが出来るよう、
卒 業 時 に は 1 冊 の 冊 子( 写 真 3・ 4 参 照 )に ま と め 、卒 業 生 全 員 に 配 布 を し て
いる。生徒の今後の人生において、仏教の言葉が詰まったこの 1 冊が、直面
している問題の解決への糸口となれば幸いである。
【 写 真 3( 左 )・ 写 真 4( 右 )
今 月 の 言 葉 ・ 聖 語 の 冊 子( 左 ・ 表 紙
右 ・ 内 容 )】
Ⅲ 授業展開について
本 校 の 建 学 の 精 神 の 具 現 化 で あ る 3 つ の 大 切(「 こ と ば を 大 切 に 」、
「じかん
を 大 切 に 」、「 い の ち を 大 切 に 」) の う ち 、「 い の ち を 大 切 に 」 を 踏 ま え た 高 校
2 年生の授業展開の実践報告を行いたい。
・教材
授 業 で 使 用 す る 教 材 は 、龍 谷 総 合 学 園 に て 編 集 さ れ た 高 校 生 対 象 の『 見 真 』
を 用 い る 。宗 教 の 授 業 は 、こ の 1 冊 を 3 年 間 用 い 授 業 を 行 う 。今 回 の 単 元 は 、
「第 2 章 釈尊とその教え
2 節 釈尊の教え
26
1 縁起」である。
・仏教の教えを学ぶにあたって
仏 教 の 出 発 点 は 、釈 尊 が 生 老 病 死 で あ る 四 苦 の 克 服 を 求 め る こ と に 始 ま る 。
従って、仏教を学ぶということは、人生のなかで避けて通ることが出来ない
四苦に代表される苦を如何に乗り越えていくかを問うものであり、自分自身
の生き方や姿を深く見つめていくことに大きな意義があると考える。授業を
受ける生徒の大半がこれから初めて仏教の教えに触れ、学ぶことになる。教
えが単なる語句の暗記になることなく、生徒 1 人ひとりが自分自身の姿を見
つめるきっかけとなる授業展開に注意が必要である。
・縁起
縁 起 と い う と 、 世 間 一 般 で は 「 縁 起 が 良 い 」、「 縁 起 が 悪 い 」 と 言 わ れ る こ
とが多い。物事の起こる前兆を指して使われる言葉であるが、仏教的な理解
で は 、そ れ は 正 し い も の で は な い 。縁 起 と は 、
「 因 縁 生 起 」と い う こ と で 、あ
らゆるものは単独で存在するのではなく、必ず直接的原因(因)と間接的条
件(縁)が、相互に関わり合って存在し、変化するということである。した
がって、自分一人で存在していると思いがちであるが、すべてのものは相互
に関係し合いながら成り立っている。私たちが生きることは多くの人の支え
や恵みによって生かされていると言うことが出来るのである。
○授業方法
主体的、能動的に学ぶことを目的とし、この授業ではグループワークを用
いた授業展開を行った。グループはこちらが指定し、3 名もしくは 4 名を 1
グループとした。授業展開上、一方的に教師側から発信することも可能では
あるが、自分自身の生き方に結びつけることが今回の目的であることから、
主体的、能動的に学ぶ機会としてグループワークで展開をした。同じグルー
プの生徒同士が意見や体験を共有する中で、新たな発見が生まれ、そこに学
びの深まりが期待できると考えたからである。
・グループワーク①
世 間 一 般 で 使 わ れ る 縁 起 の 使 い 方 に つ い て 確 認 を し た 。日 常 で 耳 に す る「 縁
起 が 良 い 」、「 縁 起 が 悪 い 」 と い う 内 容 を 書 き 出 し て い く 作 業 を 行 っ た 。 仏 教
の「縁起」について学ぶ前に、敢えて日常の中で使われている「縁起」につ
27
いて触れることにした。そして、次の展開では、仏教が説く「縁起」につい
て学び、その学びを生徒自身の生活や生き方に繋げるため、グループワーク
②を行った。
・グループワーク②
以 下 の 6 項 目 を 挙 げ 、こ の 内 容 を 今 回 の 授 業 お い て 重 要 項 目 と し て 位 置 付
けた。6 項目を 3 項目ずつに分け、配布プリントには表 1 と表 2 という形式
にした。そして、それぞれの作業後に感想を書く欄を設けた。このグループ
ワークは、山下文夫著『生と死の教育』を参照し、一部内容を変えて授業展
開を行った。
表 1
( 1) 今 ま で お 世 話 に な っ た 人
( 2) 今 ま で お 世 話 を し た 人
( 3) 衣 食 住 で い た だ い た い の ち
表 2
( 4) 親 ( 保 護 者 ) に お 世 話 に な っ た こ と
( 5) 親 ( 保 護 者 ) に 迷 惑 を か け た こ と
( 6) 親 ( 保 護 者 ) に 返 し た こ と
私たちは、他との関わりなく、単独で存在することは不可能である。それ
は、人だけに限らず多くの生き物のいのちにも縁らなければ生きていくこと
が出来ないのである。そこで、自分自身を励まし、支えてくれている人につ
いて考え、また人だけでなく我々の日常に深く関係する衣食住についても触
れ る こ と に し た 。 項 目 ( 1) と ( 3 ) に つ い て は 、 順 調 に 書 き 進 め て い る 様 子
だ っ た が 、項 目( 2)の 欄 は 、生 徒 自 身 も 書 く こ と に 困 っ て い る 様 子 だ っ た 。
項 目 ( 4) 以 降 は 親 に つ い て 取 り 上 げ て い る 。 生 徒 に と っ て 特 に 関 わ り の
深い存在が親であろう。その関わりの深い存在である親に焦点を当て、様々
な こ と を 思 い 出 し な が ら 項 目 ( 4) と ( 5 ) を 埋 め て い く 作 業 を 行 っ た 。 項 目
( 6) は 項 目 ( 2 ) と 同 様 に 、 書 く 内 容 が 思 い 浮 か ば ず 、 苦 労 し て い る 生 徒 も
見受けられた。
28
まとめ
建学の精神の具現化の 1 つである「いのちを大切に」には、3 つの事柄を
挙げている。
( 1) い た だ い て い る い の ち
( 2) 願 わ れ て い る い の ち
( 3) 支 え ら れ て い る い の ち
今 回 の 授 業 で は 仏 教 の 教 え で あ る 縁 起 か ら 、上 の 3 点 に つ い て 結 び つ け た 。
生徒自身が関わってきた人たちや、日常生活で切り離すことが出来ない衣食
住から、
「 い た だ い て い る い の ち 」、
「 支 え ら れ て い る い の ち 」へ と 繋 が り を 持
たせた。また、今回は敢えて親について項目を設けることで、一番身近な存
在 で あ る 親 の 存 在 に も 焦 点 を 当 て た 。「 願 わ れ て い る い の ち 」 と い う 点 で は 、
阿弥陀仏の本願について触れることも考えられるが、別の単元で浄土真宗の
教義を学ぶ機会があることから、今回の授業では、親の項目を「願われてい
るいのち」として扱うことにした。
授業の様子や感想を通して、生徒 1 人ひとりが、自分自身の生き方を見つ
め 、多 く の 支 え に よ っ て 生 か さ れ て い る い の ち で あ る こ と を 再 認 識 し 、
「いの
ち を 大 切 に 」と い う 建 学 の 精 神 の 一 端 を 考 え る 1 つ の き っ か け と な っ た よ う
に思われる。
【資料 4
授業指導案】
【授業クラス】
高校 2 年生
【単元名】
2 節 釈尊の教え 1 縁起
【単元の目的】
釈尊の悟られた真理である「縁起」を理解する。
【本時の内容】
① 世 間 一 般 で 捉 え ら れ て い る「 縁 起 」と 仏 教 が 説 く「 縁 起 」
の違いを学ぶ。
②私を取り巻く多くの人やものについて考える。
【本時の目的】
すべてはお互いに関わり合い、支えられながら存在すると
いう「縁起」の思想から、生かされているということを学
び、3 つの大切の 1 つ「いのちを大切に」に結びつける。
29
時間
学習内容
正座(静座)・礼
留意点
備考
姿 勢 を 正 し 、静 か な 状 況 の 中 で 号 令 の 合 図 を 出 す
導入
仏教の教えを学ぶにあたって心に留
プリント配布
5 分
める内容に触れる
展開 1
グループワーク①
グループ(3 名から 4 名)を組み、グル
席の移動
7 分
・世 間 一 般 で 捉 え ら れ て い る 縁 起 の 内 容 を
ープで意見を出し合う
机間巡視
プリントに埋める
・内容の共有
各班の意見を発表
展開 2
○「縁起」についての説明
重要個所にマーカーを入れるよう指示
10 分
・教科書を読み、空欄を埋める
・ 問 1、 問 2 の 解 説
・内容の共有
25 分
各班の意見を発表
グループワーク②
机間巡視
【内容】
生かされていることを認識するため
3 0 マ ス 用 意 し て い る の で 、意 見 を 出 し 合
の確認ワーク
い、1 つでも多く空欄を埋めていく
①今までお世話になった人
②今までお世話した人
③衣食住でいただいた命
④ 親( 保 護 者 )に お 世 話 に な っ た こ と
⑤親(保護者)に迷惑をかけたこと
⑥親(保護者)に返したこと
・内容の共有
各班の意見を発表
共感できる内容があれば各自追加記入
するよう指示
まとめ
表を埋めて考えたことを記入
3 分
今 回 の 授 業 内 容 が「 い の ち を 大 切 に 」に
繋がることを説明
正座(静座)・礼
姿 勢 を 正 し 、静 か な 状 況 の 中 で 号 令 の 合 図 を 出 す
30
席を元に戻す
○ 生徒の解答
( 1) 今 ま で お 世 話 に な っ た 人
家族、両親、祖父母、親戚、兄、姉、中 3 の頃の担任、近所の人、友
人 、小 学 校 の 校 長 先 生 、○ ○ 先 生 、保 育 園 の 先 生 、ク ラ ス の ○ ○ 君 、○
○ さ ん 、医 者 、中 学 時 代 の 部 活 の 顧 問 、先 輩 、塾 の 先 生 、地 域 の 方 々
等
( 2) 今 ま で お 世 話 を し た 人
両 親 、祖 父 母 、兄 、妹 、い と こ 、近 所 の 子 ど も 、○ ○ 君 、○ ○ さ ん 、部
活の後輩、児童館の子ども
等
( 3) 衣 食 住 で い た だ い た い の ち
米、豚肉、鶏肉、牛肉、トマト、大根、ブロッコリー、人参、りんご、
み か ん 、秋 刀 魚 、マ グ ロ 、イ カ 、た こ 、木( 紙 、家 、家 具 等 )、皮 ( 靴 ・
ベルト、鞄)
等
( 4) 親 ( 保 護 者 ) に お 世 話 に な っ た こ と
毎 日 弁 当 を 作 っ て も ら っ て い る 、相 談 に 乗 っ て く れ た 、働 い て く れ て い
る、今まで育ててくれた、悪いことは怒ってくれる、洗濯してくれる、
病 気 に な っ た ら 看 病 し て く れ る 、学 費 を 出 し て も ら っ て い る 、忘 れ 物 を
届 け て く れ た 、朝 起 こ し て も ら う 、試 合 の 応 援 に 来 て く れ る 、生 ん で く
れ た こ と 、習 い 事 を さ せ て く れ た 、学 校 の 送 り 迎 え 、入 院 し た と き 一 緒
に 泊 ま っ て く れ た 、自 分 の こ と よ り 私 を 大 切 に し て く れ た こ と 、ア イ ロ
ンがけ
等
( 5) 親 ( 保 護 者 ) に 迷 惑 を か け た こ と
反 抗 期 、帰 り が 遅 く な っ た 、わ が ま ま を 言 っ た 、嘘 を つ い た 、学 校 か ら
の呼び出し、病気にかかった、手伝いをしない、朝なかなか起きない、
家 の も の を 壊 し た 、親 と け ん か し た 、窓 を 割 っ て し ま っ た 、八 つ 当 た り
した、言うことを聞かない、学校の成績が悪かった
( 6) 親 ( 保 護 者 ) に 返 し た こ と
31
等
家 事 の 手 伝 い 、マ ッ サ ー ジ 、プ レ ゼ ン ト を 贈 っ た 、感 謝 の 手 紙 を 送 っ た 、
食器洗い、掃除、毎日健康でいること、勉強を頑張っていること
等
○ 生徒の感想(表 1 について)
・多くの命に助けられて生きている。自分 1 人では生きていくことが出来
な い 命 。皆 と つ な が っ て い る 命 。こ れ か ら も 人 に 助 け ら れ 助 け 合 う 、そ ん
な生き方をしようと思う。
・たくさんの人や命に支えてもらっているのだと実感した。そのことに感
謝 し つ つ 、私 に も 出 来 る こ と が な い か を 考 え な が ら 人 と 接 し て い き た い 。
・衣食住の中でいただいた命は書くことが出来ないくらい多くのものがあ
るし、お世話になった人は、思い出せない人もいるがたくさんの人がい
る。お世話をした人はまだまだ数が少ない。
・自分がお世話した人より、自分がお世話になった人の方が多いのだと改
めて気づかされた。私がお世話になったように、これから下の世代を育
てていけたらよいなと思う。お世話になった人への感謝の気持ちを忘れ
ないようにしていきたい。
・身の周りにもお世話になった人がいて、とても有り難いと思った。いた
だいている命によって我々が生きていることも本当に有り難いと思った。
・衣食住でいただいた命も普段はあまり意識していなかったけど、書き出
したらきりがないくらいたくさんあると思った。食事の時もそういうこ
とを頭の片隅に置いておこうと思う。
・こんなにもたくさんの人に世話になっているのに、恩を返していないと
思った。やはり、1 人では生きていくことが出来ないのだと思った。
・命の犠牲のもとで生きているのだと気づかされた。感謝して過ごしたい
と思う。
○ 生徒の感想(表 2 について)
・親 に 対 し て 、迷 惑 を か け た り お 世 話 に な っ て い る 。あ ま り こ ん な こ と を 考
えたことがなかったので良い機会だった。
・親にはお世話になってばかりだと思った。小さい頃からずっとお世話に
32
なっているが、きっといくつになってもお世話になるのだと思う。返して
きたことがないので、これから返していこうと思う。
・書いていくことによって、改めて親にお世話になっていると思った。
・当たり前のことだけど、与えられていることの方が圧倒的に多かった。自
分が返してきたことも少なく、またどれも大きな力にはなれていないもの
ばかりだった。でも小さなことを積み重ねていくことが必要なのだと思っ
た。
・時々親には「もっと家事を手伝え」と言われる。自分では手伝っていると
思っても、あまりできていないのだと思った。
・普通に生活していたけど、その普通は親があってこそあるものなので感謝
したい。
・親に返してきたことを書いたが、まだまだ足りてない。返しても返しきれ
ないと思う。
・私は、あまり親にしてもらって有り難いと思い浮かぶことが少なかったの
で、親がして当たり前と思いながら過ごしてきたのかなと思った。
・親に返してきたことが 1 つも思い浮かばなかった。自分は親に何もしてい
ないから、何かできるようにしたい。
参考文献
小 池 秀 章 ( 200 9)『 高 校 生 か ら の 仏 教 入 門 』 本 願 寺 出 版 社
保 坂 俊 司 ( 201 0)『 史 上 最 強 図 解 仏 教 入 門 』 ナ ツ メ 社
山 下 文 夫 ( 200 8)『 生 と 死 の 教 育 』 解 放 出 版 社
33
【資料 5
授 業 プ リ ン ト 】 ※ A3 版 両 面 刷 り ( 上 : 表
34
下:裏)
実践報告
入試問題の解法の研究
-数学科の自主的勉強会の
-中間報告を兼ねて-
岩井
亮太
Ryota Iwai
数学科
竹内
智一
To m o k a z u Ta k e u c h i
矢ノ根
聡
S a t o s h i Ya n o n e
キーワード:別解、新課程、記述
1
勉強会がスタートするまで
2013 年 4 月 よ り 隔 週 で 土 曜 日 の 放 課 後 の 時 間 を 主 に 使 っ て 勉 強 会 を
スタートした。この勉強会のコンセプトは「若手教員の指導力向上」で
ある。
近年、数学科には多くの若手教員が奉職したが、生徒への指導方法は
様々である。本校の選抜特進/一貫選抜コースの場合、目標は国公立大
学進学であり、その受験指導を全員が担当できるようにならなければな
らない。数学という科目の性質上、問題をただ解いて答を導けばよいと
いうわけではなく、答案を記述することが最も重要であり、生徒の答案
を適切に添削していく能力が必要である。そのためには若手教員の指導
力を徹底して向上させていく必要があると考えたことを契機に勉強会を
スタートした。
2
勉強会のねらい
勉強会のねらいは以下の3つである。
①
別解を考える
数学の醍醐味は解法が1つではないところである。答えを算出するま
での過程において、非常にスムーズにいく解法もあれば、高度な計算力
35
が必要となり、回りくどい解法もある。教員同士が「自分ならこのよう
に考えた」と互いに解法を発表することで、新しい発見に繋がることを
ねらう。
②
新課程への対応
2014 年 度 よ り 施 行 さ れ た 新 課 程 に お い て 新 し く 導 入 さ れ た 単 元 が い
くつかある。その中には今回初めて教科書に載った内容、選択単元から
必 修 単 元 に な っ た 内 容 、 約 10 年 ぶ り に 復 活 し た 内 容 な ど 様 々 で あ る 。
私たちが高校生の頃に履修しなかった単元に関しても、今後生徒に向け
て指導していく必要があり、この勉強会で指導力の向上をしていく。
③
記述式の答案
記述式の答案はどこまで詳しく書けばよいのか、どの部分を省略して
もよいのか、その基準は人によって曖昧である。その中で、絶対に減点
されない答案、不必要なことを書きすぎない答案、つまり数学的に美し
い答案の基準を数学科全員で共有していく。
以上のことを目標に、若手教員が持ち回り制でテーマ毎に講義を担当
する。また若手教員だけでなく、ベテラン教員の意見を取り入れ、数学
科全体として進めていく。
3
実践報告
① 別解を考える
2014 年 5 月 26 日 ( 月 )
担当
岩井亮太
【テーマ】
問 題 に 対 し て 「 複 素 数 平 面 」 と 「1 次 変 換 」の 2 通 り の 方 法 で 考 え る 。
36
【問題】
[解 ]
(2)
[複 素 数 平 面 を 用 い た 解 法 ]
37
[1 次 変 換 を 用 い た 解 法 ]
38
【まとめ】
回転移動を新課程の「複素数平面」と旧課程の「1次変換」とで考え
てみても本質的な考え方は同じであるから、どちらの解法でも解くこと
ができる。両方とも一定の計算力が必要となり、解法のどちらかの有用
性が高いということはない。当分の間は「複素数平面」の解法が主流と
なるであろうが、指導要領は数年単位でこの2つが交互に入れ替わって
いるため、再度「1次変換」が出題される可能性は十分に考えられるの
で、両方の考え方をきちんと理解しておく必要があると感じた。
39
②
新課程への対応
『 実 践 1』
2014 年 1 月 25 日 ( 土 )
担当
竹内 智一
【テーマ】
新 課 程 「 資 料 の 活 用 」 ( 中 学 ) 、「 デ ー タ の 分 析 」 ( 高 校 ) に つ い て の 基 本
知識を学ぶ
【内容】
初めて必修になった単元であり、教員も学生時代に履修したことが全
くない者が多い内容である。知識を問われることが多く、慣れるまでに
時間を要する単元でもあるため、まずは基本知識を教員全体で共有する
必要がある。今回は基本問題を全員で解き、今後のセンター試験対策を
どうすればよいか検討した。
【 勉 強 会 の 資 料 】 (注 )
40
『 実 践 2』
2015 年 6 月 20 日 ( 土 )
担当
池本 匠
【テーマ】
新課程「データの分析」の入試問題を解く
【内容】
2 0 1 5 年 度 の 大 学 入 試 国 公 立 2 次 試 験 に 出 題 さ れ た 新 課 程 の「 デ ー タ の
分析」の問題を解く。
【問題】
41
【解答】
42
【まとめ】
2015 年 度 に 新 課 程 『 デ ー タ の 分 析 』 を 出 題 し た 国 公 立 大 学 は 全 国 で
1校だけであった。これは新旧課程の過渡期であるため、現役生と浪人
生に対する配慮などから各大学が様子をみたのではないかと考えられる。
し か し 、来 年 度 か ら は 出 題 す る 大 学 が 増 え て い く こ と が 予 想 で き る の で 、
出題傾向や出題パターンを我々教員が理解しなければならない。
43
③
記述式の答案の作成
【テーマ】
生徒の答案を添削することで、指導力を向上させる
【内容】
2015 年 度 入 試 で 、 実 際 に 高 3 生 が 大 学 入 試 で 解 い た 解 答 を 参 考 に し
て、自分ならどのように点数をつけるかを考える。部分点や減点などの
基準を教員間で共有することを目的としている。
【問題】
【生徒の答案】
受験後、生徒に答案を再現してもらったものである。□で囲んでいる
部分がこの答案に対して教員が添削した箇所である。
44
45
46
【教員の模範解答】
47
【まとめ】
今回はプログレスコースの中で数学の成績が上位の生徒の答案を添削
した。比較的よく出来ているが、所々に条件が抜けており、減点対象と
なっている。日頃から条件の確認を徹底させる指導の必要性を再確認し
た。また、最後に安易な計算ミスをしていまっていることにも注目した
い。計算力を確実につけさせる指導が必要であることがわかる。
4
総括
勉 強 会 を 始 め て か ら 約 30 回 が 経 過 し た 。 上 記 の 実 践 例 で 挙 げ た も の
以 外 に も『 難 関 国 公 立 大 の 入 試 問 題 を 解 く 』
『大学入試と中学入試の共通
問題について検討する』
『 積 分 公 式 に つ い て 考 え る 』な ど 、各 教 員 が 知 識
を出し合って互いに指導力の向上のために切磋琢磨してきた。この勉強
会で得たものは大きく2つあると考える。
1つ目は若手教員が難問に対して本気で取り組む姿勢を身につけたこ
とである。数学の教員に対して数学の授業をするというのは非常に勇気
48
がいることである。数学という科目を本当に理解していないと生半可な
知識では指摘を受けてしまう可能性が高い。この緊張感の中で授業に望
む姿勢が日々の生徒への授業に反映されるのではないだろうか。
2つ目は数学科としてのチーム力が向上したことである。日々の学校
生 活 の 中 で は 、教 員 同 士 が 教 科 に つ い て 深 く 話 し 合 う 機 会 が あ ま り な い 。
どうしても教員同士は個人商店のようになりがちである。勉強会を開く
ことで、互いに助け合い、協力し合って共に成長できる場があり、それ
が 「チ ー ム 数 学 科 」と し て の 団 結 力 に 繋 が っ た と 考 え る 。
最 後 に 、 こ れ ら の 勉 強 会 の 真 の 目 的 は 「生 徒 へ の フ ィ ー ド バ ッ ク 」で あ
ることを忘れてはならない。生徒に確かな学力をつけさせるためには、
まずは教員が確かな指導力を身につけることが大切である。この勉強会
を 今 後 も 続 け て 行 く こ と で 、更 な る 指 導 力 を 全 員 で 身 に つ け て い き た い 。
参考文献
旺 文 社 (2003)『 2004 全 国 大 学 入 試 問 題 正 解 4 数 学 (国 公 立 大 編 )』
旺 文 社 (2015)『 2016 全 国 大 学 入 試 問 題 正 解 5 数 学 (国 公 立 大 編 )』
(注 ) 啓 林 館 /河 合 塾 (2012)『 シ ス テ ム 数 学 2 幾 何 編 問 題 集 発 展 編 』
49
実践報告
留学生に対する
化学授業プリントの作成
理科
五十嵐茂樹
Shigeki Igarashi
松村哲雄
Te t s u o M a t s u m u r a
キーワード:留学生、化学、英語
Ⅰ
はじめに
本 校 で は 、1 0 年 程 前 か ら ア メ リ カ 合 衆 国 の ハ ワ イ に あ る パ シ フ ィ ッ ク ブ デ
ィ ス ト ア カ デ ミ ー ( 以 下 、 PBA) と の 生 徒 相 互 受 け 入 れ 交 流 を 行 っ て い る 。
高 校 2 年 次 に 開 講 さ れ る 「Internet Exchange」の 授 業 を 選 択 し た 生 徒 は 、 イ ン
タ ー ネ ッ ト TV を 介 し て リ ア ル タ イ ム に ハ ワ イ の 高 校 生 と 疑 似 留 学 を 体 験 し 、
本校生徒の英語学習への意欲を高めることに成功している。さらに、上記の
授業の受講生から選抜試験に合格した生徒は、交換留学生として約3ヶ月間
ハワイに留学し、英語力はもちろん人間としても大きく成長できるプログラ
ムを実施している。
こ の 交 換 留 学 の 際 、 本 校 で も 毎 年 2 月 頃 か ら 約 1 ヶ 月 間 、 PBA か ら の 留 学
生を受け入れている。日本文化を理解し、日本語能力を高めたいといった目
標を持った生徒が来校する。年齢に応じた各クラスに所属し、朝のショート
ホームルームから始まり、6時間目終了の終礼まで、本校生徒と一緒に学校
生活を送っている。英語の授業は勿論、本人の希望があれば、その他の授業
にも積極的に参加してもらい、日本語での授業を体験している。
しかし、ある程度の日本語能力を有している生徒とはいえ、日常会話等は
できるが、理科などの専門用語を用いた授業では、容易に授業を受け理解す
ることが困難である。しっかりと授業を聞いてノートを取る姿はあるが、苦
労している姿が多く見られた。
そこで、今回は本校生徒が使用している問題集『 新課程
アクセスノート
化学基礎』
( 実 教 出 版 )の 本 文 や 図 を 一 部 参 考 に し 、留 学 生 が 化 学 の 授 業 だ け
でなく、日本語での化学の専門用語を理解してもらうため、授業プリントの
作成を試み、実際に授業を展開した。
50
Ⅱ
プリント作成の取り組み
例 年 2 月 に 交 換 留 学 生 が 訪 れ る が 、こ の 時 期 の 本 校 の 化 学 の 授 業 内 容 は 、
「酸 化 還 元 反 応 」「イ オ ン 化 傾 向 」「電 池 」「電 気 分 解 と 生 成 物 」の 分 野 と な っ て
いる。
そ こ で 、本 校 で 使 用 し て い る 問 題 集 を ベ ー ス に 、プ リ ン ト の 左 側( 上 側 )
には日本語の文章を、右側(下側)にはそれに対する英訳の文章を付け加
えたプリントの作成を試みた。
はじめは、英訳のみのプリントを作成しようと試みたが、この留学期間
で日本語を学ぶという大きな目的があるので、英訳と日本語を併せること
で、化学の学習だけでなく、化学の専門用語を日本語で習得できるよう工
夫した。
Ⅲ
実際に使用したプリントについて
以下に実際に使用したプリントの一部抜粋を紹介する。
Description of the oxidation-reduction reaction
Japanese
<酸化還元反応の学習>
1.酸化は酸素と化合すること。水素を失うこと。電子を失うこと。
2.還元は酸素を失うこと。水素と化合すること。電子を得ること。
<酸化数と酸化還元反応>
1.酸化数が増加
→
酸化
2.酸化数減少
→
還元
<酸化剤>
自身は還元される。相手を酸化する。
( 例 ) K M n O 4 ( 過 マ ン ガ ン 酸 カ リ ウ ム )、 H 2 O 2 ( 過 酸 化 水 素 )、 H N O 3 ( 硝 酸 )
<還元剤>
自身は酸化される。相手を還元する。
( 例 ) H 2 S ( 硫 化 水 素 )、 S O 2 ( 二 酸 化 硫 黄 )、 H 2 C 2 O 4 ( シ ュ ウ 酸 )
51
English
<Learning of oxidation-reduction reaction>
1 . O x i d a t i o n : To c o m p o u n d w i t h o x y g e n . L o s i n g h y d r o g e n . L o s i n g e l e c t r o n s .
2 . R e d u c t i o n : To l o s e o x y g e n . O b t a i n i n g h y d r o g e n . O b t a i n i n g e l e c t r o n s .
<Redox reaction and the oxidation number>
1. Oxidation number increase → oxidation
2. Oxidation number decrease → reduction
< Oxidizing agent>
Itself is reduced. It oxidizes the opponent.
(Examples)
KMnO4 (potassium permanganate), H2O2 (hydrogen peroxide)、
HNO3 (nitric acid)
<Reducing agent>
Itself is oxidized. It reduces the opponent.
(Examples )
H2S (hydrogen sulfide), SO2 (sulfur dioxide), H2C2O4 (oxalic acid)
Description of the battery
Japanese
<電池の種類>
1. ボ ル タ 電 池
( - ) Zn| H2SO4aq| Cu( + )
負 極 : Zn→ Zn2+ + 2e-
正 極 : 2H+ + 2e- → H2
正極で水素を発生するので、分極が起こる。
2. ダ ニ エ ル 電 池
( - ) Zn| ZnSO4aq| CuSO4aq| Cu( + )
負 極 : Zn→ Zn2+ + 2e-
正 極 : Cu2+ + 2e- → Cu
52
3. 鉛 蓄 電 池
( - ) Pb| H2SO4aq| PbO2( + )
負 極 : Pb+ SO42-
→ PbSO4+ 2e-
正 極 : PbO2+ 4H+ + SO42
-
+ 2e- → PbSO4+ 2H2SO4
English
< Ty p e o f b a t t e r y >
1 . Vo l t a i c c e l l
( - ) Zn| H2SO4aq| Cu( + )
Negative electrode: Zn→Zn2+ + 2e-
Positive electrode: 2H+ + 2e- →H2
jkBecause of hydrogen generation on the positive electrode, polarization
occurs.
2. Daniell cell
( - ) Zn| ZnSO4aq| CuSO4aq| Cu( + )
Negative electrode: Zn→Zn2+ + 2e-
Positive electrode: Cu2+ + 2e- →Cu
3. Lead-acid battery
( - ) Pb| H2SO4aq| PbO2( + )
Negative electrode: Pb+ SO42-
→Pb SO4+ 2e-
Positive electrode: Pb O2+ 4H+ + SO42- + 2e- →Pb SO4+ 2 H2SO4
1. Commentary of the general problem( 総 合 問 題 の 解 説 )
Japanese
7. 硫 酸 酸 性 水 溶 液 に お け る 過 マ ン ガ ン 酸 カ リ ウ ム と 過 酸 化 水 素 の 反 応
2KMnO4+ 5H2O2+ 3H2SO4→K2SO4+ 2MnO4+ 8H2O+ 5O2
濃 度 未 知 の 過 酸 化 水 素 水 10.0mL を 滴 定 し た 。 0.100mol/ L の 過 マ ン ガ ン
酸 カ リ ウ ム で 滴 定 す る と 、2 0 . 0 m L を 要 し た 。過 酸 化 水 素 の 濃 度 を ① ~ ⑥ よ
り選びなさい。
① 0.25
②
0.50
③
④
1.0
正解:②
53
2.5
⑤
5.0
⑥
10
English
7. Reaction of hydrogen peroxide and potassium permanganate in sulfuric acid
aqueous solution
2KMnO4+ 5H2O2+ 3H2SO4→K2SO4+ 2MnO4+ 8H2O+ 5O2
10.0mL of hydrogen peroxide solution of unknown concentration was titrated.
Titration with potassium permanganate of 0.100mol / L took 20.0mL. Select the
concentration of hydrogen peroxide from ① ~ ⑥ .
