中東研究フォーラム 2015 年 2 月例会報告要旨 (2015 年 2 月 24 日、東洋英和女学院大学大学院棟) 発表者:青木健太氏(元在アフガニスタン日本国大使館二等書記官) 報告テーマ:アフガニスタン新政権の課題と今後の見通し アフガニスタンでは 2014 年に大統領選挙が行われ、 アシュラフ・ガニ新政権が誕生した。 青木氏は私見として、ガニ大統領とアブドゥッラー行政長官の真摯な協力に基づく新政権 の存続こそがアフガニスタン安定の前提条件であり、治安改善のカギは中央政府とタリバ ーン指導部の政治的和解の成立であると分析した。また、今後、注視すべきポイントとして、 ガニ新政権の内政、外交(米、印、イランへの外遊を含む) 、タリバーンの春季攻勢、イス ラム国(IS)の動きを指摘した。青木氏の報告は、きわめて興味深く時宜を得たものであっ たばかりでなく、今後のアフガニスタン情勢を見極めるうえで非常に有益であった。 三選を禁じる憲法の規定によりカルザイ前大統領の不出馬が決まっていたため、2014 年 の大統領選挙はポスト・カルザイを決める重要な選挙となった。第一回投票(4 月 5 日)で 首位に立ったアブドゥッラー候補(元外相、故マスード将軍の側近)は、6 月 14 日の決選 投票でガニ候補(元財務相)に敗れたため、選挙結果への疑義を主張し政治的緊張が高まっ た。米国の仲介により双方の間で合意が結ばれたのが 9 月 21 日で、いわば「勝敗なし」の 選挙の決着となった。 選挙結果に対する不信表明をしたアブドゥッラー候補の主張には説得力がないと報じる メディアも一部見られた。しかし、推定有権者数よりも実際の投票数が多かった県が複数存 在する、第一回投票時より決選投票時の総得票数が多いのは選挙オブザーバーの証言等か ら照らして不自然である、アブドゥッラー候補が地盤を有する地域における第 1 回投票時 の投票数は投票総数の 7 割以上を占めていたことなど、定量的に見て「疑義のない選挙結 果」であると言い切ることは難しい。 治安情勢に関しては、国際治安支援部隊(ISAF)の任務が 2014 年末で完了し、米軍も同 日までに戦闘部隊を撤収した。1 月以降は 1 万人程度の米軍人員が支援任務にあたってい る。今後は 2015 年末までの米軍人員の半減、2016 年末までには通常の大使館レベルにま で規模を縮小する計画である。アフガニスタン国家治安部隊(ANSF)の訓練や強化に関し、 財源の確保、空軍の能力不足、隊員の忠誠心や訓練度の低さ、情報収集や企画立案能力の低 さなどの課題が依然あり、ANSF 単独で治安維持をすることは難しい。 ガニ新政権の課題としては、①汚職撲滅、②治安、③経済開発の三点がある。新大統領は、 汚職対策に強い姿勢で臨むことを示している。政権運営の中で、いかに腐敗に関与していな い人材を登用できるか、公正な選挙を実施するための選挙制度改革を断行できるかが今後 の課題として挙げられる。治安情勢は目下のところ最悪であり、2014 年の民間人の死傷者 数は、国連が統計を取り始めた 2009 年以来、最悪の数字を記録した。外国軍の撤退を掲げ るタリバーンは歴史的な経緯からも一定の正統性を有するとの見方が広く存在しており、 彼らと新政権との和解が治安安定に向けた最重要課題である。当面は、交渉の窓口を確立す ることが重要である。就任後、ガニ新大統領は中国、サウジアラビア、パキスタン、アラブ 首長国連邦などを訪問しており、和解を重視している姿勢が看て取れる。積極的に対アフガ ニスタン外交を進める中国がどのような役回りを担うかも注目される。世銀エコノミスト 出身のガニ大統領は、経済開発に特に力を注いでいる。援助と輸入に頼る経済体制から自立 的な輸出志向型経済への移行を目指している。 ガニ新政権は、選挙期間中に顕在化したアブドゥッラー陣営との確執を払しょくできて おらず、政権基盤が脆弱である。そのため閣僚の任命も完了していない。アブドゥッラー氏 を行政長官という新設ポストに迎えたものの、憲法に規定がない役職のため位置づけがあ いまいである。ガニ大統領とアブドゥッラー行政長官の役割分担のほか、北部の利権闘争や カルザイ前大統領の影響力など不安定要素は少なくない。 イスラム国(IS)はアフガニスタンへの浸透を試みていると見られるが、アフガニスタン 当局や米国がこれを防いでいる。IS とタリバーンとでは異なる目標、教義、地理的条件、 文化的背景を持っていることから共闘の可能性には懐疑的にならざるを得ない。 以上を踏まえて青木氏は、ガニ新政権がとるべき道筋として、アブドゥッラー行政長官と の政府内協力を固めながら、タリバーンとの和解を進展させることで治安の安定を実現し、 それを土台として汚職対策および経済開発を推し進める重要性を強調した。 質疑応答では、タリバーンとの和解や再統合の展望、アフガニスタン・タリバーンとパキ スタン・タリバーンの相違、難民の状況、米軍撤収計画の変更の可能性、国連による選挙支 援の実態、アフガニスタン・イラン関係などに関して幅広い議論があった。 ※注:本報告会で表明された意見は、発表者個人の見解であり、所属組織の公式見解ではあ りません。 (文責:川嶋淳司)
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