① 0.25
②
0.50
③
④
1.0
2.5
⑤
5.0
⑥
10
The answer: ②
2. Commentary of the general problem( 総 合 問 題 の 解 説 )
Japanese
8. ア の 硫 酸 塩 水 溶 液 に ア の 金 属 板 を 、 イ の 硫 酸 塩 水 溶 液 に イ の 金 属 板 を 入 れ
た。その間を仕切り板ウで仕切って電池をつくった。金属板アが負極に、
金属板イが正極になった。
a.ア~ウに、①~⑤より正しいものを選びなさい。
①
Zn
②
Cu
③
素焼き板
④
白金板
⑤アルミニウム板
b .電 池 を放 電させ る と 、電球 はしだ い に暗 くな った。その 理 由を ①~⑥
より選びなさい。
① 金属アの板の表面を、発生した水素の泡がおおった。
② 金属イの板の表面を、発生した水素の泡がおおった。
③ 金属アの板の表面を、発生した酸素の泡がおおった。
④ 金属イの板の表面を、発生した酸素の泡がおおった。
⑤ 負極側の水溶液中の金属イオン濃度が小さくなった。
⑥ 正極側の水溶液中の金属イオン濃度が小さくなった。
正 解 : a. ア
①
イ
②
ウ
54
③
b. ⑥
English
8. A battery was made with ア
metal plate immersed in the sulfate aqueous
solution of ア , イ metal plate immersed in sulfate aqueous solution of イ . and
a partitioning plate ウ between them. The metal plate ア became the negative
electrode, and the metal plate イ became the positive electrode.
a. Select the correct words for ア ~ ウ
①
Zn ②
Cu ③
clay plate ④
from ①
platinum plate
~ ⑤.
⑤
aluminum plate
b . W h e n d i s c h a r g i n g t h e b a t t e r y , b u l b d a r k e n e d g r a d u a l l y.
Select why from ①
~ ⑥.
① Bubbles of hydrogen generated on the surface of the plate metal ア covered
it.
② Bubbles of hydrogen generated on the surface of the plate metal イ covered
it.
③ Bubbles of oxygen that generated on the surface of the plate metal ア
covered it .
④ Bubbles of oxygen that generated on the surface of the plate metal イ covered
it .
⑤ Metal ion concentration in the aqueous solution of negative electrode side
became smaller .
⑥ Metal ion concentration in the aqueous solution of positive electrode side
became smaller .
The answer: a . ア
①
イ
②
55
ウ
③
b.⑥
3. Commentary of the general problem( 総 合 問 題 の 解 説 )
Japanese
9 .図 1 に 示 す 電 気 分 解 の 装 置 に 一 定 の 電 流 を 通 じ て 、電 極 A ~ D で 生 成 し た
物質の体積あるいは質量を測定した。図 2 と図 3 は、その結果をグラフに
表 し た も の で あ る 。 a ・ b に つ い て 答 え よ 。 原 子 量 は 、 Cu= 64
a. 図
Ag= 10。
2 において、実験結果を最も適切に示している直線を①~⑤より選
びなさい。
b. 図 3 に お い て 、 実 験 結 果 を 最 も 適 切 に 示 し て い る 直 線 を ① ~ ⑤ よ り 選
びなさい。
正解:a.②
b.⑤
English
9. A constant current was applied through the electrolysis device illustrated in
FIG 1, and the weight or volume of the material produced on the electrodes A
~ D were measured. FIG 2 and FIG3 are the graphs representing the results.
Choose the correct answer for a and b from ①
~ ⑤.
The atomic weight: Cu = 64, Ag = 108.
a. In Figure 2, which a straight line shows the most appropriate experimental
results?
b. In Figure 3, which straight line shows the most appropriate experimental
results?
The answer: a. ②
b. ⑤
56
Ⅳ
授業の展開および結果
本 校 の 高 校 2 年 生 が 2 月 に 実 施 す る 学 習 内 容 は 、 「酸 化 還 元 反 応 」「イ オ ン
化 傾 向 」「電 池 」「電 気 分 解 と 生 成 物 」で あ る 。
これらの内容を理解するためには、元素記号や化学反応式などの基礎的知
識が必要となる。そこで、留学生が留学してきた時点での学習状況を把握す
るために、元素記号・化学反応式などについての聞き取りから始めた。
その結果、元素記号・化学反応式のいずれについても既習であったが、化
学反応式に関しては、本校生よりも理解が遅れている状況であった。
例年、このような状況の下、日本語の教科書を使用して授業を展開しても
元 素 記 号 は 理 解 で き る が 、酸 化 や 還 元 な ど と 言 っ た 化 学 の 現 象 を 理 解 し た り 、
化学の事象に対して考察したりすることは困難であった。
しかし、このプリントを使用することにより大きな効果が3つ得られた。
1つ目は、留学生の授業の理解度が増したことである。これまでは、教科
書に書いてある日本語の説明が難しく、文章を正確に読み取ることができな
かったので、授業を受けても教科書に書いてある元素記号や図などから何と
なくイメージして、読み取ることしかできなかった。しかし、このプリント
を使用してからは、自分が知っている元素記号や図などから入る情報だけで
なく、その事象を英語の説明文を読むことで、理解し、さらに日本語の意味
も併せて覚えることができるようになった。これにより、以前までのような
機 械 的 に 覚 え る と い う こ と だ け で な く 、 「な ぜ そ う な る の か 。 」と い う 、 理 科
の授業で重要となる考察の部分までできるようになった。
2つ目は、問題を解いた後に解説文を読み、自分自身で理解できるように
な っ た こ と で あ る 。本 校 生 徒 の 演 習 に 合 わ せ 、問 題 文 を 英 訳 し た こ と に よ り 、
問題を自分の力だけで解くことができるようになった。今までは、担当教員
が ア ド バ イ ス を す る こ と に よ っ て 、何 と か 問 題 を 解 こ う と 努 力 を し て い た が 、
このプリントにより、自分自身で問題を解くことができるようになった。さ
ら に 解 説 の 英 訳 文 を 読 む こ と で 、先 に 述 べ た よ う な 表 面 的 な 理 解 だ け で な く 、
なぜ間違ったのかなど自分なりに考えることができるようになり、留学生の
授業の満足度も向上した。
3つ目は、本校生徒とのコミュニケーションが増えたことである。以前ま
では教科書の内容を理解するまでに至らなかったので、本校生徒とのグルー
プディスカッションに参加し、自分の意見や考えを発表することが困難であ
57
った。しかし、このプリントを参考にすることにより、英語と日本語を織り
交ぜながら自分自身の考えを本校生徒に伝えることができるようになった。
さらに留学生だけでなく、本校生徒にも良い効果が現れた。今までは、日本
語のみで留学生に説明をすることがほとんどだったが、留学生が理解に戸惑
う場面では、英語を交えながら説明することができ、相互のコミュニケーシ
ョンが活発化した。これにより、留学生も日本語での議論に参加できるよう
になり、また本校生徒も留学生に対して積極的に説明し、化学の専門英語に
対して興味関心を抱くようになった。
Ⅴ
今後の課題及びまとめ
先に示したように、留学生に対しては一定の成果が得られた。しかし、い
くつかの課題もある。
1 つ 目 は 、 留 学 生 の 既 習 範 囲 の 違 い で あ る 。 例 年 、 PBA か ら の 留 学 生 が ど
の程度の化学の知識を持って留学してくるのかわからない。化学が得意な生
徒であれば、元素記号や化学反応式といった基礎知識は身につけているが、
留学生によっては化学を苦手とし、基礎知識が不足している生徒が留学して
くることも考えられる。各個人にあったプリントの作成ができればよいが、
現実的には難しいと思われる。
2つ目は、化学の専門用語(日本語と英語)についてである。先に述べた
ように、留学生の本来の目的の一つは日本語能力の向上である。よって、化
学の知識を覚えることに重点を置くよりも、専門用語を一つでも多く日本語
で覚えることに力を入れても良いのではないだろうか。そのためには、授業
に使用する専門用語の日本語と英語の単語カードなどをつくり、まずは単語
の意味を覚え、その後に内容を理解する方法が良いのではないだろうか。こ
の単語カードは、留学生に限らず、本校生徒が英語を学習する上でも利用で
き、相互の語学力を高めることができると考えられる。
3つ目は、プリント作成にかかる労力である。1ヶ月という短い期間とは
いえ、週2単位の授業であれば、8回前後の授業がある。その進度に合わせ
たプリントを作成するには、時間がかかり、英訳等の確認作業も困難を極め
る。どのような方法でプリントを作成すれば、時間が短縮できるのかを検討
する必要がある。
今後の展開としては、留学生に対しての授業に使用するだけでなく、本校
58
生徒にも利用できないかを模索していく所存である。
平成
14 年 度 よ り 文 部 科 学 省 指 定 に よ る ス ー パ ー サ イ エ ン ス ハ イ ス ク ー ル
( S S H )は 、未 来 を 担 う 科 学 技 術 系 の 人 材 を 育 て る こ と を 狙 っ て 始 ま っ た 。こ
の S S H 指 定 校 の 目 標 の 一 つ に 、国 際 性 を 育 て る た め に 必 要 な 英 語 で の 理 科 授
業 や プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 演 習 を 実 施 す る と い う 項 目 が あ る 。平 成 2 7 年 度 S S H
生 徒 研 究 発 表 会 が 平 成 2 7 年 8 月 に イ ン テ ッ ク ス 大 阪 に て 開 催 さ れ た 。 SSH
指定校の生徒がポスター発表を行い、英語を利用しての発表やポスター及び
リーフレットなど、科学の知識だけでなく、英語を利用しての発表に力を注
いでいた。
本校もその流れを組み、理科の本質を追究することはもちろん、最終的に
は英語を利用してのディスカッションやプレゼンテーションなどができるこ
とを目指し、将来、国際的に通用する人材を育てていきたいと考える。
今回の試みをきっかけに、留学生だけでなく、本校生徒の理科力と英語力
を高めることにつながれば幸いである。
参考文献
実 教 出 版 編 修 部 ( 2 0 1 2 )『 新 課 程 ア ク セ ス ノ ー ト 化 学 基 礎 』
松 永 義 夫 ( 2 0 1 5 )『 化 学 英 語 ( 精 選 ) 文 例 事 典 』 朝 倉 書 店
足立吟也、片岡
宏、杉浦
幸雄、松浦
良 樹 ( 1 9 9 9 )『 化 学 の 論 文 を 英 語 で
書くための化学英語の活用辞典』化学同人
59
実践報告
ニュース時事能力検定導入による授業の取り組み
-「読み」と「協同的な学び」-
社会科
佐々木
じろう
Jiro Sasaki
キーワード:新しい学び方、協同的な学び、読み、居場所
Ⅰ
はじめに
集中力に欠ける、受け身の姿勢など生徒の意欲を問うことが多いのが昨今
である。アクティブ・ラーニング等、様々なアプローチが試みられる中、本
稿では、
「 現 代 を 学 ぶ 」の 授 業 と そ の ア ン ケ ー ト 結 果 か ら 見 え て き た も の を ふ
まえて、今後の視点を考察したい。
Ⅱ「現代を学ぶ」の目標
Ⅱ―1
目標
「現代を学ぶ」は、高大連携授業として、クリエイトコース(龍谷大学進
学 コ ー ス )文 系 及 び ア ス リ ー ト コ ー ス に 開 講 し て い る 4 単 位 の 社 会 科 科 目 で
ある。
授業の目標(個人目標1つ含む)は次の5つである。
A 科学的に、事実を観る・聞く、情報を収集し、正しく理解する。
B 自分の考えの根拠となる理由などを明らかにし、論理的に筋道立て
て考える。
C 様々な意見に耳を傾け、多様な視点を養う。
D 発表することができる。
E 生徒自身が受け身でない「新しい学び方」の実践(個人目標)
Ⅱ―2
目標達成のための取り組み
先に示した授業目標の実現のために、以下の5つの取り組みを実施してい
60
る。
ア ) ニ ュ ー ス 時 事 能 力 検 定 ( 以 下 、「 N 検 」) 受 検
イ)協同的な学び
ウ)大学教員の講義(事前・事後指導)
エ)レポート
オ)新聞記事スクラップブック(毎週 1 度提出)で記事の要約と意見
これらの取り組みを各々の目標にあてはめると、以下のようになる。
目標
A
主な取り組み
科 学 的 に 、事 実 を 観 る ・ 聞 く 、情 報 を 収 集 し 、正 し く
理解する。
B
ア・イ・ウ
エ・オ
自 分 の 考 え の 根 拠 と な る 理 由 な ど を 明 ら か に し 、論 理
的に筋道立てて考える。
C
様々な意見に耳を傾け、多様な視点を養う。
D
発表することができる。
E
生徒自身が受け身でない「新しい学び方」の実践
ア・エ・オ
ア・イ・ウ・オ
イ・エ・オ
ア・イ・エ・オ
Ⅱ―3目標達成の検証
本 稿 で は 、「 ア ) N 検 受 検 実 施 」 と 「 イ ) 協 同 的 な 学 び 」 に 焦 点 を あ て て 、
授業目標を個別にアンケート結果から検証をしていく。
Ⅲ
ニュース時事能力検定
Ⅲ―1
「N検」導入の理由
「 現 代 を 学 ぶ 」で は 、昨 年 度 よ り「 N 検 」の 全 員 受 験 を 実 施 し て い る 。ク リ
エ イ ト コ ー ス の 3 級 以 上 の 合 格 率 は 昨 年 も 今 年 度 も 99%を 越 え て い る 。
「 N 検 」 導 入 の 理 由 は 、 ① 「 客 観 的 な 視 点 が 乏 し い 」、 ② 「 知 識 が 乏 し い 」、
③「学び方を知らない」という3つの内容に関する力を、過去の担当者が向
上 さ せ る 必 要 性 を 感 じ て い た か ら で あ る 。つ ま り 、
「 N 検 」を 通 し て 、民 主 主
義社会を生きていくための自分の判断基準となるものを持たせたいという思
いからの出発であった。
61
Ⅲ―2
N検合格のために
1 時 間 毎 に 、「 N 検 」 3 級 対 応 テ キ ス ト 『 基 礎 編 』(『 2015 年 度 版 ニ ュ ー ス
検 定 公 式 テ キ ス ト「 時 事 力 」基 礎 編 』)の テ ー マ 毎( 計 20 テ ー マ )に 基 づ き 、
プリントを作成する。生徒はそれを黙々と行っている授業である。最初の全
員受験は3級であったが、より高い2級・準2級対応テキスト『発展編』及
び現代社会の教科書・資料集の全てを参考にして解決できる問いも含める形
で担当者(7 名)が順番に作成した。
Ⅲ―3
授業プリント
プリント作成者(担当者)には、1テーマにつき、1時間で完結すること
とテキストに準拠する基本的事項及び応用発展的な問いを依頼した。そのプ
リントは、以下の4つにパターン化できる。尚、ここでいうテキストとは、
前 述 の 『 基 礎 編 』『 発 展 編 』 を さ す 。
1)テキストを読むとできるパターン(図1)
A 本文に沿った語句などを入れて確認する方法
B 本文を読んで自分でまとめる方法
2)テキストに他の資料を加えて考えさせるパターン
C 新聞記事を掲載し、テーマを深める方法(図2)
D 現代社会の教科書・資料集・用語集を用いて深める方法(図3)
3)テーマの内容に自分の評価をするパターン
E 複数の正解がある問題を作成し、根拠を記入して理解を深化す
る方法(図4)
4)練習問題をするパターン
F テーマ毎にある練習問題をして認識を深める方法(図5)
次の図1~図5は、実際に使用したプリントから抜き出したものである。
62
A
B
図1
「 テ ー マ 15 . い の ち を 守 る 」 プ リ ン ト よ り 抜 粋
C
図2
「 テ ー マ 15 .別 紙 プ リ ン ト 」
( 20 15 年 4 月 30 日 付「 毎 日 新 聞 」よ り )
63
D
図3
「テーマ5.アベノミクス 3 年目に」プリントより抜粋
E
図4
「 テ ー マ 15 . い の ち を 守 る 」 プ リ ン ト よ り 抜 粋
64
F
図5
Ⅲ―4
「 テ ー マ 15 . い の ち を 守 る 」 プ リ ン ト よ り 抜 粋
授業風景
写真:授業風景
毎時間、テーマのプリントを配布
す る 。そ の 後 、4 人 グ ル ー プ に な り 、
テキストや教科書、資料などを使っ
てプリントの問いに答えていく。4
単位のうち、2単位は同日の連続授
業である。授業当初、何もせずに寝
ようとする者もいた。しかし、ここ
での学びの意味を何度も繰り返し説
明することで、誰も寝ない授業へと変わった。
黙 々 と プ リ ン ト に 向 き 合 う 。 し か し 、 わ か ら な い と こ ろ が で る と 、「 こ こ 、
よくわからない」や「これってどこにあるの」という質問の声が聞こえる。
「 そ れ は こ こ に 書 い て あ る ・・・」 そ し て 、 そ の 後 に 「 そ こ か 」「 あ っ 、 ほ ん ま
や」と関連箇所を教えてもらい、解決していく。この結果、この空間では、
集中した時間が続くのである。
だ が 、当 初 1 時 間 で 1 枚 の プ リ ン ト を 提 出 で き る 生 徒 は 少 な か っ た 。結 局 、
宿題となり、翌日に提出するということが多かったが、徐々にその時間内で
完結出来る生徒が増えてきた。
授業では、極力説明はせず、生徒たちが自分たちで調べ、教え合うことを
励行した。
Ⅲ―5
「N検」対策
基本的に授業では極力説明をせず、自分たちで解決していくよう促した。
こ の 授 業 で 20 テ ー マ 全 て を プ リ ン ト で や っ て い る こ と か ら 、 検 定 に 向 け て
65
特別なことはしていない。だが、テキストにある問題を必ずやっておくよう
指示した。
Ⅲ―6
「N検」の結果
今 年 度 1 回 目 ( 第 29 回 ) は 、 全 員 3 級 を 受 検 し た 。 結 果 は 、 98.2% (前 年
1 回 目 89.5 % )の 合 格 率 だ っ た 。今 年 度 2 回 目( 第 30 回 )は 、前 回 不 合 格 者 ・
未受検者計 7 名の受検だった。その結果、6 名の合格で、表1のように、ト
ー タ ル で 99.7 % の 高 い 合 格 率 を 得 て い る 。 前 年 度 が 1 年 で 達 成 し た こ と を 、
今 年 度 は 半 年 で ク リ ア し て い る 。 今 年 度 、「 ア ス リ ー ト コ ー ス 生 は 本 年 度 1
回 目 で 100% の 合 格 率 、ク リ エ イ ト コ ー ス 生 は 、2 回 目 後 の 不 合 格 者 は あ と 1
名となった。
表1
Ⅳ
「N検定」年度別合格率(3 級~2 級)
年度\コース
アスリート
クリエイト
2014 年 度 ( 25~ 28 回 ) 1 年
77.4%
99.6%
2015 年 度( 29~ 30 回 )半 年
100.0%
99.7%
授業目標達成度を検証する
Ⅳ―1
「A
科 学 的 に 、事 実 を 観 る ・ 聞 く 、情 報 を 収 集 し 、正 し く 理 解 す る 」
について
ア ン ケ ー ト に は 、「 情 報 を 収 集 す る 力 は つ い て き た 。 し か し 、 社 会 人 と し て 自
分の国の政治や世界の政治について考えて参加できる力がついた」
(表3その他
「 社 会 力 」)と あ り 、情 報 収 集 に よ り 、自 分 な り に 判 断 し よ う と し て き た 成 長
を確認しており、多面的な視点からものごとを思考することにつながること
を予感させた。
Ⅳ―2
「B
自 分 の 考 え の 根 拠 と な る 理 由 な ど を 明 ら か に し 、論 理 的 に 筋
道立てて考える」について
特に成果があがっているような回答はなかった。授業プリントにおいて、
それを実施する問いがほとんどなかったことに要因があると推測する。
66
Ⅳ―3
「C
様々な意見に耳を傾け、多様な視点を養う」について
概ね達成できたと考えられる。
「人の意見やテキストの文をしっかり読み取
り 、理 解 で き る よ う に な っ た 」
( 表 3「 読 解 力 」⑦ )や「 こ れ ま で 意 味 が わ か
らないから新聞もニュースも見なかったが、テキストを読むうちに理解でき
て 、進 ん で 見 る よ う に な っ た 」
( 表 3「 読 解 力 」⑪ )と あ る よ う に 、一 面 的 な
視点理解からだけでなく、他の視点をみるために多くの情報を得ようとする
力を育めたのではないだろうか。
Ⅳ―4
「D
発表することができる」について
テーマについて全体での発表という場面がほとんどなかった。それにもか
わらず、
「人に伝えたりする表現力がついた」
( 表 3「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 」
⑤)と、伝達力向上の成果がでている回答があった。これは、次の E 項目で
深めたい。また、取り組み「オ)スクラップブック」において、成果がさら
に現れてくるはずである。
Ⅳ―5
「E
生徒自身が受け身でない『新しい学び方』の実践」について
概ね達成できたと考える。
「テキストの隅から隅まで読むことで理解できた
と 思 う 」( 表 3 「 読 解 力 」 ⑨ ) や 「 こ れ ま で 意 味 が わ か ら な い か ら 新 聞 も ニ ュ
ースも見なかったけど、テキストを読むうちに理解できて、進んで見るように
な っ た 」( 表 3 「 読 解 力 」 ⑪ ) や 「 こ の 授 業 は し ん ど か っ た け ど 他 の 授 業 で は
得ることができない、自分で読んで考えるという楽しさを知ることできた」
(感想)とあった。これらのことから、ただ単に読まされているだけではな
く、自分との接点を探し、自分の文脈に入れ思考している可能性を感じる。
つまり、プリント学習における「読み」の深化が読み取れるのではないだろ
うか。
この目標は、主体的に「読む」ことで多くのことを学べることができるの
だ と わ か る 。 学 び は 、「 受 け 身 で あ り 暗 記 で あ る 」 と い う 概 念 か ら 、「 自 分 で
調べてしっかり読むことから得られるもの」に変わったのである。ここに、
新しい学び方を得た生徒の存在を確認した。
表2は、目標に関する成果を簡単にまとめたものである。
67
表2
授業目標とその成果
授業目標
A
成果
科学的に、事実を観る・聞く、情報を収集し、正しく理解する。
進展の予感を
確認
B
自 分 の 考 え の 根 拠 と な る 理 由 な ど を 明 ら か に し 、論 理 的 に 筋 道 立
特に成果なし
てて考える。
Ⅴ
C
様々な意見に耳を傾け、多様な視点を養う。
成果あり
D
発表することができる。
成果あり
E
生徒自身が受け身でない「新しい学び方」の実践
成果あり
この授業で得た力とは何か
こ の 授 業 で ど ん な 力 が つ い た の か を ア ン ケ ー ト(「 こ の 授 業( プ リ ン ト 学 習
や グ ル ー プ 学 習 )で ど ん な 力 が つ き ま し た か 」)の 結 果 か ら 見 て い き た い 。質
問 は 、記 述 式 の 複 数 回 答 可 で あ っ た 。そ の 結 果 、多 く 回 答 さ れ た 上 位 3 つ は 、
「 読 解 力 」「 集 中 力 」「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 」 で あ っ た 。 そ の 理 由 を 考 察 す
る 。尚 、表 3 は ア ン ケ ー ト を ま と め た も の で あ る 。ま た 、
「
」の 後 に 示 す(
)
内 に つ い て は 、 表 3 の ど こ に あ る の か を 、「 読 解 力 」 = 読 、「 集 中 力 」 = 集 、
「コミュニケーション力」=コと表記する。
Ⅴ ― 1 「 読 解 力 」( 42 人 中 21 人 )
ク ラ ス の 50 % が こ の 回 答 を し た こ と に な る 。 理 由 は 、「 読 ま な い と プ リ ン
ト に 書 け な い か ら 」( 表 3 読 ① ) で あ っ た よ う だ 。 そ の た め に 、「 テ キ ス ト の
隅 か ら 隅 ま で 読 む こ と 」( 表 3 読 ⑨ ) や 「 人 の 意 見 」( 表 3 読 ⑦ ) を 聞 き な が
ら理解していったことがわかる。
このことから、プリントの問いが重要だったことが考えられる。テキスト
からそのまま抜き出す問題、自分でまとめる問題、1人ではなかなか答えら
れない問題などを出すことで、人に聞きながら成長していったのである。そ
し て 、 こ れ を 繰 り 返 し た こ と で 、「 テ キ ス ト を ス ラ ス ラ 読 み 取 れ る 」( 表 3 読
⑫ )よ う に な り 、
「考えられるように」
( 表 3 読 ⑧ )も な り 、
「人の意見やテキ
68
ス ト の 文 を し っ か り 読 み 取 り 、理 解 で き る よ う に な っ た 」
( 表 3 読 ⑦ )の で あ
る。このように、生徒が自分の中でできるようになってきたと成長を感じた
ことが考えられる。ここにテキストを「読み」込むことを中心にしたプリン
ト授業の成果がでたと考える。
また、このことが「N 検」の好結果につながったのだろう。3 級受検であ
り な が ら 、2 級・準 2 級 対 象 の『 発 展 編 』テ キ ス ト の 内 容 を き ち ん と 理 解 し 、
自分の成長を感じたからこそ、
「 思 っ た よ り 簡 単 だ っ た 」と い う 声 が 多 く の 生
徒の口からでたのである。
Ⅴ―2
「 集 中 力 」( 42 人 中 16 人 )
「プリントに没頭するため自然と身についた」
( 表 3 集 ⑤ )や「 2 時 間 集 中
できるようになった」
( 表 3 集 ③ )と い う の は な ぜ だ ろ う か 。生 徒 の「 集 中 力 」
の部分の回答だけでは読み取れない。しかし、集中できるようになった生徒
が い る こ と は 間 違 い な い 。「 隅 か ら 隅 ま で 読 む ・ ・ ・ 」( 表 3 読 ⑨ ) や 「 文 章
か ら 読 み 取 っ た 内 容 を 頭 か ら 文 字 へ 変 え る 力 を 繰 り 返 す う ち に ・・・ 」
(表3
文①)から、生徒は頭を使っていることがわかる。つまり、思考しているの
である。思考することで、静かにそれと向き合い、さらに全体の雰囲気を高
めていったことが要因であろう。
Ⅴ―3
「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 」( 4 2 人 中 1 5 人 )
グループ学習で注意したことは、以下の4つであった。①「人数を3~4
人 と す る こ と 」、 ② 「 わ か ら な い と こ ろ は 、『 わ か ら な い 』 と グ ル ー プ の 人 に
聞 く こ と 。ま た 、で き る だ け グ ル ー プ 内 で 解 決 す る 努 力 を す る こ と 」、③「 答
を 写 す だ け で な く 、な ぜ そ う な る の か を 聞 く こ と 」、④「 聞 か れ た ら 必 ず 応 え
る こ と ( こ れ は 、 答 え が わ か ら な く て も 応 答 す る と い う こ と で あ る )」。
ある生徒が「静かな中でグループや一人でやることでとても集中できてい
た」
( 表 3 集 ⑥ )と 回 答 し て い た 。一 人 で や っ て い る だ け で な く グ ル ー プ で や
っても静かであるのがこの授業の特徴である。先の授業風景(Ⅲ-4)でも
紹介したが、グループ学習であっても静かなのである。そして、その結果、
「コミュニケーション力」がついたというのだ。これはいったいどういうこ
とか、またこの力が何を指すのか。次章で深めたい。
69
表3
アンケート結果「この授業でどんな力がつきましたか」
つ い た 力 (数 )
読 解 力 ( 21)
理由など
①読まないとプリントに書けないから、進んで読むようになった。
②テキストを読んでプリントを仕上げていたから。
③テキストを読んでその内容をまとめることが多かったから。
④読んで理解することができた。
⑤新聞やテキストに載っているニュースを一人で読み取ることができた。
⑥プリントを埋めるために文章をたくさん読んだ。
⑦ 人 の 意 見 や テ キ ス ト の 文 章 を し っ か り 読 み 取 り 、理 解 で き る よ う に な っ た 。
⑧プリントをまとめるために考えるようになった。
⑨テキストの隅から隅まで読むことで内容の理解ができてきたと思うから。
⑩新聞が何を言いたいのか読み取れるようになった。
⑪これまで意味がわからないから新聞もニュースも見なかったが、テキスト
を読むうちに理解できて、進んで見るようになった。
⑫テキストをスラスラと読み取れるようになった。
⑬無駄を省きよい部分だけを抜き出す力がついた。
集 中 力 ( 16)
①時間内に終わろうと思ったから。
②一人で解く時間が多かったから。
③2 時間(続きの授業を)集中できるようになった。
④1 時間でプリントを埋めないといけないから。
⑤プリントに没頭するため自然と身に付いた。
⑥静かな中でグループや一人でやることでとても集中できていたと思うか
ら。
⑦周りの人もずっとプリントを書いていて自分もやらないといけないという
気になって集中できた。
⑧静かで集中できる環境をクラスで作れていたから。
コ ミ ュ ニ ケ
ー シ ョ ン 力
①グループワークのおかげで人と人との意思を伝達したり普段の会話力がつ
けられた。
( 15)
②グループの仲間と共通の話題について話し合えた。
(会話力・表
③話し合って問題を解くので積極的に話す力がついた。
現 力・伝 達 力 ) ④ 人 に い か に わ か り や す く 伝 え ら れ る の か 考 え 、 自 分 も し っ か り わ か ろ う と
70
したから。
⑤人に伝えたりする表現力がついた。
⑥普段話さなかった人とも、グループ学習がきっかけで話すようになった。
⑦わからないとき周りの人に聞くことができた。
⑧私はもともと人と話すことが苦手で人に聞くのもとまどってしまっていた
ので、人に聞けることができるようになったから。
⑨グループワークで少し話せるようになった。
⑩人にわからないところを聞けた。
文章力(8)
①文章から読み取った内容を頭から文字へ変える力を繰り返すうちにできる
ようになった。
②まとめる力:毎時間一枚のプリントで一つのテーマをまとめることで全体
的な内容を理解できまとめられるようになった。
③長い文章をまとめる機会も増え、自分の中でもできるようになってきてい
ると感じたから。
④たくさんの情報をまとめるのにキーワードを見つけたり、文と文をつなげ
たりするのに時間が短くなった。
⑤本を読んでプリントにまとめる力がついた。
⑥文章を読んで重要なところを簡潔にまとめる力がついたと思う。
⑦いつも文字を写すことしかできていなかったけど、少しは自分の力ででき
るようになった。
その他
社 会 力(「 社 会 人 と し て 自 分 の 国 の 政 治 や 世 界 の 政 治 に つ い て 考 え て 参 加 で き
る 力 が つ い た 」)・ 理 解 力 ・ 情 報 収 集 力 ・ プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 力 ・ 計 画 力 ・ 読
書力・思考力・調べる力・自分でやる力。
Ⅵ
「新しい学び方」を生徒はどのようなものとして捉えたのか
Ⅵ―1
生徒がいう「コミュニケーション力」とは
「コミュニケーション力」がついたというが、生徒自身は、コミュニケー
ション力をどのような力と考えているのだろうか。
「グループワークのおかげで人と人との意思を伝達したり普段の会話力が
つけられた」
( 表 3 コ ① )や「 人 に い か に わ か り や す く 伝 え ら れ る の か を 考 え 、
自 分 も し っ か り わ か ろ う と し た 」 ( 表 3 コ ④ )な ど の よ う に 、 人 へ の 伝 達 力 が
71
あ げ ら れ て い る 。 ま た 、「 人 に わ か ら な い と こ ろ を 聞 け た 」( 表 3 コ ⑩ ) と い
う と こ ろ か ら 、人 へ の 尋 ね 方 の 力 も そ こ に 入 れ て い る こ と が わ か っ た 。ま た 、
「普段話さなかった人ともグループ学習がきっかけで話すようになった」
(表
3コ⑥)や「私はもともと話すことが苦手で人に聞くのもとまどってしまっ
て い た の で 、人 に 聞 け る こ と が で き る よ う に な り ま し た 」
( 表 3 コ ⑧ )に あ る
ように、グループ学習を通して、人との接し方についてコメントしている生
徒もいた。
つ ま り 、生 徒 が 考 え て い る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 と は 、
「自分の思うことを
う ま く 伝 え ら れ る 力 」で あ り 、
「人とどう接するかという社会的コミュニケー
ション力」であった。
Ⅵ―2
個の学びとしての「グループ学習」
コミュニケーション力がついた理由を「協同的な学び」である「グループ
学習」の面から考えてみる。
グループ学習といえば、どんなイメージを持つのだろうか。多くの人は、
グループで一つのテーマに対して、
「 あ あ で も な い 、こ う で も な い 」と 言 い な
がら、内容を調べ一つの意見を求めていく作業をするというイメージだろう
か。だが、ここでやっていたグループ学習は、一つの物事に対して個々にそ
れぞれが考えていく過程で、わからないところが出てきたとき、グループ内
で 聞 き 合 う と い う 方 法 で あ る 。グ ル ー プ で 一 つ の 答 え を 探 す と い う よ り 、個 々
の答えを個々が探求するツールとしてグループがあるのだ。
つ ま り 、こ の「 グ ル ー プ 学 習 」は 、
「 個 々 の 学 び 」を 重 視 し て い る の で あ る 。
よって、一般的に言われる、話し合いながらグループとして1つの答えを求
めていくディスカッションやディベートとは一線を画す「グループ学習」で
あ る 。そ の 方 法 の 結 果 、
「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 」が つ い た と い う こ と な の で
ある。
「グループ学習」をすることで、主体的にテキストやプリントにあるテー
マと向き合い、他者との交わりによって学んでいく新しい学び方を生徒たち
は学んだのである。
Ⅵ-3
成長(できるようになった)を感じる授業
表4は、アンケートで「問2:N 検定受検のために行なった『プリントで
72
の学び』から各問いにあてはまる回答をしなさい。またそこにチェックした
理由を書いて下さい」という問いに対する集計である。
網掛け部分に特徴がでている。
「 自 分 の コ ト バ で ま と め る こ と が で き る 」は 、
「できるようになった」と「だいたいできるようになった」を合わせると
69.1% に の ぼ る 。ま た 、
「 自 分 の コ ト バ で 人 に 伝 え る こ と が で き る 」に つ い て
は 、 両 方 で 57 .2% の 回 答 が あ っ た 。
つ ま り 、こ の プ リ ン ト 授 業 と グ ル ー プ 学 習 に お い て 、
「コミュニケーション
力」を養っており、自分の成長を実感していることがこの表からも読み取れ
る。
表4
授業でどこまで
あてはまる内容
(アンケート集計より)
以 前 か ら
だいたいで
できるよう
で き て い
になった
問題
た
73.8%
人の物を写すことができる
わからないところを人に尋
ねることができる
自分のコトバでまとめるこ
28.6%
31.0%
( 12 人 ) ( 13 人 )
とができる
自分のコトバで人に伝える
ことができる
Ⅵ―4
16.7%
( 25 人 ) ( 12 人 )
28.6%
33.3%
全 く で き
とが多い
ない
なった
( 31 人 ) ( 7 人 )
59.5%
できないこ
きるように
26.2%
( 14 人 ) ( 11 人 )
7.1%
2.4%
(3 人)
(1人)
7.1%
4.8%
(3 人)
(2 人)
(0人)
38.1%
0%
2.4%
( 16 人 )
(0人)
(1人)
31.0%
7.1%
2.4%
( 13 人 )
(3 人)
(1 人)
0%
(0人)
0%
居場所作りと「グループ学習」
教室では、席替えによってメンバーが変わる。多いクラスは 月に 1 度とい
うところもある。好きな人、嫌いな人、話したことがない人などの交流がな
される。
「 わ か ら な い と こ ろ を 聞 く の は 恥 ず か し く て 聞 け な か っ た け ど 、今 回
から聞くことができるようになった」
( 表 4「 わ か ら な い と こ ろ を 人 に 尋 ね る
こ と が で き る 」が「 で き る よ う に な っ た 」の 理 由 よ り )と い う 生 徒 の よ う に 、
自分がわからないという弱さを見せるのは恥ずかしくてつらい。しかし、そ
の 弱 さ を 見 せ る こ と は 、他 者 の 弱 さ を 受 け 入 れ 支 え る と い う こ と に つ な が る 。
「わからない」という声に誰かが反応し、支えられていることを知るのであ
73
る 。そ し て 誰 か を 支 え る こ と に つ な が る の で あ る 。そ れ が 、
「ここに居てもい
いよ」というメッセージとなり、人との関係も深まると言える。居場所づく
りに必要な「誰とでも話す」ということが、プリント学習における「グルー
プ学習」でなされていたのである。
Ⅶ
生徒が考える満足度とは何か
表5 満足度集計
「授業満足度」
( 5 段 階 評 価 )に つ い て も 、ア ン ケ ー ト
で 尋 ね た 。そ の 結 果 、右 の 表 5 に あ る よ う に 、評 価「 5 」
と 「 4 」 で 38 人 / 4 2 人 ( 90.5 %) と な っ た 。
「あまり政治などについて知らなかったが、授業を通
じて世間のことがわかるようになった」
( 感 想 よ り )、
「ニ
ュースの内容を深いところまでわかった」
( 表 6 ⑤ )、
「自
分のことばでまとめるということの大切さを学べた」
(表
評
%
価
(人 )
5
38.1(16 )
4
52.4(22 )
3
7.1(3 )
2
2.4(1 )
1
0.0(0 )
6 ⑨ )、「 新 聞 を 読 む 力 や 読 解 力 、 現 在 の 日 本 や 世 界 の 状
況を読んで知ることができた」
( 表 6 ⑪ )な ど に 代 表 さ れ る よ う に 、知 ら な か
ったことがわかるようになった満足感や達成感を挙げている。
次に、
「 テ レ ビ で 見 た り 、人 か ら 聞 い た り す る だ け だ っ た が 、ニ ュ ー ス や 問
題 に つ い て 、 自 分 で 調 べ た り 、 自 分 の 意 見 を 持 つ こ と が 出 来 た 」( 表 6 ㉞ )、
「 た だ 単 に 黒 板 に 書 い て い る 授 業 で は な く 、自 分 で 考 え る こ と が で き る か ら 」
( 表 6 ⑬ )、「 教 え 合 い 、 伝 え 合 う 授 業 は と て も お も し ろ か っ た 」( 表 6 ㉓ )、
「グループ学習で机をひっつけて勉強して終わった後すごく達成感があった
から」
( 表 6 ㉕ )の よ う に 、今 ま で な か っ た「 新 し い 学 び 方 の 発 見 」に 達 成 感
を感じる生徒もいる。
また、
「 あ ま り し ゃ べ ら な い 人 と 話 せ る よ う に な り 、知 ら な い 人 と 仲 良 く な
れた」
( 表 6 ㉗ )、
「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 が 身 に つ け る こ と が で き 、常 識 が 身
についた」
( 表 6 ㉘ )、
「 男 女 混 合 グ ル ー プ で は 進 度 が 適 切 で 、意 見 を 気 軽 に 出
し 合 え て 、集 中 が 保 て 、よ く 頭 に 入 っ た 」
( 表 6 ㉒ )な ど の よ う に 、人 と の つ
な が り が 学 び を 向 上 さ せ 、自 分 を 成 長 さ せ た こ と を 挙 げ 、
「 グ ル ー プ 学 習 」に
よる効果を述べている。
つ ま り 、生 徒 が 言 う 満 足 度 は 、
「 で き な か っ た( わ か ら な か っ た )も の が で
き る よ う に な っ た( わ か る よ う に な っ た )こ と 」に よ る 満 足 感 、
「思考する学
74
び 方 」に よ る 達 成 感 、
「 人 と の 支 え 合 い 」に お け る 自 分 の 成 長 を 感 じ た 気 持 ち
である。そして、それらが重なり合い、自分の居場所となっていることにつ
ながるのである。
表6
授業満足度の理由(アンケートより)
① プ リ ン ト が 難 し か っ た 。( 3 )
② な ぜ か わ か ら な い が 高 い 集 中 力 で 授 業 を 受 け ら れ た 。( 4 )
③ 他 の 授 業 に な い や り 方 だ っ た の で よ か っ た 。( 4 )
④ い ろ ん な 知 識 を つ け る こ と が で き た 。( 4 )
⑤ ニ ュ ー ス の 内 容 を 深 い と こ ろ ま で わ か っ た 。( 4 )
⑥ 現 代 の さ ま ざ ま な 出 来 事 を 学 べ た 。( 4 )
⑦ 自 分 で 調 べ た り 自 分 の 意 見 を 持 つ こ と が で き た 。( 5 )
⑧ 静 か に 集 中 し て で き た 。( 5 )
⑨ 自 分 の 言 葉 で ま と め る こ と の 大 切 さ を 学 べ た 。( 4 )
⑩ 時 間 内 に 終 え る の が 難 し く 途 中 で 疲 れ て く る 。( 4 )
⑪ 新 聞 を 読 む 力 や 読 解 力 、 現 在 の 日 本 や 世 界 の 状 況 を 読 ん で 知 る こ と が で き た 。( 5 )
⑫ プ リ ン ト の 量 が 多 か っ た け れ ど 自 分 で 読 ん で 答 え る か ら 頭 に よ く 入 る 。( 4 )
⑬ た だ 単 に 黒 板 に 書 い て い る 授 業 で は な く 、 自 分 で 考 え る こ と が 出 来 る 。( 5 )
⑭ 読 む 力 や 話 し 合 い を し た り す る の は よ い と 思 い ま し た が 、ず っ と プ リ ン ト 授 業 で 作 業
だ っ た の で 「 4 」 に し た 。( 4 )
⑮ 読 む 力 が つ く だ け で な く 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が ス ム ー ズ に な っ た 。( 4 )
⑯ テ レ ビ の ニ ュ ー ス に 興 味 を 持 ち 、 理 解 で き る よ う に な っ た 。( 4 )
⑰ こ の 授 業 を ま じ め に 受 け 続 け た お か げ で N 検 に 合 格 で き た 。( 5 )
⑱ ず っ と 調 べ て 書 き 続 け な い と い け な い か ら た い へ ん だ っ た け れ ど 、面 白 い 話 が あ っ た
り し て 楽 し か っ た 。( 5 )
⑲ プ リ ン ト 書 く の 面 倒 く さ す ぎ る 。( 3 ) = こ の 授 業 は 面 倒 く さ い け れ ど 、 周 り の 人 と
コミュニケーションがとれ、とても楽しく出来た。
⑳ グ ル ー プ ワ ー ク だ っ た の で 人 見 知 り の 私 で も 友 だ ち が で き た 。( 4 )
㉑ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 身 に つ い た 。( 4 )
㉒ 男 女 混 合 グ ル ー プ で は 進 度 が 適 切 で 、意 見 を 気 軽 に 出 し 合 え て 、集 中 力 が 保 て 、よ く
頭 に 入 っ た 。( 5 )
75
㉓ 人 と 人 と で 教 え 合 い 伝 え 合 う 授 業 は と て も お も し ろ か っ た 。( 5 )
㉔ 面 白 く 思 え な い 。( 2 ) * * ク ゙ ル ーフ ゚ ワ ー ク の 活 動 が い や だ っ た 。
㉕ ク ゙ ル ー フ ゚ 学 習 が 終 わ っ た 後 、 す ご く 達 成 感 が あ っ た 。( 5 )
㉖ ク ゙ ル ー フ ゚ で や る 新 し い ス タ イ ル だ っ た の で 楽 し く 受 け ら れ た 。( 4 )
㉗ あ ま り し ゃ べ ら な い 人 と 話 せ る よ う に な り 、 知 ら な い 人 と 仲 良 く な れ た 。( 5 )
㉘ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 が 身 に つ け る こ と が で き 、 常 識 が 身 に つ い た 。( 5 )
㉙ グ ル ー プ 形 式 で 授 業 を 進 め る ス タ イ ル が 良 か っ た し 、 調 べ る の が 楽 し か っ た 。( 5 )
㉚ グ ル ー プ ワ ー ク が 楽 し か っ た 。( 5 )
㉛ グ ル ー プ ワ ー ク で 、み ん な で 団 結 し て や っ て い た の が 良 か っ た 。だ け ど 本 当 に ひ た す
ら 問 題 を 解 い て い た た め 正 直 た い へ ん だ っ た 。( 4 )
㉜ と て も 役 に 立 っ た が 時 間 が 足 り な か っ た 。( 4 )
㉝ ひ た す ら プ リ ン ト を 埋 め て い た 。( 3 )
㉞ テ レ ビ で 見 た り 、人 か ら 聞 い た り す る だ け だ っ た が 、ニ ュ ー ス や 問 題 に つ い て 、自 分
で 調 べ た り 、 自 分 の 意 見 を 持 つ こ と が 出 来 た 。( 5 )
*(
)内の数字は、5段階評価の数字である
Ⅷ「読み」と「協同的な学び」による授業の課題と対策
Ⅷ―1
課題は何か
課 題 は「 プ リ ン ト が 難 し か っ た 」
( 表 6 ① )や「 面 白 く 思 え な い 」
(表6㉔)
の よ う に 、若 干 名 で は あ る が 、
「 読 み 」や「 協 同 的 な 学 び 」を 消 化 で き な い 生
徒もいた。問いの質に問題があったのではないだろうか。
我々が作成したプリントのほとんどは、知識を問うこととまとめることに
偏 っ た も の で あ っ た 。 こ れ は 、「 N 検 」 受 検 に よ る 全 員 合 格 と い う 数 値 目 標
にひっぱられて、テキストに準拠することを意識し過ぎていたのではないだ
ろ う か 。こ れ は 授 業 目 標 B「 自 分 の 考 え の 根 拠 と な る 理 由 な ど を 明 ら か に し 、
論理的に道筋立てて考えること」に対して、生徒の声がほとんどなかったこ
とから言える。
Ⅷ―2
今後の対策
「 面 白 く な い・グ ル ー プ ワ ー ク の 活 動 が い や だ っ た 」
( 表 6 ㉔ )と い う 生 徒
は、今までの経験値としてこのような学び方をしていなかったことから、頭
76
を使うことに意義を感じなかった可能性がある。
すぐに答えは出ないということを確認しつつ、今後は、問いの質の向上と
グループ学習により、そのテーマや他者の声や社会と自分自身が結びつくよ
うなものをもう少し取り入れていく必要がある。図4にあるように、テーマ
の 内 容 に つ い て 、評 価 を 求 め 、そ の 根 拠 を し っ か り 考 え る こ と で 、目 的 B に
関する課題も、多面的な視点を持ち、人に説明することで、少しずつ成果を
あげられるのではないだろうか。
Ⅸ
大学と接続した学びの可能性-求められるリーダー像-
Ⅸ―1
求められているリーダーとは
この「読み」と「協同的な学び」の授業において、一定の新しい学び方を
見せることができた。そして、生徒が考える満足度の基準も知ることができ
た。
「 知 ら な い 事 を 知 る 喜 び 」、
「 で き な か っ た こ と が で き た 喜 び 」、
「目標とし
て の N 検 合 格 と い う 目 標 達 成 」、
「 人 格 形 成 に お け る 成 長 の 実 感 」な ど 多 く の
要 素 を 含 ん で い る が 、「 点 数 」 向 上 の 喜 び だ け で な く 、 新 し い モ ノ と 出 会 い 、
人 格 形 成 を も 含 む 中 で 、自 分 の 成 長 を 感 じ る こ と が そ の 要 因 で あ る と 言 え る 。
この視点は、クリエイトコースにおいて、重要な視点である。付属校生に
は、大学のリーダーとなることを期待するとよく言われる。このリーダーと
は、他の人を学びに巻き込んでいける力なのではないだろうか。そこに高大
接続の可能性を感じる。
Ⅸ―2
知識と学び方
満 足 度 評 価 「 3 」 の あ る 生 徒 は 、「 プ リ ン ト 書 く の 面 倒 く さ す ぎ る 」( 表 6
⑲ )と コ メ ン ト し た 。だ が 、ア ン ケ ー ト の 感 想 欄 で は 、
「この授業は面倒くさ
いが、周りの人とのコミュニケーションがとれ、とても楽しくできた」とも
述べている。満足度評価「5」や「4」の生徒とちがうのは、コミュニケー
シ ョ ン 力 の 向 上 は で き た が 、授 業 で の プ リ ン ト を 楽 し め な か っ た こ と で あ る 。
つまり、新たな情報に対し、自分の文脈に入れられていなかったのであり、
新しい学び方を手に入れていなかったことになる。個の学びが必要であるこ
とに十分留意しつつ、新しい学び方とコミュニケーション力向上の両方のバ
77
ランスを持つことが、大学との接続にも重要な要素であることを確認してお
く。
Ⅹ
終わりに-成果に何を学ぶか-
「『 読 み 』 を 中 心 に し た 授 業 」 と 「 協 同 的 な 学 び 」 は 、 生 徒 が 「 未 知 の モ ノ
と 出 会 い 」、「 頭 を 使 い 思 考 」 を す る こ と で 「 主 体 的 に 学 ん で い け る 」 1 つ の
方法であることを述べてきた。
これは、
「 現 代 を 学 ぶ 」特 有 の 方 法 で は な く 、ど の 教 科 で も 取 り 入 れ る こ と
ができるはずである。つまり、今までの学びを新しい学びに転換するという
ことである。教科的な専門によって、問いの出し方などは違うか、生徒の学
び方と教員の学ばせ方の転換が同時に同一方向になされたならば、学びのス
テージもあがる可能性を持っている。
生 徒 は 、学 び か ら 逃 げ て い る の で は な い か ら で あ る 。先 の 視 点 を 持 ち つ つ 、
質の高い問いとグループの学びでより向上する可能性を感じるものである。
まずは、自分の教科から取り組んでいきたい。
この拙稿をきっかけに議論が活発化されれば幸いである。
参考文献
佐 伯 胖 ( 1990)『 考 え る こ と の 教 育 』 国 土 社
同
( 1995)『「 学 ぶ 」 と い う こ と の 意 味 』 岩 波 書 店
同
( 1998)「 学 習 の 『 転 移 』 か ら 学 ぶ 」『 心 理 学 と 教 育 実 践 の 間 で 』 東 京
大 学 出 版 会 pp157― 2 03
東 京 大 学 教 育 学 部 附 属 中 等 教 育 学 校 編 著 ( 2008 )『 学 び 合 い で 育 つ 未 来 へ の
学力
中高一貫教育の新しいデザイン』明石書店
日 本 ニ ュ ー ス 時 事 能 力 検 定 協 会 監 修 ( 201 5)『 2015 年 度 版 ニ ュ ー ス 検 定 公 式
テキスト「時事力」基礎編』株式会社毎日教育総合研究所
同
( 2015)『 2015 年 度 版 ニ ュ ー ス 検 定 公 式 テ キ ス ト 「 時 事 力 」 発 展 編 』
株式会社毎日教育総合研究所
78
実践報告
「英語多読」開講に向けての取り組み
英語科
山
下
剛
正
Takemasa Yamashita
キ ー ワ ー ド : 多 読 三 原 則 、 洋 書 (ペ ー パ ー バ ッ ク )
Ⅰ
はじめに
2003 年 、英 語 科 に よ る「 多 読 指 導 」へ の 挑 戦 が 始 ま っ た 。当 時 、男 女 共 学 、
カリキュラムの大幅改定、龍谷大学との教育連携校化など、学校全体の教育
が 大 き く 変 わ ろ う と し て い る と き で あ っ た 。英 語 科 も 従 来 の 指 導 法 を 見 直 し 、
教科書の読解、英文法のドリル中心の指導法から使える英語を身につけ、か
つ大学受験にも対応できるような新しい英語指導法へと転換していく必要性
を感じていた。
本校全体が授業改善を進める中で、英語科も新しい試みにチャレンジして
いた。その中の 1 つが英語多読指導法であった。その指導法は、平易ではあ
るが多くの英語を原書のままで読み、基礎的な英文法や英文の構成、英語の
単語や表現などを、多読を通して学んでいくものであった。この多読指導法
の中に英語科のめざす英語教育と近いものを感じ、英語科として多読指導法
を研究することとなった。
多 読 指 導 法 を 研 究 す る に あ た っ て 、 ま ず 、 大 量 の 洋 書 絵 本 や Graded
Readers を 購 入 し た 。 そ し て 、 中 学 と 高 校 の 一 部 の 学 年 ク ラ ス で 実 際 に 「 英
語多読」を実践してみることとなった。授業以外でも多読ライブラリーを学
内 に 設 置 し 、 生 徒 が 洋 書 絵 本 や Graded Readers を 自 由 に 読 ん だ り 借 り た り
できるようにした。しかし、授業は実験・検証的なもので終わってしまい、
継 続 的 な も の と は な ら な か っ た 。適 性 人 数 や 指 導 法 な ど 研 究 課 題 が 表 面 化 し 、
多読授業の運営の難しさを実感することとなった。
十 分 な 準 備 も で き な い ま ま で あ っ た が 、多 読 指 導 法 の 教 育 的 効 果 を 期 待 し 、
「 英 語 多 読 」 は 201 3 年 度 よ り 学 校 設 定 科 目 と し て カ リ キ ュ ラ ム に 設 定 さ れ
た。クリエイトコース(現在のプログレスコース)2年生の文系クラス生徒
に2単位で履修させることになった。シラバスも作成し、通年の正規授業と
79
い う 形 態 で 1 ク ラ ス 40 名 を 超 え る 生 徒 に 多 読 指 導 を す る こ と と な っ た 。
本稿では、本校で実践している「英語多読」の授業形態を振り返り、多読
指導の効果と今後の課題を考えていきたい。
Ⅱ
多読三原則
多 読 指 導 を 実 践 す る に あ た り 、 SSS 英 語 多 読 学 習 法 ( 1 ) に 基 づ き な が ら 指 導
し た 。SSS 多 読 学 習 法 は 電 気 通 信 大 学 の 元 准 教 授 で あ っ た 酒 井 邦 秀 氏 が 提 唱
したものであり、やさしくて長い英文をたくさん読むことによって英語力を
伸ばし、実用的な英語を使えるようになるというアプローチである。酒井
( 2002) に よ る と 、 1 00 万 語 読 め ば 1 ,000 語 の 使 用 語 彙 が 獲 得 で き 、 英 語 に
よる日常生活で不自由しないと言われている。また、英語を英語のまま理解
できる基礎ができあがる。
SSS 多 読 学 習 法 の 中 で は 、 簡 単 な 本 を 大 量 に 読 む こ と か ら 始 め て 、 徐 々 に
レ ベ ル を 上 げ て い く こ と を 鉄 則 と し て い る 。具 体 的 に 言 え ば 、絵 本 や 児 童 書 、
Graded Readers と い う 比 較 的 易 し い 本 を 大 量 に 読 む こ と で あ る 。 幼 児 向 け
と思えるほどの簡単なものからスタートしていくが、最後まで読めたという
達成感を味わうことができるし、イラストや挿絵が英文のイメージを頭の中
にわかせ、全体の理解を促してくれる。また、簡単な英語だからこそ英語を
英語のまま理解し、英語を前から読む習慣もつけやすい。英語の上達のため
に は 大 量 の 英 語 を 吸 収 す る こ と が 必 要 で あ り 、SSS 英 語 多 読 指 導 法 な ら ば 飽
きたり苦しくなったりすることなく長い時間楽しみながら読書できることが
期 待 で き る 。 中 学 1 年 生 の 教 科 書 に 出 て く る 総 単 語 数 が 1,50 0 語 く ら い と 言
わ れ て い る が 、こ れ は Graded Readers の Easystarts を 2 冊 読 め ば 超 え て し
ま う 数 で あ る 。SSS 英 語 学 習 法 な ら ば 10 0 万 語 読 破 と い う の は 可 能 な こ と な
のである。
SSS 多 読 学 習 法 で は 簡 単 な 本 を 大 量 に 読 む が 、そ の と き に 守 ら な け れ ば な
ら な い の が 多 読 三 原 則 (2)で あ る 。
1.辞書は引かない。和訳もしない。
2.わからないところは飛ばす。
3.つまらない本はやめる。
80
「1.辞書は引かない」は分からない単語があっても辞書を引かないで本を
読むことである。生徒は知らない単語があると辞書を引いて、意味を確認し
てから読み進める傾向がある。そのことが原因で読解スピードが落ちてしま
うし、文の流れも切れてしまう。そのような辞書を引きながらの読み方をや
め て 、分 か ら な い 単 語 が あ っ て も 読 み 進 め よ う と い う こ と で あ る 。酒 井( 2002)
では、英語で本を読むのは「英語の勉強」のためではなく書いてある内容を
つ か む た め で あ り 、そ の た め に は「 快 適 な 速 さ 」も 必 要 で あ る と 述 べ て い る 。
また、意味のかたまりを意識しながら前から読むことの重要性も指摘してい
る。辞書を引かないことによって、生徒は正確に読めているかどうか不安を
抱 え る か も し れ な い が 、 100 万 語 読 破 な ら び に 英 語 力 を 伸 ば す た め に は 必 要
な原則なのである。
「2.分からないところは飛ばす」は、内容が分からなくなっても、思い切
っ て 読 み 進 め よ う と い う も の で あ る 。こ の こ と に 関 し て 、古 川・河 手( 2003)
は、知らない単語があってもストーリー自体が楽しめればその単語が分から
なくても全く問題はないと述べている。また、物語の中で重要な意味を持つ
単語は何度も何度も繰り返し出てくるものであり、文章の前後関係からだん
だんその単語のニュアンスを感じ取ることができると述べている。難易度が
高い本に挑戦するとストーリーがつかめず、読書が苦痛で挫折してしまうこ
とが多い。だからこそ、イラストが多く、多少飛ばしても内容が分かるやさ
し い も の を 選 ぶ こ と が SSS 多 読 学 習 法 で は 大 事 な の で あ る 。
「3.読み進めるのがつらくなったらその本はやめる」は多読に義務感や根
性はいらないということである。興味関心が持てない本や英語が難しすぎる
本を最後まで読み続けようとしても、読むスピードも遅くなり読書自体が嫌
いになってしまう。英語を大量に読むことができなければ英語の上達は見込
めない。生徒は最後まで読まなければならないという義務感を持つかも知れ
な い が 、 SSS 英 語 学 習 法 で は 思 い 切 っ て 読 み に く い 本 は や め て し ま い 、 楽 し
んで読める本をどんどん読もうということである。
以上のように、多読三原則は読書の楽しさ・持続性・スピードを重視した
原則である。文法や訳読中心の英語指導が主流の日本の英語教育界の中で、
SSS 英 語 学 習 法 を 導 入 す る こ と は 英 語 科 に と っ て 大 き な 挑 戦 で あ っ た 。
81
Ⅲ
新カリキュラムでの取り組み
2013 年 ス タ ー ト の 新 カ リ キ ュ ラ ム で「 英 語 多 読 」が 科 目 設 定 さ れ た 。履 修
時 期 は 高 校 2 年 生 で 、 ク リ エ イ ト コ ー ス (3)( 現 在 の プ ロ グ レ ス コ ー ス ) 文 系
に 設 置 さ れ た 。通 年 2 単 位 の 科 目 と し て 、以 下 の よ う な シ ラ バ ス を 設 定 し た 。
(資 料 1 参 照 )
本校で多読指導をするにあたり、以下のような工夫をした。
Ⅲ-1
教材
教 材 と し て Pengui n Readers の Easystarts と Level 1 を 選 ん だ 。Penguin
Readers は SSS 英 語 多 読 研 究 会 が 多 読 用 基 本 洋 書 と し て 薦 め て い る も の で
あ る ( 5 ) 。総 単 語 数 が E asystarts で 約 1,000 words 前 後 で あ り 、長 さ や 語 彙 レ
ベ ル も 無 理 が な く 、3 0 分 前 後 で 1 冊 読 み き れ る 長 さ で あ る 。イ ラ ス ト が 多 く 、
そこから内容を推測することも十分可能である。実際大部分の生徒がペーパ
ーバックを見たことも読んだこともなかったが、生徒は抵抗なく読むことが
できた。種類が豊富であり、生徒は様々な分野の本を楽しむことができた。
また、平易な英語で書かれているが内容は充実しており、感動的な作品もあ
っ た 。 Penguin R eaders は 本 校 生 徒 が 多 読 三 原 則 を 通 し て 英 語 力 を 伸 ば す の
には適切な教材であった。
前 期 で Easystar ts を 約 20 冊 読 み 、後 期 は 教 材 を Penguin Re aders の Level
1 に レ ベ ル ア ッ プ さ せ た ( 6 ) 。 Level 1 に な る と 難 易 度 が や や 上 が り 、 難 し い
と 声 を 上 げ る 生 徒 も い た 。し か し 、前 期 の Easystarts で 多 読 三 原 則 を 徹 底 さ
せ る こ と で 読 み 方 が 定 着 し て お り 、 Level 1 に 上 げ て も 楽 し み な が ら 読 む 生
徒や挑戦しようと意欲的に読書に取り組む生徒が多かった。
Ⅲ-2
グループワーク
本 校 ク リ エ イ ト コ ー ス は 1 ク ラ ス が 40 人 を 超 え る 。 そ の ク ラ ス を 6 ~ 7
名の6グループに分け、グループごとに同じタイトルの作品を読ませた。6
グループあるので、クラス内では6種類のタイトル作品が同時に読まれてい
ることになる。机を合わせてグループを作るが、読書であるから私語は原則
禁 止 で あ り 、そ れ ぞ れ が 多 読 三 原 則 に 従 っ て 読 書 に 励 ん だ 。読 み 終 わ っ た 後 、
日 本 語 に よ る 要 約 作 り と 巻 末 に あ る ACTIVITIES の 中 の While you read を
解答させた。それらが終わった後はグループワークを課し、内容の確認や相
82
互で意見を交換しあった。1作品に費やす時間は約2時間であり、ペーパー
バックを読み始めてからグループワークのワークシートを仕上げて1作品完
了となる。
図 1
授業進度計画の例
1・ 2 回 目 授 業
3・ 4 回 目 授 業
5・ 6 回 目 授 業
7・ 8 回 目 授 業
9・ 10 回 目 授 業
1 1・ 1 2 回 目 授 業
A グループ
Lucky Break
The Last Photo
Flying Home
Tinker ’s Far m
To m C r u i s e
The Fireboy
B グループ
The Fireboy
Lucky Break
The Last Photo
Flying Home
Tinker ’s Far m
To m C r u i s e
C グループ
To m C r u i s e
The Fireboy
Lucky Break
The Last Photo
Flying Home
Tinker ’s Far m
D グループ
Tinker ’s Far m
To m C r u i s e
The Fireboy
Lucky Break
The Last Photo
Flying Home
E グループ
Flying Home
Tinker ’s Far m
To m C r u i s e
The Fireboy
Lucky Break
The Last Photo
F グループ
The Last Photo
Flying Home
Tinker ’s Far m
To m C r u i s e
The Fireboy
Lucky Break
グループワークでは①相関関係図②簡単な要約③お気に入りの場面④お気
に入りの英文⑤感想の5点をまとめさせた。理想は英語でワークシートをま
とめることであったが、生徒の能力も考慮し、日本語でまとめさせた。グル
ープワークは助け合いの場面であり、お互いの内容理解度を確認することも
できたが、生徒同士のコミュニケーションの場面でもあった。グループワー
クを通じたコミュニケーションが生徒間の交流、授業の活性化を促した。グ
ループワーク中は私語も出てしまうが、制限時間を設定することで作業に集
中させることができた。
図 2
グ ル ー プ ワ ー ク (40 人 ク ラ ス )の 座 席 例
A
B
C
D
E
F
83
多読指導をグループワークにすることで、生徒同士で助け合いながら内容
を理解することができた。また、助け合いの活動が刺激となり、英語が苦手
な 生 徒 で も 英 語 多 読 を 楽 し む こ と に つ な が っ た (7)。
Ⅲ-3
要約
SSS 多 読 指 導 法 で は 読 む こ と を 重 視 し て い る の で 、 読 ん だ 後 の 指 導 と し て
は読書ノートに単語数記録と1行程度の簡単な感想を書くことを勧めていた。
本 校 で は 内 容 理 解 の 確 認 の た め に 、読 ん だ 後 に 日 本 語 10 0 語 程 度 の 簡 単 な 要
約 (8)を 課 し た 。 初 め は 要 約 活 動 に も 四 苦 八 苦 し て い た が 、 授 業 を 重 ね る ご と
に、スムーズに書けるようになった。要約の内容も、初めは前半部分に偏っ
たり物語の焦点を外すような要約が多かったが、回数を重ねるごとに改善さ
れ 、 要 点 を 外 さ ず 全 体 を 要 約 で き る よ う に な っ た 。 SSS 多 読 指 導 法 の 狙 い か
ら外れてしまったかもしれないが、要約は英語長文の要旨をつかむ練習や自
分の言葉に置き換える練習にはなったと考えられる。
Ⅲ-4
プレゼンテーション
およそ2時間で1作品が完了し、その後グループメンバーは変えずにクラ
ス 内 で 作 品 を シ ャ ッ フ ル す る 。 大 体 12 時 間 か け て 同 じ グ ル ー プ メ ン バ ー で
6作品が読めることになる。6作品読み終えた段階でプレゼンテーションを
実施した。
プレゼンテーションはグループ発表とし、グループワークで取り組んだこ
とをクラスに発表させた。6グループが別々の作品の発表に取り組み、発表
は英語で行った。クラス全員が読んだことのある作品の発表であるから、聞
く側も発表の内容を十分に理解することができた。
「英語多読」は本をたくさん読む授業であるが、プレゼンテーションを取り
入れたことは刺激的であり、授業を活性化できた。多読は読書であるから英
語の4技能の中でリーディングスキルに偏ってしまう。しかしプレゼンテー
ションを入れることでライティングとスピーキングのスキルも磨くことがで
きた。生徒もプレゼンテーションをすることで、本を読む以外の楽しみを味
わうことができたと思われる。
84
Ⅲ-5
多読マラソン
読 書 記 録 ノ ー ト (9)を 作 り 、 生 徒 が 読 ん だ 本 の 総 単 語 数 を 記 録 さ せ た 。 読 書
記 録 ノ ー ト は SSS 読 書 記 録 手 帳 を も と に 作 成 し た 。読 ん だ 作 品 の 単 語 数 を 累
積 で 算 出 さ せ る と 、年 間 を 通 し て ど の 生 徒 も 大 体 40,00 0words 前 後 は 読 ん だ
こ と に な っ た (資 料 2 参 照 )。 具 体 的 な 数 字 で 表 す こ と で 、 生 徒 は 達 成 感 を 味
わうことができた。
Ⅲ-6
考査
英語多読は年間を通して、前期考査と後期考査の 2 回を実施した。いずれ
も 授 業 中 に 読 ん だ こ と の な い 初 見 の 作 品 を 考 査 時 間 内( 50 分 )で 読 み 、解 答
する形式にした。考査内容は、内容真偽問題と空所補充による内容理解を確
認 す る 問 題 と し た 。 前 期 は Easystarts 、 後 期 は Level 1 の Graded Readers
から出題した。
初 見 の 作 品 で あ っ た が 、 生 徒 は 試 験 時 間 50 分 を 全 て 有 効 に 使 い 、 集 中 し
て解答に励むことができた。初見の作品であるから、授業内容や家庭学習を
重視するような確認テストとはならないが、生徒は日々の英語多読の授業で
培 っ た リ ー デ ィ ン グ の ス キ ル を 駆 使 し な が ら 解 答 で き た と 思 わ れ る (10)。
Ⅲ-7
授業分析
2013 年 度 の 英 語 多 読 1 年 目 の ア ン ケ ー ト 結 果 を ご 覧 い た だ き た い 。 (資 料
3参照)
まず、英語多読の授業を通して、英語を読む楽しさが伝わったことがあげ
ら れ る 。 ア ン ケ ー ト の 回 答 項 目 の 中 の 「 A . そ う 思 う 」「 B . ま あ ま あ 思 う 」
に 関 し て 、「 1 . 英 語 を 読 む こ と が 苦 に な ら な く な っ た 」 で 66 % 、「 2 . 挿 絵
を 見 て 読 む こ と の 楽 し さ が わ か っ た 」 で 81% 、「 8 . 毎 時 間 さ ま ざ ま な 話 を
容 易 な 英 語 で 読 め る の で『 英 語 多 読 』の 授 業 は 楽 し い 」で 65% の 生 徒 が 回 答
し て お り 、肯 定 的 な 感 想 が 半 数 を 超 え た 。英 語 を 楽 し む こ と が で き た こ と は 、
英語教員として大変うれしいことである。また、多読を通して英文に対する
心理的バリアーを下げたことは、将来英語を積極的に読むことにつながると
期待できる。
また、
「 3 .わ か ら な い 単 語 を 飛 ば し な が ら 読 ん で 大 体 の あ ら す じ は つ か め
る よ う に な っ た 」 83 % 、「 7 . 前 期 で Eas ystarts 、 後 期 で Leve l 1 を 読 ん だ
85
が 、レ ベ ル が 上 が っ て も 読 み 込 む と 慣 れ る こ と が で き た 」72 % 、
「 9 .1 年 を
終えて、
『 英 語 多 読 』の 授 業 で 英 文 を 読 む 力 が つ い た と 思 う 」8 5% か ら 、リ ー
ディングスキルや読解力が向上できたと考えられる。楽しむだけでなくスキ
ルを身につけることができたことは、授業を通しての大きな学習成果であっ
たと言える。
残念ながら、
「 6 .自 ら 進 ん で 図 書 館 で Graded Reader s を 借 り て 読 む よ う
に な っ た 」は 28 % で あ っ た 。自 立 的 、主 体 的 な 読 書 活 動 に つ な げ る に は 至 ら
な か っ た 。 し か し 「 1 0 . 1 年 を 終 え て 、『 英 語 多 読 』 の 授 業 は 良 か っ た と 思
う 」 は 78% で あ り 、 英 語 に 対 す る 意 識 改 革 は で き た と 確 信 す る 。
アンケート結果から、
「 英 語 多 読 」を 通 し て 生 徒 の 英 語 に 対 す る 意 識 を 変 え
ることができたと分析できる。しかし、より効果的で生徒が充実した授業を
実 践 す る た め に 、 教 員 側 も も っ と 「 多 読 授 業 」 を 研 究 す る 必 要 が あ る ( 11 ) 。ま
ず 、多 人 数 教 室 に お け る 効 果 的 な 多 読 指 導 法 の 研 究 で あ る 。
「 英 語 多 読 」は 少
人 数 教 室 ま た は 個 別 指 導 で 実 践 し た 例 が 多 く 、 本 校 の よ う な 40 名 を 超 え る
多人数教室はまれである。多人数教室での多読指導には今後も継続的な研究
が必要である。また、評価方法に対しても研究する必要がある。読書結果だ
けで評価を決めるのは困難であり、客観的なデータや数値が必要になってく
る。評価テストの頻度や種類、全体の成績における割合などは慎重に検討す
る 必 要 が あ る 。そ し て 、
「 英 語 多 読 」の 本 来 の 目 的 を ど う や っ て 生 徒 に 伝 え る
か で あ る 。ア ン ケ ー ト 結 果 か ら も 分 か る よ う に 、
「 英 語 多 読 」が 授 業 外 の 読 書
活動につながったとは言えない。授業を通して英語力を上げることは大事で
あるが、生徒の「英語を読みたい」という意欲をもっと引き出せる授業づく
りが必要である。
Ⅳ
おわりに
2003 年 度 よ り 英 語 科 内 に お い て「 英 語 多 読 」の 指 導 方 法 の 研 究 が 始 ま っ た
が 、2013 年 度 の 学 校 設 定 科 目 と し て の 設 置 を 契 機 に 、本 校 の 実 情 に 合 わ せ た
「英語多読」の授業設計が急速に進むことになった。この「英語多読」の授
業づくりは、東弘道元教諭の並々ならないご尽力なしには成立しなかった。
厚く御礼申し上げる次第である。
「 英 語 多 読 」の 授 業 は 3 年 目 で あ る 。こ れ か
らの研究を通してさらに発展させ、英語力の向上だけでなく、英語好きの生
徒を増やしていきたい。
86
資料1
平成25年度
英語多読シラバス
平 成 25 年 度
高校 2 年多読授業
シラバス
スケジュール
5月
英
語
多
読
(
2
単
位
)
6月
1st
第一回
Summary
提出
Presentation
お気 に入 りの本
提出
① サマリー
内容理解度テ
スト
10月
月
summary
Grade 別
をクラスで紹 介
9月 ~10
第二回
7月
11月
12月
1月 ~3月
2nd
第三回
Grade 別
Pre se n tati o n
summary
内容理解度
お気 に入 りの
提出
テスト
本 をクラスで
3rd
紹介
Presentation
前期考査
(初 見 英 文 を読
ませてのテスト)
Level1
お 気 に 入 り の 本 の 要 約・感 想 を 10 行 (約 100 語 )ま で の short
summary に し て 提 出 、 前 後 期 に そ れ ぞ れ 2 ~ 3 回 実 施
② プレゼンテーション
③ 小テスト →
お気に入りの本をクラスで紹介する
“info b ox ( 4 ) ”を 使 用 し て の 客 観 テ ス ト
④ 読書量を評価
→
平安独自の読書ノート「読書マラソンめざせ完走!
― 1 年 間 で 10 万 語 を 読 も う ― 」 を 配 布 利 用 す る 。
評価
①サマリー
10%
③ 小テスト(数回)40%
⑤ 前後期考査
20%
87
② プレゼンテーション
10%
④ 読書量評価
20%
資料2
201 3 年 度 英 語 多 読
読書記録
総単語数およびクラス最高語数
総単語数(クラス平均)
5月
6月
8月
12 月
2月
2年 2組
7,321
10,723
15,208
35,900
51,607
2年 3組
6,726
10,823
14,851
31,945
40,502
2年 4組
5,974
10,623
13,824
25,939
33,328
2年 5組
7,678
10,755
15,503
35,607
49,678
2年 6組
5,701
11,479
14,556
33,815
39,406
2年 7組
6,876
10,474
15,310
33,531
46,776
全体平均
6,713
10,813
14,875
32,790
43,550
5月
6月
8月
12 月
2月
2年 2組
36,034
48,538
61,935
12,8001
150,720
2年 3組
10,791
21,246
24,430
42,544
53,434
2年 4組
7,541
20,099
21,132
43,701
56,087
2年 5組
8,312
13,497
20,351
55,372
66,042
2年 6組
7,738
20,417
24,538
49,500
52,724
2年 7組
10,089
16,487
25,502
44,554
58,100
クラス最高語数
資料3
201 3 年 度 英 語 多 読
A:そう思う
年 間 ア ン ケ ー ト 集 計 結 果 (226 名 対 象 )
B:まあまあ思う
C:そうは思わない
1.英語を読むことが苦にならなくなった。
A : 34 名 (15 %)
B : 116 名 (51%)
88
C : 76 名 (34%)
2.挿絵を見て読むことの楽しさが分かった。
A : 58 名 (26 %)
B : 124 名 (55%)
C : 44 名 (19%)
3.分からない単語を飛ばしながら読んでだいたいのあらすじはつかめるよ
うになった。
A : 82 名 (36 %)
B : 107 名 (47%)
C : 37 名 (17%)
4 . Activities を ノ ー ト に 写 し 、 問 題 を 解 き な が ら 読 む こ と が で き る よ う に
なった。
A : 40 名 (18 %)
B : 133 名 (59%)
C : 53 名 (23%)
5.一冊読み切って「読書マラソンノート」に語数等を記録していると充実
感を感じられるようになった。
A : 41 名 (18 %)
B : 107 名 (47%)
C : 78 名 (35%)
6 . 自 ら 進 ん で 図 書 館 で Graded Readers を 借 り て 読 む よ う に な っ た 。
A : 17 名 (8 %)
B : 46 名 (20 %)
C : 163 名 (72%)
7 .前 期 で Easystarts 後 期 で Level 1 を 読 ん だ が レ ベ ル が 上 が っ て も 読 む こ
とに慣れることができた。
A : 47 名 (21 %)
B : 116 名 (51%)
C : 63 名 (28%)
8.毎時間さまざまな話を容易な英語で読めるので「英語多読」の時間は楽
しい。
A : 24 名 (11 %)
B : 123 名 (54%)
C : 79 名 (35%)
9 . 1 年 を 終 え て 、「 英 語 多 読 」 の 授 業 で 英 文 を 読 む 力 が つ い た と 思 う 。
A : 61 名 (27 %)
B : 130 名 (58%)
C : 35 名 (15%)
1 0 . 1 年 を 終 え て 、「 英 語 多 読 」 の 授 業 は 良 か っ た と 思 う 。
A : 54 名 (24 %)
B : 123 名 (54%)
89
C : 49 名 (22%)
資料4
使用教材一覧
レベル
タイトル
単語数
1
Easystarts
A New Zealand Adventure
803
2
Easystarts
Between Two Worlds
933
3
Easystarts
Billy and the Queen
1,065
4
Easystarts
Dino’s Day in London
801
5
Easystarts
Flying Home
974
6
Easystarts
Hanna and the Hurricane
973
7
Easystarts
Lucky Break
720
8
Easystarts
Maisie and the Dolp hin
973
9
Easystarts
Marcel and the Mona Lisa
999
10
Easystarts
Marcel and the White Star
962
11
Easystarts
Pete and the Pirates
1,397
12
Easystarts
San Francisco Story
842
13
Easystarts
Simon and the Spy
978
14
Easystarts
The Big Bag Mistake
806
15
Easystarts
The Fireboy
967
16
Easystarts
The Last Photo
800
17
Easystarts
The Leopard and the Lighthouse
18
Easystarts
The Pearl Girl
949
19
Easystarts
The Troy Stone
996
20
Easystarts
The White Oryx
910
21
Easystarts
Tinker ’s Farm
22
Easystarts
Tinker ’s Island
957
23
Easystarts
Tom Cruise
934
24
Easystarts
Who wants to be a Star?
911
25
Level 1
Ali and his Camera
1,881
26
Level 1
Daniel Radcliffe
2,028
27
Level 1
David Beckham
2,092
28
Level 1
Girl Meets Boy
1,810
29
Level 1
Jennifer Lopez
1,983
1,003
1,021
90
30
Level 1
Karen and the Artist
1,733
31
Level 1
Lisa in London
1,257
32
Level 1
Marcel and the Shakespear e Letters
2,031
33
Level 1
Marcel goes to Hollywood
34
Level 1
Michael Jordan
1,960
35
Level 1
Mike’s Lucky Day
1,496
36
Level 1
Mother Teresa
2,133
37
Level 1
Muhammad Ali
2,451
38
Level 1
Pele
1,969
39
Level 1
Rip Van Winkle and The Legend of Sleepy
3,700
947
Hollow
40
Level 1
Run For Your Life
1,635
41
Level 1
Six Sketches
2,077
42
Level 1
Speed Queens
3,222
43
Level 1
Surfer
1,524
44
Level 1
The Adventures of Tom Sawyer
4,003
45
Level 1
The Battle of Newton Road
1,649
46
Level 1
The Gift of the Magi and Other Stories
4,349
47
Level 1
The House of the Seven Gables
4,134
48
Level 1
The Missing Coins
1,711
49
Level 1
Twenty Thousand Leagues Under the Sea
4,402
50
Level 1
William Tell
3,730
* 出 版 社 は 全 て Penguin Readers
注
( 1 ) 200 1
年 に 酒 井 邦 秀 氏 を 中 心 と し て 創 設 さ れ た SSS 英 語 学 習 法 研 究 会 (現 在
は SSS 英 語 多 読 研 究 会 に 改 称 )が 勧 め る 英 語 学 習 法 。 詳 し い 学 習 方 法 に つ
いては参考文献を参照。
( 2 ) SSS
英語多読研究会が勧める英語多読法の根幹をなす大原則。詳しくは酒
井 ( 2002) を 参 照 。
(3)本 校 教 育 シ ス テ ム の 中 に あ る 大 学 付 属 コ ー ス 。 受 験 勉 強 に
91
捉われることな
く、大学で学ぶための基礎基本を身につけることで〈龍谷スタンダード:
建学の精神に基づいた「人間力」と共生(ともいき)の精神〉を担える生
徒を育成するコース。
(4)本 校 で は エ ミ ル 出 版 の
info .box を 副 用 材 と し て 採 用 し て い る 。小 テ ス ト (内
容 真 偽 問 題 と 単 語 テ ス ト )と し て 利 用 し て い る 。
( 5 ) 多 読 用 洋 書 教 材 に 関 し て は 、古 川・河 手( 2003)に 詳 し く 紹 介 さ れ て い る 。
本校が教材として使用している図書に関しては資料 4 を参照。
( 6 ) Penguin
Readers の Level 1 は 難 易 度 に 幅 が あ り 、 実 際 The House of the
Seven Gables や Twenty Thousand Leagues Under the Sea は 本 校 生 徒 に
は難解すぎて途中でやめる生徒も多かった。
(7)グ ル ー プ ワ ー ク 形 式 で 多 読 指 導 を し た こ と が 本 校 の 特 徴 と 言 え る が 、
実際
グループワーク形式は前期だけにし、後期からは個人で読むように指導し
た。グループワーク形式は生徒同士が助け合い、多読三原則の導入もしや
す か っ た 。後 期 に な る と 本 来 の SSS 多 読 指 導 法 に 戻 り 、個 人 の ペ ー ス で 読
ませて英語力の伸張を狙った。
( 8 ) 10 0
語 程 度 の 要 約 で あ る が 、実 際 に は 20 0 語 前 後 に な る こ と は 多 い 。Level
1 に な る と 20 0 語 で も お さ ま ら な い ケ ー ス も 多 く 、 文 字 数 に 関 し て は 臨 機
応変に対応している。
( 9 ) SSS
英 語 多 読 研 究 会 ( 2005) を 参 照 。
( 1 0 ) 酒 井 ・ 神 田( 2005 )の 多 く の 実 践 例 で も 書 か れ て い る が 、多 読 授 業 の 課 題
の1つに評価の問題がある。読書量と成績評価は切り離すべきであり、客
観的な数値であらわれるテストの方が評価としてふさわしいという意見が
多 い 。本 校 で は 定 期 考 査 60%、小 テ ス ト 60%と し て い る が 、今 後 も 検 討 す
べき課題であると思われる。
( 11 ) SSS
英 語 多 読 研 究 会 や 実 践 報 告 例 が 、「 上 手 な 多 読 指 導 の た め に は 指 導 者
自 身 が 100 万 語 英 語 多 読 を 経 験 し な け れ ば な ら な い 」 と 述 べ て い る 。 生 徒
の悩みを解決したり適切な助言を与えるためには教員自身が経験を積む必
要があり、本校の大きな課題でもある。
参考文献
酒 井 邦 秀 ( 2002)『 快 読 100 万 語 ! ペ ー パ ー バ ッ ク へ の 道 』 筑 摩 書 房
酒 井 邦 秀 ・ 神 田 み な み ( 2005)『 教 室 で 読 む 英 語 100 万 語 ― 多 読 授 業 の す す
92
め』大修館書店
古 川 昭 夫 ・ 河 手 真 理 子 ( 2003)『 今 日 か ら 読 み ま す
英 語 100 万 語 』 日 本 実
業出版社
SSS 英 語 多 読 研 究 会 ( 2005)『 め ざ せ ! 10 0 万 語
ア
93
読書記録手帳』コスモピ
実践報告
私達の暮らしとグローバリゼーション
佐々木
潤子
Junko Sasaki
キーワード:参加型学習、重み付けによる意思決定、消費行動
多様な価値観、食料主権
Ⅰ
はじめに
T P P( Tr a n s - P a c i f i c S t r a t e g i c E c o n o m i c P a r t n e r s h i p A g r e e m e n t = 環
太平洋戦略的経済連携協定)とは、環太平洋地域の国々による経済の自
由化を目的とした多角的な経済連携協定のことである。
今 回 の 実 践 で は T P P に 関 す る 様 々 な 意 見 を 知 る と と も に 、日 本 が T P P
に参加することにより、私たちの暮らしがどのように変化するのか、生
徒自身が考えることをねらいとした実践を報告する。
実践を通して生徒達に商品を購入することにより、その商品の裏側に
ある生産や流通を支えている(=システムを維持し拡大)ことに気づか
せ、消費行動が持つ意味を自覚させたいと考え授業を組立てている。
参加型のワーク「ぐるぐるミーティング」と「花はじきで意志決定」
を 通 し そ れ ぞ れ の 立 場 に つ い て 理 解 す る と 共 に TPP に つ い て 俯 瞰 的 に
理解し自由貿易へ移行していくことの意味を構造的に理解できるよう工
夫した。
Ⅱ
指導学年
高校 1 年『家庭基礎』
食料自給率と関連させ 2 時間で実施
Ⅲ
実践の流れ
(1)ぐるぐるミーティング
1 ク ラ ス を 10 班 ( 1 班 は 3 ~ 4 人 ) に わ け TPP に 対 し て 立 場 の 違 う
人物を振り分ける。
( 人 物 の 設 定 は 農 家 の 谷 さ ん 、証 券 会 社 で 働 く 大 井 さ
ん 、部 品 メ ー カ ー の 社 長 平 さ ん 、医 師 安 田 さ ん 、生 物 多 様 性 を 守 る N G O
高田さん、元総理大臣菅さん、消費者下中さん・中屋さん、メダカの学
くん、就職活動中の未来さん)
94
例1:農業を営む谷さん
日本がTPPに参加したら価格競争に負けて、日本の農業がつぶれて
しまう。物価の高い日本では人件費など農作物を作るためにはコストが
かかるのは当然で、競争力がないと言われてもその国々の事情がある。
小農、高齢化が今の日本の農業の課題であるのはよく分かっているが、
日本の農業は急には変われない。日本は遺伝子組み換え食品に標示を義
務づけているが、それをアメリカに「貿易障壁」だと非難させる可能性
が あ る 。T P P に 参 加 し て し ま う と 消 費 者 の 選 ぶ 権 利 も 脅 か さ れ る こ と に
なる。価格が安い、高いという物差しだけではない部分も見ていかない
といけないのではないか、安全・安心を支えるのは自国の農家が基本だ
と思う。
例2:消費者下中さん
リストラにならないまでも、現在の勤務先の経営は本当に厳しいとこ
ろにきている。切り詰められるところはギリギリまで切りつめているの
が、中小の企業の実態ではないだろうか。そんな中、家庭も支出を切り
詰めていくのは当たり前。同じものであれば少しでも安いものを購入す
るようにしている。1988年の牛肉・オレンジの自由化により、安い
牛丼などが提供されていると思う。
日本の農家のことを考えると気の毒に思うが、消費者の立場からする
と TPP は 歓 迎 す る べ き 条 約 だ と 思 う 。
例3:消費者中屋さん
消費者が安心安全を捨ててまで安さに飛びつくのはどうかと思う。自
分が商品を購入するということは、その商品の裏側にある生産や流通を
支えることにもなる。
消費行動も場合によっては政治的選択の一票を投じるのと同じだとい
う こ と を 知 る べ き で あ る 。こ れ か ら の 消 費 者 は 、
「不安なものはたとえ値
段が安くてもいらない」と訴えていくことが大切ではないでしょうか。
安 け れ ば 安 い に こ し た こ と は な い が 、な ぜ 安 い の か 。そ れ を 問 う 、
「自覚
的 消 費 者 」の 立 場 に な っ て T P P の 問 題 を 考 え て い く 必 要 や 、次 世 代 に 向
けての新しい消費者教育のあり方を考えていくべきである。
95
各班に台詞を配布し台詞の中に読めない漢字や意味が分からないと
ころがないか確認させ、グループ内で台詞の中のどのキーワードが重要
であるか、どのように台詞を伝えたら聞いている人に伝わりやすいかを
考 え さ せ て い る 。( = 役 作 り を さ せ る )
また授業では、自分が演じている役割について、その人の発言の背後
にあるものについても類推し、役割について理解を深めることができる
よう意識させた。
(2)移動(ぐるぐる)の方法
各班で「移動する人」と「残る人」に役割を決めさせる。
教員の合図で「移動する人」になった約半数の人は隣のテーブルに移動
す る 。移 動 後「 移 動 し て き た 人 側 」が 2 分 間 T P P に つ い て の 意 見 を 述 べ
る 。次 に そ れ ぞ れ の テ ー ブ ル に「 残
っていた人側」が2分間意見を述
べる。聞く側になった時は記録用
紙にメモを取るように指示してお
く 。2 分 間 × 2 回 が 終 了 し た ら 、ま
た 教 員 の 合 図 で「 移 動 す る 人 」が 隣
のテーブルに移動する。 (右の図
は移動の例)
2時間の授業で実施しているた
め、授業では全部のグループがそれぞれの班をまわることはできていな
い 。5 ~ 6 回 程 度 移 動 を 繰 り 返 し た 後 、
「 移 動 し て い た 人 」は 元 の 班 に 戻
り 、「 移 動 し て い た 人 」「 残 っ て い た 人 」 相 互 に 記 録 用 紙 を 使 い 、 聞 き 取
ってきたことを伝えあう。
(3)花はじきで意志決定
花 は じ き と は 、ご っ こ 遊 び な ど で 使 わ れ る 直 径 1 . 8 c m の お は じ き の こ
とである。この花はじきを生徒一人につき10個配り、それぞれの登場
人物のどの意見に共感できるか、プリントの上に花はじきを置くことで
投票をさせた。生徒自身どの意見に何個置くかを考える中で自分は何に
価値を置くのか、自分の中で重要視する項目は何なのかを明確にするこ
と が で き る 。( = 多 様 な 価 値 観 を 相 対 化 し 再 統 合 す る プ ロ セ ス )
96
また、グループで花はじきを置くことで、他の生徒がどのような意見
を持っているのか価値基準を可視化することができ、他者との比較がし
やすく、グループ内での意見交換が活発化した。
←写真は花はじきを置いた例
横の合計をすれば、班でどの意見に共感できたのか集計することがで
き る 。最 後 に 、班 の 集 計 結 果 を 黒 板 に 書 か せ 、ク ラ ス 全 体 の 傾 向 を 出 し 、
クラス全体で共有し、それをみて気がついたこと等をまとめさせた。
←右は黒板にまとめた例
どのクラスでも花はじきが集まるのはメダカの学くんで授業の感想
でも『外国産の米がたくさん日本へ輸入されると、日本の米は売れず作
られなくなってしまうかもしれない。そうすると田んぼがなくなり、そ
の田んぼに住むメダカなどの生物も住む場所がなくなって死んでしまう
可能性だってある。何か一つの事が変わるとすべての事が変わってしま
う 。』と い う 感 想 が 数 多 く 見 ら れ た 。メ ダ カ の 学 く ん を 登 場 さ せ る こ と で
人 間 以 外 の 視 点 に 気 づ か せ る こ と が で き 、人 間 を 含 む 環 境 と T P P に つ い
ても考えることができるようになったようだ。
97
Ⅳ
生徒の感想
授業後は出てきた生徒達の意見を教師が集約する形でプリントにま
とめ、生徒にフィードバックし、そこからさらに学習が深まるよう意識
し て い る 。( 以 下 は 生 徒 達 の 感 想 )
TPP に つ い て の 意 見 は ど ち ら か ら 見 た 視 点 な の か で い ろ い ろ 変 わ
っ て い た 。例 え ば 会 社 の 側 か ら み れ ば 、人 の 移 動 が 自 由 に な り 労 働 力
が 手 に 入 る と い う メ リ ッ ト が 、農 家 の 側 か ら 見 る と 外 国 の 作 物 の 輸 入
は 死 活 問 題 に な る 。不 況 の 中 、な ん と か 経 済 を 上 向 き に し よ う と す る
の は わ か る が 、自 分 た ち の 守 っ て き た 伝 統 や 文 化 の あ り 方 を な く し て
し ま う と い う 事 態 に な り か ね な い 。あ る 意 味 、今 の 伝 統 や 文 化 の あ り
方 と 未 来 の 方 向 性 を た め さ れ て い る の か と 思 う 。今 回 や っ た デ ィ ス カ
ッ シ ョ ン は い い 試 み だ と 思 う の で 、将 来 こ う い う 機 会 が 取 れ た ら と 思
う 。( 女 子 生 徒 )
最 初 TPP を 聞 い た と き は 消 費 者 と 農 家 し か 関 係 な い と 思 っ て た け
ど、いろいろな班の話を聞くと医療などにも関係してくることがわか
った。外国産の米がたくさん日本へ輸入されると、日本の米は売れず
作 ら れ な く な っ て し ま う か も し れ な い 。そ う す る と 田 ん ぼ が な く な り 、
その田んぼに住むメダカなど生物も住む場所がなくなって死んでしま
う可能性だってある。何か一つの事が変わるとすべての事が変わって
し ま う 。そ う な ら な い た め に も T P P に 参 加 し て 悪 い 方 向 へ な っ て し ま
う か ら 後 悔 し な い よ う に し て 欲 し い 。( 男 子 生 徒 )
ぐるぐるミーティングや花はじきを使う参加型学習は生徒の満足度
も 高 か っ た 。 ユ ネ ス コ 「 21 世 紀 教 育 国 際 委 員 会 」 報 告 書 「 学 習 秘 め ら
れ た 宝 」で「 学 習 の 4 つ の 柱 」の 一 つ 、
「他者と共に生きることを学ぶ」
については「この学習形態こそ、今日の教育にとって最重要課題の一つ
で あ る 。」と 報 告 書 の 中 で 強 調 さ れ て い る 。今 回 の 研 究 で も 高 校 生 同 士 が
T P P に つ い て 、話 し た り 友 達 か ら 聞 く こ と で 関 心 が 深 ま り 生 徒 達 の コ ミ
ュニケーションスキルや調整力を補う可能性があり、
「他者と共に生きる
ことを学ぶ」ことにつながっていくと考えている。
授業では、自分とは異なる価値観・意見を排除するという否定的な対
処の仕方ではなく、自分の見方を広げてくれる貴重な意見として耳を傾
98
け 、尊 重 す る と い う 肯 定 的 な 対 処 の 仕 方 を 体 験 で き る よ う 心 が け て い る 。
授 業 を 通 し て 生 徒 達 は TPP に つ い
て 、い ろ い ろ な 立 場 が あ り 、さ ま ざ ま
な 考 え が あ る こ と を 知 っ て い く 。 TV
や新聞な等で報道されていることが
自分たちの生活とどう関わっている
のか関心を持たせることができた。
T P P の 締 結 に よ っ て 、日 本 や 世 界 全 体 が 大 き く 変 わ っ て い く こ と は 明
ら か で す 。良 い 面 、悪 い 面 が 多 く あ っ て 、実 際 に T P P を 締 結 さ れ て 始 ま
っ て み な け れ ば 分 か ら な い と い う 面 も 多 く あ る と 思 い ま す 。だ か ら 、こ
こ で TPP が 反 対 か 賛 成 か を 言 う こ と は 、 私 に は で き ま せ ん 。
T P P は ま だ 未 熟 な 部 分 も 多 く あ り 、そ れ を 整 え る 必 要 が あ る と 感 じ ま
す 。例 え ば 人 の 移 動 を 自 由 に す る こ と で 日 本 に 低 賃 金 の 労 働 者 が 多 く 入
っ て く る と い う の は 、日 本 人 の 働 く 場 所 が な く な る の も 大 き な 問 題 で す
が 、そ れ よ り も 一 つ の 場 所 に 技 術 が 集 中 す る こ と の 方 が 問 題 だ と 思 い ま
す 。確 か に 一 つ の 場 所 に 集 中 し た 方 が 発 展 し や す い で す が 、そ れ で は 国
同 士 の 格 差 を さ ら に 生 む こ と に な り ま す 。も っ と よ く 考 え て い く べ き だ
と 思 い ま す 。( 女 子 生 徒 )
生徒の中にはグローバル化が進行することで国家間の格差が進行す
る可能性があることを指摘する生徒も複数名いた。
自国の損得ばかりを議論するのではなく、真にグローバルな視点とは
こうあるべきなのだろうと生徒から学ぶことができた。
Ⅴ
まとめと今後の課題
生 徒 達 は TPP に つ い て 立 場 の 違 い に よ る 意 見 を 理 解 し 、 TPP に つ い
て報道されていることが自分たちの生活とどう関わっているのか多面的
に考えることができるようになった。花はじきを使用することで一人一
人の価値基準を可視化することができ、自分と他者との価値基準の比較
ができた。さらに重み付けを加えた意思表示をすることで自分の中の価
99
値基準と丁寧に向き合う時間を作ることができた。
また、参加型の授業では教師に生徒を観察する余裕が生まれ、観点別
評価をつける時間を確保することができた。
食 料 主 権 の 重 要 性 や I S D 条 項 等 さ ら に 深 め た い テ ー マ は あ る が『 家 庭
基礎』2単位での実施は困難であること、世界のグローバル化が加速す
る中で、消費者として倫理的な消費行動とはどうあるべきかを考えさせ
る実践にはまだまだ不十分である。
今後、より効果的な授業ができるよう研究し、実践へとつなげていき
たいと考えている。
参考文献
天 城 勲 ( 翻 訳 )( 1 9 9 7 )『 学 習 ・ 秘 め ら れ た 宝 』 ユ ネ ス コ
ぎょうせい
鈴 木 宣 弘 ( 2 0 1 3 )『 T P P で 暮 ら し は ど う な る ? 』 岩 波 ブ ッ ク レ ッ ト
日 本 消 費 者 連 盟 編 集 ( 2 0 0 5 )『 食 料 主 権 』
100
緑風出版
実践報告
木で作る
木を学ぶ
美術科
宮永
良二郎
Ryojiro Miyan aga
キーワード:樹木、材木、刃物、塗装、木工自由製作
中学校・高等学校の美術では、木材を使う授業が作業に時間がかかること
や、刃物を取り扱うことに伴う危険性を考慮し、ともすれば敬遠される傾向
に あ る 。し か し 、 日 本 文 化 の 一 端 を 担 う 「 木 」 の こ と を 知 り 、 加 工 す る た め
の 「 刃 物 」 に つ い て 学 び 、 上 手 に 使 い こ な す こ と を 知 っ た 上 で 、「 木 」 を 通
しての創造能力を伸長することは重要と考える。
筆 者 は 40 年 以 上 山 登 り を 趣 味 と し て き た 。 九 州 か ら 北 海 道 ま で の 山 を 登
っ て い る が 、 当 然 、 森 林 限 界 を 越 え る ま で は 樹 林 帯 を 歩 く こ と と な る 。針 葉
樹や広葉樹の雑多な植生の木立の中を歩き、様々な樹種に出会うわけである
が 、 そ の 樹 木 の 名 称 は 葉 形 や 木 肌 で 判 断 す る 。し か し 、 そ れ と 所 謂 、 加 工 さ
れた木工製品の木の名称が結びつかない。寺社などの建造物に使用されてい
る部材や椀や机など家具に用いられている材木の名称が一致しないのであ
る。さらには、なぜそれにその部材を使うのかの意味など思いもよらなかっ
た。木にはそれぞれに特性や特長があり、その特性を活かして使われている
ことなど知るよしもなかったのである。檜は水に強く、腐りにくい性質を活
かし風呂の湯船に使用したり、刀の鞘や鑿の柄などは金気に強い朴材を使う
などである。
一緒に山を歩く先輩方や植林を生業にする人々と出会い、いろんな話を聞
かせていただく機会を得ることで、上記のようなことに関する知識を得、ま
た大工職人と話したり、建材屋、銘木店、刃物職人、砥石店を訪問し、お話
を聞かせていただいたりもした。そうやって得た木、刃物にまつわる話を生
徒に紹介し、天然素材としての木について学び、日本の文化が大切にしてき
た木のことを知る。そして、使い捨ての消費ではない、できるだけ長く使用
できるもの作りを考え、自然や環境について学ぶことを目標とする。また、
木や刃物とうまく付き合う方法を考えるきっかけとなる授業とする。
101
Ⅰ 材木と樹木
木工制作を授業で展開する場合、教師は教材カタログから加工木材を購入
することが一般的である。限られた授業時間の中で、工芸作品や彫刻の作品
を作るのであるからやむを得ない。本単元では、この木材について制作する
だけでなく、背景知識を生徒に教授する。つまり、この木材が樹木として自
然界に存在していたことについて学び、考えさせる。
木材にはいろいろな呼び名がある。自然界に存在し、生命を維持している
状態のものを樹木と呼び、そのまま取引されるものを立木(りゅうぼく)と
言う。立木が伐採され材料となった状態で木材と呼ぶ。伐採された立木は、
丸太といい、それの丸みを削り落とし、四角形に近い状態を杣(そま)と言
う。最終的にいろいろなものに使える寸法に製材された木材を製材品と呼
ぶ。この樹木が、山から切り出され、自然乾燥や人工乾燥などを経て加工品
に至るまで様々な過程を経ている。
・針葉樹と広葉樹
日 本 に 植 生 す る 樹 木 の 種 類 は 約 15 00 種 と 言 わ れ る 。 こ の 種 を 大 別 す る
と 、 針 葉 樹 と 広 葉 樹 に 分 類 さ れ る 。こ の こ と は 高 校 生 の 知 識 に あ る が 、 葉 形
で分けるだけでなく、このことが樹木の形の違いにあり、それが日本の木材
の扱い方の違いとなる。つまり、針葉樹である杉、檜は広葉樹に比べると、
その樹形が比較的まっすぐであり、家屋を木で建てる文化を持つ日本ではこ
の 針 葉 樹 で あ る 杉 や 檜 を 重 用 し て き た 。こ の た め 、 山 林 で は 天 然 林 を 構 成 し
てきた広葉樹は伐採され、杉、檜の植林された人工林に変化してきた。一
方、広葉樹を中心とした種々雑多な木の生えている林を雑木林と呼ぶ。この
広葉樹は、曲がって生えるその樹形から建造物の柱などに使用するには不向
きであるが、木目には複雑な独特の美しさがあり、またその堅さを活かして
卓や家具、器として使われてきた。
・木の特性
人間は一人ひとり個性が違い、同じ性格の人間はいないように、樹木にも
個性があり異なっている。様々な種類の木は、その木肌の色や木目が違うだ
け で な く 臭 い や 強 度 も 異 な る 。 例 と し て 、 樟 (く す の き )の 板 材 を 削 っ て 臭 い
を 嗅 ぎ 、「 メ ン ソ レ ー タ ム 」「 サ ロ ン パ ス 」 な ど の 臭 い が す る 体 験 を す る 。 樟
102
の語源はクスリの木と言われる説もあり、昔から樹皮を砕き、煎じて胃腸薬
に し た り 、 こ の 強 烈 な 臭 い で 虫 除 け の 樟 脳 (ナ フ タ リ ン )と し て 使 用 さ れ て き
た。この木は、山野だけでなく公園や本校のグランドにも植えられ、日常に
見ることができる。木目の美しさと加工のし易さで昔から仏像彫刻の材とし
ても使用されている。カブトムシやクワガタがよくいる木がある。木からで
る 樹 液 を 吸 い に 集 ま る の で あ る が 、 楢 、 ク ヌ ギ が 知 ら れ て い る 。こ の 材 は 水
分の含有率が高く、乾燥するとひび割れがひどく加工木材には適さないが、
薪や木炭材として重用されてきた。近年、乾燥技術の進歩により机の天板や
椅 子 の 材 と し て 使 用 さ れ て い る 。堅 さ と 斑 (ふ )と 言 う 独 特 の 木 目 文 様 が 見 ら
れる高級材である。また、木肌の色も樹によって異なっているが、その最た
る も の と し て 黒 檀 (※ 注 1 )が あ る 。 表 面 は 黒 く 着 色 さ れ た 木 の よ う に 見 え る
が、削っても木肌が黒い色である。この木は密度が高いため非常に堅く、木
は一般的に水に浮くが黒檀は水よりも比重が重いため水に沈む木である。マ
レーシア、インド、アフリカからの輸入材であるが、私たちの身近では仏壇
などに使用されることが多い。これから制作するために扱う朴(ほう)の木
は日本特産の材で、鶯(うぐいす)色の木肌を持つ。信州から北海道にかけ
て の 天 然 林 に 分 布 し 、 こ の 葉 は 20 cm~ 50c m 程 で 日 本 の 広 葉 樹 で 最 大 で あ
り、飛騨高山方面ではこの葉の上に味噌をのせ炭火で焼いて朴葉味噌として
食されることで有名である。材はあばれや歪みが少ない特性のため昔から浮
世絵版画の版木などに用いられた。材は軟質で、彫刻、加工に適している広
葉樹である。
・刃物について
木 と い う 素 材 を 人 間 の 手 で 加 工 す る こ と は で き な い 。当 然 、 刃 物 を 使 用 し
て 、 切 っ た り 削 っ た り す る 。そ の 為 、 刃 物 に つ い て 学 習 を す る 必 要 が あ る 。
筆者の少年時代は、みんなポケットに肥後守と言う折りたたみ式の小刀を持
って山野を駆け巡り、竹や木を削ってチャンバラ遊びや杉の実鉄砲などを作
っていた。当時の筆記用具は鉛筆であり、それも小刀で削って使っていた。
そうやって刃物の扱いを学び、時には指先を切ることで痛みを体得してき
た。刃先に手を置かないことを自然に覚えてきたのである。今の生徒は、シ
ャープペンシル世代なので、鉛筆を削る必要がなく、また生活の中で刃物を
使用する機会もほとんどない。そこで、この木工制作の過程を通して刃物と
103
上手に付き合うことを学ぶ。刃物は進行方向で木材を切ったり削ったりする
こ と 、 そ の 為 に 切 っ 先 は 尖 っ て い な け れ ば な ら な い 。刃 先 に 自 分 の 手 を お か
ないこと、また作業は必ず机の上で行うといったルールを学ぶ。さらに、他
人に刃物を向けることの危険性について説明する。昨今、報道で青少年の刃
物 に よ る 傷 害 事 件 を よ く 耳 に す る こ と に 触 れ 、『 刃 物 が 危 険 な の で は な く 、
刃 物 を 持 つ 人 の 心 が 危 険 な の だ 』 と 力 説 す る 必 要 が あ る 。刃 物 の こ と を 知
り、生涯を通して刃物と長く上手に付き合うことを学ぶ。
・鑿と彫刻刀
今 回 使 用 す る 刃 物 は 、 刃 幅 15mm の 追 入 鑿 と 丸 鑿 、 彫 刻 刀 で あ る 。 ま た 制
作 課 程 で 切 り 出 し 小 刀 や 刳 (く )り 鑿 を 使 用 す る ケ ー ス も あ る 。 削 っ た り 切 っ
たりする角度に合わせて刃物も使い分ける。また、刃先は削っていくことで
切れ味が落ちていくので定期的に研ぐ必要がある。刃先がこぼれたままで使
用すると切れないだけでなく、怪我の原因となる。まめに刃先を確認しなけ
れ ば な ら な い 。 刃 こ ぼ れ や 、 切 れ 味 が 落 ち た 場 合 は 砥 石 で 研 磨 す る 。砥 石
は 、 そ の 粒 子 の 細 か さ で 荒 砥 、 100 0 番 程 度 の 中 砥 、 200 0~ 400 0 番 の 仕 上 げ
砥に分類される。荒砥、中砥でだいたいの刃こぼれを取り、仕上げ砥で刃を
つける。刃は完璧な平面をつけなければならないが、その為には砥石が常に
平 面 で な け れ ば な ら な い 。し か し 、 刃 物 を 研 ぐ こ と で 砥 石 の 表 面 に 窪 み が で
きる。それを修正するために砥石の表面を定期的に平面にしなくてはならな
い 。こ れ を 『 面 (つ ら ) な お し 』 と 言 う 。 大 工 の 世 界 で も こ の 研 ぎ は 大 切 な こ
とで、一日仕事をしたら夕方には研ぎをやっている。大工の棟梁も『研ぎ一
生』と言っているほど、研ぎは難しく大切である。授業では、砥石での研磨
は時間がかかることと一長一短では教えることが難しく、教員が電動砥石で
研磨している。
・磨き
ペーパー仕上げ
鑿・彫刻刀での成形を終えると、いよいよ磨きとなる。彫り跡を残す仕上
げ で な い 限 り 、 サ ン ド ペ ー パ ー で 磨 き と な る 。ま ず # 60 ( サ ン ド ペ ー パ ー の
裏 に 書 い て あ る 番 ) で 、 彫 り 跡 を 取 る 荒 磨 き を し 、 # 1 20、 # 240 と 番 手 を
あ げ る 。 # 24 0 で の 磨 き の 段 階 に な る と 木 肌 に 木 目 が 現 れ る 。 最 終 的 に #
400 で 仕 上 げ 、 光 沢 を 出 す 。 ま た 、 サ ン ダ ー を 使 用 す る こ と で 作 業 の 効 率 を
104
上げることができる。
・仕上げ
塗装
日本は、白木の文化である。塗装仕上げを行わず、そのまま手垢や日焼け
で変色していく状態を大切にしている製品を随所で見かける。障子の桟、和
風建築の廊下、寿司屋のカウンターなど無垢の状態を味わっている。また、
日本古来の塗装としては、漆塗りなどがある。本単元の場合、漆での塗装仕
上げは、漆にかぶれることが想定され実施していない。水性やオイル系の塗
料での仕上げが一般的であるが、2 時間の授業で塗装、乾燥をする必然性と
皿やコーヒーカップなど食器として使用する作品もあることからウレタン塗
装仕上げを行っている。また、ステイン系の染料を擦り込むケースもある。
レッド、イエロー、ブラウンの染料を擦り込み、ウエスで拭き取り、ウレタ
ン塗料を塗り重ね、仕上げとなる。
Ⅱ 朴材を使っての木工自由制作
木を使ってものつくりをする場合、彫刻もしくは工芸の枠内での制作にな
るケースが多いが、本単元では造形作品として自由に発想し、制作をする。
与えられた朴材(板材か角材かを事前に生徒が選択する)を見つめ、手に触
れて、何を作り出すかをイメージする。皿やコーヒーカップ、動物の置物、
オブジェ、彫刻像、木のおもちゃやパズルなど様々な発想を引き出す。また
浮かし彫りや絵の具でのトールペイントを取り入れることの興味づけも行
う 。『 何 か を つ く ら せ る 』 指 導 で な く 、 材 木 を 見 な が ら 何 を つ く る か を 自 由
に発想する『自ら考えて創り出す』授業とする。ラフを起こし、アイデアス
ケッチをもとに指導を行う。高校生の能力的、技術的に不可能な場合も想定
してアイデアスケッチをもとに適宜、個別に助言を行い、作業へと展開して
いく。
□制作の手順
生徒一人ひとり、つくるものが違うので、授業では板材を使っての皿制作
で手順を説明する。
105
1.完 成 を イ メ ー ジ し 、 完 成 予 想 図 と 平 面 、 側 面 の 図 面 を 作 成 し 、 造 形 だ け で
なく着色デザインや浮かし彫りなどを作品に取り込むこと。
2. ア イ デ ア ス ケ ッ チ の 図 面 を も と に 、 板 材 に 平 面 と 側 面 の 図 を 書 き 込 む 。 そ
の際、鉛筆を使用し、定規やトレーシングペーパーで正確に描き込む。こ
の段階を疎かにすると彫り進むにつれて形が歪み、後悔することとなるの
で丁寧に作業する。
3.皿 制 作 の 場 合 、 ま ず 皿 の 内 側 を 仕 上 げ て 、 外 側 を 糸 鋸 で 切 り 落 と し 成 形 す
る手順となる。
4.作 業 板 に 板 材 を 置 き 、粗 彫 り か ら 始 め る 。ま ず 、丸 鑿 と 木 槌 で ラ イ ン に 沿 っ
て外側から中心に向けて彫り進める。
( ※ 注 2)そ の 際 、鑿 は 板 に 対 し て 30°
位の角度で当てること。直角に入れると木の繊維を毟(むし)ることにな
るので注意する。また、鑿が深く入っていく逆目(さかめ)に注意し、そ
の場合はならい目になるように板を逆にして鑿を入れる。鑿入れ作業は部
分的に彫り進めるのではなく、板全体の薄皮を捲るように彫ること。厚さ
30 ㎜ の 材 な の で 、 深 さ は 20 ㎜ 程 度 に な る ま で 彫 る 。 貫 通 し な い よ う に 注
意 し な が ら 彫 る こ と 。最 終 的 に は 6 ミ リ 程 度 の 厚 さ と す る よ う に 意 識 す る 。
5.粗 彫 り が 終 わ っ た ら 、 彫 り 跡 の 山 部 分 を 彫 刻 刀 で 細 か く 取 り 、 山 と 谷 の 段
差 を 2 ㎜ 以 内 に 均 す 。( ※ 注 3)
6.均 一 に 均 し 終 え た ら 、 サ ン ド ペ ー パ ー # 60 で 彫 刻 刀 の 彫 り 跡 を と る 。面 の
角度に合わせて板のチップを作り、それにペーパーを巻くと作業がしやす
い 。彫 り 跡 が 取 れ る と # 60 の 傷 が 白 く 残 る 。そ れ を # 12 0 で 取 り 、# 240 と
番手をあげる。この段階からサンダーを使用すると効率的である。木目が
見えてくる。
7.内 側 の 作 業 が 終 わ っ た ら 、 糸 鋸 で 外 側 の ラ イ ン に 沿 っ て 切 り 落 と し 、 裏 面
を追入鑿で削る。縁がある程度そろったら外側のラインを整える。
8.裏 面 と 外 側 の 形 を 5. と 同 様 に # 60・# 1 20・# 240 と 磨 く 。両 面 と も 木 目 が
出 た ら # 400 で 艶 出 し を し て 仕 上 げ る 。
9.浮 か し 彫 り の 作 業 や 、 絵 の 具 で 花 や 各 自 で デ ザ イ ン し た 模 様 を 描 き こ む
10.塗 装 仕 上 げ
106
指導案
単元名
1.実 施 対 象
朴材を使っての木工自由制作
:高校 1 年生の芸術科目のうち美術選択生徒
2.実 施 時 間 数 : 高 校 1 年 次 の 後 期
2 時 間 連 続 授 業 を 使 っ て の 約 30 時 間
3.実 施 場 所
:美術教室
4.教 材
: 100 ㎜ 角 ×200 ㎜ か 250 ㎜ 角 ×30 ㎜ の 朴 材 (生 徒 が 選 択 )
5.教 具
: 15 ㎜ 追 い 入 れ 鑿
50 本 、 15 ㎜ 丸 鑿
50 本 、 彫 刻 刀 、
木 槌 50 本 、 作 業 版 5 0 枚 、 木 工 バ イ ス 50 器 、 電 動 糸 鋸
機 16 台 、 ミ ニ サ ン ダ ー 20 台 、 ボ ッ シ ュ サ ン ダ ー
6
台 、 サ ン ド ペ ー パ ー # 60・# 120・# 240・# 400
① 木工導入
木 の 話 ・刃 物 の 話
② 木工自由制作
『 何 を つ く る か 』 発 想 (彫 刻 ・デ ザ イ ン 学 習 )
③ 木工自由制作
作 業 開 始 ・粗 彫 り
④ 木工自由制作
⑤ 木工自由制作
指
⑥ 木工自由制作
導
⑦ 木工自由制作
計
⑧ 木工自由制作
画
⑨ 木工自由制作
⑩ 木工自由制作
サンダー使用開始
サンドペーパー配布
デ ザ イ ン ・彫 刻 指 導
⑪ 木工自由制作
⑫ 木工自由制作
⑬ 木工自由制作
# 400 の ペ ー パ ー で 仕 上 げ の 完 成 度 を 高 め る
⑭ 木工自由制作
⑮ 木工自由制作
仕上げ
塗装
備考:⑪あたりから、完成が間に合わない生徒には放課後の活用を促
す。かなりの生徒がクラブのない日に自主的、積極的に居残り作業をし
ている。その際、教師も個別に細やかな指導で対応できる
107
注 1) 左 : 朴
右:黒檀
注 2) 鑿 入 れ は 外 側 か ら 中 心 に 向 け て 彫 り 進 め る
注 3) 粗 彫 り の あ と 、 彫 刻 刀 で 山 と 谷 の 段 差 を 2mm 以 内 に 均 す
108
・生徒作品
図1オブジェ(段ボールと昆虫)
図2オブジェ(ひらめ)
図3オブジェ(開いた本)
図4オブジェ(空き缶)
図5オブジェ(手のひら)
図6オブジェ(リンゴ)
図7
図8
皿
109
木のパズル
図9
コーヒーカップ
図10
繋がるリング
図11オブジェ(結んだ縄)
図12オブジェ(植木鉢)
図13
図14彫刻
皿
110
手
□生徒の感想
・板で、皿を作ろうと思っていたけれど、角材の方がいろんな可能性があり
面白そうでした。オブジェにしようかと思いましたが日常で使えるコップ
に し ま し た 。お ば あ ち ゃ ん に プ レ ゼ ン ト す る た め 、 ひ ま わ り の 浮 か し 彫 り
を 入 れ ま し た 。 木 工 は 楽 し か っ た で す 。( T・ S さ ん )
・キリンのマリオネットを作りました。今まで平らな木に彫刻をしたことは
あったけれど、角材を本格的に削ったりしたことがなかったので難しかっ
た で す が 、 そ の 分 楽 し か っ た で す 。( Y・ Y さ ん )
・みんながコップや皿など丸いものを作っているので、僕は逆に角張ってい
る も の を 作 ろ う と 思 い ま し た 。飾 っ て 美 し い も の を と 、 ダ イ ヤ モ ン ド に し
ま し た 。立 体 的 に 角 度 を 均 等 に す る の に 苦 労 し た 。( S・ T く ん )
・中学の美術とは違って、一から自分でアイデアを出して作るのは難しかっ
た け れ ど 、 自 分 の 作 り た い も の を 作 れ た の で 楽 し か っ た で す 。木 工 は サ ン
ダーを使って本格的な作品を作ったのも初めてだったので良い経験になり
ま し た 。 木 目 を 活 か し た コ ッ プ を 作 り ま し た 。( H・ A さ ん )
・ 立 体 的 な オ ブ ジ ェ を 作 り た い と 思 い ま し た 。ス ト リ ー ト ダ ン ス が 好 き な の
で ダ ン ス の フ リ ー ズ を 角 材 か ら 表 現 し ま し た 。思 っ て い た よ り 難 し か っ た
で す 。( Y・ N く ん )
・ 親 し み の あ る お 盆 を 作 ろ う ! と 考 え 、 今 回 の 作 品 を 作 り ま し た 。お 盆 を さ
げるときに絵柄が見せられるよう裏面に鳥の図柄を入れました。楽しくな
る よ う に 明 る い 着 色 を し ま し た 。( M・ I さ ん )
・彫刻は苦手だし、立体的に考えるのも得意ではなかったので、板材で自分
が で き そ う な も の と 写 真 立 て を 作 り ま し た 。春 っ ぽ い 雰 囲 気 で 花 や 葉 っ ぱ
の レ リ ー フ を 入 れ ま し た 。自 分 と し て は 7 0 点 で す 。( R ・ A さ ん )
参考文献
村山忠親著
村 山 元 春 監 修 ( 2013 ) 木 材 大 辞 典
111
誠文堂新光社
実践報告
発達障がいの大学生から困り感から聞き取り高校の特別支援教育を考える
-
PAC分析を利用して
-
カウンセリング係
吉
岡
幸
司
Koji Yoshioka
キーワード
Ⅰ
発 達 障 が い 、 高 校 の 特 別 支 援 教 育 、 PAC 分 析
はじめに
「 特 別 支 援 教 育 の 推 進 に つ い て ( 通 知 )」( 19 文 科 初 第 125 号 平 成 19 年 4
月1日)が公私立の高等学校に通知され、高等学校についても特別支援教育
が本格的に実施されるようになった。職員会議や教職員研修で発達障がいに
ついての理解や対象生徒への理解を求めつつ、担任や学年主任と周囲の教員
に理解を求め、対象であった生徒や保護者と歩んできた。
この初等中等局長通知から8年の月日は流れた。しかし高等学校内での特
別 支 援 教 育 に つ い て の 温 度 差 は 「 学 校 間 」「 公 私 間 」「 校 内 間 」 で 一 層 激 し く
なっている。これは高橋・田部の論文からも報告されており、特に私立学校
での特別支援教育の遅れを指摘している。
筆者自身の経験からも不登校であった生徒同様、
「 配 慮 を 要 す る 生 徒 」と い
うことで「義務教育との連携」を求めるものの、まだ中学校での体制が充分
に機能されていないことや、
「 差 別 」に 苦 し む 本 人 や 保 護 者 の 高 校 生 活 へ の 不
安から、その支援が充分であるとはいえない。
高等学校の場合選択授業が増加し、非常勤講師に教科教育を任せる部分も
多く、校内委員会を開催し、情報を共有すること自体が非常に難しくなる。
そのため個別の指導計画を作成する以前に成績不良、不登校に陥り(二次障
害を含む)通信制高校へ転学・編入学する生徒が多くなっている。
一 方 、2011 年 度 セ ン タ ー 入 試 か ら は「 配 慮 枠 」と し て の「 発 達 障 が い 」が
認 め ら れ る よ う に な っ て い る が 、 昨 年 度 は 90 数 人 の 申 請 に 対 し 、 一 桁 の み
し か 認 め ら れ て い な い 。「 診 断 書 」 の 提 出 と と も に 、「 個 別 の 指 導 計 画 」 の 提
出も求められ、申請が認められない生徒が多く出たのである。
さ て 2012 年 度 ま で に 5 名 程 度 の 発 達 障 が い や そ の 疑 い が あ る 生 徒 が 本 校
112
を卒業した。その多くが大学へ進学したのであるが、その追跡調査は行って
いない。今回2ヶ月に一度の割合で本校を訪れてくれるA男の協力を得て、
「本人が大学生活で困っていること」
「今の状態から高校でどのような支援が
必要であったのか」をPAC分析で明らかにした。A男自身の問題から、今
まで見過ごしてきた「高校時代に身につけなければならないこと」が発達障
が い の 在 校 生 と 関 わ る 中 で 理 解 で き て き た 。こ れ ら に つ い て ま と め 、
「個別の
指導計画」の作成方法を考えていく一助としたい。
Ⅱ
事例概要
プライバシーの関係上、事例に関係がない程度の修正を加えています。
1.対象生徒
A男
大学(理系)3回生
21 歳
2.家族構成
父 親 ( 50 代
会社員)
母 親 ( 50 代
主婦)
父 方 祖 父 ( 80 代 )
父 方 祖 母 ( 80 代 ) と A 男 の 5 人 家 族
3.生育歴
正常分娩。夜泣きもなく大変育てやすい子ども。2歳時に熱性けいれん症
状がある。乳幼児健診も問題なし。ただ花粉症、喘息、虫さされのアレルギ
ーを持っている。
保育園では一人遊びが多く、乗り物の絵ばかりを描いたり、乗り物の玩具
で長時間遊んでいた。熱性けいれんで診療を受けた医師にアレルギーも診て
もらっていた。保育園での様子を話したところ心理検査を受けることになっ
た。そこで「自閉症スペクトラム」の診断を受ける。本人は1年に1度アレ
ルギーのことで通院するが、母親は1カ月に1度医師との面接を続ける。小
学校への進学は知的な遅れもないことから、普通学級の登校となる。
小学校高学年から中学校にかけ「不登校」となる。原因は対人関係による
も の で 、 中 学 校 2 年 生 時 の 欠 席 は 10 0 日 を 超 す 。 そ の 後 別 室 登 校 を 経 て 高 校
へ進学する。
17 歳 時 に 「 障 が い 告 知 」 を 医 師 よ り 受 け る 。
4.WISC-Ⅲの結果と指導上の留意点
113
中学校 2 年生検査時のもの。
(1)検査結果
VIQ
108
PIQ
97
103
FIQ
(2)検査結果より
絵画配列で「絵の中の細部に目が行きすぎて答えを定めきれない(大きな
話の流れが捉えにくい)特徴があった。また辞書的な応答が多い。突っ込ん
で言葉の意味を問うと分からないこともある。
下位項目では「単語」では「人との関係が絡むものや、抽象的なことばは
苦手」であることがわかった。また「理解」では「説明となると遠回りな答
えが多い」ことが分かった。
例としてあげられるのは「電気を消す理由」と問われたとき、回答が経費削
減 の た め 」と 答 え た り 、
「 シ ー ト ベ ル ト を す る 理 由 」を 問 う と 、
「エアバック。
頭の保護のため」と回答する。
Ⅲ
経過
1.高校1年生
中 学 時 代 の 欠 席 が 3 年 間 で 245 日 で あ っ た こ と か ら 、中 高 連 絡 会 を 実 施 し 、
本人の小中連絡会からの引継、学校生活、家庭状況等を中学3年生時の担任
より聴取。その内容について学年を含め関係部署で共有する。
本人は「高校では留年制度があり、高校は欠席がないようにしよう」とい
う中学時代の担任との約束を果たしており、皆勤賞を受賞する。
2.高校2年生
A男のクラスに特別支援を要する生徒がもう1人いたことから、教科担当
者としてそのクラスの授業を筆者が受け持つ。本人との交流をはかるため、
授 業 導 入 時 に 「 乗 り 物 」 の 話 を し た と こ ろ 、「 先 生 も 乗 り 物 が 好 き な の で す
か?」と話しかけてきた。その後、授業前後や休み時間を使い本人と話しを
する。そして日程を決め、カウンセリング室でゆっくりと話しをする時間を
と る 。 7~ 10 日 に 1 回 の 割 合 で 訪 れ て き た 。
10 月 ご ろ B 大 学 で 行 わ れ る「 発 達 障 が い 」の 講 演 会 の ち ら し を 持 っ て 来 室 。
「先生アスペルガーってご存じですか?
114
母親がこの講演会に一緒に行こう
というのです。主治医のC先生からの紹介ですから…。どうしたものでしょ
う … 」と 話 す 。A 男 の 気 持 ち が「 行 く 」
「 行 か な い 」の 半 分 半 分 の 気 持 ち で あ
ったことから、
「 話 を 聴 い て き て も 良 い の で は な い か 」と 主 治 医 の 意 見 を 後 押
しする。後日「僕はアスペルガーだったのですね。講演会の内容からもわか
り、先生(主治医)からもその旨教えてもらいました」と報告。A男は母親
と筆者についての会話をしていたようで、母親から講演会に参加すべきか否
かを相談するよう言われたようである。A男の告知後、母親と筆者と出逢い
年 に 数 回 の 面 接 の 時 間 を と る こ と に な っ た 。ま た D 養 護 学 校 よ り「 巡 回 相 談 」
に来てもらい、担任、学年主任、生徒部長、保健室係主任、筆者5人のチー
ムでA男を支援する体制を作成し、教職員にA男について共通理解してもら
った。
3.高校3年生
「 関 東 の 大 学 に 進 学 し 官 僚 に な る 」と 言 っ て い た A 男 が 、
「ピアカウンセリ
ン グ 」に 興 味 を 持 ち 始 め た 。
「自分と同じように困っている高校生がいること
を知った。教師をやりながらカウンセラーをやりたい」という希望を持ち始
めた。
成績は優秀であり、予め試験範囲が決められていることから、その範囲を
集中的に学習したことから点数が取れただけで、見通しの立たない入試に合
格できるか否かは不明であった。
「 指 定 校 推 薦 入 学 」も 視 野 に 入 れ る よ う に 勧
めるが、一般入試を希望する。ことごとく不合格となるが、E大学教育学科
に合格。本人も第二希望にした大学であったので、入学を決意する。
その後A男、母親の話し合いの中で入学する学校へ「障がい告知」するか
否かを話し合う。主治医からのアドバイスもあり、入学前にE大学に連絡を
する。学科主任、学生課職員、学生相談室カウンセラーとA男、母親、筆者
で 顔 合 わ せ を す る 。筆 者 は 高 校 時 代 の 様 子 を 引 き 継 ぎ 、主 治 医 か ら の 診 断 書 、
及び所見を提出し支援の継続を依頼する。
4.大学1回生
1 ヶ 月 に 1 度 来 校 。学 校 生 活 を 語 る 。
「 友 人 は 出 来 て い な い が 、同 じ よ う な
タイプの人がいる」といって、その学生と近づき友人関係になる。一緒に行
動するだけでなく、その友人の実家まで旅行をするなどの活動をする。
115
修学面で困ることはないということであったが、試験時に「テキスト、ノ
ー ト 持 ち 込 み 不 可 、試 験 範 囲 も 1 年 の 範 囲 」と い う 科 目 に 困 り 、来 校 し 相 談 。
すぐに学科主任、学生課、カウンセラーに相談し、担当の先生に配慮しても
らうようアドバイスする。それ以来、修学面で困った場合は、大学担当者に
相談することを確認する。
5.大学2回生
2 ヶ 月 に 1 度 の 来 校 。修 学 面 で は 教 職 課 程 を 取 り 始 め た こ と を 報 告 に 来 た 。
「レポート課題の提出が多いが苦になっていない」
「第二外国語も思ったより
楽しい」
「 試 験 も 範 囲 が 示 さ れ 分 か り や す い 」と い う 報 告 を 受 け た 。ま た 教 職
課程必修の「介護実習」も無事にこなしたということであった。
1回で生出逢った友人とはいつも行動を同じくしていたようである。しか
し「 も う 少 し 友 人 の 輪 を 広 げ た い 」
「 学 生 生 活 の 中 で 遊 ぶ こ と を や り た い 」と
いう希望を持っており、サークルに入るか否か迷っていた。自分からサーク
ルを作ることも考えて動いていた。そして6月に「詩吟を読むサークル」の
勧誘を受け、学生服姿にあこがれ入部。また華奢な身体であったものの、大
きな声で詩吟を披露し観客から喝采を受けることから自分に自信を持つ。文
化祭終了後キャプテンとなり活躍する。
6.大学3回生
2ヶ月に1度の来校。自分は理科が好きであったので、理科の教師になろ
うと考えていた。しかし高等学校教員の採用枠が少ないことを知り、2教科
以上の教員免許を持つことが採用に有利になると考え、
「 中 学・高 校 教 員 免 許
一種
理 科・数 学 」取 得 を 目 指 し た 。そ の 結 果 90 単 位 近 く を 履 修 登 録 す る 。
教職課程での模擬授業も積極的に参加した上で、次年度の「教育実習」を心
待ちにしている。
サークル活動では、活動を熱心に行っておりキャプテンを続けるだけでな
く、色々な詩吟の活動にも参加するため、日本中を駆け回っている。
ただほぼ毎日1講時から最終時まで受講し、その上、土曜日まで講義がつ
まっている関係から疲れ始めている。また奨学金をもらっている関係から、
上位成績をとらなければならないプレッシャーも感じ、修学面で手が抜けな
い状況となっている。同時にサークルでもキャプテンということで手が抜け
116
ず 、「 し ん ど い 」 生 活 を 送 っ て い る こ と を 語 る 。
同時に進路についても考え始めた。元々が「教師をやりながらカウンセラ
ー 」と い う 就 労 希 望 を 持 っ て い る の で 、大 学 院 へ の 進 学 を 希 望 す る 。
「臨床心
理士」資格を取得したいということから、臨床心理学系の学習をやらなけれ
ばならないようになってきた。進路の件についてはゼミの教員に相談してい
る。
Ⅳ
PAC分析を利用した考察
1.PAC分析とその方法
「 個 人 別 態 度 構 造 」と 訳 さ れ る 。信 州 大 学 の 内 藤 哲 雄 が 考 案 し た 、
「当該被
験者の態度・イメージの構造を当人自身に解釈させて間主観的に了解する技
法」である。
被験者は当該テーマに対し自由連想を行う。それを連想項目間の類似度を
評定し、クラスター分析を行う。そのクラスターの構造のイメージ解釈を、
実験者とともに語り合い、実験者の総合解釈を通じ、個人ごとに態度やイメ
ージの構造を分析する。人間をホリスティックにとらえた場合、特性という
要 素 か ら 考 え れ ば 、「 す べ て の 人 々 に 共 通 す る 部 分 」「 一 群 の 人 々 に の み 共 通
する部分」
「 個 人 特 性 に よ る 部 分 」に 分 類 さ れ 、何 か を 見 い だ す こ と が 可 能 で
ある。
2.PAC分析を取り上げた意味
今回PAC分析を用いたのは、以下の理由による。
① 発 達 障 が い で イ マ ジ ネ ー シ ョ ン 障 が い に 苦 し む 人 に 、「 自 由 連 想 」 が 可
能か考察したい。
②「個人の特性による部分」では、個別の指導計画を作成される本人の困
り感を被験者と教員がともに理解し、焦点化したかった。お互いに意識
化することで何か見いだすことが可能であるか考察したい。
③「 一 群 の 人 々 に の み 共 通 す る 部 分 」で は 、
「診断によって何かの違いがあ
る の か 」「 学 年 に よ っ て 何 か の 違 い が あ る の か 」 を 考 察 し た い 。
今回の分析は②③ついての予備調査であり、
「 自 由 連 想 」が ど こ ま で 可 能 で
あるのかを聞き取ることに焦点をおいた。
117
3.実施日時・場所
実施日
2011年12月1日
実施時間
13:30~15:00
実施場所
本校カウンセリング室
4.実施時の様子
あらかじめPAC分析について説明をしており、本人の承諾を得ていた。
実施方法について説明し、コンピュータに入力をしてもらった。本人は独り
言を言いながら、入力を始める。約7分で「終わりました」と述べたので、
重要度が高いと感じられる項目を入力してもらった。そして筆者自身が並べ
替え作業を行い、比較するためにクラスター分析を行った。
以下に示したものが、A 男が述べた自由連想語の想起順と重要度である。
データの並べ替えの間、ゼミ発表のためにアンケートを作成していたA男
は 、筆 者 の 作 業 を み な が ら 、
「 僕 も こ の よ う な 作 業 を 行 う ん で す か ね ぇ … 」と
興味深げにつぶやいた。
そ の 後 ク ラ ス タ ー 分 析 を A 男 と と も に 1 時 間 10 分 程 度 行 な っ た 。 A 男 は
「自分自身の困っていることがはっきりとわかってきた」と述べている。
118
連 想 刺 激 文 (テーマ)
今 、困 っていることを教 えてください
想
起
順
自 由 連 想 語 (文 )
想 起 順 に上 から記 入
重要度
3 単位
1
4 奨学金
2
6 レポート
3
5 教職
4
12 大 学 院
5
7 時間割
6
9 サークル
7
11 教 育 学
8
10 心 理 学
9
8 発 達 障 がい
10
13 睡 眠
11
14 飲 食
12
16 鉄 道
13
15 バス
14
2 肩 こり
15
1 腰痛
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
119
備考
Ⅴ
PAC 分 析 の 結 果
以下が A 男のテンドログラムである。それに基づいて解釈をおこなった。
1.クラスターの解釈
ク ラ ス タ ー 1 は「 単 位 」か ら「 レ ポ ー ト 」ま で の 4 項 目 で あ る 。
「学習への
不安」を述べている。現在日本育英会の第一種奨学金を受給しており、成績
が下がると第一種奨学金の打ち切りが行われることを心配していた。そのた
め奨学金の条件となる「成績」についての不安を打ち明ける。文学部全体で
1/3 の 枠 し か な い こ と か ら 、 教 職 を 含 め 多 く の 単 位 数 を 登 録 し て い る 関 係 か
ら 「 か な り 疲 れ る 生 活 を し て い る 」 こ と 。「 レ ポ ー ト の 作 成 に 追 わ れ る こ と 」
が 述 べ ら れ た 。特 に「 心 理 実 習 ・ 実 験 」
「 心 理 測 定 法 」の 2 科 目 に つ い て 苦 労
していることが分かった。
「 心 理 実 習 ・ 実 験 」に つ い て は 、手 順 や 考 察 を 導 き
出すまでに苦労していること。一方共同作業で行われているので、周囲の様
120
子をうかがいながら作業をすすめ、考察も共に行っていることから、ある
程度クリアできることを述べた。一方「心理測定法」については、講義で
PowerPoint を 利 用 さ れ 、提 示 さ れ た 内 容 を 写 そ う と す る が 書 け な い こ と 。
「自
分 で 分 か ら な い こ と を 質 問 に 来 な さ い 」と 担 当 の 先 生 か ら 言 わ れ る が 、
「何を
質問すればいいのか分からない」
「 担 当 の 先 生 が 教 え て く れ な い 」と 述 べ て い
る。そのため苦手感が強く、成績があまり良くないのではないか気になって
いる。
ク ラ ス タ ー 2 は「 教 職 」か ら「 発 達 障 が い 」ま で の 5 項 目 で あ る 。
「進路の
こ と 」で あ る 。
「 ピ ア カ ウ ン セ リ ン グ 」を 本 人 は 考 え て い る の だ が 、就 労 に つ
いては「教員でカウンセラー」ということを望んでいる。そのために学部生
の期間に「教員免許」を取得する予定でいる。社会(地歴・公民)が好きな
のであるが、教員の採用率が低いことを知っており、国語教員免許を修得す
ることになった。現在は「教育学専攻」であり、教育学のシラバスで教員と
しての基本を学ぼうとしている。一方で「カウンセラー」の就労を考えた場
合、臨床心理学科(今年度より教育学専攻より分離独立)に進学することを
希望していることから、卒論の内容も「大学生の発達障がい」というテーマ
にしている。大学院での研究活動は「発達障がい」であると考えている。た
だゼミの教員が「大学における発達障がいの学生支援」を大学から委嘱され
ていることも話した。ゼミ教員の研究に近い内容を本人が希望したことも見
逃 せ な い 。そ の 研 究 方 法 に つ い て 、
「 下 請 け 」的 な こ と を 望 ん で い る 姿 勢 が 随
所で聞き取れた。自分で課題を見つけても、その研究方法や結果の導き方を
考えることが出来ないという「先行きの見えなさ」が、このような思いを持
たせている要因となったものだと考えられる。
ク ラ ス タ ー 3 は「 サ ー ク ル 」か ら「 腰 痛 」ま で の 5 項 目 で あ る 。
「今の生活」
について述べた。特にサークル活動で深草・大宮間をバスで移動しなければ
な ら な い 。ま た 講 義 が 一 杯 詰 ま っ て い る 中 で 、必 死 に「 サ ー ク ル 」
「 学 習 」を
両立させなければならない責任感。学習がおろそかになれば「奨学金へ影響
が与えられる」ことなど、身体的、精神的なプレッシャーがこの話から読み
取れた。そのリフレッシュ策が「紅葉の見学」であったのだが、お金を惜し
む こ と や 天 候 が 良 か っ た こ と か ら 1 日 23 km 歩 い た こ と 。通 常 で も 5km 以 上
は歩くことなどを話してくれた。またサークルでの活動で指導の先輩との飲
食。昼食代を浮かそうとして母親から怒られることなど、日々の話がここで
121
なされた。
ク ラ ス タ ー 4 は 「 鉄 道 」「 バ ス 」 の 2 項 目 で あ る 。 こ れ は 通 常 筆 者 と 話 を
す る 中 で 、 必 ず 「 鉄 道 」「 バ ス 」 の 話 が な さ れ て い る こ と か ら 述 べ た 。
2.クラスター分析の総合的解釈
3回生になり就労のことなども気になり、自分の進路を決めたまでは良か
ったものの、あまりにも多くの単位数を履修しなければならない状況になっ
た。その成績如何で第一種奨学金枠から外される可能性もあり、今後大学院
でも奨学金を希望するだけにそのプレッシャーは大きなストレスとなってい
ることが分かってきた。一方でそのリフレッシュ策を考えてはいるものの、
これも心身に対しあまりにも大きな負担になることを衝動的に行うことも理
解 で き て き た 。( 本 人 も 理 解 し て い る )
3.総合的考察
大学生活について「学費」のことを母親から厳しく話されていることもあ
り、
「 奨 学 金 を と り な さ い 」と 言 わ れ て い る こ と も プ レ ッ シ ャ ー に な っ て い る
ことは本人の話からも推測できた。しかし「アルバイト」の話は出てこず、
対人支援を行う仕事に就くのであれば、それなりの対人関係についての練習
をこの時期に行っても良いのではないかと考える。しかし「アルバイトをす
る と 勉 強 が お ろ そ か に な る 」と い う 考 え を A 男 が 持 っ て い る だ け に 、
「二者選
択」の方法しか思いつかないA男の特性とも考えられる。しかしキャリア教
育の観点からも、それらについて言及して欲しい思いはある。
一方で本人が大学院へ進学する希望を持っているだけに、研究についての
取り組みが、非常に気になった。自分がやりたいことを考えていることは重
要ではあるが、
「 そ の 研 究 方 法 」に つ い て の 問 題 が 感 じ ら れ た 。ゼ ミ の 先 生 の
下 請 け で 研 究 を す る の で は な く 、自 分 が 考 え た こ と を ど の よ う に「 調 査 」
「研
究」をするのかが理解できていないこともあり、再度ゼミ教員からの指導と
アドバイスが必要だと考えられる。
またA男の言葉で気になることがあった。それは「それは僕の特質だから
… 」と い う も の で あ る 。
「 配 慮 さ れ る こ と 」が「 出 来 な い こ と 」と 捉 え て い る
一 面 が あ る 。「 P o w e r P o i n t 」 が ノ ー ト に 写 せ な い の で あ れ ば 、「 講
義の事前事後にプリントをもらう」
「大事なところを聞き逃さないよう録音を
122
する」などである。補助的な方法があれば、克服できることもあり、それを
大学までの段階で出来るようにすることが、ある年齢層での「個別の支援」
で あ ろ う 。そ の 年 齢 層 こ そ が 中 学 校 3 年 生 か ら 高 校 ま で の 年 代 で 身 に つ け て
いかなければならないものかもしれない。
Ⅵ
おわりに
「PAC分析を行い、個別の指導計画を作成するために必要なことが得ら
れるか」という課題の予備調査として今回の分析を行った。その結果、可能
であることが理解できた。今後、高等学校での「個別の指導計画」を作成す
るに当たり、PAC分析を利用することが大きな意味を持つことが出来るの
ではないかと考えている。同時に「一群の人々に共通する」事柄が見い出せ
たときには、福祉との連携枠で考えられる「個別の支援計画」にも大きな影
響を与えると考えている。
個別の指導計画の作成が、大学受験にも関わる時代となった。しかし高等
学校での個別の指導計画とは一体どのようなものであろう。A男のケースか
ら考察できることは、小学校のような学習支援だけを全面に出す計画であっ
てはならないと考える。高等学校は小学校のような学級単位で動く場ではな
い。また中学校のような教科担任制度をとってはいるが科目数が多い。本人
自身が自分の特性を理解し、どのような本人自身が支援を求めることが適切
であるかが考えられ、自分自身の困り感を周囲に伝えていけるよう力をつけ
ていることが必要である。そのためには「支援ノート」が必要となるであろ
う。またそのための支援員も必要となるであろう。そして何よりもソーシャ
ルスキルを高める指導計画の作成が、高等学校では必要となっていると考え
る。しかし支援員は学校までであり、就労については「ジョブコーチ」が関
わってくれたとしても、社会生活を支援するまでの人的要因はあまりにも乏
し い 。や は り 、発 達 障 が い の 生 徒 に と り 、自 分 の 特 性 を 理 解 し 、
「必要な支援
を求めることが出来る」ことこそ、彼らの大きな青年期の課題ではないだろ
うか。
同時に国の施策として、多くの人が「発達障がい」について理解されるよ
う啓発活動を行い、被支援者を支援できる社会基盤の構築が求められなけれ
ばならないと考えられる。
123
参考文献
太 田 正 己 ・ 小 谷 裕 実 編 著 (2009 )『 大 学 ・ 高 校 の L D ・ A D / HD・ 高 機 能 自 閉
症の支援のためのヒント集
京都府教育委員会
あなたが明日からできること』
黎明書房
特別支援教育推進体制モデル事業調査研究運営会議
(2006)『 特 別 支 援 教 育 推 進 ガ イ ド ~ 支 援 体 制 を 整 備 し 一 人 一 人 の ニ ー ズ に 応
じた具体的な支援を進めるために~』
同
(2007)『 特 別 支 援 教 育 実 践 ガ イ ド ~ 一 人 一 人 の ニ ー ズ に 応 じ た チ ー ム 支
援を進めるために~』
同
(2008)『 特 別 支 援 教 育 充 実 ガ イ ド ~ 一 人 一 人 の ニ ー ズ に 応 じ た 支 援 を 進
めるための各支援地域、学校での実例と新たな取組~』
同
(2009)『 特 別 支 援 教 育 発 展 ガ イ ド ~ 学 校 、 地 域 、 社 会 全 体 の ネ ッ ト ワ ー
クで一人一人のニーズに応じた支援を~』
内 藤 哲 雄 (1997 )『 P A C 分 析 実 施 法 入 門 』 ナ カ ニ シ ヤ 出 版
吉 岡 幸 司 (2010 )「 カ ウ ン セ リ ン グ 実 践 報 告 」
『 平 安 研 究 論 集 』第 4 5 号 pp47-63
話
124
研究ノート
NHKラジオ古典講読
「源氏物語、千年紀・選」
物録音データベース構築の試み
- データ構造と生徒の関わりを中心に -
国語科
三
上
雅
也
Masaya Mika mi
キーワード:録音データベース、デイジーCD、データモデル
Ⅰ
はじめに
(今 な ぜ 「 源 氏 物 語 、 千 年 紀 ・ 選 」 な の か )
2008 年 4 月 よ り 1 年 間 、 国 文 学 研 究 資 料 館 ・館 長 の 伊 井 春 樹 先 生 が 解 説 、
ア ナ ウ ン サ ー の 加 賀 美 幸 子 さ ん が 朗 読 さ れ た N H K 古 典 講 読 全 51 回 は 、1 回
が 45 分 間 の 平 成 20 年 度 ( 源 氏 物 語 、 千 年 紀 ) の ラ ジ オ 放 送 で あ る 。
近年デイジーCDと呼ばれる、主に視覚障害者の為の、カセットに代わる
デジタル録音の規格化が進んでいる。1年間の放送がCD1枚に納まり、更
に1回の放送に対しても細分化された切れ目を入れて、聞きたいところが探
せるように録音媒体自体により良く利用できる環境を作っている。
本 稿 は 、こ の 最 近 の デ イ ジ ー C D を 参 考 に 、① M D に 録 音 さ れ た 全 51 回 の
録音媒体を聞きやすくした方法、②録音教材の内容を生徒と共に分析して、
利用のためのデータベースを構築する方法、及びその考え方を記した報告で
ある。
Ⅱ
珠 玉 の 「 源 氏 物 語 」 講 読 ・ 全 51 回 ( 「千 年 紀 ・選 」は 選 び 抜 か れ た 宝 石 )
Ⅱ-1
「源 氏 物 語 、 千 年 紀 ・ 選 」
朗読箇所と解説
伊 井 春 樹 先 生 は 「源 氏 物 語 」を (実 質 ) 50 回 で 54 帖 の 主 要 な 場 面 を 常 に 全 体
を視野に入れながら解説された。誠にこの講読はご見識のたまものである。
1 回 の 放 送 に は 通 常 、朗 読 5 回 、そ れ に 続 く 、解 説 5 回 が 講 じ ら れ る 。「源
氏 物 語 」本 文 の 引 用 に は (放 送 で 基 本 使 用 の )「岩 波 文 庫 」( 全 6 冊 ) を 使 用 し た 。
分 析 担 当 生 徒 2 名 に は 「岩 波 文 庫 」と 「絵 本 源 氏 物 語 」<慶 安 三 年 版 本 挿 絵 2
2 6 図 (見 開 き 挿 絵 9 図 を 含 む )>日 本 古 典 文 学 会 編 を 夏 休 み 前 に 貸 与 し た 。
125
Ⅱ-2
「源 氏 物 語 、 千 年 紀 ・ 選 」 全 51 回
NHK ラ ジ オ ・ 古 典 講 読
各回の内容
2008 年 4 月 ~ 翌 3 月 (1 回 45 分 間 で MD に 録 音 )
回
1
2
3
4
5
6
7
8
巻名
桐壺
帚木
空蝉
夕顔
若紫
末摘花
紅葉賀
花宴
回
9
10
11
12
13
14
巻名
葵
箒木
空蝉
須磨
明石
澪標
蓬生
回
15
16
17
18
19
20
21
巻名
桐壺
箒木
空蝉
夕顔
若紫
末摘花
紅葉賀
花宴
回
22
23
24
25
26
27
28
巻名
蛍
常夏
篝火
野分
行幸
藤袴
真木柱
梅枝
回
29
30
31
32
33
34
35
36
巻名
藤裏葉
若菜上
若菜下
柏木
横笛
鈴虫
夕霧
御法
回
37
38
39
40
41
42
43
44
巻名
幻
匂宮
紅梅
竹河
橋姫
椎本
総角
早蕨
回
45
46
47
48
49
50
51
巻名
宿木
東屋
浮舟
蜻蛉
手習
夢浮橋
Ⅱ-3
「源 氏 物 語 、 千 年 紀 ・ 選 」
関屋
講 読 を終 えて
講 読 の 骨 格 (第 5 1 回 、 最 終 回 を 例 に )
<注 … [ 700● ] 等 は 見 出 番 号 で 、 デ ー タ ベ ー ス の [ № ] 項 目 に 該 当 >
700● ア ナ ウ ン ス ① ( 加 賀 美 ア ナ )( 音 楽 に 続 き )古 典 講 読 の 時 間 で す 。 「源 氏 物
語 、千 年 紀・選 」第 5 1 回 最 終 回 。「 源 氏 物 語 、千 年 紀・選 」の 講 読 を 終 え て 。
お話は大阪大学名誉教授で国文学研究資料館館長の伊井春樹さん。朗読は
加 賀 美 幸 子 で す 。 <ア ナ ウ ン ス ① 等 は 便 宜 上 付 け た 見 出 番 号 の 名 称 >
701● 導 入 解 説 ① (伊 井 先 生 )昨 年 の 4 月 に 「桐 壺 」の 巻 か ら 読 み 始 め 、先 週 ま で
50 回 で 54 帖 の 主 要 な 場 面 を 取 り 上 げ 、 内 容 に 即 し な が ら 読 み 進 め て 参 り
ま し た 。 <伊 井 先 生 は 前 回 の あ ら ま し を 、 ま ず 伝 え ら れ る … 導 入 解 説 ① >
702● 導 入 解 説 ② (伊 井 先 生 )本 日 は そ の 最 終 回 と し て 、「 源 氏 物 語 」が 記 録 に 記
さ れ た 前 後 の 「 紫 式 部 日 記 」と そ れ を 愛 読 し た 孝 標 女 の 「更 級 日 記 」の 一 部 を
取 り 上 げ 、 「源 氏 物 語 」が ど の よ う に 読 ま れ て い た の か 、 そ の 背 景 を 考 え て
見 た い と 思 い ま す 。 < 本 日 の あ ら ま し … 導 入 解 説 ② … 朗 読 迄 の 部 分 >(中 略 )
126
こ の 導 入 解 説 ② は 「明 る い 朝 」第 59 号 で 本 年 生 徒 達 に 紹 介 し た 珠 玉 の 部 分
紫式部はよく知られておりますように、藤原道長の娘、中宮彰子の女房
と し て 仕 え ま し た 。 父 親 は 藤 原 為 時 で 地 方 役 人 で し た 。 長 徳 二 年 (996 年 )
に父親は越前(今の福井県でありますが)その長官として赴任し、紫式部
も 付 い て 行 っ て お り ま す 。紫 式 部 は そ こ で 1 年 余 り を 過 ご し ま し て そ の 後 、
父親を置いて都に一人戻って参りました。それは藤原宣孝との結婚の為だ
っ た と さ れ て い る わ け で あ り ま す 。や が て 二 人 の 間 に は 賢 子 (賢 い 子 と 書 き
ま す が )と い う 娘 が 生 ま れ ま す が 、 長 保 三 年 (1001 年 )4 月 に 夫 の 宣 孝 が 亡
く な っ て し ま い ま す 。49 歳 で し た 。紫 式 部 と は か な り 年 の 差 が あ っ た よ う
であります。その後に紫式部が中宮彰子の女房として参上したのが寛弘二
年 (1005 年 )12 月 だ っ た だ ろ う と さ れ て お り ま す 。夫 と 死 別 し 幼 い 娘 を 抱 え
て4年後のことでありました。
当時の宮中は一条天皇が存在しておりました。第六十六代の天皇であり
ます。そこに入内しておりましたのが藤原道隆の娘の定子でございます。
その道隆の弟が藤原道長であるわけです。その娘、定子とそして一条天皇
との間には第一親王、第一皇子が生まれているわけですけれども、しかし
こ の 道 隆 は 長 徳 元 年 ( 995 年 )に 43 歳 で 亡 く な っ て し ま い ま し た 。こ の ま ま
もし生きていれば定子は幸せでやがてその一条天皇との間に生まれた男の
子が皇太子となり天皇になって権力者になったかもしれないですけれども、
そうはいかなかったわけであります。その道隆の弟、道長であります。道
長 の 娘 、 彰 子 は 長 保 元 年 (999 年 )に 1 2 歳 と な り 、 そ の 11 月 に 一 条 天 皇 に
入内させました。その後、定子は皇后に、彰子は中宮となります。このよ
うにしまして一条天皇のもとには定子と彰子の二人がいたわけであります
けれども、それも1年と1ヶ月のことでありました。
長 保 二 年 ( 非 常 に 覚 え や す い ん で す が ) 西 暦 の 1000 年 に 定 子 、中 宮 定 子 は
24 歳 で 亡 く な っ て し ま い ま す 。 定 子 は 宮 中 に 入 っ て 10 年 の 生 活 で あ り ま
した。その後は有力な他にも女性のいないまま道長の権力の掌握に伴い、
彰子の立場も大きな存在となっていったわけであります。
先ほど申しましたように、紫式部が中宮彰子に女房として仕えるように
な り ま し た の は 寛 弘 二 年 (1005 年 ) の こ と と さ れ て お り ま す 。皇 后 定 子 が 亡
くなりまして五年後のことで当然そこに女房として仕えておりました清少
納 言 、 「枕 草 子 」を 書 い た 女 性 で あ り ま す け れ ど も 、 そ の 紫 式 部 が 宮 仕 え し
127
たときにはもう、清少納言は宮中から居なかったわけでありまして、二人
が出会ったことはなかっただろうと思います。ただ紫式部は清少納言の存
在 を 知 っ て い た と か 、 あ る い は 「枕 草 子 」 を 読 ん で い た こ と に 違 い あ り ま せ
ん。紫式部がなぜ中宮彰子の女房となったのか、その事情は明らかではあ
りません。単に中宮の身の回りの世話をするだけではなく、かなり教育係
的 な 存 在 で は な か っ た か と 思 わ れ ま す 。 そ れ に 「源 氏 物 語 」の 一 部 が 既 に 出
来上がっていて、それが評判になり道長は彰子のもとの文化的なサロンを
作ろうと女房として出仕することを求めたのかもしれません。
中宮彰子は一条天皇のもとに入内して9年後、やっとお目出たとなりま
し た 。そ れ が 男 の 子 が 生 ま れ た わ け で あ り ま す 。 こ う な り ま す と 道 長 と し
ては本当に運のよい人物でありますけれども、この男の子が生まれました
のが、やがてその皇太子となりそして天皇になって行くわけであります。
寛 弘 五 年 (100 8 年 )7 月 に 中 宮 彰 子 は お 目 出 た の 為 、出 産 の 為 に 宮 中 か ら 父
親の道長の屋敷に戻って参りました。紫式部も女房としまして道長邸に入
り ま す 。 こ の 頃 か ら 「 紫 式 部 日 記 」が 記 録 さ れ て 行 く わ け で す 。 や が て 9 月
11 日 、第 二 皇 子 で あ り ま す 敦 成 親 王 が 誕 生 し た わ け で あ り ま す 。道 長 に と
っては本当に喜びの思いでありました。
そ れ で は 彰 子 に 皇 子 が 誕 生 し ま し た 「紫 式 部 日 記 」の 場 面 を 加 賀 美 さ ん に
朗 読 し て 頂 き ま し ょ う 。(以 上 、導 入 解 説 ①・② を 記 載 。朗 読・解 説 に 続 く )
703● 朗 読 ① ( 加 賀 美 ア ナ )午 の 時 に 、空 晴 れ て 、朝 日 さ し い で た る 心 地 す 。( 岩
波 文 庫 「紫 式 部 日 記 」 p 17.5 行 目 ~ 19 行 目 に 該 当 )~ つ き づ き し く さ ぶ ら ふ 。
704● 解 説 ① ( 伊 井 先 生 )有 難 う ご ざ い ま す 。… と 「紫 式 部 日 記 」の 解 説 ① に 続 く 。
(以 上 、朗 読 ①・解 説 ① の 流 れ を 記 載 。こ れ が 一 つ の 組 で 最 終 回 は ⑥ 迄 あ る )
「 源 氏 物 語 、 千 年 紀 ・ 選 」 第 51 回 ・ 最 終 回 … 骨 格 を 見 出 の 組 で 示 す 。
700● ア ナ ウ ン ス ① ( 加 賀 美 ア ナ )70 1● 導 入 解 説 ① 702● 同 ② ( 伊 井 先 生 )次 に
703● 朗 読 ① 「 紫 式 部 日 記 」午 の 時 に 、 空 晴 れ て 、 704● 解 説 ① 敦 成 親 王 の 誕 生
705● 朗 読 ② 「 紫 式 部 日 記 」左 衛 門 の 督 「あ な か し こ 。706 ● 解 説 ② 千 年 紀 の 典 拠
707● 朗 読 ③ 「 紫 式 部 日 記 」入 ら せ 給 ふ べ き こ と も 708● 解 説 ③ 物 語 の 本 作 り
709● 朗 読 ④ 「 紫 式 部 日 記 」左 衛 門 の 内 侍 と い ふ 人 710● 解 説 ④ 物 語 読 む 天 皇
711● 朗 読 ⑤ 「 更 級 日 記 」か く の み 思 ひ く ん じ … 712● 解 説 ⑤ 物 語 読 む 孝 標 女
713● 朗 読 ⑥ 「 更 級 日 記 」か や う に 、そ こ は か な き こ と 71 4● 解 説 ⑥ 更 級 ま と め
715● ア ナ ウ ン ス ② 第 51 回 終
716 ● 「源 氏 物 語 、 千 年 紀 ・ 選 」 終
128
と続く。
Ⅲ
録音の細分化と、データベースの構築方法
Ⅲ-1
M D に 録 音 さ れ た 全 51 回 の 録 音 媒 体 を 聞 き や す く し た 方 法
M D (あ る い は カ セ ッ ト )で 録 音 さ れ た 放 送 は 、 こ れ を 再 生 し て 外 部 入 力 か
ら ICZ-R100 に 取 り 込 む と デ ジ タ ル 化 さ れ 、付 属 の ソ フ ト 、サ ウ ン ド オ ー ガ ナ
イ ザ ー で 任 意 に 分 割 が 可 能 で あ る 。 SONY 製 の VAIO の デ ス ク ト ッ プ 内 あ る い
は 別 売 の Soun d Forge Audio Studi o を 使 う と 128Kbps の デ ー タ を 32Kbps の
デ イ ジ ー CD の 規 格 に 合 わ す こ と が で き る 。元 よ り シ ナ ノ ケ ン シ 社 の プ レ ク ス
ト ー ク PTR- 2 と ダ ウ ン ロ ー ド ソ フ ト を 使 え ば 正 式 の デ イ ジ ー C D が 作 成 出 来 る
が 、こ の 高 価 な 機 器 群 を 使 用 し て 初 め て そ の CD が 聴 取 可 能 で あ る の で 、ま ず
は 、 録 音 教 材 を 細 分 化 し 、 通 し 番 号 の MP 3 の 音 声 フ ァ イ ル を 作 成 し た 。
Ⅲ-2
録音教材利用のためのデータベースを構築する方法
① 51 枚 の CD と そ の 表 面 に 通 し 番 号 の イ ン デ ッ ク ス を 作 成 。
51 枚 は 所 謂 図 書 館 カ ー ド の よ う に 使 え 、中 身 は 録 音 デ ー タ そ の も の で あ る 。
(PC と 対 応 <CD 面 を CT RL+クリック 51 枚 を 見 る 仕 組 み を 盛 り 込 む ・ 以 下 同 >)
129
② デ ー タ ベ ー ス ソ フ ト 桐 10(管 理 工 学 研 究 所 )を 使 っ て 、 MP3 の 一 つ を
1 レ コ ー ド と す る デ ー タ ベ ー ス フ ァ イ ル を 作 成 。 <デ ー タ モ デ ル >
桐 10 の 基 本 data に よ る (マ ル チ レ コ ー ド フ ォ ー ム )画 面 伝 票 形 式
説 明:各 № は そ れ ぞ れ 時 間 の 長 さ を 持 っ た レ コ ー ド で 、例 え ば № 60 は 35 秒 。
№ 60 か ら 73 迄 の 時 間 の 合 計 は 、45 分 で 1 回 の 放 送 時 間 の 合 計 で あ る 。
実 際 に そ の 時 間 を 、例 え ば 、朗 読 ○ + ○ の 合 計 で 表 示 さ せ る こ と も 可 能 。
総 レ コ ー ド 716。 CD 表 面 に 印 字 出 来 る 1 行 分 の 字 数 が 表 示 幅 で あ る 。
導 入 解 説 ① は 前 回 の あ ら ま し を 伊 井 先 生 が ま と め ら れ た 文 言 を CD 表
面に印字する物で魅力的な文言は視聴意欲を増す効果が大。
導入解説②は今回のあらましを伊井先生が話される、その長さと字数
の制約を受ける傾向にある。女主人公は若紫。主語は光源氏。
生 徒 の 分 析 部 分 は 朗 読 の 岩 波 文 庫 data と 版 本 挿 絵 の 絵 の 項 目 で あ る 。
朗 読 ○ は 岩 波 文 庫 data① 冊 目 、出 だ し・朗 読 範 囲・末 尾 文 字 列 を 示 す 。
解 説 ○ は 伊 井 先 生 の 加 賀 美 ア ナ へ の 「有 難 う ご ざ い ま す 。 」に 続 く 言 葉 。
実際の版本挿絵の絵を表示も可能。
桐 10
基 本 data の 定 義 画 面
(参 考 ま で に 定 義 画 面 を 示 す )
130
Ⅳ
生 徒 へ の 対 応 (平 成 27 年 8 月 4 日 付 、 千 年 紀 ・ 選 の 協 力 依 頼 文 書 )
平 成 27 年 8 月 4 日
高 校 3 年 ○ 組 A さ ん (S さ ん も 同 文 )
1源氏物語、千年紀・選●朗読本文最初の出だし・岩波文庫①~⑥冊の
(ペ ー ジ ・ 行 ~ ペ ー ジ ・ 行 目 )最 後 の 文 言 。 こ れ ら を 調 査 協 力 願 い ま す 。
① 千 年 紀 ・ 選 (全 )の マ イ ク ロ SD カ ー ド を ICZ -R100 に セ ッ ト す る 。
1 . ICZ-R100 の 向 か っ て 左 側 面 の 電 源 を 入 れ る 。 (下 に ス ラ イ ド さ せ る )
2 . ICZ-R100 の 向 か っ て 右 側 面 に あ る マ イ ク ロ SD カ ー ド の 入 れ 口 を 開 け
下 図 の よ う に 金 色 の 接 触 面 が 、手 前 に 見 え る よ う に カ ー ド を 挿 入 す る 。
(う ま く 挿 入 で き る と 表 示 面 に 「し ば ら く お 待 ち 下 さ い 。」と 丸 く 表 示 さ れ る 。)
そ し て 「メ モ リ ー カ ー ド に 切 り 替 え ま す か ? 」と 表 示
さ れ る の で 、「 は い 」 を 選 ん で
▶
を押す。
←
う ま く 挿 入 で き て い な い と 、 「お 待 ち 下 さ い 。 」と 表
示されないので、ここで、行き詰まってしまう。1
の電源を入れてするとよい。
3 . オ プ シ ョ ン の ○ ボ タ ン を (長 押 し )す る 。
前の表示面に録音したファイルに
最 後 に 録 音 し た フ ァ イ ル が 現 れ る 。 <中 略 >
オーディオ
千 00 凡 例
生 徒 2 名 は 夏 休 み 中 に 分 担 し て 50 回
千 01 桐 壺
迄の源氏物語、千年紀・朗読を分析
千 02 帚 木
千 03 空 蝉
千 04 夕 顔
録音の聞き方と分析表記入例の説明
千 05 若 紫
← 05 「若 紫 」を 選 ん で
以 下 指 示 内 容 の み 記 載 千 06 末 摘 花
▶
を押す
<若 紫 の 放 送 内 容 が 聞 こ え る >
ICZ-R1000 の 朗 読 の 分 析 表 の 記 入 例 (B 5 横 長 、 千 年 紀 ・ 選 の 5 枚 目 5 回 目 )
の フ ァ イ ル を 開 け さ せ て 示 し 、「若 紫 」の 回 を 手 本 に 分 析 す る よ う に 指 示 し た 。
朗 読 分 析 に は 朗 読 ○ の da ta 部 の (
)内 等 を 空 欄 に し た 分 析 表 B5 紙 を 使 用
131
Ⅴ
データベース構築の試みの意義
ここで言うデータベースとは所謂音声データベースのような録音データそ
のものを示すものではない。検索やソート、抽出などのデータベース機能を
発揮するところの録音そのものとは別のシステムを言うのである。しかし、
もとのデータが一つしか存在しないものではなく、誰かもその録音を持って
い る 場 合 に 、 そ の 存 在 利 用 価 値 は 高 い と 言 え る 。 「源 氏 物 語 、 千 年 紀 ・ 選 」の
録音フルセットを持っている人・組織があって最も利用が意味あるものにな
る。
① データベース構築の手伝いをした生徒2名がその過程で学んだことは。
単 に 夏 休 み の 源 氏 物 語 「若 紫 」教 科 書 か ら の 課 題 の 参 考 以 外 に 、物 語 全
体 を 視 野 に 入 れ た 「若 紫 」の 、 巻 の 持 つ 45 分 間 の 中 で の 、 盛 り 込 む べ き
(伊 井 春 樹 先 生 の )宿 命 と い う も の を 録 音 は 含 ん で い る 。藤 壺 の 懐 妊 ・ 二
条 院 へ 連 れ ら れ る 紫 の 上 、こ れ ら は 避 け て 通 れ な い 巻 の 必 要 話 題 で あ る 。
し か し そ ん な 観 点 は 文 庫 本 の 何 処 を 朗 読・解 説 さ れ る か と い う 視 点 か ら
は、興味を持って読む事にはならず、今後のご縁に期待するしかない。
( 実 際 に は 複 数 の C D を 貸 与 し た < 3 ク ラ ス の >希 望 6 名 の 生 徒 は 、 「 日
も い と 長 き に つ れ づ れ な れ ば 」の 部 分 、1 枚 が 「人 な く て 、つ れ づ れ な れ
ば 」と な っ て い て 「源 氏 物 語 」の 諸 本 の 存 在 や 、 先 生 か ら 敬 語 の 考 え 方 に
ついても、普段の授業より深い理解をしたものと期待するものである。
② 本 校 図 書 館 に 置 く C D 51 枚 と 、 桐 1 0 の デ ー タ ベ ー ス シ ス テ ム デ ー タ
生 徒 2 人 に は 、 最 新 型 の SONY ICZ-R100 を 貸 与 し マ イ ク ロ S D カ ー
ド を 媒 体 と し た が 、本 校 図 書 館 に は 、C D 51 枚 を 図 書 館 カ ー ド の 機 能 と
共 に 1 セ ッ ト 備 え た い と 、図 書 館 係 の 一 人 と し て (個 人 で は )考 え て い る 。
③ デイジーCDを実際に作ること
デイジーCD作成機、プレクストークを使い、正規のデイジーCDを
作成したい事例を抱えている。しかしその実現には、研鑽を積み、越え
ねばならぬ事柄が多いことも実感している。施設に教材をデータ付きで
寄贈することは社会的にも有意義である。その為には資格や技術を身に
つけることが必要であるが、生徒とともに取り組みたいと考える。
参考文献
池 田 亀 鑑 (1985)「源 氏 物 語 大 成 」 (中 央 公 論 社 )14 冊
玉 上 琢 彌 (1995 )「源 氏 物 語 全 評 釈 」 (角 川 書 店 )14 冊
132
今 泉 忠 義 (1985 )「源 氏 物 語 」20・ 7 冊 講 談 社 学 術 文 庫
使 用 個 人 購 入 機 器 ・ 使 用 (参 考 )ソ フ ト ウ エ ア 等
デイジーCD関係
(株 )シ ナ ノ ケ ン シ
プレクストークPTR2
プレクストークPTN2
プレクストークリンクポケット
ネ ッ ト ・ プ レ ク ス ト ー ク (ソ フ ト )
2015 年 9 月 学 園 祭 ク ラ ブ 展
IC レ コ ー ダ ー /ラ ジ オ レ コ ー ダ ー
SONY ICZ-R100 (5 台 )サ ウ ン ド オ ガ ナ イ ザ ー (付 属 )
SONY CDF-RS50 1(2 台 )
使用パソコン
SONY VAIO Tap 21 (テ ゙スクトップ)
Sound Forge Audio Studio 10 (付 属 )
SONY VAIO F22AJ
SONY VAIO FIT15E
(生 徒 用 )
VAIO® Fit 15E|mk2 (生 徒 用 )
使用日本語データベースソフト
(株 )管 理 工 学 研 究 所
桐 9 S (3 本 )
(株 )管 理 工 学 研 究 所
桐 10(3 本 )
周辺機器
イメージスキャナー
EPSON GT-S600
EPSON GT-S640
201 5 年 9 月 学 園 祭 ク ラ ブ 展 (図 書 館 )
EPSON P X -1004 (CD 印 字 ) プ リ ン タ ー
NEC PR -L8250N
2015 年 9 月 学 園 祭 古 典 文 化 研 究 部 ク ラ ブ 展
(図 書 館 e ラ ー ニ ン グ 室 )
133
研究ノート
情報科で小論文を書く
-論理的な文章構成-
情報科
松
田
博
一
Hiroka zu Matsud a
キーワード:問題解決、論理的文章表現、パラグラフ、トピックセンテンス
Ⅰ
情報科の取り組み
Ⅰ-1
はじめに
情報科には、情報化の進む社会に積極的に参画することができる能力・態
度、また情報モラルや知的財産権の保護、情報安全等に対する実践的な態度
を育む指導が求められている。しかし、一方で授業が旧来からの情報機器の
操作に終始する学校が多いことも事実である。
本 校 で は 、学 習 指 導 要 領 の 基 本 的 な 考 え 方 を 重 視 し 、
「 情 報 モ ラ ル 、知 的 財
産 の 保 護 、 情 報 安 全 等 に 対 す る 意 識 の 向 上 」「 問 題 解 決 能 力 の 向 上 」「 自 分 の
意見をまとめ、発表する力の向上」の3点に重点を置いている。ここでは、
論理的な文章構成の指導について紹介する。
Ⅰ-2
・
授業のねらい
一般的な論理的な文章を書くことの必要性
授業に論理的な文章構成を取り入れた理由は、論理的な文章を書く力を生
徒に習得させる必要性を感じたからである。様々な機会に生徒の書いた文章
を 読 む が 、そ の 文 章 力 ま た は 文 章 の 構 成 力 は 決 し て 十 分 な も の と は 言 え な い 。
論理的な文章を書くことができないと言うことは、論理的な思考ができない
と言うことに繋がり、スピーチやディベート、ディスカッションなど、今後
要求されるスキルの習得にも影響する。言い換えれば、早い段階で論理的な
思考を育むことによって、整合性のとれた文章を書くことが可能となる。
134
・
情報科としての取り組み
情報科では、情報機器や情報ネットワークを適切に活用して問題を解決す
る方法を習得させていく。問題を解決する方法については、問題の発見と明
確 化 、分 析 、解 決 策 の 検 討 、実 践 、結 果 の 評 価 な ど の 基 本 的 流 れ を 理 解 さ せ 、
問題を解決する方法に関する基礎的な知識と技能を習得させる。その際、情
報の表現と伝達と関連付けて、問題を解決するためには、このような具体的
な手順を考えることが重要であることを理解させる。
問題とは、
「 あ る べ き 理 想 の 姿 と 現 実 と の ギ ャ ッ プ 」や「 解 決 や 解 消 を 必 要
と す る 状 況 」と い う 意 味 で 、
「 問 題 の 発 見 」は 、こ れ ら の ギ ャ ッ プ や 状 況 を 意
識し明らかにすることと捉えられる。学習指導要領では、問題をより明確化
し、的確な分析、検討、解決ができるようにするために、問題点を文章で表
現し具体的に記述させるところまで含めて「問題の発見」と捉えている。
また、問題を解決していく過程で、分析、検討を重ね、グループでディス
カッションや、必要な事柄を収集・整理することが必要になると考えられる
ことから、これらの学習活動には、論理的な思考力とそれにつながる論理的
な文章力が必要になる。
以 上 の 点 を 踏 ま え 、情 報 科 で は 論 理 的 な 文 章 構 成 の 指 導 に 取 り 組 ん で い る 。
Ⅰ-3
・
授業案
全体像
授業は2時間連続で3回、計6時間で行なう。この授業で説明した論理的
な文章構成を使って小論文を書くことが夏期休暇の課題となるので、授業実
施のタイミングが遅れないようにすることが求められる。授業の構成は次の
通りである。
1回目
論理的な文章とは
①論理的な文章とは?
②結論と根拠
③文章構成
④論理的な文章を読み解く
⑤演習
2回目
考えを深める
①考えを深める
135
②パラグラフとトピックセンテンス
③論理的な文章構成
④演習
3回目
小論文の作成
①自分の考えをまとめる
②小論文の作成
③プレゼンテーションへの展開
・ 1回目(1時間目・2時間目)論理的な文章とは
① 論理的な文章とは
この授業の概要を説明し、論理的な文章とはどのようなものかを感想文
と 比 較 し な が ら 解 説 す る 。ま た 、こ の 時 点 で 、こ の 授 業 が 夏 期 休 暇 の 課 題
説 明 を 兼 ね て い る こ と 告 げ 、何 か 自 分 の 主 張( 結 論 )を 明 確 に し て い く よ
う に 指 導 す る 。ま た 、こ の 課 題 が 後 期 の プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 題 材 に な る
ことを告げる。
② 結論と根拠
高 校 生 が 論 理 的 な 文 章 を 書 く と き に 、は っ き り さ せ な け れ ば な ら な い こ と
は 、 自 分 の 主 張 、 つ ま り 「 何 を 伝 え た い か 」( 結 論 ) と 、 そ れ を 読 み 手 に
納得させる根拠(理由や具体例)であることを解説する。
③ 文章構成
頭括式、尾括式、双括式を説明し、それぞれの特徴を理解させる。また、
こ の 授 業 で は 、自 分 の 主 張( 結 論 )を 伝 え や す い メ リ ッ ト か ら 、頭 括 式 で
進めることを告げる。
④ 論理的な文章を読み解く
は じ め に 、短 い パ ラ グ ラ フ を 紹 介 し て 、そ れ を 頭 括 式 に よ り 、結 論 と 根 拠
に分ける。
ま た 、身 近 な 論 理 的 な 文 章 と し て 新 聞 の 社 説 を 示 し 、そ れ を「 自 分( 記 者 )
の 意 見 」「 事 実 や 具 体 例 」「 他 者 の 意 見 」 の 部 分 に 分 け 、「 事 実 や 具 体 例 」
「 他 者 の 意 見 」 が 「 自 分 の 意 見 」( 結 論 ) の 根 拠 に な っ て い る こ と を 理 解
させる。
⑤ 演習
「私は進学先に龍谷大学付属平安高等学校(以下、龍谷平安と略す)を選
136
び ま し た 」と 言 う 結 論 を 主 張 す る た め の 根 拠 を 求 め 、短 い 文 章 を 作 成 す る 。
ここで、例として上記の結論を用いたのは、大前提として自分の主張、つ
ま り「 何 を 訴 え た い か 」
( 結 論 )と 、そ れ を 読 み 手 に 納 得 さ せ る 根 拠( 理 由
や具体例)が、論理的な文章を構成するという点から、生徒全員に共通す
る結論を求めた結果である。本校に入学した時点で、この結論は全員に共
通している。
・2回目(3時間目・4時間目)考えを深める
① 考えを深める(アウトライン機能の利用)
マ イ ク ロ ソ フ ト 社 製 の ワ ー プ ロ ソ フ ト 「 Word 」 の ア ウ ト ラ イ ン 機 能 を 用
い て 、自 分 の 結 論 を 主 張 す る た め の 根 拠( 理 由 や 具 体 例 )を 深 め さ せ る こ
と に よ り 、読 み 手 を 納 得 さ せ る 文 章 を 書 け る よ う に す る 。ア ウ ト ラ イ ン 機
能 を 使 う こ と で 、自 由 に 加 筆 訂 正 が で き 、画 面 上 で 自 分 の 考 え を ま と め て
いくことができる利点がある。
図1
アウトライン機能
② パラグラフとトピックセンテンス
1 つ の パ ラ グ ラ フ( 一 ま と ま り の 文 章 )に 1 つ の 主 張 が 入 る よ う に し 、そ
の 主 張 を 分 か り や す い ト ピ ッ ク セ ン テ ン ス と し て 表 す よ う 指 導 す る 。こ の
137
書き方が、読み手を混乱させない文章構成につながることを理解させる。
③ 論理的な文章構成
パ ラ グ ラ フ 、ト ピ ッ ク セ ン テ ン ス を 意 識 し な が ら 、論 理 的 な 文 章 構 成 に な
る よ う に 、文 章 の メ モ を 作 成 さ せ る 。文 章 の メ モ か ら ア ウ ト ラ イ ン を 作 成
す る こ と で 、自 分 の 意 見 と そ の 根 拠 と な る 事 実 の 区 別 を は っ き り と つ け さ
せる。
④ 演習
「自分は進学先に龍谷平安を選びました」と言う結論を主張するための根
拠をさらに深め、結論を主張するパラグラフを作成する。
・
3回目(5時間目・6時間目)小論文の作成
① 自分の考えをまとめる
最 初 の 授 業 で 提 示 し た よ う に 、夏 期 休 暇 の 課 題 と し て 小 論 文 を 出 す 。自 分
の 結 論 と そ れ を 主 張 す る た め の 根 拠 を 明 確 に し て 、小 論 文 作 成 の た め の メ
モ(アウトライン)をつくる。
② 小論文の作成
夏期休暇の課題として、小論文を書かせる。
③ プレゼンテーションへの展開
夏期休暇の小論文を題材にして、後期のプレゼンテーションの授業を展
開する。
Ⅰ-4
期待する成果
・ 情報科としての考え方
情報科としては、この授業を通して次の3点を期待する。
① 論理的な文章表現へのハードルを下げる。
② 文章構成を理解する。
③ 情報を集約し自分の考えをまとめる。
情 報 科 で は 、問 題 を 解 決 す る 方 法 に 関 す る 基 礎 的 な 知 識 と 技 能 を 習 得 さ せ 、
具体的な手順を考えることが重要であることを理解させる。ここで、問題を
より明確化し、的確な分析、検討、解決ができるように、問題点を文章で表
現し具体的に記述させられなければならない。これを実践するのがこの論理
的な文章構成の授業であり、夏期休暇の課題であると考えている。
138
問題を解決していく過程で、分析、検討を重ね、グループでディスカッシ
ョンや必要な事柄を収集・整理することが必要になる。
Ⅰ-5
・
注意点
情報科の授業であるということ
論理的な文章構成の授業が、情報科の授業である点から、一般的な漢字や
語彙の指導は別として、あくまでも読み手に分かりやすい筋の通った文章表
現、結論と根拠の関係について指導を行なっていかなければならない。細か
な文章表現の点については省略してもかまわないと考えている。
また、結論を主張するための根拠としてあげている事項についても、その
真偽が問題となることが考えられる。これについても、文章の構成に重点を
置いているため、十分な検証は行なっていない。
情報の収集について、特にWebサイトを利用するときにはその信憑性の
問題や、その情報を利用するときの著作権の問題について、すでに情報モラ
ルの授業で指導している内容を再確認するようにしている。
・
プレゼンテーションへの展開
先に述べている通り、論理的な文章構成の授業は、後期のプレゼンテーシ
ョンの授業へ展開していく。論理的に組み立てられた自分の考えを文章とし
て表現するのか、スピーチ・プレゼンテーションとして表現するのかは表現
方法の違いであり、本質的な違いはない。即ち、何か発表する際には同じ手
順を踏まなければならないと言うことを理解させておく必要がある。
Ⅱ
生徒事例
Ⅱ-1
1回目(1時間目・2時間目
選抜特進の生徒)
下記の例文1を示し、ワークに取り組ませた。
●例文1
「 私 は 、龍 谷 平 安 は と て も 良 い 高 校 だ と 思 い ま す 。な ぜ な ら ば 、龍 谷 平 安 は
通学に便利な学校です。先生方の授業もよくわかります。勉強だけでなく、
クラブ活動も盛んな学校です。」
●ワーク
その1「例文1を図式化してみよう」
例文1から図1に従って、結論、理由A、理由B,理由Cの部分を抜き出
139
した。
図2
結論
頭括式の模式図
:私は、龍谷平安はとても良い高校だと思います。
理由A:なぜならば、龍谷平安は通学に便利な学校です。
理由B:先生方の授業もよくわかります。
理由C:勉強だけでなく、クラブ活動も盛んな学校です。
●ワーク
その2
例文1を尾括式に変更してみよう
例文1は頭括式で書かれているので、それを尾括式に書き直させた。
「 龍 谷 平 安 は 通 学 に 便 利 な 学 校 で す 。先 生 方 の 授 業 も よ く わ か り ま す 。勉 強
だ け でな く、ク ラブ活 動 も盛 んな 学 校です 。だか ら 、私 は、龍 谷 平安 はと て
も良い学校だと思います。」
●ワーク
その3「パラグラフ(文章)を作ってみよう」
①パラグラフを作るために、自分の結論を決める。
今回は
「私は、龍谷平安を進学先に決めました。」にさせた。
②結論を主張するための、理由・根拠を各自に考えさせた。
結論
:龍谷平安を進学先に決めた。
理由A:自分の実力とあっていて、学力を上げてくれる。
理由B:勉強と部活を両立できる。
理由C:生徒数が多くて楽しめる。
③自分の結論を、読み手に納得してもらう文章(パラグラフ)にした。
140
「 私 は、龍 谷平 安を進 学 先に 決め ま した。な ぜな ら ば、自分の 実 力と あっ て
い て 、学 力 を 上 げ て く れ る と 考 え た か ら で す 。ま た 、説 明 会 で 勉 強 と 部 活 が
両 立 で き る と 聞 き ま し た 。何 よ り 生 徒 数 も 多 く て 楽 し め る 高 校 だ と 思 い ま し
た 。」
Ⅱ-2
2回目(3時間目・4時間目
Ⅱ-1と同一生徒の作品)
●自分の考えを深める
Ⅱ-1で取り組んだ作業を確認し、更にそれを深める作業を行なう。
※Ⅱ-1の確認
①パラグラフを作るために、自分の結論を決める。
今回は
「私は、龍谷平安を進学先に決めました。」
②結論を主張するための、理由・根拠をあげる。
理由A:自分の実力とあっていて、学力を上げてくれる。
理由B:勉強と部活を両立できる。
理由C:生徒数が多くて楽しめる。
確 認 の 後 、理 由 A ~ C を W o r d の ア ウ ト ラ イ ン 機 能 を 使 っ て 深 め て い く 。
Ⅱ-3
3回目(5時間目・6時間目
141
プログレスの生徒)
授業の中では、論文のメモまでしか作成していない。アウトラインと文章
作 品 は 夏 期 休 暇 の 課 題 と な る 。 文 章 作 品 は 原 稿 用 紙 を 用 い 1 ,2 00 文 字 程 度 に
なるように指示している。また、この作品が後期プレゼンテーションの題材
となることを伝えている。
① 論文のメモ
結論
:私は、人生を豊かにする本をもっと読むべきだと思います。
理由A:語彙、表現力がつく。
理由B:リラックスできる。癒し効果がある。
理由C:新たなことを知ることができる。疑似体験ができる。
理由D:脳が活性化する。
②アウトライン
142
② 文章作品
論文のメモからアウトラインを作成し、文章の内容と構成を確認した後、
実際の文章の作成に取り掛かる。
以下がその作品である。アウトラインと比較しながら評価する。
「読書のメリット」
私 は 人 生 を 豊 か に す る た め 、も っ と 本 を 読 む べ き だ と 考 え ま す 。私 は ク ラ
ス の 図 書 係 で す が 、読 書 記 録 を ま と め る と き 、ほ と ん ど 何 も 書 か ず に 提 出 さ
れ る こ と が 多 く あ り ま す 。近 年 、読 書 離 れ も 話 題 に な っ て い ま す 。な ん と 50 %
に 近 い 人 が 月 に 一 冊 も 本 を 読 ま な い そ う で す 。そ こ で 私 は 、な ぜ 本 を 読 む べ
きかということを、読書をすると良い効果が得られることから説明します。
ま ず 語 彙 、表 現 力 が つ き ま す 。こ の 力 が つ く と 、今 重 要 視 さ れ て い る コ ミ
ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 が 身 に つ き ま す 。コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 が つ く と 、友
人 が 増え 、人 間 関係が 豊 かに なり ま す。ま た 、伝 えた い ことや 、自分 の意 見
を し っ か り 言 う こ と が で き ま す 。例 え ば 、美 味 し い 物 を 食 べ た と き 、こ の 美
味 し さ を 周 り の 人 に 伝 え た い と 思 っ て も 、ど の よ う に 表 現 す れ ば よ い の か 分
からないということがなくなります。
他 に も 、物 語 に 感 情 移 入 す る こ と で 、人 の 気 持 ち が 分 か る よ う に な る の で
はないでしょうか。そうなれば人を気遣えるようになるでしょう。
ま た、文 章力 もつく の で、感 想文 や論文 が 書き やす く なり、将 来的 に 見て
も 、大 学 で の 論 文 作 成 や 、社 会 に 出 て か ら の ポ ス タ ー セ ッ シ ョ ン な ど 、様 々
な 場 面 で 役 立 ち ま す 。そ の 他 に も 本 を 読 む こ と で 、集 中 力 や 記 憶 力 、論 理 力 、
情報処理能力など、どれも必要な力が身につけられます。
次 に、本を 読 むと新 し い発 見が あ り、疑 似 体験 もで き ます。例 えば 、奥深
い ジ ャ ン グ ル で 冒 険 を し 、異 世 界 で 剣 士 に な る な ど 、現 実 に は 体 験 で き な い
こ と を 疑 似 体 験 で き る の で す 。こ う し て 得 た 体 験 は 人 生 の 様 々 な 場 面 で ヒ ン
ト を く れ る で し ょ う 。更 に 、新 し い 考 え 方 を 学 び 、大 き な 視 野 で 物 事 を 見 ら
れるようになります。人間として成長できるのです。
143
次 に 、本 を 読 む と 健 康 に な れ ま す 。読 書 に は リ ラ ッ ク ス 、癒 し の 効 果 が あ
り 、ス ト レ ス を 減 ら す こ と が で き ま す 。散 歩 や 音 楽 鑑 賞 よ り も ス ト レ ス が 発
散 で き る と い わ れ て お り 、ス ト レ ス が 減 る こ と で イ ラ イ ラ や 暴 飲 暴 食 が な く
な り 、心 が 穏 や か に な り 健 康 に な れ る の で す 。眠 る 前 に 本 を 読 め ば 心 が 落 ち
着きよく眠れるのです。続きが気になる本を途中で読むのをやめて寝たら、
気 に な っ て 逆 効 果 か も 知 れ ま せ ん が 、次 の 日 ま た 今 夜 も 読 書 し よ う と 頑 張 れ
ることでしょう。
他にも、脳が活性化して、脳にトレーニングにもなり、
認 知 症 の 予 防 に も な り ま す 。ま た 、う つ 病 の 予 防 に も な る と い わ れ て い ま す 。
こ の よ う に 、読 書 に は 沢 山 の メ リ ッ ト が あ り 、ど れ も 人 生 を 豊 か に し て く
れ ま す 。 ど う か 皆 さ ん も ぜ ひ 読 書 に 親 し ん で く だ さ い 。( 一 部 校 正 )
Ⅲ
授業指導案と資料
Ⅲ-1
・
1回目(1時間目・2時間目)
本時の目標と評価
論理的な文章構成を考え、意見と事実の区別を明確にする。論理的な文章
構 成 の た め に 必 要 な こ と は「 自 分 の 主 張 と そ の 根 拠 」で あ る こ と を 理 解 さ せ 、
どのようにすれば、それを分かりやすく表現できるのかを、実習を通して基
本的な事項を理解させる。
(関心・意欲・態度)
論理的な文章を書くということに、積極的に取り組める。
(思考・判断・表現)
主張と根拠(意見と事実)の区別がつく。
(知識・理解)
頭括式、尾括式の違いを理解する。
(技能)
簡単な論理的文章が書ける。
・
授業展開
144
段階
学習内容・学習活動
導入
(導入)
指導上の留意点
・情報科で論理的な文章構
なぜ、情報科で小論文なのかを、情
成を扱う理由を理解させ
報を整理して自分の考えをまとめ、
る。
問題解決につなげる流れの一貫とし
て説明する。
・プレゼンテーションまで
展開
の流れを確認させる。
(展開)
・小 論 文 と は 何 か 、小 論 文 で
小論文と感想文の違いを示し、主張
必要なものは何かを理解
とその根拠の必要性を説明する。
させる。
頭括式の例文をしめす。
・文章構成の方法を理解さ
せる。
・ワーク1
資料1参照
例文を図式化し、頭括式と尾括式の
違いを示す。
・ワーク2
頭括式の文章を尾括式に変更し、違
資料1参照
いを理解する。
・ワーク3
自分の主張を図式化し、それを文章
資料1参照
化する。
・新 聞 の 社 説 を 利 用 し て 、意
実際の社説に事実の部分と、意見の
見と事実の区別を理解す
部分に線を引かせて、区別させる。
る。
(まとめ)
次回の授業説明
次回、一つひとつの理由をさらに深
めることを説明し、より明確に自分
の主張を読み手に伝えるようにする
ことを伝える。
145
・
資料
資料1(ワークシート)
龍谷平安
社 会 と 情 報 「 小 論 文 講 座 」( ワ ー ク シ ー ト )
●ワーク
その1「例文1を図式化してみよう」
結論
理由 A
理由 B
理由 C
●ワーク
その2
例文1を尾括式に変更してみよう
●ワーク
その3「パラグラフ(文章)を作ってみよう」
①パラグラフを作るために、自分の結論を決める。
今回は
「私は、龍谷平安を進学先に決めました。」
②結論を主張するための、理由・根拠をあげる。
理由 A
理由 B
理由 C
③ 自分の結論を、読み手に納得してもらう文章をつくる。
資料2(説明プリント)
146
龍谷平安
社 会 と 情 報 「 小 論 文 講 座 」( 説 明 プ リ ン ト )
●小論文とは
「自分は○○と考える。その理由は~だ。」
「自分は○○と考える。その具体例は~だ。」
ということを読み手に伝えることなのです。
●例文1
「私は、龍谷平安はとても良い高校だと思います。なぜならば、龍谷平安は
通学に便利な学校です。先生方の授業もよくわかります。勉強だけでなく、
クラブ活動も盛んな学校です。」
●ワーク
その1
「例文1を図式化してみよう」
例文1を読んで、パラグラフの結論、結論を主張する根拠・理由を探し
てみよう。
●ワーク
その2(例文1を尾括式に変更してみた)
「龍谷平安は通学に便利な学校です。先生方の授業もよくわかります。勉強
だけでなく、クラブ活動も盛んな学校です。だから、私は、龍谷平安はとて
も良い学校だと思います。」
●ワーク
その3
「パラグラフを作ってみよう」
①パラグラフを作るために、自分の結論を決める。
今回は
「私は、龍谷平安を進学先に決めました。」
②結論を主張するための、理由・根拠をあげる。
理由 A
147
理由 B
理由 C
③自分の結論を、読み手に納得してもらう。
Ⅲ-2
・
2回目(3時間目・4時間目)
本時の目標と評価
内容を深め、小論文の構成を行なう。自分の主張をより明確に読み手に伝
えるためには、一つひとつの根拠について自問自答し、さらに深く自分の考
えを主張していくことを理解させる。前回の授業で作った文章を再構築して
いく過程を実習によって実践させる。
(関心・意欲・態度)
論理的な文章を書くということに、積極的に取り組める。
(思考・判断)
根拠を深めることができる。
(知識・理解)
根拠を深めるためには、アウトラインを使ったメモが有効であることを理
解させる。
(技能・表現)
アウトライン機能を有効に活用できる。
・
授業展開
段階
学習内容・学習活動
導入
(導入)
指導上の留意点
・主張と根拠の関係を再度
できるだけ簡素化して、意見と事実
確認する。
展開
に置き換えることも必要である。
(展開)
・ 例 文 1( 資 料 2 参 照 )を 用
電子黒板に資料を表示しながら、生
い 、深 め る と い う 意 味 を 理
徒自身が考えた根拠を深めさせる。
解させる。
(資料3参照)
148
・ ワ ー ク 3 の 理 由 A,B,C 一
アウトライン機能を活用し、説明す
つひとつが新しい主張と
る 。( 資 料 4 参 照 )
なることを理解させる。
文章を書くために、メモを活用する
ように指導する。
・論文が幾つものパラグラ
メモを活用しながら、必要であれば
フの集合体となっている
さらに深めていく。
ことを理解させる。
前回の授業で作った自分のパラグラ
フで、実際に深めてみる。
(まとめ)
・次回の授業で夏期休暇の
課題を提示することを示
し 、自 分 の 意 見 を 考 え て く
るように指示する。
ま た 、後 期 の プ レ ゼ ン テ ー
ションの授業との関連に
ついて説明する。
・
資料
資料3(スライド画面)
●ワーク
そ の 1 「 例 文 1 を 図 式 化 し て み よ う 」( 図 は 省 略 )
例文1(1つのパラグラフ)
「私は、龍谷平安はとても良い高校だと思います。なぜならば、龍谷平安は
通学に便利な学校です。先生方の授業もよくわかります。勉強だけでなく、
クラブ活動も盛んな学校です。」
結論
:私は、龍谷平安はとても良い高校だと思います。
理由A:龍谷平安は通学に便利な学校です。
理由B:先生方の授業もよくわかります。
理由C:クラブ活動も盛んな学校です。
149
●考えを深める
新しい自分の主張:私は、龍谷平安は通学に便利な学校だと思います。
理由D:京都駅に近い。
理由E:大宮通り、七条通りにたくさんのバスが通っている。
理由F:四条大宮には私鉄の駅がある。
資料4(アウトラインの活用)※実際のアウトライン画面とは異なります。
・私は、龍谷平安はとても良い学校だと思います。
・龍谷平安は通学に便利な学校です。
・京都駅に近い。
・大宮通り、七条通りにたくさんのバスが通っている。
・四条大宮には私鉄の駅がある。
新しいパラグラフ
・先生方の授業もよくわかります。
・分からないところは、分かるまで指導してもらえる。
・Eラーニングやドラゴンゼミがある。
・オープンスペース職員室で質問できる。
・クラブ活動も盛んな学校
・硬式野球部が甲子園に出場する。
・アメフトやフェンシングなど珍しいクラブもある。
・文科系のクラブも充実している。
Ⅲ-3
・
3回目(5時間目・6時間目)
本時の目標と評価
夏期休暇中の課題作成に向け、小論文の構成を考えさせる。まだこの時点
では自分の主張をもてていない生徒もいるので、新聞紙上などで取り上げら
れ て い る 記 事 を 紹 介 し な が ら 、興 味 関 心 を 喚 起 し 、イ ン タ ー ネ ッ ト を 使 い 色 々
な意見を検索させる。
(関心・意欲・態度)
論理的な文章を書くということに、積極的に取り組むことができる。
(思考・判断)
150
世の中の動きに関心を持たせ、考える姿勢を身につける。
(知識・理解)
論理的な思考の必要性を理解させる。
(技能・表現)
論理的な文章構成の基本的技能が身につく。
・
授業展開
段階
学習内容・学習活動
導入
(導入)
指導上の留意点
・前回までの内容を復習す
小論文課題
る。
・社会で起こっている事柄について
・課題について説明する。
自分の意見をまとめる。
展開
・文字数
1200 文 字
(展開)
・1 回目、2 回目の授業進行
に 備 え て 、メ モ 作 り は 始 め
る。
・自分の意見が持てていな
い 生 徒 に 対 し て 、様 々 な 出
来 事 を 紹 介 し 、興 味 を 喚 起
する。
・インターネットで検索さ
せる。
Ⅳ
まとめと今後の課題
情報科では、トライアルプランにも明記しているように、教科指導力の向
上を目標として、コンピュータの操作に偏ることなく、情報の集積・発信に
重点を置いた授業を展開している。そのためには「自分の考えをまとめる」
方法について、さらに研究していく必要がある。
生徒の現状を見ていると、論理的な文章構成の授業は生徒にとって重要で
151
あるという手ごたえは感じているが、まだ十分な指導方法が確立していると
はいえない。今後さらに研究を重ねていきたい。
しかし、コンピュータの操作を軽視しているわけではなく、また軽視でき
ない現状もある。近年、高校生の実態は多様化し、スマートフォンやタブレ
ット普及により、基本的なコンピュータの操作、特にキーボードによる入力
の不慣れが目立っている。
大学入試センター試験を廃止し、新たに設けられる「大学入学希望者学力
評 価 テ ス ト ( 仮 称 )」 と 「 高 校 基 礎 学 力 テ ス ト ( 仮 称 )」 は 、 そ の 形 態 と し て
CBT( Computer Based Testing) の 導 入 が 検 討 さ れ て い る 中 、 英 語 の テ ス ト
では「英語自体はできるのに、タイピングミスでスコアが伸びない」ことも
十分に予想されているからである。
情 報 科 で は 、学 習 指 導 要 領 の 基 本 的 な 考 え 方 を 重 視 し 、
「 情 報 モ ラ ル 、知 的
財 産 の 保 護 、 情 報 安 全 等 に 対 す る 意 識 の 向 上 」「 問 題 解 決 能 力 の 向 上 」「 自 分
の意見をまとめ、発表する力の向上」の3点に重点を置いているが、これか
らもタイピング練習や基本ソフトの操作等のコンピュータの操作とのバラン
スを保ちながら、教科指導に努めていきたい。
参考文献
岡 本 敏 雄 、 山 極 隆 ほ か 1 1 名 ( 2015)『 高 校 社 会 と 情 報 』 実 教 出 版
同
指導資料
㈱ ベ ネ ッ セ コ ー ポ レ ー シ ョ ン 編( 201 5)
『第1回近畿地区
教 科「 情 報 」研 究
会 資料』㈱ベネッセコーポレーション
文 部 科 学 省 ( 2009 )『 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 』 東 山 書 房
文 部 科 学 省 ( 2010 )『 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説
152
情報編』開隆堂出版
研究ノート 『体育施設の変更に伴う新体力テストの
記録の変化』について
保健体育科
橋
本
謙
Ken Hashimoto
キーワード:新体力テスト、体育施設、体力の低下、種目の専門性
Ⅰ
はじめに
文 部 科 学 省 で は 、 昭 和 39 年 以 来 、「 体 力 ・ 運 動 能 力 調 査 」 を 実 施 し 、 国 民 の 体 力 ・
運動能力の現状を明らかにし、体育・スポーツ活動の指導と、行政上の基礎資料とし
て広く活用している。
平 成 11 年 度 の 体 力 ・ 運 動 能 力 調 査 か ら 導 入 し た 「 新 体 力 テ ス ト 」 は 、 国 民 の 体 位 の
変化、スポーツ医・科学の進歩、高齢化の進展等を踏まえ、これまでのテストを全面
的に見直して、現状に合ったものとしている。
「 新 体 力 テ ス ト 」 の 理 解 が 深 ま り 、「 新 体 力 テ ス ト 」 が 有 意 義 に 活 用 さ れ 、 ひ い て は
21 世 紀 の 社 会 を 生 き る 人 々 が 心 身 と も に 健 康 で 活 力 あ る 社 会 を 営 ん で い く こ と を 期 待
されている。
新体力テストについては本校においても中学 1 年生から高校 3 年生までの 6 学年で
春 の 時 期 に 実 施 し て い る 。 ま た 、 平 成 26 年 度 よ り グ ラ ウ ン ド 改 修 に 伴 い 、 人 工 芝 化 と
共に陸上競技専用レーン(タータン)を敷いており、これが新体力テストにどのよう
な効果をもたらしているかについて考察する。
Ⅱ
新体力テストの実施要項
①
テストの対象
12歳から19歳までの男女
②
テスト項目
握力・上体起こし・長座体前屈・反復横とび・50m走・立ち幅とび
ハンドボール投げ
持 久 走 or2 0 m シ ャ ト ル ラ ン ( 往 復 持 久 走 ) ⇒ 本 校 に お い て は 後 者 を 選 択 し て い
るので、以後持久走については割愛するものとする。
計8種目
153
③
実施方法
握力
(1)握力計の指針が外側になるように持ち、図のように握る。この場合、人差し指
の第2関節が、ほぼ直角になるように握りの幅を調節する。
(2)直立の姿勢で両足を左右に自然に開き腕を自然に下げ、握力計を身体や衣服に
触れないようにして力いっぱい握りしめる。この際、握力計を振り回さないよ
うにする。
・記録
(1)右左交互に2回ずつ実施する。
(2)記録はキログラム単位とし、キログラム未満は切り捨てる。
(3)左右おのおののよい方の記録を平均し、キログラム未満は四捨五入する。
・実施上の注意
(1)このテストは、右左の順に行う。
(2)このテストは、同一被測定者に対して2回続けて行わない。
上体起こし
(1)マット上で仰臥姿勢をとり、両手を軽く握り、両腕を胸の前で組む。両膝の
角 度 を 90゜ に 保 つ 。
(2)補助者は、被測定者の両膝をおさえ、固定する。
( 3 )「 始 め 」 の 合 図 で 、 仰 臥 姿 勢 か ら 、 両 肘 と 両 大 腿 部 が つ く ま で 上 体 を 起 こ す 。
(4)すばやく開始時の仰臥姿勢に戻す。
( 5 ) 30 秒 間 、 前 述 の 上 体 起 こ し を 出 来 る だ け 多 く 繰 り 返 す 。
・記録
( 1 ) 30 秒 間 の 上 体 起 こ し ( 両 肘 と 両 大 腿 部 が つ い た ) 回 数 を 記 録 す る 。 た だ し 、
仰臥姿勢に戻したとき、背中がマットにつかない場合は、回数としない。
(2)実施は1回とする。
・実施上の注意
(1)両腕を組み、両脇をしめる。仰臥姿勢の際は、背中(肩甲骨)がマットにつ
くまで上体を倒す。
(2)補助者は被測定者の下肢が動かないように両腕で両膝をしっかり固定する。
154
しっかり固定するために、補助者は被測定者より体格が大きい者が望まし
い。
(3)被測定者と補助者の頭がぶつからないように注意する。
(4)被測定者のメガネは、はずすようにする。
長座体前屈
(1)初期姿勢:被測定者は、両脚を両箱の間に入れ、長座姿勢をとる。壁に背・
尻をぴったりとつける。ただし、足首の角度は固定しない。肩幅の広さで両
手のひらを下にして、手のひらの中央付近が、厚紙の手前端にかかるように
置き、胸を張って、両肘を伸ばしたまま両手で箱を手前に十分引きつけ、背
筋を伸ばす。
(2)初期姿勢時のスケールの位置:初期姿勢をとったときの箱の手前右または左
の角に零点を合わせる。
(3)前屈動作:被測定者は、両手を厚紙から離さずにゆっくりと前屈して、箱全
体を真っ直ぐ前方にできるだけ遠くまで滑らせる。このとき、膝が曲がらな
いように注意する。最大に前屈した後に厚紙から手を離す。
・記録
(1)初期姿勢から最大前屈時の箱の移動距離をスケールから読み取る。
(2)記録はセンチメートル単位とし、センチメートル未満は切り捨てる。
(3)2回実施してよい方の記録をとる。
・実施上の注意
(1)前屈姿勢をとったとき、膝が曲がらないように気をつける。
( 2 ) 箱 が 真 っ 直 ぐ 前 方 に 移 動 す る よ う に 注 意 す る (ガ イ ド レ ー ル を 設 け て も よ い )。
(3)箱がスムーズに滑るように床面の状態に気をつける。
(4)靴を脱いで実施する。
反復横とび
中 央 ラ イ ン を ま た い で 立 ち 、「 始 め 」 の 合 図 で 右 側 の ラ イ ン を 越 す か 、 ま た は 、
踏 む ま で サ イ ド ス テ ッ プ し ( ジ ャ ン プ し て は い け な い )、 次 に 中 央 ラ イ ン に も ど
り、さらに左側のラインを越すかまたは触れるまでサイドステップする。
・記録
155
( 1 ) 上 記 の 運 動 を 20 秒 間 繰 り 返 し 、 そ れ ぞ れ の ラ イ ン を 通 過 す る ご と に 1 点 を 与
え る ( 右 、 中 央 、 左 、 中 央 で 4 点 に な る )。
(2)テストを2回実施してよい方の記録をとる。
・実施上の注意
(1)屋内、屋外のいずれで実施してもよいが、屋外で行う場合は、よく整地され
た安全で滑りにくい場所で実施すること(コンクリート等の上では実施しな
い )。
(2)このテストは、同一の被測定者に対して続けて行わない。
(3)次の場合は点数としない。
ア
外側のラインを踏まなかったり越えなかったとき。
イ
中央ラインをまたがなかったとき。
50m走
(1)スタートは、クラウチングスタートの要領で行う。
( 2 ) ス タ ー ト の 合 図 は 、「 位 置 に つ い て 」、「 用 意 」 の 後 、 音 ま た は 声 を 発 す る と 同
時に旗を下から上へ振り上げることによって行う。
・記録
(1)スタートの合図からゴールライン上に胴(頭、肩、手、足ではない)が到達
するまでに要した時間を計測する。
( 2 ) 記 録 は 1 /10 秒 単 位 と し 、 1 /10 秒 未 満 は 切 り 上 げ る 。
(3)実施は1回とする。
・実施上の注意
(1)走路は、セパレートの直走路とし、曲走路や折り返し走路は使わない。
(2)走者は、スパイクやスターティングブロックなどを使用しない。
(3)ゴールライン前方5mのラインまで走らせるようにする。
立ち幅とび
(1)両足を軽く開いて、つま先が踏み切り線の前端にそろうように立つ。
(2)両足で同時に踏み切って前方へとぶ。
・記録
(1)身体が砂場(マット)に触れた位置のうち、最も踏み切り線に近い位置と、
踏み切り前の両足の中央の位置(踏み切り線の前端)とを結ぶ直線の距離を
156
計 測 す る ( 上 図 参 照 )。
(2)記録はセンチメートル単位とし、センチメートル未満は切り捨てる。
(3)2回実施してよい方の記録をとる。
・実施上の注意
(1)踏み切り線から砂場(マット)までの距離は、被測定者の実態によって加減
する。
(2)踏み切りの際には、二重踏み切りにならないようにする。
(3)屋外で行う場合、踏み切り線周辺及び砂場の砂面は、できるだけ整地する。
(4)屋内で行う場合、着地の際にマットがずれないように、テープ等で固定する
とともに、片側を壁につける。滑りにくい(ずれにくい)マットを用意す
る。
(5)踏み切り前の両足の中央の位置を任意に決めておくと計測が容易になる。
ハンドボール投げ
(1)投球は地面に描かれた円内から行う。
(2)投球中または投球後、円を踏んだり、越したりして円外に出てはならない。
(3)投げ終わったときは、静止してから、円外に出る。
・記録
(1)ボールが落下した地点までの距離を、あらかじめ1m間隔に描かれた円弧に
よって計測する。
(2)記録はメートル単位とし、メートル未満は切り捨てる。
(3)2回実施してよい方の記録をとる。
・実施上の注意
(1)ボールは規格に合っていれば、ゴム製のものでもよい。
(2)投球のフォームは自由であるが、できるだけ「下手投げ」をしない方がよ
い。また、ステップして投げたほうがよい。
20mシャトルラン(往復持久走)
(1)プレーヤーによりCD(テープ)再生を開始する。
(2)一方の線上に立ち、テストの開始を告げる5秒間のカウントダウンの後の電
子音によりスタートする。
( 3 ) 一 定 の 間 隔 で 1 音 ず つ 電 子 音 が 鳴 る 。 電 子 音 が 次 に 鳴 る ま で に 20m 先 の 線 に
達し、足が線を越えるか、触れたら、その場で向きを変える。この動作を繰
157
り返す。電子音の前に線に達してしまった場合は、向きを変え、電子音を待
ち、電子音が鳴った後に走り始める。
(4)CD(テープ)によって設定された電子音の間隔は、初めはゆっくりである
が、約1分ごとに電子音の間隔は短くなる。すなわち、走速度は約1分ごと
に増加していくので、できる限り電子音の間隔についていくようにする。
(5)CD(テープ)によって設定された速度を維持できなくなり走るのをやめた
とき、または、2回続けてどちらかの足で線に触れることができなくなった
ときに、テストを終了する。なお、電子音からの遅れが1回の場合、次の電
子音に間に合い、遅れを解消できれば、テストを継続することができる。
・記録
(1)テスト終了時(電子音についていけなくなった直前)の折り返しの総回数を
記録とする。ただし、2回続けてどちらかの足で線に触れることができなか
ったときは、最後に触れることができた折り返しの総回数を記録とする。
(2)折り返しの総回数から最大酸素摂取量を推定する場合は、参考「20mシャ
トルラン(往復持久走)最大酸素摂取量推定表」を参照すること。
・実施上の注意
(1)ランニングスピードのコントロールに十分注意し、電子音の鳴る時には、必
ずどちらかの線上にいるようにする。CD(テープ)によって設定された速
度で走り続けるようにし、走り続けることができなくなった場合は、自発的
に退くことを指導しておく。
(2)テスト実施前のウォーミングアップでは、足首、アキレス腱、膝などの柔軟
運動(ストレッチングなどを含む)を十分に行う。
(3)テスト終了後は、ゆっくりとした運動等によるクーリングダウンをする。
(4)被測定者に対し、最初のランニングスピードがどの程度か知らせる。
(5)CDプレーヤー使用時は、音がとんでしまうおそれがあるので、走行場所か
ら離して置く。
(6)被測定者の健康状態に十分注意し、疾病及び傷害の有無を確かめ、医師の治
療を受けている者や実施が困難と認められる者については、このテストを実
施しない。
158
Ⅱ
本校における新体力テストの結果(経年比較)
① 握力
男子では学年を追うごとに伸びてきているが、女子は 3 年間通じてあまり
変化が見られない。⇒男子は年齢とともに筋力がついてくる。
kg
握力(kg)
2011年度
2013年度
kg
2012年度
2014年度
60
60
55
55
50
50
45
45
40
40
35
35
30
30
25
25
20
20
15
15
握力(kg)
2011年度
2013年度
2012年度
2014年度
10
10
一
年
男
子
二
年
男
子
三
年
男
子
一
年
女
子
二
年
女
子
三
年
女
子
② 上体起こし
高校 2 年男子で順調な伸びが見られる。高校 1 年女子は近年で一番低く、
高 校 2・ 3 年 は 逆 に 一 番 高 い 。 ⇒ 上 級 生 に な れ ば 筋 持 久 力 が つ い て く る 。
回
上体おこし(回)
2011年度
2013年度
2012年度
2014年度
回
40
40
35
35
30
30
25
25
20
20
15
15
10
10
5
5
上体おこし(回)
2011年度
2013年度
0
0
一
年
男
子
二
年
男
子
三
年
男
子
一
年
女
子
159
二
年
女
子
三
年
女
子
2012年度
2014年度
③ 長座体前屈
男子では 3 学年とも昨年度上回っているが、女子では 3 学年とも 2 年前か
徐々に下がってきている。⇒女子の柔軟性がなくなってきている。
cm
長座体前屈(cm)
2011年度
2013年度
2012年度
2014年度
cm
75
75
70
70
65
65
60
60
55
55
50
50
45
45
40
40
35
35
30
30
25
25
20
長座体前屈(cm)
2011年度
2013年度
2012年度
2014年度
20
一
年
男
子
二
年
男
子
三
年
男
子
一
年
女
子
二
年
女
子
三
年
女
子
④ 反復横跳び
男 子 の 瞬 発 力 は 高 校 2・ 3 年 で は ほ と ん ど 変 わ ら ず 、 女 子 で は 高 校 3 年 生
で最高の記録が出ている。⇒体重との関係があるかも?
点
反復横とび(点)
2011年度
2013年度
2012年度
2014年度
点
65
65
60
60
55
55
50
50
45
45
40
40
35
35
30
30
25
25
20
反復横とび(点)
2011年度
2013年度
20
一
年
男
子
二
年
男
子
三
年
男
子
一
年
女
子
160
二
年
女
子
三
年
女
子
2012年度
2014年度
⑤ 50M 走
男女とも順調な伸びを示しており、高校 3 年女子以外では過去最高記録が
出ている。⇒ 陸上競技専用レーン使用により反発力が上がった。
秒
50m走(秒)
2011年度
2013年度
2012年度
2014年度
秒
6.5
6.5
7.0
7.0
7.5
7.5
8.0
8.0
8.5
8.5
9.0
9.0
9.5
9.5
10.0
10.0
10.5
10.5
11.0
50m走(秒)
2011年度
2013年度
2012年度
2014年度
11.0
一
年
男
子
二
年
男
子
三
年
男
子
一
年
女
子
二
年
女
子
三
年
女
子
⑥ 立ち幅跳び
各学年男女とも跳躍録では顕著な伸びが見られ、過去最高記録が出てい
る 。 ⇒人 工 芝 で の 実 施 と 人 工 芝 用 の シ ュ ー ズ の 使 用 で 記 録 が 伸 び た 。
cm
立ち幅とび(cm)
2011年度
2013年度
2012年度
2014年度
cm
280
280
260
260
240
240
220
220
200
200
180
180
160
160
140
140
120
120
100
立ち幅とび(cm)
2011年度
2013年度
100
一
年
男
子
二
年
男
子
三
年
男
子
一
年
女
子
161
二
年
女
子
三
年
女
子
2012年度
2014年度
⑦ ハンドボール投げ
男子では投擲力においても過去最高を記録したが、女子ではて顕著な伸び
は見られない。⇒ 女子は筋力増加とボールを投げる巧緻性がない。
m
ボール投げ(m)
2011年度
2013年度
2012年度
2014年度
m
40
40
35
35
30
30
25
25
20
20
15
15
10
10
5
5
0
ボール投げ(m)
2011年度
2013年度
2012年度
2014年度
0
一
年
男
子
二
年
男
子
三
年
男
子
一
年
女
子
二
年
女
子
三
年
女
子
⑧ 20M シャトルラン
高校 2 年生で男女ともピークを迎え、高校 3 年生になると下降傾向にあ
る。⇒持久力とともに忍耐力もなくなってきている。
回
シャトルラン(回)
2011年度
2013年度
2012年度
2014年度
回
120
120
110
110
100
100
90
90
80
80
70
70
60
60
50
50
40
40
30
30
20
20
10
10
0
シャトルラン(回)
2011年度
2013年度
0
一
年
男
子
二
年
男
子
三
年
男
子
一
年
女
子
162
二
年
女
子
三
年
女
子
2012年度
2014年度
Ⅲ
全 国 平 均 か ら 見 た 本 校 生 徒 の 体 格 面 の 特 徴 ( 20 11 年 ~ 2014 年 )
T スコア・・・全国平均を50とする。
① 身長・・・男子52.7~50.6、女子51.9~49.7
T ス コ ア 5 0 以 上 (1 2 項 目 中 )
男 子 12/12
女 子 11/12
⇒全国平均よりも高い。
② 体重・・・男子52.3~49.0、女子48.7~45.3
T ス コ ア 5 0 以 上 (1 2 項 目 中 )
男 子 10/12
女 子 0 /12
⇒全国平均よりも男子は重く、女子はやせている。
Ⅳ
全 国 平 均 か ら 見 た 本 校 生 徒 の 新 体 力 テ ス ト の 特 徴 ( 2011 年 ~ 201 4 年 )
T スコア・・・全国平均を50とする。
①握力・・・ 男子50.8~47.0、 女子49.5~47.4
T スコア50以上
男 子 3/12
女 子 0/12
⇒筋力は全国平均よりも低い。
②上体起こし・・・ 男子50.6~47.4、女子54.6~47.5
T スコア50以上
男 子 2/12
女 子 6/1 2
⇒筋持久力は全国平均よりも男子は低く、女子はほぼ同等。
③長座体前屈・・・ 男子50.8~45.1、女子52.9~46.6
T スコア50以上
男 子 1/12
女 子 8/1 2
⇒柔軟性は全国平均よりも男子は固く、女子は柔らかい。
④反復横跳び・・・ 男子53.6~47.9、女子56.0~50.8
T スコア50以上
男 子 9/12
女 子 12/12
⇒瞬発力は全国平均よりも高く、女子はより高い。
⑤50M 走・・・男子56.0~51.4、女子56.4~50.7
T スコア50以上
男 子 1 2/12
⇒走力は全国平均よりも高い。
163
女 子 1 2/12
⑥立ち幅跳び・・・ 男子52.4~45.5、女子53.5~47.1
T スコア50以上
男 子 4/12
女 子 10/12
⇒跳躍力は全国平均よりも男子は低く、女子は高い。
⑦ハンドボール投げ・・・ 男子49.9~46.2、 女子48.5~45.2
T スコア50以上
男 子 0/12
女 子 0 /12
⇒投擲力は全国平均よりも低い。
⑧20M シャトルラン・・・ 男子 53.8~49.1、女子 54.4~49.5
T スコア50以上
男 子 8 /12
女 子 11/12
⇒持久力は全国平均よりも高く、女子はより高い。
Ⅴ
まとめ
グ ラ ウ ン ド の 人 工 芝 化 (2013 年 度 ま で は 土 )や 陸 上 競 技 専 用 レ ー ン 、 人 工 芝 用
シ ュ ー ズ の 変 更 (高 校 3 年 生 は 希 望 者 の み )に 伴 い 、 201 4 年 度 の 新 体 力 テ ス ト に
おいては50M 走と立ち幅跳びで飛躍的な記録の伸長が見られた。また、今の
生徒たちは幼少の頃から土の上で遊ぶよりアスファルトで走ったりする機会が
増 え て い る 。 そ の 為 、 走 り 方 が 足 首 を 返 す (土 を 掘 る )動 き よ り 反 発 で 動 か す こ と
が自然に出来ている。その走り方が出来ていることで全天候のグラウンドの方
が 記 録 が 出 や す く な っ て い る の で は な い か と 考 え ら れ る 。 勿 論 、 人 工 芝 (ゴ ム 製 )
の反発により跳躍力も上がっている。
しかし、本校生徒は体格的には恵まれているものの筋力等に弱い特徴があ
り 、 施 設 ・用 具 に 頼 る だ け で な く 、 授 業 内 で 補 強 ト レ ー ニ ン グ や 俊 敏 性 を 磨 く 動
きを入れていく必要性を感じる。男子は記録の伸長は見られるものの全国平均
よりやや低い傾向ある。アスリートコースが設置されていることや男子のクラ
ブ活動が盛んであることを考える意外な一面である。
女子に関しては幼少期からの遊びが足りない代償がボールを投げたり、心肺
能力の低下、どうやってするのか等の体の使いこなし方が分からないことに繋
がっているのではないかと考えられる。女子に関しては種目によって差はある
がほとんど平均に近い記録であり、授業における工夫で記録を伸長させていく
という課題が浮き彫りになっている。
164
参考文献
和唐正勝
(謝 辞 )
髙橋建夫ほか
平 成 27 年
『現代高等保健体育』
大修館書店
この度、研究ノート作成にあたり、第一学習社大阪営業所 新井裕一様
には過分なご協力を賜りましたこと、この書面を持ちまして厚く御礼申
し上げます。誠にありがとうございました。
165
編集後記
平 成 22( 2010) 年 の 刊 行 を 最 後 に 、 5 年 ぶ り に 「 研 究 論 集 第 46 号 」 を 刊
行致しました。ご多忙の中、執筆していただいた諸先生方には厚く御礼申し
上げます。
本校は浄土真宗本願寺派本願寺が設立した学校であります。仏教精神、と
りわけ宗祖親鸞聖人の教えを根幹とした教育に基づいています。執筆いただ
いた諸先生方は本校の教育理念に基づいて日々教育活動に精励されています。
◇
◇
さて、先日新聞を読んでいますと、次のような記事が目につきました。
わたしはしゃべれない歩けない。口がうまくうごかない。手も足も自分
の思ったとおりうごいてくれない。一番つらいのはしゃべれないこと。言
い た い こ と は 自 分 の 中 に た く さ ん あ る 。で も う ま く 伝 え る こ と が で き な い 。
先生やお母さんに文字盤を指でさしながらちょっとずつ文ができあがって
いく感じ。自分の言いたかったことがやっと言葉になっていく。神様が1
日だけ魔法をかけてしゃべれるようにしてくれたら…家族といっぱいおし
ゃべりしたい。学校から帰る車をおりてお母さんに「ただいま!」って言
う。
「わたし、しゃべれるよ!」って言う。お母さんびっくりして腰をぬか
すだろうな。
お父さんとお兄ちゃんに電話して、
「 琴 音 だ よ ! 早 く 、帰 っ て き て ♪ 」っ
て言う。2人ともとんで帰ってくるかな。家族みんながそろったらみんな
でゲームをしながらおしゃべりしたい。お母さんだけはゲームがへたやか
ら負けるやろうな。
「 ま あ 、ま あ 、元 気 出 し て 」っ て わ た し が 言 う 。魔 法 が
とける前に家族みんなに「おやすみ」って言う。
それでじゅうぶん。
この文章は大阪府岸和田市の小学6年生の女の子の「わたしの願い」とい
う エ ッ セ ー で す 。事 故 の 後 遺 症 で 肢 体 不 自 由 と な り 言 葉 も 失 い ま し た 。
「わた
し の 願 い 」が か な う な ら 、
「 た だ い ま 」と 言 っ て み た い 、お 兄 ち ゃ ん に 電 話 を
かけたい、そして魔法がとける前に家族に「おやすみ」と言いたい。これだ
けで「それでじゅうぶん」と言う。
私たちは、日々の生活をごく当たり前のことのように考えています。しか
し、実は当たり前だと思い込んでいただけではないでしょうか。改めて考え
ねばならないことばかりです。
親鸞聖人の『高僧和讃』のなかに、
生死の苦海ほとりなし
ひさしくしづめるわれらをば
弥陀弘誓のふねのみぞ
のせてかならずわたしける
( 注 釈 版 聖 典 5 79 ペ ー ジ )
と詠われています。
「人生は苦なり」と言われます。思い通りにならないことを「苦」といい
ますが、私たち生きるものの生死や迷いの深さの苦しみは限りないものだと
言えます。でもこのような私たちを「救わずにおかない」という阿弥陀さま
の誓いが成就し、私たちに喚びかけて下さっています。このことに気付かさ
れたときに、私たちの在り方がみえてくるのではないでしょうか。
最後にこの論集を通じて、教職員一同教育活動の充実を図っていきたいと
思います。
寺村
篤(記)